『アカデミア』の侵攻が始まって間も無く、『アカデミア』トップを名乗る男、自称『プロフェッサー』による、演説が起こった。
自らの組織が『アカデミア』ということ。
自分達は崇高な目的の為に行動しているということ。
その目的のために、エクシーズ次元を攻撃しているということ。
一々小難しい、重さを感じさせる言葉を使っていたプロフェッサー。だが、単純明快に纏めれば、上記の3つに集約される。
プロフェッサーという男の言葉を受け、ある者は泣き出し、ある者は怒り、ある者は絶望して、ある者は『アカデミア』へ取り入ろうとした。
多くの者が我を失って秩序を乱した。戦わなければと考えた一部少数が、自らを律して行動を開始した。
その演説から一週間。ほぼ壊滅状態のエクシーズ次元。
しかし唯一、ハートランドシティの中に『アカデミア』に対抗する者達が居た。戦わなければと、立ち上がった者達。
自らを『レジスタンス』と名乗った彼らは、至る所で『アカデミア』と戦っていた。全てはカード化された仲間を取り戻す為に。
そんな『レジスタンス』のメンバーの中に――この状況を引き起こしたのだと『アカデミア』の尖兵であった『真紅眼』使い。通称『名無し』から告げられた男、星野光莉の姿は無かった。
***
ハートランドシティ。
窓ガラスは割れ、倒壊まではいかずともボロボロに打ち果てたビルが目立つ、荒廃した街の中。
ライダースーツに身を包んだ光莉は、『アカデミア』の男達と対峙していた。名無しよりは大人しいながらも、似た意匠のある青のブレザーと白のズボンは当たり前。顔の上半分に仮面をつけて顔を隠した男達。自らを『オベリスクフォース』と名乗った彼らの場には『古代の機械兵士』が1体のみ存在していた。伏せカードはない。
実質3対1のバトルロイヤルルールで行なわれているこのデュエル。光莉のライフは100ポイントまで削られていて、場には2枚の伏せカード。
「これでターンエンドだ!」
「お前のエンドフェイズに『リビングデッドの呼び声』を発動。効果で『アルタイル』を蘇生。更に『アルタイル』で『ベガ』を蘇生し、手札の『デネブ』を特殊召喚。『デネブ』の効果で一応2枚目の『アルタイル』を加えるぞ。
そして俺のターン、ドロー」
シュビッとキレよくカードを引く光莉。
「さっさと終わらす。俺は『デネブ』『アルタイル』『ベガ』の3体でオーバーレイ。3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。灼熱の夜空に輝く大三角の輝きよ。今こそ我が刃に宿り全ての敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!ランク4『星輝士 デルタテロス』!」
いきなりのエクシーズ召喚。現れた騎士に、オベリスクフォースがたじろぐ中、光莉はプレイを続ける。
「『デルタテロス』の効果。エクシーズ素材を1つ取り除いて、場のカードを1枚破壊する。俺は1番右側に居る奴の『古代の機械兵士』を選択して破壊」
「くそっ」
『デルタテロス』のレイピアから光線が放たれ、『古代の機械兵士』が破壊される。これで1番右側の男の場はガラ空きだ。
「続いて『デルタテロス』に装備魔法『ストイック・チャレンジ』を装備。こいつを装備されたモンスターは、エクシーズ素材1枚につき攻撃力を600ポイント上昇させる。更に、モンスターとの戦闘で発生したダメージを倍にする」
「倍だと!?」
「攻撃力は1200上がって3700。攻撃力1300の『古代の機械兵士』を破壊されたら、2400の倍で4800ダメージ。1人は確実に終わりだ」
「くっ」
「まあ、1人だけなんて面倒な事しないがな。更に装備魔法『アサルト・アーマー』。これを『デルタテロス』に装備。攻撃力が300上がるが、これはおまけだ。『アサルト・アーマー』を墓地に送り第2の効果。このターン、装備していたモンスターは2回攻撃出来る」
「なんっ……!?」
「2人終わり。バトルだ。『デルタテロス』で2体の『古代の機械兵士』を攻撃。『ブレイザー・スラッシュ』ワン!」
『デルタテロス』が飛び上がり、そのまま『古代の機械兵士』の1体を切り裂いた。切られた1体が爆発し、4800のダメージをプレイヤーへと与える。
