なんてこった!
もっと早く気がついているべきだった……。
実は、僕が学校休んで市ヶ谷で父とやりあった日に、大洗戦車道では大事件が起きた。
「え? ピンク?」
砲弾を運んで来た僕を出迎えたのは、ピンクのゾウ。アル中の幻覚。
ではなくて、いつのまにかピンクになっているM3リーでした。
「ああそれね。アキラくんが昨日学校休んでいたあいだに、みんなで塗り替えたの」
上から声がした。
車長用キューポラから顔を出した梓ちゃんだった。
「あ、あははははは……。」
僕の顔は、ちょっと引きつっていたかも知れない。
きっかけは、さらにその前の日の課業後。
元バレー部が景気づけに、八九式の車体に大きく「バレー部復活」とペンキで描いたこと
だったみたいだった。
大戦中のソ連戦車の砲塔に、白ペンキでスローガンが大書されているのをみた誰かが、
「それなら私らの戦車にもスローガンを」と思ってやったみたい。
それを見た大統領が、大量に金メッキ塗料(金属光沢)を仕入れてきて河嶋さんに塗らせ、
(小山さんは洗車でこりてたので帰った)、歴コスチームがさらに悪乗りして(以下略)。
それで「私たちも」ということになって、ピンクに塗ったとか。
うーん。戦車道ではありなのかもしれない。
だってよく「戦車道は戦争じゃない」って聞くから。
ただねえ、僕がいるときでいいじゃない。
こうして、営庭には異形の戦車たちが整列した。
金ぴかの35(t)。
スローガン入りの八九式。
桃色リー。
赤と黄と白と浅黄色の4色デモカラーに、ラテン語やドイツ語の名言、
さまざまな家紋や部隊章が書き込まれ、新撰組の隊旗と坂本商会の二引き、
風林火山と六文銭の(ポリシーなさそうな)旗指物を指したⅢ突……。
秋山先輩は「何か別のものにー!」と絶叫。
もーやだ武部先輩は「だから私たちも塗りかえればよかったのに-!」とご不満。
秋山先輩は、おどおどしているときと、イケイケの時の落差が激しい。
武部先輩は、平常運転。
唯一の戦車道経験者の西住先輩は、どう思ってるんだろうか。
「戦車がこんなになっちゃうなんて。戦車で楽しいなんて思ったの初めて」
……それを聞いた僕は、なんか逆に複雑な気持ちになった。
先輩にとっては、戦車も戦車道も楽しいものじゃなかったんだ……。
道理で、戦車に対して一歩引いたような、深くコミットしたくないような、
そんな雰囲気があったんだ。
想像がつかないわけじゃない。僕だって3代続いた凄腕軍人の家で、
父は僕を精強な軍人に育てるべく、僕に試練を課してきたのだから。
でも僕は、自分自身は、まったく軍人になりたくない。
父も僕が性同一性障害と判明した時点であきらめたのかといえば、今でもあきらめていない。
西住流という言葉が、蝶野一尉の口から出てから、僕なりに調べてみた。
でも、うちは戦車道の老舗です。とか、あとは精神論。
もっぱら良き婦女子の育成をめざしています的なことがでてくるだけ。
だから、僕のSNS仲間のなかでいちばん戦車道に詳しそうな
Elle çaさんに聞いてみることにした。
いつものように、SNSをタブレットで立ち上げる。
『西住流? やってみたいの?』
「いいえ、そういうわけではなく、僕の同級生がらみで聞いたんですけど。
ちょっと気になって」
『ふーん。……じゃあオフレコで。
まあ、いちばん近いものをあげれば、フルコンタクト空手かな。』
戦車道に対する僕のイメージからは、いちばん遠いところにある言葉だ。
「つまり、容赦なき実戦主義ですか」
『まあね。5の力を7に見せて10の力で叩く、とかいうお遊び要素はかけらもないわ。
ルールはただひとつ、最強であること。例えていえばどんな相手でも敬遠しない豪速球投手を
目指しているようなものね。カーブもシュートもフォークも投げないで三球三振に取る』
それは圧倒的だけど、見てる方はつまらないだろうな。
いや、やってる方もどうだろうか。
とにかく、先輩がやっていた流派とはそういうもののようね。
いまの先輩からはとてもうかがい知れない。
それはそうと、いちばん聞きたいことを聞かなければ。
「では、高校生MVPで世界大会強化選手の西住選手って、どういう方なんですか?」
レスが返ってくるまで、すこし間が開いた。
『西住まほかしら。西住宗家の嫡子よ』
つまりニュースに出ていたあの人は、家元後継者なんだ。ん?
