失われた約束の地   作:米山ともき

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 脱線番外回 「女組」怒濤篇

 

 

 第63回戦車道全国高校生大会。

 大洗女子学園生徒会長の角谷杏が、戦車道界のサラブレッド、西住みほを擁して

20年間とだえていた戦車道を復活した目的は、(理由は知らないが)これへの参加だった。

 しかしながら、球技などと違って射爆場クラスの試合会場を必要とするため、夏休み期間中に

15回の試合を実施するのが限度の戦車道連盟では、とーぜん地区予選などやっていられない。

 よって、参加校を精選して開催するほかの道はない。しかしながら強豪、伝統校、戦車道の

発展に貢献した学校を割り振るだけで15枠がうまり、自由枠はたった1校だけ。

 そして、通例では、参加希望校が話しあいで代表1校をしばり込む。

 しかし、この年だけはこれをめぐって流血騒ぎまでおきてしまった。

 

 かつての戦争で、男たちだけで始めた戦争の悲劇を戦闘員でもないのにおわされた女、子供、

老人たち。

 戦争で悲惨な被害を受けた女性たちは「屈強な男が装甲に守られて戦うのは卑怯」という

スローガンをかかげて、機甲戦力を男たちからうばい取った。

 男たちだけで、勝手に戦争を始め、被害を受けるのは女。ということをこれ以上

くりかえさせないためだった。

 戦車道という武道は、その延長線上にある。当然男子禁制だ(例外が約1名いるけど)。

 そしてこのことが、まことに気にくわない男がいた。

 

 国粋主義者にして右派のタカ派政治家。

 傘下に「社会運動を標ぼうするなんとやら」を多数かかえる民族派の雄。蔵王与平。

 改名して渋谷理法とかいう男だった。

 彼は、自分の行動部隊となるワルと、ブラック企業に売りつける社畜を養成する学校、

「花園青雲実業学園」のオーナーでもある。

 うかぶ要塞と化した戦艦型武装学園艦に、多数の武器弾薬とともにたてこもり、

「三人のしもべ」を従えるリアルバビル二世の、少年の見かけの彼は、女を排除してより強力な

「男で編成された戦車隊」を自衛隊に組織させるため。

 そしていろいろ気にくわない周りの国に対して、絶対優位な立場をきずくため。

 この全国大会に介入して、いきつくところは戦車道の抹殺をももくろんでいた。

 そのために、全国大会の出場枠を、どのような手段を使ってでも奪おうとしていたのだった。

 

 その野望を阻止せんと、というか利害が対立するから「悪の花園」の前にたちふさがったのは

渡世人養成学校「私立きわめみち高校」だった。

 しかし、花園はあろうことか実弾装備の戦車できわめみちに乗りこみ、焼け野原にした。

 全身に深傷をおい、病院にかつぎこまれた生徒会副会長スーザンをみまった、角谷、みほ、

アキラの3人は、今度は自分たちが戦うことを誓う。

 

 本気で怒った「闇の帝王」角谷杏は、地獄から「七つの軍団」を召喚し、「悪の花園」に

黙示録の戦いをいどむ。

 

 - アポカリプス ナウ -

 

 

 

 

 

 

 標的型メールに偽装した「メールそのものがウィルス」という「挑戦状」。

 それをを開封した結果、花園艦をコントロールするサブシステムは、次々とウィルスに感染し、

リアルタイムで大洗側に情報を送ってくる。

 

 

 

「目標サーバーシステムA、作業領域掌握。ストレージ暗号化解除84%進捗中。なお……」

 

 情報科大教室では、セキュリティ訓練という名目で、生徒たちが開いているポートから侵入し

花園艦のサブシステム群を乗っとりつつある。

 花園側のセキュリティ要員は、大洗側のシステム乗っとりをこころみているが、生徒側は

演習相手の攻撃と思っている。

 

「敵の攻撃は水際で防いでいる。この学校の情報科は優秀だな」

「了解。教授はそのまま花園側との電子戦を進めてください。オーバー」

 

 戦車倉庫前で野戦指揮車に乗っている角谷。

 彼女は高度に暗号化されたスクランブラー付き無線機で、各チームリーダーと交信している。

 もうすぐ日が落ちる時間だ。

 艦橋に詰めている航海科員は、接近しつつある花園艦を目視している。

 会合予定地点のこの海域で、二隻はランデブーする。

 ただし、大洗艦の民需用航海レーダーが目つぶしをくらっているわけではない。

 洋上で同速でランデブーした後、おたがいにラッタルを渡して行きき可能にするためには、

自動航法装置に操舵をまかせる必要がある。

 航海用レーダーに妨害をかければ、もちろん向こうのもくろみもついえる。

 

「角谷。奴ら武装を指向してないな。砲も他の武装も、全部天をむいてる!」

 

 元エリートヤンキィの高橋弟氏が、車内にいる角谷に大声で知らせている。

 

「当然だよ、けーさん。だって今、この海域は日本の内閣府の『観測衛星』の監視下にある。

 大砲なんか撃てないさ。ふふふ」

 