「ぐあああああ!?」
「ツー!」
『デルタテロス』が振り向きざま、2体目の『古代の機械兵士』を破壊。4800ポイントのダメージを受け、2人目のオベリスクフォースが吹き飛ばされる。
「だが!まだ俺が残ってるぞ!?」
3人目のオベリスクフォースの言葉に、光莉は言葉の代わりにプレイで応える。
「まだだ。速攻魔法『サイクロン』を発動。『デルタテロス』に装備された『ストイック・チャレンジ』を破壊する」
「自分の装備魔法を破壊だと!?」
「『ストイック・チャレンジ』が破壊されたことにより、装備されていた『デルタテロス』は破壊される。この瞬間、『デルタテロス』の効果発動。場から墓地に送られた場合、デッキか手札から『テラナイト』モンスターを特殊召喚出来る。俺はデッキから『星因士 リゲル』を特殊召喚」
『デルタテロス』の破壊によって生じた光の粒子が統合し、『リゲル』の体を作り出す。
バトルフェイズ中の特殊召喚。攻撃権は残っている。
「『リゲル』の効果。自身を対象に、攻撃力を500ポイント上昇。『リゲル』でダイレクトアタック」
「ぐぅ!」
2400ダメージ。残りは1600ポイント。
「詰み、だ。『天架ける星因士』を発動。『リゲル』をデッキに戻し、『シャム』を特殊召喚。『シャム』の効果。特殊召喚成功時、相手に1000ポイントのダメージを与える」
『リゲル』と入れ替わりに『シャム』が。その効果で、相手に1000ポイントのダメージを与え、残りは600。
「『シャム』でダイレクトアタック」
「馬鹿な!? 1ターンで我らオベリスクフォースを3人も!? があああああああああ!!??」
3人目を『シャム』の攻撃で弾き飛ばし、デュエルが決着する。
「お前らじゃ話にならん。もうちょっとマシな奴を連れて来いよ。あのプロフェッサーとか名乗ってるクソ野郎だとありがたいな」
じゃあな、とだけ言い残し、光莉は再びバイクで走り始めた。
***
『アカデミア』の侵攻が始まり一週間。その間、光莉はといえば、別段変わった行動はしていなかった。
レジスタンスのように積極的にアカデミアの兵士と戦う訳でなければ、怯えて隠れ住む訳でもない。
普段は隠れ家として選んだ事務所の入っていたビルで過ごし、毎日決まった時間に外に出て現状を確認し、必要があれば物資を調達し、アカデミアに見つかったら戦うというスタンスである。
本人自身、特に身を隠したりすることはせず堂々と道を走っている為、アカデミアに絡まれることはしょっちゅうだ。そして、光莉は寧ろそれが狙いだとばかりに片っ端からなぎ倒している。デッキの内容も、徐々に一対一想定から一対多を想定したデッキへとシフトしていっている程に、わずか一週間で、光莉はこの状況に慣れ親しんでいた。
「やっぱり帰って来てないか」
オベリスクフォース3人を1ターンでのした光莉は、現在テツヤの自宅前に来ていた。テツヤだけじゃない。アヤやサトシの家にも、ほぼ毎日のように通っている。結果はいつも空振りだ。光莉が残していった書置きが読まれた気配もない。
また子ども達に空振りだったと伝えなくてはならないのかと思うと、正直気が重かった。
「あの子達にも相当我慢させてるし、そろそろ吉報を持って帰りたいんだけどな」
とはいえ、この一週間。ハートランドシティをなるべく隈無く回った末の結論は、この街は既に終わっていると言う物だった。
どうしようもない。そもそも地力が違う。レジスタンス達は頑張っているとは思うが、それでも焼け石に水だ。諦めろと言うつもりは無い。光莉だって、子ども達の家族を捜す事を諦めるつもりはないから。
だが、その為には取っ掛りが少な過ぎる。雑魚を何百人倒そうが、何かに手が届く気配がない。
無意味なのではないかという思いがぐるぐると胸中を周り、日々苛立ちだけが澱のように募っていく。
「……ああ、畜生。どうもここ最近、精神的に不安定だな」
すーはーと、深呼吸を数度して、湧き上がりそうになった苛立ちを飲み込む。
「精神統一に滝行でもしたほうがいいかもな」
ついでにデュエリストレベルを上げるために、落ちる滝を相手にドローの特訓をしたり、クマを一頭伏せてターンエンドしたりと、デュエルマッスルを鍛える修業も一緒にやろう。そうなると暫く山に篭らなくてはならなくなるが、まあ街にいるよりは安全な可能性の方が高い。
