Black Bullet 〜Lotus of mud〜   作:やすけん

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第6話

 

 

蓮は2人の果たし合いに魅了されていた。

 

無我の境地で、ただひたすらに魅入っていた。

 

自分とは遥かに次元の違う戦いに辟易し、また、憧れた。

 

逆鬼の強さには驚きを隠せない。

 

自分と同じ無手にして、武器を持っている相手を圧倒し勝つ。

 

半蔵と手合わせした事もある蓮は、その事の難しさを身を以て知っている。

 

半蔵との稽古は対武器戦闘という視点ではいい経験になるが、他の視点から見れば単純なポテンシャルの底上げには繋がらない。

 

無手と武器とでは根本からコンセプトが違うため得られるものは少ない。

 

半蔵には申し訳ないが、これからは逆鬼の元、研鑽を積む腹づもりを蓮は決めた。

 

それもこれも、全ては強くなるため。

 

『赤い司祭服を着た男』を倒すために、もっと強くならなければならない。

 

蓮は隣に佇んでいる妖艶な女性に目を向ける。

 

思春期の少年には刺激の強すぎる肢体を持つ彼女は、先ほどの手合わせがまるで日常茶飯事とでも言いたげな渇いた目で2人の死闘をただ見ていた。

 

このレベルの戦いを見て恐れるどころか退屈そうにしている彼女も、相当強い筈だと蓮は思った。

 

そんな蓮の気配を感じ取ったのか、不意にパンクな麗人(れいじん)は鋭い眼光を向けてきた。

 

「どうかした、坊や?」

 

振り向きざま、大きく揺れる双丘(そうきゅう)。蓮はドキっとしながらも務めて目を向けまいとする。

 

が、嫌がらせか目の前の麗人は両手をその丘の下で組む。

 

たくし上げられたことによりその部分だけワンピースの生地が張り、蓮の意識は霧散。不自然に目を泳がせる。

 

「いや、あの………」

 

麗人は片眉を吊り上げ、怪訝な表情を作る。無言の圧力で先を促す。

 

蓮は麗人が持っている居合刀と、背負っている大太刀を見て尋ねた。

 

「あなたも、その………武術を?」

 

この問いに麗人は「ふっ」と笑う。

 

「ええ、これは飾りじゃ無いわよ」

 

そう言いつつ居合刀を掲げ、名を 『幻影魔剣(げんえいまけん)影丸(かげまる)』と説明。大太刀の方は『漣ノ太刀(さざなみのたち)十六夜(いざよい)』と言うらしい。

 

蓮は厨二病こじらせすぎだろ、と思いつつもそれは臆面にも出さず、燈咲刀の話を聞いていた。

 

が、気付けば麗人は抜刀の姿勢になっていた。

 

眼光も目だけで相手を斬れそうな程に研ぎ澄まされる。

 

『刃が鞘の中を疾駆し大気に放出されれば、その切っ先は蓮の衣服を縦横無尽に切り裂き鞘へと戻る』

 

凄まじい気迫に蓮もたじろぐ。だが不意に麗人は構えを解いた。

 

「こう見えて、天舞地這流剣術(てんまじげんりゅうけんじゅつ)の免許皆伝者よ。名は暁峰(あかみね)燈咲刀(ひさと)

 

その後も天舞地這流剣術の正統伝承者には『天越ノ堕地(あまごえのたち)』という刀と『悪華赫灼(あっかかくしゃく)神ノ馘斬(かみのくびきり)』という大太刀が与えられるという説明を受けたが、蓮には何のことやらさっぱりだ。

 

「天舞地這流……?」

 

「そう。聞いた事ないかしらね。天を舞い地を這う剣技。天から地まで、即ちこの世の全てのことを剣1本で片付けようとするロックンロールな流派よ。例えばあなたに気付かれずに服を斬り裂くほど剣撃が早かったりね」

 

「あぁ、そうなんですか…………え⁈」

 

蓮は自身の衣服を見て言葉を無くした。お気に入りのシャツは跡形もなく斬り裂かれ、既に地面に糸くずとなって山積していた。

 

「いい体してるわね。けれど、その歳でタトゥー入れてるなんてヤンチャ坊やね」

 

「…………」

 

蓮はさりげなく首筋の五芒星(ペンタグラム)刻印(タトゥー)を隠すが心は別の次元に飛んでいた。

 

一体いつの間に? あの一瞬構えた時か?