『観測衛星』は、偵察衛星よりワンランク下の解像度のカメラを搭載している。ということに

なっているが、実際のところ、それをうのみにしているものはいないだろう。

 とにかく、角谷はやみ討ちされることは、回避して見せたわけだ。

 

 

 

 それより1時間前。

 

「こちら大洗女子学園災害対策本部です。これから行われるのは訓練です。

 ……こちらは大洗女子学園、学園長事務室です。

 さきほど、本学園艦の進路上20海里上の熱帯低気圧が急速に発達して台風になりました。

 中心気圧954ヘクトパスカル。最大風速秒速70メートルの大型で猛烈な台風です。

 甲板上居住者及び全学生は、持出袋だけ所持の上、非常時計画に従い速やかに中甲板の

 避難所に避難してください。これは学園長命令です。

 ただいま、学園長、学園事務監及び学園生徒会により災害対策本部が設置されました。

 生徒会長は連絡が取れないため、副会長が職務を代行します。

 強風域に突入するのは避けられないため、全住民避難後に上甲板の交通隔壁は

 すべて閉鎖します。本学園艦が強風域を抜けるまでの間、上甲板には上がれませんので

 ご注意ください。脱出時間は明日午前5時の予定です」

 

 この文面のメールが、登録されている全携帯端末に送付される。

 携帯端末を使えないものには、各戸の有線放送にた音声で同じ内容が伝えられた。

 

 そしてさきほど、全住民及び生徒の点呼が完了。

 交通隔壁が閉鎖された。

 

 今、上甲板に残っている者は、大洗側の対花園要員をのぞけば、その花園の工作員だけだ。

 

 

 

 指定した時刻がきた。

 オートコントロールで並進していた二隻の学園艦は徐々に速度をおとす。

 最後はフィン・スタビライザーだけで静止状態をたもつ。

 花園艦から起倒式のタラップが、大洗艦の前部中甲板区画の、あいたハッチに接続した。

 タラップの根元には、50両の戦車が集結している。

 大洗側の作業員が「接続完了」をつげ、構内信号が青に変わる。

 それと同時に、フルスロットルでタラップをかけ上がる戦車たち。

 それが5両に達すると同時に、作業員に扮していた園が「作業開始」とさけぶ。

 

 中甲板奥から、2人1組の風紀委員が、ガソリンの詰まったドラム缶をころがし、

タラップから昇ってくる戦車に向けて突きとばす。

 履帯に踏まれてひしゃげたそれは、中身の危険な液体を周囲にばらまく。

 次々と戦車めがけて転がり落ちるドラム缶。そして……。

 

「投げろ!」

 

 園の合図で、スピリタスのビンに新聞紙を突っこんで火をつけた、もっとも危険な火炎ビンが

ガソリンまみれの戦車にむけて投げつけられる。

 突如、炎に包まれる先頭の戦車。

 次々と引火して爆発するドラム缶。

 火だるまになってハッチから飛びだし、そのまま海へ墜落する戦車の乗員。

 乗員がいなくなった戦車は、燃えさかりながらタラップから転落。

 そしてなおもドラム缶爆撃はつづく。

 花園艦側では、みるみる火災が広がり、待機していた戦車たちを焦がしていく。

 戦車の乗員は火をまといながら逃げ回る。

 それにつづいて大洗艦に乗り込もうとしていた連中も、算を乱して逃げまどう。

 甲板上の戦車は、弾薬が誘爆して中から破裂し、焼けただれたスクラップと化していく。

 

 花園艦の戦闘艦橋では、火災発生と同時に自動消火装置の起動が確認された。

 しかし、起動しているはずの自動消火装置が、現実にはまったく動いていない。

 かれらはそこで初めて異変に気がついた。

 システムはすべて正常作動している。自己診断プログラムもセキュリティーサーバーも

いかなる攻撃も受けていないと分析する。

 しかし、甲板上のスプリンクラーの、手動切りかえさえできない。

 航行システムをマニュアルに復帰させることもできず、航海艦橋でもアラートの鳴らない。

 前檣楼の職員全員が「非常事態」に困惑していた。

 

 

 

 劣化ウランメッシュ装甲2,000mmに防御された司令塔兼CICの内部の中枢区画。

 そこでは渋谷理法と、蔵王権太、仁隆郷司、貴原有希の4人が、すべて正常と表示されている

モニターを眺めている。

 

「完全にやられたましたね。警報装置も他のサブシステムも。

 たぶんずっと前に乗っ取られていたって事ですよね」

 

 画面の中で冷や汗を流す、セキュリティ担当の職員。

 

「佐渡屋、そいつはフカの餌にしてあげてね」

 

 渋谷がそう命じると、担当職員の後ろから眼帯に坊主頭のそれっぽい男が現れ、

担当職員を肩にかついで出て行く。

 

「ボク、この戦闘前のワクワクした緊張感も大好きなんです!

