失われた約束の地   作:米山ともき

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 脱線番外回 「女組」野望編

 

 

 第63回戦車道全国高校生大会の、たった1つしかない自由出場枠を巡って、恫喝と実力行使で

出場権を手にしようと暗躍する「悪の花園」こと花園青雲実業学園。

 そして、その前に立ちふさがったのは、普通の女子校生しかいない、およそ荒事などできない

茨城県立大洗女子学園。

 どうしても全国大会に出場しなければならない事情があるらしい、大洗の生徒会長、

「闇の帝王」こと角谷杏は、「地獄大元帥」と(世間では)呼ばれている西住みほと、

「リアルあしゅら男爵」の山本玲(アキラ)だけでは心許ないので、「七つの軍団」を結成して悪の花園に対抗しようとする。

 かつて、「怒らせればグンマー一円のヤンキィと走り屋が敵に回る」といわれた、

高橋医師の実弟氏とその舎弟氏。柳生みつ子なる隻眼(?)の剣士。名前がヤバい女。

「おかめ仮面」なる怪力女。どっかのマジノの隊長の通り名と同じ名前の少女。そして、

アキラの知り合いの知り合いという触れ込みの、うさん臭いスケバンスカートの女。

 ……角谷の人脈にいちいち疑問を持っていても仕方がないが、どこでなにをしていたのか

わからない奴らが、大洗女子に参集した。

 

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 実際に角谷がやったことは、自分が危機に立っているという意味の符丁、「迷い亀を探しています。アンジー」という一文を、全国紙の片隅に掲載しただけだったが。

 

 しかし、あの「悪の花園」とやり合おうとするものが現れたことで、いままでなりを潜めて

いた猛者連中が、大洗女子めざして集いつつあった。

 

 

 

 会長室に着信音が響く。

 電話ではない。航空無線だ。

 角谷が執務机の引き出しを開け、レシーバーをとりだして耳に当てる。

 

『Guidance limit, take over visually, after landing contact tower 118.1』

『Thank you very much visual,BD-10treenines』

 

「おーいアキラ、お前のじっちゃんだぞ。もう管制塔に引き継がれた」

「え? 晟じっちゃんが? きょうび何の用なのよ」

「なんか同乗者がいるみたいだぞ」

 

 またまたわけのわからないきてれつな人物でも連れてきたのかなー。

 まあ、どんなのが来ても今更驚かないけどさ。

 そんな予想をしながら、アキラは角谷と大洗艦飛行場に向かう。

 

 飛行場では、意外な人物たちが、アキラの祖父を待っていた。

 

「あ、死神先輩だー(棒)」

「だから死神いうなと何度言えば」

「お嬢様。今日はまたずいぶんとぶっ飛んだいでたちですな」

「時田さん。非常時だからかんべんして。……高橋先生。これから来るのは僕の祖父ですよ」

「ああ、実はお前の爺さんではなく、爺さんが連れてくる人物を待っている」

「それってどなたです? やっぱり医療関係者?」

「いや、そー大リコウ学術院の山本教授だ」

 

 はー、そういうことか。

 いま大洗艦は洋上だから、じっちゃん、調布あたりから乗っけて来たんだな。

 アキラはそれでやっと納得した。山本教授とは……

 

「高橋先生。その人、僕の大叔父です」

 

 高橋医師と死神先輩の顔が、「叫ぶ人」になってしまった。

 いくら苗字が同じでも、どこにでもいる苗字だし、まさかこいつの一族とは。という顔だ。

 角谷は、アキラの親類か。またとんでもないマッドサイエンティストなんだろーね。などと、

不埒な予想をしていた。

 

 

 

 タキシングしながらこちらに向かってくる、超音速軽飛行機。BD-10。

 駐機エリアまで自力で前進した機体は、すぐに飛行場付整備士たちによって目視点検される。

 アクリルキャノピーが開いて、2人の、老人と言っていい年齢の男たちが降りてくる。

 前席に座っていた操縦者の男が、彼らを出迎えに来た集団を見つけ、歩み寄ってきた。

 

「よー。生徒会長の嬢ちゃん。今日はまた残念な別嬪を連れてきたな。玲はどーした?」

 

 連れの人物は、まことに温厚そうな紳士で、パイロットの老人と兄弟とは確かに思えない。

 なんといっても、ヒゲがない。

 

「兄さん。これ玲だよ」

「はあ? 玲だって? さすがにその格好は明が泣くぞ!」

「じっちゃん。まさか大叔父さん乗せて、音速超えしてないだろうね」

「するか馬鹿もん。進は平服だろ。300ノットしか出しとらん」

 

 毎度毎度「アキラ」のオンパレードだねこの一族は。と思った角谷は、連れの人物を見て

かえって驚いた。

 

「ねえアキラ。この人本当にお前の親族?」

「そうですけど」

「温厚そうな常識人じゃない!!」

「それ、どーゆー意味ですっ!?」

「アキラ三代まとめてアレじゃないさ。それにそんな格好でいわれても説得力皆無だし」

「着せたのは大統領でしょう! それに僕は大叔父さん似だっていわれてるんです」

 

「まあまあ。君たち、落ち着きたまえ」

 