 

「ねぇ、聞いてるの?」

 

「え? ええはい。いや、でもこれは物心ついた時からというか、入れた記憶は無いんですよね」

 

「……そう。ところであなた、武術の心得は?」

 

「あぁ、ああはい。一応父から手解きを」

 

「流派は?」

 

「いえそれが、極意だけ教わって名前までは……」

 

「何よそれ」

 

「すいません」

 

「いや、別にあなたが謝ることじゃ無いんだけれど……」

 

そこまで言うと燈咲刀は視線を蓮の背後へと流した。蓮もつられて振り返る。

 

するとそこには1人の少女が立っていた。だが蓮はその余りの変貌ぶりに言葉を無くす。紺碧だったはずの王子系ファッションはグロテスクに赤黒く変色し、全体の生地の8割を欠損するという無残な有様に成り果てていた。辛うじて、女性が隠すべき箇所は布切れが覆っている。

 

「おやおや。朱音ちゃんは相変わらずハードね」

 

「まあな。だがちょっと本気出しただけでこいつはこの体たらくだ。使い物になるのか?」

 

朱音はぐったりしている黒羽の髪の毛を鷲掴みにするとまるでマネキンを投げるかのように躊躇なく放り投げる。

 

意識の無い人間は受け身など取れるわけもなく、このまま行けば黒羽は頭から落下する。

 

蓮は咄嗟に駆け出し黒羽をキャッチ、朱音を睨めあげる。

 

だが、とうの朱音に黒羽や蓮の事などは眼中にないようで、自らのパートナー(プロモーター)の元へとスタスタと歩いていく。蓮は取り敢えず黒羽の容態をチェックする。衣服の損耗ぐあいから壮絶な戦闘が思い浮かべられるが、彼女ら『呪われた子供たち』の持ち前である驚異的な治癒能力により、外傷は全て取り払われているようだ。脈も確認した蓮は再び朱音へと目を向けた。

 

「どうだ逆鬼、2度と歯向かう気が起きねぇ程に痛めつけてやったか?」

 

地面に突っ伏す形となっている半蔵を見下ろしている逆鬼に朱音は問うた。だが逆鬼の顔は珍しく神妙な面持ちだ。

 

「いや、俺の負けだ」

 

「ん、どう見たってあんたの勝ちじゃねぇか?」

 

「この体じゃなかったら俺は今頃死んでいる」

 

朱音はしげしげと逆鬼の事を見つめる。今しがた言われた言葉を頭の中で咀嚼しているようだ。

 

「そうか。それは良かったな。なら合格ラインは突破してんじゃねぇか? こっちのクソシエーターも、並みの相手なら余裕に渡り会える筈だ」

 

「ふむ」

 

「じゃ、あたしゃもう失礼するわ」

 

「おう。またな、朱音」

 

朱音は辛うじて残っている状態のポケットからアイパッチを取り出し左眼に装着。右眼の紅き三日月も落日の元消え失せれば、ふっと憑いていたものが離れたように彼女から一切の邪悪な念が取り払われた。

 

途端–––

 

「–––キャッ!!」

 

朱音は短く悲鳴を上げると周りを見渡し恥じらいの表情を浮かべる。耳まで真っ赤にし、両腕を抱えるように胸を隠しながら片脚を吊り上げるとそのままドスッと座り込む。

 

「えッ⁈ えッ⁈ やだ、また私………」

 

視線を右往左往させる朱音。蓮は不憫になり上着を着せてあげたくなるが、先ほど紛失したばかりだ。

 

