失われた約束の地   作:米山ともき

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 Johnny,Johnny! That was a good time when you belong.

 

 

 

 大洗女子学園の戦車道チームは、戦車道をはじめてまだ3か月にならないひよっこだ。

 そのひよっこ集団の一員の僕は、なぜか第一回戦の相手のサンダース付属の戦車演習場で、

中学1年生ぐらいの「お嬢さま」に指図されながら、コアラの森学園の戦車に乗っている。

 

 こんな「三題ばなし」みたいなことになったのは、このサンダースがすごい強豪なので、

隊長の西住先輩が悩んでいるのをみかねた秋山先輩が、サンダースに潜入する決心をしたから。

 そして、てっとりばやく、僕の大洗における保護者が自動車部に買いあたえた空飛ぶ自動車、

TF-Xと、もぐりのパイロットの僕をつかってもぐりこむ。

 本当ならスマホの機能を使って、秋山先輩がさぐったことを僕が同時記録するはずだった。

 だが、サンダースはデータ通信を遮断していたので、秋山先輩とのやりとりはできなくなる。

 しかたなく僕は、先輩の行動をバックアップするために作業員になりすまし、

自動車形態のTF-Xでのりこんだ。

 そして、とめるところをさがしていたら、演習授業に参加するコアラの森学園の装てん手が

けがをしたところにでくわした。やむなく僕は助けにいった。

 そして、手当てした僕が装てん手だとわかってしまったため、代打をたのまれた。

 

 くだんのお嬢さまについていえば、A41重巡航戦車のプロトタイプのオーナーで、

僕はお台場で、とおりすがりに道を聞かれたことがあるだけ。

 でもなぜか、たまたまいあわせただけの彼女が、コアラ・メイプル連合軍の全体指揮を

とっている。なんで? この子なにもの?

 

 そして、本来の隊長さんは操縦席にいって、お嬢さまがいまは車長兼砲手になっている。

 

 

 

 お嬢様直卒のセンチネル巡航戦車3両は、ガバナーゆるめるなんてあぶないまねしてまで

最大出力だして、スタート地点からいっきに6km進出。下り斜面を利用してかくれている。

 途中で、お味方のみなさんを全部ごぼうぬきにした。

 そのお味方たちも、だせる全速でこっちにむかいつつある。

 完全に、セオリーなんてガン無視。おいおいだなあ。

 お嬢さまは、1時間でかたをつけるっていっていたけど、なにを考えているのやら。

 

 いまここで、僕の乗っている戦車は、センチネルAC-Ⅳというオーストラリアの戦車。

 17ポンド砲という、イギリス製の連合軍側最強の武装をもつ。どれもこれもはじめて見る。

 そして、弾が重い。十数kgある。普通の男でも大変だ。僕のM3リーの75mmの倍ぐらい。

 よりによって、この弾のために特訓してきた人がけがしたので、代役がいない。

 僕がたまたまいあわせて弾をあつかえるところを見せなければ、当然リタイアだったろう。

 お嬢さまは、男が戦車に乗れた当時のイギリス兵は、6秒に1発装てんできたという。

 正直、「体は男」の僕でも自信がない。アングロサクソンの男は、それだけ屈強だ。

 さらにこまったことに、装てん手の配置が砲の右。だから左腕で押しこまなくちゃいけない。

 ただ、この戦車は、リーを研究してつくった戦車だそうで、車高も低く、速度も速く、

装甲も厚く、と、僕からみればうらやましいことばかり。

 うしろにひかえている2両は、同じセンチネルのⅢってやつらだ。

 25ポンド砲という、口径約88mmの短砲身の榴弾砲をつんでいる。

 有名だというドイツの88mmとは比較したらかわいそうらしいけど、

あんこうⅣ号D型や、リーよりは強い。シャーマンの75mmとなら対等らしい。

 かわってるのは、2両のうち1両が、これを2門積んだ連装砲塔だということ。

 でも、斉発にたえられるそうだ。大きくない戦車なのに、がんじょうなんだね。

 

 ただ、この3両はおためし期間中だという。

 使ってみて、ものになりそうなら買うらしい。

 軽戦車1両が買えないうちからみたら、これもうらやましい。

 

 僕らがかくれている場所は、横幅2kmの演習場だけど、サンダース隊がこれから進む方向、

すなわち、僕らの左手側には、高さ50mぐらい、幅1.5kmぐらいの丘がでーんとある。

 ここで、サンダースさんたちは一度とまってどうするか決めることになるだろう。

 僕たちがいることも知らずに。

 

