失われた約束の地   作:米山ともき

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ガールズ&ぱんつの裏側激情版 《挿絵多め》

 これから始まる話は、とあるアニメ制作現場でのお話です。

 

 

 

 3年前の暮れ、「ガールズ&ぱんつ」略してガルぱんというI県O洗町を舞台とした、

女子高生が戦車で試合する世界で、ぽっと出のO洗女子学園が、謎の転校生の導きで、

いきなり全国大会で優勝する。という内容のパンモロ万歳の深夜アニメがあった。

 ごのアニメ作品には原作がない、いわゆるオリジナルアニメであり、事実上の原作者は、

監督と脚本家であった。

 

 監督は「マッドガイ」なる二つ名を持ち、ブラックな作品ばかりを手がけることで有名な

佐藤つとむなる、でかい頬傷がトレードマークのヘビースモーカーで、アル中一歩手前デブの

中年男だったが、このアニメはとくに暗黒面に落ちることなく、第11話と最終話が3か月延期に

なった以外は、問題なく終了した。

 

 この作品の舞台がI県O洗町に決まったのは、プロデューサーのひとりである中村きよし氏が、

この町とゆかりがあり、某重大災害で被害を受けたこの町をアニメの「聖地」にすることで

復興支援をしようという思惑からだった。

 それは図に当たり、このO洗町の観光客は激増し、町を挙げてこのアニメを表面にだして、

成功した「アニメ聖地」の代表格のひとつとなっていった。

 

 そして、さらなる成果を上げるべく、制作側はこのアニメの劇場版の制作を企図したが、

監督にとっては「とっくに終わった仕事」であり、ワーカホリックの彼はかたっぱしから、

自分のスケジュールを新規の仕事で埋めていたのだ。

 当然、劇場版はにっちもさっちもいかず、2014年暮れの予定は2015年夏に、さらには

2015年晩秋公開予定にまでずれこんだ……。

 さらにいえば、監督は作品とは無関係な要素が、制作現場に干渉することが嫌いだった。

 

 

 

 そしてようやく、マッドガイ佐藤が本格的に制作現場に現れた。

 

 

 

「ねえ監督。これだけスケジュールが延期しまくったんだから、こんどこそ男出そうよ」

 

 さっきから佐藤の耳元でそればかり強調するのは、くだんのプロデューサーの中村だ。

 

 

 

 

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「はあ? 男を出すだあ? なにをいまさら」

「あのねえ、O洗の皆さんのためにも、劇場版は大成功させなきゃいけないの。

 それにはラブコメとかハーレムとか出すのが一番手っ取り早いでしょうが!」

「中村ぁ~。そういうのはもう時代遅れなんだよ。

 深夜アニメの視聴者が何を求めているか知ってるか?

 女だ、女の絵だよ。野郎なんて女を観賞するのに邪魔だろうが」

「いや、ここは路線変更して、チーレムを」

「ストライキ・ウィッチーズのまねして、パンモロ大量に出しただろうが。

 それで足りねえとは思えねえ」

「今に続くインフィニット・ストラトフォートレスの人気を……」

「ストーリー、イチから練り直しだぞ。公開が東京オリンピックと同時になってもいいのか?」

 

 ここでなおも、中村Pは言いつのろうとする。

 しかし、ここは現場。監督の指示を仰ごうとするものはいくらでもいる。

 

「監督。O洗町役場ですが。どうしますか」

「O洗女子に立てこもらせて、田尻凜に徹底的に砲撃させろ!」

「大○荘はどうします?」

「気に入らん。踏みつぶせ! 看板も残すな」

「倒福○楼は」

「えかてりーなに蹂躙させろ」

「魚剣こと魚○ですが」

「めざわりだ。こっぱみじんに爆破しろ」

「もはや新築バンザイの肴○本店は?」

「T-34とクルセイダーを突っ込ませて、爆発させて更地にしてやれ。大喜びだ」

「ま○わ○広場はどうします」

「アヒルとチハに行進させろ」

「まだO洗ホテルとスィースァィドホテルがあります」

「見せ場のないKV-2の榴弾攻撃の標的にしてやれ」

「磯○神社では何をしますか?」

「おたかとしけたが『マーガレットの武者』で、石段はテケでしか下れないとか書いていたから

 Ⅳ号とT-34/85にも下らせてやれ!」

 

「……なんという罰当たりな」

 

 中村Pは気が気ではない。しかし、監督のO洗に対するハチャメチャはまだまだつづく。

 

「監督。『あくあわいるどにいこうO洗』はどうします?」

「当然徹底的に破壊して、ペンギンどもを解放してやれ」

 

「……せっかく復興しかかっているO洗をどうする気だぁああ!