子ども達をそこに連れて行くのもありかもなと、少し本気で考えながら、まだ冗談を考えるだけの精神的な余裕がある事を確認出来て、光莉は安堵から、重い息を漏らす。
「とりあえず、どっかのガソリンスタンドでガソリン入れるか」
入れるのはセルフサービスで料金もタダである。完全に火事場泥棒なのだが、気にしない。
光莉はバイクに跨って、エンジンをかけると、元来た道を戻り始めた。
***
暫く走り、町外れのガソリンスタンドまで来た。
エンジンを止め、ガソリンを入れ始める。しっかり入っていくことを確認してから、光莉はデュエルディスクを装着した。
「さてと」
ゴキゴキと首を鳴らしながら、振り返る。珍走団よろしく、派手な爆音を鳴り響かせて街中を爆走してきたのだ。振り返ったその先には、当然のように敵がいた。
いつものように仮面をつけたオベリスクフォースが5人程。その中央には、仮面をつけず素顔を晒した、女が1人。薄いピンク色の長髪に青色の瞳と温和そうな顔つき。ノースリーブの白を基調とし、青いラインの入った上着と青いミニのペンシルスカートという服装の女だ。上着には、オベリスクフォースについていたエンブレムと同じ物が付いているが、上着を押し上げて自己主張している胸元のせいで僅かに歪んでいた。
「どっかのお嬢様みたいだな」
「あら、ありがとうございます」
温和そうなその雰囲気にたがわず、柔らかく笑った女。だがその気配は、後ろに控える男達とはレベルがはっきりと違う強者の物。ニヤリと、光莉の口角が釣り上がる。
「へぇ、ちょっとはマシなの連れて来いとは言ったが、本当に連れてくるとはな。やれば出来るじゃねぇか、オベリスクフォースも」
「貴様!」
挑発するような光莉の言葉に、女の後ろに控えていた1人が、一歩踏み出そうとする。そんな男を片手で制した女は、代わりに1歩、踏み出した。
「最近私達を挑発するように行動。挙句返り討ちにしているのは貴方、という事で宜しいのでしょうか、星野光莉さん?」
「名前まで知ってんだ。今更そんなこと、聞くまでもないだろ」
「その言葉は肯定と取りました」
「こっちからも質問だ。今までと違うその服装が許されてるってことは、アンタは幹部みたいなもんって考えていいのか?あの真紅眼使いの名無し野郎と同じく。それともそれが女性用の制服なのか?」
「……彼と同じとされるのは不愉快ですが。確かに、立場上。一部隊の隊長を仰せつかっておりますわ」
「成る程」
女の言葉を受け、光莉はディスクを起動した。
「なら、この調子でお前ら叩いていけば、徐々に強い奴が出てきて、最終的にはプロフェッサーとかいうジジイまでたどり着けるって訳だな」
胸中の澱が、僅かに軽くなるのを感じた。一歩前進と、取っていいかも知れないからだ。
「……やれるのなら、ですが」
「上等。バイクのガソリンが入れ終わるまでに決着つけてやるよ」
「素晴らしい闘気。久方振りに骨のある殿方とデュエルが出来そうで何よりですわ」
笑った女のディスクから、アンカーが飛び出してくる。避けることなくそのアンカーをディスクで受け止めると、アンカーはそれが狙いだったとばかりに、光莉のディスクを捉えた。
「デュエルアンカー。これで、勝敗の決するまで、どちらもこの場からは逃げられません」
「最初からそんなつもりはない」
「分かっておりますわ。念の為、です。逃げられてしまってはつまらないですから」
そう言いながら、女がデュエルディスクを起動し、光莉をターゲットとして補足した。
柔和な笑みを浮かべた女が、ドレスでも着ているかのように何も無い場所をつかみ、上げる動作をしながら、膝を曲げつつ一礼する。その一連の動作が非常に様になっていて、普段からドレスを着慣れているのかと、光莉は感心してしまった。
「名乗らせて頂きます。私はオベリスクフォース、部隊長『明野都姫』と申します」
ライダースーツのフロントチャックを全開まで下ろし、右足を半歩、円を描くように下げながら、自分の体を回転。スーツの裾を、手を使わずに翻す。プロの時代に良くやった、決めポーズだ。
「エクシーズ次元、ハートランドシティ所属、『星野光莉』だ」
前哨戦のポーズ対決は互角であった。
