失われた約束の地   作:米山ともき

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 This is not a Drill! Johnny

 

 

 

 

 

「うー。今度こそちゃんと渡ってやる」

 

 今日はこれで5回目の渡渉演習。

 西住先輩からは、ウサギの弱点はそれだから反復練習して克服しなさいといわれた。

 リーは、川岸でいったん停止。ギアをふだん使わない一速に落として、軽くふかしながら

ゆっくりクラッチをつなぎ、川に入っていく。

 ざばっと音がして、走行抵抗がいっきにふえる。

 車体下部は、すでに全没。サイドドアも開けられない。

 桂利奈ちゃんは半クラを維持して、さぐるように模擬河川を進む。

 

 いきなり「ガンッ!」と音がして、リーは急停止。

 片方の履帯が、岩に乗り上げたみたい。

 また、エンストしてしまった。

 

「桂利奈ー。根にひっかかったらすぐにクラッチ切りなよ」

「それかー、半クラのままエンジンふかせっていわれたでしょ。冷泉先輩に」

「うー!」

 

 いや、人間計測器の冷泉先輩のいってることを真に受けていたら、いつまでも上達しないと

思うんですけど。僕は。

 

「でもねー、半クラキープってけっこう難しいわよ。

 僕、こないだ普通二輪取ったけど、一本橋渡るとか、クランクやS字の進入のとき、

 半クラ使いながらアクセルワークで乗り切るんだけど、むずかしかったわ」

「ほら、アキラくんもそう言ってるー」

 

 問題はそれだけじゃない。

 クラッチペダルが重いんだ。

 400馬力と言えば、今のクルマならゴロゴロしてるけど、みんなオートマだし。

 馬力が同じでも、せいぜい1.5tの四輪車を動かすエンジンと、28tもあるリーを動かす

エンジンでは、トルクがけた違い。

 当然クラッチの容量も、それにみあったものでなくてはならない。

 かつての四輪レーサーも、重いハンドルやクラッチ、シフトレバーと戦うために身体を

鍛えたけど、戦車乗り女子はそれ以上。

 

「アキラくーん。オートマの戦車ってないのー?」

「うーん。ないことはないよね。

 このあいだみんなでみつけた2両は、どっちもノークラッチよ。

 B1の方は、クラッチペダル無しで、ブレーキとアクセルとハンドルだし、

 ポルシェさんの方は、そもそも電気自動車の電池の代わりにエンジンがついてる戦車だから、

 シフトレバーもないわね」

 

 まあ、B1の方は、本当に危惧していたとおり、マジでHSTだった。世界初の。

 変速機構までHSTの無段階シフトだったら、のろま戦車だったけど、

そっちはトルコンだった。

 ハンドルは油圧サーボモーターを動かすだけだから、パワステと言っていいかも。

 

 

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 これはあれね。エスティエンヌ将軍は、第一次大戦後戦車業界から建機業界に転職して、

ユンボ社を30年早く立ちあげたほうが、ずっと人類の進歩に貢献できたわねって。

 

「なんかぁ、そっちのほうが良くない?」

 

 あやちゃん。B1なんかに乗ったらいちばん大変なのはあなただよ。

 

「んー。あやちゃんが丸山ちゃんと梓ちゃんの分まで働くというならOK」

「却下! だめ! やってらんない」

「あとはどーかな。ダージリンさんのチャーチルとか、戦車の代名詞のティーガーとかも。

 でも……、旋回半径がリーとちがって2つしかないから、ティーガーなんて前進8段後進8段

 という忙しい戦車だし。それに7人乗れるのって、まともなのはリーしかないから」

 

 そして、なんとか川を渡りきったところで待ってたのは、ナカジマさんだった。

 

 

 

「もうしょうがない。最後の手段っ。

 点火プラグの番手を冷え型から、乾きやすい焼け型に換える!」

 

 でも、ナカジマさんも絶対やりたくなかったにちがいない。

 だって、エンジン外さなきゃできないもんね。

 

 それを外でやってしまうのが、ある意味すごいんですけど。

 トラッククレーンがリーに横付けして、車体のステーから外したエンジンをつり下げる。

 エアクリーナーはつけたまま。排気管は集合管だから、集合部から後ろだけ外す。

 そして吊られたままのエンジンに5人ぐらいでとりついて、あっというまに交換する。

 

