ガルパン三原則。
「ぱんつは見せない」「死人は出さない」「男は戦車に乗せない」の3つである。
では、この原則の一つを破って、ガルパン世界で男が戦車に乗ったなら、
他の原則はどうなるのであろうか。それをぶち抜いてみるのがこの話の眼目である。
なお、特に要望がない限りぱんつは文にも絵にも描かない。
(「戦車に乗せない」については、「装甲」に着目していることから、この場合の戦車の定義は
「戦車道ルールにおける戦車」ではなく、装甲戦闘車両一般(装輪車も含む)と考える。
後付けの根拠:アルティメットガイド「現代において戦車に関わるのは女性のみである」
ただし、重要人物専用車や警察車両における防弾装備などは、犯罪という「急迫不正の侵害」
に対するものであるから、「緊急避難」が適用され、法的な例外となると思われる)
この世界で絶対の禁忌である「男の戦車乗り」。
そいつらの一味が、うちの生徒たちまでとりこんで、大洗学園艦に巣くっていた。
そのために、僕の恩人、生徒会長角谷杏大統領は、獄窓につながれている。
僕たちはいろいろ手をつくした末に、ようやく連中と内通していた生徒を摘発した。
しかし、その生徒は、大洗艦内のリーダーらしい「獣人中二病」と、他にもいた
学園内の内通者たちによって、奪還されてしまった。
僕たちに残された最後の手段。
それは連中の要求をのんで、連中と連盟の名の下に試合を行うこと。
僕らが負けたら、二回戦進出の権利を連中に譲渡するという条件つきで。
話は前後するが……。
その橋渡しをしたのが、なぜか僕と縁のある、連盟独立試験部隊「デスバード」の隊長。
フーテンタイガーこと、大河真琴さんだった。
大河さんは、この試合を「強襲戦車競技」の名目で行う手はずをつけ、タンカスロンの
関東地方の総頭取である神農商業組合の理事長、つまり関東のテキ屋さんの顔役さんに
場所の提供を依頼した。
僕は、その場に「大洗女子学園緊急時生徒会仮会長、山本玲」として立ち会い、そして
僕らの運命を決める試合会場を決めてもらった。そこは御殿場にある、理事長さんが
「入会権」をもっている山林原野ということだった。しかしそこは……。
……御殿場市の三分の一を占める広大な「東富士演習場」の一角だった。
そしてそのとなりには、20年前まで大洗女子の戦車道授業を指導していた、陸上自衛隊
東部方面混成団、第一機甲教育隊のおかれている駒門駐とん地がある。
ついにこの地で、奴らと僕らの戦いが始まる。
左肩を負傷し、戦車に乗れない僕は、今回は生徒会を代表して、試合の立会人となる。
連盟側の立会人は大河さん。中立の立会人は組合理事長さん。
僕たちは、もうすっかりおなじみになった巨大ヘリ、Mi-26に乗りこんで上空にあがる。
ヘリにはなぜか、軍用周波数までひろえる傍受機がそなえられていて、この場で行われる
すべての無線通信を聞きとることができる。そして……。
西住先輩のひきいる大洗戦車隊と、けだもの集団「タスキーギー・タンクメン」高等部とかが
開始地点に移動し、試合開始の合図とともに大洗戦車隊が出発しようとしたとき……。
――地獄が口を開けた。僕たちを置いてきぼりにして。
大洗戦車隊が、運命をかけた戦いに出撃するために、機関を始動する。
いよいよ暖機運転がおわり、西住先輩がいつもの「戦車前進」の命令をくだす寸前――。
突然、完全武装の陸自隊員たちが先輩たちをさえぎった。
隊員たちは、駒門駐とん地での警察権を持つ警務隊員の部隊だった。
彼らの隊長は、西住先輩にこう通告した。
「ここから先は、第一機甲教育隊の、本日の演習区域になります。
民間人は、立ち入ることはできません。
状況が終了するまで、その場で動かず待機してください」
それと同時に、僕たちの乗ったMi-26の通信傍受機が、無電をひろった。
『教育隊隊長より達する。全中隊、状況開始』
『一中隊、状況開始』『二中隊、状況開始』『三中隊、状況開始』
『四中隊、別命あるまで待機』『教育隊本部は、所定の位置まで移動する』
――状況開始。
陸海空全ての自衛隊において、それは演習が始まったことを意味する。
場所は当然、この東富士演習場の、この周辺。
西住先輩たちは足止めされ、けだものどもは演習場の中にいる。
そして、駒門にいる第一機甲教育隊の、教官も訓練生も含めた隊長以下全員が、
ここにのりこんできた。『演習』を実施するために。
『教育隊隊長より達する。本日の演習は完全整備の全部隊による実弾演習である。
この演習場に任意に配置されている標的を完全に破壊せよ。
なお、本日の演習は、実戦を想定したものである』
聞こえてきたのは当然女性の声だ。
若くはない。通信内容からして教育隊全隊の隊長なのはまちがいない。
そして、僕が知っていることが事実なら、隊長の一佐は自分も戦車に乗っているはず。
