HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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新約篇
新約(1)


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「・・・・・お爺ちゃんまで来るなんて予想外も良いところだよ」

 

「・・・・・」

 

「世間話をしに来た感じじゃないようだけど、どうしたの?そんな思い詰めた表情をして」

 

「・・・・・頼みを聞いてくれないか」

 

「内容による」

 

「あの二人を、楼羅と悠璃を説得してくれ・・・・・」

 

「説得?あの二人が心底嫌がる事を無理強いさせるのも気が引くんだけど」

 

「形だけでも良いと言っているのだ。それでも娘達が頑なに拒んで馬鹿息子共々困り果ててしまっている。残された選択はお前から二人に頼んでもらう事他ないのだ」

 

「何をさせるつもりなんだお爺ちゃん」

 

「代々兵藤家が行い続けている伝統。兵藤家の子孫繁栄を維持するためのお見合いだ」

 

「お見合い?兵藤家の連中はお見合いで相手と決めるのか。もしかして式森家も?」

 

「ああそうだ。だが、式森家の方は相手を見つけるのは少々困難を強いる。何せ優秀な魔術師、魔法使いを重視して選ぶのだからな」

 

「和樹もそんな感じか。で、楼羅達と見合い相手は?」

 

「兵藤家の中で実力が高い者に推薦している」

 

「・・・・・どうせあいつなんだろうけど、無理だろ」

 

「だから断わっても良い前提で兵藤家の伝統『お見合い会合』に参加して欲しいと言っているのに娘達はお見合いすること自体拒絶するのだ。このままではあの馬鹿息子以来二度目の前代未聞の出来事と成ってしまう」

 

「二度目の前代未聞って・・・・・そこまで重要な伝統なのかお爺ちゃん」

 

「当然だ。兵藤家の未来が懸かっているのだ」

 

「ふぅん、でもさ。未来が懸かっているのに当主の娘が相手との婚約を断わっていいものなのか?普通できないんじゃない?」

 

「当主が健在であれば兵藤家は安泰なのだ。問題なのは次世代の兵藤の者が血縁を絶やしてしまうことだ。故に子孫の繁栄と兵藤家の安泰、この二つが必要不可欠なのだ。だからこそ楼羅と悠璃にもお見合いをしてもらいたいところなのだが・・・・・お前以外の男とお見合いをする気はないと一点張りで困っている」

 

「今の俺の状況を鑑みて複雑極まりない」

 

「娘達からすればお前の状況など露程気にしない」

 

「だろうな。それと、有り得ない話だけど俺もその伝統に参加しなくちゃならないのか?」

 

「参加はできない。この伝統は人間のみで行われる。ドラゴンのお前は参加は認められない」

 

「人間のみ、か。どこまでも兵藤家は俺を除け者にするよなぁ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「ま、今に始まった事じゃないからこそ、そんな兵藤家に対して恨みと憎しみしか抱いてないわけで嫌いだ」

 

「・・・・・」

 

「取り敢えずはわかったよ、俺からも二人に言ってみるよ」

 

「・・・・・ありがとう」

 

「ただ・・・・・条件を言われたらどうする?お見合いに同席しろとか」

 

「・・・・・」

 

 

 

世間に騒がれず、人知れず行われる兵藤家のお見合い。代々兵藤家は子孫繁栄を重視し、近親婚も認める程血縁を絶やさず次世代の子孫を増やし続けた。それに伴い婿養子として優秀な家柄・家系、文武両道、日本で五本指の成績が良い者―――老若男女問わず兵藤家によって集められてお見合いは行われる。さらにこの際に婚約する相手が見つからない、見つけなかった兵藤家の少年少女は『見送り』として次回に持ち越しになる。そして現在、正装や着物など着込む100人は優にいる老若男女等が広大なパーティ会場に一堂に会してお見合い兼パートナ探しを勤しんでいる。

 

「兵藤家からの招待状が届いて来てみれば、お見合いだとは・・・・・」

 

「お見合い相手はその兵藤なのだろう?見知った顔の奴がちらほらといるが、何を基準に私達は選ばれたのだがな」

 

