HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード66

「ヴァーリ。いや、お前達には駒王学園に通ってもらうことにした」

 

とある京都の某所の建物。アザゼルがついてこいと言うものだから美猴たちと一緒に来て観光している。

鍋料理が有名な店で食事をしながら恩人でありながら恩師でもある唐突にそんな事を言い出す堕天使の話を怪訝に返事した。

 

「・・・・・アザゼル。私は対テロ組織混合チームに入ることは承諾した」

 

「そうだな。お前の力は必要だからな」

 

「白龍皇の力を貸すことは異論ないが・・・・・。―――どうして私達を駒王学園に通わせるつもりなのだ」

 

一誠が通っていた学園に何故か通わせるアザゼル。私を一誠がいたクラスに配属させるらしいアザゼルに疑問が浮かぶ。

 

「イッセーの奴が今では表に出にくい状況になってしまっている。だからイッセーの代わりにヴァーリ、お前がアイツの分まで学校生活を送って臨機応変と過ごしてくれや」

 

「私は一誠のように万能に近い能力は持っていないぞ?」

 

「赤龍帝の抑止力にもなる。それにお前も戦うことばかりじゃなく他の者達と接する大切さも感じろ。あの学校にゃ、今じゃ一勢力になりかねないほど強者が数多くいる。退屈な思いはしないはずだ」

 

力のある者を一ヶ所に集めようと魂胆なのか、出来うる限りの対処や対応をできるようにとアザゼルの意図を汲み取れる。私が学校か・・・・・。考えたことがなかったな。しかし、懸念がある。

 

「美猴や銀華は勉学など無理だと思うが。歳もそうだし」

 

「問題ない。学園の警備員にでもしてやるさ。周囲の気を察知できる仙術は便利だしな」

 

「ならいいか」

 

オイッ、と隣から突っ込みの言葉が二つ飛んできたが気のせいだろう。アザゼルは私達に指を突き付けながら口を開く。

 

「アーサーは3年、ヴァーリは2年、ルフェイは1年と配属する予定だが何か要望でもあるか?」

 

「要望、ですか・・・・・。では、私達の住む場所を知りたいのですが」

 

「一誠の家でいいだろう。あの家の両隣りには魔王と神王の家が在って聖剣使いの娘どもが住んでいるし、お前らにとっても最高の環境になるはずだ」

 

アーサーは興味深そうに顎を手で触れて異論なさそうに微笑んだ。私も住む場所には大賛成だ。彼が住んでいる家とあらば、一誠が戻って来た時からずっと一緒に暮らせるようになる。また、昔のように添い寝ができると思うと嬉しくなるよ。

 

「ルフェイ、お前はどうだ?」

 

「えっと、私はお兄さまが一緒なら大丈夫ですよ?それに学園を通うなんて楽しみです」

 

「俺っちが警備員ってなんでだよ」

 

「そうにゃー。私は自由気ままに過ごしたいのにぃ」

 

アザゼルの提案に不満を口にする妖怪たち。

 

「二人の性格を考慮すれば妥当じゃないか」

 

「ああ、どっちもお気楽でとても勉強できるような感じはまったくしない。特に美猴、お前さんは闘戦勝仏の力を受け継いだ猿だ。頭よりも身体を動かしたがるタイプだろう。警備員となれば金も貰えるんだ。それをありがたく感じながら働け」

 

納得できないと、二人は口を尖らしてぶつくさに文句を言いながら、横に通り過ぎる店員を呼び止め。

 

「「この店で一番高い鍋料理を」」

 

一番高い料理・・・・・メニュー表で探せば・・・・・ふんだんに高級食材を使った鍋料理の値段が軽く万を超えていた。アザゼルは若干顔を青ざめ出して制止の声を必死に掛けた。

 

「おい待てっ!?学園の経費で払ってるんだぞ!それ以上高いもんを注文するな!」

 

世知辛い・・・・・。とても堕天使の総督とは思えない発言だ。

 

「ヴァーリさま。楽しみですね」

 

「ルフェイも友人を増やせるいい機会だな」

 

「はいっ!」

 

新たな環境の中で過ごし、私は強くなれるだろうか?色んな神話体系の神々の下で修業をしていた一誠のように。

 

 

 

そんな一誠はと言うと―――。

 

「ふぉっふぉっふぉ。久しいのぉ、孫よ」

 

「久し振り、オー爺ちゃん」

 

北欧の主神、オーディンと再会を果たしていた。本当にたった一人の少年の為にはるばる遠くから神がやってくる光景を監視している悪魔に驚かすのだった。

 

「孫よ。見ない間に悪い孫になってしまったのぉ。復讐の為に家族から離れるとは」

 

「結局、復讐を成就することはできなかったけどな。それに英雄派の誕生は俺にも関わっているからどちらにしろこうなっていたかも」

 

「まったく・・・・・今の世界は孫のことで盛り上がっておるぞぃ」

 

「100年以上は語り継がれそうだな。テロリストの存在は世界中に知れ渡っているし」

 

罵声どころか叱ることすらしないオー爺ちゃん。流石に呆れはしているだろうけど俺の大好きなお爺ちゃんは長い白いヒゲを擦りながら話しかけてくる。

 

「人間界に戻るつもりは無いのかの?」

 

「騒がれるよ。俺が外に出たら」

 

「ならば変身魔法でもして姿を変えればよい。そうすれば孫のことを気付く者はおらんじゃろう。というか、儂は孫と散歩をしたいんじゃ」

 