「レースで鍛えている人はちがいますね」

「ああ。だが、くれぐれも油温に気をつけろって桂利奈には言っといて」

「えー。ナカジマさんからいってあげてくださいよ」

「あいつにはそもそも『油温に気をつける』の意味がわからない」

 

 ……そーですよね。

 女性ドライバーの中には燃料計さえ見ない人がいて、よくJAFがよばれますから。

 それに、最近の軽自動車なんかには水温計さえなくて、温度計の形をしたランプがあるだけ。

 

「あと、やりたくないかもしれませんけど……」

 

 僕はひとつだけ、無理をおねがいした。

 ナカジマさんはやっぱり、いやーな顔をしたけど、「しゃーねえな」とひきうけてくれた。

 

 

 

「すごいすごい。桂利奈、エンストしなくなったじゃない」

「だから、やればできる子っていったでしょ~」

 

 番手を落としたことで、低回転多用によるかぶり傾向もよくなったんだけど、

それにくわえて、足が小さく脚力もあまりない桂利奈ちゃんのために、クラッチのつながりを

浅くしてもらった。

 こうすれば半クラコントロールがらくになる、ただ、それとひきかえに減りが早くなる。

 摩耗に気づきにくくもなる。ホントはクラッチが浅くなったというのは摩耗のサインだから。

 半クラでアクセルワークをごまかすようにならないかとも、ナカジマさんはいってる。

 でも、その前にクラッチワークを身につけてもらう方が大事だと思う。

 アクセルペダルはかかとを床につけて踏むのが普通だけど、クラッチペダルは

足を床からはなして踏まないといけない分、微妙なコントロールがむずかしい。

 でもクラッチ焼けとかが心配になる以前に、切れる位置をもとにもどせるとは思う。

 

 

 

 そして、お昼の大休止になった。僕は戦車倉庫の裏手にひとりでいた。

 

「お忙しいところすみません。し……北条先生。ごぶさたしています」

 

 僕は、昨晩見た『どピンクの夢』について意見を聞くため、死神先輩の携帯にかけている。

 

「だから、死神いうな!」

 

 いーえ。先輩は絶対一生死神呼ばわりされると思います。

 あ、そういえば。

 

「先生。自動車部のナカジマから伝言があります。

 パーツかき集めて、ガンメタのR-32を作っているそうです。

 先生の誕生日に、プレゼントできるそうですよ」

「そんなんもう乗らんわっ! 今の愛車は地球に優しい電気自動車だ!」

「テスラ・モーターズでしたよねぇ」

「……」

 

 テスラ・モーターズは電気自動車でスーパーカーを作ろうという、ポルシェ博士も

ビックリの集団だ。走り屋やめて真人間になったと宣言する人が乗るものじゃない。

 

「先生が乗らないなら、解体屋寸前のパンダと、FCFDのロータリー兄弟と並べて、

 技術館に展示するそうです。先生が事故らせたクルマのリストと顔写真付きで。

 あと、解説は高橋先生に……」

「――うがー! やめてくれぇぇ!」

 

 

 

「あのなあ。夢が天然色だから何だって?

 人類の70%以上が、総天然色の夢を見るぞ。もちろん俺もだ。

 カラーの夢見たら精神疾患だなんて、ただのデマだ」

「いや、僕の場合、モノクロがデフォルトですから。

 それに、夢の内容が内容なもので。

 ショックで今でも忘れられません」

「男だったら喜びそうな夢じゃないか。

 ……普通は、夢なんて起床後10分以内で忘れるぞ。

 それに、夢を見ているというのはレム睡眠の状態だから、

 一晩に4話はちがう夢を見ているんだが、覚えているのは最後の一つだけだ」

「……いや、僕はアタマが女なのに、なんでそんな夢を見るのかと」

「逆もあるぞ……。だからいちいち気にするな。

 気になって仕方ないなら夢見るたびに記録しておいて、夢判断でもしてもらえ」

「精神医学的には……」

「……いまどき、フロイド学派なんかいない」

 

 夢占いしてもらえなんて、メンタルの医師のいうことなんだろうか。

 

「そんなことより、お前らの方、今大変なことになっているな」

「え? なんですか?」

「高校生全国大会だよ。ニュース見てないのか?」

 

 ちょうどそのとき、学内中の液晶パネルディスプレイに「ALERT」という赤文字が流れ、

河嶋さんの声で、緊急放送が流れた。

 

