HIGH SCHOOL D×D ―――(再)――― 作:ダーク・シリウス
夏休み間近のとある日。学年全体で三泊四日の強化合宿が始まろうとしていた。
学力や身体能力の向上、
特訓メニューによって修行をする。一誠たちも国立バーベナ駒王学園の生徒として
このイベントに参加しなくてはならない。
「それはいいんだけどさ?」
ポツリと肯定の言葉を発した一誠。その手の中にある一通の手紙を見て、
『2-F 兵藤一誠殿 貴殿は二学年の中で最も優れた生徒なのでよって、
貴殿の強化合宿は川神学園で行われます』
「なーんで川神学園でしなくちゃならないのかなー?というかあの学園で
俺は何を強化すればいいんだって話なんだけど」
一人だけ一誠は川神学園にて一時的な学校生活を送る事となった。
目の前に聳え立つ木製の門を潜り、
川神学園に侵入する。真っ直ぐ迷わず玄関に辿り着く。
人気はなく、今の時間帯は教室にいるのだろう。
来訪者専用のげた箱で靴を履き替えて職員室に訪れる。
ガラッ。
「あのー、国立バーベナ駒王学園から来ました兵藤一誠ですが・・・・・」
職員室に顔を出しながら名乗った。職員室の中には数名の教員がいて、
一誠の声に反応した教員が近づいてきた。
男性だ。第一印象はオジサン。どこか頼りにならなそうな雰囲気を醸し出し、
「時間通りに来たな。俺は宇佐美巨人ってんだ」
「兵藤一誠です。これからしばらくお世話になります・・・・・?」
「何故疑問形で言う?」
「や、うちの学校では今日から強化合宿をする話だったんですけど、
俺だけこの学校で強化合宿をするみたいで・・・・・実際にどんなことするのか疑問なんですよ」
「強化合宿?」と不思議そうに首を傾げた宇佐美巨人だった。
そして、一誠の疑問を理解したのか説明口調で言う。
「ああ、今回が初めてなんだな?強化合宿とは建前でな。
そちらの学園とこちらの学園から学年ごと一人交換しては切磋琢磨をしようということなんだ。
この学校ではそちらの学校とは違うことがある。それを体験し、この学園に一時編入してきた
生徒たちをさらに向上させようという狙いがあるんだ」
「じゃあ、合宿ってのは?」
「言っただろう。それは建前だと。まぁ、実際にそちらの学園は学校で
強化合宿をするのだろうがな。さて、話はここまでにしてついて来い」
話を打ち切って一誠を引き連れて二階に上がる。その途中で話しかけられた。
「しかし、まさかお前が来るとは思いもしなかったな」
「迷惑?」
「あれだけ派手に目立った生徒が俺の一時的に生徒となるとは少しばかり委縮しちまうんだわ。
しかもお前さん、兵藤だろう?」
「ああ」と心の中で理解した。リアスの婚約を掛けた決闘に勝ったのは兵藤。
日本を支配する天皇兵藤家の者なのだから緊張するなと言うほうが無理な話なのだ。
「俺のことは普通に接してくれよ先生。俺は兵藤であっても兵藤じゃないんだからさ」
「なんだ、訳有りか?ま、フレンドリーに接しても良いなら俺はそうさせてもらうぜ。
というか、そうさせてくれるとオジサンは気持ちが落ち着く」
「苦労人?」
「何故その言葉が出るのか敢えて聞かないからな」
二階に辿り着き真っ直ぐ目的の教室に足を運ぶ二人だったが、一誠は途中足を停め、
宇佐美巨人も足を停めざるを得なかった。
「どうした?」
「ん、この教室に友達がいるなって」
「ああ、川神がいるクラスだな。いまはHR中だから入るなよ。
中にいる先生を怒らせたらキツいからな。まぁ・・・・・そこがいいんだけどよ」
女性の教師らしく宇佐美巨人は小さく声を殺して笑う。
―――2-S―――
ここが一誠が通う始める教室で宇佐美巨人が先に入ってから少し経った。
廊下で待機している一誠の他には誰もいなく、その時が来るのを待っていれば入室を
促す声が聞こえた。いざ教室に入り、教卓の前に立つ宇佐美巨人の横に立てば、
「む?」
「あー!」
知り合いと直ぐに目が合った。
「あー、今日から数日間の間このクラスの一員となる兵藤―――」
「一誠だぁっ!」
ピョーン!と腰辺りまで伸びている白い髪に赤い目の女子生徒が一誠に飛び付いた。
避けることもせず真正面からその少女を抱きとめて再会の抱擁を交わし合う。
「・・・・・一誠だ。お前ら、絶対に失礼のない言動をするようにな。怒らしたら俺は知らんぞ」
教師としてあるまじきの発言。自分の身が大切だとばかり言い切る宇佐美巨人だった。
「一誠、久し振りー!」
「小雪も久し振りだな。このクラスだったんだ?」
「うん!一誠と一緒に通えるなんて嬉しいよー!」
満面の笑みを浮かべる少女は小雪、榊原小雪。かつて川神院で修行をしていた間に
一誠と出会った一人。腕を一誠の背中に回して嬉しそうに顔が綻んでいる小雪。
大好きな異性と再会し、尚且つ一緒に学校生活を送れる現実に心が歓喜で一杯になる。
「・・・・・しゃーねーな。HRは自習とする。お前ら、他のクラスに迷惑を掛けないようにな」
それだけ言って宇佐美巨人は教室から去った。それでいいのか教師よ。
「フハハハハッ!まさかお前が来るとはなんてサプライであろうか!」
「よー英雄。お前もこのクラスだったんだな」
逆立てる銀髪に☓の傷跡が額にある金色の衣服を身に包む男子は九鬼英雄であった。
相変わらずのテンションだなーと思いつつ、言葉を交わす。
「何を言うか。このクラスはエリートの中で最も優れたエリートでしか
入れないクラスなのだぞ。我がこのクラスにいて当然である」
「うわ、そんなクラスだったのかよ。俺、普通のクラスがよかった」
「お前は自分の価値を分かってない。上に立つ者は何事にもトップでなければいかぬのだ」
「ふーん?じゃあ、英雄は二学年の中で何番目なの?学力の意味で」
その問いかけに英雄は堂々と言った。
「二番だ」
「・・・・・上に立つ者は何事にもトップではないとダメなんじゃないの?
