HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード39

「まさか、この歳になってこの剣に触れることができるとは・・・・・」

 

「この鞘・・・・・まさか・・・・・」

 

クロウ・クルワッハから得た武具を一誠はどんなものなのか剣術の師である二人の猊下に見せたところ、

感嘆と驚嘆の声が漏れだした。

 

「わかる?」

 

「実物を見たのは初めてだが、伝承で知っていた。ああ、わかるとも。

これは素晴らしい剣だ戦士一誠。この剣の名は聖剣『フラガラッハ』。

この剣の一撃は凄まじい切れ味を発揮する。

そしてこの鞘に収まっている剣は『クラウ・ソラス』という剣で、光の剣または

輝く剣という魔法の剣なのだ」

 

「光るんだ?」

 

「悪魔にはとても有効的な魔法の剣だ。しかし、これをどこで見つけたのだ?」

 

ストラーダ猊下の質問に「僕も聞いただけで分からないけど」と言いながらも答えた。

 

「お父さんとお母さんが持っていたみたいなんだー」

 

「・・・・・太陽神ルーが所有していたはずなんだがな。クリスタルディ猊下、そちらはどうだ?」

 

ジッと青と金の装飾と意匠が凝った盾にも使える鞘を見詰めているクリスタルディ猊下に問うたところ。

 

「間違いないです・・・・・エクスカリバーの鞘に間違いないですぞ・・・・・!」

 

歓喜に身体を震わすクリスタルディ猊下。

 

「兵藤一誠くん、これもキミの両親が持っていたのかい?」

 

「持っていたというより保管していたみたい。クロウ・クルワッハから聞いたら

色んな武器や盾があったみたいだよ?」

 

「・・・・・クロウ・クルワッハ?」

 

「うん、邪龍のクロウ・クルワッハ。僕の新しい家族になってくれたドラゴンの名前だよ」

 

ストラーダ猊下とクリスタルディ猊下は度肝を抜かれた気分で一誠を見やる。

この少年は暗黒龍と称されていた邪龍を味方に付けたその魅力は凄まじいと言うべきか。

 

「そのクロウ・クルワッハは今どうしている?」

 

「お父さんとお母さんと一緒に中国の四神に会いに行っているよ」

 

「・・・・・キミたち親子はもうわからなくなってきた・・・・・」

 

苦笑を浮かべ一誠に鞘の事を聞いた。心なしか顔に真剣味が帯びていてここが正念場とばかり

声に力が籠っていた。

 

「兵藤一誠くん。この鞘を教会が預かって良いかな?」

 

クリスタルディ猊下の話を聞き、困ったように一誠は言った。

 

「うーん、お父さんとお母さんのだからダメかも。

それにこれを肌身離さず持っていろって言われているし」

 

「あの二人を説得しないとダメなのか・・・・・」

 

「良いではないか。今現在行方不明の一本の聖剣エクスカリバーも大事だが、

誰がそのエクスカリバーの鞘を所有しているのか分かっていればその方がいい」

 

若干肩を落とすクリスタルディ猊下を窘めるストラーダ猊下も一誠に尋ねた。

 

「戦士一誠、このフラガラッハを―――」

 

「それも同じ理由だからダメだよ?」

 

「ストラーダ猊下・・・・・」

 

「・・・・・やはり、説得が必要か」

 

「でしょうな」

 

苦笑を浮かべあう二人。教会にとって保管、保存したい剣と鞘を持つ一誠から無理矢理

奪い取るのも可能だがそれでは教会の戦士として恥ずべき行為。話の分かる相手だから

説得して手に入れる算段も考慮するかソレを持つに値するほど鍛え上げるべきなのだろう。

 

「それじゃ、久し振りに稽古をお願いします」

 

やる気が満ちている双眸で剣を構える一誠をクリスタルディ猊下が応える。

その隣にルーラも剣を構えていた。

 

「キミもかな?」

 

「一誠くんの隣に立てるぐらい強くなりたいのです」

 

「友愛か・・・・・良い心がけだ。ストラーダ猊下、彼女のお相手お願いしてもいいですかな?」

 