本音を漏らすオー爺ちゃんに困った顔をしてしまう。そうまでして人間界に帰りたいとは思えない。俺の居場所はもう人間界にはないんだから。自ら望んであのヒトに復讐をすると誓って英雄派になったんだ。結局、味方に殺され掛けられたし、リーラにも阻まれてしまったけどな。

 

「それは・・・・・」

 

「できんと?なら、表に出られる環境が整えば孫は人間界に戻ってくれるのじゃな?」

 

環境を整えるって・・・・・一体どうやってだ?人類全てに催眠、洗脳でもするのか?怪訝な気持ちでいる俺をオー爺ちゃんは傍にいた見たことのない女性から何やら厚い紙の束を俺に見せるようにしてきた。

 

「オー爺ちゃん。それは何?」

 

「ふぉっふぉっふぉ・・・・・・これはの孫よ?ある応募を募った神々の署名が記された書類じゃ」

 

神々って、俺が世界旅行と称した修行の際に出会ってきた色んな神さまの?どうしてそれがオー爺ちゃんの手元にあるのか不思議で、何の応募なのかも気になる。ましてやこのタイミングで持ちだすなんてオー爺ちゃんの考える事は理解できないや。

 

「これはの孫よ。お主を養子として引き取りたいという応募なのじゃ。軽く百は超えておる」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

女神や男神たちが俺を養子に引き取りたい・・・・・?どうしてそんなことに、悪魔のヒトに何となく振り向いてみると

 

「・・・・・(硬)」

 

大きく開いた口が塞がらず、目を大きく見開いたまま硬直していた。とんでもない話に立ち会っている不相応な自分に驚倒の勢いを飛び越えて意識を半ば停止している様子だった。

 

「世界は儂ら神々の存在を認知しておる。ならば、それを逆手に利用して孫をしようとこの北欧の主神自ら他の神話体系の神々に触れまわって見れば賛同や同意、同感してくれたのじゃよ。その結果、孫を養子にしてみたいという神々が色んなところから応募をしてきたのじゃ」

 

「・・・・・(硬)」

 

オー爺ちゃん・・・・・お父さんとお母さん並みに行動力が凄過ぎるよ・・・・・。

 

「孫よ。お主は世界に疎まれようと、儂ら神々は孫の事を知っておる。優しく誰からも愛され、必死に目標へ困難に立ち向かい乗り越える力を持っておる今まで人間を見守って来た神々が見たことのない孫を」

 

にっこりと朗らかに笑むオー爺ちゃんに視線を無言で送り続ける。それは昔の事だよ。今じゃ、俺は世界にとってテロリストの主犯と言われているほど最悪の存在なのに。

 

「中には孫に救われたと神もおる。―――儂らは孫が大好きなのじゃ。じゃから、孫は神の気持ちを向き合い、応えてほしい。それだけで十分納得できる」

 

「・・・・・」

 

「さて、儂は他にも会わねばならぬ者がおるのでな。寂しいがまた顔を見に来る」

 

腰を上げて、女性と付き沿いながら俺の目の前からいなくなろうとするオー爺ちゃんを見送る。昔から接してきても変わらない姿にまだまだこれからも元気に生きていそうな感じがする。

 

「―――それとじゃ」

 

見送る俺に振り返って言葉を付け加えた。

 

「儂ら神々が孫を好きなように、孫が好きな者は孫のすぐ傍におる。その者たちの気持ちも応えることも勇者じゃぞ?」

 

「・・・・・オー爺ちゃん」

 

「他にもう一つ、ロスヴァイセとセルベリアを放っておくと後々面倒になるから気を付けるんじゃぞい」

 

それだけ言い残しては、笑みを浮かべたままいなくなってしまった。―――勇者、か・・・・・。

 

「皆の気持ち・・・・・」

 

その時になって、俺は久し振りに皆の顔をみたくなってしまいそうになった。きっと、顔を見せれば怒るだろうな・・・・・ハハハ。

 

 

しかし―――俺はこの瞬間でも気付きもしなかった。世界が騒動する事件が起こり、身に覚えのない衝撃的な事実を俺自身もリーラ自身も知ることになろうとは。

 

 

―――○●○―――

 

 

某所の国。十数人のトレジャーハンターがいた。岩石だらけの場を歩いて目的の場まで進んでいた。

 

「ミススターカザマ。急ニコンナトコロニ来タイトハドウシタンダイ」

 

「すまないな!だが、俺の冒険者たる血が騒いでしょうがないんだ。何かとてつもない発見が見つかりそうなんだ」

 

活き活きと力のある笑みを浮かべる中年男性は未開の地を求め世界中飛び回っている冒険者。冒険者の世界で彼は名が知れ渡っているプロのトレジャーハンターで、同行したい同業者は数多くいる故に、愛好家や企業、会社までもが存在している。彼が旅先で見つけた新種の動植物のネットでの公開、途中で寄った紛争地での介護や援助など幅広い行動力はどこかの二人の男女とそっくりだった。彼の行く旅先は良くも悪くも、待ち受けている。

 

「フゥ・・・・・ヨリニヨッテ、ココニキタイトハネ」

 

同行者の冒険者は到着と同時に苦笑いを浮かべた。その場所は曰くつきがある建物が沈黙を保っていた。何かしらの理由で建設された建造物をこの土地に住む住民ならば誰でもが口を開けて言う。

 

―――神への葬送。

 

