【完結】会いましょう、カシュガルで 作:タサオカ/@tasaoka1
『天命を尽くし人事を待つ、逆にしても今の僕にはピッタリだろうか』
そう考えてみると、思ったより重苦しい気持ちになった。
くだらない事を努めて考えようとする。
今の状況をラノベタイトルにでもするならとか。
例として、エイリアンの親玉に転生してしまった件とかになるんだろうか。
タイトルの時点で買わなくて済むから時短になるな。
あるいは朝起きたら女の子になってたことを世間一般では『あさおん』というらしいが、
この場合だと『あさBETA』とか、こっちはこっちで語呂が悪すぎるだろ。
事態はそんなに軽い物ではなかったが、そうという他ない状況ではあったけれども。
そのぐらいくだらない事でも考えなければ、肺もないのにため息が出そうだった。
起きたらマブラヴ世界のBETA、それもカシュガルハイヴのあ号標的となっていたのだから。
カフカの『変身』よりも、ずっと酷い有様である。
カシュガルの地下で色々考え抜いた末に、狂わなかった僕は一つの結論に至った。
これが天の使命というのなら、僕はこの生を全うしたいと。
人類が生きるか死ぬかは、人類自身で全て決めてもらおうじゃないか。
そして、そのための露払いはこちらで行おうと。
『30秒前』
補助頭脳級が、時間を知らせる。
"戦力"の拡充とオリジナルハイヴが最も月に近くなる時を、僕は待っていた。
人類は現状、沿岸部にある反応炉をぶっこ抜きしたハイヴ跡地に接触してるぐらいだった。
それ以外の軍事的な動きは認められない。
蜂の巣をつついているような気分だろうなと思う。
侵入した彼らはもぬけの殻となったハイヴで、不要になったBETAの死骸を見るだけだろう。
幾つかのハイヴの反応炉は今後の人類のために置いてきた、仲良く分けてほしいところだが望み薄だな。
ともかく各ウォッチポイントにある観測級は異常な兆候を捉えてはいない。
宇宙空間に待機している衛星や軌道艦隊に動きがないことも確認済みだった。
射出するとなった時、巻き込んだのなら完全な事故であるし気分もよくないだろうからな。
つまり、この祝砲を打ち上げるにはピッタリの時であった。
『10秒前』
『Carry onが聞きたい気分だ』
遠藤さんの歌声がどこからか聞こえてくるようだった。
むろん、敬礼し見送ってくれる人などは居ない。
見ているのは天の星々と人工衛星ぐらいだろう。
一応不安になっているのだろうか。
いつもより独り言が多い気がする。
せめて元の世界にいるだろう父さんや母さん、飼い犬のボンに見られても恥ずかしくない振る舞いをしよう。
それが自己規定……最低限の決まり事だった。
『5』
弾殻に覆われた向こう側には、空が広がっているはずだった。
それを僕の体の中にあるセンサーは感じ取っている。
赤外線だって出せるが、今の僕に空を感じる器官はなかった。
だがそれでも澄み切っていることを俺は知っている、覚えている。
作戦が終わったら、この世界の空が二度と重金属雲で覆われないことを祈っている。
それにしてもG元素には無数の使い道がある、革命を起こすようなとんでもない物が。
それと比べたらこの射出は、使い方はいささか捻りがない物だったけれども。
いやそれでいい。枯れた技術の水平思考だったかな。
この計画ができるんじゃないか?って思えた時は、自分の事を天才かと思ったぜ。
ド派手なもんを、この世界の人類に見せてやろうじゃないか。
そして起こりうる、あれやこれやを無かったことにしよう。
『0』
衝撃を感知。
三半規管がないため重力を感じない。異常動作、破損はない。
あ号は、そもそも宇宙からここへ落着するもんだから頑丈だ。
武御雷だってぶん殴ってみせらあってスペックだしね。
カウント通りにオリジナルハイヴの射出抗を、僕はぐんぐんと登っていく。
打ち上げられる資源もこんな感じなんだろうな。
だが資源なんぞよりも物騒な物に、僕は成っていた。
約3000体の戦術機級、及び艦載光線級と反応炉を載せた対月BETA破壊展開ユニット。
それが、今の僕だ。
地球の他ハイヴから引っ張ってきた頭脳級を載せたユニットが19基、後に続く。
ひとまずは地球BETA資源を用いて月面BETAを駆逐し、太陽系BETA一掃計画の橋頭保とする。
手当たり次第にBETAを駆逐しながら、創造主を探し、
顔面があるかわからないが、その顔を一発ぶん殴ってやると決めた。
その計画の第一歩だが、課題はたくさんあった。
