失われた約束の地   作:米山ともき

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 They Call It War.Johnny(SuperBlack Shimada) 2nd Part

 

 

 

 

 

『こちら鋼鉄親父。

 ニヴルヘイム、ついてるぜ。

 俺の相手は、74式1個中隊だ!

 HEATを込めてあってよかったぜ。死出の道連れに女4匹とは豪勢だ』

『……鋼鉄親父。あまりがっつくなよ。

 それより、もうすこし奴らを北に引っ張れないか? わかるな』

『しかたねえな。一人寂しく地獄に行くぜ。

 敵との距離は、4,000m。全速で北進する!』

『気にするな。向こうでまた逢えるさ』

 

 

 

 男の戦車乗りが絶対の禁忌であるこの世界。

 

 70年ほど前、ほぼ全世界が参戦した戦争があった。

 この戦争は、歴史初の機械力を全面的にもちいた戦争だった。

 なかでも、地上における装甲戦闘車両の発達はめざましかった。

 それ以前の戦争でデビューした完全装甲防御の「タンク」、日本で言うところの戦車は、

化け物のように巨大になり、強力な主砲と機銃で武装し、あらゆる地形をのりこえて進んだ。

 歩兵も「装甲兵員輸送車」という、銃弾を通さない装甲車両に乗って戦うようになった。

 彼ら機械化部隊は、装甲の中から一方的に攻撃し、自在に動き、全てをなぎ倒した。

 同じ戦車と、大口径の重砲と、飛行機だけが、それに対抗できた。

 それらをもたない小さな国は、鋼鉄の履帯に踏みにじられていった。

 そして、この戦争は、そこがどんなところであっても、戦場とした。

 その戦争の大舞台となった欧州の地には、人々が生活する町や村があまたある。

 機動力のある軍隊同士の戦争では、市井の人々が逃げる前に、最前線がやってくる。

 非戦闘員の女性、子ども、老人も、無防備な町も、すべて鉄と炎の嵐から逃れることは

できなかった。

 守るものをブリキ板1枚もたないか弱き者たちを、装甲の中から撃たれた砲弾や機銃弾が、

無情に引き裂いてゆく。

 人の作った鋼鉄の怪物は、多くの人々が住む欧州の大地を、たがいの砲火で焼き払った。

 

 この戦争が終わったとき、軍民あわせて3千万人という未曾有の死者に、皆、戦慄した。

 そして、それに数倍する被災者が残された。一方的に戦争の被害だけを押しつけられた

人々の怒りは、蹂躙のかぎりをつくした戦車を含む装甲戦闘車両に向けられた。

 装甲戦闘車両を廃絶せよという国際世論の前に、軍関係者はタンケリーマーシャルアーツと

いう、女性だけが行っていた戦車競技をもって、装甲車両を生き残らせようとする。

 タンケリーマーシャルアーツ、日本で言う「戦車道」はこの世界で女性解放の旗手だった。

 

 ゆえに「装甲は戦場でか弱い女性を守るもの。男は装甲戦闘車両に乗ってはいけない」という

落としどころを得て、ようやく戦車はじめ装甲戦闘車両は生きながらえることができた。

 まさにぎりぎりの妥協点であり、これに反することは、世界を敵に回すに等しいことだ。

 なにしろ、軍用機も潜水艦も、この妥協とひきかえに事なきを得たのだから。

 だから、男の戦車乗りが国内にいたなどということは、その国家の命運すらあやうくする。

 

 その男の戦車乗りが、よりによってこの国にいた。それも組織化された連中が。

 彼らは「タスキーギー・タンクメン(T2)」というふざけた名前を持つ連中だった。

 そのなかの「T2高等部」とかいう連中が、戦車道連盟に自分たちを認めさせるため、第63回

戦車道全国高校生大会への出場を求めてきた。

 第二回戦に進出した学校のいずれかと野試合をやって、勝ったときは自分たちのチームと

交代させろと言うのだ。

 そして、なぜか大洗女子が、彼らにアジトの提供ほかの支援を行った嫌疑がかけられ、

生徒会長の角谷大統領が公安警察に逮捕され、拘置所にとらわれの身となってしまった。

 しかし、彼らはその後、ただ僕たちを見張るだけで、なにもしようとはしない。

 