鳥葬ないし風葬がされている塔。そんな場所に中年男性は行きたいと同業者に言いだしてここまで来たのだ。

しかし、新しい発見とはいえ、既に調べられ今では放置も当然の太古の建造物。これ以上の詮索は意味がないと同行してきた冒険者は悟るのだが、中年の冒険者は冒険者の血が騒ぐ。

 

「失礼しまーす!」

 

入口に入る中年男性。半々に別れて中年男性に続く同業者達。上へ上がれる階段以外石で建設された塔は、以前来た時と何の変哲もないままだった。よーし、見つけるぞー!とはしゃぐ中年男性の気が済むまで待つことしばらく。

 

「うーん・・・・・」

 

思った以上の成果、新たな発見は見つからず、悪い方に終わってしまった中年男性は石板の上に寝転がって唸っていると。

 

「ミスターカザマ、ココハ昔ノ宗教ガ利用シテイタ建造物ダカラ、君ノ期待ヲ応エル発見ハナイヨ」

 

「むーん、残念。今日は当たりだと思ったんだが・・・・・」

 

同業者の冒険者の指摘で口からも出す今回の冒険の収穫がなかったことに嘆息する中年男性。仕方ない、撤収して違う国へ旅に行こうかと起き上がった時であった。

 

―――太陽が月と、月と太陽が重なろうとしていた。

 

日食。今日はその日だったと思い出して中年男性は考えを改めた。

 

「そうだそうだ。息子に写真を送らないとな。悪いが写真を撮ってくれるか?」

 

「勿論ダ。シカシ、アノ息子は君ト性格ト行動力ガ一緒ダッタネ。マタトモニ冒険ヲシタイ」

 

「言ったらすぐに飛んでくるぞ」

 

鞄を置き、入れてあるカメラをごそごそと探している際に、光る粉が詰まった瓶がキンッと零れ落ちてしまった。

 

「ミスターカザマ、魔法ノ粉ガ落チタゾ?」

 

「おっといけない。これは高かったんだ。来る途中、綺麗な女の人から勧められてつい買ってしまったけどね」

 

「人間デモ扱エル簡易魔法、トテモ便利ダガ、少々値ガ張ル代物ガ多イカラナ」

 

魔法の瓶に手を伸ばす。しかし、落ちた箇所に罅が入って、小さな穴が空いていてサラサラと粉が零れ落ちる。

 

太陽と月が重なった次の瞬間。粉に籠っていた魔力が石板一面に意志を持っているかのように広がり、一人で陣を描き始めた。

 

「ナ、ナンダコレハ・・・・・っ」

 

「嫌な予感しかしないぞ。ここから一刻も早く離れよう!」

 

二人は急いで離れ、他の冒険者と合流しつつ塔から駆け足で遠ざかる他所に、心臓の鼓動のように打つ魔方陣は輝く光を強め、増し―――一条の光が天を衝く。

 

そして、塔を中心に地面が揺れだし、次第にそれは鳴動へと変わり地震のように激しく縦に揺れながら隆起―――。

大量の土煙、土砂崩れ、盛り上がる大地、崩壊する塔。それ等が一挙に生じやがて・・・・・巨大な物体が顔を出した。中年男性達もそれを確認できた。

 

「何だあれはっ!?」

 

 

 

「―――――不味い事態が起きてしまった」

 

「誰かがアレの封印を解放しましたね」

 

「長年人間を見守り続けた我々でもこればかりは予想ができないな」

 

「しかし、アレの封印を解いた者は一体・・・・・」

 

「いや、やはり封印式の解除の方法は単純すぎたのではないか?」

 

「単純でも、我々以外封印の解く方法は知らないはず。これは・・・・・奇跡と偶然の刹那としかいえないでしょう。ですが・・・・・少々人間界で賑やかになるのは時間の問題のはず」

 

七人の男女が語り合う。

 

「アレは生きている。かつての主を求め彷徨い続けるだろう」

 

「封印が解かれた以上、破壊しますか」

 

「だが、我々が安易に人間界へ行くことは・・・・・」

 

「それ以前に、かつての主はもう死んでいます。人間界に彷徨い続ければいずれ、他神話体系の神々達の手に渡ってしまうのでは?」

 

「仮に渡ったところで、我々には少しも痛手はない。ただ、遺憾であるな」

 

「そうですね・・・・・。では、我々の中で一人か二人、アレを直接監視し、他神話体系の神々が接触した場合、静観して貰うよう申し上げることにしませんか?」

 

「・・・・・そう言うことなら、私が買って出ましょう」

 

一人の女が立ち上がり、腰に佩いている剣の柄を触れた。

 

「スプンタ様―――。よろしいでしょうか?」

 

「ああ、構わない。だが、くれぐれも他の神々には失礼の無いように」

 

「はっ・・・・・ですが、もしも悪魔や魔王といった者達で有れば?」

 

「理由次第で―――アレ諸共破壊を許す」

 

男の承諾により女は口の端を吊り上げた。理由は、女の顔を輝かす表情を見れば一目瞭然だろう。

 

「「「「「(・・・・・ヤりすぎないように)」」」」」

 

 

 

「・・・・・なんじゃこりゃ?」

 

朝の新聞を読む俺ことアザゼルは奇妙な記事に眉根を訝しげに上げた。某国で謎の巨大な浮遊物体だぁ?