 やりますねえ。向こうにもできる大人が付いていたのかなあ。権太~」

 

 彼の、似ても似つかない「息子」が前に出る。

 

「なんだ親……パパ」

「きみは千人連れて後甲板にいって、そこを掌握。青雲の家畜たちを逃がさないようにね。

 貴原は後檣楼にいって、ダメージコントロールサブシステムの立ちあげと防衛をやって。

 もっともそれもハックされていると思うから兵隊千人と技術チーム連れて復旧してねぇ~。

 仁隆は、このまま上にあがって、前檣楼全体の防衛をしてください。

 あと、佐渡屋」

『はっ』

「君は手下に完全武装させ、ここに来てね。

 君たちがここに入ったら、すべての出入り口をロックする。だからよろしくねー」

『了解しました。ただちに』

 

 渋谷は実に面白いという顔をして、口だけで笑う。

 

「すぐにでも奴らの兵隊が攻めてくると思いますよ。ボクは」

 

 あんなただの女子校に、そんなものがいるのかという顔をする3人。

 

「電子戦では完敗でしたね。ここまで手まわしがよければ、この船自体を乗っとるか、

 ボクの身柄をおさえようとしてきますね。普通なら。

 それなりの腕っこきをやとっているんじゃないのかな。わかんないけど」

 

 そして少年の顔で、いや、見かけはまったく少年だが、渋谷は笑う。

 

「だからみんなとっつかまえて、油を引いた熱い鉄板の上でおどらせてあげようよ。

 はだしでさあ。

 大洗名物の『あんこう踊り』とかを。ね」

 

 

 

 ガソリン満タンのドラム缶を100個はぶちまけたとはいえ、巨大な花園艦全体から見れば

ほんとうにボヤでしかない。

 せいぜいVLS2つに延焼して、ミサイルが32発爆発した程度だ。

 しかし、ラッタルの根元に集合していた戦車道用の戦車50台あまりは、すべて爆発炎上した。

 

「オメガからゼータへ。第一段階は成功した。ワシよ舞いおりろ」

 

 双眼鏡で花園艦を見ていた角谷は、突入隊に続けざまに指示を出す。

 

「アルファリーダー。せいぜい派手に暴れてね。予定ではちゃちゃっと終わるはずだから」

『会長ぉ~。そんなこといわれてもー』

「西住ちゃん。ちゃんばらもどつきあいも、西住流の基礎訓練でしょ」

『でも、私、人をたたいたことないです。困ったなあ』

 

 そんなやりとりと関係なく、ζチームは暗闇の空からこっそりと花園の後部艦橋をめざす。

 アキラは2人乗りのオートジャイロを(無免で)飛ばしている。

 最近のこじゃれた機体ではなく、「カ式観測機」という大戦期の古めかしいやつだった。

 彼の曾祖父なら、乗ったことがあるかもしれない。

 後席には例の情報科3年が乗っている。

 このオートジャイロなるしろもの、ヘリに似ているが、回転翼は無動力で、推進用プロペラで

前進して飛ぶ。ヘリと飛行機のあいの子のようなものだ。

 短距離離着陸ができ、安定性はよいが、ヘリのようなホバリングはできず、飛行機のような

アクロバット飛行もできない。ヘリコプターがものになるまでのつなぎの機体だった。

 いまではスポーツ用途以外のものはまったくない。

 他の3人はエンジンを付けたパラグライダーで後を追う。

 地上設置型の球形レーダーサイトの乗る後艦橋は、並みのビルより大きい。

 オートジャイロも余裕で着地できる。

 彼らは、下の騒ぎにまぎれて、だれにも知られず侵入する。

 

 一方、いまだ燃えさかる火災の反対側から、S-70ヘリコプターが接近する。

 前に花園艦に「荷物」をデリバリーしたのと同じ、大洗がリースを受けている機体だが、

やっぱりパイロットは花園に行きたくないとごねたため、アキラの祖父が操縦している。

 火災が起きている右舷では、花園の職員や生徒どもが総出で手動ポンプを動かして

消火作業中だ。

 しかし今回は客が9人の上、一人で二人分の容積を食うのまでいるので、とっくに過積載だ。

 じっちゃんは、ふところからスキットルを取り出すと、うまそうに呑む。

 孫は無免。祖父は飲酒。もうどうしようもない。

 

「だーいじょうぶだ。こんなん呑んだうちに入らん」

 

 とはいうものの、千鳥足ぎみに飛ぶヘリコプター。

 

「わしも歳かのう?」

「ふざけろクマ。このヒゲダルマクマ!」

「まあまあ、おんしも九州男児だろ。一杯つきあえ」

「……よこせクマ」

 

 ぬいぐるみの口にスキットルを突っ込んで、一気飲みする常夫ク○ー。

 常夫ク○ーの鼻腔を、南国の酒特有の芳香とともに、強い酒のアルコール臭が刺激する。

 晟はよりによってラムなんか呑んでいた。

 

「もうおんどれには呑ませんクマー!」

「おーお、とっときのデメララを。じゃあこんどはこの……」

「――それもよこせクマー!!」

 