僕は大河さんに問いただす。演習場には一味とはいえ、大洗女子の生徒もいるんだ。
「これは、どういうことですか!? 実戦想定の実弾演習。いったいこれは――」
「聞いてのとおりだろうよ。それ以外の何がある。
あっしらは、自衛隊と何の関わりもねえんだ」
「とぼけないでください! こんな通信傍受までして。
……理事長さん、あなたもごぞんじだったんですか?」
「……」
理事長さんは目をそらし、ひとことも発しない。
僕はスマホを取り出し、大急ぎで『電子官報』を昨日から順繰りに閲覧する。
あった。3日前の官報だ。
御殿場のこのあたりを指定して、防衛大臣名で演習の告示が出ている。
……これは正式な演習だ。しかも、「射撃訓練」とある。
冗談じゃない!
「初めから、知ってたんですね!
あのなかには、大洗女子の生徒もいます。
ただちに、……」
「民間人がいるから、即座に中止しろと?
できねえよ。知ってんだろ? 官報に掲載されたらその日の午前8時には、
全国民が知っているとみなされる」
「でも、民間人がいるんですよ!」
「そんなものはいない。ここにいるのは、違法不当な武装勢力だ」
そして彼らは、実弾を装備した戦車に乗り、演習中の陸自部隊にテロを
しかける。公式にはそうなってしまう。
文字通り「急迫不正の侵害」だ。それに対する反撃は違法性を阻却……
つまり、初めから罪に問われない。
獣人中二病どもは、こうして合法的に葬り去られる。それはしかたない。
だが、連中のメンバーかシンパの大洗女子の生徒はどうなる。
「でも、装甲戦闘車両にのっているだけでは、罪にならないうちの生徒が
まだいます。彼女らを教育隊に発見される前に救わなきゃならない。
ヘリから降ろしてください!
僕は、生徒会仮会長として、その義務を」
「――まっとうさせてやるよ。私のできる範囲でな。
だから、そんなにシャカリキになるな」
僕は、大河さんの顔を、真っ向からにらみすえる。
ビン底渦巻き眼鏡の無表情が、感情のない冷たいものに思えて、腹が立つ。
「……あなたはいったい、何をしているんです」
大河さんは、しばらくだまっていたが、なにもなかったかのように口を開いた。
「ついたぞ、前方ななめ下を見ろ」
いつのまにか、Mi-26は、高度4,000mまで上がっていた。
僕には、80mmのシュタイナー。ミルスケールつきの軍用双眼鏡がわたされた。
これで、4,000m下の地上を見ろというのだろう。
大河さんが指し示す方向には、奴らがいる。
奴らが3両の、僕にはシャーマン以外わからない戦車を並べている。
戦車の前には、3人の迷彩服の男たちが並ぶ。
向かい合う形で、10人の男女が立っている。
そのまんなかにいた、赤髪赤マントの獣人中二病が3人の男たちと両手で握手した。
気合いでも入れているんだろうか。
いや、真剣な雰囲気さえ感じる。
3人の男たちは、それぞれ戦車の操縦席に乗りこむ。
他の者たちは、中二病も含めて立ったまま、戦車に乗ろうとしない。
やがて、3両の戦車は、他の連中を乗せないまま、バラバラの方角に向かって走り出す。
戦車が去った後には、のこりの11人が残った。
彼らは、徒歩で別な方向を目指す。
いったい何をしたいんだ。
11人は、林に入っていった。
そこには、偽装網をかぶせられたなにかが3つ、置かれていた。
連中が、偽装網を取り払う。
それを見た僕は、自分の目を疑った。
「なんだよ。いったい、何をする気なんだ」
大河さんは、別に驚いた風でもなかった。
もう、まちがいない。
このひとは、なにもかもわかっているんだ。
いや、むしろ納得した。僕の先回りをしてすべてのお膳立てをした理由を。
3個の物体、それはAFVだった。ソヴィエト/ロシア製の。
2両はT-72戦車の輸出仕様だけど、イラクでボロカスにやられた均質圧延鋼板のMじゃない。
(イラク戦争では、戦車兵が足らず、T-72Mに女性の傭兵の他に男も乗っていたという噂だ)
箱状のコンタークト爆発反応装甲をまとっている。複合装甲のSタイプだ。
ということは、アレも積んでいるかもしれない。近づくのは危険だ。
そして残りのひとつは、自走砲だ。
「ヒヤシンス……」
2S5ギアツィントS。自走155mmカノン砲。
「ギアツィント」は、ロシア語でヒヤシンス。
2S19ムスタが前世紀末にできたいまでは、砲がむき出しの旧式だけど。
予算不足からなかなか更新ができなくて、いまでも現用のはず。
ロシア本国以外では、旧東独とフィンランドにしかないはず。
砲塔式じゃないから、照準は車体を旋回させる。
スキッドで車体を固定して、砲の操作員が外に出て、半自動装てん装置をつかって操作する。
旧西側でも203mm級自走砲では、よくみられたタイプだ。
……しかし、なんてものを持ち込むんだ。これは戦車道の試合じゃないか!
