会いましょう、カシュガルで   作:タサオカ/tasaoka1

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夏に、春の祭典を始めるような

「なるほど、ソフト・ランディングねぇパクリにしてはよく考えたものだわ」

「まさしく必死でしたからね、そりゃあパクりますよ、ハッハッッハ」

 

俺は、ひらりと触手を揺らめかせて笑った。

世界中の人と話してわかったが、こういうボディランゲージは大事だ。

たとえ触手であろうとも。

あの時の俺は必死でもあり、決死でもあり、投げやりなところも多分にあった。

選択の末に殺されるなら、それもまた運命だと受け入れようと思ってた。

それはそれとして人事を尽くして天命を待つって言葉も好きだったから色々やったのだ。

そして、なにより……。

 

「『彼』は好きでしたから」

「?」

「マブラヴ オルタネイティヴが、ですよ」

 

ある意味で、それはリスペクトの意思表明だ

これから滅茶苦茶にする物語に対してのせめてもの手向けであった。

あのおとぎ話によって俺はこうして生き残ったのであるからして、やってよかったとは思っている。

 

俺は、博士に笑顔だってわかるように外部モニターに:-)マークを出現させた。

人型義体やら、巨人級のスモールダウンバージョンである小人級を出しても良かったが今回は軽脳級を使っている。

人型を操ると常に転んでしまう危険性があった(俺という制御ソフトはすっかりBETA体に最適化されてしまった!)ので多脚タイプの此方の方が出向くのに都合が良かったためだ。

 

「ああ、エロゲーの」

 

そしたら彼女は、俺が脳みそに抱える幾つもの中で特段重い機密を軽く口にした。

俺は慌てるしかない。

 

「ワっ、そこはどうかご内密にお願いします、流石に、何というか、その……全世界の人々を色々な意味で揺すぶりたくないので」

 

思わず早口になってしまった、こんな人に弱みを握られているのは恐ろしいことだ。

だってそりゃ此処がエロゲーの中の世界だとは思わない、この世界の人々はちゃんと生きている。

けれども、あれやこれやの知識の大半がエロゲ由来だと正直に語ってしまったら、なんだかマズいことになりかねない気がしているのだ。

明かすにしたって人類にはまだ早い、もうちょっと人類が先に進んだら開示してもいいかもしれない。

まあ俺の共犯者である彼女には嘘偽りなく全て話してはいるが、とりあえず今は機密なのだ。

 

「わかってるわよ、あ号くん」

「ホントかなァ」

 

からかわれてる気がしないでもないまま、訝しげな声を出した。

声の調整は昔よりも人間らしくなったと思う、昔が棒読みちゃんなら今はずんだもん級だ、もはや懐かしいな、知らないボイスロイドが何体も出てるんだろうな、クソ、ニコニコ動画が見てぇなあ、俺の死後にプレミアム会員登録は解除できただろうか、それで困ってないだろうか両親は……おおっと。

 

「あら、また脱線?」

「どうもこの癖は治りません、人らしく振る舞おうとすればするほど、自分の中で過去の自分が重なって展開されるのです」

「難儀なことね、重脳をちょっと調べさせてくれてもいいのよ?」

「それはちょっと……」

 

NO THANKYOUとけったいな顔をしたアスキーアートをモニターに表示させて、ずずいと後ずさった。

意味は伝わるだろう、賢い人だから。

ここまで来るのに色々なチェックやら何やらは受けているが、人間側にとっても俺にとってもブラックボックスなのだ。

藪蛇ならぬ藪BETAとなったら、人類が少し平和で緩んだ今ならもう目も当てられないジェノサイドが始まってしまうだろう。

ただこの天才科学者ならできなくもないだろうが、ひとまず色々と落ち着いてからのほうがいい。

そもそも冗談だろう、茶目っ気のある人だ。

趣味が怪しげな研究の教師やってたほうが気楽で幸せだったに違いない。

 

「さて、じゃあ続きを話してご覧なさいな」

「あーそれではお聞きください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「香月博士」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルタネイティヴⅥとは、確認、分析、対話、諜報、殲滅に次ぐ講和計画であった。

その基本骨子は初手土下座外交だ、自らの後頭部を刀を構える相手の前に差し出す類の。

今にして思えば相手に最後の決断を委ねてしまうという、大変他責性の高いものだった。

死にてぇという気持ち、何で俺がという気持ち、そしてまだ残っている良心、ありとあらゆる感情をコンクリートミキサーに突っ込んでぶち撒けた計画だった。

責められることになっても仕方がないが、当時はそれがベストだと思っていた。

素人だったから仕方ないと言い訳するのは簡単だったが、置かれた立場には釣り合わないのだからまったく逃げ道がない。

地球の破壊者にして、人類に対して尋常じゃない大量虐殺を行った侵略者の親玉の、その中身であるのだから。

それに伴って手に入れた人類を滅ぼしうる膨大な力。

 