「光莉様。さあ、楽しいデュエルにしましょう」
「鈍りそうだった腕、アンタで磨き直させてもらう」
「「決闘!」」
***
ディスクによって、先攻は都姫に決定する。
「あら、凄くいい手札。この子達も貴方と戦いたがっているようです」
「そうか。こっちもだよ」
「なら、とてもいいデュエルが出来そうですわね。私は『霊獣使いの長老』を攻撃表示で召喚します」
出てきたのは、口髭を生やした老人。長い銀髪をポニーテールにして、その手には大きな杖。民族衣装のような服装。
コスプレかと、一瞬光莉の頭をよぎるが、長老と言っていたのだし長老なのだろうと結論づける。
「『霊獣使いの長老』の効果。このカードが召喚に成功したターン、通常召喚に加えて1度、『霊獣』と名のつくモンスターを召喚出来ます」
「召喚権を増やす効果……」
融合次元の相手なのだから、戦術は融合だろうと踏んでいるだけに、疑問が生まれる。
融合とは、手札か場のモンスターと、融合を行うための魔法カードが必要だ。故に、わざわざ召喚権を増やしてまでモンスターを出さずとも、手札で融合すればいいのではないのかと考えたからである。
融合はそれだけではないということは、光莉はまだ知らない。
「『長老』の効果により増えた召喚権を利用し、『精霊獣カンナホーク』を召喚します」
次いで現れたのは黄色く巨大な鳥。『長老』がすっぽり乗れてしまいそうな大きさだ。
「『カンナホーク』の効果。この子は1ターンに1度、デッキから『霊獣』と名のつくカードを除外出来ます。その除外したカードは、発動後2ターン目の自分スタンバイフェイズに、私の手札に加わりますわ」
「『封印の黄金櫃』と同じ効果か」
「ええ。私は効果で『霊獣使い ウェン』をゲームから除外します」
「……」
「どうかしましたか?」
「除外ゾーンからの召喚ギミックがあるデッキなんだと思っただけだ」
甲虫装機と呼ばれるシリーズなんかは、除外後に『リヴァイエール』を出して、除外モンスターを引っ張り出してくる。他のだって、『D.D.R』のようなカードとのコンボを利用して出すものがほぼ。きちんとサーチカードとして利用する者なんて、光莉の記憶にある限り稀だ。
光莉の言葉に都姫は一瞬きょとんとして、それから嬉しそうにクスクスと笑った
「成る程。噂に違わぬ読みですね。所見で融合を看破したとは聞き及んでおりましたが、想像以上です」
「そりゃどうも。それで? 普通の融合は結構見飽きてるんだが、面白いもの見せてくれるのか?」
「ご期待に添えられるかは分かりませんが。見せて差し上げましょう。私の用いる融合を」
「……」
「私は、場の『長老』と『カンナホーク』で融合を行います!」
その宣言の直後、2体のモンスターが渦に巻き込まれていく。
「共に導きを司る者達よ。交わり、そして友を導く礎になりなさい。融合召喚。『聖霊獣騎 カンナホーク』!」
光が弾け、現れる1体のモンスター。その姿に、光莉は驚きを見せる事なく、ぽかんとする。
「……乗っただけか」
「失礼な。違います。よく見てください」
「あん?」
都姫の言う通り、じっと観察する。じっと観察し、首を傾げた。
「やっぱり乗っただけだろ」
「違います。ほら、『カンナホーク』を良く見てください」
「……わからん」
「も~。目ですよ、目」
「目?」
「赤くなってるでしょう」
「間違い探しレベルじゃねぇか!」
思わずツッコミを入れる光莉。少し頭を押さえながら、現状を把握していく。
「融合は必要無いのか。素材モンスターは、除外されてるな」
「はい。『聖霊獣騎』達は、場の『霊獣使い』と『精霊獣』をゲームから除外する事で、融合召喚を行えます。この方法でしか特殊召喚を行えませんが、その代わり素材の条件は緩いです」
「成る程。さっき除外された『ウェン』は『霊獣使い』。つまり『ウェン』と『カンナホーク』でも『聖霊獣騎 カンナホーク』は出せるし、まだ見ぬ『聖霊獣騎』は出せるって事だな」
「お察しの通りです」
「……まあ、『ウェン』と『カンナホーク』で融合しても、『聖霊獣騎 カンナホーク』で出てくるのはじいさんなんだろうな」
「そこらへんの融通は効きませんからね。乗っただけなのに」
「……」