 たぶん内心ではアキラに自分に似ているといわれてショックであろう山本教授だったが、

三代まとめてアレといわれた兄がリアクションを起こすだろう前に、止めに入った。

 

 山本教授は、アキラの祖父が高校卒業後空自に入って、収入の9割9分9厘を仕送りしたことで

そー大に入学し、工学博士になってから岩崎重工や坂本商会で研究部門のチーフを務め、

坂本商会の技術をいっさい外部に公開しないことを条件に退社して、母校の教授に就任した、

機械工学のエキスパートである。

 兄が幹部パイロットになるに当たっては、逆に母校の通教を受けさせ、便宜を図っている。

 岩崎や坂本にいたため、陸海空すべての機械に詳しいが、学園艦についてはすべて網羅して

いるといっていい。日本における学園艦の建造元は、ほぼ坂本だからだ。

 研究の専門分野としているのは歯車、とくに高速回転に強いはすば歯車ややまば歯車だ。

 

 そういうわけで、診察より車を走らせる方がずっとうまいグンマー医大先輩後輩コンビは、

何かにつけて、とくにミッションギアについて山本教授に頼っていた。

 大洗自動車部が、そこらのファクトリーよりスキルがあるのも、間接的教育の成果だ。

 

 

 

「ふむ、この学園艦は見たことがないな」

 

 花園学園艦の赤外線写真を見た山本教授は、これは未知の学園艦だという。

 高橋医師が、ヘリで接触できた時間でさぐったデータから役に立ちそうなものを見せるが、

教授は、構造解析可能なデータは、たぶんメインサーバーにあるだろうという。

 そして、サーバー群から切り離れているらしいシステムの存在を示唆した。

 

「おそらく、船の制御をしているシステムは、物理的にスタンドアローンだろうな。

 それともう一つ。全長約10kmの学園艦にしては、喫水が浅い。せいぜい30mだ」

 

 つまり、上部構造より中甲板以下が圧倒的に重いと言うことだ。

 メガフロート構造の学園艦の喫水が数百mなのは、重心を低くするのが目的だ。

 外洋航行中は、バラスト水を入れて沈める。そうしないと巨体に比べて密度の薄い学園艦は

外洋の荒波であっさりひっくり返る。水に浮いてる風船のようなものだ。

 ところがこいつにはその必要がない。ということは、

 

「ブロック構造ではなく竜骨を持つ旧時代の軍艦構造かもしれん。装甲板と言っていいレベルの

 巨大な鋼板が縦横に組み合わさって、船体を形成しているのだろう。バルジもダミーじゃなく

 本物かもな。本気で戦争になったときのことを考慮している」

 

 日本やイギリスの軍艦にあった、バイタルパートだけを装甲で守る集中防御ではなく、

アメリカ艦やドイツ艦のような完全防護構造ということのようだ。

 真珠湾で着底した戦艦のうち、内部が誘爆して完全に破壊されたアリゾナ以外はあっさり復帰しており、ビスマルクは丸一昼夜砲撃をくらって、スクラップになってもまだ沈まなかった。

 逆にプリンス・オブ・ウエールズ、レパルス、フッド、大和型や金剛型なんぞは、

わりとあっさり沈んでいたりする。非防御区画が多いのだ。「全か無か防御」といわれる。

 フッドに至っては、命中即瞬殺だった。バイタルパートも薄かったからだけど。

 

「要するに趣味の世界。かかった金を考えれば変態としか言いようがない」

 

 というか、学園艦を軍艦化しておいて、誰も何も言えないなんて、PTA会長の蔵王先生って

何なんだ。とは誰も言わない。

 すぐチョコレート色の拡声器つき車やモーターボートに取り囲まれるから。

 

 とにかく、外部と回線がつながってないメインシステムに破壊工作をするには、

乗り込むしかないと言うことになる。

 

 そこに情報科の3年生がひとり入って来た。

 

「呼んだずら?」

 

 入って来たのは、いつぞやのボサ頭を首の後ろで束ねただけの、しゃれっ気まったくなしの

無駄にバストがでかい女生徒だった。

 

「ああ。またウィルス作る手伝いしてくれ」

 

 そういうと教授は、小型の補聴器に見えるデバイスを彼女に渡し、教授自身も

同じものを自分の耳に装着した。

 

 

 

 みほとアキラと角谷は、昼だから助っ人ご一行を連れて一番でかい学食に入った。

 勘定はもちろん各自持ちだ。

 ただ、今日は何かがちがった。

 

 左方向では、華さんがカレーの皿を積み上げている。

 それだけなら、いつもの光景だ。

 しかし普段とちがっていたのは、なんか華さんが苦しそうに食べていることと、

同じテーブルで、アラサーっぽいピンクの長髪の女性が、華さんよりすさまじい勢いでカレーを

平らげていたことだった。

 

「もう……食べ…られ…ま……」

 

 ついに華さんがギブアップ、というより気絶した。

 アキラは、もしかして対面の女性は……、とか考えている。

 

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「……あの、新崎祐季子さんですか? 元レスラーの」

「そーだよ。というかいまだに「現」だけどさ」

 

