Black Bullet 〜Lotus of mud〜   作:やすけん

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人によっては今回は胸糞回です。

注意して下さい。


第12話

 

 

 

ジェリーは家族の写真を眺め、過去の回想に思考を浸す。

 

写真には父のマイケル、母のキャロルに姉のアンジェラ。それらに囲まれ、ジェリーと妻のクリスティーナが写っている。皆、楽しそうに満面の笑みを浮かべている。遠い、遠い昔の話のように思える。この頃は恐らく特戦隊の任務に就く前の休暇の日だったと思う。朝、突然クリスティーナが「赤ちゃんが出来た」と言ったんだと記憶している。家族でそれを祝い、最後に撮ったのがこの写真だ。翌日ジェリーは日本に旅立ち、1週間後、ガストレア大戦が勃発する。家族の安否は今なお確認されてはいないが、ジェリーには分かっている。1度故郷に戻った時、ステージIVのガストレアと遭遇した。その際『ヴァールドロンギヌス』にて退けたが、肉片に混じりクリスティーナに渡した結婚指輪が落ちているのをジェリーは発見している。他の家族も、絶望的だろう。ジェリーはクリスティーナの指輪と自身の指輪にチェーンを通しドックタグと共に常に身につけている。

 

守りきれなかった無念。産まれるはずだった我が子。その影をクラリウスに被せることでジェリーは気を紛らわしている。

 

頭を振り、現実に意識を戻すとジェリーは粛々と脱出の準備を開始する。

 

まずは石動(いするぎ)八重(やえ)の保護を依頼した。

 

什卧(じゅうが)から八重に関わる情報を粗方得て、それをそのまま石動に流す形で、彼には保護対象の概要を知ってもらった。

 

什卧と八重の関係に石動は思わず固唾を飲む。確かにショッキングな話だとジェリーも思う。

 

付随して、八重に関しての情報には穴ばかりある。はたから聞けば、まるで五翔会が仕組んでやった事のように思える。だが今はその事は重要ではない。石動はこれから現存するその情報でパターンを割り出しピースを構成し穴にはめていく事だろう。

 

顔や手には、その者の人生が現れるという。

 

情報も然りだ。その情報を熟読し、データ–––文字の更に奥を見つめる。小説を読んで世界を思い描くように、その人物像を鮮明に描いていく。

 

暗殺任務に関しても同じだ。相手に愛着が湧くほどに情報を解読する。長年付き添ってきた友人のように、何でも知っているという状態まで鮮明に人物像を掘り出していく。

 

そういう過程を踏み、任務に当たるのが特殊戦技教導隊の教えだ。

 

今頃石動はデータと睨めっこしながら風嵐八重(かざらしやえ)という少女の人物像を掘り出している頃だろう。

 

脳裏に石動のしかめっ面がよぎりジェリーは思わず1人笑う。

 

座学が苦手だった石動は、よく居眠りをこいていた。その度に目覚ましという題目で過激な運動(罰)を強いられるのだが、彼は懲りずによく眠っていた。

 

結果、学科は教導隊で最下位だが体力面は飛び抜けて優秀だったという残念なのか否か分からない兵士が石動八夜懿(いするぎやよい)だ。

 

情報判読は大丈夫だろうか? いや、そんな心配をするのは石動に失礼か。彼はとっくに1人前の戦士だ。

 

作戦立案から撤退までの全てのプロセスを1人でこなす独立工作員(シングルトン)。それを養成するのが特殊戦技教導隊だ。特戦隊出身者に、甲斐性無しはいない。

 

英名にしてSpecial(スペシャル) Combat(コンバット) Maneuver(マニューバー) Squad(スクワッド)出身者は世界で暗躍している。その戦果は凄まじい。

 

識別コード『ゴールドリオネル(光輝な叛逆者)』は目標を奪取するためにヨーロッパを横断。道中、各国の諜報員が妨害しにやって来るが、それをことごとく片付けてみせ無事に任務を完遂してみせた。

 

識別コード『クリムゾンフォッグ(深紅の濃霧)』は某国大統領を誘拐。大統領を奪還すべく軍隊が総動員されるが包囲網をかいくぐり国際裁判所まで護送した。

 

識別コード『ローズリコリス(甘美な猛毒)』は、メキシコの社会そのものと言って過言ではない麻薬カルテルを1人で壊滅させた。

 