「いいだろう。―――何時しか戦士一誠がフラガラッハのような名剣を振るって戦える時が

心待ちにしている」

 

「聖剣も七本全て揃い、鞘に収まる日も願うばかりです」

 

二人の教会の戦士と二人の幼い戦士は剣を交える日がようやく始まったのであった。

 

 

とある日、ヴァチカンに幼い神父やシスターの服を身に包んだ少年と少女たちが訪れていた。

その団体は自由時間になると思い思いに時間が許されるまで過ごす中で一人の少女が

クリスタルディ猊下に聖剣エクスカリバーの扱い方を教えていた。

 

「と―――各エクスカリバーの特性の話は以上だが他に質問はあるかな?」

 

「大丈夫です。しっかり覚えました!」

 

「うむ、では私は用事があるので失礼するよ」

 

「どちらへ行かれるのですか?」

 

少女にとってクリスタルディ猊下の行動が気になった。何時もならもう少し

エクスカリバーの説明を聞かせてくれるはずだったのだが何時もより早く終わらせた。

 

「ああ、今年新しく入ってきた戦士に剣術を学ばせていてね。

ユーストマさまの直々のお願いでもある」

 

「神王さまからの直々ですか!?」

 

「そうだ。あの方からお願いされるほどの戦士も素晴らし逸材でね。エクスカリバーを

扱える天然の聖剣使いだったんだ」

 

クリスタルディ猊下が朗らかに笑む。天然の聖剣使い。未だ聖剣を扱える信者、

戦士は生まれていないこの時に天然の聖剣使いの存在に少女は目を丸くした。

そしてどんな人なのだろうと興味も湧く。

 

「あの、お邪魔しませんので稽古の様子を見させてください」

 

「どんな戦士なのか興味が湧いたんだね?」

 

「うっ・・・・・」

 

アッサリ見抜かれて誤魔化そうとしても目が泳いでしまったからか、

その通りであるとクリスタルディ猊下に伝わってしまった。

 

「わかった。邪魔にならない所から見ていなさい」

 

クリスタルディ猊下の了承を得て、共に修錬場へと赴いた少女。既にその場所には

二人の少年と少女、初老の男性がいて少女と初老の男性が剣を交えていた。

 

「・・・・・え」

 

少女は目を疑った。あの後ろ髪、赤い髪に見覚えがあるのだ。

ここにいるはずのない遠い極東の地にいるはずの少年の髪の色と同じで―――。

 

「待たせたね。さて、始めようか」

 

その少年に声を掛けるクリスタルディ猊下の言葉に反応して振り返った少年は、

自分の目の前にいる少女に視界が入り、キョトンとした表情で見詰めた。

 

「あれ、イリナ・・・・・?」

 

「―――――っ!」

 

間違いない。この声はあの少年と同じものだった。少年の顔も完全に一致する。

イリナと呼ばれた少女は言葉よりも先に体が動き、

 

「会いたかったわ一誠くぅんっ!」

 

身体全体で喜びを表し、一誠に飛び付いた。突然のことで受け止めきれずイリナと

地面に倒れたがイリナはそんな事を気にせず一誠に抱き付く。

 

「イリナ、どうしてここに?」

 

「それはこっちの台詞だよ一誠くん!どうして一誠くんはここにいるの?」

 

「僕は色んなところで修行をしているんだ。今回はこの場所で強くなろうしていているんだよ」

 

前にも言ったはずだけど、と一誠は思うが目の前にいる懐かしいイリナの顔を見る。

最後に会った時から少し成長している少女。髪も長くなってツインテールに結んでいる。

 

「というか・・・・・イリナって」

 

「なに?」

 

「男だと思っていたけど女の子だったなんて知らなかったよ」

 

・・・・・。

 

無言でイリナはペシペシと一誠を叩く。

 

「いたっ!いたっ!」

 

「私は女の子よ!もう一誠くんの意地悪!」

 

「だ、だって一緒にヒーローごっことか、川遊びとか砂遊びとか遊んでいたじゃんか!