黒い長髪に切れ長の赤い目の少女と水色の長髪と同色の瞳の少女。ドレス姿で今立たされている自分達の現状に揃ってため息を吐く。兵藤は兵藤でも自分達が知る兵藤では無く、この場にもその兵藤がいないのだから少々退屈しながら下心や好色で近づいてくる兵藤家の男や婿養子として招待された男からのアプローチをガン無視しつつあしらっていると。

 

「モ、モモ先輩~~~~~」

 

「お、まゆっち」

 

「私もいるよ」

 

「ワン子だけがいないようだな」

 

若葉色のワンピースを身に包む長い黒髪を白い紐で一本に結う少女と黒い着物を着てる紫がかかった青髪の少女、金髪に赤いリボンで結んでる着物姿の少女らが合流してきた。

 

「三人共いたんだな」

 

「愛しの旦那様からの招待状だと思って来てみたら兵藤家のお見合いって・・・・・はぁ」

 

「どこの誰が旦那なのかはともかく、最後の言葉の辺りは同感だ」

 

「お、お父様からの話では数十年前もこのような催しをしていたと仰っておりました」

 

「黛の親も参加していたのか?もしかして兵藤家と繋がりが?」

 

エスデスの問いに首を横に振り「いえ、母は兵藤家の者ではありません」と否定する。

 

「兵藤家からの指示は絶対だが、断わっても大丈夫だと教えられましたので」

 

「まゆっちの父親って剣聖って呼ばれていたぐらい剣豪だったから誘われても不思議では無いね。クリスは?」

 

「父親絡みであろう。私自身、モモ先輩ほど実力に突出してるわけでもないからな。京は天下五弓と呼ばれているほど弓の達人だからではないか?」

 

「ククク・・・・・イッセーのハートを打ち抜くために腕を磨いたんだ」

 

「・・・・・動機が」

 

何とも言えなくなって突っ込む事も出来ないドイツ出身のクリスティアーネ・フリードリヒ。

 

「今思えばクリスの男の好みはなんだ?」

 

「恋愛はまだする気が無いのだが・・・・・やはり私と同じ騎士道精神がある者だと好ましいな」

 

クリスの好みと慕っている男と照らし合わせて考えてみる三人等に声を掛けられる。

 

「騎士道精神ならこの私もあるぞ!得意な武器は無論レイピアである!」

 

騒がしく口に薔薇をくわえるナルシスト風な青年が奇妙な姿勢(躍り)をしながら近づいてきた。背景にキラメキを背負い自分の存在をこれでもかと主張してくる。よく見れば服に兵藤家の家紋が。この変人が兵藤家の者だとは色々な意味で意外過ぎた。そして・・・・・。

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

男の言動に全員ヒく。

 

「同じ騎士道精神の持ち主の相手ならば私の妻に相応しい。そしてその美しい金の髪!何者にも屈しない力強い意志が孕んでる瞳!騎士として鍛え上げたことで無駄な贅肉がないスタイルに引き締まったヒップと美脚!!!全て私の理想像が具現化しているではないか!」

 

クリスの前で薔薇の香りを撒き散らしながら膝をつき、背後から花束を突き出した。

 

「どうか、私と夫婦の契りを結んでほしい麗しき淑女(レディ)・・・・・」

 

名も知らぬ男からの初告白。が、クリスに更なる告白が待っていた。

 

「待て、その淑女は俺が先に目を付けていたのだぞ。横入れは止めてもらおうか」

 

「何を言う。私は一目を見たときからだ」

 

「ふん、既に遅いぞ貴様ら。私は情報を集めていた時に彼女の事を知っていたのだからな」

 

三人の男達からの熱いアピールが加わり、四人同時に告白を受けて激しく動揺する。その間、百代達も兵藤家の男達からの熱烈の告白を受けていた。拳と氷撃でお断りして。

 

「同年代や年下の兵藤家がアレだから、他の兵藤家の男も傍若無人だと思っていたんだが・・・・・」

 

「色々いるのだろう。全員が全員、ああなのではないんだろ」

 

兵藤家に対する印象を改める必要が出てきたところでメイン―――兵藤家当主の娘が登場した。絢爛な黒い着物を身に包み、物静かでパーティの輪の中に入ってくるのが兵藤楼羅と兵藤悠璃。現当主の娘で次期当主の妹。彼女等のどちらかと婚約を結べば当主の直系の関係と成り、天皇家としての権力と地位も得られる。婿養子として召集された男達や兵藤家の男達は目の色をギラリと変え、顔を知ってもらう且つ気に入られようと近づき口を開きだす。