単身で国政を一変させる事も可能なHigh-end warrior(完全無欠の戦士)

 

特戦隊、またはSCMSと呼ばれるこの部隊の部隊章は最高の切り札を意味するジョーカー。

 

地球の上に立ち、3つの心臓(生物の命、物の命、世界の命)でお手玉をしているジョーカーが描かれている紋章を持つ者がいたらそれは世界最高の兵士の証だ。

 

かく言うジェリーの体にも、五芒星(ペンタグラム)の他にそのジョーカーが右肩に彫られている。日本人の石動や神威は入れ墨を拒否したため、戦闘服の肩口にこの紋章が縫い付けてあるだろう。

 

今回はそんな特戦隊の人間が3人がかりで作戦に当たる。そんな事は前代未聞だ。通常ならば、作戦成功確率は限りなく100%に近いだろう。だが、相手取るのは機械化兵士。ジェリー自身は機械化手術を受けているので互角に渡り合えるかもしれないが、彼ら2人は人間のはずだ。

 

軽火器による対機械化兵士戦闘。恐らくはステージIVガストレアに素手で挑むようなものだろう。圧倒的な戦闘能力の差。だが石動はそんな戦闘に自信を覗かせていたのをジェリーは思い出す。一体どんな秘策があるのか?

 

気になって仕方がないが、考えたところで分かるはずもないのでジェリーは次の準備を開始する。大量のマガジンと45ACP弾、6x35mm専用弾を取り出し、丁寧に1発1発弾込めしていく。

 

その作業が終わればタクティカルベストとタクティカルベルトを装着。ベルトにはダンプポーチ、野外救急キット、ナイフシース、レッグホルスター、ハンドガン用のマグポーチを吊り下げる。それから居室の隅にうず高く積まれているケース群から2つケースを取り出す。ダイヤル式の錠を開け、中から取り出したのは鈍色に光る銃器。

 

ナイトホークカスタム社製シャドウホークガバメントを取り出し機能点検。セーフティは機能しているか。撃鉄は起こるか。引き金と連動し落ちるか。異常なく作動する事を確認するとマガジンを挿入、弾込め。そうしてレッグホルクターに収め予備マガジンをタクティカルベルトのポーチへ。

 

もう片方のケースにはナイツアーマメント社製KAC 6x35mm PDWが入っている。取り出して3点スリングを装着。次いでスライドを開放し薬室を点検。何も異物が入っていない事を確認しマガジンを挿入。スライドを戻して初弾装填が完了する。PDWのマガジンと手榴弾、フラッシュバンを数個ベストに収め装備類の準備が完了した。

 

銃や弾薬、装具を合わせ約18kg。今回は室内戦闘を想定した装備なので比較的軽く収まっているが想像してみてほしい。まず、人は両手に物を持つだけで思うように走れなくなる。それを約5kgの銃に置き換え、かつ10数kgの重りをつけ、全力疾走、急停止というストップアンドゴーや伏せたり立ち上がるという全身運動を長時間しなくてはならないのが戦闘だ。恐らくは一般人ならば装具をつけて30メートル走るだけでも相当にしんどいはずだ。それをジェリーら兵士は死と隣り合わせの戦場でコンバットストレスと戦いながら敵とも戦かわなくてはならないのだ。

 

戦闘行動中に息抜きと言える娯楽などは殆どなく、キャンプにいる時でも気は抜けない。食事も携行食で済まし、睡眠もロクに取れない事はザラだ。蓄積されていく疲労。過激さを増す戦闘。衣服はベタつき汗臭くなるが、風呂など当然入る事などない。日常から乖離(かいり)された世界。それが戦場だ。

 

どれだけの持久力と瞬発力。ひいては判断力に忍耐力が必要か想像出来るだろうか?

 

通常の軍隊ならば、隣にはたくさんの戦友がいる。辛い事を共有できる仲間がいる。それだけで、人間は困難に歯を食い縛りながらも耐える事が出来る。

 

だがジェリーら独立工作員(シングルトン)に仲間はいない。オペレーターさえいない。1人で進んで難局に当たり、それを克服しなければならない。強靭な精神力。そしてそれに負けない靭強な肉体が要求され、訓練は地獄を優に超えた凄惨な有様となる。

 

最高の切り札と呼ばれるには、人間をやめなければならない。まともな精神構造の人間ならば直ぐに潰れてしまう訓練を耐えられるのは、ひとえに内面に持つ凶暴性のお陰だ。

 