「まほさんってことわりをいれたのは、何か意味があるんですか?」
『うん、彼女には今年になって家を出た妹がいるの』
そうか。もしかしたら西住先輩も宗家の娘で、事情があって家を出たということか。
「その妹って方も、剛腕型のプレイヤーなんですか?」
『正直なところをいうと、わからないわ。知らないんじゃなくて、よくわからない』
Elle çaさんにお礼のレスをして、僕はログオフした。
そして、動画サイトにあるかも知れない前年度の全国大会の実況動画を検索。
TV放送されていた決勝戦の動画がヒットした。
黒森峰女学園の副隊長の映像が映る。
たしかに、西住先輩だ。1年前の。
西住まほ選手もいる。黒森峰の隊長だわ。もうふたりは姉妹で間違いない。
……およそ似てないけど。
……え? どういうこと? これって……。
……なるほど。そういうことね。
Elle çaさんが「よくわからない」というのは、そうとしか表現しようがないからだわ。
西住流について彼女が解説したことが事実なら、先輩は家を出るしかなかった。
これまでの西住先輩のふるまいの理由も、わかったような気がする。
僕への宿題の「負けの研究」にしても、西住流とは接点がない。
おそらく、西住先輩の僕への接し方は、先輩が自主的にやっているものではない。
影にいるのは大統領だろうね。
僕がいずれ戦争のプロへの道に進むだろうと見越して、西住先輩という教師を付けた。
だけど、西住先輩の戦いへのアプローチは、西住流の絶対的な勝利至上主義じゃない。
勝つ策ではなく、負ける要素を全部潰す「不敗」を身上とする。
それはあの人の性格もあるだろうが、むしろ西住流へのアンチテーゼかもしれない。
まあ、僕の父なら西住流みたいなのが相手なら、正面切って戦わないだろう。
「バカといっしょに踊ってやる義理などない」といいかねない。たとえ部下が空挺であっても。
ただそれは、終了時間というものがない戦争の話だ。
しかし、西住先輩が持ってきた事例は、強者が鎧袖一触のはずの弱者にやられるものばかり。
先輩はもしかしたら絶対王者の西住流の中にあって、西住流を倒すことを考えていたとでも
いうのかしら。
そして今日も午後3コマと、補習時間使って戦車道。
河嶋隊長は「一列縦隊」「一列横隊」と命令するがろくにできていない。
まー、こののどかな練習風景からは、実戦想定してないお遊びなんだと気楽に思ってる。
西住流みたいな「メジャーリーガー養成ギブス」だったら……、僕はいいけど、
あとのみんなが音を上げるよね。
……なぜか僕だけは西住流レベルの訓練対象者だけど。
西住先輩も、別に今のままでいいと思っているようだ。
冷泉先輩、船こぎながら操縦してる……よたよたと。
「本日の課業は、これで終了する」
河嶋さんの宣言で、今日の戦車道はおしまい。と思っていたら、続きがあった。
「なお、急ではあるが、次の日曜日に親善試合を行う。
相手は、聖グロリアーナ女学院。当日は6時集合。以上」
ふーん。通称「聖グロ」ね。
有名なお嬢様学校だわ。
貴族的な校風となじまないんじゃないかと思うんだけど、戦車道やってんだ。
お遊びでやってる感じかしら。でも初手の相手としてはいいんじゃ。と会長が考えたのね。
でもなんか、西住組がざわめいてる。
とみるや、冷泉先輩が「やめる。戦車道やめる」といって、ひとりで去ろうとする。
「人間にはできることとできないことがある」って、そんな深刻な事情が……?