リゼヴィムの仕業かと真っ先に考えたが、量産型邪龍に関する情報は記されていない。ただ、彷徨うに空を漂いだけのようで人間に危害を加えるような騒動は起こしてないのか。

 

「出現した場所が気になるな・・・・・あそこは厄介な神話体系の連中がいたはずだが、泳がせているのか?」

 

この新聞に載ってるぐらいなら他の連中も知ったはずだ。リゼヴィムとは無関係とは断言できないが・・・・・奴がこれに興味を持って現れるかもしれない。

 

「警戒しておいても越したことじゃない、か」

 

善神群・・・・・アジ・ダハーカが関わっていたなそういや。イッセーのところにもこの情報が届いたか?

 

 

 

一誠のいない、隣が近所の魔王と神王の家に挟まれた家でも某国に出現した巨大浮遊物体の情報が届いていた。

テレビでも新聞でも、リーラ達の目や耳に入り、不思議と疑問を浮かばせる。

 

「・・・・・」

 

ただ一人除いて。

 

「これは・・・・・」

 

「どうかしましたか?」

 

お茶の間に放送されている件のニュースを食い入るように琥珀の双眸をテレビから逸らさず、真剣な眼差しを送っているリーラへ、ロスヴァイセが問う。しばし無言を貫きニュースを見ていたリーラは

 

「・・・・・すみません。今日一日私的で留守にさせて貰います」

 

皆にそう向けて言い放った。今日一日リーラの不在は、付き合いの長い面々は「えっ?」ととても珍しいことだった。私的な行動は滅多にせず、公的な行動を主に積極的でいたリーラ・シャルンホルストという女性は昔からリーラと一誠とともに過ごしてきた面々からすれば、興味を抱くのに十分過ぎた。

 

「リーラ、どうしたのよ?今日だって学校よ?」

 

「すみません。どうしても外せない用事が今できました」

 

「用事って・・・・・」

 

当惑する家族を振り切るリーラはその一日、帰ってくることはなかった。

 

 

 

そして冥界。辺境にある収監施設。浮遊物体の情報はアザゼルの思っていた通りに一誠は差しいれられた新聞を読んで世間の情報を確認していた。

 

「ふーん・・・・・浮遊物体というより、移動要塞って感じだな」

 

新聞を広げ、情報収集をしている俺は面会中で同意を求めているかのような気のない言葉を発した。

相手は・・・・・。

 

「人間界は我々の知らないことが多いですからね」

 

熾天使(セラフ)』の長、ミカエルだった。天界の重役を務める者がわざわざ冥界までやってきてくれたことに心中驚くものの、感謝の念を抱く思いだ。

 

「ここの暮らしはどうですか?」

 

「意外と普通だ。主にこうやって面会しに来てくれるヒトがたくさんいるから退屈な思いはしてないよ」

 

「そうですか。それはなによりです。もしよかったら天界に来るよう誘うことを主から言われておりますが」

 

「ははは、天界に行ったら幸せになっちゃいそうだよ」

 

朗らかに笑い、やんわりと遠慮する展開に行けば優遇され兼ねないと籠めて拒んだ。

 

「ところで、この浮遊物体は結局のところ何なんだ?」

 

「・・・・・わかりません。人間界に突如現れたようでして、太古の神が創造した物であることは察しが付きます」

 

「太古の神か。でも、放っておくわけにはいないんだろう?人間界はこれで注目して騒いでいるんだから」

 

「ええ、我々はこの浮遊物体、いえ、移動要塞が出現した国の神話体系の神に話を窺うつもりです。ですが、その前に彼の国の神話体系と関わりある―――ドラゴンに話を求めに面会を利用して情報を求めにやって来たのです」

 

ミカエルは優しげな瞳に真剣さが孕み、俺というより俺の中にいるドラゴンに問おうとしている。

 

「邪龍、アジ・ダハーカ。知っているはずです。善神群に牙を剥いた貴方ならば」

 

善神群・・・・・?聞いたことのない単語と手の甲に浮かぶ黒い宝玉に意識を向ける。

 

「どうなんだ?アジ・ダハーカ」

 

俺からも問えば、何故か最初に不敵な笑みが聞こえてくる。

 

『ククク・・・・・。そうか、奴等の手によって封印されていたアレが解かれたのか。――――フッフッフッフッ』

 

「・・・・・奴等とは善神群のことですね?」

 

『ああ、そうだとも。大天使のお前なら知っているはずだ。善神群と相対していたもう一つの勢力を。アレはもう一つの勢力の住処であり、要塞であり、拠点でもあった』

 

敵対していた勢力の・・・・・動く拠点って、なんだそれは?

 

「悪神群・・・・・」

 

ポツリとミカエルは善神群と敵対していた勢力らしき名前を洩らす。

 

『その通りだ天使長。あれは悪神群の所有物だった移動要塞―――星黎殿。善神群からすれば魔の巣窟、パンデモニウムとも呼ばれていた移動要塞よ。あの星黎殿は意志を持ち生きている。だから、悪神群―――亡き主を探し求め、人間界を彷徨っているに違いない!クハハハハハッ!』

 

ここにきて、アジ・ダハーカさんは凄く興奮している。

 

『だが、星黎殿に侵入するなら気を付けるがいい。悪神群以外の者の侵入を許さず、眷族ですらも無い限り侵入した者に災いや絶望と恐怖が与えられる。外部から攻撃でも然りだ。あの移動要塞は悪神群の宝具でもあるからなぁ』

 

「では、善神群が動きを見せないのは?」

 

『既に動いているはずだ。星黎殿を封印したのは善神群なのだからな。ただ彷徨うだけの浮遊物体ならば放っておいても人間どもには何の害も与えない。ただし、アレを欲する輩がいれば―――善神群は同じ神話の存在として破壊をするだろう』

 

―――いや、もう一人動いているかもしれない。と付け加えた。

 

『兵藤一誠。今すぐ人間界に舞い戻り、星黎殿に向かえ。手遅れになるぞ』

 

「はっ?」

 

『お前の愛する者は星黎殿の存在を知ったはずだ。であればもう彼の移動要塞に向かっている。星黎殿の周囲に善神群の誰かがいる。手遅れになれば―――また愛おしい女を失うことになる。それでもいいか?』

 

愛おしい女・・・・・。また手遅れ・・・・・・。アジ・ダハーカ、お前・・・・・なにを言って・・・・・っ!?