「大丈夫?」

 

黒羽を横たえさせ、朱音の元へと駆け寄る蓮。今までの行動から彼女が完璧に分離している二重人格者であることくらいは察しがついている。恐らくもう1つの人格を作らなければ生きていけないほどの地獄を、彼女は味わったのだろう。殺人を全く疑問に感じないほどの冷徹な心を持つ人格を。

 

「あ、あなたはさっきの……」

 

「ありがとう。君のおかげで無事に助かったよ」

 

「えっ? え〜っと、そ……そうですか。なら良かったです!」

 

唇を柔らかく吊り上げ、彼女は微笑んだ。柔和な光を琥珀色の瞳に宿し、蓮を見上げる。

 

か、かわいい。

 

蓮は不覚にも、年下の幼女に心を躍らせた。だが即座にその思いを振り切るように(かぶり)をふる。しかし胸の高鳴りは収まる事なく、ドクドクとコメカミが脈動する。先ほどまで汚い言葉を連呼し、嬉々として戦闘をしていた少女と同一人物には感じられない。まず第一に、この少女はビックリするほどに可愛らしかった。お世辞でも何でもなく、芸能プロダクションにスカウトされそうなほどに整った顔立ちをしている。

 

違う。俺に幼女趣味は無いはずだッ!

 

心の中で絶叫する蓮。今一度正気に戻るために(かぶり)をふる。

 

「君、その……名前は?」

 

「えッ⁈ あ、私? 私は…………九条(くじょう)琥珀(こはく)…………で、す」

 

肝心な名前の部分は消え入りそうなほどに小さな声だったが、蓮はしっかりと聞き取った。

 

「琥珀ちゃんか。いい名前だね。俺は瀧華蓮(たきはなれん)。よろしくね」

 

手を差し伸べる蓮。対し琥珀はゆっくりと手を伸ばし出す。

 

「あ……はい。蓮…………さん、ですか。よろしく、お願い–––」

 

–––します、と言いながら手を握り返す琥珀は突如として顔を伏せた。彼女は顔から湯気が出てきそうなほどに赤面している。脈拍が速まり、体温が上昇しているせいか、少女の小さな手はとても柔らかく、温かった。慈愛の心が手を返し蓮の中に染み渡る。心の中に暖かな風が凪いだ。

 

丁度その時、黒羽の意識が戻る。

 

「ん……ん〜。あ、兄者? 兄者ッ⁈」

 

兄の半蔵が完璧にノックアウトされているのを認め黒羽は立ち上がり駆け出すが、その足取りはおぼつかない。

 

(つまず)いて転びそうになるのを支えたのは琥珀だった。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

まじまじと黒羽の顔を覗き込む琥珀。だが黒羽は目の前の少女を視界におさめると顔に驚愕を貼り付けるや、突き飛ばした。

 

ドッカと地面に尻餅をついた琥珀は、何かに怯える小動物のように体を(すく)ませ黒羽を注視する。その目には恐怖の色が映っている。

 

「このッ……サイコ野郎‼︎」

 

「え………………?」

 

琥珀は良心から黒羽を気遣ったのにも関わらず突き飛ばされ、遂には(いわ)れの無い罵倒を受けてしまった。琥珀の表情は、彼女の心面をそのまま表している。

 

「な、何よ⁈ あんた、あの勢いはどうしたのよ?」

 

「何の……事ですか?」

 

「……はっ⁈ え、ちょ……。はっ⁈」

 

黒羽は間抜けな声を上げる。

 

「黒羽ちゃん。とりあえずそのマント、琥珀ちゃんに貸してあげない?」

 

黒羽の視線は蓮と琥珀を何度も忙しなく往復するが、やがて諦めたようにため息を1つつくと、マントを取り外す。

 

「はい、これ」

 

ぶっきらぼうに手渡す黒羽に、琥珀は複雑な笑みを浮かべながらも「ありがとうございます」と呟く。

 

「黒羽ちゃん、残念だけど半蔵さんは負けちゃった」

 