「朝の6時に、人間が起きられると思うか!」
……冷泉先輩。普通に起きてると思います。
結局、幼なじみのもーやだ先輩が、冷泉先輩のお祖母さん持ち出して脅かして、
なんとかもとのさやに納めました。なんだかなー。
ひとりだけカモ着ている僕は、チームメイトのみんなに校門で待っててもらっている。
時田さんが、みんな寮生だから、晩ご飯でもおさそいしたら? と言ってくれたから。
いつもより早く着替えを終えた僕は、校門に急ぐ。
「みんな、おまたせー」
話は2日前にさかのぼる
「――ねえ、みんなあさって、学校終わったら、高橋先生の家に来ない・」
「どうしたの? アキラ君」
みんなを代表して、車長の梓ちゃんが聞いてきた。
「実はね、高橋先生の執事さんが、みんながふだん自炊で大変だから、
晩ご飯つくってくれるっていうの。たまにはいいでしょ。来てよー」
「どうしようか?」
「うーん」
「……」
「行く?」
「行こうか」
「でも、高橋先生の家ってお屋敷でしょ。制服のままでいいの-?」
「それは気にしないでっていってたよ。
実は僕も、帰ると朝ご飯の時以外は、ずっとひとりなんだ。
おねがいだから、遊びに来てよー」
「じゃ、ひとりがさびしいアキラ君のために、みんな行ってあげようか」
「うん、そうしようかー」
独り寝が寂しいとか、空耳しそうになった。
でも、よかった。みんなきてくれて。
こうして7人の女子高生(微妙なの1人含む)が、集団で高橋宅を訪問した。
いまさらながら、先生の大洗艦上の家を見てみると、普通の家が大きくなったような外観で、
「お屋敷」じみたたたずまいはまったくない。
鍵は、開いている。
「じゃ、みんな中に入って」
僕は、普通に友だちを自宅に招いたような態度で、みんなにあがってもらう。
「こんにちはー」
梓ちゃん先頭に、みんなきょろきょろしながら中に入ると、時田さんが三つ揃いの
ダークスーツに、蝶ネクタイといういでたちで、にっこり笑って待っていた。
「わー、ほんものの執事さんだ!」
「執事さんっていえば、やっぱり立派な髭だよね」
「おかえりなさいませ、お嬢様がた。夕食の用意があと少しでできますので、
おあがりになってお待ちください」
時田さんが「おかえりなせいませ」というのは、当然わかっててやっていることね。
「なんか、ここのお嬢様になった感じー」
みんな、シンプルだけど趣味のいい内装をみまわしている。
ここも、あまり「お金持ちのお屋敷」感はほとんどない。
といっても、とおされた部屋は、食堂兼リビングといっても相当広く、
20人は食事できそうな部屋だ。
時田さんは、2chと7.2ch兼用のオーディオで、アナログのスローテンポのジャズをかける。
食卓は、中華レストランで使うような二重の円卓で、7人分の用意がしてある。
中華なのは、わいわいおしゃべりしながら食べられるようにとの気遣いだろう。
ただ、中華っていうと油っぽいイメージがあるけど、女の子相手に大丈夫かな?