 戦車道連盟は、おそらく自衛隊の一部、東部方面隊などと計らって連中を東富士演習場の

御殿場市の区域におびき寄せ、同時に第一機甲教育隊の演習を実施して、そのどさくさに

連中を始末しようとしている。やっぱり僕たち大洗女子をエサにして。

 エサにされた大洗女子戦車隊は、セーフティーゾーンで警務隊に足止めされている。

 

 T2高等部のメンバーには大洗女子の生徒もいる。

 周到なことにわざわざ大洗まできて、うちの学校に入学し、普通の生徒になりすましていた。

 じっと息を殺して、蜂起の時を待っていたんだ。

 

 そして第一機甲教育隊と言えば、かつて大洗女子で、戦車乗りの供給源として盛大に

おこなわれていた大洗女子の戦車道の正課授業を、教官を派遣して指導していた部隊だった。

 その戦車道カリキュラムは、理由もわからないまま20年前に突然終わりをつげている。

 

 角谷大統領がことしになって戦車道を復興したとき、当時の詳細な記録がなかったため、

なにもかも手探りではじめるしかなかった。

 しかし、今にして思えば、記録は何者かによって消されたとみるべきだろう。

 そのときになにかがあったのはたしかだと思う。もはや知るすべもないけど。

 

 残っている痕跡は、当時の生徒会副会長を含む7人の生徒の学籍が、手続きなしでいきなり

抹消されていることと、年度途中で陸自幹部の教官たちが突然ひきあげてしまったこと。

 その教官団の中には、本来なら教育を受ける側のはずの、新人の三等陸尉がいたこと。

 

 そして、敵である獣人中二病以下、T2高等部なる連中の目的は、大洗女子の大会出場権を

奪い取ることではなく、教育隊の司令官、島田千代一等陸佐の命だった。

 獣人中二病は「俺たちの父母のかたき」と言っている。

 そして彼らのうち、大戦型戦車を1人で操縦して、教育隊のおとりとなった2人はすでに

戦車ごと殺害され、今また最後のひとりが、74式1個中隊と相まみえている。

 彼と中二病の通信は、いま上空を飛ぶ連盟独立評価試験部隊「デスバード」が運用する

巨大ヘリ、Mi-26に搭載された特殊な無線傍受機がキャッチしている。

 教育隊側の通信も、傍受している。

 つまりこのヘリに乗る者は、いながらにしてここで起きていること全てを知ることができる。

 それだけではない。

 僕は、T2の連中が、ひそかに旧ソ連製のT-72S戦車や2S5自走砲をもちこんでいるのも見た。

 それらが、彼らの「復讐」の道具なんだ。

 彼らが、なにをどうするつもりなのかは、まだわからない。

 

 これらすべてが一本の糸でつながっている。

 ここまできたら、さすがに僕にもそうとしか思えなくなってきた。

 

 

 

 彼らのおとりの最後の1両、10式ぐらいの重さに思えるエンジンルームの長い戦車は、

第一機甲教育隊第三中隊をひきつれたまま、北へ向かって逃げている。

 自分を追っているのが複合装甲ができる以前の、防御をあきらめて機動性にたよっている

戦後第二世代の74式だと知って、HEAT弾で道連れにしようとしたようだが、獣人中二病は

標的である司令からさらにひきはなせと命じている。

 距離は3,000mまで詰まっている。

 

『第三中隊長。標的を識別せよ』

『靴屋の息子の二代目です』

 

 靴屋の息子?

