【完結】会いましょう、カシュガルで 作:タサオカ/@tasaoka1
俺は、現時点までの進行を話し終える。
それを聞いて、何やらニヤつきながら香月博士は口を開いた。
「それでオリジナルハイヴにあるG元素の管理を丸々国連に投げつけたっての?」
俺は自分の超大型掃除機みたいな体(電源コードの様なものを反応炉に繋げてる)の目を、YESの意味合いで光らせた。
このようなありさまだから、これは対話級というべきだろうか。
あ号が精神衛生の為に始めた新種開発は、この点であまりうまくいってなかった。
重頭脳級のダウンサイズはあまり力を入れていなかったのもある。
部屋に収まるだけ、だいぶ進められたとは思うが。
基本的にこういったものは大型単機能化は簡単で、小型高機能になるほど難しい物だ。
BETAも同じである(TEにでてきたアイツを思い出しながら)。
「アンタ、いい性格してるわ」
「お褒めいただき、恐悦至極でございます」
「その減らず口も褒めてあげる」
ゲームでも見たことあるようなデスクに肘を掛ける香月博士との会話は楽しかった。
やけ酒して年越しルートは外れたようで嬉しい。精神状態は悪くなさそうである。
検疫の果てに出会って2日ぐらいは沈黙関連によって生み出された事柄による恨み言を呟かれてはいたが。
「で、これからどうするの?」
「なにも……あ号は問題を解決した後の事を何も考えておらんのです、私、い号も同じく」
「ハァ!?」
そうなのだ。
俺は最初、色々な計画を考えた。
一番お手軽、そのまま電源を切るっていう自殺案。
ハイヴも何もかも投げ出して地中に潜って一人で暮らす完全放棄案。
俺たちによる軍団を作っての太陽系全BETA駆逐案。
BETAによる強制的な地球統一案。
他にも色々。
そんな最後に講和案、今のオルタネイティヴⅥが出来上がった。
だが戦後の事を俺はあまり考えていなかった。
あ号は、現在カシュガルで各国関係者とその他の諸々をまだ話し合っている。
というか、いくら時間があっても足りなかった。
各国の権益、土地配分、既存ハイヴの解体、etc...。
目の前に積み重なったものは全て各国の人びとが意見を出し合い決めなければならない。
その解決にだってえらく時間がかかるだろう、あ号はその問題に忙殺されている。
しかし、それが終わったらどうしようか、ということを考えていなかった。
そもそも今死んでいないのが、あ号には少し不思議だったんだろう。
ダイスで最悪の目が出て、オリジナルハイヴにG弾が落ちたのなら、
それを契機に全世界のハイヴの倒壊だけはやるつもりだった。
あとは人類にお任せだ。
それが何の因果か、ここまでうまくいってしまっている。
だって、『あの』マブラヴ世界の人類なんだぜ?