時田さんは、最初にびんいりミネラルウォーターを何本がおいて、最初の1杯は、
時田さんが自分でみんなについでまわった。
そして、料理をとりに厨房に行く。
最初にもってきたのは、棒々鶏サラダ。
とりあえず前菜はさっぱりってことかしら。
今日は「家常菜」でいくみたい。
その方がみんながかしこまらなくていいわ。
「では、みなさま、どうぞ普段どおりお気楽になさってください。
ご自由におとりになって、お召し上がりください」
「私語とか、作法とかはどうでもいいって。学食や茶店みたいにしていいんだよ」
最初は他人の家ということで、どことなく落ち着かないみたいだった。
でも、六人に関して言えばつきあいは長いみたいで、すぐに普段どおりになった。
しゃべらない丸山ちゃんも仲間に入っているくらいだから、むかしからの付き合いかも。
音量少な目のスローテンポのジャズは、どこかの店にいるような雰囲気にしてくれる。
次に時田さんが持ってきたのは、春巻だった。
え? 点心のタイミングじゃないでしょ。と思って食べた。
「うそぉ!」
中身はプリプリのエビでできた乾焼蝦仁、じゃなくて女の子向けに辛みをへらして
トマト増やしたエビチリだ。
みんな一瞬呆然として、そのあとすぐ奪い合いになった。
「それ私の-!」
「ひとりでかかえこむな=」
「……(黙々とかきあつめる丸山ちゃん)」
「あんたダイエット中でしょ」
「いいの! おとといから絶食してるんだから」
時田さん、本気度高い……。
つぎに出てきたのは、アワビのクリーム煮。
やっぱり女の子受け考えてますね。
いままで、油たっぷりのギトギト料理はありません。
僕がひとりおしとやかにいただいているわきでは、
さっきにさらに輪をかけた壮絶な争奪戦がくりひろげられています。
そして、出ました。
人数分のフカヒレ煮込み「排翅」ですよー。
いまは戻し済みのが出回ってますからね。
一週間かけて戻しをすることはありません。
こんどはみんな、もくもくと食べてます。初めからもくもくな人もいますが。
金華ハムのゴージャスなだしがー! ああしあわせ。
こんどは、ひとりづつ小分けにされた料理が、ふた付きの器で出されました。
わーい、トンポーローだ。皮付き豚バラ肉の煮込み。
しかし、他のみんなは箸がとまっている。
やっぱりあれかな。あぶら身の存在感が強烈なのかな。
僕はおかまいなしに一切れ口に含む。
うーん、いい香り。
肉の線維がほろほろとくずれ、あぶらは臭くもなくとても甘い。
皮の部分も溶けちゃうような感じ。
もーサイコーです。
{IMG10223}
そんな僕がどんな顔したのかわかんないけど、
なにかみんなつられて食べ出しました。
「これじゃたりなーい!」
「もっとくださーい!」
「みんな。この料理、つくるの半日かかるから、おかわりはなしね」
そうしたら「そんなー」の大合唱。
しめは、ミニサイズの汁なし担々麺。
「これなに?」
「ジャージャー麺っていうんでしょ?」
「ちがうよ。これほんものの担々麺」
「えー? 担々麺ってふつうにスープにひたってるよね?」
「んー。本場四川ではこうなんだって。
日本に入ってきた四川料理って、こっちに会わせたアレンジがされてるのが多いの。
回鍋肉とかエビチリとか」
デザートは愛玉子(オーギョーチー)。いきなり台湾だわ。
お茶は、ジャスミン、じゃない。プーアル、でもない。
「キーマン茶。中国の紅茶でございます。
これにベルガモットの香りを付けるとアールグレイになります。」
うーん。マニアックだわ。
「アキラくん。いつもこんなごはん食べてるの?」
「まさかあ! 今日は一人前3万円コースよ」
「でも、自炊してないんでしょ?」
「ううん。ふだんは時田さんの下働き。先生の食客あつかいだけど、居候にかわりないから。
食器洗いは僕の仕事。だから今から洗い物しなきゃ」
「じゃあ、悪いから私たちも手伝う」
「いいわよ。きょうはみんなお客さんなんだから」
「そうやってすぐ自分ひとりでナントカしようとする」
「みんなでやった方が早いし」
「ごちそうになりっぱなしじゃ悪いもん」
「……(別にお反対してない)」
みんな、ありがとうね。
でも、ある意味みんなをだましてるんだと思うと、胸がちくちくする……。
このあと、時田さんがみんなにサンドリヨンつくってくれて、リビングで一休み。
時田さんがカードマジックを披露してくれた。
前に仕えていたご主人様は、そうとう芸達者だったらしくて、
そのひとにいろいろ教えてもらったらしい……。
「では、このトランプをさしあげます。お持ち帰りください」
「ホントにタネも仕掛けもないわね。あれ? これへんな絵柄」
「失敗兵器トランプと申します」
わはあ、ジョーカーが「試製拳銃付き軍刀」とか、どんだけー!