 

「あの二人か」

 

「有象無象が、腐ったゴミに集るハエのように引き寄せられたな」

 

「そ、その例えはどうなのだ?」

 

「ある意味そんな感じだからしょうがないよクリス」

 

「え、えっと・・・・・」

 

当主の娘の登場で大半の男達は二人の方へと集まり出す。現にクリスに言い寄っていた男達はナルシスと以外クリスから鞍替えして行ってしまうほどだ。男達の熱が一ヶ所に集ったところで女達は手が空いた。同時に権力者に媚を売る男達を見て冷めた目で見る女は少なくなく、本気で口説く男は圧倒的に少ない。

 

「お、おい・・・・・お前は行かないのか」

 

「ああ、当主のご令嬢ですか。私は地位も権力もさほど興味無いのですよ。あるのは美学、それだけです。私は美の追求者ですからね」

 

「そ、そうか・・・・・」

 

力と暴力を好み、権力を笠に傍若無人な振る舞いをする兵藤家の男達とは大違いだ。『美学』等と口にする兵藤の者は他にどれだけいるのか定かではない。少し不思議に思った百代は質問した。

 

「お前、他の兵藤の男と違うんだな。てっきりうちの学校にいる兵藤の男共と同じかと思っていたんだがな」

 

「失礼極まりないですね!全員が全員、あんな野蛮で粗暴な美しくない同族ではない!身内がする兵藤家としてあるまじき言動にこちらだって良い迷惑を被っている!特に―――テロリストになり下がったあの兵藤一誠を筆頭に傍迷惑している!」

 

人が変わったように烈火の勢いで否定する。この場にいない男すらも彼の中では好ましくない存在の位置にいるようだった。

 

「どんな理由でテロリストに成り下がったが知りませんけれどね。兵藤家の大半の者はあの男に対して好ましく思っていませんよ。元々同世代やさらにその下の者にすら負けてしまう落ちこぼれだとか耳にしています。しかも今では兵藤家の者でありながらドラゴンに転生した愚者。まったく、どう生きればそんな事になるのか不思議でありませんよ。同じ一族、身内として信じられず恥ずかしい存在でしかならない。人間でないのに兵藤と名乗り続けていることすら疑問しかない」

 

出てくる出てくる一誠に対するディスる言葉が。それを聞くたびに百代とエスデスの顔から表情が消え、京はゴミを見る様な目で、クリスとまゆっち―――黛由紀江は複雑な表情で押し黙る。

 

「あの男の存在で私達は魔人の血を引く末裔だとも発覚して、誇り高い兵藤家の人間として生き続けた私達は兵藤家に裏切られた気分でしかない。そうさせたあの男に許し難い思いでならない。だから淑女(レディ)達は知らないでしょうけどね。私達の中で兵藤一誠と言う男は―――いなかった事にしたい存在ほど兵藤家の恥ですよ」

 

そこまで一誠のことを否定したいのか兵藤家は?少し違うと思っていたがこの男も兵藤家の誇りを持っている限り他の兵藤と変わらない性質だと知った。

 

「・・・・・なら、赤龍帝に対してどう思ってるのか聞いていいか」

 

「次期当主の子息ですか。あれもあれで美しくない存在ですね。というか、兵藤一誠と兵藤誠輝を筆頭にここ数年の兵藤達は最悪だ。兵藤家あるまじき犯罪行為を繰り返す者が後を絶たないのですからね。私と同年代の者の中にも公にできない犯行をしている。それを兵藤家や警察が闇に葬ってもみ消しているのだから尚更酷くなる一方ですよ」

 

深く嘆息する男は兵藤家の現状にどこか憂いている感じだった。しかも身内の事情を把握している様子で同族として呆れを通り越して何とも言えないようだ。

 

「そこまで言うならお前の方で何とかしないのか?」

 

「する気が無い、というより無理なんですよ。兵藤の者と兵藤の者が社会で衝突するのは禁じられています。それは世間に知る必要が無い、民間人にする必要のない注目を集めないため。兵藤家は日本という国の代表たる天皇家。その天皇家の一族がちょっとでも騒動を起こせば人は必然的に善し悪し関係なく注目する。最悪、兵藤家は権力の地盤に罅が入るほどに」