 2つめのスキットルも奪いとって、やっぱり一気にあおる常夫ク○ー。

 

「なんだこれはクマ。ただのアルコールクマ!」

 

 消毒用エタノールのように、水で割ってさえいない。

 ホントに純粋なアルコール、無水アルコールのにおいが鼻をつく。

 辛いというレベルではない。

 

「ああすまんな。そいつはライターのオイル代わりのスピリタスだったぞい。

 ほれ、着地するぞ。ランィング・ナウ」

 

 ……ずいぶんぶっそうなものをライターの燃料にしているものだ。

 S-70は、さわぎになっているのと反対側の左舷、前檣楼の影になっているところに

タッチダウンする。

 おしくらまんじゅうの元凶になっている常夫ク○ーが、皆から蹴っておとされる。

 

「ひどいクマ。いたいクマ」

「ほれ、ハリー。ダヴァイ。デペシェ。ビス。いいから急げ!」

 

 のこりの8人はつぎつぎと常夫ク○ーを踏んづけて降り立ち、警戒しながら前檣楼への

ラッタルをさがす。

 

「お父さん。しっかりして。よっと!」

 

 最後のひとり、西住みほが常夫ク○ーの上半身を肩にかつぐ。

 そしてずるずる引きずりながら皆のあとを追う。

 

 

 

 そのころ。

 前檣楼の防御を命じられた仁隆郷司は、自分に割り振られたはずの兵隊千人が

そろわないことに、業を煮やしていた。

 角谷が奇襲で逆撃をかけてきたため、いきなり花園艦を防御しなくてはならなくなり、

侵攻部隊以外の指揮系統がととのわないからだ。

 それも多くはステゴロしかできない。

 一般市民相手ならいくらでも強くなれるが、こころえのある相手には

きびしいのばかりしかいない。

 銃火器で武装する職員は、佐渡屋の率いる新宿ギャング団を含めて200人程度。

 しかし、そいつらもただ侵入してくるかもしれない敵を求めてうろついているか、

侵攻部隊にいて、火災の相手をしているかどちらかだ。

 しかも、火災現場では50両近い戦車が誘爆を起こしたり、機銃弾をとばしたりと

うかつに近づけないため、まだまだ鎮火にほど遠い。

 システムから切りはなれている非常発電装置は「メインサーバー」のあるCICにかなく、

前檣楼は暗闇におおわれている。

 

「これはすべてのサブシステムを物理フォーマットして、その後に「メインサーバー」を

 接続して、バックアップをダビングするしかありません。メインを接続しても

 感染したままでは、メインの防壁が破れることはなくとも、アクセスできないですね」

「マルウェアの駆除はできんのか?」

「どうやら、「坂本」がらみのしろもののようです。各システムは「正常」に動作して

 いるのですが、出力が書き換えられています」

 

 復旧の見込みは立たない。

 すべてのストレージを物理フォーマットしていたら、どれだけの時間がかかるかわからない。

 メインシステムだけはその「坂本商会」の技術を流出させて作ったものだが、その情報は、

今は「蒸発」してしまい、内部にいた協力者も追いだされてしまったので複製は無理だ。

 

 

 

 大洗軍団は、全員が特殊警察部隊が着るような戦闘服にボディーアーマーをまとった

ものものしいいでたちだ。

 ラッタルを昇ったみほは、前檣楼裏手のハッチの一つにとりついた。

 

「アルファリーダーからシグマチーム。291区画のFハッチをあけてください」

 

 みほがLTE帯域を使う双方向デジタル無線機で依頼すると、電子戦部隊では

サブシステムの一つをあやつって、コマンドを実行させる。

 背をかがめ、急ぎ足で全員が突入する。

 ハッチは開け放たれたままにしておく。

 その近くに赤外線光をはなつ蛍光ペイントでマーキングしておく。

 αチームとζチームの全員の視界は、ゴーグルわきのカメラでモニターされている。

 みほは、艦内監視システムを乗っ取っているΣチームの指示で前進する。

 

『シグマからアルファ。前方から30人、後ろから20人。はさまれるぞ!』

 

 前檣楼を防衛している連中は、ばらばらに徒党を組んで、歩き回ってくる。

 動きを察知していても、人間をコントロールする方法はない。

 全部をモニターすることもできない。

 必然的に、不期遭遇戦ばかりということになる。

「敵だ!」と前後で叫ぶ声がして、男どもが殺到する。

 

「おねえちゃん~! 俺といいことしようぜえ!」

 

 馬鹿が一匹、みほに向かって飛びかかる。

 しかし、みほは六角棒を振りかぶり、男の脳天を一撃……

 その剣圧に「ひっ!」と叫んで、頭を抱えてうずくまる男。

 

 ……一撃、できなかった。六角棒は男の頭の寸前で止まった。

 

「わ、私、人を殴れない……」

「んなろ。ふざけてんじゃねーこのアマ!」

 

 態度を豹変させた男が、めいっぱいのヘッドバットをみほに食らわす。

 放物線を描いて、後ろ向きに飛ばされるみほ。

 