お前も言ってんじゃねかと思ったが、口には出さない。言ったら更に長くなりそうだったから。
「続けます。『聖霊獣騎 カンナホーク』の効果発動。このカードは1ターンに1度、除外されている『霊獣』カード2枚を対象にして発動。そのカードを墓地に戻す事により、デッキから『霊獣』カード1枚を手札に加える事が出来ます」
「サーチ効果か。いい効果だ」
「まだまだ。『聖霊獣騎』達は貴方が思っているよりもずっといい子です。私は除外されている『長老』と『カンナホーク』を対象に『聖霊獣騎 カンナホーク』の効果を発動します。対応は?」
「無い」
「なら『カンナホーク』の効果にチェーンして、『カンナホーク』の効果を発動します」
「……ちなみにチェーン発動した『カンナホーク』ってどっちだ?」
「これは失礼いたしました。『聖霊獣騎 カンナホーク』の第1の効果にチェーンして、第2の効果を発動します。第2の効果は『聖霊獣騎』全員共通の効果。それは、このカードをエクストラデッキへ戻す代わりに、除外されている『霊獣使い』と『精霊獣』を1体ずつ特殊召喚出来ます!」
「セルフで融合解除の効果も持ってるのか!?」
「ええ。しかも誘発即時。相手ターンでも発動出来る効果です。そう簡単に突破は出来ませんよ」
「……面倒だな」
顔をしかめる光莉に、やはり笑顔を返す都姫。
「続けましょう。『聖霊獣騎 カンナホーク』をエクストラへ戻し、『霊獣使い ウェン』と『精霊獣 カンナホーク』を特殊召喚します。
そしてチェーン1の効果により『霊獣使いの長老』を墓地に送り、デッキから『霊獣の連契』を手札へ加えます」
『聖霊獣騎 カンナホーク』の詳しいテキストは、以下の通り。
『1ターンに1度、除外されている自分の「霊獣」カード2枚を対象として発動できる。
そのカードを墓地へ戻し、デッキから「霊獣」カード1枚を手札に加える。』
似た効果に、困った時の壺、架空デュエル筆頭神器でお馴染みの『貪欲な壺』がある。テキストは以下の通り。
『自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。
そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。
その後、自分はデッキから2枚ドローする。』
似たテキストながらも、最大の違いは『戻すモンスター数』の指定の有無である。
『カンナホーク』はカードを墓地へ戻しという表記。『貪欲な壺』はモンスター5体をデッキへ戻しという表記。ここがミソだ。
『貪欲な壺』は対象モンスターを『D.D.クロウ』のようなカードで除外されると、5体のモンスターをデッキへ戻す事が出来ない為発動出来ないが、『カンナホーク』は今回のように除外されているモンスターが1体いなくなっても、もう1体を戻せばカードを戻すという制約を達成出来る為サーチ出来る。最も、除外されているモンスター2体ともいなくなってしまえば、サーチは出来ないが。
なかなか融通の効く効果だなと感心しながら、光莉は口を開く。
「……そうやってアドを取っていくのが、『霊獣』デッキの基本って訳だな」
「はい。とはいえ、『精霊獣騎』を除いた『霊獣』モンスターには『1ターンに1度しか特殊召喚出来ない』という制約があるので、除外ゾーンが続く限り何度でもという訳にいきませんけど」
「当たり前だ」
「そうですね。そこまで強請るつもりもありません。私は『カンナホーク』の効果を発動します。『カンナホーク』の1ターンに1度という制約は効果の方に付随された物なので、一度場を離れてしまえば、その制約もリセットされます」
これも少々面倒くさい。
同じサーチ効果であるデネブのテキストは以下の通り。
『「星因士 デネブ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「星因士 デネブ」以外の「テラナイト」モンスター1体を手札に加える。』
一方、『カンナホーク』のテキストが以下の通り
『自分は「精霊獣 カンナホーク」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「霊獣」カード1枚を除外する。
発動後2回目の自分スタンバイフェイズに、この効果で除外したカードを手札に加える。』