 

―――○●○―――

 

「・・・・・どうして貴女まで」

 

「お前を一人にすれば、お前の身に何か起きれば兵藤一誠が何を仕出かすか分かったものではない」

 

「イッセー、また悲しむ」

 

「オーフィス様・・・・・」

 

最強の邪龍と最強のドラゴンの付き沿いはリーラにとって複雑だった。一人で解決したいが為に今一番頼りになる当の二人の協力を求めなかった。

 

「・・・・・これは、私個人の問題です」

 

「なら、私達は勝手についていくだけだな。あの浮遊の建造物がお前と何らかの関係があるのか知らないが、興味がある」

 

「我、リーラを守る。イッセーがまた悲しませないために」

 

何度も超長距離転移魔法で移動し、浮遊する巨大な移動要塞が通り過ぎる国と場所を予測し―――ようやく辿り着いた。

 

「インド・・・・・。できれば海の上に浮遊してもらいたかったのですが」

 

「人間の安全面を考慮してか?」

 

「いえ・・・・・かつての仲間がここにいるのです。今では立場上安易に動けないですが」

 

山の上を通過している巨大な浮遊要塞を遠くから眺めながら、遠い目で懐かしむ心情のリーラ。

 

「念の為に気を付けてください。敵がすぐ近くにいるかもしれません」

 

「あの、巨大な物を欲する輩か?」

 

「・・・・・いえ、その逆です。あれを監視、破壊を目論んでいる者のことです」

 

監視・・・・・?破壊なら話は分からなくないが、監視をする目的が理解できないクロウ・クルワッハ。

 

不意に、オーフィスが視線を明後日の方へ向けた。

 

「来る」

 

「「っ」」

 

その直後。三人の真上、上空の空間が大きく歪み、大きな渦がポッカリと開いた穴を作ると、暗闇の向こうから数えるのが億劫しいほどの黒い影が飛び出してきた。その影の正体は目を凝らして凝視すれば、

 

「邪龍・・・・・。―――まさか」

 

黒い影、邪龍の群れは真っ直ぐ移動をし続ける巨大な物体へ向かって行く。何の目的なのか判断できないが、

浮遊し続ける物体に動きが見えた。

 

「―――伏せてくださいっ!」

 

「なに?」

 

「ん?」

 

リーラが二人を押し倒し、木々の中に身を隠しひれ伏した次の瞬間、赤い槍が空を、大気を、空気を、山を何度も貫き、直撃し邪龍の群れごと一拍遅れた凄まじい衝撃波と大爆発による音が周囲へ轟かせる。三人がいる山の木々すら薙ぎ倒され、山としての原型が崩れる。オーフィスの防壁がなければ巻き込まれどこまでも吹き飛ばされていただろう。

 

やがて、状況が治まりクロウ・クルワッハは周囲を見渡した。金と黒いオッドアイは次第に驚きの色を浮かべる。目の当たりにする虚空に。

 

「・・・・・なんだ、この凄まじい威力は。ニ天龍の比ではないぞ」

 

「まだ、これは序の口です。本来の力の一割も発揮していません」

 

呻くように辺りの惨状を冷静に見据え、起きてしまった現実に深い悔いの念を抱いたリーラは、苛立ちを覚える笑い声がする方へ顔を向けた。

 

「・・・・・お久しぶりですね。リゼヴィム様」

 

己を殺し、一誠の精神を追い詰めた悪魔に向かって、今現れて欲しくないベスト3に入る者へ話しかけた。

宙に浮く初老の男性、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーは狂喜と歓喜の笑みを浮かべたまま答えた。

 

「うひゃひゃひゃひゃっ!今の見たか?ずんげー威力!なんだあれ、何だよあれは!?どっかの神様が創った古代兵器ってやつぅー!?見ろよ、この惨劇!山々の殆どが消滅しているぜ!超超超ほっしぃーんだけども!」

 

「・・・・・あれは貴方のような者が扱える代物ではありません。死にたくなければ早々に立ち去ってください」

 

「のんのん、何を言っているのさぁー坊ちゃんのメイドさん。あれは是が非でも、異世界侵略する俺に最も必要なもんじゃんかっ!神の古代兵器、う~んっ!たまんねぇー!ということで、あれは貰っちゃうねー?」

 

悪戯っ子の笑みを浮かべ出すリゼヴィムの周囲に二つの黒い魔方陣が出現する。禍々しいオーラを放ちながら黒い光が一瞬の閃光を放った時、

 

『これはこれは・・・・・お久しぶりですねぇ』

 

樹木の幹が重なり続け、ドラゴンのような形状に成った樹のドラゴンが窪みにある赤い丸い物が笑みを浮かべるように細くなる。そして、もう一つの魔方陣からは―――ゾフィリス。

 

『そちらの人間の女性とはお初ですね?私は結界と防壁を主に得意とします「宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)」ラードゥンと申します。以後お見知りおきを』

 

