「そのデュエル、俺にやらせてくれ」
いざデュエルをしようとしていた光莉と隼を呼び止め、そう告げたのはユートであった。部屋を出る為のドアの前に立ちはだかって、真剣な表情を向けるユートに、「ふむ」と光莉は首を傾げる。
「俺はどっちでもいいけど。どうする?」
光莉が言葉を向けた先は隼であった。隼は難しい顔をして、ユートの言葉を吟味する。
一方で、妹の方は容赦なかった。
「ちょっとユート」
「ん?」
グイグイと瑠璃に腕を引かれ、ユートは部屋の隅まで連れて行かれた。
「あんた、本気で言ってるの?勝てるわけないじゃん。いいからお兄ちゃんに任せなって」
「いや、勝てる勝てないは関係ない」
「……いやいや。あるでしょ。勝たなきゃ、光莉さんがレジスタンスに入らないんだから」
「なら勝つ」
「だからさぁ」
こそこそと会話を始めた2人を前に、暇を持て余した光莉は隼へと話しかけた。
「仲良しだな、あの2人」
「ユートと俺達兄妹は付き合いが長いからな」
「へぇ。幼馴染って言うの? いいな、そういうの。俺にはいないからなぁ。あ、友達いないって訳じゃないぞ?」
「……」
隼自身もあまり友人は多くないので、焦った様子の光莉の言葉は少し耳が痛い。
「光莉さんが仲間になった後に挑めばいいでしょ。今回は引きなさいって」
「嫌だ」
「ユート!」
「此処は譲れない。戦いたいんだ」
「だから――」
言い返そうとして、瑠璃はユートの表情に気がつく。クソがつく程に真面目なユートの、やはりクソ真面目な表情。絶対に折れないとそんな意志を感じさせる表情だ。瑠璃は顔を顰める。普段は瑠璃の方が発言権は強いのだが、この表情の時はとにかく面倒であることは、長い付き合いで良く知っていた。
そして、こういう表情をしている時のユートには、酷く大事な事がある事も、同時に嫌というほど理解していた。
「……なんでそんなに戦いたいのよ」
「すまない、それは言えない」
「……あー、もう!負けたらしばくからね!?」
「わ、分かった」
コクコクと頷いたユート。瑠璃は立ち上がり、隼の方を見る。
「お兄ちゃん、キャストチェンジで!」
***
(ライフ差は五分だけど、場の俺の方が上だ。流れはこっちにある)
光莉と対峙しながら、ユートは冷静だった。押しているからと言って油断もせず、だがプロが相手だからと言って必要以上に恐れない。ニュートラルを維持したまま、真っ直ぐ光莉を見据える。
(星野プロ)
今でも時折、夢に見る。ハートランドチャンピオンシップの決勝ステージ。光莉と卓斗のデュエル。
激戦だった。共に譲らず、勝敗を分けたのは時の運といってもいい程の接戦。
あの試合を見て、ぼんやりとしていた夢がはっきりとしたのだ。自分もプロになりたい。プロになって彼らのように会場を沸かせたい。
だが、こんな事態になってしまってその夢は恐らく叶わない。それは悲しいが、それ以上に辛いことがあった。それは、光莉だ。
光莉のデュエルがファンに好かれていたのは、例え第3段階、決闘者モードだと恐れられても、根底には見えていた本気でデュエルが好きだという光莉の想いが見えていたからだ。楽しそうに戦う姿は、見ている方も楽しいものである。だが、アカデミアとのデュエルでは、それが全く見られない、ただただ敵を倒す為のデュエルだった。
(貴方の、あんなデュエルは見たくなかった)
この1週間で具体的に何があったのかは知らない。ただ、自分達が混乱していた間も、1人で戦い続けていたのであろうことは、簡単に分かる。彼が狩り続けていたからこそ、レジスタンスは幾許かの余裕を持って、最低限の状況を整えてから戦うことが出来たのだから。
(礼を言うのならいざ知らず、こんな事を言うのは間違えているとは思うから、口には出しません)
睨みつけて、デッキトップに手をかけた光莉に、心中で想いを告げる。
(思い出して下さい。光莉さん。俺は、貴方にだけは、デュエルがどんな物であるのかを、忘れて欲しくはありません)
貴方だけは、デュエルを戦いの道具にしないで下さい。
***
「俺のターン、ドロー」
これで手札が3枚の光莉。このターンではダメージを与えられない為、一先ず状況を整えることを選択した光莉は、先程サーチした『アルタイル』を召喚した。