 待つことしばし。

 ついにサンダース三軍、20両のシャーマンが5つのグループであらわれた。

 まさか僕らがこんなところまで進出してふせている、なんて考えもしないから、

目のまえの丘をどうするか、ここでうちあわせている。

 4個小隊プラス、中隊本部で、各4両という想定のようだ。

 第1~第4小隊が、75mm砲装備の、ふつーのシャーマン。

 中隊本部が、51口径76.2mm砲が3両、AC-Ⅳと同じ17ポンド砲をもつファイアフライが1両。

 ファイアフライの車長が総隊長らしく、ほかの車長に指示をだしている。

 こう配は3.3%。箱根駅伝の往路5区よりすこしきつい。

 戦車ならどうということはないけど、丘といってもなだらかな斜面じゃない。

 20両の部隊がまとまってこえていけるものではないのはまちがいない。

 

 

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 当然、彼女らは丘をさけて進むことにきめた。

 方法は10両ずつにわかれ、それぞれを隊長と副隊長が率いて、丘の両脇をぬけるというもの。

 

 演習開始後15分がたった。

 サンダースのシャーマンたちは、片方5両ずつの列をつくって、丘のわきを前進する。

 総隊長ののったファイアフライは、手前がわの10両の、一番うしろを走っている。

 ここでお嬢さまは、3両のセンチネルに隠れ家からでて、その集団のうしろをとれと命じた。

 

 

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 僕たちは、おしりを向けるシャーマン集団の真後ろについた。

 しかし、お嬢さまは、まだ撃ち方はじめを命じない。

 連中は、僕らがうしろにあらわれたことなど気づかず、砂けむりをたてて前へすすむ。

 どんどん距離がひらく。

 お嬢さまは、ハッチをあけて、単眼鏡とクロノグラフを見くらべてる。

 そして、となりでおなじように連中を観測している僕にたずねる。

 

「いま、一番うしろのファイアフライ、何ミルになった?」

「3.6ミル。750mですね……。820ヤード」

 

 お嬢さまは、もう一度クロノグラフをみた。

 

「中に入って。いまから10秒後きっかりに低抵抗を装てんして。

 5回撃つから、すばやく次弾をこめて。弾種はすべて低抵抗でおねがい。

 7秒で合格にしてあげる」

 

 

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 この戦車は、3種類の徹甲弾をつんでいる。

 それは、戦車に弾をつんだときに、お嬢さまに教わった。

 スペシャルな徹甲弾は、実戦では配給があるたびに(使ったことにして)ためこんだそうだ。

 だけど、戦車道ではそういう「ずる」はできない。APDS弾は、定数の5発きっかりだ。

 この戦車の徹甲弾30発のうち、コーンありのAPCBCと、コーンなしのAPCのくみあわせは

自由だけど、10発が空気抵抗の低いAPCBC、15発がAPCになってる。

 お嬢さまは、しょっぱなからたてつづけに低抵抗、つまりAPCBCを撃つっていってる。

 しかも、間隔は7秒しかあげないからっておっしゃる。たいへんだわ。

 僕は自動装填装置じゃない。

 

「自動装填装置なら、10秒はかかるのよ。

 機械を超えてみせるのが、空挺の心意気なんでしょ?

 ――撃つわ!」

 

 僕が何かをかえすまえに、お嬢さまは17ポンドを撃っていた。

 マズルブレーキがついているといっても、この後座長は半端じゃない。

 でかい空薬莢がはき出されると同時に、たちこめる煙で煙幕はられたようだ。

 天井のベンチレーターの能力を超えている。

 イギリス人が、砲身途中のふくらみ、エバキュレーターを発明したのも道理だわ。

 何て考えてる間に、僕の両腕は勝手に動いて、17kgというふれこみのAPCBCを押し込む。

 訓練というものは恐ろしいもので、僕は砲弾も装てん口も見ていない、次弾を見ている。

 まったくのブラインド。

 しかし、お嬢さまは装てん完了を示すライトがつくと同時に撃った。

 僕はラックを見たまま、無意識に砲弾を押し込んでる。

 慣れない左手装てんなのに。

 いや、僕もお嬢さまのやっていることがわかる。

 僕が装てんするまえにはもう、次の標的を仮想弾道にとらえてる。早い。

 あゆみちゃんと比較するのが間違ってるのは承知してるけど。

 無表情、リラックス、力が抜けている、オーラが出ていない。

 ――本物だ! 真の強者だ。

 

 ペリスコープから前方を見ている副操さんが、次々と戦果を無線に向かって告げている。

 

「第1射、有効。第2射、有効。A1。第3射、有効。第4射、有効。第5射、はずれました」

 

 

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 お嬢さまが命じたのはAPCBCを5発装てん。だから僕は待機。閉鎖機は開放。

 サンダース側は、大将騎のファイアフライと、長砲身を含む4両が全部有効。

 白旗を揚げて停止してる。

 お嬢さまは照準眼鏡から離れ、再び顔を出して状況を確認している。

 

「アルファリーダー射撃中止。本車は右30度旋回、前進せよ。

 アルファTOO、TREEは、RP斉射3回。直接照準」

 