「ほう、懐かしい邪龍が現れたなオーフィス?」

 

「ん、久しい」

 

リーラに自己紹介した樹木のドラゴンの登場はクロウ・クルワッハとオーフィスを懐かしませる。

ラードゥンは赤い目をクロウ・クルワッハとオーフィスに向け、言葉を投げた。

 

『あなたがたの話は窺っておりますよ。他にもアジ・ダハーカやネメシスもいらっしゃるようですね』

 

「私達ドラゴンを魅了してくれる愉快なドラゴンがいるんでね。あいつと共にすれば強敵が現れてくれる」

 

『グレートレッドとオーフィスの力によって復活したドラゴンに転生した元人間。私も会ってみたいものですねぇ。ああ、そういえばこちらにアポプスがおりますよ?』

 

「アポプス、なるほどな。いずれ私とアジ・ダハーカともどもアポプスと会える日が来るだろう。情報の提供感謝する」

 

『いえいえ、懐かしいドラゴンと再会すると会話が楽しいですから。では―――』

 

自分の役目を把握しているのか、ラードゥンは移動要塞を見やると赤い目を煌めかせ、シャボン玉のようにまるっと包みこんだ。そしてゾフィリスも目を輝かし、結界ごと黒い霧が移動要塞を瞬く間に覆い隠そうとする。

 

「―――駄目です!あれを、奪われてはいけませんっ!」

 

リーラが叫ぶ。奪われてしまえば、本当に破壊の限りを尽くされてしまう。それ以前に―――。

 

「(思い出を・・・・・あの頃の思い出を、穢されてはならないっ!させてはならないっ!)」

 

阻止しようと、自ら動こうと考えるよりも身体が先に動く。レプリカのグンニグルを亜空間から取り出し、ラードゥンへ狙いを定めた。ゾフィリスには通じない攻撃を彼の邪龍に突貫力が長けた神槍の切っ先を向けて一撃を繰り出そうとした。

 

「―――予想通りの結果になりましたか。これより、破壊を行います」

 

凛とした透き通った声がリーラ達の耳朶を刺激する。そして・・・・・移動要塞の真上から伸びる極太の光の柱が移動要塞を呑みこみ、包む。

 

「今の声・・・・・この光の攻撃は・・・・・っ!」

 

やはり、いたかと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ出すリーラ。移動要塞を包みこんでいた、覆っていた結界と霧が砕け、霧散し剥き出しとなった移動要塞に直撃した。

 

「―――星黎殿っ」

 

崩壊し高度を落として地上に墜落する巨大な移動要塞。原形はまだ保たれているが損傷は激しいに違いない。

琥珀の目を大きく見張って、受け入れがたい現実を目の当たりにしてしまった。

 

「ん~?誰だよ、俺の邪魔をする奴はぁー!」

 

苛立ちを隠さないリゼヴィムの叫びは、幾重の光の帯状で返って来た。十二枚の翼で防ぎ、地上に受け流して攻撃された場所へお返しにとばかり巨大な魔力の塊を投げ放った―――矢先に十文字に切り刻まれ、防がれてしまう。

 

「五月蠅い。黙ってなさい魔王の子息」

 

「・・・・・・っ」

 

リゼヴィムの攻撃を斬った者は、リーラに険しい表情を浮かべさせる大天使だった。

金の長髪に赤いリボンを結び、透き通った青い色の瞳、スレンダーな体つきで赤と白、黄色の三色を基調とした衣服を身に包み両手に聖なるオーラを帯びている一対の長剣、背中に十二枚の白い翼、と神々しい輪後光がある美しい女性の大天使は舞い降りた。

 

「あの移動要塞はあなたのような小童悪魔の手に渡らされる訳にはいきません」

 

「へんっ!誰かと思えば天使だったのかってばよ。俺の邪魔をするんじゃないってーの!」

 

「邪魔をします。私にはアレを狙う輩の処罰の権限をあります。ましてや、今世界を騒がしているルシファーの子息が星黎殿を渡せば碌でもないことが起きるのは明白。―――死んでください」

 

「高が天使ごときが、この俺の野望を邪魔すんなよ!ゾフィリスやっちまえ!」

 

世界の負と怨念、憎悪を糧に吸収、再生する厄介極まりないゾフィリスが咆哮を上げ、大天使の女性に攻撃を仕掛けた。二つの剣を構え、大天使も突貫する。

 

「・・・・・今の内に」

 

地に落ちた移動要塞、星黎殿へ駆ける。リーラに続き、クロウ・クルワッハとオーフィスも追いかけた。

 

「リーラ、あれ、何?」

 

「私の大切な物です」

 

「あの破壊兵器がか?」

 

この辺りの山一帯を消し飛ばした威力を放った要塞が大切な物だと、リーラらしくない発言だった。

星黎殿に何の思いやりがあるのかオーフィスとクロウ・クルワッハは理解できない。しかし、リーラの表情は何時になく分かるほど顔に出して焦心に駆られて星黎殿へと走る。

 

「(お願い・・・・・どうか、どうか壊れてないで―――)」

 

リーラの切なる思いは―――無情にも阻まれてしまった。三人が向かう目と鼻の先に、神々しく眩い閃光が迸った。腕で目を覆い、光を遮っているリーラの耳に届く声。

 

「・・・・・やれやれ、やはり一人で行かせるべきではないか。ここまで破壊を許してしまった」

 

「ああ、動物達がなんて酷い死に方を・・・・・っ!」

 

「よりにもよって、ルシファーの倅が狙ってきたとは・・・・・」

 

