星を司るプロの話   作:零円

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09 決意

 長らく場に居座っていた『ダーク・リベリオン』を突破し、ようやく一息ついた光莉。

 メイン2に入り、少し悩んだ。

 

(どれだけ打点が高くても、『ダーク・リベリオン』の効果を使われたら、相手の攻撃力を上げるだけ……それなら、こいつだな)

「魔法発動、『エクシーズ・シフト』!」

 

 光莉は、モンスターエクシーズを出した事によって発動条件を満たせた伏せカード、『エクシーズ・シフト』を発動する。場のモンスターエクシーズをリリースし、エクストラからリリースしたモンスターと同ランク同属性同種族の名前が違うモンスターエクシーズへと変えるカード。

 

「俺は、『H-C エクスカリバー』をリリース!」

 

 光球となった『エクスカリバー』が、銀河の渦へと飲み込まれていく。

 ランク4光属性戦士族モンスター。光莉のデッキにいるその条件を満たしたモンスターは多い。

 多いが、この状況を任せるべきモンスターなど、2体の内のどちらかだけ。

 

「灼熱の夜天に輝きし大三角の化身よ!眩き王者の導に従い、我が戦場へ姿を表せ!エクシーズ・シフト!来い、ランク4『星輝士 デルタテロス』!」

 

 光莉の声に応えるように銀河が爆ぜ、金色の騎士が君臨した。光莉の復活に合わせるように、その輝きは先程の『デルタテロス』よりも増している。

 

「『エクシーズ・シフト』は発動後、このカードの効果で特殊召喚したモンスターのエクシーズ素材になる。そして『デルタテロス』の効果を発動!エクシーズ素材を一つ取り除いて場のカード1枚を破壊する!対象は最後の伏せカード!ブレイザー・レイ!」

「チェーンして使う!『貪欲な瓶』!自分墓地のカード5枚を選択し、その5枚をデッキに戻して1枚引く!俺は『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』『ドロー・マッスル』2枚『マジック・プランター』『死霊ゾーマ』の5枚を選択!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のみエクストラへ戻し、残りをデッキに戻してシャッフル。1枚ドロー!」

「外したか。それに『ダーク・リベリオン』もデッキに戻った。シフトの効果で自壊させて展開しようと思ってたんだが、あのドラゴンの警戒をしないといけないなら、俺も俺のドラゴンを出さないとな」

「……え?」

 

 光莉の言葉に、ユートは首を傾げる。光莉の言うドラゴンが何なのかは流石に分かるが、この状況からモンスター3体を展開してのエクシーズが本当に可能なのだろうか。

 不思議そうにする光莉や、周囲のレジスタンスのメンバーを見て、光莉は満足気に頷く。

 

「いいね。こういう空気大好きだ」

 

 嬉しそうに言いながら、光莉はデュエルディスクのエクストラデッキケースの中から、カードを1枚取り出した。

 

「見晒せ!プロ時代一度もやらなかった、俺の奥の手だ!俺は『デルタテロス』でオーバーレイ!」

「モンスターエクシーズで!?」

「1体の『テラナイト』エクシーズでオーバーレイネットワークを構築!星光の騎士に導かれ、我が元へと現出せよ、星因士の守護竜よ!エクシーズ召喚!ランク5『星輝士 セイクリッド・ダイヤ』!」

 

 黄金の騎士が、その姿を守護竜へと昇華させる。光莉のプレイで白け気味だった空間が、熱気を取り戻していく。

 

「きゃー!光莉さーん!」

 

 瑠璃なんかは、それが顕著だった。ブンブンと大きく手を振ってくれるのが嬉しくて、手を振り返してから、光莉はユートの方を向く。

 

「『セイクリッド・ダイヤ』はメイン2に限って、自分以外の『テラナイト』エクシーズの上に乗せる形でエクシーズ召喚が行える。『ガイアドラグーン』とか『トレミス』みたいなもんだな」

「……成る程。メイン2って限られた状況だから、今までやらなかったんですね」

「うん。だって攻撃出来ないし」

 

 その為に『カペラ』をいれて正規召喚出来るようにしてあるのだ。

 