「『アルタイル』の効果により、墓地から『ウヌク』を蘇生。『ウヌク』の効果で『デネブ』を墓地に落とす」
場に3体のモンスターを並べた光莉。『トライヴェール』を狙ってもいいが、現状ではバウンスする意義が薄い。
「こっちだな。『アルタイル』と『デネブ』でオーバーレイ!2体の光属性レベル4モンスターでオーバーレイネットワークを構築!神話に名を連ねし月影の化身!現れろ!エクシーズ召喚!ランク4『武神帝-ツクヨミ』!」
ドローソース筆頭である『ツクヨミ』を出して、光莉は手札を全て伏せる。これでは、『ツクヨミ』の効果が使えないのだが。
「墓地の『フェニックスブレード』の効果を発動。墓地の戦士族モンスター2体を除外して、墓地のこのカードを手札に戻す。俺は『ベガ』と『アルタイル』をゲームから除外し、手札に戻す」
墓地のカードを回収することで、手札を増やす光莉。
「『ツクヨミ』の効果。エクシーズ素材を取り除き、手札を全て墓地に送って手札が2枚になるようにドロー」
引いた2枚は、それぞれモンスターと魔法カード。防御に使えるカードはではなかった。
「ターン終了だな」
「エンドフェイズに罠発動!永続罠『破滅へのクイック・ドロー』!」
「なっ」
ユートの発動したカードに驚く光莉。ドローソースとして使いづらいばかりか、デメリットも大きすぎる為、使用するプレイヤーが殆どいないカードだったからだ。光莉自身、使うかどうかを悩み、採用を見送ったカードである。
「俺のターン、ドロー!『クイック・ドロー』の効果で、更にドロー!」
ドローフェイズ開始時、手札が0枚だったら通常ドローに加えて追加で1枚引ける効果である『クイック・ドロー』。2枚になった手札を見て、特にやれることがなかったユートは、そのままバトルを宣言した。
「『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!『ツクヨミ』に攻撃!反逆のライトニング・ディスアベイ!」
防御札は無く、『ツクヨミ』はなすすべなく『ダーク・リベリオン』に破壊される。
「メイン2!カードを2枚伏せてターンエンド!」
「エンドフェイズだ!『リビングデットの呼び声』発動!『アルタイル』を蘇生し、『デネブ』を蘇生させる!『デネブ』の効果で『シャム』を加えるぞ!」
「――エンドフェイズに『クイック・ドロー』のコストで700ポイントのダメージを受ける」
「俺のターン!」
ドローし、手札を確認。
「やることは決まってるか。俺は『アルタイル』『デネブ』『ウヌク』の3体でオーバーレイ!3体の『テラナイト』モンスターでオーバーレイネットワークを構築!極寒の夜空に輝く大三角の気高さよ!今こそ我が剣に宿り仇なす敵を滅殺しろ!エクシーズ召喚!ランク4『星輝士 トライヴェール』!!」
極寒のエースである白銀の騎士が降臨する。厄介な効果を2つも持つこのモンスターに、ユートは僅かに顔をしかめた。もし外せば、ここで詰みの可能性があった。
「効果発動!蹴散らせ、シェイリング・ブリザード!」
「させない!罠発動『ブレイクスルー・スキル』!効果は無効だ!」
「ぐっ」
効果が止められ、光莉は僅かに顔を顰める。続け様に、2枚目のカードを出した。
「『星因士 シャム』を召喚!効果発動!貫け、ピアシング・ショット!」
「カウンター罠『黒板消しの罠』!」
「はぁ!?」
まさかのカードに、光莉は本気で驚きの声を上げた。
「『黒板消しの罠』!? 『クイック・ドロー』といい、なんでそんな訳の分からんカードを!?」
「ノーコストでダメージ無効。ハンデスも出来る。十分」
「十分!? 『地獄の扉越し銃』でいいだろ!? 発動タイミング同じなんだし!?」
「――なら、貴方ならどっちを選びますか?」
「え?」
ユートの言葉に、光莉が止まる。ユートの言葉は尚も続いた。
「『地獄の扉越し銃』と『黒板消しの罠』。発動タイミングは同じ。相手に与える効果は、バーンダメージかハンデス。どっちを取りますか?」
「……」
聞かれ、光莉は少し悩むも答えようとし、しかし出来ずに固まった。
(あれ?)