「やはり、魔王は力を求めてしまうか」

 

「それよりも珍しいことが。彼女が未だに倒し切れずにいる」

 

「あのドラゴン・・・・・邪龍とはどこか異なってますね」

 

光から六つの影が現れて、リーラ達の前に立ちはだかるように佇む。

六人の男女は視線をリゼヴィム達から変え、自分達の目の前にいる三人へ意識とともに変えた。

リーラは眼前の六人に対して焦燥の色を顔に浮かべる。

 

「善神群・・・・・っ」

 

「・・・・・なるほど。では、真ん中にいる者が―――スプンタ・マンユともアフラ・マズダーと呼ばれ、背後にいる天使と目の前にいる六人がアムシャ・スプンタと称されている者達か」

 

アジ・ダハーカが牙を剥いたと謂われている善神群の登場にクロウ・クルワッハは口角を吊り上げた。

 

「・・・・・オーフィスか。相手にしたくないものだ、無限に勝てる見込みは無いのだからな」

 

「我、戦う理由は無い」

 

「ならばお互い矛を収めるか。我らの目的は星黎殿の破壊だ」

 

白髪の長髪に白と金のオッドアイ、純白と金色の装飾と意匠が凝った鎧を身に包み、神々しい輝きを発し続けている男でもオーフィスと交えるだけは避けたいようだった。しかし、オーフィスは首を横に振った。

 

「リーラの大切な物、壊すのはダメ」

 

「リーラ・・・・・?」

 

男はリーラを怪訝に見つめる。星黎殿を欲しているのではなく、大切な物だとおかしな発言をすると。

 

「・・・・・我々の事を前から知っていたかのように総称を当然のように言い当てたな」

 

「私達は神々の間では有名ですから人間も知っていてもおかしくはないのでは?」

 

「いや待て。俺達は人間界に降りたことは無いぞ。俺達の事を人間達が知るはずもない」

 

「では、神々の御使い・・・・・という線もないか」

 

「この場にいる理由も不明だな。人間が星黎殿を知るはずも無し」

 

「何者ですか、この人間は」

 

疑問は疑惑を生じ、逆も然り。リーラに対する不自然に善神群は疑いの念を抱くようになる。

 

「貴女の名前はなんですか。答えなさい」

 

「・・・・・そこをどいてもらえればお答えします」

 

「それは無理だ。星黎殿はとても危険な代物。人間が触れていい物ではない。アレは元々我らが封印していた物、狙う輩がいれば即破壊をするつもりだったのだからな」

 

「・・・・・破壊?」

 

聞き捨てにならない単語を眦を吊り上げながら発し、レプリカのグンニグルを構えた。

 

「今頃破壊するぐらいなら・・・・・どうしてあの時、破壊をしなかったのですか」

 

「なに?」

 

「いえ、違いますね。破壊し切れないかったから人間達の手に渡らぬよう封印を施したのでしょう。それが何の偶然か奇跡か、封印が解かれてしまった。そして―――あの星黎殿にはあなたにとって厄介な物が眠っている。だから完全破壊などすれば眠っているものを呼び起こすことになる。違いませんか」

 

リーラの推測の言葉に耳を傾けていた男。どうしてそこまで知っているのか、男―――スプンタ・マンユはもしやと脳裏にある予想が浮かび上がる。

 

「・・・・・お前、悪神群の者か」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

善神群と敵対していたもう一つの勢力の名。それを口にしたスプンタ・マンユにアムシャ・スプンタは目を丸くした。リーラは、己の中のスイッチを切り換え―――魔力を解放した。

 

「ええ、そうです。以前とは違い姿も変わり果てたので分からなかったようですね。懐かしい限りです、スプンタ・マンユ」

 

「―――生きていたのか」

 

「正確には、記憶を受け継いだまま輪廻転生を繰り返して生きていました。その度に力と知識を蓄え、守りたいと思っているものの傍に居続けていたのです」

 

認めたことで、魔力を解放したことで目の前の女性は誰であるのか、善神群は直ぐに悟った。信じられないと心を一つになった瞬間でもある。

 

「・・・・・納得はできた。星黎殿を求めることもおかしくない。ましてや・・・・・」

 

スプンタ・マンユは真剣な目を細め告げた。

 

「―――アンラ・マンユ、奴が愛した悪魔でもあり母ならば当然だろう。正直、度肝を抜かされた気分だ」

 

一人の女性天使が一歩前に足を運んだ。

 

「輪廻転生をし続け、力を蓄え、強力なドラゴンを集め、私達に対する抗争でも考えていたのですか。―――ジャヒー!」

 

その瞬間、凄い勢いでリーラに飛び掛かった。魔法で具現化した剣で攻撃と上段から振るったところで、レプリカのグンニグルを突き出して鍔迫り合いを生じる。

 

「悪神群の残党がいたとは驚きましたが、ここであなたを滅します!」

 

「―――私は、あなた達と戦いに来たわけではありません。思い出を取り戻しに来ただけです」

 

「戯言を!」

 

「戯言ではないです。あの星黎殿は、私達が完全な敗北をした時まで過ごした思い出が詰まっている家なのですからっ!」

 

剣と槍を持つ二人が一撃離脱を繰り返しながら凄まじい攻防を繰り広げる。一瞬の油断も許されない、しかも相手は過去に戦った敵。宙に舞う火花は剣と槍がぶつかった際に生じ、苛烈な戦いは続くかと思った。

 

「どけ、アールマティ」

 