 その中年女性は、アキラのコスチュームを見ても動じる気配もない。

 連れらしい、30に手が届くかどうかの二人の女性は苦笑しているのだが。

 

「ブームが去ったら、世代交代が起きなくなってね」

 

 角谷が、両方の皿を数えている。

 大盛り皿、横須賀海軍12インチ砲カツカレーが両者30皿以上。

 本家ではひと皿完食で、写真と名前を飾ってもらえる代物だ。

 

「まあ、私はそこのお姉さんとちがって、大食いできるのはカレーだけだけどね」

 

 要するに華さんは、ちがう料理で勝負すればいいだけの話だった。

 

 アキラは後ろの二人を見る。

 

「もしかして、あなたが「むとめ」さん、あなたは「ちだね」さんですね」

「そー呼ばれるのって久しぶり」

「あはは……」

 

 赤っぽい髪の人の方はけろっとしているが、紫の髪の人の方はいけないものを見たような

顔をしている。

 当然だが、みほにはちっともなんのことやらわからない。

 けげんな顔を向けると、アキラが答える。

 

「要するに、ここには世界王者級女子レスラーが3人もいるってことです」

「はあ?」

 

 つまり、このお三方も、大洗が花園とドンパチやると言うので、

賑やかしに来たということらしい。

 

 

 

 一方でここまでついてきた女生徒の中で、名前を名乗らなかった人が、学食の右の方を見て

「げげっ」という顔をする。

 

 そこでは、高校生の女2人が、調理場にあった巨大ジャーを持ってきて、

どんぶりに白米だけをてんこ盛りにして、泣きながら食べていたのだ。

 

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 角谷が連中を指さして、名前を名乗らなかった彼女に隠れた方がいいよとハンドサインを送る。

 しかしそれは、少し遅かった。

 

「あ、バゾク・ゲゲーベン!!」

 

 女二人のうちガサツっぽい方が、彼女を指さして叫んだ。

 角谷が、あちゃー。という顔をする。

 

 一方で、アキラは今叫んだ奴に不審を抱く。

 

「なるほど、あなたがパンの耳と野草だけで生きている薄幸の美少女でしたか。

 じゃあ、あそこで女のなりをしている男は、中野予備校」

「アキラくん。中野予備校って、西住並みにやばい組織じゃん。この子に引っ付いてきたのね」

 

 なぜかみほは、アキラが奴を男と見抜いたことはスルーして、予備校の方を問題にする。

 

「おーい、有川ちゃーん。君って中野予備校だったんだ」

 

 もう片方の黒髪ロングは角谷の知り合いのようだ。

 アキラはいささか呆れている。

 

「大統領。中野予備校出身者にまで知り合いがいたんですか?」

「ちがうよ。あれは枕返高校生徒会長の、有川雄妻ってゆーんだ。中野OGなのは今知った」

 

 そこへ、河嶋の校内放送が入る。

 

『角谷生徒会長。至急会長室にお戻りください。ご来客です』

 

「なんだよ。西住ちゃん、アキラ、会長室に戻るよ」

「えー? 僕たちだけお昼抜きですかぁ?」

「……あとで何か作ってやる」

「わーい♪」

「……」

 

 アキラくんって、食べ物で釣られて戦車始めたのね。意外と子どもっぽい。

 みほは、そう思う「ことに」した。

 

 

 

 会長室で、小山の出した昆布茶をすすって待っていた客は2人だった。

 ひとりは、もうすぐ夏も近いのに、顔まですっぽり被うフード付きのヤッケを着込んだ人物。

 もうひとりは、河嶋のちんばメガネではなく、れっきとした片眼鏡(モノクル)をした

カイゼル髭の……しかし、アルゲマイネの将校服を黒から明灰色にしたようなものを着用し、

ワイルドな髪型の、貴族的と言うよりむしろ悪の組織の幹部にしか見えない壮年の男性だった。

 

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「お初にお目にかかる。私は福岡県伯爵高校、魔女科主任教師の布路桶だ。

 こいつは、イギリスから来ている臨時講師のセラス・ヴィクトリアという」

 

 片眼鏡の男性が、自分と連れを紹介した。

 アキラが、その男性の首のあたりをじっと見ている。

 

「おぬし、何がそんなに気になるのだ?」

「いやー。ちゃんと首がくっついているなー。と思いまして」

 

 すかさず角谷がまぜっかえす。

 

「リアルあしゅら男爵とリアルブロッケン伯爵の遭遇かー。胸熱だねえ。

 このぶんだとどっかにリアルピグマン子爵もいそうだねー」

「んなもんいるか! それに私はブロッケンじゃない。布路桶だ!」

 

 ……それにはいずれ出会うことになるが、この時点では彼らの誰もそれを知らない。

 アキラもさらに悪ノリする。

 

「鉄十字軍団の皆さんはいないんですかー?」

 

 これにキレるブロッケンならぬ布路桶氏。

 

「お前こそゲシュタポ館の手下どもはどうした!」

 

 

 

 そんなくだらんやりとりの傍ら、お互いに「コンニチハ」とあいさつするみほとセラス。

 