「まあ、能力で牽制するってだけなら、メイン2でも十分なんだけどな。

 さて、『セイクリッド・ダイヤ』の効果、一応説明しておこうか。

 一つ。エクシーズ素材を持ったこのカードが場にいる限り、お互いのプレイヤーはデッキからカードを墓地に送れず、また墓地から手札に戻るカードは、戻る代わりにゲームから除外される。

 二つ。相手の闇属性モンスター効果が発動した時、エクシーズ素材を取り除いて発動出来る。その効果を無効にして、破壊する。

 一つ目の効果は余り関係無いかもな。でも、二つ目は刺さりまくってるだろ」

「……ええ、まあ」

 

 ユートのエース。『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』。闇属性であるこのモンスターの効果を封じたわけだ。しかも『ダーク・リベリオン』の攻撃力が2500に対し、『セイクリッド・ダイヤ』は2700。普通に攻撃しても勝てない数値。

 しかし、それも普通の状況なら、の話。

 

(俺の墓地には『ブレイクスルー・スキル』がある。これを使えば、『セイクリッド・ダイヤ』の効果は消せる)

 

 そうすれば、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』で突破出来る。問題はない。

 だが、一度使われたカードの存在を、光莉は忘れない。

 

「『ブレイクスルー・スキル』対策もしてあるぞ?装備魔法『星輝士の因子』!」

「なっ!?」

「攻撃力と守備力を500上げて、相手のカード効果を受けなくさせる!これで『ブレイクスルー・スキル』は効かない」

「くっ」

「ターンエンド」

 

 ニコリと笑う光莉を前に、一気に窮地へと追い込まれたユートが、カードを引く。

 光莉の手札はサーチしてきた『アルタイル』だと知っているから、『オネスト』を警戒する必要が無いのは救いか。それにしたって、打点3200の効果を受け付けないモンスターであるのだから、油断は出来ない。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 これで2枚。やることなんて殆ど無かった。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

「俺のターンだな」

 

 ドローと言いながらカードを引く光莉。

 

「頭がすっきりしたら、ドロー力も息を吹き返してきた感じだ。『マジック・プランター』」

「ドローソース!?」

「『リビデ』をコストに2枚ドロー」

 

 2枚引いて、そのカードを見ると、「むっ」と眉を潜める。

 

「……ここでこのドローか。なら、多分こうしろってことだよな。バトル!」

 

 宣言するやいなや、攻撃態勢をとり、光莉を集め始める『セイクリッド・ダイヤ』。

 

「集いし星光を持って、全ての闇を切り裂け!スターフォール・ブレイザー!」

 

 光の奔流が放たれる。

 

「墓地の『幻影騎士団シャドーベイル』の効果を発動!相手のダイレクトアタック宣言時、このカードを通常モンスター扱いで特殊召喚出来る!」

 

 地面に魔法陣が生まれ、そこから馬に乗った骸骨騎士が飛び出してきた。

 この形で特殊召喚された際のステータスは、レベル4、闇属性、戦士族、攻0、守300。攻撃を凌ぐ事は出来るが、スペックは少し心許ない数字だ。

 

「『シャドーベイル』に攻撃!」

「速攻魔法『ドロー・マッスル』!1枚引いて、戦闘耐性を得る!」

 

 だが、そのローステータスを活かせるカードも、もちろんあるのだ。

 

「厄介だな、『ドロー・マッスル』」

「普通に使うと使い辛いですけど、自力で守備になる『オーバーレイ・スナイパー』とか守備で出せる罠モンスターなり『シャドーベイル』と合わせると、結構使い勝手いいです。フリーチェーンで打てますし」

「成る程。覚えておこう」

 

 頷いた光莉はメイン2に入り、カードを2枚伏せる。

 

「ターンエンド」

「俺のターン!ドロー!」

 

 1ターン前、消費ゼロでモンスターを増やしたユート。

 手札が2枚に増え、場にも2体のモンスター。いい感じに回復し始めている。

 

「後は『セイクリッド・ダイヤ』の突破方法だな」

 

 一先ずは『星輝士の因子』をどうにかする必要がある。現状、それを可能とするカードは手札には無い。

 

「……2枚伏せてターンエンド」

「また伏せただけか。俺のターン、ドロー」

 

 これがもし公式戦だったら、ブーイング受けそうだななんて考えながら、光莉はカードを引く。

 ユートの場には、3枚の伏せと『シャドーベイル』。対して、光莉の場にも3枚の伏せカードと、装備魔法で強化された『セイクリッド・ダイヤ』。

 