蓮の(うそぶ)きに、黒羽はキツく奥歯を噛みしめる。

 

「そうみたいね」

 

「うん。……ん?」

 

蓮は黒羽がこちらを凝視しているのに気付いた。

 

「あんたは、あんたはさ、平気な顔しちゃってさ……」

 

黒羽の漆黒の湖面を連想させる瞳に、銀鱗の輝きが宿る。

 

「悔しくさ……悔しく、ないの?」

 

澎湃(ほうはい)と溢れそうになる悔しさを必死に塞き止めながら黒羽は蓮を睨み付ける。

 

俺が、半蔵さんが負けた事を悔しがる?

 

一体何を言っているのかわからず、蓮がただ黙していると「何とか言いなさいよ。この薄情者ッ」と怒鳴られた。

 

何故に黒羽が怒っているのか蓮には理解しかねていた。この場合、一緒に悔しがるのが普通の人間なのだろうか?

 

どこの馬の骨かもわからない自分と妹の蘭を拾い上げ、かつ面倒を見てくれた半蔵の敗北……。

 

今一度蓮は自分の脳内を覗き見る。見えるビジョンは逆鬼から指導を受ける事。その力を元に『赤い司祭服を着た男』を倒す。これ以外に考えられなかった。

 

「……僕はさ、親父を殺したあの男を許すわけにはいかない。だから、強くならなきゃならないんだ。言ったでしょう?」

 

「だからって、だからってさ………このッ、バカ。好きにしたら」

 

黒羽はプイッと濡れ羽色の髪を翻すと半蔵の元へと駆け寄る。だが不意に止まると、肩越しに黒羽は蓮に語りかける。

 

「私も兄者も、あなたと蘭ちゃんの事は、家族だと思ってたのよ。蘭ちゃんはわからないけど、少なくともあんたは、そうとは思ってなかったようね。残念だわ」

 

「………」

 

–––『家族だと思ってたのよ』

 

蓮の脳内に、黒羽が発した一言が延々木霊する。自分は何か重要な過ちを犯してしまったらしい。だが蓮にはそれが何なのか、(おぼろ)にも想像がつかなかった。

 

「兄者? 兄者? しっかりしてッ」

 

黒羽は半蔵を揺すりながら何度も呼びかける。

 

「………。……ぅん〜」

 

何度目かの呼びかけに、やっと半蔵は反応を示す。

 

「おいコラッ、バカ兄者‼︎ 起きやがれーッ」

 

「んん〜。ぅ〜ん……ん〜」

 

「いつまでも学校に行きたくない子供みたいに唸ってんじゃないわよ。いい加減起きなさいよ。分かってんのよ、さっきから起きてんのは」

 

「えっ、バレてた?」

 

「……」

 

黒羽の「マジか」という顔。

 

「冗談で言ったんだけど、本当に起きてたのね?」

 

「いや、今目が覚めた」

 

「嘘ね」

 

「本当だ」

 

兄妹間で視線が交錯する。何か意思の疎通でもしているのだろうか。半蔵は「何はともあれだ」と言ってピョンと立ち上がる。

 

「逆鬼、お前はやはり強いな。俺なんかじゃ全然–––」

 

「–––いや、お前の勝ちだ」

 

「おいおい、これが勝者の格好に見えるのか? バカにするのも大概にしろ」

 

そう言い半蔵は土埃に汚れた衣服を叩く。

 

「バカになどしていない。あの突きは完璧だった。俺は完全に意表を突かれ、躱すので精一杯だった。そこに鎌での切り上げ。お前の勝ちだ」

 

「……」

 

半蔵はその振り上げた鎌の折れた刃をしげしげと見つめる。

 

「納得いかないか? 何故刃が折れたのか」

 

「いや、手応えがまるで人体ではなかった。想像はつくがな。いざ目の前にするとな……というか、本当に実在したんだな。『機械化兵士』」

 