二番じゃ一番だとは言えないぞ」
「ええい、細かいことを言う。小さいことを気にしては王の品格が知られるぞ」
「王って何のことだよ」と呆れる。未だに小雪のホールドは解除されず英雄と話しこんでいれば、
数人の男女が近づいてきた。
「英雄、私たちにも彼とお話をさせてもらえませんか?」
「我が友トーマか。いいだろう、許す」
褐色肌で眼鏡を掛けたイケメンの男子が英雄の許しを得て一誠に話しかけた。
「初めまして、私は葵冬馬です。以後お見知りおきを兵藤一誠くん」
「改めて兵藤一誠だ。よろしく」
続いてスキンヘッドの男子だった。
「俺は井上準だ。よろしくな」
「よろしく」
「ところで―――」
真顔で準は問うてきた。
「悪魔の小さい幼女は可愛かったか?」
「は?」
「あずみ」
「はいはーい☆変な質問をしないでくださいねー☆あ、私は英雄様の専属メイドの忍足あずみです☆」
瞬く間に縄で縛りあげて準を蹴り飛ばしたメイドの自己紹介に若干引いた一誠だった。
「・・・・・それ、演技でしょ」
「なんのことでしょうか?」
「俺、相手の善し悪しがわかるからさ。アンタのその被った仮面だってのは直ぐに分かったぞ」
声を殺してあずみに指摘すれば、英雄に顔を見られない角度であずみは口を開いた。
「お前、そのことを英雄さまに言うんじゃねぇぞ。バラしたら即―――」
「ああ、英雄のこと心底好きなんだな」
「んなっ・・・・・」
「なんてカマを掛けてみたけど本当なんだな」
ニヤリと口角を上げた一誠の言動を我に返ったあずみは苦虫を噛み潰したかのような表情となり
「こいつは油断できねェ」と口から零し一誠から離れた。
「私はマルギッテ・エーベルバッハと言うことを知りなさい」
軍服を着込んだ右目に眼帯を付けている女性が話しかけてきた。
「・・・・・大人の人、だよな?」
「それがなにか」
「この学校って大人も入れるのか?」
学校の規則はどうなっているんだと疑問を抱く一誠の背後から小雪がその疑問を解いた。
「マルギッテはFクラスにいる女の子の護衛としているんだよー?」
「それでも生徒としていられるなんてこの学校は変わってるよな。
いや、こっちもそういう家族がいるから同じか・・・・・」
「なにをブツブツ言っているのですか?それよりも私と戦いなさい」
「初対面の人に決闘を申し込まれちゃったよ小雪。どうすればいい?」
「んーと、決闘システムってのがあってさぁー。決闘を申し込まれた人が応じると
正式に戦うことができるんだよ。その時が学園長先生が審判として決闘を見守るんだけどねー」
小雪からの説明を聞きなるほどと納得する。だが、口だけで決闘は認められる
ものだろうかとまた疑問が生まれたところで、
「ほいほい。様子を見に来れば早速なんじゃな」
「あ、お爺ちゃん。久し振りだね」
川神鉄心が何時の間にか現れた。一誠とマルギッテの話を聞いていたのか、意味深なことを発する。
「よいぞ。ワシが責任を持って決闘を認める」
「その寛大な心に感謝します川神鉄心殿」
マルギッテが感謝の言葉を発する。一誠の意思に拘わらず決闘はあっさりと認められた。
「あー、お爺ちゃん」
「なんじゃ」
「多分、いや、絶対かもしれないから百代とエスデスの乱入を許してくれる?」
「・・・・・なるほどのぅ。あい分かった」
心当たりと言うか、あの二人の性格を鑑みればその時の予想と想像が容易に浮かぶ。
止めるよりも満足させるた為、好きにやらせた方が文句も言わないだろうと鉄心の考えだった。
二人の決闘は直ぐに行われる。第一グラウンドにて観戦客は教室の窓からという
ドームみたいな感じで一誠とマルギッテの戦いを見守る。鉄心が審判として
決着がつくまで見守る形で決闘は開始された。
「私のトンファーでの防御は要塞のごとく!崩せるものなら崩してみなさい!」
「それ、特殊な技術で加工されたただのトンファーじゃない?」
「そう思うなら私の猛攻を受けてみると良いです!」
体勢を低くし、獣の如く駆け走るマルギッテ。綺麗な赤い髪を走る際に生じる
空気抵抗によって激しく髪がゆらめく。迫るマルギッテを悠然と佇む一誠は振るられた
トンファーを片手で掴み―――握り潰した。
「な?」
「っ、まだですっ!」
もう片方のトンファーも振ろうとしたが、一誠の手から伸びる気で具現化した
刀身によって両断されて武器として使えなくなった。
「まだまだだな」
「それはこちらの台詞!」
武器を無くしてもマルギッテは戦意の炎を滾らせ、肉弾戦で戦いを臨む。
眼帯を外したマルギッテの動きがさらに俊敏となり、一誠に激しく攻撃を繰り出す。
受け流し、受け止め、躱すと防御に専念する一誠に
「どうしたのです。なぜ攻撃をしてこないのですか!」
シビレを切らしたマルギッテが吠えた。一誠は言い辛そうに頬をポリポリと掻く。
「あんまり弱いヒトと戦うのは好きじゃないんだ」
「―――私が弱いと、そう言うのですか」
「俺より弱いということは確かだ。それと百代とエスデスよりもだ」
弱いという言葉を突き付けられた。それは自分の誇りを、プライドを傷付け、逆撫でる言葉だった。
ここまでハッキリと言われたのは生まれて初めてである。
百代とエスデスと戦ったことがあってもそんなことは言わなかった。
だというのに目の前の男は―――。自分を否定した。
「ここで狩ってみせましょう!私の力を思い知りなさい!」
「や、もう終わりだ」
自分を認めさせる思い出飛び掛かる姿勢になったマルギッテの左手を掴み、
彼女の両足の上に足で踏んで身動きが取れないようにし、
身体を密着させては一誠の左手がマルギッテの背中に回されて人差し指を突き付けられた。
「このままアンタの背中を突き刺すこともできるけど?」
「・・・・・っ」
身長的にマルギッテを見上げる形になる一誠の金色の目には顔が強張る表情が映り込む。
激しく打ち鳴らす心臓の鼓動も感じ取り、不敵に笑みを浮かべた。
そして、眼帯が外された彼女の顔を見て一言。
「綺麗だな」
「なに?」
「マルギッテさんのことだよ。眼帯を付けたら可愛い顔が台無しじゃん。俺と同じ色の髪だしさ」
純粋に褒める一誠。だが、相手にとっては戦いのさなかに何を言っているのだと―――。
「・・・・・」
照れているのか、顔が真っ赤になって目は動揺しているのか泳いでいた。
一誠はふと思った。この人は褒められるのが慣れていないんじゃないかと。
少し、悪戯心が芽生えた時に二つの影が乱入してきた。
「一誠、何時まで密着しているのかなーん?」
「抱き付く相手を間違えてはいないか?ん?」
「・・・・・」
結構遅かったなと心中思い、マルギッテから離れ二人と対峙する。