違いは、1ターンに1度という制約が、(1)と書かれる前に書いてあるか、書かれた後に書いてあるか、である。少し面倒くさいが、簡潔に言うと、書かれる前に書いてある効果は場を離れてもリセットされず、書かれた後に書いてある効果は離れるとリセットされるのだ。
OCGの正式用語ではないが、(1)の前に書かれた効果は、効果外テキストと呼ばれ、いかなる状況でも失うことがない効果だ。効果を無効にして特殊召喚する『シンクロン・エクスプローラー』で特殊召喚された『クイック・シンクロン』が、それでも『シンクロン』チューナーを素材とするシンクロモンスターのシンクロ素材にしか出来ないのと同じである。
極端に言えば、遊戯王のルールに組み込まれていると思えばいい。ライフポイントが0になると敗北するのと等しく、ドローしなければいけないタイミングで山札0枚の為ドロー出来なければ敗北するのと等しく、『デネブ』のサーチは1ターンに1度だし、『カンナホーク』は1ターンに1度しか特殊召喚出来ないし、『クイック・シンクロン』は『シンクロン』チューナーを使わなければならないシンクロモンスターのシンクロ素材にしか出来ないのだ。
一方、『カンナホーク』の(1)の効果にある制約は、『場で表側表示で存在している限り、適用される制約』と考えればいい。効果を使った後、一度裏側にしてから表側にしたり、場を離れたりしてモンスターデータがリセットされれば、ターンに何度も使用出来るし、同名モンスターを複数体並べても、それら全員が効果を使える。都姫の言った通り、『効果に付随した制約』と考えて貰えばいい。
「『カンナホーク』の効果で『精霊獣 ペトルフィン』をゲームから除外します」
状況を整えつつ、都姫は除外ゾーンを確認する。現在の除外ゾーンは先ほど除外した『ペトルフィン』のみ。『カンナホーク』の効果には2枚のカードが必要な為、一度融合を行えば、サーチする為のコストは充分稼げる。
だが、それでは除外ゾーンのカードが1枚になってしまう為、融合解除の能力が行えなくなってしまう。手札に『封印の黄金櫃』のようなカードを除外出来るカードがあればいいのだが、生憎無い。
(尤も、『カンナホーク』はエクストラに3積みですし、1体破壊されても困る事も無いですが)
手札に新たな『霊獣使い』モンスターもいない。これでは次のターンの展開が出来ない。
(……そうですね。セットカードが無い今の内に、出来るだけ状況を整えておきましょう。『カンナホーク』には申し訳ありませんが)
「行きます。『ウェン』と『カンナホーク』で再び融合召喚。再度現れなさい、『聖霊獣騎 カンナホーク』!」
「まあ、そう来るよな」
「『カンナホーク』の効果で『ウェン』と『ペトルフィン』を墓地に戻し、デッキから『霊獣使い レラ』を手札へ。最後にカードを2枚伏せて、ターンを終了します」
「俺のターン、ドロー」
最終的に都姫の場には、『聖霊獣騎 カンナホーク』が1体と2枚の伏せカード。そして手札が3枚。
枚数だけなら、初手ドローが無かったにも関わらず6枚と増えているが、情報アドバンテージを考えるのであれば、+1アドとは言いづらい。
(伏せの1枚はさっきサーチした『霊獣の連契』。遠目だったから上手く確認出来なかったけど、確か破壊効果だった。もう1枚の伏せカードは流石に分からんな。汎用カードの可能性が高いけど、除外アドを使うデッキだから――下手したら『あのカード』の可能性もあるか。確率低いけど。
とりあえず、『連契』を使わせたい所だな)
そう結論づけて、光莉はプレイを開始する。
「まずは手札から魔法カード『増援』を発動。効果でデッキから『星因士 ウヌク』を手札に加え、そのまま召喚する」
安定の初手『ウヌク』。『星因士』No.2の攻撃力なだけあって、切込隊長にはもってこいだから仕方がない。
「『ウヌク』の効果で『星因士 ベガ』を墓地に送る。このままバトルフェイズだ」
『聖霊獣騎 カンナホーク』は、効果こそ優秀。だがその為、ステータスは低く、攻撃力1400守備力1600である。『ウヌク』の攻撃力で充分足りる。
「『ウヌク』で『カンナホーク』に攻撃」
「カードの発動はありません」
「だったらそのまま破壊だ」