「セラスさん。もうすぐ夏なのに、どうしてそんな格好をしてるんですか?」

「ソ、ソレハ私ガ日ノ光ヲ浴ビルト、……灰ニナッテシマウカラダス」

「まったく……。こいつはいつまでも血を吸わないから、一人前のヴァンパイアになれんのだ」

 

 布路桶が嘆いてみせる。

 

「アキラ! お前が吸われろ。そしてお前もヴァンパイアになれ!」

 

 角谷の本気度は99%だ。

 

「ダメデス! 私ガ女ノ人ヲ吸ウト、ソノ人ハぐーるにナッテシマイマスネン」

「だから、大丈夫だよ。コイツの場合」

「あー。僕をヴァンパイアにするなら、中等部みんなヴァンパイアにしちゃいますからね」

 

 高等部たと、少なからずグールになるのがいるのだと思うアキラだった。

 もーやだ先輩なら大丈夫だろうけど……。

 

「会長には真っ先にグールになってもらいます」

「それも大丈夫だ。私はグールにならない」

「ぐっ。そんな……。じゃあ僕にチェダース村の牧師みたいなことを言わせるんですか?」

「できるもんなら、やってみろ~」

 

 うっ、そういえばそれはどうやっても無理だ、たとえ相手が小山さんだろうが。

 いまさらに自分がGIDだったことを思い出すアキラだった。

 というより角谷ェ~。

 

「そういえば。セラスさんのマスターはいらっしゃるんですか? 影の中にでも?」

 

 みほまでなんで知っているのだろう。きっと西住流が万能だからだろう。

 

「見マスカ?」

 

 セラスはスマホからマイクロSDを取り出すと、会長室の液晶プロジェクターにセットする。

 

 スクリーンに黒ずくめの背の高すぎる男。銃剣を構える巨漢の神父。そしてそれにはさまれる

白ずくめの眼鏡チビデブの男。計3人が、見たような駅前広場にそろって立っているのが映る。

 

『諸君。私はアキバが好きだ』

『諸君。私もアキバが好きだ』

『諸君。私たちはアキバが大好きだぁー!』

『A○Bが好きだ。地下アイドルが好きだ。とら○あなが好きだ。ソフ○ップが好きだ。

 ザ・グラン○ァニアが好きだ。ラ○オ会館が好きだ。牛丼専門サ○ボが好きだ』

『このアキバにひしめき合う、ありとあらゆるクールジャパンが大好きだ!』

 

「……もう、いいです」

「あの、私たちは別に花園を皆殺しにした上で幽霊船にしたいわけじゃないから」

「まさか、大洗にこないだろうな。このまま秋葉原と有明と大阪日本橋を往復しててくれ」

 

 角谷は、もうこれからはうかつにダ○ナ5555とかテ○オンとかにも行けやしない。と思って

渋面を作る。

 

 

 

 もう今日はなんて日だい。会長席で角谷は頭を抱える。

 すると無二の忠臣が注進にやってきた……。

 

「……会長。ドアの外に怪しい奴がいます」

 

 河嶋の注進に、露骨に「またかよ」という顔で応じる角谷だが、

中野予備校やカレーの天使や、血を吸えない吸血鬼なんかに比べりゃ、どんな奴でも驚かん。

と思い直して、「入れてやれ」と命じる。

 

 そして直ちに「つまみだせ!」と叫ぶハメになる。

 

 頭を下げてドアをくぐったのは男。しかしその身長が半端ない。

 かるーく2メートルを超えた十頭身の大男。

 それはまだいい。

 そいつは覆面をかぶっていた……。

 19世紀頃の夜会服みたいなものを着用した男がかぶっている覆面、というより着ぐるみ頭部は

動物、有り体に言えば戯画的な熊をかたどったものだが、なぜか口から釣り糸をたらしていた。

 

「ク○ーだ。アキラ」

「ええ。熊じゃなくてク○ーですね。大統領」

 

 以前ミヤタケを陥れるために、巨大掲示板で悪辣なスキルを使いまくった名無し主従は、

それがなにか、よくご存じのようだ。

 一方、みほは――

 

「――お父さん!!」

 

 そう叫ぶやいなや、怪人ク○ーの胸に飛びこんでガッチリ抱きついた。

 

「私には、き、君のような娘はいないクマ。わ、私は通りすがりの名無しクマ」

 

 怪人ク○ーは、目に見えて狼狽しながら否定する。しかし、みほは離れない。

 

「そんな十頭身の天井すれすれの日本人が、お父さんの他にいるわけないわ。

 家を出たまま3年もどこにいたのよー! お母様やお姉ちゃんはお父さんがいなくても

 何とも思わないけど、私はさびしかったのよぉー!!」

 

 そしてそのまま「うえっ、うえーん」と泣き出すみほ。

 こんな展開について行けず、ぼー然とする角谷とアキラ。

 

 しかし、こんな香ばしい奴を放置しておくほど、アキラは人格者ではなかった。

 