「来ると思ったけど、少し遅かったんじゃないか?」
「ほう?私たちを誘き寄せていたんだな?」
「ならば、遅れた分を取り戻すつもりで―――」
「ああ」
「「お前と
燃え盛る赤い炎と青い炎を迸る女子たち。攻撃の構えとなり一誠は笑みを浮かべた。
「んじゃ、始めようか百代とエスデス。俺のとっておきで纏めて倒してやる」
「あの赤い鎧のことか?いいぞ、そうでなくては面白くないというものだ!」
「右に同じく!」
嬉々として地を蹴って飛び出す。一誠は不敵の笑みを浮かべ―――闇を解放させた。
闇は一誠を包みこみ、異変をもたらす。
顔中に紋様のような刺青が浮かび、真紅の長髪は黒に塗りかえられ、金色の双眸だった
目は真っ黒となり背中に三対六枚の紋様状の翼が生え出して、
両腕に黒い装甲を纏った。腰にも尾が生えた。
「・・・・・あれはっ」
一人の女子が一誠の姿を見て目を張った。それは驚きも含まれているが、
一番大きかったのは歓喜に近い感情だった。予想だにしない展開となり、女子は口角を上げた。
「兵藤一誠・・・・・そう、あなたはその力は何なのか知らずに覚醒しちゃったのね。
―――ふふっ!」
笑う女子の視界には一誠の黒い手に触れた百代とエスデスが全身の力が抜けたように
地面へ倒れ込んだ。鉄心や他の観戦していた生徒たちも一体何が起きたのか
理解できず苦しんでいた。
「面白い子を見つけちゃったわ。さっそく接触を試みましょうかしらね」
ニヤリと女子は意味深に呟く。
―――○●○―――
登校初日に一誠はあっという間に有名人となった。かの武神と氷帝を一蹴したのだから
必然的なのだろう。だが、倒された当の本人たちは。
『お前、あれは卑怯だろうっ』
『触れられた瞬間に力を奪われるとはっ』
大いに不満を漏らしていた。想像していた戦いとは違って拳を交わすこともなく一誠に倒された。
それには苦笑を浮かべまた戦おうと約束をした一誠だった。二人と戦って以降、休憩中になる度に
『一誠、あなたの妻の京が会いに来たよー!』
『よーう、兵藤!』
椎名京を始めとする過去に一誠と交流を持っていた存在が教室に入ってくる。
当然、一誠に好意を抱いている小雪は京と対抗し言い合いするのだった。
「ひょ、兵藤くん」
「ん?」
黒髪のポニーテールの女子が話しかけてきた。何やら緊張の面持ちで隣にウェーブが
掛かった黒髪に、大胆にも制服の胸元を開いて煽情的な恰好をしている女子に
「ほら、頑張れ」と応援されている。
「義経は源義経と言う。よ、よろしくお願いする」
「私は武蔵坊弁慶。ま、内弁慶だからよろしくねー」
「源義経と武蔵坊弁慶?源氏物語に出てくる名前だな」
英雄が横から説明する。
「後、あそこで座って寝ている男の名前は那須与一と言ってな。
弁慶と義経、与一は我が九鬼財閥の技術で誕生した英雄のクローンなのである」
「クローン?じゃあ、英雄本人でもないのか」
「我は我だが?」
「英雄、そこはボケなくてもいいですよ」
「文字だけ見ればややこしいからな」
微笑む冬馬と呆れ顔の準が口を開く。英雄は英雄で「フハハハ、英雄ジョークである!
民衆たちよ笑うことを許す!」と上から目線で言っていた。
「や、笑えない」
「む、読めない奴だな」
「俺的にお前が一番読めない男だと思う」
「ああ、俺も思うぜ」
ウンウンと頷く準に振りむいて一言。
「そう言えば、悪魔の幼女がなんだって?」
「ああ、可愛かったかなーって」
「さぁ、俺は相手の親玉としか興味がなかったから眼中になかったわ」
「なんだ、紹介してもらえるかと思ったのに残念だわ」
どうして紹介しないといけないんだと思う。弁慶が息を一つ零してある事を教えてくれた。
「井上はロリコンだよ」
「凄く納得できた」
「同士ができた!」
「「「違う」」」
準の反応に英雄、小雪、冬馬からのツッコミ。そんなこんな賑やかなムードができれば、
「兵藤一誠!私と勝負しなさい!」
負けず嫌いなマルギッテが再戦を申し込んできた。それには―――
「小雪ー。俺の代わりに戦ってくれる?」
「うん、いいよー」
「小雪、マシュマロ一キロ分」
「一誠、頑張ってー!」
「餌で買収された・・・・・!?」
「いや、女の子に戦って貰う方が虫が良過ぎなんだってばお前は」
「小さい幼女が魔法少女の姿で戦っていたらお前はどう動く?」
「お兄ちゃんが身体を張って守るに決まってるじゃん!」
と、そんなこんなでマルギッテから勝負を吹っかけられたのを切っ掛けに賑やかになる。
宇佐美巨人の話では他校に刺激を与えつつ自身の能力を向上させるための強化合宿。
自分の何が向上するのか未だに不明な一誠。しかし、懐かしい友人と教室にいる
クラスメートとは直ぐに打ち解け、雑談をする。
「弁慶が持っている瓢箪はなに?」
「川神水だよ。ノンアルコールだから飲んでも大丈夫」
「水だけど場で酔えちゃうんだ。弁慶は一定以上飲むと壊れて義経はハラハラだ」
「壊れるってどんな風に?」
「気になる?なら壊れてみようか。私的に飲めれるから大歓迎だけどね」
「だ、ダメだ弁慶!兵藤くんも煽らないでくれ!」
弁慶と義経のやりとりは姉妹のようだった。マルギッテから感じる視線にも息を零し、
「じゃあ、その勝負を受けるけど勝ったら言うことを聞く罰ゲームね」
「いいでしょう」
「なら、シンプルな勝負をしよう。力比べだ」
机に肘を突いて手を開く。その様子の一誠に左眼だけパチクリとして呆然となったマルギッテ。
「力比べ、ですか?」
「こっちの方が早く済ませる。いいだろう?嫌なら勝負を吹っかけてこないでくれ」
「・・・・・わかりました」
自ら願ったことで賛否を決める権利は相手。渋々と言った感じなマルギッテは
一誠の手を掴めば弁慶が二人の手の上に手を置いた。
「なんか川神水の肴になりそうだから審判をやらせてもらうよ」
「ん、別にいいぞ」
「理由が少々不服ですが異論はないです」
「それじゃ・・・・・はい、始め」
開始宣言と共に腕相撲が始まった。華奢な身体と相まって細い腕から有り得ない
腕力が一誠の腕を圧倒する。かと、普通は思うが実際はそうじゃなかった。
若干震えつつも一誠は押される雰囲気を醸し出さない。
「女なのに中々どうして、力が凄いな」
「まだまだ私は本気を出していませんよっ」
「そう?じゃあ、本気を出される前に―――倒させてもらおうか」
言った直後。一誠の腕がマルギッテの腕を一気に倒す。その一瞬の光景に目を大きく開き、
眼帯を外すとピタリと手の甲が机にぶつかる直前に停止した。
「くっ・・・・・!」
「最初から全力でいけば違った結果だったと思うんだけど?