 そう呼ばれている人間ならひとり知ってるけど、その人物なら終戦時には絶賛存命中だ。

 自分の名前を戦車につけられて、気分がいいとも思えない。

 戦場に自分の惨殺体がたくさんころがっているのなんて、ごめんこうむる。

 たぶん、彼女たちのあいだで使われてるスラングだろう。

 

『つまらんな。

 行進間で榴弾を振らせてやれ』

 

 つまらんな。……か。

 簡単すぎて、訓練にならない。そういいたいらしい。

 彼女が鬼なのか。それとも「鋼鉄親父」が畜生なのか。きっと両方なのかもしれない。

 

 榴弾と言うが、74式がいま装備しているのは、不発だらけのろくでなしの粘着榴弾ではなく、

91式多用途榴弾、HEAT-MPだ。

 それを12両以上の74式が撃てば、3,000mの行進間であっても何発かは当たるだろう。

 もう「鋼鉄親父」の運命は決まった。ならば見届けている必要などない。

 大河さんたちデスバードは、中二病たちが乗る現代戦車の方へ南下する。

 鋼鉄親父とかは、ほかのふたりと同様にハウリング音のようなノイズをならしながら

全速で逃げつづけた。

 だがそれは、突然断ち切られる。

「ザッ」と大きなノイズがなった次の瞬間、プツンと切れて、あとは空電しか聞こえない。

 ……やられたんだ。先に死んだ仲間のあとを追うように。

 

 僕たちの後方で、また黒いけむりが立ち上る。

 鋼鉄親父の「棺桶」を標的に、74式たちが多用途榴弾で「射撃訓練」を行っている。

 人間ひとり乗っていたそれが、原型を失うまで徹底的に……。

 

 

 

 獣人中二病たちは、彼岸に去った仲間たちに別れを告げ、すぐに行くから待っていろと叫ぶ。

 一方で、教育隊司令は、不可解な命令を下した。

 

『第一乃至第三中隊は、そのまま演習地境界までGPSをつかって警戒前進。

 しかるのち、駐屯地まで戦闘態勢のまま警戒しつつ帰還せよ。

 行軍体制にはしないように。ゆっくりでいいぞ。

 第四中隊は、御殿場市境まで偵察進撃。手を抜かず徹底的に実施せよ』

 

 おそらく隊司令も、何らかの形で「敵」が3両だと知っているはずだ。

 ならば、3両撃破の時点で状況修了を宣言し、出動部隊に行軍隊形での即時帰還を

命じるだろう。

 演習以外にも、日常業務はいくらでもある。だいいち、これは演習じゃない。『実戦』だ。

 

 であれば、彼女は「本命の敵」が他にいると考えているということか。

 あるいは、「敵」の実戦力をも知っているかもしれない。

 

 であれば、別におかしなことではない。

 しかし彼女は「ゆっくりでいいぞ」と命令し、あまつさえ予備兵力の第四中隊も動かした。

 教育隊本部は、司令と幕僚、本部要員しかいない。

 手薄というより、もはやがらあきだ。それも長時間。

 まさか……。

 

 

 

『いいか。あとは俺たちの番だ。

 星屑の煌き(スターダスト)、ここでお別れだ。あの森に隠れろ』

『『『『『な……』』』』』

『いうな。お前たちが最後の切り札だ。

 もし俺たちが本懐を遂げられなかったそのときは、大洗がここを去り、

 第一機甲教育隊が全部駒門に撤収した後で、札を切れ』

 

 獣人中二病が、なぜか用意した支援戦力、2S5ギアツィントS自走カノン砲。

 彼は、大洗女子の生徒5人が乗りこむそれに、分離して森に隠れろという。

 それだけならまだわかる。安全地帯から直協火力支援が依頼できる。

 しかし中二病は、それもせず、事が成らなかったときに、帰還した教育隊ごと駒門駐屯地を

砲撃しろという。

 三段構えの作戦で、島田司令を抹殺するつもりなのか……。

 自分たちの命も、チップにして賭けようというのか。

 そしていま、その「かたき」は、自分の周囲を手薄にしている。

 

 

 

「このまま、座標MC09に向かって飛べ。

 例のブツを散布する。

 あとで回収しなきゃなんねえんだから、やたらとばらまくなよ」

 

 デスバード隊長、大河さんがはじめて能動的な動きを見せる。

 キャビンに積んでいる「荷物」を、やっと使う気になったようだ。

 この日のために用意した「品物」は、工場出荷状態で、まだとぐろを巻いているピアノ線。

 これを戦車の進路にまけば、履帯と転輪を固縛して、まったく動けなくできる。

 ノモンハン事件で、ソヴィエトが日本軍の戦車旅団に使った罠だ。

 

 ……あれ?