「西住常夫さん?」

「はい。――ちがうクマ。断じてちがうクマ!」

「このいひゅうもん」

「ぬしに言われとうなか……いや、何でもないクマ」

「こんどぐらのなぐれもん」

「おどれ! なんのなんの! ……何を言ってるクマ? わからないクマ」

「でも、みほ先輩にあんなことやこんなことする奴は許せないんでしょ?」

「当然だクマ! しほやまほがどうなろうが知ったことではないクマが、みほに悪さする奴は、

 地の果てまででも追いかけてボコボコにするクマー!!」

「やっぱりお父さんだー!! わーい!!」

 

 やっぱり釣られまくってるじゃないか。と思う角谷。しかし意外だとも思う。

 

「へー。西住ちゃんってファザコンだったんだー。てっきりシスコンだとばかり……」

「シスコンはお姉ちゃんですっ!!」

 

 西住家の最大の恥ずかしい秘密を、あっさりばらすみほ。

 前から疑惑ではあったのだが、これで確定になってしまった。

 でももうおそい。角谷がこんな美味しい話を放置しておくわけがない。

 明日には日本中の高校に知れ渡ることだろう。

 とにかく、みほ大事の常夫が、顔を隠して戦争に参戦しに来たのは間違いない。

 

 

 

 そして彼女らは、遅いお昼ごはんを食べた。

 角谷は人数が多くて面倒なので、鍋にした。

 

「にしても、しゃぶしゃぶというのは、限度がありすぎます」

「アキラ。只の湯じゃなく利尻と枕崎で出汁を取ったんだが、どうだ?」

「……おいしいです」

 

 

 

 かわいそうなセラス・ヴィクトリアは、お腹がくうくう鳴っているのに、

人間の食べ物は食べられず、一人空腹に耐えている。

 

 そこにやってきたのは、なにやら一仕事終えた万能執事の時田。

 手に持った皿には、ぶっとい茹でソーセージ、いや、もはやボロニアの輪切りが乗っている。

 

「セラス様。これならお召し上がりになれますかと」

 

 執事と言うだけで尊敬してしまうセラスは、おそるおそるだが一切れ口にする。

 

「……It's beautiful! This is the first ordinary food from the time that I had become a vampire.」

 

 そういうなり、むしゃむしゃそいつを食べるセラス。

 アキラがメモ用紙に筆談で、時田にたずねる。

 

「カキカキ(あれ、ブラッドソーセージでしょ)」

「カキカキ(はい。それも期限切れで廃棄寸前の輸血用血液で作りました)」

 

 やはり万能執事でゴミ処理係のウォルター・クム・ドルネーズがこれをやらなかったのは、

いまや不発に終わった裏切りにそなえていたのだろう……。

 

 

 

 

 

 

 そして、放課後。

 角谷は、作戦立案のできそうな連中を一室に集め、作戦会議を始める。

 ちなみに必死に参加したがる河嶋には、ちょっと笑気ガスを吸ってもらった。

 今は笑顔で眠っている。

 

 メンバーは、そー大大学院、山本進教授。枕返高校生徒会長、有川雄妻。

 伯爵高校魔女学科主任、布路桶教諭。なんちゃって隻眼剣士、柳生十兵衛みつ子。

 元ヤンキーぐんまー代表、高橋医師の実弟氏。西住常夫と推定される怪人。

 高橋家執事、時田。西住流仮目録、大洗隊長、西住みほ。

 性的マイノリティ代表、山本玲(アキラ)。

 そして議長、大洗女子生徒会長、角谷杏。

 

 まずブロッケン伯……布路桶先生が、魔女学科の諜報部隊が入手した情報を発表する。

 

「伯爵高校学校長から、大洗に協力するよう密命をうけてここに参上した教員の布路桶だ。

 ――まず、我が校の得た情報から、説明させてもらう」

 

 花園青雲実業学園は、花園系生徒4千人と、青雲系生徒5万人からなる学園だ。

 花園系は元々、大規模政治団体の総裁である蔵王なる人物が、自分の兵隊を育成するために

関東圏のワルを選抜して怖いお兄さんやお姉さんにするのが目的の学校だ。

 マシなのがテキ屋さんに弟子入りする程度で、あとの卒業生は政治団体を標榜するなんとやら

とか闇金だとか、そういうお仕事につく。

 青雲は、40年前エリート主義を掲げる某政治家の息子が、従順な奴隷を育てる学校にした。

 そのどら息子は両手に手錠をはめた以下省略に倒されたが、人間牧場体質はそのまま続き、

同じように支配されていた高校2校と合併し、今の生徒数になった。

 現時点では授業の代わりに艦内の農場や工場で奴隷的労働につかされている。

 無事卒業できるのは半数で、残りは艦内の火葬場で荼毘に付されるという。

 卒業生は、そのようなわけでブラック企業の社畜として引き取られていくそうだ。

 それでもブラック企業側は、簡単に潰れない社畜のさらなる「生産」を望んでおり、

花園の規模拡大の動きのひとつとして、戦車道全国高校生大会への出場を決めた。

 なお、伯爵高校には戦車はマレシャル駆逐戦車1両しかないうえ、生徒に吸血鬼はいないので

初めから出場する気はない。と、布路桶氏は締めくくった。

 

「なあ、角谷。ここにはもう奴らの兵隊が入り込んでるんじゃないのか?」

 