相手を見下したり侮りし過ぎだマルギッテ」
「まだだ、まだ終わりませんよっ!」
険しい表情を顔に出し、グググッとマルギッテの腕が持ち上がる。
火事場のバカ力が発揮したのか、元の位置に戻った―――。
「残念無念また来週っと」
ゴンッ!
軽い口調でアッサリ負かした。一誠の勝ちが周囲にも見届ける。
「さてさて、マルギッテ。罰ゲームといこうか」
「・・・・・なにをさせる気ですか」
物凄く警戒する。どんな体罰でも精神的な攻撃でも堪えてみせると思っていた
マルギッテに罰ゲームが実行した。
「ん」
一誠の手は真っ直ぐマルギッテの眼帯を取り上げた。そしてそれを自分の右目に装着したのだ。
その意味が分からないと一誠を見詰めるマルギッテにこう言った。
「これ貰う」
「は?」
「そんで、マルギッテは二度と眼帯を付けないこと」
―――それだけ?いや、高が遊びなのにどうしてそんなことが罰になるのか理解し難い。
自分の眼帯を付けた一誠に口を開いた。
「それを返してください。それがないと押さえている力が常に・・・・・」
「制御できないって?」
「いえ、高過ぎる自分にハンデとして付けているのです」
「・・・・・でもさ、俺に対して眼帯を付けても付けていなくても結果は同じじゃん?」
「ぐっ・・・・・」
痛恨の一撃がマルギッテに襲った。
「それに勝負を吹っかけてきたマルギッテがまさかルールを破るわけ無いよな?軍人なんだもん」
「それは・・・・・」
動揺するマルギッテ。
「眼帯を付けていない方が世界を見渡せるし、視野も広がる。それによ」
「他に何か・・・・・」
「眼帯付けていない方がマルギッテは可愛いじゃん」
「・・・・・っ!」
笑みを浮かべる一誠からの女の子として接せられ、マルギッテの顔がまた紅潮した。
「お、大人をからかうものじゃありませんっ!」
「大人だろうが子供だろうが、褒めるのは関係ないだろう。
思っていることを口にして良いことや悪いことぐらい俺だって分別できるわ」
「なぁ?」と冬馬に同意を求めれば微笑みながら冬馬も頷いた。
「ええ、マルギッテさんはとてもお美しい女性です。ですが、個人的には
兵藤くんに興味があるのですが」
「え?」
冬馬が一誠の顔に触れた。一誠の目に映る眼鏡を掛けた褐色肌の
イケメンはウットリとした表情で自分を見詰めている。
「兵藤くん、どうでしょうか?放課後私と一緒にデートでも」
徐々に二人の顔が縮まる。あと数ミリで互いの唇が―――。
「若ストーップ!」
「恐れていたことが起きてしまったかこの愚か者めが!」
準と英雄がバッ!と一誠から冬馬を引き離した。
なにがなんだか分からない一誠は首を傾げるばかりで、なぜか小雪に抱きつかれる。
「あんた、ナニしようとしてたんだ!?」
「なにを言うのですか準。私はただ彼の唇を―――」
「ええい!見境のない奴め!よりによって兵藤家の者にまで毒牙を掛けようとは!」
「毒牙とは失礼な。私の深い愛情を注ごうと・・・・・」
「「なおさら余計に悪いわ!」」
ポカ―ンと開いた口が塞がらない一誠は「大丈夫?唇奪われなかった?」と心配してくる
弁慶に聞いた。
「あいつ、なんなの?」
「あいつ、バイセクシャルだから気をつけなさい」
「バイセクシャル?」
何それとばかり首を傾げる一誠に再び魔の手が伸びた。
「分からないのであれば私が隅々まで教えましょう!」
「「お前は黙っとれ!」」
再び準と英雄に取り押さえられた。その様子に呆れ、一誠に耳打ちをする弁慶。
聞いているうちに一誠は驚愕の色を浮かばせた。
「・・・・・そう言う意味なのか?」
「知らないアンタの方が驚きなんだけどね。一般常識が掛けているんじゃない?」
「うん、それは自覚している。でも・・・・・・」
あのまま自分が冬馬の唇と重ねていたら自分は・・・・・。
「・・・・・(ガタガタ)」
「うん、それが普通の反応だよ。葵冬馬と接する時は警戒しなさい・・・・・ってなにその姿」
何時の間にか一誠が小さくなり、全身は金色の翼で包まれ
ある意味絶対防御壁の状態となった一誠。
「これなら襲われない!」
「寧ろ襲いたくなるじゃないですか!」
「ひぅっ!」
狂喜の笑みを浮かべる冬馬を見て一誠が顔まで翼を覆い、
とうとう繭みたいな状態となった。そんな一誠を弁慶が抱え義経に押し付けた。
「べ、弁慶?」
「しばらく義経が持っていて」
「よ、義経が?」
当惑する義経。繭の状態の一誠は腕の中でも分かるぐらい震えている。
「兵藤くん、大丈夫だから。ね?」
「ごめん、しばらくこうしたい」
繭からそう言われてしまい、ますます困り果てる。すると小雪が義経から一誠を取ると。
「ころころ~♪」
廊下で転がし始めた。繭の中の一誠はデジャブを感じつつ悲鳴を上げた。
それは2-Sの隣の教室、2-Fの教室まで届き、何事だと教室から顔を出せば、
往復して小雪が金色の繭を転がしている光景を目の当たりにした。
「小雪、なにしてるの?」
「あ、京。一誠を転がしてるんだぁー♪」
「一誠を転がしてる?」
