<<Chrono Drive Online>>(仮)   作:Wisadm

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S1.実力の一端 Side.シラナギ

 Side シラナギ 

 

えっとその、私の名前は白穂(しらほ) 凪(なぎ)といい、プレイヤーネームを<<シラナギ>>と名乗っています。

その日、私は友達に誘われて<<Chrono Drive Online>>というゲームを始めました。

前々から、よく友達と話しているときに話題に上がっていたVRMMOというものをやってみたいと思ったのが始まりです。

私がやってみたいと言ったのをかわきりに、それならみんなで一緒にやろうという話になりまして、予約までみんなでしてこのゲームをすることになったのです。

 

キャラクター作成で私はエルフという種族を選びました。やはり説明書というのはしっかり読むものですね。

エルフは魔力、俊敏性、器用さ、に上昇補正がかかるそうなので、魔法職や特殊魔法職なんかをしようと思っている私には都合がよいですし。

種族変更は端っこのほうにあり、危うく気付かずに設定を終わってしまうところでした。ですが、私にかかればこのくらいはちょれぇのですよ。

 

「さて、職業は…ふむ、サモナーなんか楽しそうですね。」

 

始めてからの数時間は、友達とパーティを組んで一緒に楽しんでいたのですが、一度町で装備を整えて少しレベルを上げてからの再集合ということになりまして。

町でこの魔女っ娘帽子というものを買ってしまいお金がなくなってしまいました。

この町物価がバカ高ぇです。初心者の足元見て吹っ掛けてやがりますね。帽子だけで1万円とか金銭感覚狂ってるとしか思えねぇですよ。

 

後、さっき気付いたのですが、このゲームの通貨は円です。ファンタジーなのに…夢も希望もねぇですね。

 

「これは、お金を稼がねぇとです。他にも欲しいものたくさんありますし、やはりクエストですかね」

 

「おい、お嬢ちゃんいい儲け話があるんだが、乗るかい?」

 

お嬢ちゃんとは失礼な!と思いつつ振り返るとスキンヘッドの筋肉がいました。

どうやら私はナンパされたみたいです。まあ、私に目をつけるとはなかなかですが、正直趣味じゃねぇですし、お嬢ちゃん呼ばわりも気に食いません。

儲け話の方だけ聞いて逃げましょうかね。

 

話を聞いたところによると始まりの場所には、極端に人が少ないときにだけ現れるユニークモンスターがいるらしく、そのモンスターを倒すと経験値が入らない変わりに大量のお金をドロップするらしいのです。

しかも、発生条件が難しいため強さもそこまでではないらしく初心者向けだそうです。

 

その言葉を信じて人がいなくなるのを待ってそこへ行くと、確かにそこにそのユニークモンスターが存在しました。

 

「おお、本当にいました。胡散臭いなとか思いましたが、まさかマジ情報だとは。しかし、本当に似ていますね…」

 

探していたのはメタルアメーバというモンスターで、水銀に顔を取り付けたような姿をしていました。

実はこのモンスター、あるゲームのはぐれたメタルなスライムにとてもよく似てまして。

経験値が入らない仕様なんて当て付けもいいところだと思うです。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいですし、さっさと狩るですよ。『サモン』ブルージェム」

 

サモナーの固有魔法『サモン』は契約したモンスターをMPを使い呼び出すもので、単純に戦力が増える魔法である。

単純に戦力が増えるといっても、敵を確認後に呼び出すことができるので使い勝手がいい。

反面消費魔力が高くあまり多く呼び出すことはできないので、冷静な判断が求められる。―――説明書より

 

呼び出したのはコブシ位の大きさの青い宝石のようなモンスター。

常に浮かんでおり、魔力があることが分かる。

攻撃方法は体当たりのみだが、先端が異様に尖っているため攻撃力は高い。

 

「さあ、やっちまうですよ! いくですブルージェム!」

 

その声とともにブルージェムが、はぐれm――もといメタルアメーバに飛び掛る。

どうやら強さは均衡しているようだが、均衡しているだけでは倒すには至らない。

ならどうするか。簡単だ、もう一体呼び出せばいい。

上限ももちろんあるし、デメリットもあるが呼び出せないわけじゃない。

そう作戦方針を決めるとデメリットである倍のMPを消費しブルージェムを呼び出す。

 

途中ブルージェムが一体減ってしまいましたが取りあえずの勝利を収めました。

メタルアメーバを倒すと、総額百万円が得られました。

 

私は思いました。「やっぱりこのゲームは金銭感覚狂ってんですよ」と。

 

さて帰ろうかと今来た道を振り返ると、さっきのスキンヘッドの筋肉がいました。

 

「よう、お嬢ちゃん。奇遇やなぁ。」

 

奇遇とか、どの口が言いやがりますか?

後ろからつけて来ていたくせに…気付いていないとでも思っているのでしょうか?