女の子の服だって着ていなかったしさぁっ!」

 

「うっ、それを言われると・・・・・」

 

過去の自分を改めて思い返せば女の子らしいことなど一切していなかった。

天真爛漫、無邪気に男の子っぽくはしゃいで一誠の傍にいた。

 

「・・・・・キミたち知り合いだったのかい?」

 

二人の様子を見守っていたクリスタルディ猊下は見かねて訊ねた。一誠とイリナは揃って頷く。

 

「私と一誠くんは日本で良く遊んでいたのです」

 

「うん、ヴァーリと遊んでいたよねー。そのヴァーリも会ったけどさ」

 

「え?どこで?」

 

「冥界、一年間ずっとヴァーリと何度も会ったよ?」

 

ピキッ。

 

イリナの顔に怒りのマークが浮かんだ。顔を垂らして一誠に質問をし出す。

 

「それって、何時から会っていたの?」

 

「イリナとヴァーリと別れて直ぐ・・・・・だったかな?アザゼルのおじさんのところで会ったよ」

 

「へぇ・・・・・つまり、一誠くんはヴァーリと会っていたんだね?」

 

「イリナ・・・・・?」

 

顔を覗きこもうとする一誠。しかし、顔を上げたイリナの表情は―――怒りで満ちていた。

 

「ズルい!一年間ずっとヴァーリと会っていただなんてぇっ!一誠くんのばかぁっ!」

 

「ぶへっ!?」

 

強く頬を叩かれ、地面に倒れる一誠を余所にイリナは涙目で去って行った。

 

「ううう・・・・・痛い。僕がなにをしたって言うんだ・・・・・」

 

「い、一誠くん・・・・・」

 

「(嫉妬による行動だったにしろ、まさか堕天使の総督と暮らしていた

時期があったとは・・・・・)」

 

「(ヴァーリという者は・・・・・確か報告で聞いた現白龍皇だったか。

その白龍皇と戦士イリナ、戦士一誠と繋がりがあるとはな)」

 

一誠を慰めるルーラもあることを想っていた。

 

「(あのイリナって子は一誠くんと友達みたいだけれど・・・・・いきなり怒って

叩くなんて乱暴な女の子)」

 

そんな乱暴な子から一誠を守ると胸に強く秘めたルーラー中でイリナの印象は良くなかった。

 

―――○●○―――

 

それから言うのの一誠は剣術を学び、ルーラーと絆を深めた。

そんなある日、二人に討伐の話しが持ち上がった。

 

「化け物?」

 

「聞いた話では下水道に巨大な蜘蛛がいたそうだ。発見者は命からがら逃げて警察に

調査を要請し、調査員が派遣されたのだが―――誰一人として帰ってこなかったようだ」

 

「それで、私たちは討伐をしに行けばいいんですか?」

 

「そうだ。これ以上被害が出さない為にも巨大な蜘蛛、魔物を討伐する必要がある」

 

「今日の夜?」

 

「早い方が良いだろうからね」

 

―――深夜に討伐することとなった。市街地にいる人々が寝静まり返ったところを行動して

マンホールの蓋を開けて下水道に忍び込むクリスタルディ猊下と一誠とルーラ。

異臭を放つ下水道を眩く照らし続ける一誠の金色の翼。

 

「あ、ネズミだ」

 

「兵藤一誠くんの光る翼で周囲が良く見える」

 

「天使そのものみたいな翼でフワフワして柔らかいです」

 

後ろからポンポンと翼を触れるルーラ。真っ暗な空間は眩い光を放つ翼によって

照らされて一誠たちの足取りを重くさせないでいて、光は下水道全体に照らされて

十メートルぐらい先まで照らしている。

 

「先生、発見した場所はどの辺りか分かりますか?」

 

「この下水道は迷路のように入り組んでいて降りてきたマンホールから

数メートル離れた場所で見つけたらしい」

 

「それって直ぐじゃないですか。良く助かりましたね」

 