スプンタ・マンユの短い命令にリーラから離れた天使の直後。神々しい光の波紋状がリーラに襲いかかった。

天使を退かせる前から攻撃をしていたことでレプリカのグンニグルの聖なる波動で防いだとしても、完全に遮断はできなかった。その身に被るスプンタ・、マンユの一撃は。

 

「がは・・・・・っ!」

 

「我々の前に現れなければ、放置していたものを。かつての敵と相見えた以上、逃すわけにはいかない。俺直々奴がいる死の世界に送ってやる。それがせめての供養というやつだ」

 

リーラを地に平伏させる。全身から血を流し、致命傷を負った様子を危険だと察したクロウ・クルワッハはオーフィスとリーラを連れ極東に戻ろうと動き出す。

 

「邪魔するな」

 

五人の善神群が神々しい光を帯びた両手をクロウ・クルワッハとオーフィスに向けた途端、最強の邪龍とドラゴンの周囲に魔方陣が展開して―――一瞬の閃光と同時にこの場から消え去った。

 

「邪龍と真正面から交えるのは少々骨が折れる。オーフィスはそれ以上だがな」

 

「・・・・・クロウ・クルワッハ様とオーフィス様をどうしたのですか」

 

「安心しろ、この地とはかなり離れた場所に転移させた。が、直ぐには戻ってこれまい」

 

これで邪魔者はいなくなった、と付け加えるスプンタ・マンユはリーラに近づき、背中に有翼光輪を展開した。

 

「しぶとくずる賢く輪廻転生などと生き延びていたとはな。他の者達は素直に敗北し死んだものだと言うのに」

 

嘲笑も侮蔑でもない、淡々と静かに呆れている風な言葉を投げかけているのだった。

 

「お前を愛していた奴も死後、隣にいないお前に悔んでいるだろう。いい加減にお前も奴の隣にいてやるがいい」

 

輪後光が光り輝きだすと手に魔力が集束し、意匠が凝った神の剣が具現化する。

 

「アンラ・マンユを倒したこの剣でお前を浄化してやる。最後に言い残すことは無いか。我々に敗れた悪神群の名残よ」

 

遺言を剣の切っ先をリーラに突き付けながら催促するスプンタ・マンユ。これで悪神群はアジ・ダハーカとなると立ち上がりだすリーラを見つめながら考えていた。

 

 

「・・・・・あなた達には確かに敗北しました。悪は正義に、闇は光に敗北する概念も覆すことができない」

 

 

古の戦いは当時の者にしか知らない。かつての敵対していた勢力に殺されようとリーラは恐れなかった。

 

 

「あなたが生命・心理を、あの子は死と虚偽を、正反対で対立する光と善・悪と闇をあなた方が自らの意思で選んだ。

自らの意思で様々なものを創造した、自らの意思で戦った」

 

 

ただ、ここにいない家族に対する謝罪の念が強かった。

 

 

「ならば、怒りあれど復讐や憎悪、恨みなど無かったはず」

 

 

ここで命を落とすことに。何も言わず、異国の地で事情を不明のまま死に行くことを。

 

 

「私はあの子を産み、愛し愛されて生きていました。あなたに何度も破られようと私達が支えました。―――あの頃はとても楽しかったです」

 

 

ここにいない一誠に対して、また死ぬ自分を悲しんで欲しくない、また復讐など考えないでほしいと言う懇願をする。

 

 

「今日まで・・・・・あの方の傍に入れて楽しかったです」

 

「それが、最期の言葉だな」

 

リーラと善神群以外、リゼヴィム率いる邪龍と大天使の女性は今でも熾烈な戦いをしている。その中で、リーラは処刑されようとしていた。誰も味方がいないこの場で、この地で―――。

 

「あの世で奴に会えたら末長く人間界を見ているがいい。いずれ、善なるものと悪しきものが分離するその時までに」

 

スプンタ・マンユの神剣がリーラの身体に袈裟斬しようと振られる。一切の躊躇も迷いもない神の斬撃、琥珀の双眸を静かに閉じ死を受け入れたリーラ・シャルンホルストの身体に斬り裂かれる衝撃は―――。

 

「・・・・・」

 

何故か、来ない。神剣の一撃をこの身が食らえば助からないはず。スプンタ・マンユが見逃すはずもない。現に、目の前に確かに感じる。瞑目して眼前や周囲の光景は見えないが、気配だけは感じる。

 

 

 

「こんなことになるぐらいなら。意地を張らず、お前の傍にいるべきだった」

 

 

 

「――――――っ!?」

 

耳に入り、心まで届く彼の声。有り得ない、信じられないと驚き、カッと目を開けた途端―――。赤より鮮やかで深い真紅の色が最初に視界いっぱいに映り込んだ。

 

「ごめんな。リーラ」

 

 

ギェエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!

 

 

聞こえてくるかの声と邪龍の声。聞き間違えることなど絶対にないリーラは、視界が滲んで前を見ることができない。琥珀の瞳が潤い、涙が溢れ・・・・・。

 

「・・・・・お前は」

 

「悪いが、二度も俺の愛しい女を殺させるわけにはいかない」

 

スプンタ・マンユの声と男の声が交わされる。

 

「彼女は俺の大切な家族。もう、目の前で誰一人傷つけさせはしないし殺させもしない。―――兵藤一誠の名に懸けて!」

 

ダムが崩壊したように温かい雫が絶え間なく流れ頬を濡らす。真紅の長髪、右目に眼帯を付けた金眼の少年の登場にリーラ・シャルンホルストは・・・・・泣いた。

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