「ん? いや、お前のアクセスキーなら『新人類創造計画』の詳細も読めると思うが……」

 

半蔵は長い間を置いてから答える。

 

「……………そ、そうだったな。いやいや、確かそれ読んだな。『類人猿存続計画(るいじんえんそんぞくけいかく)』」

 

「「「はッ?」」」

 

その場にいる逆鬼、黒羽、燈咲刀が声を揃えて聞き直す。

 

「『類人猿存続計画』だろ? 知ってる知ってる。うん。知ってる知ってる」

 

「兄者。喋れば喋るほど情けなくなってくわよ」

 

「半蔵。あなたのオフィスにはパソコンすらないようだったけど」

 

「半蔵。お前知らないだろう?」

 

「あれだろ? お前みたいなゴリラをメカゴリラ化する計画」

 

「まぁ、あながち間違ってないわね」

 

「あ?」

 

半蔵の天然ボケに賛同した燈咲刀に逆鬼は怒りの視線を向ける。

 

「誰がゴリラだ」

 

「あなた、1回試しに檻の中でドラミングしてみなさい。どのゴリラの雄も大人しくテリトリーを渡すわよ」

 

しばしの沈黙の後、逆鬼は「ちっ」と舌打ちをすると半蔵に向き直る。

 

「今回お前たちをここに呼んだのは32号モノリスの調査なんかじゃない。発生したガストレアならもうとっくに自衛隊が駆除している。というかそれは昨日の話だ」

 

「はっ⁈」

 

「お前みたいなバカにどう説明すればいいかわからんが、とりあえずこれは適正試験みたいなもんだな」

 

「……?」

 

「我々MSSは国家元首たる『聖天子』様からある任務を受けた。それも極秘のだ」

 

「そうかそうか。大手は受注先もとんでもないな。で、それの下請けをしろと?」

 

「報酬の話は最早どうでもいいレベルの話だ。これは東京エリアの存続に関わる重大な任務である。1人でも優秀な人材が欲しい」

 

「MSSほどの大所帯なら、腐る程いるだろ?」

 

「いや、実際使える優秀な奴はごく少数だし、今そいつらは東京エリアにはいなくてな。あとの箸にも棒にもひっかからないチンカス共は東京エリアの死守に駆り出されるだろう。だから、お前たちが必要なんだ」

 

「待てよ逆鬼。東京エリアの死守ってなんだ?」

 

「お前……やっぱり知らねぇか。端的に言おう。『第3次関東開戦』と銘打たれるであろう大戦が、間も無く起こる」

 

半蔵は「へへ」と笑うと続ける。

 

「そんなバカな。一体何を根拠に? モノリスでも壊れるのか?」

 

「今はまだ解析中だが、1週間以内に32号モノリスは倒壊する。間違いなく」

 

「おいおい。いい歳の大人がつまらない冗談言ってんじゃ–––」

 

「–––信じられなくても良い。俺たちがやる事はそれとは全く関係ない」

 

「ん? んー……? さっきから全く的を射ないな」

 

「よし、分かりやすく言ってやろう。何者かが『封印指定物』を盗んだ。俺たちはそれの対応だ」

 

「『封印指定物』……それってステージV(ゾディアック)・ガストレアを召喚できる触媒になるっていう奴の事か?」

 

「そうだ。水瓶座を司るゾディアック、アクエリアスが近いうちに何者かに召喚されるだろう」

 

「本当……なのか?」

 

「もちろん嘘だ」

 

「は⁈」

 

「っていうのは嘘だ。いいか半蔵。今東京エリアはモノリスが崩壊するという最悪の事態なんだ。それに加えゾディアックまで襲来するとなればどうなる?」

 

「……いや、それはもう。とてつもない、騒動だ」

 

「秩序など容易くなくなるだろうな。だからこそ伏せてあるんだ」

 

「伏せてあるって、対処法は? 知らない市民はどうなる?」

 

「モノリスのほうは代替モノリスを建造することで決着している。アクエリアスの方は俺が対応することで一応決着をみている」

 