そこしか居場所がない人間に、退路など望むべくもない。ジェリーら特戦隊出身者は内面に手もつけられない獰猛な狂犬を飼っている。喉笛に食らいつかんと噛み合わせた歯の間からヨダレを垂らす兇暴(きょうぼう)な破壊衝動。日常生活では満たせられない欲求を求め志願した碌でなし共。

 

果てには抜け殻のように表情が無くなった者。笑いが止まらなくなった者。屍体(したい)でなければ性的興奮を覚えなくなった者まで特戦隊は人間から生物兵器へと変貌した奇人しかいない。

 

故に情けなど存在しない。敵だと判断した瞬間にはただの的を撃つように引き金を引く。まさに戦闘マシーンとなる。

 

瞳を閉じたジェリーは深呼吸をする。胸いっぱいに空気を吸い込みゆっくりと吐き出していく。今ジェリーを支配しているのは戦闘に先立つ不安や恐怖ではない。銃を手に取り、まるで無くしていた体の一部を取り戻したかのような安堵感だった。手に吸い付くようにフィットするグリップに肩口にスポッとハマるストック。

 

あぁ、やはり俺にはこれしかない……。

 

ジェリーは静かに時を待つ。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

その頃、四聖什卧(ししゅうじゅうが)は八重の事を考えていた。

 

誰しも命を懸けた大一番に挑む時は、大切なモノの事を考える。

 

風嵐八重(かざらしやえ)はガストレア大戦により家族を失った少女。戦争孤児だ。

 

大戦後、大半の孤児は親戚に身を引き取られるが、その後、多くの子供は性的虐待を受ける可能性が高い。子供は便利だ。体さえあれば金が稼げると里親は子供を売春宿へ売り飛ばす。

 

幼女、幼児趣味の男たちが代わる代わる肢体を舐め回し、自らの肉棒を咥えさせ、まだ小さな膣や肛門を無理やりこじ開け欲求を満たすのは、大きな争いの後はある意味ありふれた光景となる。

 

戦争の後に、男娼や女娼が現れるのは至極真っ当なプロセスと言って過言ではない。それは今までの歴史が立証してくれるだろう。

 

什卧は、そういった人種に対し特段感情は抱かない。そこにどんな背景があろうが、同情などは絶対にしなかった。だが、年端もいかない子供がロクに歩くことも出来ず、口も半開きになり閉じられなくなった状態だったなら、何も思わない人間はいまい。

 

だが、ガストレア大戦直後の国民は、全員が疲弊していた。鬱憤が溜まっていた。目の前の惨事さえ、「自分でなくて良かった」と思う程度まで人の道徳は堕ちていた。

 

什卧とて例外ではない。武術でつちかった力を駆使してガストレアと戦った。連日連夜、終わりの見えない戦いを繰り広げた。什卧の体から血の臭いがしなかった日はない。

 

消耗しきった体力に、擦り減らした精神。最早、目の前で子供が暴漢に乱暴されていようが不憫に思う程度だった。自分に何が出来るのか? 今日の飯でさえ苦心しているのに、他人を(おもんばか)る余裕などはない。見て見ぬふりを決め込むのが1番の得策となっていた。

 

だが当時、共にいた瀧華仁は違った。

 

子供の未来を守るため、彼は立ち上がった。最初は誰も見向きもしなかった。聞く耳すら持たなかった。什卧も、当初は何を言っているんだと思った。だが仁の熱い想いが什卧の傷つき凍てついた心を溶かすのにそう時間はかからなかった。

 

復興の激動期の最中、2人は子供たちを保護するべく組織を作った。有り体に言えば孤児院だが、お世辞にもそんな立派な建物ではなかったし食事も1日2食出せればいい方だった。より良い設備や環境を整えるため仁と什卧は東奔西走する。

 

そんな慌ただしい日々を送り、ある程度国内の情勢も安定してきた頃、施設の前に1人の赤子が捨てられていた。

 

置き手紙には、『風嵐八重(かざらしやえ)』という名前だけが記されてあった。

 

当然、そのまま見過ごすことも出来ずに施設で預かる事となる。

 

その後、什卧は八重を我が子のように可愛がる。すくすくと成長していく八重だが、彼女は次第に普通の女の子ではない事が露見していく。

 