どっちを。どっちを選ぶだろうか。
バーン? ハンデス? どちらも光莉のデュエルの中に組み込まれた戦法だ。だから、どっちを使ったっておかしくない。いや、ライフだったら攻撃で削れるから、やはり『黒板消しの罠』の方が濃厚だろうか。
だったら。だったら、なぜ今。『地獄の扉越し銃』でいいと言ったのだろうか。
「……」
「星野プロ?」
「……『黒板消しの罠』の効果で、手札を1枚捨てる。ターンエンド」
ぐるぐると思考が回り、結果答えられず。光莉はユートの言葉を無視し、デュエルを続けた。
それに対し、ユートも何も言わない。
「俺のターン、ドロー。『クイック・ドロー』の効果で更に1枚ドロー」
カードを引いて
「手札1枚をコストに、『レインボー・ライフ』を発動してバトル」
バトルを宣言し
「『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』で『星輝士 トライヴェール』に攻撃」
突撃した『ダーク・リベリオン』が、『トライヴェール』を破壊する。
「効果発動。墓地から『アルタイル』を蘇生し、効果で『デネブ』を蘇生。効果で『ベガ』を手札に加える」
「メイン2。3枚目の『マジック・プランター』を。『クイック・ドロー』をコストに2枚ドロー。更に『クイック・ドロー』が墓地に送られた瞬間、3000ポイントのダメージが発生。それは『レインボー・ライフ』の効果で回復になる」
一気に3000ポイントのライフを回復し、ほぼ初期値に戻るユートのライフ。だが光莉は、気落ちした表情のまま、手札をじっと見ていた。
「……2枚伏せて、ターンエンド」
「……俺のターン。ドロー」
手札3枚、場には6枚のカード。圧倒している筈なのに、不思議と勝負は互角以下。ユートによって、光莉は圧倒されていた。
「『トライヴェール』のバウンスも『シャム』のバーンも届かなかった。ならこいつで勝負。3体のモンスターでオーバーレイ。エクシーズ召喚。ランク4『隻眼のスキル・ゲイナー』!」
えっ?と自然に集まっていたレジスタンスメンバーの誰かが呟いた。
ここまで、毎ターン『デルタテロス』『ツクヨミ』『トライヴェール』と光莉の代名詞のようなエクシーズが並んでいたから、このターンは『セイクリッド・ダイヤ』が出てくる物だとばかり思っていたのだ。そういった遊び心を、光莉はいつも大切にしていたから。
だが、出てきたモンスターは、公式戦でも2,3回出てきた程度のモンスター。確かに決まれば強い。この状況なら十二分に発揮出来る可能性もある。だが、何故という思いが、観客の中に溢れる。
「効果発動!エクシーズ素材を取り除いて、相手モンスターエクシーズの『名前』と『効果』をコピーする!『ダーク・リベリオン』を選択!」
「2ターン続けて、召喚権使わずに3体エクシーズは流石です。でも、随分と行動がお粗末ですよ。『エクシーズ・リフレクト』!」
「あっ」
自分も使い、デッキに入れているカードだ。エクシーズ主体のデッキなら、警戒しなければいけないカード。
(何やってんだ、俺)
「エクシーズモンスターを対象に取る効果を無効にして破壊!その後、800ポイントのダメージを与える!」
対抗手段はなく、『スキル・ゲイナー』は破壊され、ライフは1775まで削られた。
ライフを確認する。ユート3800に対し、自分は1775。半分以下になっていた。一時期は何倍も上回っていたはずなのに。
「……あー」
デュエルに関してだったらごちゃごちゃと考える事は嫌いではないのだが、それ以外だと基本感性に従って生きている光莉である。だから遅刻もするし、会場にバイクで乗り込んだりもするのだがそれはともかく。
今の自分が明らかに正常でないことは明らかだ。原因が分からないが、頭というか心というか、無性にモヤモヤするのである。
「……うむ」
こういう時は一から考えていくのがいい。
***
「光莉さん、動き止まっちゃった」
そう呟いた瑠璃の視線の先で、光莉はぼんやりと空中を眺めていた。
何があるわけでもないその場所を見ている理由は瑠璃には想像出来ないが、これは遅延行為なのではないかとも思えるだが、対戦相手のユートが何も言い出さない為、瑠璃も含めた全員が、何も言えずにいた。