 

「その最悪な事態にならないように兵藤家と警察は隠蔽をし続けてきたのだな」

 

「長く古い歴史と誇りを重視する故に面子を大事にしたいのですよ兵藤家は。だから、兵藤一誠の存在は目の上のたんこぶなんです」

 

大事にしたいならもっと犯罪行為をしないようにニラミを利かせれないのか、と極道の娘のエスデスは呆れ顔を浮かべる。ふと、おずおずと黛が尋ねた。

 

「あの、あなたはどんな仕事をしているのですか?」

 

「仕事?花屋ですが」

 

「は、花屋っ?」

 

「先程言いましたが私は美の追求者。なので可憐に咲く花々を愛でつつ、その良さを他の者達に知ってもらいたく自営業をしているんです」

 

兵藤家にしては意外な仕事。特別凄い職業柄でもないが、問うた黛も聞いた百代達も目を丸くするほど意外だった。

 

「ねぇ、兵藤家の人達って普段何しているの?仕事はしてるの?」

 

「働かざる者食うべからず、兵藤家の家訓として社会人と成った兵藤の者は様々な職に就きますよ。私の友人の中では北海道で漁師に成っていますし、子供好きだということで幼稚園の園長を務めている者もいます」

 

「・・・・・その事、世間では知らされているのか?」

 

「されてませんよ。そんなことまで兵藤家は自己主張はしません。それに兵藤と名乗る兵藤家の者ではない人間は他にもいますから、あくまで一般人として生活しています」

 

何だか兵藤家の人間は意外にも普通に生活をしているのだなと少なからず衝撃を受ける百代達だった。てっきり天皇家の一族として高級な家の中で優雅に暮らし、好き勝手に生きているのかと思っていた考えは今日覆された。

 

「兵藤家って門外不出かと思った」

 

「その認識はあながち間違っていませんよ。ですが、それは本家の兵藤家の話」

 

本家と言う単語が出てきた時点で皆は察した。

 

「分家も存在するのか」

 

「ええ、実を言うと私はその分家の兵藤家ですよレディ。なので本家の傍若無人な振る舞いをする兵藤の者達より過激派では無く穏健派みたいなものでしてね。本家の兵藤家の犯罪行為を聞く度に辟易する思いをしていますよ」

 

溜息を吐く分家の兵藤。今日まで兵藤家の内情を詳しくは知らなかった百代達からすれば新たな情報、一誠でも知らない知識ですらあるかもしれない話を傾ける耳に一言一句聞き逃さない。

 

「兵藤家に分家があるとは知らなかったなぁー」

 

「長い歴史ですから当然私達一族の人数も多くなります。ので、本家と分家を分けることを提案したのが先々々代の当主だと聞いています」

 

「いきなり分家に分けられて不満はなかったの?」

 

「分家と言っても名ばかりのもので、本家との立場や地位、権力は変わりなく対等に扱われます。私達が本家から下に思われる事も見られる事も一度だってありませんでした。まぁ、何故自分達が分家などと疑問に思う者はいないと言えば嘘になりますが」

 

他にも何かあるのかと興味本位で訊き込むつもりでいたが、『顔合わせ』と称した会合の時間が終わりを迎え次のステージに進む時間と成った。兵藤家の姫たる楼羅と悠璃は別室で『お見合い』をすることに。相手は赤龍帝の兵藤誠輝を始めとした五人の精鋭。全員、兵藤家次期当主を決める大会で決勝戦まで勝ち進み誠に一蹴された者達だ。―――が、ここで緊急事態が発生した。

 

「ひ、姫様達がボイコットしたぁ~~~!?」

 

「探し出して連れ戻すのだ!」

 

ドタバタと聞こえてくる兵藤の者達の焦りと動揺の声は既に待機している誠輝達の耳にも届く。全員、どうせこうなるだろうと見越していたのか、態度は変わらないでいる。

 

「ま、予想の範囲内ってとこだな」

 

「子供の頃からそうだったからなぁー」

 

「見つけ出すことも連れ戻すことも無理だろ。姫達の能力は影と闇だし」

 