大河さんが、僕のつぶやきを聞きとがめた。
「ふん。戦車道戦車はまるっきりなのに、現用の、しかも自走砲なんて物がわかるとはな」
「それどころじゃありませんよ! T2って、どんな連中なんですか!?」
「……それは、おめえの左肩に貼りついている、それが教えてくれるんじゃねえのか」
まただ。またガムテープで何かが貼られている。
あいつ、いやがらせだけで左肩を叩いたわけじゃなかったのか。
「それはあとだ。奴らが動きだすぞ」
獣人中二病をふくむ6人の男どもは、3人ずつに分かれてT-72Sに乗りこんだ。
うちの生徒たち5人はヒヤシンスの、歩兵戦闘車のようなリアゲートをあけて乗りこむ。
また、傍受機が通信をひろう。
『ニヴルヘイムエディタより、全車』
『『『『『応!!』』』』』
『お前ら、いま現在の状況を報告しろっ!』
『鋼鉄親父。順調に走行中。いまだ敵と遭遇せず。後ろは振りかえらねえ。倒れるときもな』
『シュヴァルツレイター。順調に走行中。敵影ナシ。お前を光に導いてやるよ』
『ウォーダディ。走行に支障なしだ。稜線に隠ぺい中。俺の理力を見せてやろう』
『牙神(カムイ)だ。死ぬにはいい日だぜ』
『星屑の煌き(スターダスト)。準備完了よ。いつでも闇の一族の咆吼を聞かせてあげる』
『お前ら。お前らの命の力を俺に貸せぃ!』
『『『『『Roger! Yes,sir!』』』』』
な、なんなんだこいつら。
頭が頭痛なので頭が痛い。
『鋼鉄親父、シュヴァルツレイター、ウォーダディ。頼むぜ。
大まじめな軍人様たちを、終わりなき舞踏会に招待してやれ』
『『『Sir! Yes,sir!』』』
『牙神(カムイ)、星屑の煌き(スターダスト)。Terror is not your friend!』
『『『『『『『『All right, We're counting on you.』』』』』』』』
『ふふふふ。……ついに俺たちの父母の、無念を晴らすときがやってきた。
諸君。これこそ俺たちが待ちに待った、そのためだけに生きてきた戦争だ。
ねらうはただひとつ。第一機甲教育隊隊長、島田一等陸佐の首級のみ!!
奴を天国に送ったあとで、我ら無間地獄にて、740万5926匹の悪魔と酒盛りせん』
『『『『『『『『『『『『『応――――――っっつ!!!!』』』』』』』』』』』』』
……何?
な、なんて言ったんだ? こいつら。
僕たちと戦うんじゃなかったのか? 父母の無念?
まるで仇討ちのような……。そうか!