『戦車道履修者は至急、生徒会長室へ集合せよ。繰り返す……』

 

 僕のスマホのウォールペーパーも、緊急通信と点滅を繰り返す。

 

「先生。何があったのかわかりませんが、これで失礼します」

「いや、今日になって突然、連盟がすべての情報を止めたんだがな。

 いまは連盟本部に人の出入りもできないらしいぞ」

 

 

 

 

 

 

 会長室に最後にやってきたのは、僕だった。

 その会長室は、異様な雰囲気に包まれていた。

 今日の朝になって、試合会場に向けて出航するはずだった大洗艦に港湾局から待機せよと

信号が送られてきており。それからしばらく、港湾局は沈黙を守っている。

 戦車道連盟から伝達されるはずの航行スケジュールもなく、大会開催中は1日一回送られて

くるはずの、定時メールもない。

 そこまでは聞いていたので、やっと何かの動きがあったのだろうということはわかった。

 今日出航しなければ、予定の日時に会場には着けない。

 しかし、角谷会長は、不機嫌そうに横を向いたまま、着席している。

 

「たった今、連盟から緊急メールが、第二回戦参加校すべてに送られてきた」

 

 口を開いたのは、会長席の脇に立っていた、河嶋さんだった。

 

「第二回戦全戦を、都合により延期する。再開予定は不明だ。

 なお、参加各校は、すべて母校で次の指示があるまで停泊せよ。

 戦車道関係者は、練習を含めすべての活動を中止して待機。とのことだ」

 

 ここで、西住先輩が話し始めた。

 

「詳細を聞くために連盟に通話しても、回線がつながりません。

 連盟のネットサイトも、404の状態です。

 メールを送信しても、回線が物理的に遮断されて送れません。

 北関東地区本部も、同じ状態で何の指示も受けていませんでした」

「……おそらく、なんらかの妨害が行われていると見ていいと思う」

 

 いつのまにか、大統領がいすをまわして、僕らの方に向き直っていた。

 どういうことですかと、皆が口々に問いかける。

 

「テレビでは、ほんの数分のニュースが流れただけだ。

 高校生大会は、関係者でなければ関心を持たないからね。

 蝶野一尉が、朝一番で市ヶ谷地区に向かった。

 その足で、連盟総本部にも行くはず。

 そろそろなんか、連絡があるころだ。

 それと、茨城県警本部があわただしい。これと関係があるのかわからないけどね」

 

 しかし、蝶野さんからの連絡はいっさいなく、代わりに僕の携帯が鳴った。

 

「玲か?」

 

 父からだった。

 

 

 

「アキラ。蝶野一尉は東部方面隊に呼ばれて、そのまま富士学校に直行した。

 私が伝言を頼まれたよ。人を何だと思っているんだろうな」

「どういうこと? 父さん」

「昨日から、市ヶ谷を見張る公安の私服の数が倍に増えた。

 どっかのだれかがなにかやらかしたのさ。

 俺たちも痛くもない腹をさぐられないために、市ヶ谷地区に引きこもっている。

 おかげで仕事がとどこおってるよ」

 

 旧内務省系の公安部。

 警視庁には警視総監直属の、道府県警には警察長官直属の公安部隊が存在する。

 各種団体、過激派から、はては身内のはずの自衛隊や、公安そのものすら監視している。

 その実態は、彼ら自身ですら知らない。

 

「いいから、お前のボスに代われ。カミツキガメさんにな」

 

 なんと、父が角谷大統領本人と話すという。

 僕はスマホを大統領に渡した。

 

 大統領は、形どおりのあいさつをすると、あとはうなずきを返すだけで、

一方的に父の話を聞いている。

 メモの類もとらず、声が外にもれないように、手でスマホの受話部をふさいでる。

 やがて、通話が終わる。

 

 大統領は、ふだんどおりの表情をして、僕にスマホを返すと、肩をすくめて笑った。

 