「あのコンボは凶悪過ぎる。―――俺達が相手にしても歯牙も掛けられないコンビネーションと技は当主ですら負かしてしまうのだから」

 

「はっ、雑魚のてめぇらが負けるのも当たり前だろ」

 

「「「「お前も負けたその一人だろう」」」」

 

結局は二人を連れ戻すことはできず本命は行えなかったが別命の方は滞りなく事を運べた。そして行方を暗ました二人はと言うと・・・・・

 

「・・・・・お前達」

 

「「形だけでも参加したから問題ない」」

 

家に戻って来ていた。

 

―――†―――†―――†―――

 

同日の夕方―――。式森和樹は深い溜息を吐いた。今日のお見合いで大変な目に遭い、疲労困憊に似た疲れを背負って帰宅した。

 

「「「「「お帰りなさいませご主人様」」」」」

 

鉄格子の門を開け放ち中に入ると、同じメイド服を身に包み道を作る女性達に迎えられる和樹は朗らかに「ただいま」と言い返した。家の中に入るとそこにも立ち並ぶメイド達がいて二階へ上がる階段へ進む。上って直ぐ自室の扉に向かって進み開け放ち、ようやく張っていた気が緩めるプライベート空間に入るや否やベッドに身を委ねて倒れ込むその直後。扉からノックの音が聞こえる。

 

「失礼いたします」

 

一つに三つ編みで結った銀髪のメイドが入室する。クールビューティーの一言で尽きるほど理知的な雰囲気を纏っている。掛けている眼鏡越しで疲れ切ってベッドに沈んでいる主に労いの言葉を送った。

 

「本日のお見合いご苦労さまでした。如何でしたでしょうか」

 

「・・・・・如何も何も、酷いの一言だよ」

 

覇気のない声音で言い返す和樹は深い溜息を吐いた。

 

「身に覚えのない思い出と約束を持ちかけて迫ってくる電波少女に、財閥の勢力拡大のために色仕掛けしてくる痴女に、僕との婚約をなかったことにしようと抹殺をしてくる魔法剣士の女の子が僕を巡って暴れ回ってお見合いどころじゃなかったよ」

 

「では」

 

「お見合いは中止。来年に持ち越しになったよ」

 

それはそれでよかったけどねと、言いながら起き上がる和樹は目の前のメイドに訪ねた。

 

「兵藤家の方はどうだったかわかる?」

 

「はい、順調に滞りなく終わった模様ですが途中で楼羅様と悠璃様がボイコットしたと」

 

「ははは、案の定か。因みにその場に一誠はいたかは?」

 

「いえ、確認されませんでした」

 

そうか、とまだ冥界に籠っているのかなと思いながらシンシアを側に招き寄せる。

 

「シンシア」

 

「和樹様」

 

二つの影が一つになり、愛を深め合う―――ことはならなかった。

 

「和樹さんに会わせてください!私は和樹さんの妻なんです!そこを退いてください!」

 

「ここにいるのはわかってるわよ和樹!」

 

「出てこい式森!お前の命をもらい受ける!」

 

外から聞こえる喧騒と共に年若い少女達の声にビシリと石化する和樹の表情にシンシアは悟った。この後、自分の主の家に無断で不法侵入し傍若無人な振る舞いをする輩達の対処をせざるを得ないことも含めて―――。

 

「実家に、本家に籠りますか和樹様」

 

「せっかく一人気ままな生活を得たからには手放したくないのが本心だよ」

 

嘆息する主の気持ちを汲んでやりたいところだが、喧騒は激しくなり爆発音が轟くのでは主の平穏な暮らしは終わりを迎えるようなものだ。どうしたものかと思ったところで和樹の傍で見覚えのない真紅の小型の魔方陣が発現した。

 

「え・・・・・君なのかい?・・・・・オレオレってオレオレ詐欺師みたいな人だよそれ。それでどうしたの、え?お見合いはどうだったってどうして知ってるの?・・・・・ああ、そうだったんだ」

 

誰かと話しているのは一目瞭然のところ、ピンと何かに閃いた和樹はシンシアにアイコンタクトをした。その意図を長年付き添ったメイドの一人として直ぐに察した。

 

「話がしたいなら君の家で良いかな?・・・・・うん、ありがとう。直ぐに向かうよ」

 