つまり僕たちは、連盟からも、こいつらからも、ダシに使われただけなんだ。
――ふざけるな! 畜生。
「大河さん。これはどういうことなのか、説明してくれるんでしょうね」
「……」
「利用された者には、聞く権利があると思います!」
大河さんは、無表情なのかさえ定かでない顔を僕に向ける。
「……いまできることは、事のてんまつを見とどけることだけだ。
そうすれば、いやでもわかるよ。山本玲。
私には、その質問に答えることはできないんだ。ことがすべて終わるまでな」
大河さんが、一瞬、悲しみを見せたような気がする。
なにがあったのか、なんとなくわかったような気がする。
失われた輪が、僕の頭の中でつながった。
もう、この戦いを止めることはできない。
ならばその結末は、ひとつしかないじゃないか。
「お前は、過去の秘密の一端を知ってしまった。
だが、お前以外の、大洗の生徒は何も知らない。知ってはいけない。
だからこれから起こることは、角谷杏以外の誰にも言うな」
3両の現用兵器は、ひそやかに演習場の境界にそって南下していく。
傍受機が、またあらたな通信をひろった。
『ウォーダディ。これより行動開始する』
『……わかった。いずれ地獄で会おう。然らばだ』
そのあとすぐに、1発の発砲音が響いた。
『本部。標的を発見。1中隊は標的より攻撃されたとの想定下で接敵行進に移行。
なお標的はA1E8。数は1両。送れ』
『本部了解。全車、標的に命中するまで行進間射撃。
しかるのち、標的を完全に破壊せよ』
「11時の方向に、一機教第1中隊を視認」
これは、ヘリのコパイの報告。
僕にもわかった例のシャーマンが稜線から砲塔を出し、主砲に俯角をかけて、
迫り来る4両の90式TKを狙っている。
その左右からさらに4両ずつの90式。最後尾に中隊本部の隊長車と偵察装甲車、
幕僚の指揮車がつづく。
1,500mで、例のシャーマンが発砲。90式の砲塔正面装甲に弾芯が残ってる。
競技弾じゃない! 本物の高速徹甲弾だ。
『おい。装甲に傷を付けたドライバー。
お前は減給1ヶ月だ』
『1中隊全車。正当防衛射撃。
使用砲弾はJM33。命中するまで射撃継続』
有翼安定弾をつかうのか?
現用は徹甲弾が戦時中のように何種類もなく、たった1種類だから僕でもわかる。
と、いうより僕は、戦車は昔から実戦ではタングステン製の有翼安定弾を撃っていたんだと
戦車道始めてからも、ずっと思いこんでいた。
昔はそんなものなかったって、こないだのサンダース潜入でやっと知った。
じゃあ、有翼安定で昔の戦車を撃ったらどうなるの?
第1中隊の4両が行進間で撃つ体勢に入る。
これも、なぜ戦車道では行進間が基本的に不可能なのが、まったくわからなかった。
FCSが原始的だから、ムリなんだ。
アメリカ戦車でさえ、せいぜいジャイロで単眼鏡の照準眼鏡を安定させるだけ。
でも、ひとまるに至っては、どんなにラフに走っても、砲口の上においたコップについだ水を
一滴たりともこぼさない。
単なる変態のデモンストレーションだと思ってたけど、実は大変なことだった。
しかも予測射撃ですら、システムがリード角を修正したとおりに撃てばいい。
五十鈴先輩、失業しちゃう。
突然、傍受機がハウリングのような音を鳴らす。
それと同時にシャーマンが第1中隊にむかってダッシュをかける。
『じゃあな、あばよ。いずれ煉獄で』
特攻だ……。
特攻機は突入開始と同時に、無電のキーをひじで押しっぱなしにする。
音がとぎれたときは、突入成功か、さもなくば墜とされたときだ。
これは、おとりとしての役目をまっとうしたという通信だ……。
これから死ぬという、報告だ。
正面の90式4両が、ラインメタルRh120滑腔砲を次々と撃つ。
マッハ5の速度で飛ぶ有翼安定は、衝撃力で装甲を抜くんじゃない。
このスピードで飛んできた侵徹体が金属に接触すると、両方の先端が液状化してしまう。
この砲弾の場合なら、46cm以上の均質圧延鋼板を「通り抜けて」しまう。
弾体の長さがだいぶ減るけど。だから、細長い方が抜ける厚さが大きい。
これを阻止できるのは、焼結セラミックやチタンのハニカム、劣化ウランのメッシュなどを
はさんだ複合装甲だ。有翼安定やメタルジェットの速度を殺す。
メタルジェットも高温で装甲を焼き切るのではなく、「高速高圧液状化」で装甲に穴を開ける
という理屈は、有翼安定と変わらない。速度からいえば、有翼安定弾より速い。
ただし、装甲が一枚板ではなくあいだに空間を挟んだ中空構造だと、そこでメタルジェットが