「うん、これ一誠だよー」
満面の笑みを浮かべ、京に金色の繭を見せるとハラリと顔を覆っていた翼が解き、
目を回している一誠が見れて京は不思議そうにして小雪に問うた。
「・・・・・一誠、どうしてちっちゃくなっているの?」
「わかんない。でも、可愛いでしょー?」
「それは同感だね」
貸してと一誠を小雪から取り上げ、腕の中に収めた。
「・・・・・うう、目が回った。って、何で京が目の前に?」
「可愛い一誠をGETしたから」
「なにそれ」
「転がされるのはもう勘弁だ」と漏らし金色の繭と思っていたものがフワリと開き、
小さい一誠の姿が京の腕の中で現した。それから京から離れ廊下に立つ。
「ねーねー。どうしてそんなちっちゃくなったの?」
「ん?魔法の力だと言っておくかな」
指を弾いた一誠の身体に異変が起きる。淡い光に包まれつつ見る見るうちに大きくなり
元の姿となった。
「こんな感じでな」
「「おおー」」
感嘆の声を漏らす。魔法とは凄いものだと目の前で起きた現象に目を丸くする二人だった。
「もう一つ、どうして眼帯なんて付けているの?」
「ああ、マルギッテと軽い勝負をした故にだ」
「軽い勝負?」
「腕相撲でだ。そんじゃ、戻るか」
「じゃーねー」
一誠の腕を自分の元に引き寄せて共に2-Sへ戻る姿を京に見せつけた。
「あの女・・・・・私に対するあてつけだなぁっ・・・・・?」
―――○●○―――
「ねーねー一誠。あの翼を出してよー。触りたーい」
「はいはい、分かってるよ」
要望に答え、六対十二枚の翼を生やしだした。すると小雪が首を傾げた。
「あれ?増えたね」
昔は二枚しかなかったはずの翼が増えていた為、小雪の疑問は尤もだと一誠は頷いた。
「俺が強くなった証なんだ。これ以上は増えないけど」
「そうなんだ。とりあえずワーイと飛び付く!」
一誠自身ではなく、金色の片翼に飛び付き、急激に膨らんだ羽毛に埋もれ感触と弾力、
温もりを堪能する。
「うむ、昔と変わらず神々しい輝きを発する翼だな」
英雄もポンポンと触り出す。吸いつくような羽毛だが、やんわりと押し戻される感じが
無意識に口元が緩む。
「これは天使の翼なのか兵藤くん?」
「似ているけど違うな。ま、見た目は天使の翼と同じだから・・・・・触ってみる?」
「で、では・・・・・お言葉に甘える」
「私もね」
義経と弁慶も翼を堪能する。評価は上々で弁慶が寝てしまったほどだった。
そして、時は過ぎ昼食の時間となる。
「俺、弁当持ってきてないから今日は学食で食べるわ」
「僕もー!」
小雪もついてくる形で、小雪に学食がある場所へ案内してもらった。
広々とした空間、様々な料理やデザートの名前が壁に掛けられていて学食組の生徒は
それを見て何を食べようかと友人達か一人で悩んでいる姿が見れる。
「一誠は何を食べるのー?」
「カレーハンバーグかな」
「じゃあ、ボクはハヤシカレー!」
食べるものを決まれば食堂のおばちゃんに代金を払って作ってもらう。
しばらく待つと二人のカレーが出来上がったので座れる席に座って食べ始める。
「美味しいねー」
「そうだな」
他愛のない雑談。朝、決闘で勝った一誠がこの場にいることを周囲の生徒や教師が
意味深な視線を送る。そんな中、堂々と真っ直ぐ一誠と小雪に歩み寄る人物がいた。
「こんなところにいたか兵藤一誠」
「ん?―――お前は」
「お前もこの学校に来ていたとは知らなかったが、お前ほどの者ならば当然と言えるだろうな」
以前、一誠を会いに来た男―――サイラオーグ・バアルが再び一誠に声を掛けた。
「他にもこの学校に来ていたんだな」
「お前は今回が初めてだったな?強化合宿時に優秀な生徒は他校へ一時的に編入し他校に刺激を与え、自分も更に向上する。早速お前はこの学校の生徒の者たちに刺激を与えたがな」
片手で持っている料理をテーブルに置いて座り出すサイラオーグに問うた。
「先輩は初めてじゃないな?」
「今年で三度目だ。俺たちの他にも一年の後輩もいるはずだ」
「ふーん。そうなんだな」
特に興味がなさそうでサイラオーグとの話は平行線で進む。今回の強化合宿の事や、
互いの強さの秘訣と互いが興味を持つ話をしながら小雪の相手もした。
「所で兵藤一誠。あの力は何なのだ?」
「あの力?」
「お前が全身黒くなったアレだ」
百代とエスデスを一蹴した力だと指摘した。合点した一誠は朗らかに言った。
「分かんない」
「分からない?」
「修行しているうちにできたんだ。とある神さまと稽古してもらった時にな」
「神と稽古とは凄まじい体験をしてきたのだな。感服する」
自分とは違う修行に笑みを浮かべた。悪魔が他の神話体系の神々に稽古を
つけてもらえるなど有り得ない。だが、悪魔よりもさらにそんな機会を得ることは
難しい人間が体験した。あの強さの秘訣がそれならば十分過ぎるほど納得ができる。
「唯一分かっていることは相手の力、魔力や気といったものを全て奪ってしまうことなんだ。
「リアスみたいな悪魔特有の力のような感じか。兵藤一誠の両親は人間なのだろう?