 変だな。

 このヘリは、2両のT-72Sをも追い越して、そのさらに先にある、草原をめざす。

 

「大河さん。連中の目のまえにまいて、足止めするんじゃないんですか?」

 

 大河さんは、進路を見すえたままだ。

 しばらく、沈黙がつづく。

 

「別にあっしは島田の意図で動いてはいないぜ。

 奴が今回のクライアントじゃねえしな。

 けだものも般若の鬼子母神も、戦いたくてうずうずしてるんだ。

 ならば、せいぜい盛り上げてやろうぜ」

 

 乾いた声で、語る大河さん。

 連盟と教育隊、そして父は、別々の思惑で動いているんだろうか。

 

「親を殺された餓鬼どもと、般若のお千代の決闘だ。

 鬼と鬼との殴りあいだ。

 人間の身としては、それに水を差しちゃいけねえよなあ」

 

 やっぱりこの人は、何もかも知っていた。

 そして知っていて、この一幕の劇を、止めないつもりだ。

 それどころか……。

 

「そしてお千代の方も、親殺しの汚名から逃げるつもりはないらしい。

 ……リアゲート、オープン

 おめえら、カタマリで適当にまいておけ」

「舞台装置。……ということですか」

「お前さんも、言うようになったねえ。

 そうさ、この罠に引っかかるのはけだものじゃなくて、人の皮を被った般若の方かもな」

 

 般若、鬼子母神。

 どっちも女の鬼だ。

 般若がどんな顔なのか、知らないものはいないだろう。

 鬼子母神は、過去世の因果で鬼に生まれ、人間の子どもをとって食らったという。

 まさに、鬼神だ。

 

 そして、第一機甲教育隊隊長、一等陸佐、島田千代という人は、

まさにいま、その鬼子母神になりつつあるのだ。

 だったら、僕にはどうしても聞きたいことがある。

 

「……ところで、その島田さんってひとは、そんなに恐ろしい顔をしているのですか?」

 

 大河さんが、コケかけた。

 

「おめえ、よく『空気読め』っていわれねえか?

 ……まあいい。それはそれは恐ろしい顔だ。

 しばらく毎晩、夢に出てきてうなされるくらいにな」

 

 どこまで本当なのか、わからない。

 顔の造作が、恐ろしいのではないのかもしれない。

 でもね、大河さん。あなたは知っていると思いますが、

僕はいちいち空気を読んでたら、生きていけないんですよ。

 だって僕は……。

 

『10-17。おい、コウモリ。どうせ聞いているんだろ』

 

 中二病だ。

 なるほど、連盟が通信傍受しているのは知っていると。

 そうさ。僕はコウモリ。鳥でないくせに空を飛ぶ、卑怯千万なけだものだ。

 

『鈍くて気がついていないかと心配になってな。

 左肩の置きみやげを、そろそろ開けてくれよ。

 ……大事な伝言が入っている。

 そこの姐さんと、お前の親父にも関係があることだ。

 けだものからコウモリへ、10-10』

 

 獣人中二病が今言った数字は、アメリカンポリスが通信で使うテン・コード。

 テン・ワンセブンは「至急ノ用件アリ」。テン・テンは、「通信終ワリ」だ。

 

「敵さんが心配しなければならないくらい、お前さんはニブチンだったというわけか」

 

 ええ、大河さん。僕は鈍いですよ。差し迫る危険以外には。

 鈍くなければ、死んでいるかもしれない。

 いまだって、テン・スリーフォーですけどね。

 それに答えてくれたのは、ひとりだけ。

 