了承を得たので二人は直ぐに行動に移った。和樹の転移魔方陣を介して目的地へ向かう瞬間。少年の自室の扉を吹き飛ばす勢いで開け放った三人の少女達が飛び込んできたものの、一歩遅く目の前でいなくなったのだった。

 

―――†―――†―――†―――

 

「・・・・・靴下履いているとはいえ裸足でいるような状態で来るとは思わなかった。なにか遭ったのか?」

 

「遭ったというか、押し掛けられそうになったというか・・・・・」

 

曖昧に言う魔法使いの男に俺は動かしていた手を止めて怪訝な目で見つめた。行ったことのない目の前の男の家で何が起きたのか見当もつかないが大した事でもないだろう。式森家当主の息子の強さは伊達では無い。魔法だけなら俺より強いかもしれないからな。

 

「で、そっちのお見合いはどうだったんだ?」

 

「あーうん、中止になっちゃってお見合いどころじゃなくなったんだ」

 

「何が起きたら式森家のお見合いが中止になるんだおい」

 

胡乱気に訊くと当人は肩を竦め神妙な面持ちになる。

 

「それで、冥界にいるはずの君が何時の間に戻ってきたんだい?」

 

「諸事情で色々と、な。おかげでこの様だ」

 

自分の両手首に嵌められてるブレスレットを見せつけると、和樹は不思議そうな反応をする。

 

「魔術が籠ってるね。一体どんなのが?」

 

「片方は神器(セイクリッド・ギア)を封印、片方は魔力を完全に封じ込める術式が施されてる。仕舞にはこれを外したり壊せばオーフィスが召喚される。わざわざ天界の技術で作られた代物だよ」

 

「それ、完璧に君が逃げない様にされてるね」

 

今じゃこの家が牢獄のようなもんだと自嘲する俺と釣られて苦笑を浮かべる和樹。現にそのオーフィスは俺の膝の上に居座って俺に対する監視もとい寛ぎ中だ。

 

「そんな感じで今では暇を持て余してしょうがないからプラモデルを作ってるんだよ」

 

「だから至る所に箱があるんだね」

 

部屋の中を見回す和樹の視界には、三十は優にある開封済みのプラモデルの箱の山が入っているだろう。そんで暇潰しに完成したプラモデルは箱の中に敷き詰められている。特別これで観賞したり遊ぼうという気はない単なる暇つぶしをする為に作っているに過ぎない。

 

「作り過ぎなんじゃない?」

 

「そう思っているんだけどな。暇なもんは暇なんだ。これらを魔力で動かして戦わせてみたい気はあるけど」

 

「どうやって?」

 

「じゃあ、和樹も実践してみるか?」

 

魔力を封じるブレスレットを外して今まで作り続けてきたプラモデル達を実際に魔力で操り、見えない空気を色に染めてビームサーベルを構える。

 

「へぇ、操り人形と同じ要領で?」

 

「こういう事もできる魔法使いかヒトもいるだろう?」

 

「うん、僕の一族にもそういう人はいるよ。そう言う事だったら僕でもできるや」

 

和樹も魔力で箱からプラモデル達を浮かせて俺と同じことをして見せる。

 

「プラモデルの武装は空気だから魔力は微弱で頼むよ」

 

「それでも壊れるよ?」

 

「それがロボットアニメの宿命的なんだ」

 

空気とはいえ衝撃波や物理攻撃等と物体に直接当たるものだ。俺の部屋も影響が出るから結界魔法を張る。

 

「よし、それじゃ始めようか。今思えば君と遊ぶのって今回が初めてだね」

 

「同感だ」

 

一体のプラモデルを動かし、和樹が動かすプラモデルへと色が染まって空気を圧縮した武器を振るい、攻撃を仕掛ける最中に問うた。

 

「そー言えばさ、学校の方はどんな感じ?」

 

「どんな感じかと挙げれば、最初に出る言葉は・・・・・赤龍帝を含む二年の兵藤家、彼女達二人を除いて退学になっちゃったよ」

 

どこか予想通りの展開な故にそれほど驚きはしなかったが逆に嘆息を禁じ得ない。あの傍若無人の集団に『我慢』なんて躾をしても、連中の頭の中にそんな概念はないから結局そうなったか。でも、二年だけって?