拡散するので、防がれてしまう。メタルジェットは質量もごく小さいし。
そのため、複合装甲の場合、中空装甲の効果もあって、成形炸薬弾の方が威力の落ち方が
倍になる。
逆に、セラミックなどは速度の遅い物体に弱い。
だからその上を均質圧延鋼板で覆っている。
4発撃たれた砲弾のうち、3発がシャーマンの砲塔前面に当たったように見えた。
だが即座に砲塔のうしろ、バズル(出っぱり)から金属片が飛び散る。
抜けてしまったんだ。
『第1小隊3号車。外したな。全員スクワットと懸垂300回ずつだ!!』
中隊長だろう。まるで普通に演習をやっているかのようだ……。
戦車道の戦車はよく「カーボン系素材で室内がコーティングされている」というが、
この砲弾の前には無力だったようだ。
それどころじゃない。装甲が「薄すぎ」て、中で砲弾が分解することもなく、
本当に素通りしてしまった。
一度は壁にでもぶつかったかのように止まったシャーマンだが、まだ動いている。
バズルに砲弾を積んでないんだろう。爆発もしない。
『うが……あ……』
しかし、ドライバーには装甲の破片でも刺さったのだろうか。
うめく声が聞こえる。ハウリング音はまだ、やまない……。
今度は右から近づく小隊の4両が、鋳造ボディのエンジンルームを撃った。
発砲炎が見えると同時に、シャーマンの車体がガクガクゆれる。
エンジンブロックが粉々になったにちがいない。
クルマとちがって惰性がすぐなくなる戦車だ。シャーマンもその場で前のめりして止まる。
さらに、もうひとつの小隊が、反対側の側面をねらう、やはりエンジンルームを。
車体側面に、円から6つの線が延びたような穴が4つあいた。と思った瞬間に、シャーマンの
後ろ半分がこなごなに吹き飛ぶ。
正面にいた小隊は、また走りながら砲塔を撃つ。
今度は、4発とも命中。砲塔だった物がバラバラに分解して宙を飛ぶ。
いくらなんでも、これで乗ってる奴が無事なわけがない。
しかし、ハウリング音はまだ止まない。
『1小隊3号車。引導を渡してやれ』
『了解、中隊長。弾種JM12A1』
HEAT-MP。対戦車にも、対歩兵にもつかえる爆発性の砲弾。
成形炸薬弾の爆発力の70%がメタルジェットにならず、普通の爆発になるのを利用して、
鋼球やワイヤーを飛散させる。
ただ本職の、爆弾と同じ構造の榴弾には負ける。
成形炸薬弾にとっても、回転を与えない滑腔砲の方がライフル砲より向いている。
それを1両の90式が撃った……。
シャーマンのドライバーズハッチが少し開き、なにかが出てきた。
しかし、それきりだった。開いたハッチから炎がでてきた。
シャーマンだった残骸はじょじょに炎に包まれ、最後は砲弾に引火したのか、爆散した。
覚悟の上の行動なのだろう。
戦車に乗ることが目的なのではなく……。
しかし、止めることは誰にもできない。
乗っているのが、男で、テロリストである以上は。
しかし、感慨にふけっているひまなどない。
すでに奴らの2両目が、別な中隊と接触していたのだ。
『シュヴァルツよりニヴルヘイム。我、敵1個中隊と遭遇せり』
『2中隊。目標B、VAと接触』
『本部長車より達する。標的に撃たせよ。
しかるのち、全小隊同時射撃。弾種90式用JM12A1』
10式の群れが、角張った戦車の前方90度に展開。しきりにスラロームしている。
編隊走行ではなく、個々バラバラに動いても、接触もしない。
司令は、新型の有翼がもったいないと思ったんだろう。
12発のHEAT-MPで、鋼鉄の棺桶を火葬しようというんだ。
やつらの2輌目も、同じ行動を取った。
しかし、撃った弾は、どの戦車にも、かすりもしなかった。
そして、ハウリング音に「畜生畜生畜生」と叫びをまぜて流し、ダッシュする。
12両の変態は、それを待っていた。
予告もなしに12発の多目的成形炸薬弾が、スラロームする変態どもから撃たれた。
次の瞬間、「標的」のあった場所が、いきなり爆発する。
変態どもは、さらにもう一斉射を、容赦なく撃ちこんだ。
2つめの中隊が静止する。
その砲口の指す先には、ひとりの男を火葬するには盛大すぎる炎と黒煙が立ち上る。
……そのあとに残ったのは、いくつかの金属のかたまりと、真っ黒に焦げた地面だった。
それが、その男が、最後に残した物だった。
骨すら、そこには残っていなかっただろう。
しかし、傍受機はもう次の通信を捉えている。
『こちら鋼鉄親父。
ニヴルヘイム、ついてるぜ。
俺の相手は、74式1個中隊だ!