 高橋弟氏がそう懸念するのは、相手がステゴロなので、手口がわかるからだ。

 角谷も、それはもっとも。と思った。

 

「だからさ、こっちの布陣も一応考えたんだ」

 

 角谷は、大洗側の戦闘序列を配った。

 

「手順としては、非公式にだけど、戦車道の試合をやるからこっちに来い。って挑発する。

 場所は、大陸棚からも離れた洋上。

 基本的には、接舷はするけど奴らは乗船させない作戦で行く。

 水際で奴らの戦車を全部、できれば再起不能にする。

 そのあと、陽動部隊に派手に暴れさせ、潜入部隊が、花園のメインサーバーに

 アクセスポイントを設置して、ついでに持って行ったウィルスを流し込む。

 こちらから操作が可能になったら、青雲の生徒が閉じ込められている生徒房のロックを解除。

 風紀全軍が彼らをあとからかけるブリッジを通して逃がす。

 こっちの防衛隊は戦車倉庫に集結させ、ひそんでいる奴らを迎撃。全員戦闘不能に追い込む。

 なお、形式的に正当防衛であれば殺す以外のすべての行為をして構わない」

 

 ここで角谷は一呼吸置いて、続けた。

 

「――なお、ウィルスが発症した時点で、速やかに花園から脱出すること。

 さもなくば、命の保証はできない」

 

 αチームは陽動部隊であり、最大戦力を配置する。

 チームリーダーはみほ。メンバーは常夫ク○ー、十兵衛、おかめ仮面、元祖エクレール、

新崎、武藤、結城。フーテンタイガーとする。

 

 ζチームは工作部隊。チームリーダーはアキラ。メンバーは有川、酢堂大雑、バゾク、

情報科三年ハッカー。

 

 Σチームは電子戦部隊。山本教授、不良医師二名に加え、情報科が総出で加わる。

 

 Φチームは支援部隊。直接戦闘以外のすべてを行う。風紀委員全部隊。

 

 Ωチームは戦車倉庫の最終防衛隊。角谷直率。高橋弟、その舎弟、布路桶伯爵、セラス。

 潜入部隊鎮圧後は、残党狩りを行う。

 

「得物は、基本的にこれを使ってくれ」

 

 角谷が片手で持っているのは、三尺の六角棒。

 みほにも同じものを投げる。みほは片手で受け取ると、軽く振ってみる。

 

「角谷、俺たちにもそれをくれ」

 

 高橋弟がそう言うので、角谷は同じものを1本、投げて寄越す。

 手のひらで受け取る高橋弟だったが、受けたとたん「うおっ」と言う。

 

「なんだこりゃ。すごく重いじゃねえか」

「居合道なんかをする人が、真剣の代わりに練習でつかうものです。

 二貫目ですから、約8kgです」

 

 代わりに答えたのはアキラだった。

 そのアキラたちには、角谷は別なものを渡す。鞘に入ったサバイバルナイフだった。

 

「雄妻。君らにもこの方がいいだろ」

「たしかにそうだけど、これじゃ殺しちゃうじゃない」

「使うのは非武装の情報科が襲われたときだ。できれば素手で何とかして欲しいが

 そんなこと言っている余裕がなければ使え。敵は火器で武装している可能性すらある」

「あんだって?」

 

 目をひんむいたのは舎弟氏だ。

 

「もちろん一般学生に行き渡ってるとは思わない。だが身辺警護にプロがいたり、

 教師は武装しているかも知れない。まあ、生徒に渡しているようならとっくに学内抗争で

 ドンパチやらかしているだろう」

 

「私はこれでいいクマ」

 

 常夫ク○ーが拳にはめているのは、特大のとげ付きカイザーナックル。

 しかし、もはや殺人凶器としかいいようがない。

 

「西住ちゃん。巻き込まれた格好にしてごめん。でも君のチームメイトを含めてこのことは

 誰にも口外しないでくれ。

 みんなもな。当日は台風に遭遇したという設定で、全校生徒と全住民には格納庫甲板内の

 居住区画に避難してもらい、実際に避難訓練も学園長指揮で行う」

 

 山本教授が発言を求めた。

 

「情報科側はどういう想定で作業をさせるのだ」

「ダミーの攻撃を大洗の情報科専用サーバーにかけて、それに応戦しつつ

 相手に悟られないように敵サーバーを乗っ取る訓練として行います。

 その後はその状態を規定時間維持できるかを競う。ということにします。

 その間に、いいようにやっちゃってください。

 それと、教授」

「何だね」

「ウイルスをメールに擬態することはできますか? どんなプロテクションもかいくぐり、

 普通のメールとして読むことができるのを」

「もうすでに準備してるよ。技術自体は坂本コードだから教えないがね」

「それで、花園に挑戦状を送ります」

 

 アキラも発言を求めた。

 

「そうなると『試合』前に、大洗艦をまるごと葬ろうとするかも知れません。

 どう対処するんですか?」

「巡航ミサイルや対艦ミサイルで大洗を沈めるなら、護衛群ひとつを全滅させる程度の数では

 無理だ。こっちは発泡スチロールのかたまりみたいなもんだ。

 不経済だからやらないだろう。80cmを使うんじゃないか?