ならばそれより前、先代の者たちの中に悪魔みたいな異種族がいたかもしれないな」
「んー、そんな感じなのかな?」
食べ終えている一誠は自分の力に疑問を抱いている。誠や一香にすら分からない特殊な力。
だが、その力を以ってしても一誠は敗北した。
ただ、神は興味深そうに見聞していた印象が残っている。
「ちょっといいかしら?」
何も持たず声を掛けてきた女子。一誠たちがその女子に目を剥ける。
黒と紫が入り混じったロングストレートの髪。黒い瞳で長身的な特徴の女子だった。
一見普通の女子生徒に見えるが雰囲気はどこか不気味さを醸し出す。
「何か?」
「貴方が気になった一人の女だと思ってくれればいいわ。私はシオリ。よろしくね兵藤一誠くん」
「どうもよろしくお願いします」
挨拶を交わしたところで地鳴りが生じ、段々とこっちに近づいているのか大きくなり、
「こぉら一誠!姉の私を差し置いて別の歳上のお姉さんと仲良くなんて許さないぞ!」
百代が怒涛の勢いで駆け寄り、一誠を捕まえるとどこかへ強引に連れて去った。
―――○●○―――
「え”、どういうこと」
「どういうこともなにも、お主は強化合宿が終わるまでワシの家に居候してもらうだけじゃ」
「そんな話、学校でも聞いてないんだけど」
「ふむ、報告が行き届いておらんかったのかのぉ」
放課後となると鉄心が一誠に訪れ今後のことを告げたが、一誠にとっては聞き覚えのないことだった。
「着替えとかないんだけどどうすれば?」
「下着ぐらいは自分の小遣いで買ってくれんかの。その他必要な物はこちらで用意する」
「因みに俺と同じ目的でここにいる三年生の先輩は?」
「あの者なら島津寮に宿泊する。一年生と一緒にな」
「何で俺だけ川神院に?」
そう言う事なら自分も島津寮とやらの寮に泊まる流れではないのかと疑念を抱く。
鉄心は口元を緩まして朗らかに言った。
「お主はワシの個人的な私情で川神院に来てもらいたいのじゃよ。また昔のように、の」
「・・・・・このこと、百代や一子には?」
「まだ教えておらんよ。ああ、お主の家族には伝えておるからゆっくり川神院に来るといい」
それだけ言い残し、鉄心はいなくなると一誠はその言葉に甘えるように学園の中を歩き回る。
教室の中も除けば男女の生徒たちがいて、一誠がいるクラスとは異なっていた。いや、
これが当然の姿なのだろう。兵藤家の同年代が傍若無人、暴力、欲望のまま行動して
いなければ偏ったクラスにはならなかっただろう。歩きまわり、玄関に赴き靴を履き替えて
校舎から出た。部活動をしている光景も眺め、一誠は最後に弓道部へ足を進めた。
「失礼しまーす」
関係者以外立ち入り禁止上等とばかり、声を殺して中に入ってみれば、
弓道部の部員たちが神経を研ぎ澄ませ、心を落ち着かせ、集中して遠くにある的を
狙って矢を放っていた。静かにその様子を見守っていれば案の定、
部外者がいることを気付かれる。
「あなた、誰ですか?」
「あ、どうも。兵藤一誠と言う。部活の見学をしていた」
「兵藤一誠・・・・・ってあの兵藤!?」
ザワッ!
驚愕の声が部員たちの耳にまで届きざわめきが生じた。これでは部活どころでは無くなったと、
申し訳なさそうに頭を掻く一誠は一人の部員に告げた。
「なんか悪いな。邪魔したから帰るわ」
「い、いえいえっ!ど、どうぞ見学してください!顧問の先生はまだいませんけど!」
「あー、そんな緊張しないでくれ。普通の一般の生徒だと思ってくれ」
苦笑を浮かべお言葉に甘えた一誠は邪魔にならないところで静かに佇む―――かと思えば、
「俺もやってもいいか?」
「えっと・・・・・部長」
判断をできかねて弓道部の部長に乞うた。クールビューティーな眼鏡を掛けた女子が
顎に手をやって悩む仕草をした後に頷いた。
「ええ、構わないです」
「ん、ありがとう。久々に弓を射るな」
弓矢を受け取り、真っ直ぐ的に向かって立てば弓の弦に矢を備えて静かに力強く射る姿勢に入る。
一誠の様子を見守る部員たち。真剣な眼差しで的を見据え、
呼吸をしていないかのように静かすぎる中で
的の中央の部分を狙って矢を手放した。一拍遅れてタンッという音が的から聞こえた。
部員たちの目に入る矢が刺さった場所はど真ん中だった。
「ふぅ、腕は鈍っていないようだな」
自分の結果に冷や冷やしたと苦笑を浮かべた一誠に拍手が送られた。
「あ、あの、お上手ですね」
「狩猟が得意な神さまに鍛えられたからな」
「神さま・・・・・?」
「おう、神さまだ。止まっている的ならともかく動いている的を当てるのは結構難しくてな。
まぁ、久々に弓矢を持ったけど腕は落ちていないようで安心した」
弓矢を部員の一人に手渡し、この場から去る最中。
「ま、また来てくださいね!ご指導をお願いしたいので!」
背後から乞いの言葉が聞こえ片腕を上げながら川神院へ向かう。
既に空は主に染まり切って夕暮れの時刻。あの夕陽を見てある事を思い出す。
『お前のことが気に入った。私とずっと一緒にいてくれ』
あの頃はまだ恋愛の「れ」すら分からなかった一誠だったが、今は違う。愛しい女性と
遅くなったが結ばれた。それでも自分のことを好きだという異性は多くいる。
一誠は優しく言い方を悪くすれば優柔不断。誰一人として贔屓もせず、
平等に接したいと思っている。
「・・・・・そろそろ言わないとダメだよなぁ」
「何がだ?」
「ああ・・・・・って、なんでいるの?」
独り言として呟いたはずだったが何時の間にかいたエスデスが背後にいた。
「弓道部から出てきたお前を見掛けた。声を掛けようとしたら悩んでいたようでな。
で、なにを言わないとダメなのか教えてくれるか?」
抱き寄せられ、エスデスの体の柔らかさと甘い匂いを覚える。
そして同時にこの
「エスデス、聞いて良いか?」
「ん?なんだ」
「優柔不断な男って嫌い?いや、好きな人がいるのにそれでも好きだという
女も好きになる男は嫌いか?まぁ、俺のことだけどさ」
遠慮がちに言う一誠の問いをキョトンとして―――一拍して盛大に笑いだす。
「・・・・・そこまで笑う?」
「お前のことだから『皆大好きだ』と言うのかと思っていたんだ。
なんだ意外と気にしていたのだな?