「あんまりグダるのは、頂けないんだよなぁ」

 

 光莉のデッキ枚数はジャスト40枚。そして、墓地に現在落ちているカードの枚数は19枚。そのうちの1枚はモンスターエクシーズだから除くとしても18枚。除外ゾーンには3枚あり、手札と場にあるメインデッキのカードの合計は6枚。合計27枚のカードが既に見えていて、残りデッキ枚数は13枚だ。デッキの残りカードも、全て把握している。

 デッキの中に『ベガ』が2枚と『アルタイル』が1枚残っているとは言え、流石に展開力は低下気味。『アルタイル』のデメリット効果で攻撃出来ないということも、長引いただけありそうだ。

 

「望むところじゃないし、攻めたいところだな」

 

 バックのカードは十分。多少強引に行ってもいいだろうと踏んで、光莉はこのデュエル何度目かとなる『アルタイル』を召喚した。

 

「効果で『デネブ』を蘇生して、デッキから『ベガ』を加える」

 

 これで2体のモンスター。エクシーズしたいが、『星輝士の因子』は『テラナイト』以外のモンスターがいると自壊してしまうデメリットがある為、泣く泣く我慢。

 

「バトルだ!『アルタイル』で『シャドーベイル』に攻撃する!」

 

 背中から生えた翼をはためかせ、『アルタイル』が飛ぶ。そのまま襲いかかろうとするが、その前にユートがカードを発動した。

 

「罠カード『マジカルシルクハット』!」

「っ!? ホント、コンボパーツ多いな!」

「場にいる『シャドーベイル』を裏側にして、デッキから残り2枚の『幻影騎士団シャドーベイル』をセット!更に、モンスター特殊召喚にチェーンして、『激流葬』を発動!」

「ほう!? いいだろう、通しだ!『セイクリッド・ダイヤ』は相手カードの効果を受けない為、破壊されない!」

「『アルタイル』と『デネブ』、それに3枚の『シャドーベイル』は全て破壊される!」

 

 激流がユートのカードから放たれ、『セイクリッド・ダイヤ』以外の全てが破壊される。

 ユートの場はこれでガラ空き。だが、墓地には3枚の『シャドーベイル』。

 

「……どの道、これ以上グダるのもあれだしな。思惑通りっていうのは正直あれだが、乗ってやる。行け、『セイクリッド・ダイヤ』!スターフォール・ブレイザー!」

「その瞬間!墓地の3枚の『シャドーベイル』の効果を発動させる!特殊召喚!」

 

 相手の攻撃を利用してモンスターを並べる、光莉のようなプレイングを見せたユートに、光莉は挑戦的な笑みを浮かべ、『セイクリッド・ダイヤ』にそのうちの1体を破壊させる。

 

「ターンエンド!」

「俺のターン!ドロー!」

 

 引いたカードを見て、ユートは目を見開き、ぐっと口をつぐんだ。

 

「いいカード引いたか?」

「……決まれば、このターンで、俺の勝ちです」

「ほう。3枚の伏せカードありの俺に、いい度胸だな」

「このまま引き伸ばして、グダグダになってしまうのはお互い様でしょう。これ以上の機会もないと思いますし、このターンで決めに行きます」

「いい度胸だ。来い!」

「行きます!俺は2体の『シャドーベイル』でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!三度、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!ランク4!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!」

 

 ユートの信頼を置くドラゴンと光莉の誇るドラゴンが、相対する。いよいよ最終決戦が間近だが、その前に。

 

「俺は自分の場に『トーチ・トークン』を2体特殊召喚する事により、相手の場に『トーチ・ゴーレム』を特殊召喚!」

「ふぁっ!?」

 

 光莉の場に、攻撃力3000のモンスターが現れる。まさかのモンスターの登場に、流石の光莉も驚いた。

 

「『トーチ・ゴーレム』だと!?」

「この瞬間!『星輝士の因子』は効果により自壊!」

「ぐっ」

 

 まさかこんな方法で『セイクリッド・ダイヤ』の耐性を抜けてくるとは思わなかった光莉。雲行きが怪しくなってくる。

 