 サンダース側は、きれいな千鳥陣形で行軍していたのが、かえってあだになった。

 後背からの奇襲が効果的にコンボした。でも1,000m近くで命中率80%とは。

 彼女らはこの急襲にパニックになっている。

 こちらが斜め前方へ走り出してから、砲塔を後ろに向けたり、Uターンしたりしてる。

 しかも、各自が勝手に動いている。

 僕たちが、射線から動いた瞬間に、うしろで静止していたAC-Ⅲが発砲した。

 だが、第1射は全部はずれた。しかし――。

 

「発煙弾、敵梯団に命中。敵は発煙圏内にあり」

 

 

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 副操さんの言うとおりだ。RPは知っている。赤リン発煙弾だ。

 第二次大戦を忠実に再現するなら白リン弾だけど、白リン弾の不安定さと焼夷弾的性質から、

戦車道では、現在の主流である赤リン弾を、発煙弾やスモークディスチャージャーで使用する。

 さらに、サンダース側に6発、計9発の発煙弾が浴びせかけられた。

 こうなったら、むこうは危険でうごけない。

 実は、赤リンの煙は、赤外線も遮断する。まったくの視界ゼロになっている。

 なるほど、25ポンドは元が野砲なんだな。

 だから発煙弾の設定もあるんだ。

 その間に、僕たちは単騎で丘にのぼっている。

 というか、お嬢さまの指示は「丘越え」だ。

 仮にむこうの副長がひきいるもうひとつの集団が引き返してきても、僕たちはいない。

 また、お嬢さまのもくろみがあたれば、それどころではなくなってるはず。

 

「キィローリーダー。前方に煙幕を目視せり」

「マイクリーダー、前方に敵展開中。エンゲージ!」

 

 キィロー(K)はコアラ、マイク(M)はメイプル。

 僕らはちょうど丘の頂上まできている。

 左右を目視する。左手側には、速度の遅いマチルダにあわせず先行したリーとスチュアート、

プラスAC-Ⅰの計5両が前進中。

 右手側では、メイプルのラムとサンダースのシャーマン10両ずつが戦闘隊形に移りつつある。

 当然、サンダース側は、丘の右側、幅約500mのスペースで陣形再編をおえた。

 おなじ数の両者が、砲火の応酬をはじめる。

 76.2mm51口径が2両いるサンダース側が優勢で、第3斉射までにラム2両が白旗になった。

 サンダース側はいまだ無傷。三軍とはいえさすがだ。

 

 左手側では、ようやくマチルダⅡ2両が追いついた。

 それを見たお嬢さまが、全隊に命令を出した。

 

「TOO、TREE、リーはHE斉射2回。

 マイク。アルファリーダーは貴隊前方の敵勢の後背をつく。それまでねばれ。

 ……戦車前進。200m」

 

 

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 そして僕には戦闘再開を告げる。

 

「今度は、弾種APC。射撃回数は制限なし。くたばらないでね。『おねえちゃん』」

 

 このとき、時刻は1125時。

 丘の左で、煙幕を散らすための榴弾射撃が始まった。

 AC-Ⅲ2両とのこりのコアラ隊は、それぞれ敵の前後から約500mに接近している。

 煙幕がはれたとき、サンダースの6両は、幅500mのはざまで、はさみうちされることになる。

 

「右90度旋回しつつ、100m前進。射撃後ただちに300m躍進」

 

 もう薬室には、ご指定のAPCは装てんずみっすよ。

 こっちをみはってるのがいれば、もう見つかってるところだけどね。

 むこうは目の前の敵との戦闘に集中していて、やばいやつが背後の丘からくるのを知らない。

 

「目標、敵副隊長車。M4A1。射撃」

 

 閉鎖機があいて、空薬莢がとびでると同時に煙が立ちこめるけど、もう勘で込められる。

 右手首を動かして薬室にねらいをつけるのは、右配置でもできる。

 スピードは、ほぼベストまできたような気がする。

 

「命中。有効です」

 

 副操さんが言うのと同時に、もう走り出してる。

 30秒後には止まって撃つはず。

 

「目標。もう1両のM4A1。

 射撃後直進200m。そのまま120度旋回し、敵の後背で停止せよ」

 

 そういいながら、砲を次の目標に指向させているようだ。

 照準眼鏡の視野は狭く、そのため索敵しながらの射撃は普通は無理。

 砲をむけるべき方位を指示するのは、車長の仕事。

 だから車長が専任の、5人乗りが有利。

 

 しかし、優れた空間把握能力で、見えないはずの敵の位置を記憶している人もまれにいる。

 じっちゃんや大統領が砲手になれば、スタビ不要で行進間が近距離ならできるだろう。

 となりにいるお嬢さまも、そういう能力をお持ちのようだ。

 無駄のない動きで、砲を指向させている。

 数秒で次の目標を見つけたようで、あとは追尾している。

 