しょっぱなから月の一番大きなハイヴへの強襲を行う事。
地球上のBETAにやったように僕の命令が聞けるなら、そのまま機能を停止させる事を考えていた。
それが出来なかったら、排除に切り替わる。
そこからは月面BETA群、『敵』に対処を教え込まないためのRTAだ。
どれぐらいできるかはわからない、だが様々な攻撃方法を考えてはいる。
中国でBETAが航空戦力に対応した例を考え、それよりもずっと早く駆逐する方法を。
始めるからには、やり遂げてみせよう。
これが僕のオルタネイティヴⅥだ。
「月は地獄だ、とはかの月面戦争でのキャンベル大将の言葉だがね」
「あの時の事を我々が見ていた物を表現するのなら、月が燃えていた、になるだろうよ」
「そうだ、我々はただそれを見ているしかなかったんだ」
人類にとってのBETA大戦とは唐突に始まったものではあるが。
終わるのもまた唐突だった、と後世の歴史書に記されることになる。
最後の年、大戦終結が人類によって宣言される1か月前。
その頃には地球上に存在した全てのBETAおよびハイヴの全面的な活動の停止が行われていた。
沿岸州に存在したハイヴの活動停止を訝しんだ各国軍が威力偵察を行った末に、
どうやらそうなっていると突き止めた、その矢先の話である。
カシュガルに鎮座するオリジナルハイヴより、次々と射出される物体が監視衛星により発見された。
形状質量共に今までのどの物とタイプが違う1発目は、月面に向け射出された。
続けざまに射出が行われ、合計20発のユニットが月へと打ち出されていた。
このせいで、かねてより月面を観測していた落着ユニット観測ステーションでは
以来、増設がされるまで、職員に休憩時間というものが与えられなくなった
1発目は月面、人類に因縁深きサクロボスコクレーター近く、神酒の海方面に落着。
続けざまに5発が、その周囲を囲むように落着した。
残りの15発は月の周回軌道で、衛星となり、その姿を変形させたのだった。
月面落着ユニットをA群、衛星となったものをB群と分類し、人類は観測を開始。
初期は人類側の混乱もあり、データは少ない。
だが最初の12時間ほどは、A群・B群共に動きはなかったとされる。
問題は、それ以降だった。
そこから展開されるのは、一説には虐殺とも呼べるような光景であった。
A群より出現した数千体の個体名不明(現在では巨人級と呼称)の人型BETAによって、
月面に存在した原種光線級を含む月BETA群に対する徹底的な破壊が行われた。
A群・B群は共に、既存のBETAは同士討ちをしないというルールを覆したのである。
またA群落着ユニットより放たれたレーザーの極大出力照射は地球上で観測できるほどの光を放ち、
月面より露出していたハイヴの上部構造物を次々と破壊していった。
だが殆どの戦闘は地下で繰り広げられたと、後世の学術調査で判明している。
A群の落着ユニットからは圧縮した
月の軌道を掌握したB群からは、それが月面へ向け高速で射出され、また多くの月面BETAを駆逐する。
その繰り返しにより僅か2週間ほどで、この月面の戦闘は終結した。
A群・B群は静けさを取り戻したように見えた。
が、彼らは1基だけ残していた月面のハイヴより、A群を火星方面へと打ち出したのである。
B群もその動きに同調し、火星方面へと向かったことが観測された。
地球BETA群はそれ以降も太陽系でBETAの駆逐を続けた後、人類の観測範囲外へと進出していくことになる。
当時の人類にとっては、この地球BETA群の暴走とも言える行為は恐怖を抱かせるには十分だった。
地球を投げ出し、何を思ったのか突然月面の同胞へと攻勢に出たのである。
これらが自らに向かってきたとき、今度こそ人類種の絶滅は行われると、彼らは本気で信じたのだった。
地球上に残された反応炉を利用し、文明を次の段階へと進めた人類では恐慌的な統合が進められた。
無論、流血がなかったとは言わない。
だが2030年ごろには、創造主と地球BETAを探すべく探査艦隊を編成することになるのだった。
再びの邂逅に何が起こるのかを、あ号も彼らも知らない。
未来は宇宙の奥で、未だ眠り続けている。
軍団を作っての太陽系全BETA駆逐案。
知性化BETAの脅威を目の当たりにした人類の統合は早まるも、
無数の流血や争い、テロがあった。
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