「お前、大丈夫か? そんな事出来るのか?」

 

「やるしかない。どんな無理難題でも、遂行するのがMSSの人間だ。この身に変えてでも、アクエリアスは俺が止める」

 

逆鬼は一瞬だけ遠くを見るように目を細めた。

 

「なぁに、これが初めてのロデオじゃない。心配するな」

 

「いや、全然信用出来ないんだが……」

 

燈咲刀が前に進み出る。

 

「半蔵。第2次関東開戦で自衛隊が快勝したことは知ってるわね?」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

「その時もね、実際はとても際どかったのよ。ガストレアにはバラニウムが有効だとわかって人類にもなんとか反撃の機会が出来た。最初こそ戦況は優勢だった。けれどね、すぐにバラニウムをものともしない個体が東京湾に現れたの」

 

逆鬼が捕捉する。

 

「ステージVだ」

 

「そう。第2次関東開戦では、アクエリアスが東京湾に出現したわ。それ以降、人類はジリジリと陣地を後退せざるをえなくなった……」

 

「そんな事があったのか? 全く知らないぞ」

 

「でしょうね。第2次関東開戦の詳しい戦況はハイレベルのアクセスキーがなければ閲覧出来ないわ。この世には存在しないはずのモノが大挙したんだから」

 

「この世には存在しないモノ?」

 

「『新人類創造計画』–––『機械化兵士』よ。戦術思想の数だけ『機械化兵士』はいるわ。その中でもこのゴリラ、じゃなくて逆鬼がいたところは特殊でね、『ステージVガストレアを圧倒撃滅せしめる絶対攻撃』をコンセプトに設計されてるの」

 

「な……っ? ゾディアックに?」

 

「そう。腕部、脚部に超大口径のカートリッジを内蔵し、撃発。その推進力をもってぶん殴る。なんとも野蛮な理念の元、このメカゴリラは設計されてるわ」

 

「確かに、野蛮だ」

 

「セクション22ではステージIVに対抗するために同様の仕様の兵士が製造されていたわ。確かコンセプトは『ステージIVガストレアの装殻を破壊できる絶対攻撃』。で、たまたまそこに迷い込んだゴリラを見て、執刀医が『これ、もっとデカいカートリッジ装填でんじゃね』って軽い感じで生まれたのよ」

 

「んなわけねぇだろアマ。ふざけるのも大概にしろ」

 

燈咲刀はチラッと逆鬼を見るだけで説明を続ける。

 

「……まぁ、本当はもっとシリアスだったと思うけど、とりあえずはアメリカンな発想ね。デカけりゃ威力も強えーよなーって。普通の炸裂式義肢は腕に10発。バーストと呼ばれる3発同時撃発があるらしいんだけれど、彼の1発とそれを比べるとすかしっ屁ぐらいにしか感じられないとか……」

 

「それは本当なのか逆鬼?」

 

「まぁ、それは置いといて要点を言うとだな、第2次関東開戦において俺はアクエリアスを撃退している。だから今回、その鉢がMSSに回ってくるのは当然の成り行きなんだよ」

 

「……その話を聞けば余計俺は必要なさようだ。MSSだけで事足りそうだがな」

 

「半蔵、強すぎる力は自身にも毒牙を向けるのよ。このゴリラは全弾同時撃発––アンリミテッドバーストを放つと義肢がバラバラに砕け散るのよ。加えて甚大な副次的被害の発生が予想されるわ。不測の事態に備えて人出はどうしても必要なの」

 

「ふむ……」

 

半蔵は逆鬼の体を改めて眺め見る。

 

巨躯と辞典で調べれば同義語で逆鬼と出てきそうなほどお手本の体躯。ゆうに女性のウェストほどはあろうかという二の腕。そんな腕の中に隠された爆薬は、さぞ強力だろう。

 

「逆鬼、その話は本当なんだろうな?」

 

「全て、まごう事なき真実だ」

 