 再び停止。車体のゆれが意外とおさまらない。3秒はゆれている。

 でも、お嬢さまはかまわず発射。

 即座に戦車が走り出したところをみると、1発で息の根を止めたらしい。

 

「目標命中、判定撃破」

 

 やっぱりそうだ。なんてやつだ。このお嬢さま。

 

 200m走ったところで、車体が水平になる。

 そのまま大きな半径で、速度を落とさずコーナリングする。

 戦車の苦手な、Rの大きい旋回。

 こいつ、英連邦の戦車のくせに、クレトラックだ。

 僕の頭の中のコンパスが、時計の4時間分まわる。

 お嬢さまの時計、クロノグラフだとばかり思ってたけど、文字盤全面が液晶画面だ。

 なんだあれ。

 コマンダーズコンパスが表示されてる。

 スマホの時計版か? 信じられない。

 いや、そんなことより、もう止まる。

 

 おそらく、前にいるメイプルとサンダース三軍は、よくて消耗戦を演じてるだろう。

 メイプル不利ってのが、現実じゃないかな。

 このとき、サンダースは2両のM4とひきかえに、累計で4両すでに食っていた。

 しかし、そこにお嬢さまが乱入して、長砲身を2両食った。のこりは6両。

 しかもうしろを取られた以上、前ばかり向いてられない。どうする。

 

 やっぱり、瞬間的に、サンダースの発砲音が止まった。

 お嬢さまは、ものも言わずに撃ちはじめる。

 おそらく、精密射撃じゃない。

 装てんランプがつくなり撃っている。

 もう7発こめたぞ。息が上がってきた。

 

「6発命中。撃破判定は2両です」

「ふふふ。案ずるな。峰打ちじゃ」

 

 やっぱりてきとーに撃ってたんだ。

 

「峰打ちって。何考えてるんですかあんたはー!」

「ここで食うだけ食ったら、メイプルの人の修行にならないでしょ。

 目覚まし代わりに、わざとすみねらって当てたのに、2両も逝ったのね。やわね。

 でも、……不意をついての遭遇戦で、逆に先に2両討たれてるようでは、期待できない。

 ……だいたい7秒というところね。そこまでは期待してなかったけど、おもしろいわ。

『おねえちゃん』」

 

 これで、メイプル対サンダースは6対4。

 これなら敵がおろおろしている間に、こっちは終わる。

 ん? お嬢さまがインカムとった。

 

「マイクリーダー。あとはまかせる。

 キィローリーダー。戦況を報告せよ」

『キィローリーダー。敵残余6両を撃破しました。味方損失は4両です』

「ふん。まあいいわ。本車は戦場を離脱する。以降は各指揮官の判断にて戦闘されたし。

 ……丘の尾根を越えて、状況開始地点まで帰還する。私の時間がないの」

 

 ん、いま1139時だよ。たしかに1時間で終わりそうだけど。

 途中で戦場を変えるコアラ5両とすれちがう。

 背面を取るために丘を迂回するより、そのまま合流した方がいいとみたようだ。

 僕もそれで正解だと思う。メイプルの損害が大きい。

 

 

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 1145時、状況終了。

 そのときにはAC-Ⅳは、出発地点に戻ってて、お嬢さまはあいさつもそこそこに、

校舎に向かって走り出していた。

 

 デカいヘリの音が2機分聞こえる。巨人ヘリMi-26だ。

 1機は例のデスバード専用機。もう1機は普通の灰色塗装で、戦車道連盟のマークが

機体底面に描かれている。

 デスバード機は、こっちのほうにある、トレーラーが止めてある駐車場に着陸。

 もう1機は、校舎をはさんで反対側の、校庭の芝生の上に着陸した。

 そっちはランプドアが開くと、ずらりと並んだ客席仕様のシートが見えた。

 いす並べれば、80人乗りの旅客ヘリになるからね。

 

 しばらくすると、学生じゃない女性たちの集団がやってきて、どんどん乗り込んでいく。

 

「おい。お前、大洗の」

 

 ――しまった!

 いきなりうしろから声かけられろまで、気がつかないなんて。

 前に注意はらいすぎてたかも。ここは一応「敵地」だった。

 

「……かまえるなよ。あっしだ」

 

 ふりかえると、スタジャンにジーンズ、アポロキャップにボサボサセミロングヘア。

 トレードマークのぐるぐる渦巻きトンボメガネの、大河 真琴さんがいた。

 

 

 

「あーおどろいた。何でばれたんだろって考えちゃいましたよ」

 

 なぜか僕は大河さんと、学内の和風料亭風、個室だけで400室ある巨大学食でお昼している。

 

「何しに来てるかはお察しだが、少しは気をつけろよ。

 あっしは中立の立場だからなんもいわねーけどよ。

 ここは、まあ長崎の学校だからな。しっぽく料理専門の学食だ」

 

 なんてものがあるんでしょうね。お金持ちだなあ。

 