「玲さま。先生がお呼びです」
みんなでトランプやろうとしてたら、僕だけ時田さんに呼ばれた。
何だろう。
先生は、真向かいの部屋にいた。
そういえば、ずっとこの部屋にこもってたよね。何作ってたんだろう。
「これは、俺が15年前、自分の趣味である「理論」を構築していた頃に使っていた
解析ツールを大幅に改良したものだ。
今のサーバー機のマシンパワーがあって、ようやく実現したものだ」
画面のすみに「公道なんちゃら改 ver.9.11」とか書いてあるけど、見ない見ない。
「先生。これでまさか絶滅危惧種の研究を再開するんですか?」
「絶滅危惧種とはな……。引退宣言はしたが、お前のところの学園長とか、
筑波山パープルラインの爺さんコンビとか、死神先輩が……。は、どうでもいい。
これは、お前が戦車道を始めたので、そのための戦術解析ツール。
というか自立したアナライジングアプリとして再構築したものだ」
というわりに、並んでるユニットがあれだ。
「でも先生、ユニットが車ですよ」
「3D画像で、コンピューター上で男が戦車ころがしていたら変態だろう」
そりゃそうだわ。
「で、何を再現したんですか」
「お前たちが、今度聖グロとやると聞いてな。
いまのところ判明していることをシミュレートしてみた」
先生的には、Ⅳ号は「あれ」なんだ。
しかし、あとがわからない。
「Ⅳ号はわかるな。八九式は初代クラウン」
うわっ。ひどすぎる。
「38(t)は、スバル360」
車のくせにサスがトーションバーだという、別名「てんとう虫」ね。ってことは。
「先生。GTOはなんですか?」
「Ⅲ突だ。無砲塔だから柔軟性に欠けるだろ。GTOも直線だけ速い車だった」
それって、いろんな意味でひどすぎる。じゃあ、リーが残りのミニバンですか。
「で、僕たちはハイエースですか?」
「ああ。単純に乗車定員からだ」
せめてエスティマにしてください。
で、相手の聖グロといえば……。
……ロールスロイス1台に、ロータス・エスプリ4台。
何なんですか? この差は。
「じゃあ、ランチェスター第二法則前提で走らせるぞ」
ランチェスター則というのは、数と質で戦力差を割り出す方程式。
1つのユニットが必ず相手の1つとしか戦えない場合が第一法則。
集団での殴りあいとか、剣戟戦闘とか、単発銃の戦闘とか。
この場合は戦力は単純に数に比例する。
第二法則は、ひとつのユニットが複数の相手と戦える場合。
機関銃が出現してからの戦闘とか、機械化されてからあとの戦闘はこれ。
戦車戦も第二法則。
この場合は、戦力は数の二乗に比例する。
相手が数で2倍なら、こちらは1ユニットの強さが4倍以上でないと勝てない
今回は、互いに同数。なら、質の勝負になる。
聖グロがこちらを発見する。5両とも「発見」のシンボルがつく。
発見されたのはハイエース。
ロールスロイスの砲撃1発で大破した。あああ。
さらに連続して聖グロに発見マーカーがつく。
発見されたのはGTO、砲撃を受けて相手を発見。
エスプリ1台に「被発見」マーカーがつく。
しかし、装てんが遅い。照準も遅い。
GTOには、コマンダー、ローダー、ガンナー、ドライバー、オペレータの補正ゼロ。
聖グロは全部+50以上。ロールスロイスに至ってはコマンダー+110。ガンナー+90。
あっという間に装てん、発砲。
地形補正なし。隠蔽なし。回避率数パーセント。最終命中率99%。
ロールスロイスの75mmが側面に命中。被撃破。
今の戦闘で敵を視認したスバル360と初代クラウンが戦闘参加。
Ⅳ号のみが被発見状態ではない。Ⅳ号は隠蔽状態のまま前進。
しかし、スバル360の初期命中率0%って何ですか?