 たぶん大洗はハンマーで殴られたスイカみたいになるだろうね。

 だったら、こっちはアクティブステルスしながら、デコイを使うさ。

 あれは自動砲で、人間が関与しないから、誤魔化している間に火器管制を乗っ取って、

 発射薬を4、5倍詰め込ませて暴発させる。弾が出る前に尾栓が飛ぶだろ」

 

 アキラは思う。

 いったいこの人には何者の加護が付いているんだろうと。

 

「アキラ。お前の爺さんはいろいろと詳しいな。単なるヒコーキ野郎じゃないね」

 

 自分のできることに限界があるのだから、できる奴がいるならやってもらう。

 角谷の怠け者たるゆえんだが、この場合は爺様のお節介もあったようだ。

 

「でもそれは最後の手段だと思います。そういう可能性をちらつけせておくだけでしょう。」

 

 そういうことを言うのは、当然みほだ。

 

「はっきり言えば、会長お一人を拉致していたぶったあげく、どこか目立つところにさらし者に

 するだけでいいでしょう。きわめみち壊滅と合わせて、花園に逆らうなという警告であれば」

「その場合、裸で逆さ吊りになるのは、私だけじゃなく西住ちゃんもだね」

「そんなことはさせんクマー!! 花園は撃沈するクマ」

 

 角谷の予想が、常夫に火を付けたらしい。

 もっとも話としては、十分あり得ることだ。戦車道連盟と全学園艦に対する威圧と牽制だ。

 

「で、私たちはむやみやたらに暴れていればいいの? 相手は4千人よ」

 

 それまでダンマリを決めていた柳生。

 本当は「少年」の年齢でありながら、国際指名手配の賞金首。

 背中に背負っている太刀は、斬るより打突系の武器だ。

 

「けーさん。集団ケンカの極意は?」

 

 角谷は直接答えず、高橋弟にふってみる。

 

「それは当然真っ先にアタマをぶっつぶすことだな。そうすればあとは烏合の衆だ」

「じゃ、陽動組のやることは単純だ。ボスたちのところに一直線。その後は叩き潰す」

「いや、迎撃に出てきた連中は回避して、船内の指令系統を潰して欲しい」

 

 山本教授から意外な要望が出てきた。

 角谷は考えてみる。

 航海艦橋、戦闘艦橋、中央司令室、さらに内部の蔵王本人の居室。

 コントロールを乗っ取っても、手動に切り替えることができるなら計画はおじゃんだ。

 戦略的勝利条件は……。

 

「アキラ。奴らの中央サーバーはどこにあると思う?」

「常識的に考えれば、前檣楼基部の、装甲区画内の司令塔兼CICの中でしょうね」

「……αチームが前檣楼の中で暴れ回れば、CICは中からロックされて、外からは入れない状態

 になる。とはいえ、セントラルサーバーは外部センサーや兵装とは、ファイアウォールや

 おとりサーバーをはさんでいたとしても、何らかの形ではリンクしている。

 もしこの後檣楼が実際と同じ用途なら、玲たちはここを押さえた方がいいかもしれない」

 

 後檣楼の実際の用途、それは戦闘時に副長が赴き、ダメージコントロールの指揮を執る場所。 また前檣楼が壊滅した際、副長が艦長に代わって戦闘指揮を執りうる機能もある。

 もっとも装甲の厚い前檣楼基部の司令塔にも操舵装置はあり、操舵員もいるので、

制約はあるが、戦闘継続はできる。

 逆に言えば、ここを押さえれば、リモートでセントラルサーバーをハックできるだろう。

 山本教授の意図するところは、そういうことだった。

 

「たとえCICが副艦橋として後檣楼の役割をするシステムだとしても、後檣楼自体に

 ドームレーダーが乗っている。火器管制のシステムがここにも伸びているのは確かだ」

「教授。この学園艦の構造図とかはないの?」

「学園艦教育局に届け出てあるのは、嘘っぱちだな。

 喫水から下は全部鉛が詰めてありますとか、普通にあり得ない。

 ……で、これだが」

 

 山本教授が大型ディスプレイ映しだしたのは、花園艦の立体図。

 サブ画面に、CTスキャナのような輪切り画像が映っている。

 

「大叔父さん。何ですこれ?」

「出所は言わせるな。この歳でも命は惜しい」

 

 ははーん。どっかの極東軍司令部のアーカイブからだね。

 でも大叔父さん、命が惜しいならなんでじっちゃんの飛行機に乗るの?