「そういえば、今日はどうしたんですか? ヘリ2機で来たりして。

 大河さんは、やっぱ戦車のあっせんですか」

「まあな。AC-Ⅳとへんなの含むAC-Ⅲをすすめてやったんだがな。

 コアラの連中、やっぱり無理だから返すってさ。

 ガバナーいじったりしたくせによ。てきめんに脚がやられてたぞ」

 

 どうみてもあれらは、僕らにすすめたチャーフィーよりも高いだろう。

 でも、一応検討できる財源があるなら、買えばいいのに。

 1両で三軍とはいえサンダースを、一方的に手玉にとれるんだから。

 

「まったく。どこかの飛び入りがやったみたいに装てんするのは無理だから、あきらめるとさ。

 1分で3発がやっとだとよ。鍛え方が足んねえんだよ。ぽんぽん当ててたくせにな」

「あ、実はその砲手のひとも飛び入りでした」

 

 大河さんは横を向くと「ふーん」とだけいった。

 目線は、たぶん今飛び立った灰色の方のばけものヘリに向いてる。

 

「あっちのほうも、戦車道の関係者ですか。何か会合でも?」

「聞きてえか? 他言無用だぞ」

 

 大河さんは、人差し指でメガネをずいとあげると、低い声で話し始めた。

 

「要するに戦車道界でも、アンチ西住派の主だったものが、ないしょの会合をもったんだとさ。

 サンダースがここに来たのを機にな」

 

 でも、ヘリまで融通するというなら、連盟も食わせ物だ。

 ふだんは西住流を看板あつかいしてるくせに。

 

「まあ。アンチ西住の雄、島田宗家が声かけたんじゃなあ。全員集合だよな。

 お前さん、島田流ぐらいは知ってるんだろ。

 国内じゃ第二勢力だが、世界じゃ192の国と地域に道場を構えてる国際派だ。

 だから、たがいに相性は最悪だ。それに宗家同士が個人的に仲が悪りい」

 

 まあ、昔は空手の極真、戦車の島田。っていわれたらしい。海外じゃ。

 柔道は昔も今も講道館一択だけど。

 ……つまり、イスラム教を国教とする国以外には、かならずあると。すごいな。

 

「個人的に、というのは?」

「あのな。むかしは突っ張った姉ちゃんらが、ずるずるスカート引きずってたろ。

 戦車道のタンクジャケットも、高校生は今の超ミニじゃなくて、

 靴が隠れるレベルの長いスカートという時代があってな。

 まあ、ちょうどどっちの家元も血気盛んな高校生だった頃だ。

 今の宗家、高校生の西住しほと島田千代がたまたま連盟本部本館で、手下10人ずつつれて

 出くわして、ガンの飛ばしあいになったと思いねえ。スカート引きずってな」

「例の映画では、フーテンタイガーさんのCGもそうでしたね」

「あー。あれは死ぬほど恥ずかったぞ。もうどうでもいいけどよ。

 ……でだ、頭に血の上った両雄が、手下どもも交えて戦争になった」

 

 古き良き、かどうかはしらないけど、昭和だねえ。

 でも、スーザンさんだってケンカの時は仁義も大義名分もとおすのに。

 これは組織とは関係ない、個人限りの殴り合いだって。

 

「まあ、名門上流階級のご両家のメンツもあるし。ガキのやんちゃってことにしようとな。

 ふたりに戦車でケリつけろって、ハ号2両渡したんだ。

 そのころはまだペイント弾だし、たいしたことにはなんねえだろうと。

 でも、甘かった……」

 

 さっしはついちゃうけど、想像するのやめた。

 

「こいつら、ハ号にハコ乗りしてな。鉄パイプと、クギ付きバットで殴り合いやりやがった。

 その上、戦車でも体当たりくり返して、演習場じゃないところでまで暴れ回り、

 一晩中、破壊の限りをくりかえしても決着がつかないまま、疲れはてて二人とも寝落ちだ」

「で、拳で語りあう友情なんかめばえずに、両家の遺恨がいっそうひどくなったんですね」

「ご明察。

 さすがにいまじゃ名家の総帥だし、いい歳だし、んなことにならねえのはわかってっけどな。

 連盟じゃいまでも、このふたりを、たとえ廊下ででも絶対に会わせねえ。

 やむをえず同じ場所にとおすときでも、ガードマン倍にして10mは離す。

 なにがあっても二人きりには絶対しねえ。なんてことを守っているぞ」

 

 島田宗家が西住家とは、立場上も感情のうえでも不倶戴天の仇敵なのはわかった。

 そのおふたりのたちまわりは、僕の想像をこえていた。それはいいんだけど。

 

「では、なんでそういうないしょの会議の会場が、サンダースなんですか?」

 

 うん、サンダースは、飛行機で来たっていいだろうに、わざわざ学園艦でやってきている。

 これと関係があると思っていいだろう。でも、やっぱりなんで? わかんないなあ。

 