「これで、『セイクリッド・ダイヤ』にカード効果を与えられるようになった!墓地の『ブレイクスルー・スキル』をゲームから除外して効果発動!相手場のモンスターの効果を、エンドフェイズまで無効化する!『セイクリッド・ダイヤ』を選択!」

「チィッ」

 

 『セイクリッド・ダイヤ』の効果が消える。伏せカードはあるが、不安が残る。

 

「『オーバーレイ・スナイパー』の効果を発動!このカードを墓地から除外することによって、相手モンスター1体の攻撃力を、俺の場にあるエクシーズ素材の数×500ポイント減少させる!」

「――通す」

 

 『オーバーレイ・スナイパー』の幻影が現れ、『セイクリッド・ダイヤ』を攻撃した。その一撃で翼が傷つき、攻撃力が低下する。

 

「『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の効果を発動!『トーチ・ゴーレム』の攻撃力を半減させて、その数値分、攻撃力を上げる!トリーズン・ディスチャージ!」

 

 放電を受けた『トーチ・ゴーレム』の攻撃力が下がり、雄叫びをあげた『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の攻撃力が上昇する。『トーチ・ゴーレム』の攻撃力は3000。その半分1500。その分が上昇し、4000ポイント。

 

「バトル!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!『セイクリッド・ダイヤ』を攻撃しろ!反逆のライトニング・ディスアベイ!!」

 

 対して、『セイクリッド・ダイヤ』の攻撃力は1700まで減少していた。

 

「やー、まいったな」

 

 呟くように言って、光莉は笑う。

 

「せめて派手に散るか!行け、『セイクリッド・ダイヤ』!スターフォール・ブレイザー!」

 

 『セイクリッド・ダイヤ』が光線を放つ。その光線を受けながら、尚も『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』が突撃し――やがてその牙は『セイクリッド・ダイヤ』を捉え、破壊した。

 

***

 

 そのデュエルを見ていた全員が、ぽかんとした表情をしていた。

 観客だけではない。プレイヤーであり、勝者であるはずのユートも、やはりぽかんと、状況を飲み込めずにいた。

 そんな中、一番に状況を飲み込んだのは光莉。ディスクに刻まれたライフケージが0を刻んでいるのを見て、敗北したのだと察する。

 

(……あー)

 

 負けた。そう、負けたのだ。

 

「……あっはっはっはっは!」

「ッ!?」

 

 急に笑い出した光莉に、一番近くにいたユートが肩をびくりと震わせた。そんな彼に、大笑いしたためにこぼれた涙を拭い取りながら、「なんて顔してる」とそう告げた。

 

「勝ったんだよ、お前が」

「……俺、が?」

「ああ。ユートの勝ちだ。完勝だ。いやー、負けた負けた。うん。悔しいなぁ」

 

 そう言う割に嬉しそうな光莉に、ユートはただただ戸惑うしかない。

 戸惑うユートを置いて、光莉は瑠璃へと近づいた。

 

「負けちゃった」

「あ、いや。そうですね」

 

 まさかの勝敗に、瑠璃自身なんて言っていいか分からず、そんな間の抜けた返事を返すしかない。

 

「応援してくれてたのに、すまない」

「そんな!最後の頃なんて、デビューした頃の光莉さんみたいで、寧ろ新鮮でした!ていうか、100回やったら99回は光莉さんが勝つんですから!」

「……」

 

 瑠璃の言葉に、何とも言えない、複雑な表情を浮かべるユートであった。その顔が見える位置にいるレジスタンスの仲間達が笑いを堪えているのを見つけて、ユートはそちらを睨みつける。

 

「今のままだったら、100回やっても100回、ユートに負けるさ。情けないが、胸張って言えるよ」

「そんなこと」

「あるんだ。自分の事だし、俺が一番良く分かってる」

 

 優しく笑いかけてから、瑠璃の元を離れて。光莉は隼の元へ。

 

「アンティルールには従うつもりだが。ユートに負けたし、要らないか?」

「……ユートと100回戦えば100回負けると、さっき言ったな」

「ああ」

「その状況を変えるつもりはあるのか?」

 

 その言葉にきょとんとして、ああ、と納得した様子で光莉は頷く。

 

「負けっぱなしってのは趣味じゃないしな。それにあくまでユートに勝てないってだけさ。アカデミアに負けるつもりはないし、俺自身に本気で戦う理由も出来た」

「戦う理由?」

 