「どこかの男どもが、戦車道連盟を脅迫した。

 連盟は関係者全員に箝口令を敷いて、事件になる前に闇から闇に葬り去ろうとしている。

 もし、この国に男の野良戦車乗りが存在し、それが明るみに出れば、

 この国は、一気に某ならず者国家や、国家を自称する某大規模テロリストの同類にされる。

 ……実はね、しばらく前から、動画サイトには『Tuskegee Tankmen』T2なる男戦車珍走の

 プロパガンダ動画がアップされては抹消を繰り返していた。

 しかし、リモートホストを特定することができず、削除の繰り返しで対処していた。

 それに業を煮やしたT2高等部、とかが、

 俺たちを全国大会に出せ。出さないなら第二回戦のどれかに乱入するって画像をばらまいた。

 その上で連盟総本部のサイトに細工をして、サーバーにランサムウェアまで仕込んだとさ。

 つまり、今の連盟は、職員が直接アタッシュケース抱えて、各方面との連絡を取っている。

 ……まだ、伝書鳩でもあればよかったんだけどね。(※ 全部「レース鳩」になった)」

 

 ここで、一息つく角谷会長。しかしそのあとすぐに、真顔で、声を潜めて話した内容は

まったくとんでもないものだった。

 

「やつら、どこかの学園艦をアジトにしているらしい。

 そこの通信システムに割りこんで、暗号鍵をつかって怪しまれずにネットでテロしている。

 知ってのとおり、学園艦の船底部は、迷路だ。

 迷って死んだものだって、いなかったわけじゃない。

 逆にいえば、そんな秘密結社ごっこをするには最適ということだ。

 いま、統合幕僚部直属のサイバー部隊も、その割り出しをしているらしい。しかし……」

 

 角谷会長が、本当に困った顔になって、天井を見る。

 演技ではない。本当に困ったことだと、表情が言っている。

 何なのかしら……。

 

「どうやら公安警察の方では、学校ぐるみでそいつらに協力していると見ているそうだ」

 

 何ですって?

 もし本当なら、ふざけるなと言うしかないわね。

 共学校なの? それとも男子校が学校ぐるみで馬鹿なことをしてるの。

 

 角谷会長は、それだけいうと、皆には戻ってそれぞれやるべきことを続けるように言った。

 僕もみんなといっしょに、戦車倉庫に戻ろうとした。

 

「ちょっとアキラ。別件で話があるから残って」

 

 後ろからいきなり、会長が僕を呼び止めた。

 

 

 

 河嶋さんと小山さんも事務室に行ってしまい、会長室にいるのは、僕と西住先輩と会長。

 大統領は手元の紙に何かをサラサラ書き付け。封筒に入れたものを2通作った。

 ずっと黙ったまま。

 そして、やはり何も言わず、僕たち二人を手招きし、それぞれ封筒を手渡した。

 

「封緘命令書」。二つの封筒にはそう書いてあった。

 西住先輩のには、明朝0700開封のことと、

 僕のには、0800までに何もなければ、シュレッダーで処分せよ。と書かれてあった。

 

 そして、大統領はじっと僕たちの目を見てから、あいかわらず黙ったまま、

手振りだけで僕たちに会長室からの退出をうながした。

 

 

 

 もう、この季節になると朝6時にはすっかり日が昇っていて、じりじりと暑さを感じる。

 僕は、いつもの習慣で、長袖ジャージの上下を着て軽く時速7kmでジョギングしていた。

 気温はすでに30℃に達しているのに長袖ジャージなのは、減量のためじゃない。

 本物の女性のように、タンクトップにトランクスってかっこうができないことと、

僕の天敵、「紫外線」から皮膚を防御するためだぁー!

 うかつに夏の日差しに暴露しようものなら、ヤケドの一歩手前になっちゃうの。

 そんなわけで、2リットル入りスポーツドリンクのペットボトルを2本、

腰にぶら下げて、ジョギングしてる。

 いや、この程度ではジョギングにもならない。10km/hまであげてみようかしら……。

 

 妙な感じを覚えたのはその時だった。

 めだたない。いや、めだたせないように選んだようなクルマが数台、大洗艦の上甲板市街地を

走っている。大洗女子学園をかこむように。

 いや、すでに「要所」には、どこにでもいそうなクルマが、男性ばかりいっぱい乗せて

「配置」されている。

 

 僕は、昨日のやりとりを思い出した。

 まさか! いや、確実にそうにちがいない。

 すぐに大洗女子に行かなきゃ。

 僕は、高橋家の自分の部屋にとってかえした。

 