自分が女にだらしない浮気性のある男だと思われたくなかったからか?」
「・・・・・(コクリ)」
口で言うのも何だか嫌で首を振って肯定した。最低な人間にだけはなりたくないと
一誠は常に思っていた。複数の異性と付き合うのも人としてどうなんだと思っているほどに。
「好きなようにすればいいだけだ」
「それだけ?」
「人間は好きなことができないとストレスが溜まる。それは生物や植物だってそうだ。
欲求を満たす為には欲求を満たす為の行動をする。私だって欲求が溜まっているんだぞ?」
ニヤリと一誠に向かって笑みを浮かべた。
「お前と言う男と何時までも接する時間が欲しい。昔言っただろう。お前のことが気に入った。
だから私の物にすると」
「・・・・・そうだったな」
「お前は強い女に好かれやすい体質だ。なら、言い寄ってくる女共を酒池肉林の如く娶れば
いいだろう」
「その中に私も加えてくれればそれでいい」と加えるエスデス。未だに一誠を想う気持ちは
変わっておらず、一誠と結ばれることを本望としている。
好きなようにすればいい。
誠と一香からもそう言われたことはある。それは自分の意思で決めろの他にも自分の
気持ちを偽らず、真っ直ぐ前に進むことを意味する。
一誠は心がスッと軽くなったような気分となった。
「うん、わかった。ありがとう」
「ふっ。弟の悩みを聞くのは姉の―――」
得意顔になったエスデスの言葉は最後まで言えなくなった。
一誠が唇をエスデスの唇に押し付けた後に感謝の言葉を送ったのだから。
「今日から俺は好きなようにしてみる。まずは俺のことを好きだと言ってくれる家族に
返事をしたいな。だからエスデス、俺もお前のことが好きだよ」
綺麗な笑みを浮かべ、感謝の言葉を送った一誠はエスデスを残して川神院に帰宅する。
「―――――っ」
そして、残されたエスデスは鼻から一気に耳まで真っ赤に染め、何時までもその場で
佇んでいたのだった。
―――○●○―――
その日の夜。
「で、一誠は数日間この家に居候することは理解した。
ああ、それは私にとっては喜ばしいことだ」
不敵に笑みを浮かべ一誠を見る百代。二人がいるのは川神院のとある居間。
優勝区を食べ終え用意された一誠の和風式の部屋で畳の上に腰を下ろして
二人っきりの状態で会話を交わす。
「ふふっ、またこの家に過ごすとはな。いっそのことこのまま川神院に住まないか?」
「や、それは無理。俺にも家族がいるんだし」
「つれないなぁー」
浴衣姿の百代は不満げに口を尖らし、ジト目で一誠を見る。
その視線を気付き苦笑を浮かべる一誠は今いる部屋を見渡す。
「この部屋って昔俺が寝ていた場所だよな」
「ん?ああ、そうだな。ジジイが気を利かせたんだろう」
「なるほど、通りで懐かしさを感じるわけだ」
閉じられている戸に目を向ける。外はすっかり暗くなって夜空には
数多の星がカーテンのように煌めいてる。
「あれからもう十年近く。お互い見ない間に凄まじい成長を遂げたな」
「お前の方がよっぽど凄いと思うぞ。ドラゴンになって戦うなんて
以前のお前はできていなかっただろう」
「まーなー。でも、世界中で修行してきた成果だ」
「・・・・・世界には私が知らない強者はいるのか?」
ポツリと百代は問うた。一誠は脳裏に色んな人物たちの顔を思い浮かべ、苦笑して頷いた。
「強い人どころか、神さまがいるんだ。俺が手も足も出せない神さまはごまんといた」
「お前でも勝てない神か・・・・・戦ってみたいなぁ・・・・・」
羨望の眼差しを向ける百代。強者と戦いたい戦闘凶の百代にとっては未知の相手。
相手はどんな戦い方をするのか、どんな能力を持っているのか、
どれほどまでの力の差があるのか、知りたい。そう百代は一誠の話を聞いて
思わずにはいられなかった。
「一誠が強くなったのも神さまと戦ったからか?」
「それだけじゃない。猛威を振るう自然とか人間ではたち入れない秘境の地にも行ったんだ。
様々な経験を積み重ね、数えきれないほどの敗北をした結果今の俺がいる」
「そうなんだな。あー、それを訊いたら戦いたくてうずうずしてきたぞ!」
全身で表現する。構えー!と言いつつ一誠に抱きついて。
「・・・・・そーいえば、お前」
「ん?」
「不思議なやり方をしていたな」
首を傾げ不思議そうにいる一誠に手を刀のように突き出す。
「手から剣みたいなものでマルギッテの武器を斬っただろ。あれだよ」
「ああ、あれ?気で具現化したんだよ」
「具現化?ジジイみたいな毘沙門天のような感じか?」
「そうそう、こんな感じにだ」
手に淡い光が纏うと、光が刀剣のように造形していく。
装飾も意匠も施されていない何の変哲もない光る刀身が百代の前で作られた。
「氷は人の手で造形していく。イメージでな。だから気にイメージを籠めてやれば
案外簡単にできるんだ。簡単とは言っても、少し苦労したけど」
「そんなやり方もあったんだな。ただぶっ放すことだけが気の本質かと思った」
「あれって無駄に気を消失するってば。100のパワーから10ぐらい減ったみたいな感じで。
気の砲撃を連発したらそんなの金を後先考えず無駄遣いしているようなもんじゃん。
自信の身体に流れる気は他の人から金を借りれるようなもんじゃないし」
「・・・・・」
「どうして俺から目を逸らす?」
何気に痛いことを突くなと心中思った。百代の金銭的な事情と問題を知らない一誠に
とっては怪訝な思いだった。百代の心情を気付かない一誠は言い続ける。
「百代もできると思うから頑張れよ」
「ああ、空いた時間でもやってみるさ」
気の刀身を解いては抱き付く百代を抱きしめた。
「お?」
「そう言えば、あの時の答えを言ってなかったな、告白の」
「・・・・・」
告白と言う単語に百代の心臓が跳ね上がった。一誠はもう子供ではない。百代は敢えて言わず、
しばらくは楽しむつもりでいたが、一誠から言われては意識をせざるを得ない。
「悪い、俺はもう付き合っている人がいるんだ」
「・・・・・エスデスか?」
「や、リーラ」
―――あのメイドか。銀髪に琥珀の瞳を持つ美人な女性。一誠が選んだ女性が彼女なら納得できる。
常に傍にいた彼女に恋してもおかしくはない。ただし、エスデスだったら対抗心を燃やしていた。
それが例えリーラでも変わりはないのだが。
「そっか、お前は『好き』と言う感情がとっくの昔に芽生えたんだな」
「うん、だから純粋に百代の告白も嬉しい」
「・・・・・ん?」
フラれた雰囲気だったのになぜか告白を受け入れられたような感じがするのはなぜだ?