 隼の言葉に、光莉は首を縦に振る。

 

「今までは、子ども達の為にって言って誤魔化してた。いや、それが嘘ってわけじゃないけど。負い目があって、だから綺麗な理由を考えて目を反らしてた事があった。今のデュエルではっきりした」

「それは……」

「……自分の為に戦うってさ、なんか凄く悪いことをしている気がしてたんだ。でも、もう誤魔化せないし、誤魔化さない。俺は俺の為に戦う。元々俺が好きだからデュエルしてたし、俺が見たいから皆をデュエルで盛り上げてきたんだ。誰かの為になんて、やっぱ俺らしくない」

「……」

「全部取り戻す。かつてのハートランド。ハートランドの住人。戦争の道具じゃない、皆が楽しめるデュエル。色んな人の笑顔。俺が、俺の為に取り戻す」

 

 だから――と光莉。

 

「頼む。俺をレジスタンスに入れてくれ。ああだこうだと理由をつけていたが、なんて事はない。俺が守ればいいだけだもんな。あいつらがいないと、寂しいし」

 

 ニヘラと笑う光莉に、無表情を貫いていた隼が、不意にその表情を崩し、微笑む。

 

「ああ。歓迎しよう。ようこそ、レジスタンスへ」

 

 隼の言葉に、ワッと周囲が沸いた。そんな周りへ一礼してから光莉はユートの元へ。

 

「楽しかったよ。ありがとう」

「いえ……あの」

「うん?」

「最後、伏せカード何だったんですか?」

「ああ」

 

 伏せたままだった3枚を取り出して、ユートに見せる光莉。

 その3枚は『エクシーズ・ギフト』『神星なる因子』『旗鼓堂々』。

 

「成る程」

「コンバットトリック系のカード引いてもどうしようもなかったとは思うけどな。正直『トーチ・ゴーレム』が予想外だったからなぁ」

「今回みたいに対象の取れない打点の高いモンスターを突破しようと思うと、結構使うんです。4000まで上がるから」

「『ヴォルカニック・クイーン』とか『ラヴァ・ゴーレム』でいいと思うんだが。トークンの処理、デッキ的にキツいだろ」

「基本、モンスターの絶対数が少ないんで、壁にもなる『トーチ・トークン』は凄く邪魔って程でもないです」

「あー……。でも攻撃力0じゃ、変わんないと思うんだが」

「それに的を用意しておけば、攻撃してきたとき、『立ちはだかる強敵』でカウンター狙えます」

「……成る程」

 

 それも入ってるのかと思いながら、光莉は苦笑する。

 

「いや、本当に楽しかった。ありがとう、ユート」

「此方こそ。貴重な経験でした」

「前半はすまなかったな」

「そんな事ないです。気にしないで下さい」

「また相手してくれ。今度はもう少しましなデュエルにするから」

「是非」

 

 ユートの頭を撫でて、「さてと」と呟き、隼の方を向いた。物凄い勢いで走ってきた瑠璃が、光莉の脇を抜けていく。

 

「一度帰る。暗くなってきたし、向こうで一泊してから、こっちに来るよ」

「分かった」

 

 光莉の言葉に、隼が頷く。「おらァ!」と後ろから少女の怒声と「ぐぅあ!?」という少年の悲鳴と共に、ゴスッと痛そうな音が聞こえてきたが、精神衛生の観念から気がつかないフリをした。

 

「……それじゃあ、明日」

「……ああ」

 

 もはや諦めたような表情を浮かべる隼に、光莉は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

***

 

 それから暫く経ち、事務所跡。光莉の隠れ家に帰ってきた。

 鍵を開けて、「ただいまー」と言うと、慌てた様子で子ども達が駆け寄ってきた。

 

「よう、どうした?」

「光莉兄ちゃん!紗乃姉ちゃんは!?」

「紗乃お姉ちゃんと一緒じゃないの!?」

 

 サトシとアヤの酷く慌てた声に、光莉は異常事態を察し、身をかがめた。

 

「落ち着け。何があった?」

「だから、紗乃姉ちゃんだよ!」

「紗乃お姉ちゃんいないの!」

「……すまん、タクヤ。多分、お前も慌ててると思うけど、お前が頼りだ。なんで、紗乃がいない?」

 