 シャワーを浴びるのももどかしいけど。運動した以上しょうがない。

 まだ、そのくらいの時間はあるはず。

 それに、会長の「封緘命令書」が生きてくるのは、ことが起こってからあとだ。

 急いで着替え、命令書を携えた僕は、ごく普通に、学園に向かって歩き出した。

 おそらく、僕も監視されているだろうから。

 

 

 

「おはようございます」

 

 逮捕令状を携えた私服警官が、早朝にこういって被疑者のいるところを「訪問」するのは、

お決まりと言ってもいいだろう。

 今回ちがっているのは、刑事さんたちが訪問したのは、被疑者の自宅ではなく、

……大洗女子学園生徒会長室だったことだ。

 

 

 

「角谷杏さんだね。申しわけありませんが、水戸署までご同行いただけませんか」

 

 セリフこそ同じだが、テレビでよく出てくる捜査二課や生活安全課の刑事さんたちとは、

言葉に温度差がある。

 珍走族などとちがい、戦車が出てくるようなら、若造のただのやんちゃとは話が違う。

 仮に単なるやんちゃだったとしても、明るみに出たら国の威信に関わる問題だ。

 出張ってくる組織がちがうのも、当然だと言っていいだろう。

 

 しかし、その被疑者たる女の子は、彼らの予想を裏切って、目に見えてうろたえだした。

 

「……私は、何もしていません。信じてください。

 連れて行かないでぇ~。かーしまー。何とか言ってよ!」

「はあ。無実でも何でも、令状持ってこられた時点で神妙にしたほうがいいですよ」

 

 河嶋さんはそういうと、実に手際の良いことに、3週間分の日用品と着替えの入った

スポーツバッグを大統領に手渡し、どうぞお行きくださいと、手のひらでドアを示す。

 

「いやだいやだいやだぁ~。助けてぇ!」

 

 しかたがないので、大統領の両脇を2人の婦人捜査官がかかえて立たせる。

 

「……わかりました。……逮捕状の執行は、船を出てからクルマの中でおねがいします」

 

 いかにもそれだけ言うのがせいいっぱいの高校生女子三年生は、こうして公安刑事たちに

拘引されて行くかに見えた。

 そのとき、バタンと音を立てて、ひとりの女生徒が飛びこんできた。

 

「会長!」

「西住ちゃーん。私、何をしたっていうのぉ」

 

 封緘命令を開けた、西住先輩だった。

 二人がしばし、アイコンタクトをかわす。

 

「えーと。会長が3週間いなくても、あとは私たちでなんとかしますから、

 こころおきなく、警察の方に協力して、解決に協力してくださいね。っと」

 

 会長の目つきが一瞬だけ「大根!」になったが、すぐに今にも泣きそうな女の子の目になる。

 

 

 

 僕が会長室に駆け込んだのは、まさに警官たちがうなだれた大統領をとりかこんで、

引き立てていくところだった。

 

「会長ー!」と叫んで、僕は会長室に飛びこむ。

 すると、大統領は、誰からも見えないように一瞬だけ足を出して、僕の脚をひっかけた。

 顔面スライディングで会長室に飛びこんだ僕の後ろで、会長室のドアが閉じた。

 

 

 

「あいてて……」

 

 顔面を押さえながら立ち上がった僕。

 窓の向こうの廊下を、刑事たちに連れられた大統領は、うなだれてのろのろと歩いて行く。

 

「容疑は、脅迫罪、威力業務妨害罪、電子計算機損壊等業務妨害罪、銃刀法違反、

 凶器準備集合罪、テロ対策法違反、およびその被疑者隠避だそうだ。

 つまり、我々大洗女子は、T2どもの一味とされたということだ。

 会長には共犯、および共同正犯の容疑がかけられている」

 

 口を開いたのは、河嶋さんだった。

 会長がいなくなって、急にまともになったようだ。

 

「山本。会長から受領した封緘命令書を開け。もう午前8時は過ぎている」

 

 そうだった。

 午前8時までに何もなければ、開封せずにシュレッダーにかけろと書かれた封筒。

 つまり大統領、角谷会長は、こんなことも予想していたということだ。

 

 僕は、封筒を取り出した。

 小山さんが、ペーパーナイフを僕に渡す。

 僕は、ペーパーナイフをとじ目のすき間に入れ、まっすぐに切った。

 中からは、A4サイズの上質紙を三つ折りにした書類が出てきた。

 

 僕は、それをみんなの前で開いた……。

 

 

 

 

 

 

 

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