「……わかった。どうせ仕事はないんだ。断る理由はない。今回の依頼、受けさせてもらう」

 

「そうか。これは秘匿性も高く、また危険性も桁外れだ。無傷では済むまい。それでも受けるか?」

 

「言っただろう、受けると。命の保証? 何を今更、覚悟ならとっくに決まっている」

 

「ほ〜。言うようになったな半蔵」

 

「おかげさまでな」

 

逆鬼と半蔵。2人の間を隔てていた何かは、今、静かに溶け消えた。

 

「半蔵、依頼内容は至って簡単。ゾディアックの撃破だ」

 

「望むところだ。俺も英雄の仲間入りをしようではないか」

 

ガッチリと2人の掌が打ち合わされ握られる。

 

黒羽はその様子を「男ってバカよね」という顔で眺め、琥珀は青春マンガを読んでいるように瞳をキラキラさせている。

 

対し蓮はその輪の外で、ただ成り行きを見ていた。ずっと黒羽に言われた一言が頭に引っかかり離れない。

 

武術を通し、人としての礼節、道徳を学んだ。ならば黒羽が言った言葉も理解出来るはずだ。

 

「…………」

 

しかし、蓮は雲を掴もうともがいているかのように、その答えが何なのかさっぱり分からない。

 

俺はやはり、他の人間のように普通の考え方が出来ないんだな。上っ面だけ善人ぶったって、やっぱダメか……。

 

蓮は五芒星(ペンタグラム)が抗議をあげるように疼くのを感じ、手で抑える。

 

この謎の刻印と中央に描かれている『57』の数字。自身の出生を知らない蓮はもどかしさを感じる。唯一知っているかも知れなかった父親は1年前に死去している。

 

この1年間。地下格闘場に通い、死闘に身を投じてきたのは腕を磨いて父親の仇を取るため。瀧華仁(たきはなじん)の無念を晴らすためだ。

 

手段は選ばないと、容赦はしないと誓った。民警のライセンスを取ったのも、支給される侵食抑制剤を貰うため。妹––蘭の体内侵食率を上げないためだ。

 

半蔵に拾われたのも、ただの偶然。半蔵でなくとも、誰かには拾われていたかもしれない。

 

そこに感謝の念が入る余地など、ありはしない。

 

何がなんでも『赤い司祭服を着た男』を殺す。

 

それだけのために、蓮はどんな辛酸にも耐えた。苦衷(くちゅう)の念も荒肝(あらぎも)に置き換え邁進した。

 

迷いなどない、俺は強くなる。

 

蓮は決意も新たに、逆鬼の肩を叩く。

 

「逆鬼さん。俺を弟子にして下さいッ‼︎」

 




はい。と言うことで5話をお送りしました。

勝手にアクエリアスなんか使ってますが、許して下さい。

そして毎回、中途半端に終わりますが、許して下さい。

力尽きます。

アクションはスラスラ書けるんですが、どうも日常的描写は苦手です。

さて、いままで他の方のブラブレSS読んでなかったんですが、読み始めて一言……

レンって名前の主人公多くねーかッッ‼︎‼︎‼︎

と。

かく言う私のモノも蓮なんですが………

では折角(?)なので、私の蓮ちゃんの名前の由来を1つご紹介します。

まずはサブタイトル。〜Lotus of mud〜 はですね、和訳すると『泥中の蓮』となります。

意味は汚れた環境の中にいても、それに染まらず清く正しく生きるさまのたとえ。です。

ありゃ、この作品のテーマがまんまサブタイトルに出てますね。

で、その主人公の名前を、これまたまんま蓮としてしまったと。

浅はかなり……

以上です。

次は敵サイドから描いてみたいなーっなんて妄想してます。

王道なんか行きたくねーわッ‼︎ という反骨の元、私はこのお話書いてます。

だから、散々煽っておいて

『赤い司祭服を着た男』、とんだ噛ませ犬だとか……。

あり得ます^ - ^


それでは、また会う日まで。

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