俺は、少しワクワクはしても魅力を感じていなかった。

 

それ故に簡単に手放すことも、切り売りすることも自在だった。

むしろ、それが痛快でもあった。

人の金で食う焼き肉みたいで、BETAとかいうクソ無礼な宇宙人の貯蓄を大放出してしまうからだ。

ほかにも精神的衛生を保つため、俺オリジナルBETAだ!と戦術機級や戦艦級、超重光線級を作っては自分を慰めてはいたが、ブンドドするための玩具のようなものだった。

もっともそれらを計画に転用することを思いついたりしたので無駄ではなかったと言えるが。

それはともかく講和のためには、人類に対してありとあらゆる貢物が必要だと感じていた。

己の首すらもその一つである、沈黙させている間に手札を一枚一枚作っていった。

それぐらいしか出来なかった、並行して人類とのコンタクトを取ろうとも考え、やることに没頭していった。

せめて、くるわないように。

 

計画は進行度合いによって、幾つかのフェーズに分けられる。

 

フェーズ1が、前線BETAの活動の一切を禁ずるもの。

これは簡単だった、まず真っ先に全権を把握してからやったことがこれだった。

そのまま流用したとも言うが、前線で人をぶっ殺しながら講和しましょうねーなんて出来ない。やれない、やりたくない、やる度胸もない。

一部の戦争では講和が成されても現場で領土拡大のために攻勢をしかけるなんてのはあったらしいが、そもそも地球の大地に興味などない。

とりあえず俺が掌握したからには無駄な人死になんかを増やして、余計な業なんかを積みたくない。

他人の人生の分まで頑張らなきゃいけないなんて考えたくもない、助かった命は人類文明の復興に役立ててほしいものだ。

当時の人類側の文献を漁ると大変困惑したことが伝わってくるが、死人が出るよりかは良かったと思う。

 

次のフェーズ2が、人類側とのコンタクト。

これがけっこう大変だった、どうやって話すんだ?って重脳をひねった。

最初に思い浮かんだダイレクト・コンタクト案はこうだ。

母艦級に乗り込み、インド洋を通って、太平洋か大西洋をぶち抜き、ワシントンに直接向かうというもの。

ホワイトハウスで大統領とにこやかに握手、これが地球の独立宣言(インデペンデンス・デイ)だ!というもの。

3秒で思いついて、2秒で破棄した。

そんな事をやれば本編中でカナダに落着したユニットが撃退された様に核の集中投下の二の舞だ。

アメリカという国家自体は恐らくまだ本土攻撃はされてないはずだ。

大戦中に爆弾を投下した日本軍の航空機があったかもしれないが。

あの国家に本土攻撃をしたら最後、蜂の巣にされても文句は言えないだろう。

侵略者に立ち向かうために、彼らは銃社会を作っているのだから。

BETAが海渡って本土侵攻とか直球どストレート殺人宣言にほかならない。

そんな状況で結べる講和なんてどこにもないと言える。

 

いろいろな案が思い浮かんでは消えていった。

そこで困ったなと思って天井を見上げて、俺は思いついたのだ。

そういえばこの世界、宇宙に人がいるなと。

なんたって、この世界は史実の100倍ぐらいは宇宙開発が進んでいた。

50年代に火星まで行けて、60年代には月面に基地作って戦争してる。

BETAのせいで全ておじゃんだが、それでも軌道上には降下艇やら基地やらがあるだろう。

何でこんな簡単なこと思いつかなかったのだろうと呆然としてから、試行錯誤が始まった。

メッセージボードは、このカシュガルの荒野だ。

誰かのせいで平らに均されていて変化があればわかりやすい。

この時、戦術機級、シャベルタイプに改造した要撃級、ブルドーザータイプに改造した突撃級が役に立った。

 

彼らの土木機械としての本来の役割で建築されていく、とある言葉。

俺はアイキャンノットスピークイングリッシュな日本人だが、これは恐らく世界共通言語であろうことは明白だった。

通じなかったらそのときはその時で、別の案もあったが、ここで見せとくのは意思疎通の可能性ってやつだ。

対話の通じない相手が、いきなりその門戸を開く時、何が起こるかわからないが。

これが突破口であってほしいと願いながら、俺はその完成を待った。

その願いが通じたのかわからないけれども。

 

結局それが俺と人類とのファーストコンタクトになった事を、数日後に起きたある出来事で俺は知った。

 

 

 

『 Hello world. 』というBETAが発した初めての言葉は、人類へと無事に届いていたのだった。

 

 

 




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