「発見した時はたまたま持っていたライトの光で見つけたんだ。ちょうど、

あの曲がり角で蜘蛛の足と目が見えたらしくてね」

 

クリスタルディ猊下が光が届いている曲がり角に指を突き付けた―――次の瞬間。

その曲がり角から大量の蜘蛛が現れて壁にも天井にも張って一誠たちに近づいてきた。

 

「く、蜘蛛・・・・・虫・・・・・・!」

 

「・・・・・気持ち悪い。殺虫スプレーを持ってくればよかったかも」

 

「子供にはきつい光景だ」

 

苦笑を浮かべるクリスタルディ猊下。形を自由自在に変化する聖剣で大量の蜘蛛を一蹴する。

 

「おー!」

 

「ここで派手な攻撃はできない。強力な攻撃もすれば下水道が壊れかねないから

この『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の出番というわけだ」

 

鞭のように刀身がしなり、蜘蛛を水の中に落としたり、一刀両断していく。

 

「あの蜘蛛が来ている向こうに親玉がいるかもしれない。注意してくれ」

 

「「はい」」

 

攻撃が制限されたこの状態で一誠はどうやって戦おうか脳裏で考えを巡らせていた時、

三人が横切ったトンネルから、

 

―――シュバッ!

 

「え?」

 

大量の糸が飛び出して一誠の全身を巻きつけてどこかへ引き連れ込む。

 

「またこの展開ー!?」

 

「い、一誠くーんっ!」

 

「くっ・・・・・!」

 

聖剣を伸ばして一誠を捕えようとするが、大量の蜘蛛が赤い目を煌めかせ迫ってくる

様子を横眼で捉えた結果―――。ルーラを抱きかかえ一誠の後を追うことにした

クリスタルディ猊下。二人を照らす光は念のために持ってきた『クラウ・ソラス』を

鞘から抜き放ったルーラの手にある剣のみ。

 

 

そして、糸に巻きつかれ身動きが取れない一誠は下水道の深奥の天井にぶら下がった状態のままでも

光で照らしている。その光はある物まで照らしている。今の一誠の状態と同じく、

天井にぶら下がっている複数の繭。中に何かがいるらしく、一誠が放つ光に激しく

反応をしている。顔だけ出している一誠は今の自分の心境を表しブラブラと動き続ける。

 

「どうしよう・・・・・このままじゃ食べられちゃうかも」

 

自分自身の安否を心配したところで何かの足音が聞こえてくる。その足音の方へ、

後ろへ向きを変えようとブランブランと揺らがせる一誠だったが

固定されているかのように後ろへ向けることができず突然一誠の眼前に人の顔が飛び込んできた。

 

「ひぅっ!?」

 

肌は灰色で髪は洗っていないのか清潔感が全くないボサボサで傷んだ金髪であることが若干分かる。

目に光が宿っておらず、ジッとその目で一誠を見据える。

 

「こ、こんばんわ・・・・・?」

 

震えながらも挨拶をした一誠は相手の全体も光で見えた。上半身は人の形をして

下半身は巨大な蜘蛛。まるでケンタロウスみたいだなーと一誠はどこかズレた感想を心の中で延べた。

 

『・・・・・今度は子供。何をしに来た』

 

「え、えっと・・・・・巨大な蜘蛛を倒しに来たんだけど、お姉さんだったの?」

 

『この人間たちと同じ理由か。なら、帰らす訳にはいかない。ここで朽ち果てなさい』

 

喰われるかと思ったが実際はただぶら下げられている状態で相手はそのままジッと動かない。

一誠はあの二人が来るまで―――暇だから声を投げた。

 

「ねね、僕は兵藤一誠って言うけどお姉さんの名前は?」

 

『・・・・・』

 

「僕、人間みたいだけど本当はドラゴンなんだよ。お姉さんと似てるよねー?」

 

『・・・・・』

 

「お姉さん、どうしてここにいるの?人を捕まえているだけで

悪いことをしていないなら・・・・・あ、ごめんなさい。他の人に怖がれるからできないんだよね」

 

『・・・・・』

 

「・・・・・」

 