(しかし……光莉さん、らしくないな)
行動が酷く単調だ。あれではカウンターしてくれと言っている様なものである。
伏せカードを対処出来るカードが無いのかもしれないが、それならそれで、読み合いと我慢比べで確実に突破出来るタイミングまで動かない筈である。
(焦ってる? いや、なんか違う)
とにかくらしくない。そんな彼を見たくなくて。
「光莉さん、がんばってー!」
瑠璃は声を張り上げた。
***
この変な感情に満たされたのは、『黒板消しの罠』か『地獄の扉越し銃』か、どちらを選ぶのかとユートに聞かれてからだ。
この選択肢なら、今の自分であればそこそこ悩んでから、『地獄の扉越し銃』を選ぶ。ハンデスは捨てがたいが、バーンダメージを返せるのは大きい。それこそ、一度に4000ポイントのダメージを与えるようなカードが来たら、そのまま引導火力にもなるのだから。
しかし、昔の自分。戦いが始まる前の、プロをしていた頃の自分だったらどうだろうか。
それについては考えるまでもない。『黒板消しの罠』だ。だって、そっちのほうが盛り上がる。
なんでそんなカードをと対戦相手が驚き、まさかのカードチョイスで観客が笑う。ハンデスだって、バーンデッキのハンド消費を考えれば十分過ぎるし、ライフは攻撃で削ればいいのだから。
(……違うな)
今考えた理由以上にもっと明確に、分かりやすい理由がある。なんでその理由を忘れていたのか。
(考えないようにしてたのか)
悪くないと、言ってくれた。そうじゃないと、言って貰えた。それでも、やはり引っかかっているのだ。頭の片隅、心のどこかに。
だから俺のせいでという罪悪感を無意識に生んだ。皆がああ言ってくれていたから、なるべく考えないようしていたせいで、それは徐々に膨れ上がっていき、気づかぬ内にどうにかしないとという使命感も生まれた。俺のせいなのだから俺がなんとかしないとなんて、罪悪感から来る逃避の心が作った使命感だ。立派なものじゃない。
今思えば、この心に溜まっている澱も、怒り以上にその罪悪感の滞留なのだろう。だから、一歩前進を感じさせたあのデュエルで、少しだけ楽になったのだ。最近怒りっぽいのも、なんて事はないただの八つ当たりである。
(クハハ)
笑うしかない。結局自分で考えて自分で混乱して、自重で潰されていた訳だ。自分のデュエルがどんなものかも忘れる位に。
これすらも、案外罪悪感に駆られ、俺にデュエルを楽しむ資格はないという想いから来ているのだろう。この一週間、デュエルを戦いの為の道具として使い続けていたから余計にだ。
理解した途端、光莉は頭の中にあったモヤモヤが、スッキリと晴れていくのを感じた。澱はそのまま、まだ自分の中にあるのだが、素直に受け入れられる。
「光莉さん、がんばってー!」
ふと、瑠璃の声援が聞こえてきた。視線をそちらへ。恐れのような焦りのような。そんな表情を浮かべる瑠璃を見て、光莉は唇を噛み締めた。
謝りたいところだが、デュエル中。なら、最高のデュエルで声援の礼と謝罪を示そう。そう考えて、光莉はユートへと視線を戻す。目が合うと、ユートが驚いた顔をしていた。理由は知れない。もしかしたら、かなり酷い顔をしているのかもしれないと思い、心中で苦笑しながら、光莉は彼の名前を呼んだ。
「ユート」
「はい」
「ここからだ。全力で行くぞ」
「……はい!」
頷いたユートから視線を外し、ここまでのプレイを思い返す。十分過ぎる回りだった。デッキはやる気なのに、俺がボロボロだったせいで酷いことをしてしまった。『トライヴェール』と『デルタテロス』にも、顔向けできない。『スキル・ゲイナー』には、特に申し訳無さが募る。
「後で土下座でも何でもするからさ。もうちょい一緒に戦ってくれ」
呟き、手札から魔法を発動する。
「『貪欲な壺』。対象は『デルタテロス』『トライヴェール』『ツクヨミ』『スキル・ゲイナー』『アルタイル』の5体。『アルタイル』はメインデッキ、それ以外はエクストラに戻す。そして2枚ドロー」
手札が4枚に増える。伏せてある2枚は『ツクヨミ』の効果を使うために伏せただけの通常魔法で、しかも現状では使用条件を満たせていないカードであるから、どうにかする為にはこの4枚のカードを使うしかない。