ミニマップにカーソルが映っていたというのに…

 

「それで?何の用なのですか?」

 

「そんな怖い顔するなよ。おとなしく有り金全部置いて行けば何もしないでやるよ」

 

「ふざけねぇでくださいよ!どうせモンスターだってリポップするんですから、そっちを倒せばいいじゃねぇですか!!」

 

私はふざけているとしか思えないようなそのセリフに怒りを覚えた。

 

「いや、実はな?あのモンスター、レベル1で倒さないと金が出ねぇんだよ。

だからよ、初心者のレベル1プレイヤーにこの情報流して狩るっていうPKプレイヤーは結構多いんだよ…俺みたいな、さ!」

 

筋肉男の顔がげひた笑みに彩られる。瞬間、私の隣を浮いていたブルージェムが筋肉男の振り抜いた大剣によって爆音とともに砕けて消えた。

…このヤロウ、私を殺して所持金を奪い取るつもりですか。

 

「キャ!!来ねぇでください、気持ち悪い!!」

 

「…言いやがったな?今、気持ち悪いって言いやがったな!!」

 

筋肉男は、怒りを隠そうともせず、大上段の全力で単純な攻撃を仕掛けてきました。

威力は高く、振りも早いですが、怒りで単純化しているので私でもガードすることはできました。

 

ですが、ガードに成功したにもかかわらず、HPが3割ほど削れていました。

困りましたね…MPは使い切ったから『サモン』は使えないですし、逃げようにもキャラのスタミナが低すぎて逃げ切れない。

そんなことを考える間にも敵は向かってくる。

 

まずい、まずい、まずい…

 

振り下ろされる刃を寸前で避ける、避ける、避ける… 

 

しかし、いくら現実でなくとも、それをいくら避けようとも、振り下ろされる刃に精神は削り取られて、怖い、とただその思いだけが増してゆく。

 

そして恐怖は、頭と体の動きを止める。

 

「あっ…」

 

その攻撃は、簡単なもので、大剣を横に薙いだだけのものだった。

でも、避けようとして足がもつれた…

 

そこからはスローモーションの様だった。ゆっくりと大剣が私に迫ってくる。 

それこそ、まるで死刑宣告でもするかのように…ゆっくり、ゆっくり…

もう少しで私に当たるというところで、偶然、前に出していた杖に大剣が当たり、そのまま私ごと吹き飛ばした。

幸運だったんだろうか? それとも不運だったんだろうか?私はその攻撃では死ななかった。

 

でも、このままだと、何かにぶつかって結局はHPが全損してしまうだろう。

もう諦めよう…怖いけど、我慢すればいい。そう思って目をつぶった。

そして、長い浮遊感の後、何かにぶつかった…

きっと私のHPはもうなくなるだろう…そう、思った…

 

でも、そんな私の予想は裏切られた。

 

「お、おい。大丈夫か…?」

 

控え目に安否を聞いてきたこの人によって

 

「え、う、はい、なん…と…か…ッ!?」

 

最初は何が起こったか上手く理解できなかったけれど、理解すると今度は顔が赤くなっていくのがわかった。

なぜだか、お姫様抱っこだった…

 

「え、あの、俺なにかした?」

 

その人は心配そうな顔で覗き込んできた。

 

「ひゃ、いや、あの、その、うぅ…と、とりあえず、降ろして…」

 

あまりの恥ずかしさにどもってしまった…

しかし、意味は通じたようでその人は顔を赤くして、慌てていながらも丁寧に降ろしてくれました。

 

しかしながら、私は赤くなったその人をみて、不覚にも可愛いと思ってしまいました。本当に不覚です。

 

「おいこら、テメェら…なにイチャついてやがんだぁ?ああぁ!?」

 

怒声のしたほうを振り向くと、私を殺そうとした筋肉男がいた。

 

「おい、にぃちゃん。その女こっちによこして、さっさとどっかいけや。そしたらにぃちゃんは見逃したるさかい」

 

するとその人は、脅しのつもりで言ったのであろう男の言葉を完全に無視し、

 

「あのさ、助けてほしい?」

 

突然私にそんなことを言い出しました。

 

正直に言うなら私は今、すごく助けてほしかった。例えこれがバーチャルで、殺されても町に死に戻りするだけだとしても、殺されるのは怖い。

でも、このステージにいて、いまだに初期装備のこの人はきっと初心者なのだと思う。

いったいどうやって私を助けるつもりなのだろうか?それになぜ私を助けようとしてくれているのだろうか?助けてどうしようというのか?

少し考えただけでいやな想像があふれ出す。怖い、助けられるのなら助けてほしい。

そして私は、頭で考えるよりも先に、その人に助けを求めていました。

 

「助けて」気が付くと私は短く、しかし切実にそれを口にしていたのです。

 

「わかった」と、その人は自身ありげにそう呟き、アイテムボックスから剣や杖でなく、指輪を取り出し自分の右薬指にはめて私を殺そうとした男に向き直りました。

 

「それで?なに?その娘にほだされて俺とやるの?参考までに言っとくけど、俺はもうレベル15だぜ?にぃちゃん今レベルいくつよ?」

 

レ、レベル15ぉ!?ま、まあ、あの人が涼しい顔をしているってことはそれ以上か同じくらいってことですよね…

 

「俺か?さっき始めたばかりだからまだ1だけど?」

 

だめです、私はここで終わりのようです…勝てっこないじゃないですか。

なのに、絶対に勝てないはずなのに、その人は少しも気にした様子もないのです。

 

「ぷ、おい、にぃちゃん?それで勝てるとか本気で思って…「バインド」」

 

その人が、そう呟くと男はそのまま動かなくなり、そのままその人は男の胸に手をかざし「絶招」と呟き、かざした手を握り打ち込みました。

 

その人がしたことはそれだけでした。たったそれだけのことでしたが、男は声を上げることもなくそのままポリゴンを撒き散らして弾けてなくなりました。

 

その瞬間、私の目は彼に釘付けで、ポリゴンの中に悠然と立つその姿は、今まで見た誰よりもかっこよく見えたのでした。

 

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