一誠が急に喋らなくなった。あれほど明るく話しかけて来ていた物好きな

人間の子供がと蜘蛛女は、どうでもいいがなんとなく尻目で一誠を見たら。

 

「ううう・・・・・無視しないでよ(泣)」

 

なんと、一誠が涙目で蜘蛛女を見詰めていたではないか。このまま無視を貫き通しても

いいと思うが、泣き喚いて仲間を呼ばれても困る。仕方なく、蜘蛛女は漏らした。

 

『・・・・・アラクネー、そう呼ばれていた』

 

「っ!」

 

ようやく返事をしてくれて泣きそうな顔から一変して嬉しそうに揺れる一誠。

何気に他の繭にもぶつかった際、その繭から呻き声が聞こえるが一誠は気にしない。

 

「よろしくね、アラクネお姉ちゃん」

 

『・・・・・』

 

人間の子供、いやドラゴンと言った揺れ動く一誠をアラクネーは振り向き、

動かないように新たな糸で張った。

 

「う、動けない」

 

『・・・・・動き回るな。鬱陶しい』

 

「じゃあ、喋ろうよ。暇なんだしさ」

 

『・・・・・』

 

「・・・・・(泣)」

 

『・・・・・わかった』

 

「だからその泣き顔は止めろ」と付け加えるアラクネーは仕方なく一誠の話し相手になったのだった。

 

 

一方、ルーラとクリスタルディ猊下は一誠を探し求め下水道を駆け走っている。

大量の蜘蛛に追われながらも懸命に探索を続けていた。

 

「先生、私たちだけじゃ・・・・・」

 

「言いたいことは分かるが、これは時間との問題だ。しかも兵藤一誠くんが

また連れ去られたなんて公になってしまったら・・・・・」

 

「しまったら・・・・・?」

 

「―――――彼の家族に今度は肉体的に何をされるか分かったものではない」

 

とある銀髪のメイドのあの顔を思い出し、クリスタルディ猊下は苦笑を浮かべた。

ルーラは小首を傾げ「はぁ・・・・・?」と気のない相槌を打つ。

 

「ですが、一誠くんを発見できません。どこまで連れて行かれたのでしょうか」

 

「そうだな。ここは迷路のような構図で今現在、私たちは地上のどの辺りにいるのかも分からない」

 

「・・・・・迷子、ですか?」

 

「半分だけだ。それにこんなこともあろうかと、キミたちに内緒で服にある物を仕込んである」

 

クリスタルディ猊下は腰から携帯を手にして画面を窺った。画面はあみだくじみたいに

入り組んだ道の構図と点滅している二つの黄色い点が表示されている。

 

「それはいったい・・・・・」

 

「最近の科学は発達しているから便利なものだよ。キミたちの服に発信器を付けて、

もしもまた攫われるようなことが起きればこれで探すことにしたのさ」

 

「なるほどー。では、この離れた場所で点滅しているところに」

 

「兵藤一誠くんがいるのだよ。いま、そこに向かっているところだ」

 

ルーラが尊敬の眼差しを向ける。が、

 

「お言葉ですが、主を崇めている私たち信徒が機械に頼っても良いのですか?

こう、相手の聖なるオーラを探知して見つけるそんな風な、主の導きで発見したと

そんな感じでないと何と言うかその・・・・・」

 

その指摘にクリスタルディ猊下は「ふっ」と漏らした。

 

「我々、人間にもできないことはあるのだよ」

 

ああ、そうなんですかー。ルーラの心境はソレだった。

 

「それはそうと、兵藤一誠くんとどうだね?」

 

「なにがですか?」

 

「施設にいる大勢の幼い信徒の中で兵藤一誠くんと接しているキミだ。彼のことどう思っている?」

 

「一誠くんの隣にいたいです」

 

断言したルーラ。しかも答えるのも早かった。クリスタルディ猊下は朗らかに笑んだ。

 

「愛を司る神さまもきっと喜んでおられるであろうな。

さて、そろそろ彼のいる空間に辿り着くから用心したまえよ」

 