(まずはユートの分析からか)
デッキは『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』に特化したもの、という読みは間違えていないはずである。
『オーバーレイ・スナイパー』も含め、多少のモンスターは入っているだろうが、基本的には罠モンスター。それらを使って攻め、カウンター罠で守る。分かりやすいコンセプトの反面、デッキ内のカードバランスやセットするカードが重要視される、構築もプレイも難しいデッキだ。
(入ってるカウンターは『ダーク・リベリオン』を守るカードと『バーン』対策かな。『ダーク・リベリオン』は高打点故に戦闘で突破されづらい。それを避けてダメージを与える為に、バーンカードを使ってきた所を、カウンターで返す。多分1枚位なら『地獄の扉越し銃』も採用されてるだろうな。
以上のことから考えて――)
現状1枚の伏せカードを前に、ある結論に達した光莉は、攻勢に出ることを選ぶ。
「『戦士ラーズ』を召喚。召喚時の効果でデッキトップに『デネブ』を仕込む。次いで『モンスター・スロット』。『ラーズ』を選択し、『シャム』を除外。デッキから1枚引いて、選択したモンスターと同じなら特殊召喚する。引いたのは当然『デネブ』。特殊召喚。効果で『アルタイル』を手札に加えるぞ」
本当は『シャム』を出して、少しでもライフ差を詰めにいってもいいところだったのだが、生憎2積みの『シャム』は墓地と除外に行った。『貪欲な壺』で戻しても良かったのだが、出した所でライフを削りきれるわけではない。そもそもバーン対策はされているだろうから、これ以上『シャム』に頼るのも余り意味がないだろうとの判断である。今度こそ『地獄の扉越し銃』で詰みかねない。
「俺は『ラーズ』と『デネブ』の2体でオーバーレイ!2体の戦士族モンスターでオーバーレイネットワークを構築!星光纏いて現れろ!闇を切り裂く眩き王者!エクシーズ召喚!ランク4『H-C エクスカリバー』!」
神話にある伝説の宝剣と同じ名を持つ、モンスターが現れる。このモンスターも、『スキル・ゲイナー』と同じく、公式戦での使用記録こそあるが、回数は少ない。そもそも公式戦ではなるべく『テラナイト』モンスターを使うように意識していたから、そのせいもあるのだが。
『スキル・ゲイナー』と同じく、微妙な雰囲気に包まれた観客の空気に、苦笑しながらも光莉はプレイを続ける。
「『エクスカリバー』の効果を発動!エクシーズ素材2つを取り除いて、次の相手ターンの終了時まで、攻撃力は元々の攻撃力の倍になる!」
「2000の倍ってことは……」
「攻撃力4000だ!」
エクシーズ素材である光球を体に取り込んだ『エクスカリバー』の攻撃力が跳ね上がる。一気に『ダーク・リベリオン』の攻撃力を超えた『エクスカリバー』に、ユートは口角を吊り上げた。
「あの状況で、これだけのモンスターを。でも、攻撃するんですか?」
「する」
「っ」
断言する光莉に、ユートは驚いた表情を浮かべる。
「お前は『ダーク・リベリオン』に絶対の信頼を置いてる。その信頼の理由は、優秀な効果とそれに裏打ちされた攻撃力だ。それも頷ける。だからこそ、お前のデッキに攻撃反応系やコンバットトリック系のカードは無い、あっても2、3枚程度。そうだな。ダイレクトアタックの防御と展開に使える『幻影騎士団シャドーベイル』だけだと踏んだ」
「……」
「1枚は既に墓地。残り1か2枚は未確認だから、そこは賭けにはなっちまうがな。伏せがある以上は仕方が無い。行くぞバトルだ!『エクスカリバー』、『ダーク・リベリオン』を切り裂け!一刀両断!必殺神剣!」
大剣を大きく振りかぶった『エクスカリバー』が、『ダーク・リベリオン』へと猛追する。迫る攻撃を前に、ユートは苦々しげな笑みを浮かべながら、でも嬉しそうに呟いた。
「お帰りなさい、星野プロ」
その言葉は『エクスカリバー』が『ダーク・リベリオン』を叩き切った際の爆発音で掻き消える。
「『ダーク・リベリオン』、撃破!」
そういった光莉は、かつてプロとして戦っていた時のような、心底楽しそうで、見ている側も思わず笑ってしまう笑顔を浮かべていた。
もう書きたくないユートのデュエルはもうちょっと続く。