「まず、ひとつはすぐわかるだろ。

 ともに国内トップを争う強豪同士のうえに、おとなりさんだ。

 朝起きれば、いやでも相手の学園艦が見える。

 これで仲が良かったらどうかしてる」

 

 ああ、そうか。

 黒森峰はやっぱり有明海入り口が混雑するので、聖グロ同様に外海に出てる。

 サンダースのいる場所は、初めから外海だ。

 そして、となり同士は、当然よくもめる。

 

「そして、島田宗家たちのおもわくだが、去年は、プラウダが黒森峰の9連覇を阻止した。

 それも、キーパーがいねえゴールに蹴り込んだシュートが決勝点になったってやつだ。

 隊長は、よりによって西住の継嗣だ。面目まるつぶれ。連中は大喝采で祝杯をあげた。

 だが、それじゃ西住の無能の証明にはならない。そして黒森峰は捲土重来を期している」

 

 だったら、こんどは西住まほに、てってーてきに「家名だけの無能もの」の烙印を

押す必要があると。そんなところかな。

 

「またプラウダに勝たれれば、黒森峰が落ちぶれても、プラウダが図に乗るだけだろ。

 だから、サンダースってことなんだろうさ。

 そこで、われわれ反西住派は、全力でサンダースをプッシュしますよといいにきた」

 

 あーあ。サンダースと最初に当たる僕たちとしては、やっとれんわとしか言葉がない。

 

「ふふふ。いくらなんでも第一回戦から援助はしねえだろうよ。

 まして相手は、いっちゃあなんだが、おめえさんがたなんだからな」

「……しかし、メンツの問題だけで、こんなことはじめるとも思えません。

 これも、次につなげる布石なんではないですか」

 

 本当なら他人ごとなんだけど、僕らのチームメイトには、その西住家の息女がいる。

 くだらない理由で、茶々入れられたくない。

 まして、西住先輩はその「ゴールにいなかったゴールキーパー」なんだから。

 そんな連中に、利用されてたまるか。

 

 僕の顔が怒っていたんだろう。

 大河さんは一瞬「ニヤリ」として、話をつづけた。

 

「またまたご明答だ。

 答えは、数年後の世界大会。日本が会場になるやつな。

 それまでに西住流をへこませておきたい。日本代表を西住家主導にさせねえためにな。

 ……島田宗家には、いま、大学生の継嗣がいる。大学戦車道のトップエースだ。

 そいつを主将にしたいのさ。ならば、伝統と最大派閥のバックを持つ西住まほが邪魔だ。

 去年は妹が転ばせてくれた。いい機会だ。汚名返上しねえうちに叩きつぶそうというわけだ」

 

 そう。じゃあ僕には、サンダースに勝たなきゃならない理由がひとつ増えたというわけだ。

 まったく、なんてことにあの西住先輩を巻きこもうというんだ

 長いスカート引きずってタイマン張ってた頃の方が、あんたたち、まともだったと思うよ。

 

「しかしまあ、酒の欲しくなる料理だねえ。ここが学校なのが残念だよ」

 

 目の前には、しっぽく料理の数々がならんでいるけど、僕は箸をつける気にならなかった。

 ……と、ふつうならなるんだろうけど、食欲は正直だ。僕の場合は。とくに……。

 

「あ、ワリカンだからな。そうしねえなら『ここに大洗がいるぞ!』と叫ぶからな」

 

 ……なんつー締まり屋なんだろう。情報代ってことかしらね。

 

 

 

 しかし、今回も商談が流れたんなら、大河さんはあの3両、全部もって帰らないといけない。

 

「MI-26でも、30トンの戦車3両は、荷が勝ちすぎているのでは?」

 

 僕たちは、サンダースの校舎の屋上から、海を見ている。

 といっても、何もない太平洋側じゃなく、船がいっぱいいる浦賀水道の方。

 

「その心配はねえよ。こんどはあいつで来たからな」

 

 大河さんの指さす方を見ると、ずいぶんなこっとう品が浮かんでいる。

 陸軍が作った変態空母。というより世界初の強襲揚陸艦。「あきつ丸」の同型だ。

 あれならMi-26がのっても大丈夫だし、エレベーターで降ろした戦車を収納できる。

 出すときは、揚陸艇にのせて出せばいい。

 甲板には、なにか大きな建機みたいな装軌車がのってる。

 

「これから3往復して、AC3両を回収する。

 そしてあいつを、サンダースにひきわたす。

 そのあとは、戦車はあの船にまかせて、あっしらはヘリでお帰りだ」

「あのへんてこな、トランス○ォーマーにでも出てきそうなのは何ですか?」

「ビッグ・ウインド、という消防戦車」

 

 ……消防戦車。なんであんなものがあるのか、意味がわからない。

 

「上についてる2本の筒はなんすか?」

「ツマンスキーR13が2本だよ」

 