「はいっ」

 

駆け走る二人を追いかける大量の蜘蛛は次第に数を減らし、

一誠がいる空間に近づいた時には一匹もいなくなった。

そしてついに曲がり角に曲がって―――。

 

「それでねそれでね?お猿の爺ちゃんと一緒に金色の雲に乗って空を飛んだんだよー」

 

『・・・・・そう』

 

顔だけ出して繭みたいに糸で包まれ蜘蛛の巣に張り付けられている一誠と一誠の話を

聞き相槌を打っているアラクネーの姿をルーラとクリスタルディ猊下の目に飛び込んできた。

 

「・・・・・普通に捕まっているのに普通に和んで会話している」

 

「い、一誠くん・・・・・」

 

心配した自分たちは何だったのかと呆れを通り越して、何とも言えない気持ちが湧く。

 

「・・・・・ん?あ、先生とルーラ!」

 

二人の姿を捉え気付く一誠。巨大な蜘蛛女は臨戦態勢になるが、

 

「アラクネーお姉さん、大丈夫だよ。お姉さんを攻撃しないからさ」

 

一誠の制止を訝しい表情を浮かべるも警戒心は解かず、臨戦態勢の構えを解いた。

 

「大丈夫、のようだね?」

 

「アラクネーお姉さんといっぱい喋っていたから怖くなかったよ」

 

「そ、そうなんですか・・・・・」

 

「あ、僕の後ろに捕まっている人たちがいるんだ。まだ生きているみたいだよ。

アラクネーお姉さんはこの人たちを殺すつもりもないんだって」

 

一誠の話を聞きクリスタルディ猊下じゃ安堵で息を漏らす。生存しているならば対処はできる。

残す問題は―――。

 

「アラクネー・・・・・伝承ではゼウスの娘のアテネに呪いを掛けられた者だったな。

まさか、こんな所で出会うとは・・・・・」

 

目の前の巨大な蜘蛛をどうするかだ。

 

『・・・・・この姿で地上を闊歩できるわけもない。私はあの愚かなことを後悔し、

一度は死んだはずだった。なのに、あの女神は何を思ったからか私を蜘蛛に転生させた。

それ以来ここで静かに生きていた』

 

「だが、発見されてしまい、こんな結果になってしまったのだな。

一つ訊く、人間に危害を加えないのだな?」

 

『・・・・・ない。だが、私の姿を見た者は帰す訳にはいかない。私は化け物だからな』

 

自嘲的な笑みを浮かべるアラクネーは臨戦態勢の構えを取った。

やはりこうなったかと聖剣の柄を掴んだ。

 

「化け物だからって人を襲っちゃダメだよ」

 

一誠がアラクネーに対してそう言った。

 

「それだったら僕はどーなのさ。僕、ドラゴンだよ」

 

『・・・・・見た目は人間のお前が言っても説得力無い』

 

「むぅー、じゃあドラゴンになるよ」

 

光に包まれる一誠。人の形を崩す最中、内側から掛かる圧力に堪え切れず繭が引き千切れ、

ドラゴンになった一誠がアラクネーと対峙した。

 

『どうだ!』

 

『・・・・・本当にドラゴンだったのか』

 

『これでアラクネーお姉さんと一緒だよ?』

 

『・・・・・』

 

『蜘蛛の身体だから外に出れないなら人の姿になればいいじゃない。

できないなら僕が何とかしてあげる』

 

アラクネーの意思を訊かず人の姿に戻った一誠は金色の杖を発現して問うた。

 

「できるよね?メリア」

 

金色の杖から声が発せられる。

 

『形だけなら可能です。ですが、彼女の存在の概念、蜘蛛に転生される以前の―――』

 

「そこまでいいよ。僕がしたいのはアラクネーお姉さんの身体を人間の身体に戻したいだけ」

 

純粋な一誠の願い。今はできることをしたいと発する自分の主にメリアは一誠の中で

小さく口の端を吊り上げた。

 

『そうですか。ならば主よ思い浮かべてください』

 

「うん」

 