 僕は、左肩に貼ってあるガムテープをはがす。

 そいつについていたのは、データカードだった。

 カードリーダーがある端末で読める物だ。

 大河さんが僕に、大きめのタブレットを渡した。

 

 中には、データがふたつ。

 ひとつはテキストファイル。パスワードがかけられている。

 もう一方は、ただの圧縮動画ファイルだ。タブレットのアプリで再生できる。

 

 

 

『おれたち15人について、くわしく説明している暇はない。

 ヘリの姐さんか、もし生きているようなら島田一佐本人に聞け』

 

 僕は、動画データの方を再生した。

 といっても、映っているのはカメラを向いている中二病の顔だけ。背景は壁だけ。

 もしかして、セルフ撮りかな。

 なら、T2の他の構成員には聞かせられないことも言うかも知れない。

 

『T2は、野郎戦車道を標榜する市民活動に仮装した、国際テロ組織だ』

 

 いきなりこれだ。核心ど真ん中ストライク。

 

『おれも、世界におけるT2の全貌なんてものは知らん。

 ただ、裏社会のつてで、あるとんでもない計画を持ちかけ、のせただけだ。

 おれたちの復讐に使う道具を用立てさせるために。

 だからな、全部がMBTじゃなく、自走砲が1両まざってる。

 あと、おとりに使った競技用戦車は、大洗で消えた3両と同じ車種を用意させた』

 

 やはり、彼らは大洗女子と直接的なつながりがある連中ということか。

 うそをついてかく乱しようという可能性もなくはないけど。

 

『もうわかってると思うが、搭載砲弾はすべて実戦用だ。

 そして、ヒヤシンスに積んでる砲弾だが……ガス弾』

 

 ――! 化学兵器だって?

 

『……と、おれたちには言った。

 おれにだけは、プルトニウム粉末まで含む、高レベル核廃棄物が詰まった特製と説明した』

 

 ――何だって!! そんなものを30発も撃たれたら……。

 

『だが、それさえウソだ。

 奴らは俺がキリルを読めねえと思っていやがる。

 読めるんだよ。普通なら小学生の時分に、2年ぐらいウラジオにいたからよ。

 人買いに買われて、脱走してストリートチルドレンに混じってたんだ』

 

 だから中二病になった、というわけじゃないだろうけど。

 どうもこいつは僕の想像のおよばない生活をしていたようだ。

 

『中身は、生物兵器だ。

 それも最新とはいわねえが、天然痘とアフリカの出血熱2つの三種混合だ。

 撃ったおれたちまで、速攻であの世いきだ。

 パンデミックを起こしたら、ことがここだけですむかどうかな』

 

 中二病は、T2という組織を自分たちの復讐のために利用して、戦車を手に入れ、

一方T2の方は、連中を一回きりの使い捨ての道具として利用しようとした。

 だけど、中二病はそれにも気がついた。

 T2がどんな連中だか理解した中二病は、おそらく、わざと自分たちの情報を外にリークして、

島田一佐をおびき出すと同時に、T2の情報をわたして壊滅させるという一石二鳥の策を練った。

 おそらく、すべてのキーストーンが大洗女子なんだ。

 大洗女子で騒ぎを起こせば、すべての関係者がよってくる。なんてこった。

 

『だから、お前を「漢」と見こんで頼みがある。カンと書いてオトコな。

 俺は、自走砲に乗る大洗女子の生徒に夜まで行動するなと命じるつもりだ。

 だから、昼のうちに、彼女たちを取り押さえてくれ。

 そして、使い捨てのコマにされたことも伝え、できればもう復讐なんか忘れさせて、

 罪一等を減じて普通の高校生に戻してやってくれ』

 

「漢」? そういわれるのって、すごくいやなんですけど。

 大河さんが、鼻で笑う。

 