 そして、受け身も取らずに頭から落ちたみほは、そのまま白目をむいて動かなくなった。

 

「へっ。ざまーみ……」

「くたばれクマ――!!!」

 

 常夫ク○ーの怒りの鉄拳が、男の顔面をクリーンヒット。

 常夫ク○ーの怒りは、とうてい言葉で言い表せるものではなかった。

 

「わははははあー。クマ―――!!!」

 

 その傍らを、ゆらりと危なっかしげに歩いて行くのは、意識を刈り取られたはずのみほ。

 依然として白目をむいたままで、何かぶつぶつつぶやきながら、敵に向かって歩いて行く。

 

「みほ。どうしたクマ?」

 

 何か様子がすごくおかしいみほ。

 そのままよたよたと、一人の花園の兵隊の前に歩み寄る。

 

「て、てめえ。な、何なんだ」

 

 突然みほは脚をしっかり踏みしめて、手にした六角棒をすくい上げるように振り上げた。

 

 ちーん!

 ぐしゃ!

 

 六角棒はみごとにそいつの股間をナイスショット。

 何かか潰れる音がした。

 一撃を食らった男は叫びにならない悲鳴をあげてのたうち回っていたが、

やがて泡を吹いて気絶する。

 

「オッドボールクマ……。つぶれたクマ」

 

 ナニがどうやら片方なくなったようだが、とりあえず問題はないだろう。

 

 そしてさらにみほのオッドボール量産は続く。

 

 ちーん! ぐしゃ! が延々と続く。

 

「心の旅路クマ。意識ないまま本能だけで戦っているクマ。敵味方の区別なんか付かないクマ」

 

 近寄ると危険があぶない常夫ク○ーは、後ろから迫る連中に鉄拳をふるう。

 他の面子は、みほの後ろに敵が回り込まないよう防御する。

 必死に内股になりながら、それでも戦意を失わない見上げた花園兵。

 しかし、いくら全力で内股になっても、今度はすねを蹴飛ばされ、ひっくり返される。

 地面に突き刺すようにふりおろされる六角棒が、ていねいに一つだけ律儀に潰していく。

 1個潰すのにかかる時間はたった5秒。

 彼らもさすがに背を向けて逃げる。しかし逃げてもむだだった。

 行く手になぜかみほが回り込んでいて、またまたオッドボールが増えるだけ。

 

 みほは、ダンジョンにおける「左手の法則」をきちんと守ってすすむので、

かたっぱしから部屋を総当たりする。そして、そこにいる奴らは全員、

疲れを知らないかのようなみほに殲滅される。

 おともはいつのまにか常夫ク○ーとフーテンタイガーの2人だけ。

 あとはレスラーチームと、超人チームにわかれて暴れることにしたようだ。

 

 前檣楼戦闘艦橋に詰めている仁隆は、つぎつぎと手下どもが連絡を絶つことに焦っていた。

 すでに航海艦橋にいた教職員は、「化け物――!」という通信を最後に呼び出しに応じない。

 そしてこちらに向かってきた格闘家らしい3人は、89式小銃を持つ警備員や職員によって

壁の向こうに隠れることを余儀なくされていた。しかし、まさかこの船の中で重火器を

使うことなど想定していなかったため、破片手榴弾さえない。いずれ突破されるだろう。

 そのとき、艦橋の防弾ガラスが、巨大なカイザーナックルのついたこぶしでぶち抜かれた。

 数人が素早く自動小銃を指向する。しかし、それは陽動だった。

 ハックされて動かないはずのエレベーターのドアが開き、中から……。

 ……航海艦橋から逃げてきた航海士たちが「助けてくれー」と叫びながらなだれ込んできた。 パニック状態に陥る戦闘艦橋。

 しかし仁隆は、とっさに彼らと入れ替わりにエレベーターに飛びこんだ。

 ドアを閉め、1Fのボタンを押し、ほっとする仁隆。

 しかし、そこには、みほがいた。

 律儀に両手に手錠をはめ、相変わらず白目をむきながら劇画面になったみほが。

 

「んぎゃうんぐえぇぇぇええええぇぇぇ――!!!」

 この世のものとも思えない悲鳴が、エレベーターに響いた。

 

 前檣楼の1Fまでおりたエレベーターのドアが開く。

 口から泡を吹いた、ぶざまな姿の仁隆を引きずったみほが、

依然消火作業中の兵隊どもに近づく。

 肩にフーテンタイガーをのせた常夫ク○ーが、器用に前檣楼のいろいろな出っ張りに

脚をかけて飛び降りてきた。

 あわれ、ボロ雑巾にされた仁隆を、兵隊どもに投げつけるみほ。

 

「お前らもこうなりたかったらかかって来るクマ。

 嫌ならばすぐにボートを降ろして、逃げろクマ」

 

 炎に照らされ、かえって間の抜けたぬいぐるみの頭が不気味に見える。

 

「おい、お父っつあん。あっしにも、ちょっとは暴れさせろよ」

 