「お前がそう言ったんだ」
そうでした……。
スバル360は修正後命中率0%以下。あっさり撃破されました。
初代クラウンはとうとうロールスロイスに1発くれました。
しかし、砲弾貫徹力が装甲値のはるか下。
自分の装甲は、なきに等しい。
あっさり終了。
コマンダー補正+90、ドライバー補正+120のⅣ号だけが、悟られずに接近。
しかしとうとうエスプリの1台に発見される。距離500m。
聖グロはオペレーター補正が高いので、全車両が情報共有するのが速く、
5台ともⅣ号を発見した状態になる。
しかし、彼女らの砲撃はなかなか当たらない。
ついにⅣ号はロールスロイスを100mの至近距離にとらえる。
5台と1台が同時に発砲。
Ⅳ号は隠蔽修正、地形修正、回避修正があるので、エスプリどもの最終命中率は20%台。
ロールスロイスが70%。
Ⅳ号は最終命中率50%。
結果。
ロールスロイスとⅣ号が互いに被弾。
ロールスロイス、被害なし。
Ⅳ号、正面抜かれて撃破される。
勝率、限りなく0%に近い……。
「先生。どういうことですか?」
「見てのとおりだ。聖グロは高校では全国四強。妥当な結果だ」
大統領何考えてるんですかあんたは-!!!
「あー、なんかゲームみたいなものやってるー」
隣の部屋にいたはずのあやちゃんが、こっちを見ていた。
まさか最初からいないよね。
「なんか車が戦車みたいな撃ち合いしてるよ」
「なにそれ?」
先生とのやりとりはまったく聞かれてなかったようだ。
まさかこれが自分たちの運命だと知られたら……。
6人とも、開いているドアからこっちを見ている。でも、もう一度やってもらう。
「先生。今度は同条件で、第一法則でお願いします」
悪あがきなのはわかってる。
数に差がないんだから、第一でも第二でも、結果は同じだ……。
「んー。白と黒の車だけ最後まで粘ってたけど、あとは情けないね」
6人のチームメイトは、画面上で撃破されたのが自分たちだとは知らないで、
戦闘の推移を見て、一方的な結果にあきれている。
「お嬢様方。そろそろお帰りになりませんと、お休みの時間になりますよ」
時田さんがいいタイミングで、声を掛けてくれた。
僕は6人を玄関で見送り、先生と時田さんが3人ずつ車に乗せて送っていった。
「まあ、完全に数理だけの世界だからな。かならずしもこのとおりになるとは限らない」
先生の自信作のはずなのに、読みが外れるようなことをいっている。
「俺は、自分の理論が全く通じない相手を知っている。15年前だ。
何度書き直しても、追いつけなかった。
人間の力は、まだまだ理論でどうこうできるものではない。
……だから、お前たちが今度の日曜、どう戦うか見てみたい。
謎の転校生。お前の先輩に、とても興味がある。
15年前の、再来になるだろうか」
おっしゃるとおりなら、どんなことが起きてもおかしくない。
本当のところは、わからないけど。
次の日、生徒会長室で車長のみの会議があった。
当然、対聖グロの作戦会議。
隊長格の河嶋さんが立てた作戦は、崖下をキルゾーンにして、Ⅳ号をおとりに誘引。
一斉集中砲火で倒すというもの。
ふー。ずさんもいいところだわ。
アンブッシュは自分の存在を秘匿して、かつ、十字砲火の火線に引きずり込まないと。
僕の父相手にそんな作戦いおうものなら、懸垂1時間やらされる。
遠距離からでも、「ここにいますよ」とばれるでしょ。高台によっていては。
そしてもう一つ問題がある。
それは西住先輩が指摘した。
挟撃逆包囲の危険性だ。
一本道を向かってくるとはいえ、うちの遠距離交戦能力では、全部撃ちもらすだろう。
そうしたら河嶋さんが逆ギレした。
結果、大統領の裁定で、西住先輩が我々の隊長になった。
本当は最初からそうあるべきだったんだけど、先輩は戦車については腰が引けている。
……僕は、その理由の一端を知っている。
西住の家で、どんなことがあったのかまでは知らないけど。
そして、ついに日曜日、聖グロとの対決の朝を迎えた。
待っているのは、一方的な蹂躙か。それとも……。