 おいおい、それってジェットエンジンではないですかあ? 旧ソ連の。

 

「ジェット排気で火を吹き飛ばすんですか?」

「んなことしたら、自分が飛ぶだろ。

 コンプレッサとタービンぶん回して、瞬間850リットルの水を吹きつけ、油田火災をも消す。

 もとはな、戦時の核汚染や化学兵器の除染用だったそうだ。だから戦車でまちがいない」

 

 

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(※ 流水郎様から指摘を受け、修正いたしました。ありがとうございます。)

 

 まあ、れっきとした軍用車両だったわけね。でもあれを戦車だというのはどうなんだろう。

 

「結局、廃棄する予定だったT-34やT-54の車台を有効利用したわけだ」

「なんでサンダースが、縁もゆかりもないソ連製のあいつを買うんですか?」

「ん? 例の映画のせいだよ」

 

 例の映画って、例の「ラブアンドシンセリティ」ですか。まあ、なんつータイトルだけど。

 大河さんがフーテンタイガーなら、やっぱりヒロインは西住先輩ですか。

 いや、西住先輩は流全次郎だった気が……。

 じゃあ、僕は「君のためなら死ねる」ですか? じゃなくてサンダースと何の関係が。

 

「50両の戦車が学園艦の甲板で爆発して、消火できなかったことになってたろ。

 サンダースでは、あれがマジで起きたらと、心配になったらしい。

 やっぱり、アメリカ系だから、ダメコンには神経質なんだろうな。

 ……水をどうするかは、全然考えていないようだけどな。

 本家では、貨物列車1編成、使うようだぜ」

 

 さすがに船の消火装置でも、廃船覚悟じゃなきゃ、海水は使わない。

 普通のポンプ車ならともかく、あんなのに供給する水、どこにおいておくんだろ。

 

 ……それより、サンダースのどんなお方がどこであの映画見たんだよ。

 

 

 

 

 

 

 しっぽくなんて、はじめて食べた。

 でも、時田さんなら、作り方知ってそうだ。あとで教えてもらおう。

 大河さんは、ヘリに戻って、返納された戦車を船に運んでいる。

 

 コアラの森の隊長さんが、これからサンダースの校舎内でデブリーフィングがあるから、

来てみないかと声を掛けてきた。

 そういえば、今日は半日なのか、午後になっても生徒たちが自由に歩きまわっている。

 この人たちに先導されれば、あやしまれずに行動できる。

 そろそろ中に入っておかないと、秋山先輩のサポートはできない。

 

 ミーティングルームは、艦内の中甲板区画にあった。

 これから両者で意見交換。ということになるみたいだけど、今回は飛び入りがいたから

あまり参考にならない。と、隊長さんはいってる。そうだろなあ。

 

 このへんは大きなミーティングルームが並んでる。

 今日の予定が、ホワイトボードに書かれてるね。

 

 ん? 戦車道一軍全員ミーティングってのが、いま行われている最中だ。

 これにもぐりこめれば、手の内全部わかりそうだな。

 だけど、僕の格好では、入るのむりだ。

 もしかして、秋山先輩は……。

 

「逃がすな!」

 

 その会議室の方から、ドアを開ける音がした。

 つづいて、誰かを追いかけているらしい叫び声と足音。

 ビンゴだ。

 

「ごめんなさい。仕事があったんで戻ります」

 

 ある意味当然すぎる言い訳をして、僕はその場をはなれる。

 コアラの森の生徒さんたちは、ていねいにおじぎをしている。

 いろいろと、ごめんなさい。

 でも、コアラさんは勝ち上がってもプラウダと当たるから、

僕たちとあいまみえることはないだろう。

 

 僕はとりあえずダッシュでTF-Xまでもどる。

 TF-Xは自動車形態のまま、もといた駐車場にそのままいた。

 だれかがさわった形跡もない。

 急がなきゃ。

 

 秋山先輩だって、ここの地理は不案内だ。

 だったら、まちがいなく正門側に出てくるはず。

 

 そのとき、助手席でブザーの鳴る音がした。

 

『正面玄関まで来て。追われてる。巻けない』

 

 先輩のカバンの下から出てきたのは、双方向通信可能なポケットトランシーバー。

 そうか、アマチュア無線なら、UHFでも下の方の帯域を使うから、1,000メガヘルツ以上の

携帯の帯域をジャミングされてても問題ないわけだ。

 

 僕が正面玄関前に乗り付けたときは、追っ手を引きつれた秋山先輩が、外に出ていた。

 といっても、ゆうに20mは離してるけど。脚力もすごいな。

 

「早く乗ってください!」

 

 僕は、右のドアのオープナーを引くと、つきとばすようにドアを開ける。

 とびこんでくる秋山先輩。

 ドアが閉まったのを確認して、ロックをかける。

 あとは走って校外に出れば……。

 