 

「連鎖的に一つでも破ったら在学する兵藤家全員の筈じゃ?」

 

「うん、契約にはそう決めてたけどさ。流石に世間や風評のことを考慮しちゃうと流石に全員はって先生達と生徒会、理事長達が相談しあった結果で問題を起こした二年の兵藤家のみ退学にしたんだ」

 

鎖に繋がっていた狂犬が結局最後まで大人しくはならなかったか。溜息を吐く俺に「心情を察するよ」と苦笑いされる。

 

「でも、結果的に二学年から兵藤家は殆どいなくなったから、来年は女子達ばかりのクラスは再編成される話も出て来てるよ」

 

「後輩として進級、入学してくる兵藤家は大人しい奴らだと願うしかないがな」

 

「はは、そうだねぇ・・・・・あっ、ヴァーリチームが学校に入学してきたよ」

 

そいつは意外だとそう相槌を打った後にふと思い浮かんだ。

 

「お前、学校は?」

 

「公休扱いとして学校を休んでいるんだ」

 

「お見合いで公休って・・・・・」

 

「式森家の未来に関わる大事な行事だ。重要性の指針の針はどうしても傾いちゃう。だから他の式森の人間や兵藤家の人間と違って、君にはお見合いなんて無縁な話だろうね。慕う女の子達がいっぱいいるんだからさ」

 

「そう言うお前だって一人や二人いるだろ。例を挙げればあの銀髪のメイドとか」

 

「君もそうだろう?」

 

当然だろう。と断言する。

 

「魔王アンラ・マンユだった頃からずっと転生を繰り返し続けて寄り添ってくれていた。記憶にないしそんな覚えもないけれど世界で最高の愛しい女だと思ってるよ」

 

「本当に凄い話だよね。とてもじゃないけれど信じ難い話でもあるし」

 

「同感だ。でも、一目見た時から不思議と欠けたパズルのピースが揃ったような感じ、懐かしさとどこか安心感を覚えた・・・・・太古からの記憶がなくても魂が一生消えない傷のように残っていたんだろうな」

 

「永遠の恋ってある意味ロマンチックな話だね」

 

朗らかに微笑む和樹に首肯する。

 

「でも、何でお前のメイドとリーラのメイド服が一緒なわけだ?」

 

「そのことについて彼女、シンシアに訊いてみたら目を丸くしてたよ。その後、とあるメイドを育成する機関学校の同期だったって教えてくれたよ。リーラさん、首席で卒業したらしいし」

 

「・・・・・未だにリーラの過去は明るみにならないな。前世の俺の時は一体どんな感じで傍にいたんだか」

 

「聞いてみたら?教えてくれるかもしれないよ」

 

最後のプラモデルが同士討ちの形でバラバラに壊れた。俺達の周りだけが壊れて散乱してるパーツが円を描いて落ちてるが時のセイクリッド・ギアで壊れる前の時間に戻しては箱の中に戻して行く。

 

「話を戻すけど、和樹のお見合い相手は決まってるものなのか?」

 

「式森家の次期当主の夫婦となる女性には定められた条件を達成しなくちゃ駄目なんだよ。ぶっちゃけ、魔力・魔法がかなり長けてて知名度と実力も優れた魔女が絶対なんだ」

 

「そんな魔女、都合よくいるのか以前にお前と結婚してくれるのか怪しいところだと思う。あ、カリンとはどうなんだ?」

 

「うーん、妹みたいな感じが強いから恋愛対象じゃないね」

 

「なら、お前の理想のタイプは何なんだよ」

 

「特にないよそんなの。逆に聞くけど君は?」

 

「同じくないな。そばに居てくれるだけで幸せだから」

 

「ははっ、同感だね。平穏で平和に暮らせるならそれで十分だよ」

 

そんな感じで和樹とこうして初めて長く会話を交わし、本当に何が遭ったのか分からないが一晩家に泊らせた。その翌日、学校だからと早朝時に自分の家に戻る男とメイドを見送ってまた暇を持て余す時間を送る―――後日、大勢のメイドと共に大量の荷物を持参してくるあいつを出迎えるまでは。

 

「・・・・・和樹」

 

「・・・・・ゴメン」

 

本当にこいつに何が遭ったと言うんだ・・・・・!


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