 フーテンタイガーが、身の丈ほどもある鉄鞭を一振りする。

 兵隊3人が、まとめて絡め取られ、炎の中に放り込まれる。

 常夫ク○ーが、丸太ほどもある腕や脚をぶんまわすたびに、5,6人まとめて吹っ飛ぶ。

 みほは、またまたオッドボールの生産を始める。

 そのあいだに、前檣楼の二つの艦橋では、ありとあらゆる機材がたたき壊されていた。

 統率者のいない兵隊たちは組織的に戦うこともできない。

 そしてそこにいた全員がデッキ区画めざして逃亡を始める。内火艇で逃げるためだ。

 

「負傷者を連れて行くなら見逃すクマ。前檣楼の中にもいるクマ」

 

 常夫ク○ーの宣告は、地獄の魔王の言葉のように響く。

 それにうながされるようにして、前檣楼の守備についていた者と甲板にいた者は、

仁隆始め負傷者共々、真っ先に花園艦から脱出することになった。

 

 

 

 αチームでは、みほが「心の旅路」状態のため、常夫ク○ーが現状を報告した。

 

「アルファリーダーは昏倒中クマ。オメガリーダー、指示を請うクマ」

『え? 西住ちゃん戦ってるじゃん』

「みほは昏倒中だけど、無意識で戦ってるクマ。しほに戦闘マシーンにされたクマ。

 このお返しはあとでゆっくり……」

 

 ごちん!

 

「あ、すまねえな。お父っつあん。手が滑った」

 

 なぜかフーテンタイガーの鉄鞭が、常夫ク○ーの後頭部を直撃していた。

 

「痛いクマー!!」

「悪りぃな。カイチョー。αチームは分散中だ。どうする?」

『じゃあ各個に、飛行甲板みたいな後部に向かってくれ。守りが堅くて風紀が突入できない』

「オーバー。カイチョー、了解だ。ほれ、嬢ちゃんも行くぞ」

「クマー。いいかげんにするクマー!」

 

 ごちん!

 

 今度は明らかにカウンターに入った鉄鞭。

 ぬいぐるみ越しでも、そうとう痛いらしく、常夫ク○ーはしばらくうずくまっていた。

 

 

 

 

 

 同時刻。大洗女子戦車倉庫前。

 

「おなかへったでしょ。もっと食べる?」

「はい、いただきます」

 

 角谷は例のソーセージを塩ゆでしただけのものをセラスに渡し、自分も食べている。

 セラスは、いつのまにか言葉が流ちょうになっている。

 ブラッドソーセージ自体は決してまずいものではない。

 ただ、材料が輸血用人血なのが引っかかると言うだけだ。

 取り立ての血なら、とてもうまいのに残念だ。としか角谷は思わないが。

 無論、セラスは材料が血液だと知らないで食べている。

 

 ちゃんと吸血すればいいのに。アキラならどーてー確実なんだけどね。

めでたく両想いになってないんだから。とか考える角谷。

 どーてーが女吸血鬼に吸われたとき、又はその逆の時だけ吸血鬼になるという。

 とにかく、セラス・ヴィクトリアの能力と体力が増強しつつあるのは事実だ。

 角谷も食べているのは人血製だと悟られないためだけであって、角谷の怪力が増強はしない。

 なお、材料が足りなくなったので、角谷は自分の血液も足している。

 

「あ、またいました。ここです」

 

 セラスが、大洗艦の区画地図の一点を指さす。

 直接視力だけではなく、導術でも敵を察知できるようだ。

 

「3人です。北を向いてます」

「だったら……。あー、風呂桶先生。前方15mに敵3匹。よろしく」

『布路桶だ!』

 

 この調子でΩチームは、サーチアンドデストロイを繰り返している。

 高橋弟、舎弟氏、布路桶氏の3人は8tトラックに乗ってこっそり移動し、標的を気絶させては

縛り上げてトラックの荷台に積んでいる。最終的には建造物不法侵入で警察に渡す。

 そろそろ捕縛したのは50人を超えるはずだ。

 

「ん? 彼ら集結しつつあります。この倉庫の裏を目標にしてますね」

「他に別個の動きをしているのはいない?」

「いません。残りすべてがここをめざしています」

「なら、やることは決まってるね。……行こう」

 

 奈落の底のような顔をした二人がうなずき合う。

 この二人には恐ろしい者はもはや、または初めから、全くない。

 どうやれば殺さないですませるか、それだけを考えればいいのだ。

 

 こいつは素敵だ。全部台なしだ。

 

 

 

 

 

 

 一方、後檣楼トップに降り立ったアキラたちは、屋上のロックを外して中に侵入する。

 警戒システムはハックされているので、彼らの侵入は察知されていない。

 問題なのは情報科3年生のスーパーハッカーが、戦闘力皆無ということだ。

 彼女の護衛が、最優先となる。

 