アラクネーに向けて杖を翳し瞑目した一誠に呼応して、

金色の翼が大きく広げて輪後光が光り輝く。

その光がアラクネーの全身を照射して包まれていく最中。

 

『(・・・・・温かい)』

 

忘れていた温もりがアラクネーは思い出す。かつて父が抱きしめてくれた時と

あの温もりと同じ・・・・・。下水道は温かく眩い光に支配され、

 

「なんて温かい光なのだろうか・・・・・」

 

「・・・・・(泣)」

 

クリスタルディ猊下が感嘆し、ルーラは静かに涙を流す。

 

「アラクネーお姉さん。帰る場所がないなら、人の姿になったら僕たちと一緒に生きよう?

僕の家族になってねー」

 

『・・・・・お前は』

 

「お前じゃないよ。兵藤一誠って名前があるよ」

 

最後に一誠の笑顔を見てアラクネーの意識が遠のいた。冷たい暗闇に潜む巨大な蜘蛛は

光ある温かい場所に出る日はそう遠くなかった。後日、行方不明になった人たちは無事に救助され、

改めて今度は武装した人間たちが下水道に訪れても巨大な蜘蛛を発見できなかった。

代わりに―――。

 

タンタン・・・・・タンタン・・・・・。

 

「精が出ますね」

 

とある家から一定のリズムで鳴る音が聞こえてくる。その家を覗きこむと織機を巧みに

ウェーブが掛かった金の長髪が緩やかに揺らし懐かしむ顔と光がある双眸を持つ女性が

タスペトリーを織っていた。メイド服を身に包み、紅茶と菓子を乗せたお盆を持って

近づくと女性は織りながら答えた。

 

「ああ、腕が鈍っていないか心配だったが杞憂のようだ」

 

そういう女性の直ぐ横に黒いゴスロリを着ている少女が興味身心に見ている。

タスペトリーは八割ぐらいまで完成していてどんなテーマを織り込んでいるのかなんとなく把握できる。

 

「これはどんな主題なのですか?」

 

「・・・・・ああ、そうだな」

 

女性の目の前に完成間近のタペストリー、殆どが真っ黒で何とも不気味さを醸し出すが

赤い髪を持つ少年が金色の杖を光らし、その光に照射され包まれている下半身が蜘蛛で

上半身が女性は少年に手を伸ばしている姿。そのタペストリーをそっと撫で、

 

「哀れな一匹の蜘蛛に救済の光をもたらした小さき少年―――そんなところだろう」

 

口元を緩めそう命名した時、扉が開く音が聞こえ誰かが三人がいる空間に近づいてくる。

 

「ただいまー!あ、もう完成したの!?」

 

「お帰りなさいませ。ですが、まだ完成ではございませんよ」

 

「なーんだ。早く完成したタペストリーを見てみたいや」

 

織り込み中のタペストリーを見詰める少年の頭に手を置いて女性は言う。

 

「焦らずとも近いうちに完成する。待っていなさい」

 

「うん、分かった」

 

少年は頷き視線を女性の足に向けた。肉付きのいい太もも、

ほっそりとした素足の自分の両足を見てくる少年に女性はどうした?と聞いた。

 

「―――アラクネーお姉さんの足、綺麗だなって」

 

「・・・・・この足はあなたがくれた。だから傷一つ、シミ一つも作らないさ」

 

「そこまで気を使わなくても良いよ。次はアラクネーお姉さんを蜘蛛から本当の意味で

人間に戻すことを頑張るからさ」

 

アラクネーお姉さんと言われた女性は両腕を少年の背中に回して豊満な胸に押し付ける

感じで抱きしめた。

 

「期待しないで待っている」

 

「むー、期待しててよ」

 

「いや、しないよ。なぜなら・・・・・」

 

頬を膨らます一誠に向かって笑みを浮かべたアラクネーは唇を一誠の額に落とした。

 

―――今が幸せだからもう充分に満足している。この私に温かい居場所を、再び人間の足を

与えてくれたあなた心から感謝をしているから・・・・・。

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