「お前に対する手ひどい嫌がらせだな。

 殺し文句だな、強敵(とも)よ。ってまるっきり中二だな。

 ただな、漢というのは本当は『天の川』って意味だから、

 侠(おとこ)と言われるよりはマシだ」

「……別に見こまれてもうれしくもありませんし、僕は義侠どころか卑怯です。」

 

『信じてくれ、冗談でもなんでもねえ。

 彼女らに、バイオテロをさせねえでやってくれ。

 ガキのころからの仲間なんだよ。このとおりだ。』

 

 画面の向こうの中二病の頭が下がる。

 もしかしたら、手をついて土下座しているのかもしれない。

 中二病は顔を起こした。そして真剣な表情で、最も重要なことを伝えた。

 

『いいか。これからいうことはすぐにやってくれ。

 このカードのもうひとつのテキストデータに、T2の日本組織の拠点と構成員の一覧が

 入っている。

 いますぐ、要路にひきわたせ。

 T2のやつらは全員、こっちに注目している。

 バイオテロが、今夜起きると信じて油断してる。

 壊滅させるなら、いまだ。

 俺は、もう生きてお前に会うこともないだろう。

 あとは、よろしくな』

 

 そして、そこで画面は真っ暗になった。

 最後に写ったのは、データファイルを開けるための6桁のパスワードだった。

 

「どうすんだ……」

「……これから死んでいくものが、うそをつくとも思えません」

「だろうな。……じゃあやるこたあ決まってんな!」

 

 大河さんはタブレットを僕から取り上げると、データをカードからタブレット自体にコピー。

 そしてタブレットから秘匿回線を立ち上げ、霞ヶ関WANとは別の、非常事態専用の

政府機関のWANに接続した。

 主要人物のメーリングリストが表示される。

 大河さんは用件だけを記したメールに何かの秘密錠を添付し、公開錠でロックをかけてから、

各送付先に順次発信した。BCCじゃないのは、相手の復号化キーが個々に別々だから。

 そのあと、内閣府のサーバーを呼びだす。

 あるとはいわれていたけど、それはノイマン方式では解析できない量子サーバーだった。

 そこに例のデータを、パスワードをつけて転送する。

 そうしている間にも、メールの送信先からは、開封したという確認メールが返ってくる。

 

 

 

 Mi-26は、ピアノ線の束を、だいたい2,000m四方ぐらいの原野に適当にばらまいた。

 これでは地雷原よりずっとすかすかだ。

 踏んじゃうようなら、運が悪いとしかいいようがない。

 だいたいここをとおるかどうかもわからない。

 追い越しざまに目のまえにばらまくとばかり思っていたんだけど。

 

「T-72Sは、アレ持ってるかもしんねえし、別な仕事が入っちまったからな。

 荷物は捨てていくしかねえだろ」

 

 ということは、あえてどっちも来そうもないところに捨ててったと。

 でも、それならそれで……。

 

「回収はどうするんですか?」

「富士学校の普通科教導隊にでもやらせるさ。対地雷訓練だと思えばいい」

 

 そう、この東富士演習場は88平方キロ。静岡県と山梨県にまたがってる。

 御殿場には駒門駐とん地があるが、北の方には富士学校と富士教導団がある。

 総火演やる場所は、演習場のほんのほんの一部。

 どうも戦車道連盟や西住流と富士教導団は、蜜月関係にあるみたいだ。

 反対に首都圏をにぎる東部方面隊は、すくなくとも島田一派の牙城なのはまちがいない。

 歴史をたどれば反西住流といっていい大洗女子に、蝶野一尉が来てる理由はわからない。

 なんかのおもわくがあるんだろう。

 西住と島田のドンパチは、統幕でももてあましているのかもしれない。

 まったく、ろくでもない。

 

 お遊びですむならともかく、戦車道の正義のために人が殺されているかもしれないなんて。

 だが、これにかぎらず、世界の暗部では毎日似たようなことが起こっているのかもしれない。

 

 ……こんなの、みんなには見せられない。僕も、見たくなかった。

 

 

 

 

 

 

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