『ウヌク』の着る鎧の尾のような部分が鞭のように振るわれ、『カンナホーク』を叩き伏せ、破壊する。守備表示であったからライフは削れなかったが、初撃としては上々な結果。だが、『連契』を発動させるには至らなかった。
残しておいても面倒だと結論づけ、光莉はアド損覚悟で突き進むことを選ぶ。『霊獣』というシリーズについて、光莉には全く知識が無いのだから。
「ならもっと欲を出してみるか。手札から速攻魔法『フォトン・リード』を発動。手札のレベル4光属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する。来い『星因士 アルタイル』!」
下級『星因士』ではエースとも呼べるモンスター。展開の要である。そして墓地にはもう1体、展開の要たるモンスターが存在した。
「『アルタイル』の効果で『ベガ』を蘇生。更に『ベガ』の効果により、『星因士 シャム』を攻撃表示で特殊召喚!」
手札をガンガン消費しながらの怒涛の展開を見せる光莉。それもその筈。
「『シャム』の効果で1000ポイントのダメージを与える!ピアシング・ショット!」
「くっ」
全て決まれば、ワンキル達成なのだから。
『シャム』の効果を受け、残り3000まで削られた都姫のライフポイント。光莉の場には、攻撃可能なモンスターが2体。攻撃力の合計は3100。
「行け、『アルタイル』、『シャム』!プレイヤーにダイレクトアタック!」
『アルタイル』が飛び上がり、『シャム』が弓を引く。決まれば終わりの攻撃を前に、都姫は伏せカードを使うことを余儀なくされた。
「罠発動『霊獣の騎襲』!」
「むっ」
「自分の墓地及び除外されている自分のモンスターの中から『霊獣使い』と『精霊獣』モンスターを1体ずつ特殊召喚します!」
「一度に2体もか」
「私は墓地から『長老』、除外から『カンナホーク』を蘇生します!」
都姫を守るように現れたのは、初ターンに召喚されたのと同じ2体のモンスター。『長老』の守備力は1000ポイント。『カンナホーク』は1400。どちらも『アルタイル』でも『シャム』でも突破は出来る。
「『カンナホーク』に『アルタイル』で攻撃する!」
「『カンナホーク』はやらせません。『霊獣の連契』を発動!」
ワンキルが決まらなかった時の事を考えた場合の、予想通りの展開。内心で光莉はほくそ笑むが――
「このカードは、私の場に『霊獣』モンスターが存在する時に発動でき、『霊獣』モンスターの数まで、場のモンスターを破壊します!『アルタイル』と『シャム』を破壊!」
その効果を聞いて、「は?」と思わず変な声が出た。光莉の手札に対応出来るカードは無く、『アルタイル』と『シャム』は、『長老』と『カンナホーク』がそれぞれ放った光線を受けて破壊された。
モンスターを破壊されたのは痛手だが範疇内である。だが、それよりも気になることがあった。
「一つ、いいか?」
「なんでしょうか」
「『霊獣の連携』は対象を取らないのか?」
「取りません。発動の際に求められることは、『霊獣』モンスターが私の場に居ることのみです」
公開情報である為、自身でもテキストを確認するが、やはり都姫の解説に相違無い。
(対象取らないフリーチェーンの破壊カードとか……。しかも発動にチェーンして俺の場のモンスターをゼロにしても、相手のモンスターが巻き込まれることがないって)
『数まで』と表記してあるカードは、0からその数字までという意味である。よって、0枚選択して破壊する、ということも可能なのだ。
(しかも『聖霊獣騎 カンナホーク』でサーチも可能)
全くふざけたスペックである。
(融合を使わない融合召喚、自力で融合解除を行える融合モンスター、極めつけは極悪の除去罠か)
一足飛びにデュエリストモードへ、意識が切り替わる。
(思っていた以上に厄介だ)
舌打ちを漏らす。
『アルタイル』と『シャム』を墓地へと送り、光莉はバトルフェイズの終了を告げた。
3.24
タイトル間違ってたので修正
3.24
・霊獣の騎襲の効果を間違っていたので修正。
墓地に戻したカードが『カンナホーク』から『ペトルフィン』になっただけですが。
・長老の守備力間違えていたので修正。『レナ』ちゃんの方が高いのね。
・誤字修正。