 

「兄さんはあの歳でも、玲より上手いぞ」

 

 アキラも考えていることが、顔に出るたちのようだ。

 

「角谷君。艦内の通路図もそういうわけでできている」

「悪いけど時間がない。出たとこ勝負になるけどよろしくね。みんな」

 

 角谷が、あとは各リーダーが詰めてくれ、といったとき、松本教授の「例の」端末に

件の情報部3年生からの「コール」が入った。

 

「角谷君。『メール』はできたそうだ。一般回線で送付してくれ」

 

 角谷は、会長用タブレット端末のメーラーの下書きフォルダにメール案があるのを見る。

 

「教授。ここで開けたらまずいんでしょ」

「いや、送付前なら普通のメールとして編集できる。ウィルスが起動するのはプロバイダの

 メールサーバーから相手がダウンロードしてからだ。

 そうでなければ無関係なマシンを感染させてしまう」

 

 そりゃそーだ。といいながら、角谷はちょこちょこ編集しておく。

 アキラが脇からのぞく。

 

「なんですって? 『花園の低能ウジ虫どもに告ぐ。おとなしく手を引けば許してやったが、

 我々に無謀にも挑むというなら、結構。頭の悪いお前らにもわかるよう、我々が懇切丁寧に

 戦車道というものを教育してやろう。場所は房総半島千倉沖50海里上に停泊する大洗艦の

 前部中甲板特設会場。時間は日没後。けちけちしないで戦車は全部もってこい。こっちは

 5両でも多いくらいだ。逃げるなよ』

 うーん、ちょっとインパクトが足りませんね。そうだ、もう一つ小細工しておきますか」

 

 アキラの「小細工」込みのメールは、直ちに送付され、開封されると同時に

開封確認メッセージが返信されてきた。

 

 

 

「おつむの足りなさそうな文面の上に、すぐばれるトロイつきの添付ファイルか」

 

 花園艦の戦闘艦橋、3人のボスが今送られてきた「バカども元気ぃ~?」というタイトルの

大洗からの挑戦状メールを見て呆れている。

 

「ふん、我々が本気を出すまでもない」

 

 白い学ラン、短髪の頭に長いもみあげの、顔立ちのいい男が鼻で嗤う。

 その脇で、巨漢と言っていい男の高校生が、でかい手で知恵の輪をいじっている。

 3人の中の唯一の女、貴原有希がせせら笑う。

 

【挿絵表示】

 

 

「角谷杏はどうしようかしら。ここの奴隷に混ぜてこき使い、ボロボロになったところでも

 動画にとって、全国の高校に配信してやろうかしらね……。

 このメールは、仮想デスクトップごと消去しなさい」

 

 彼らは、画像ファイルに化けたトロイは、実はこのメール自体が高機能トロイだということを

ごまかすための道化だと言うことを知らない。

 メールは、自分の複製を、不可視状態でレジストリに潜り込ませている。

 あとはアクセスしてきた端末やサーバーに、次々と感染していく。

 ウィルスをスキャンしている対策サーバーが真っ先に機能を止められ、「スキャン結果OK」

というモニターレポートを吐き出すだけの木偶になってしまった。

 外部とつながっているシステムの全ポートが開きっぱなしになった。

 ただし、特定の通信に対してのみ、であるが……。

 

 

 

 

 そんな3人の背後から、この場にまるで似つかわしくない声がかかる。

 

「ボク、大洗の人たちに会うのすっごく楽しみなんです」

 

 三人衆の背後から現れたのは、少年。

 しかしどこかで見たような顔をしている少年だ。

 

「ざ、蔵王与平様?」

 

 少年は一歩前に進む。顔は最低限の照明しかない室内では、よく見えない。

 花園青雲実業学園、PTA会長、民族派の重鎮、蔵王与平とはこんな少年なのか。

 

「お、親父……か?」

 

 少年はあっけからんとした様子で、「息子」に宣言する。

 

「ゴン太くーん。ボクのことは『パパ』と呼びましょうっていったでしょ。

 それに、ボクは『蔵王与平』なんて名前はもうやめるね。

 これからボクのことは『渋谷理法』ってよんでね。『リホウ』じゃないよ。

 『リホウ』じゃ、原人どもの酋長になっちゃう」

 

 少年は、むだに瞳をきらきらさせながら楽しそうに語り続ける。

 

「でも、戦車道連盟ってひどいんですよ。戦車には男が乗った方が強いのに

 その戦車を男から取り上げるんだ。

 あげくのはてに、男は戦場で生身で、突撃しろとか……」

 

 そして少年は、無邪気な顔でうふふと笑う。

 

「だからボク、いつかかならずいまいましいしいサヨクで売国奴の連盟ごと、戦車道を

 コテンパンにやっつけてあげて、戦車を男の手に取り返そうと思ってたんだ。

 ……そして、クソ忌々しい半島の白○どもと、大陸の北○原人どもに誰が一番強いのか

 思い知らせてあげようと思うんです。

 あの人たち、世界中から嫌われてるから、一人残らずいなくなっても、

 空気がきれいになってよかった。って感謝されるよね」

 

 少年はニコニコと笑いながら、さらっとロスジェネが喜びそうなことを言う。

 

「だから今度の全国大会、いい機会だよね。

 エントリーすれば戦車を動かす大義名分ができるし、そして……

 全会場に乱入して、戦車道の選手どもをたたきのめして、それから

 アカの戦車道連盟本部や、フェミファシスト集団の西住家を更地にしちゃえばいいんだ。

 ボクって、頭いいよね」

 

 三人も彼の後ろでニヤニヤと笑っている。

 少年は、彼らの方にふり返り、命令をくだした。

 

「だからみんな、大洗女子学園をもうめちゃくちゃにしてあげてね」

 

 

 

 

 

 

 

 







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