HEATを込めてあってよかったぜ。死出の道連れに女4匹とは豪勢だ』
『……鋼鉄親父。あまりがっつくなよ。
それより、もうすこし奴らを北に引っ張れないか? わかるな』
『しかたねえな。一人寂しく地獄に行くぜ。
敵との距離は、4,000m。全速で北進する!』
『気にするな。向こうでまた逢えるさ』
なんなんだろう、この通信は。
そこまでしてやりとげる復讐とは、いったい何なんだ!
これじゃ戦争だよ。
あれだけの公安を動員して、角谷大統領を逮捕して。
そんなことしてるヒマがあるなら、こいつら捕まえちまえばよかったじゃないか!
いったい、みんな、何のためにこんなことを……。
「だから、お前にしか見せられねえって、いったのさ」
なんだって?
それじゃ、西住先輩たちを、東富士のすみで足止めするのは、あなたの役目だと。
「大河さん。駒門駐屯地の警務隊は、本当は動かないはずだったと。
動かしたのは、あなただと」
「何のこったか、わからねえな。あっしは一介の民間人だ。
ただな、昨日あたり駒門に、市ヶ谷の中央警務隊から誰か来たらしいぜ」
まさか、父まで関与しているのか。
いや、まったくそうなんだろう。
そして、父は別に僕や大洗女子のためにではなく、国の一員として動いている。
――こいつらを、みなごろしにするために。
『3中隊より本部。標的を視認、北へ3,000m。追跡中。
このまま走られると、市街地にでてしまいます』
『よろしい。奴らが不法な武装集団であることはすでに明白だ。
攻撃を許可する。標的の識別をせよ』
『靴屋の息子の二代目です』
『つまらんな。走行間でHEをふらせてやれ。93式がもったいない』
『これでは、我が小隊だけ、演習になりませんよ』
そうか、山なり弾道で榴弾の雨を上から降らせ、上部装甲やエンジンカバーを引き裂くと。
93式は、74式の105mm、王立造兵廠L7砲用の有翼安定弾。
僕が生まれたときには、戦車の徹甲弾といえば有翼安定弾だけだった。
L7が例の17ポンドの弟で、初めは17ポンドと同じAPDSを使っていたのを知ったのは最近。
大河さんは、ヘリを回頭させ、南をめざす。
もうこれ以上、つきあう意味はない。
いまは、獣人中二病たちを追わなきゃ。
うしろのはるかかなたで、またも真っ黒なけむりがのぼっている。
それが何かは聞くまでもない。
さっきまで傍受機がならしていたハウリング音は、すでに聞こえなくなっているのだから。
いまは別な通信が、傍受機から聞こえている。
『お前たち、よく聞け。
彼ら3名は、自分たちの役割をまっとうした。
彼ら3人の未帰還によって、俺たちの前に道は開かれん。
さあ、別れをいうぞ。一時のだがな』
『さようならぁぁぁぁあああああ!!!』
『『『『『『『『『『さようならあああ!!!』』』』』』』』』』
『……なあに、すぐにまた逢えるぜ。幼なじみたちよ。
いいか。あとは俺たちの番だ。
星屑の煌き(スターダスト)、ここでお別れだ。あの森に隠れろ』
『『『『『な……』』』』』
『いうな。お前たちが最後の切り札だ。
もし俺たちが本懐を遂げられなかったそのときは、大洗がここを去り、
第一機甲教育隊が全部駒門に撤収した後で、札を切れ』
155mm自走カノン砲だけを置いていく。
たしかに、普通はそうなってあたりまえだ。支援兵器なんだから。
だけど、戦闘中の支援ではなく、中二病たちが負けそうになっても隠れてろとは。
――いったい何をしようというんだ。
大河さんが、ヘリに同乗している連盟職員たちに命令をくだしたのは、このときだった。
「このまま、座標MC09に向かって飛べ。
例のブツを散布する。
あとで回収しなきゃなんねえんだから、やたらとばらまくなよ」
大河さんは、アレを獣人中二病たちのT-72S、2両に使うつもりだ。
……なりゆきを、だまってみているんじゃなかったのか?