 焦りすぎて涙ぐんでしまっているサトシとアヤを抱きしめて頭を撫でながら、一歩引いた場所にいたタクヤへ、光莉は声をかける。タクヤも2人と同じく涙ぐんでいたが、光莉に頼られたからだろう。その涙を必死にこらえながら、しゃべりだした。

 

「ひ、光莉さんが出発して暫くは僕たち、一緒に居たんです」

「ああ」

「そしたら、外から声が聞こえてきて、窓から見たら、アカデミアの連中がビルの中に入ってきてる所で」

「……」

「紗乃さんが、僕達に此処に隠れてるように言って、1人で外に」

「……そうか。じゃあ、皆、ずっと隠れてたんだな?」

「はい。光莉さんにも紗乃さんにも此処にいるように言われたから」

「そうか。怖かったな。テツヤもおいで」

 

 招くと、涙ぐんだままテツヤも光莉へと抱きついた。嘔吐きながら涙を流す3人を強く抱きしめながら、光莉は唇を強く噛み締める。

 正直、早く紗乃を探しに行きたかった。だが、紗乃に子ども達を置いていくのかと怒られる気がして、3人が落ち着くのを待つ事にする光莉。何も出来ない無力さと、子ども達を怖がらせてしまった不甲斐なさが、強く強く、子ども達を抱きしめさせる。

 

「大丈夫。皆の家族も、紗乃も、俺がちゃんと見つけるから」

 

 そう言い聞かせる事しか光莉には出来なかった。

 

 暫く経って、子ども達が落ち着いた。そんな3人へ言葉をかけ、光莉は自身の両足でハートランドの街を走った。

 

「紗乃ー!どこだー!?」

 

 大声を張り上げて、必死に叫ぶ光莉。だがいくら読んでも返事はない。

 時折哨戒中だったアカデミアの兵士と鉢合わせ、蹴散らしながら、光莉は夜通し、街の中を走る。

 公園、スタジアム、学校、ビル街。とにかく様々な所を走って走って。

 疲れ果てた光莉が最後についたのは、デュエルコートだった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 息を荒げながらふらつきながら来たそのデュエルコート。

 此処は、光莉が初めて紗乃と出会った場所である。

 

 その日はプロ試験の前日で、柄にもなく緊張していて。だから少しでも気持ちを和らげる為に子ども達と遊び、その延長で普段遊んでいる森林公園のデュエルコートを出て、別のコートに遠征に行ったのだ。

 とはいえ、光莉以上に子ども達が普段見慣れないコートや人を前に緊張し出し、結局光莉はデュエルすることを諦め子ども達のデッキ調整に徹して、自分はデュエルコート脇からデュエルを眺めるに留まっていた。

 

 そんな光莉が来る前から、そのデュエルコートでデュエルを眺めていたのが、紗乃である。

 彼女もデュエルする訳でもなく、ただぼんやりと、どこか諦めた表情でデュエルコートを眺めていて。

 そんな彼女が気になって、光莉は紗乃に話しかけたのだ。

 

「紗乃……」

 

 あの時と同じ場所に座る。あの時は、それからすぐに、プロデュエリストとマネージャーとして再開するとは思ってもみなかった。

 

「……」

 

 それから半年間、2人で頑張ってきた。こんな状況になっても、それは変わってない。

 

「……」

 

 膝を抱え、顔を埋める。半年間の思い出が蘇り、子ども達の前では耐えていた涙がこぼれてきた。

 

「うぅ……っ!」

 

 泣きそうになって、立ち上がる。涙はそのままこぼれたが、その顔に浮かんでいるのは悲壮感ではなく闘志であった。

 

「泣いてる場合じゃない。戦うって決めたばっかだろ」

 

 自分が泣いていたら、子ども達にも心配をかけてしまう。強く強く。笑うことは出来ないかもしれないけれど、それでも自分のデュエルを貫く。貫いて、勝ち続ける。

 そうすれば、アカデミアにだっていつか勝てる。

 

「ぜってぇ許さねぇ!プロフェッサー!」

 

 光莉の本気の怒声を、夜天と星。そして近くのビルの屋上から見下ろす謎の影が聞いていた。




Q.ヒロイン消えましたけど、なにか一言
A.まともに話したの、2話~4話だけですけど、ヒロインって呼べるんですか?
Q.(´・ω・`)
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