 その「彼女」が、耳に付けたデバイスらしきものを起動させる。

 そのまま彼女は、まるでノートパソコンにでも向かっているかのような姿勢を取る。

 そして「エア」キーボードをたたき、「エア」トラックボールと「エア」タッチパネルを

操作する。ような動きをしている。

 

「その小さなデバイスが、電脳なんですか?」

 

 疑問に思ったアキラが聞く。

 

「坂本のデバイスだから、無関係な人間には使えないっちゃ」

 

 機密なので答えない「彼女」に代わって説明したのは有川雄妻だった。

 

「それはただのシンクライアントよ。

 脳波に同調して、大脳の未使用領域をアナログコンピュータとストレージとして使うの」

 

 つまり、人工冷泉麻子ってことですか。

 アキラはそう思ったが、あながち間違いではない。

 ただ、このシンクライアントは、このデバイスを装着するものすべてに限定的な

WAN環境を提供する。

 「彼女」と山本教授は、リアルタイムデータ通信をしているというわけだ。

 これを使用することによる脳へのダメージは、毎時脳細胞10個程度。

 出席簿で殴られる方が、よほどダメージがでかい。

 なお、もし冷泉麻子がこのデバイスを装着しても、ディスプレイとネットだけの

本当の意味でのシンクライアントにしかならないだろう。未使用領域がわずかしかないからだ。

 

「彼女」は、大きめのICレコーダーのような機器を取り出し、壁に当てながら歩いている。

 

「ここだっちゃ」

 

 「彼女」は指で、何かあるらしい場所を示す。

 雄妻が小さなカッターのようなものを取り出し、壁面をきれいに正方形に切り抜く。

 

「超微細振動で分子間の結合を解いているの。切っているわけじゃないわ」

 

 切り取られた壁面の奥には、金属の薄い箔のテープが走っている。

 

「有線するずら。静かにするっちゃ」

 

 「彼女」はデバイスからコードらしきものを伸ばして、「箔」に当てる。

 ダイレクトリンク。ある意味定番の表現だ。

 

「これがLANケーブルだとでも?」

「そうね。ただテラビット級の通信速度を持つケーブルが、数万回線分あるけどね」

 

 アキラの疑問に答えているのはやはり雄妻。

 中野予備校とかでも、坂本の技術とかは普通に使われているようだ。

 

 

 

 一方でΣチームでは、山本教授がただのノーパソに見える機材を開いて、

やはりデバイスと「有線」している。

 

「ん。これはどういうことだ?」

 

 

 

「サブシステムは、もう丸見えずら。

 しかし、それとつながるはずの、メインシステムが見えないっちゃ」

「うーん。スタンドアローンなんだから、別系統回線を使っているのでは?」

 

 その程度のことなら、アキラでも想像はできる。

 

「いや、通信系統はこれしかないずら。

 兵装管制システムや、航法管制システム以外に各兵装や機関が接続していないっちゃ。

 つまり、メインからはこれらを動かせないということになるずら。

 まったく意味不明だっちゃ」

 

 ここで起きる当然の疑問。それは、ならばメインサーバーは何を電源に動いているか。

 

「だったら、そもそも僕らが想定した、メインシステムそのものがないのでは?」

「それはないずら。もしそうなら、航海艦橋の端末をすべて破壊し、人員を追い払った時点で

 この船は大洗とシンクロできずに止まるずら。

 現にこの船は電子的に管制されて動いてるっちゃ」

 

 たしかにそうだ。なら、メインサーバーというのは……。

 

「それはともかく、兵装管制システムを乗っ取ったなら、やることがあるっちゃ」

 

 兵装の自爆。とくに手動でも脅威になる80cm砲の無力化だ。だが、

 

「きりはなされてるっちゃ……。うっ!」

 

 何かが逆流してきて、「彼女」が苦悶の表情を浮かべる。

 雄妻がとっさに、デバイスのコードを「箔」から外した。

 

「もう少しで『焼かれる』ところだったわね。あぶなかったわ」

「でもこれで、うちらの存在が知られたっちゃ」

「それはなんとかするわ。酢堂、つきあってね」

 

 雄妻は自分の長髪を後頭部でしばり、サングラスをかける。

 そして全身の骨をポキポキいわせながら、体格を変えていく。

 

 ものの10秒で、有川雄妻は身長と肩幅が1割ましになった「男」に変身した。

 酢堂は逆にウィッグをとって、本来の彼自身の体格にもどっていく。

 

 いったい、なんなんだこいつら。

 いや、考えたら負けだ。感じろ。とアキラは思った。

 

「さあ。早く逃げるっちゃ」

「でも、あの人たち……」

「それは大丈夫。あなたももともとの中野学校がどういうところか知っているんでしょ?」

 

 それまで黙っていたバゾクが、はじめて口を開いた。

 