コタール症候群に伴い、カニバリズム–––食人症を併発していたのだ。食人症は字の通りだが、コタール症候群は「自分は死んでいる」「自分から腐った魚の匂いがする」「自分には内蔵がない」といった身体性の否定等の脅迫観念に駆られる精神障害だ。そしてコタール症候群の人間は必ず墓場に行こうとする。墓場には仲間が沢山いると信じて疑わないからだ。

 

八重は度々姿をくらましていた。そして什卧が探しに行くと、彼女は必ず墓場で1人佇んでいた。「私の家はここ」と言って聞かない八重を什卧はいつも無理やり連れて帰った。

 

そうして月日が流れれば、八重の『内蔵がない』という感覚。『体が朽ちていく、腐敗していく』という感覚は益々強くなっていった。そこで八重は、内蔵を食べる事でそれを補おうとする。新鮮な人肉を補給し、体を保とうとする。

 

ある日、1人の子供が行方不明になる。その子は後に、数個内蔵が抜かれた状態で発見された。そんな怪奇殺人が幾度か繰り返される様になり、子供たちには極力外出を控えさせるように心掛けていた仁と什卧だったが、またふらりと八重がいなくなっているのに気付き什卧は墓場へと向かった。

 

そこで什卧は信じられないモノを目撃してしまう。

 

八重が人間の腹を開いて、内蔵に貪りついていたのだ。

 

これには流石の什卧も驚いた。八重に恐怖を感じた。だが、八重を導けるのは自分しかいないという使命感の元、什卧は八重を保護する。

 

仁にもこの件を報告した什卧は、その後の対応を協議した。

 

まずは八重を医者の元へと連れて行った。何度となく診察を受け、正式に八重がコタール症候群の人間である事が言い渡された。そして、それに伴い食人症まで発病させたという結果も。

 

重度の精神疾患。だがそれだけでは終わらなかった。悪い事は連鎖する。

 

人肉を食べれば発病すると言われるクールー病にかかってしまう。クールー病は自律神経に異常をきたし、筋肉のコントロールができなくなる。歩行困難や、腕や足などが硬直、筋肉の震えが止まらなくなることもあり、筋肉の異常だけでなく、脳にも症状が現れ、痴呆、記憶力の減退や感情が激しく乱れるなどする。さらに発症後1年程度で死に至る病とされている。

 

徐々にクールー病の症状を訴え始めた八重を、什卧は見ている事しかできなかった。

 

暴力からなら八重を守るだけの力を什卧は充分にもっている。だが今回は目に見えず実体もない『病』という敵になす術がなかった。

 

什卧は途方にくれた。自分の無力さに歯噛みした。人っ子1人守れず、何が天穹式格闘術の免許皆伝者か。

 

そんな折、五翔会は仁と什卧に接触する。

 

クールー病は不治の病とされ、あと八重の寿命は1年未満だった。それを助けたくても助けられない什卧に、五翔会は冥府魔道(めいふまどう)(いざな)おうと手練手管(てれんてくだ)要件を突き付ける。

 

そうして、主従契約は終了した。

 

『スレイブドッグス』となり、機械化手術を受け、四聖什卧(ししゅうじゅうが)ヴァジュラ・ヤクシャ(金剛夜叉明王)となった。

 

約束通り八重の病は全て完治。風嵐八重(かざらしやえ)は普通の女の子となって勾田(まがた)小学校に通っている。

 

だが什卧は知らない。八重は、五翔会が送り込んだホムンクルスである事を。予め発病を仕込まれていた子供だという事を。什卧と仁の戦闘力が欲しかったが故に利用された人工生命だった事を。

 

組織を裏切るような事があれば、ボタン1つで八重は再びコタール症候群にかかり、食人行為をするようになる。そして強制狂人作成課程(CMMP)に組み込まれ、什卧を殺す事に全力を尽くすようになる。

 

四聖什卧の未来は、険しい(いばら)の道となることが確約されている。

 

 





ほぉほぉ(´・Д・)」

なかなかにシリアスでしたね。

と、そんな事は置いておいて

次こそ

ジェリー様の素晴らしい

銃撃戦が出来たらなと思います。

私、一応なんですが

ミリタリー関係の仕事に従事してまして

恐らくは一般人より

そういった知識があるんじゃないかと

自負しとります。

なので

リアリティーを重視しつつ

架空の世界でしか出来ないような

カッコいいガンアクションを

出来たらなと思っている今日この頃。

頑張ります。
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