自分の告白も嬉しいとはまるで―――。
「エスデスに聞いたんだよ。複数の女と付き合う男は嫌いかって、そしたらなんて言ったと思う?」
「・・・・・」
答えが出ない。エスデスの性格は熟知しているつもりだが、
有り得そうな言葉が多すぎて口に出し辛い。
答えを発する言葉が喉の奥につっかえている百代に一誠は言った。
「好きにすればいいってさ」
「好きにすればいい?」
「普通に呆れられるか、愛想尽かれるのかと思ったけど、肯定も否定もしてくれなかった。
『好きにすればいい』。ただそれだけだった。その言葉を訊いて俺は」
百代の腰に腕を回して自分の方へ引き寄せる。
胡坐を掻く一誠の上に乗せられ、百代は見下ろす形で一誠と密着する。
浴衣と言う一枚の布越しに二人の体温と心臓の鼓動を感じ取り、何とも甘い雰囲気となった。
「俺は自分の気持ちに嘘を吐かないことにした。俺のことを好きでいてくれる女を俺も
好きでいようと、愛そうと思う」
百代に見上げ綺麗な金色の双眸を窺わせる。その瞳からは純粋な輝きが放たれ、百代を苦笑させた。
「子供の言い分だな。そんな気持ちでいると一体お前に好意を持つ女はどれだけ
増えるのか分かっているのか?」
一誠の頭の後ろに腕を回して、自慢の胸に押し付けた。
むぎゅっと一誠の顔を埋まりそうな様子だが、
真っ直ぐ百代に向ける金色の眼は赤い眼を捉えている。その眼を見て―――。
「(ああ・・・・・あの時見た眼はますます綺麗で格好良くなったな・・・・・)」
魅入った。成長した一誠に呼応して様々な修羅場を潜った百代を魅入らせる眼は
純粋な強さを宿している。
「・・・・・なぁ、一誠?」
「なに?」
「お前に告白しておいて何なんだが、私は戦うこと以外あまり分からないぞ。それでも
いいんだな?」
「百代より俺はこの歳になるまで修行に明け暮れていたんだ。もしかすると一般常識が
疎いかもしれない。まだ百代の方が分かっていると思うぞ」
そう言われ、口元を緩んだ。それはそれで、違う知識を与えて恥を掻いた一誠の
慌てっぷりを見るのも面白そうだと悪戯心が湧く。
「一誠、お前といれば楽しいことは続くか?」
「百代が大好きな展開になるのはたぶん間違いないよ」
「私の好きな展開かー。それは楽しみだ」
子供のように笑みを浮かべた百代は一誠に顔を落とす。鼻先と鼻先が突きそうなぐらい
近づけて訊ねるように口を開く。
「回りくどい話になったが一誠。お前は私のことが好きなんだな?
あのメイドと付き合っているにも拘らず」
「大事な、大切なものを傍に起きたい。ドラゴンも宝を守ることだってある。
俺の宝物は俺を好きでいてくれる家族だ」
「はははっ。私も宝だって言うのか。変わった口説き方だ。でも、いいな私の価値を
そこまで評価してくれる。宝石だの、一輪の花だのと言われるよりそれらを
ひっくるめた評価がスッキリしていい」
軽く笑った後、自分の方へ顔を寄せる。
「ん、ン・・・・・ちゅ・・・・・んむ・・・・・」
唇を合わせる。押し付けるだけのキス。
「・・・・・一誠」
「目が蕩けているぞ百代。美人なのに可愛い表情だ」
「っ!」
耳元で囁かれ、ビクリと身体を震わす。耳に掛かる息が何ともこそばゆく、
くすぐったいと体をよじらせたが
「ん・・・・・ちゅ」
一誠が積極的に唇を合わせてきた。突然のことで目を丸くするが
次第に目を瞑って一誠とのキスを味わう。合わせるだけの口付けは熱く、
深く二人の精神を昂らせて舌を絡ませるようになるのはあっという間だった。
「じゅる・・・・・ん・・・・・ぷはっ・・・・・・」
「百代・・・・・・れろ・・・・・んふ・・・・・」
「お、お前・・・・・なんか・・・・・んは・・・・・・巧くないか・・・・・?」
そう言われ、ムスッと一誠は不満そうに言う。
「殆ど俺はキスをする側じゃなくてされる側だったんだ。
―――今度は俺が蹂躙する為に隠れながらキスの仕方や舌技を色々と覚えたんだからな」
「お前の傍にいる女の子たちが鍛えたんじゃないのか?」
「生憎だが、俺は異性との恋愛よりも修行に明け暮れていた。
だから、百代が思っているようなことは何一つしてないよ」
不敵に漏らす一誠だった。そして、百代の唇に三度重ねた。
今度は一方的に舌を巧みに動かし、百代の口内を蹂躙していく。
静寂な部屋から水音だけが響く。荒く熱い鼻息、百代の顔がどこまでも真っ赤になり、
舌と舌と絡めることで甘美な刺激が電流のように脳まで感じ、
全身が熱くなるにつれて思考をじわじわと鈍らせられ思わず一誠にしがみ付く手に力が籠るタイミングを計って顔を放せば、口と口に銀色の液が橋のように繋がり、
絶え絶えに息を蕩けた顔でする百代に問うた。
「・・・・・このままキスをしながら寝ようか」
「・・・・・最後までしてくれないの?」
強気な発言をする百代が切なさそうに乞うた。濃厚なキスで潤った目から期待の眼差しを
向けてくれる百代に「ああ」と言った。
「盗みしている人がいるからな。そこまでは応じれない」
「 」
甘い気分がスッと絶対零度のごとく冷え切り、ゆっくりと一誠から離れた百代を見て
指を弾いた瞬間。戸が一人で勝手に開き、ドサッ!と戸の向こうにいた鉄心や釈迦堂、
一子が雪崩込んで入ってきた。三人の前に立ち百代は静かに話しかけた。
「覗きをしていたなんていい度胸じゃないか」
闘気が迸るのを呼応した髪まで逆立った。怒る百代を前に一子は涙目で身体を震わし、
「なんだ、俺たちのことなんて気にせずもっとイチャつけばいいのによ」
「ひ孫ができるのもそう遠くないかもしれんのぉー」
反省の色が全くない釈迦堂と鉄心。―――次の瞬間、鬼気迫る勢いで自分の師匠と祖父に
殺さんばかり飛び掛かった。(一子は一誠の手で避難された)