 今では、「中野学校」でどういう教育がなされ、どういう部隊に配属されたのか全くなぞだ。

 しかし、ここに入学をゆるされたのは、陸士や陸幼の出身者ではない。

 旧てー大やそーけーのような一般大学の、それも優秀な学生たちだった。

 彼らは旧軍のトレードマークであるボウズ刈りもせず、民間人の服装をし、

むしろ軍人に見えないようにふるまうことを自らに課していたという。

 また、「戦陣訓」を守らない唯一の陸軍部隊だった。

 あえて捕虜になり、偽情報を流すばかりか敵情をつかんで、脱走して生還するのが任務だ。

 脱走できなくても、いろいろといやがらせをすることで敵を妨害する。

 「死」は、任務の失敗にほかならない。

 

 なるほど、てきとーに暴れてからつかまって、敵中枢にもぐりこむというんだ。

 そう理解したアキラは、「彼女」をお姫様だっこしてその場をはなれた。

 

 

 

 

 

 

「オメガリーダーより総員に告ぐ。大洗艦に潜入した花園の兵隊は、

 全員捕縛ないし気絶状態だ。オメガはこれよりプシーの増援として1名だけ派遣する」

 

 Ψチームは、大洗風紀委員の全戦力1個中隊すべてで構成されているが、

10倍の数のステゴロどもを相手できようはずもなかった。

 ラッタルの用意はできているものの、それを渡した瞬間に、初めからどっか壊れている巨漢

蔵王権太を先頭に、乗り込んでくるのは目に見えている。

 むろん角谷の言う「1名」とは、吸血鬼セラスのことにほかならない。

 戦車倉庫の裏に集結したごろつき約50人を、デコピンどころか軽くひとなでで全部KO。

 だが、角谷がセラスに依頼したのは、残余の兵隊どもの掃除ではなかった。

 

 セラス・ヴィクトリアの主兵装、「ウラジミール・ハルコンネン」をつかった、

露出武装の掃射だったのだ。

 

 フル装備状態で数トンに達する、個人用装備。

 グリップが付いて、小銃のように構えることのできる機関砲2門は、口径30mm。

 他にも、多用途榴弾や有翼安定徹甲弾の撃てる単発式対物砲のハルコンネンも携帯する。

 

 ブラッドソーセージでレベルアップしたセラスは、これらを単にもっていけるだけではなく

装備した状態で、空中を飛行することができる。

 

 本来なら使用予定のない連隊規模の大火力を投入する理由は、Σチームが花園艦の武装の

コントロールを乗っ取ることができなかったためだった。

 

 そして、セラスが人間の目ではとらえきれない速度で花園艦に接近したとたん、

――いままで沈黙していた多数のCIWSと5インチ単装自動砲、ズムウォルトにしか搭載されて

いないはずのリニアガンや、高速誘導8インチ自動砲が一斉に火を噴いた。

 

 

 

 Σチームのいるサーバー管制室では、このときになって敵サーバーを乗っ取ったつもりで、

逆に踏み台にされ、敵側メインサーバーのコマンド経路にされていたことを

やっと察知した。

 情報科サーバーの一つを強制的にシャットダウンさせて、経路を絶つ。

 すると当然、花園側の迎撃が止んだ。

 

「しまった。敵も坂本レベルとはな。使っていたのが情報科の演習用機でよかったよ」

 

 山本教授は、してやられたことを認めた。

 しかし、これで敵側はサブシステムのクリーンインストールをしてくるだろう。

 おそらく、今度は同じ手は使えない。

 

 

 

『角谷君。どうも相手をハックして一方的にあやつるという作戦は失敗だ。

 奴らがシステムを再起動させる前に、できるだけ武装を無力化させてくれ』

「もうやってます。教授。しかし砲塔の装甲がチョバムらしくて抜けないです」

『セラス君なら砲身自体を狙えないか。普通なら無理だが』

「あ。その手がありましたか。80cmはどうします?」

『キャニスターごと対艦ミサイルでも突っ込んでおけばいい。ライフル砲なら暴発する』

 

 セラスには再説明は不要だ。

 角谷の念も読み取っている。

 すばやく飛び回りながら、砲などの根元を狙って30mm弾を連射して叩き折っている。

 

 

 

 山本教授の操作する「ノート」に、花園艦の内部らしき画像と、有川雄妻の発したメッセージ

が表示される。

 ELFの一種、地球が常に発している「シューマン共振」を利用する通信であり、脳波のうち

θ波とリンクしている。

 ただ、人間の脳がこの波長の信号波を受信することはできても解析はできないため

体外のデバイスに出力して可視化している。

 また、潜水艦通信に使用されているELFとことなり、巨大な通信アンテナを必要としない。

 これもまた脳を利用したシンクライアントの一種だ。

 有川雄妻の持つ端末は、コンタクトレンズに偽装している。

(※注:リアルでもシューマン共鳴波発生装置をうたう機器がオーディオ界隈に存在するが、

 その効能や、本当にシューマン波が発生しているのかどうかについてはコメントできない)

 

 つまり、「予定どおり」有川と酢堂は、CICの内部に「連行された」わけだ。

 

「角谷君、ケースオレンジに移行する。それと『メインサーバー』の正体が判明した」

 

 角谷は「正体」という言葉に反応した。

 

『やっぱり、そうでしたか……』

 

 

 

 

 

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