 ……。先回りしたのが、校門を閉じている。

 そして、僕たちはサンダースのみなさんにとりかこまれた。

 

 なんか、ミニサイズのツインテール(なのかな)の生徒が「降伏はムダだ。抵抗しろ」

とか叫んでる。本気なのか。ジョークなのか。間違ったのか……。

 

 どうでもいいです。

 では、抵抗する代わりに、「テイク・オフ」しますから。

 

 ボタンを押すだけで、TF-Xの主翼が展開し、ローターポッドが上を向く。

 自動プログラミングで、ひらいたローターがまわり、TF-Xは砂煙を上げながら離陸した。

 あぜんとした彼女たちは、僕たちが去っていくのを、ただ見送ることしかできなかった。

 こうして、僕らは間一髪、サンダースから脱出した……。

 

 

 

 そして、なぜか、僕たちは聖グロリアーナ学園艦の船首にある「紅茶の園」という

クラブハウスの客人になっていた。

 

「で、あなたがたは、サンダースから命からがら脱出したものの……」

「はい。サンダース側が航空無線で、浜松のE-767に不審機を見たって通報したんです。

 それであわてて、こっちに不時着しました」

 

 毎度のことだけど、ダージリンさんとの会話は、違和感バリバリだ。

 発音がネイティブすぎる。

 

 僕たちが向かうのは、紅茶の園から地下通路を通って、セキュリティゲートをくぐった先にある

『情報処理学部第6課』。GI6と呼んでいるそうだ。

 といっても、このありさまは大洗の情報学科とは意味が違う。

 要するに、産業スパイの養成機関も兼ねている。ハッカー養成以外に。

 

 そう。僕らの動きは、ダージリンさんたちに筒抜けだったわけだ。

 だからいきなり、ローカライザー電波をあびせられたんだ。

 ミスじゃなく、こっちにこいという意図的な誘導だったんだ。まいったな。

 

 ダージリンさんが座っている席の液晶モニタが点灯。直後に「SOUND ONLY」との表示。

 ワイヤレスのヘッドホンをかけたダージリンさんが、メモをとっている。

 

「急造のフライトプランができましたわ。あなたのおじいさまの名義で。

 管制区管制所も受理したそうです。大洗女子のデリバリーは、こちらでなりすましましたわ。

 ですから、ここの飛行場から、堂々と大洗まで直行できます。ただ」

 

 ダージリンさんが、ふっと笑う。

 

「全国大会が終わったら、また大洗市街地で交流戦をやりませんこと?」

 

 

 

 なんかなーもう。という言葉しか思いつかない。

 普通のフライトだから、僕は何もする必要がない。

 となりにすわっている秋山先輩は、TF-Xに乗りこむ前に、また着替えていた。

 コンビニの制服……。

 

「コンビニ船にのっていったってことにするわ。

 もともとその予定だったけど、大洗に来るはずの便の予定が変わってしまったの。

 サンダースには東京港から出たコンビニ船が寄港したわ。

 あんたは、自分で自分のアリバイを考えなさい。

 この、空飛ぶ自動車を使ったことが、できればバレない方がいいんでしょ」

 

 うーん。それはそうだわ。

 自動車部が気がつかなければ御の字なんだけど。

 止めてあった場所は、ホコリをかぶった車だらけのスペースだから、関心は低いんだろう。

 車の免許と、パイロットのライセンス両方持ってるのって、日本じゃ本職だけだろうし。

 

 僕は17歳になったらすぐに軽飛行機とヘリのライセンスはとるから、そうなったら

自動車部にまぜてもらって、こいつの専任になろうかな。

 

 秋山先輩は、集めてきたデーターをMPEGにする作業に没頭してる。

 鼻歌を歌いながら。

 

 ……たぶん「ジョニーが凱旋するとき」のつもりでハミングしてるんでしょうけど、

その曲も、「はるかな青空」と同じで、歌詞の内容にマッチしてませんよね。

 知ってます? アメリカ軍の徴兵スローガンが「ジョニーよ銃を取れ」だって。

 ジョニーは、日本語でいえば「太郎」みたいに男の代名詞的な名前。

 ジョンもおなじ。

 秋山先輩がハミングしているその曲も、裏面曲があるんです。

『ジョニー。あなただとわからなかった』っていう歌が。

 この歌を元ネタにした究極の一人称小説が『Johnny Got His Gun』です。

 映画版では『ジョニーは戦場に行った』と訳されてますけど……。

 

 

 

 ――翌日。

 大手柄のはずの秋山先輩が、なんかしゅんとしている。

 なんでも、西住先輩の前で例のドキュメンタリー仕立ての動画を再生したのはいいけど、

そのなかで、いまや西住先輩の前では、決していってはいけない言葉を口走っていたそうだ。

 ご愁傷さまです。

 

 

 

 

 




年賀イラ

【挿絵表示】

(pixiv様にも掲載)

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