インデペンデンスデイ、宇宙戦争1941みたいなレベルで一致団結できる人類じゃない。
本編やシュヴァケンだって、あんなことになったのだ。
そんな失礼な偏見は、見事に裏切られた。
現実はそうじゃなかったのだ。
どこの国も俺のメッセージを受けて必死に動いた。
色々な思惑があったのだろう、それでも上手い事、カシュガルには人が集まった。
それは奇跡だ、だったらその奇跡を守るために、あ号は考えたのだろう。
その結果、魂の転写を行い、俺を複製した。
なんでそうなる、と聞いた。
やれそうだったからできた、というのが半分実態だから酷い物だ。
もう半分は、あ号単体では色々と手間がかかりすぎるという事だった。
人間っぽい対話型インターフェイスを持つBETAが居なくて困っていたという。
取りあえず俺は『い号』の名を受け取った。
役職名は地球BETA外交大使とでも言うのだろうか。
国連軍横浜基地へ行って、この世界のキーパーソンである香月夕呼と話をつけてきてほしいとのことだった。
まあこの世界に来たんだし、残骸ではない戦術機も見たい所だしなという気持ちで俺はこれを受けた。
んで、こうして複製された俺だが、幸いなことに狂わなかった。
薄っすらとした嫌悪感はあるがそれだけだ。
あ号はあ号、俺は俺である。
こういったSF作品ではアイデンティティの問題に突き当たるものだが、どうやら俺は平気な方だった。
何かが違うのか? 俺に適性があったのか? わからない。
生体機械の中で動く人間の心理学なんてものは誰も知らんもんだ。
いい空気を吸ってくるべきだと、あ号は俺に伝達していた。
ならばと特別に制作した小型母艦級を借りて、横浜基地の地下に凸ったのであった。
母艦級や大群の移動ならば振動計に引っかかる所だが、ほぼ一人乗りみたいなもんなのでバレなかった。
これを戦術的に運用したらエグいことになるなと思ったのは秘密だ。
しかしこの後も"う号"やら"え号"やらを作るのだろうか。
あ号とは緩くネットワークでつながったままだが、わからん。
SOMAというホラーゲームでは精神の複写体について、コイントスで勝った方、負けた方という表現をしていたのを思い出す、今回の場合は舞台になった滅んだ地球ではなく、滅びかけた地球で複写を行ったのでどちらもコイントスに負けていない方であると定義……ちっ、また脱線だ。
「失礼、思考脱線してました」
「難儀ね」
「しょうがないです、俺らも手探りなんで」
チカチカと手慰みで目を光らせる。
「そういえばなんですけれど、あなたが全部やったことにして押し付けようかなって考えもありました」
うわ!今までで一番すげえ嫌な顔してる。
それもそうか、英雄なんてろくなもんじゃなさそうだし。
白銀らの責任を取った原作ならともかくか……。
「冗談じゃないわ」
「なので、今はやめました」
「賢明ね」
前々から考えていたことを言うべきだろう。
「はっきり言って、私にはなんというか……器がありません」
「……」
「今はうまいこと回ってますが、中身は小市民なのです」
「話せばわかるわ、それにしてはちょっと大胆だと思うけど」
今、横浜基地び地下で厳戒態勢が敷かれてる事を言っているのだろう。
まぁやけっぱちなだけだ、そもそも大した人物じゃないってのは自分でもわかってる。
ただ、い号として、俺自身として一つ、今思いついた。
漫画版の最終巻だったかで、オルタのその後が描かれていたはずだ。
その中に明らかにラザフォードフィールドなどの技術を使った転移ゲートがあった。
それで星々を飛び越えて、直接創造主の所に行こうという所で物語は終わっていた。
あれが速くできれば、根本的な問題が解決できるのではないかと思うのだ。
そう、蛇口の栓を閉めるように。
創造主殴り込み艦隊のためには博士の協力は必須だった。
桜花作戦による疲弊や掃討戦における犠牲がない分、より早い完成というのも無理じゃない気がする。
戦後数十年で内戦をやらかしながら、人類統合体なんてものを作る事ができる。
そして宇宙に上がって、創造主と話をつけに行くぞっていうのが出来る文明なのだ。
あ号や俺は…………きっと人間不信によって目が曇って見えていなかったかもしれない。
この世界の人びとには可能性があるという事に。
「あ号も俺も投げ出すことはしません、だから、これからの技術開発に協力してほしいのです」
「それで、私にメリットは?」
「貴方の権限の大幅な拡大を約束します、おまけで、私い号が貴方専属の助手№2になります」
「あ号はそれで了承してるの?」
「俺にこの役目を投げたのは奴です、殴ってだってもぎ取ります」
「そ…………わかったわ」
自分の目が光った気がした。
「その提案、受けてあげる」
「感謝します!」
「でも後であ号に会わせなさい、それが筋よ」
「イエス・マム!!」
大きく返事をして、俺は対話級の多目的アームを伸ばす。
意味をくみ取ったのか博士は手を伸ばし、それをつかみ取ってくれた。
握手は、そうして交わされる。
人類BETA間の講和を目的としたカシュガル条約締結、その1か月前の事だった。
明日もできれば更新