 O洗のイメージが悪くなって、海水浴客が減ったらどうするんだぁぁあ!」

 

 ついに切れた中村P。しかし監督の返事はにべもないものだった。

 

「知れたことを。石器時代に戻してやるのだ」

「――うおおぉぉお! もう許せん。O洗の皆さんにあやまれえぇ!!」

 

 とうとう監督につかみかかる中村P。

 その中村Pに、監督は肩をすくめて言った。

 

「……あのなあ中村よ。俺はな、別にO洗のためにアニメを作ってるんじゃねえぞ……」

 

 ぶわきっ!!!

 

 

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「ふん。バカが。それに震災なんか関係なく、O洗より悲惨な所なんかいくらでもあるわ!」

 

 お約束の鉄拳制裁が炸裂し、お約束のとおり、中村Pの意識を刈り取った。

 中村Pの視界が暗転する……。

 

 

 

 

 

 

「ちくしょお。いつか殺してやる……」

 

 鉄拳食らってからどのくらいの時間がたっただろうか。

 意識をとりもどした中村は、よろよろと立ち上がると周囲を見回して、

とんでもないことになっていることに気づく。

 

 ここは、東京らしい。しかし、中村の知る21世紀の東京ではなさそうだ。

 霞ヶ関の国会議事堂だけがなんとか原形を保っていて、あとは半壊した煉瓦造りの官庁群と、

がれきの山と化した、東京の中心部。

 そして、自分の格好もおかしい。

 旧陸軍の、たぶん、支給されたばかりの歩兵の軍装に、肩から小型拳銃のホルスターを吊り、

足には軍靴の上からゲートル巻き。襟には軍曹の階級章。

 

 中村は、ふいに何かを思い出したような気になった。

 そう、自分は戦車第三聯隊第二大隊隊長車付きの操縦士。中村清軍曹だ。

 昨日まで新たに配備を受けたチヌ車(三式中戦車)の慣熟訓練を受け持っていたはずだった。

 それが昨日、いきなり聯隊から転属命令を受け、歩兵軍曹にされたあげく、

帝都守備臨時旅団にまわされたのだ。

 

 そのまま棒立ちになっている中村の尻を、いきなり誰かが思いっきりけり飛ばした。

 前のめりにぶっ倒れる中村。

 

「いてて。テメー何しやがる!」

「ほう、威勢がいいな。今日から貴様ら、全部俺の部下だ」

 

 両手両足を地に着いたままの中村が、そのまま後ろを振りかえる。そこには……。

 

 

 

 

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 軍帽からツインテールが伸びている、やせた背の低い、ふてぶてしい表情の

『佐藤大輔中尉』がいた。

 頬にはおなじみの古傷。そして佩用の軍刀を地面にひきずっている。

 

「し、失礼しましたぁっ! 中尉殿おっ!」

「ふん、テメエ、歩兵じゃねえな。いままで何してやがった」

 

 チビガリつるぺたの「佐藤中尉」は、恩賜のものらしいタバコに火をつけ、うまそうに吸うと

中村軍曹に紫煙をふーっと吹きかける。むせる中村。

 

「自分は、昨日まで戦車第三聯隊で大隊長付き先任軍曹をしておりました中村であります!」

「ふん。戦車なんてものにかくれているから、そんな軟弱な先任軍曹様ができるんだな」

「――じ、自分は聯隊では立派に先任を勉めておりましたぁ!」

 

 突如、佐藤中尉は中村の頭の高さまで跳びあがると、ローリングソバットを中村に食らわす。

 

「俺に口答えは許さん。使えん奴が一丁前の口叩くな」

「……り、理不尽であります。自分はいきなり「今日から戦車に乗れないから出て行け」と

 言われて、ここに送り込まれたのであります。わけがわかりません」

 

 佐藤は、こいつ、本当に何も知らないのかという顔をした。

 

「いいか? 昨日、昭和二十年八月十五日正午をもって、戦車は脆弱な女性兵のものになった。

 強靱で屈強な男は、外に出ていさましく戦うのだ」

「それはおかしいであります!! 自分が戦車兵として積んできた鍛錬が全て無駄に……」

 

 

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 佐藤はまたまた中村の頭上までジャンプすると、今度は両ひざで中村の頭をはさみ、

そのまま背をそらして、勢いで中村を引っこ抜き、空中一回転させて頭を地面に叩きつけた。

 

「四の五の言うな。上官様の命令は、おそれおおくも大元帥陛下のご命令である。控えろ」

「……痛いですぅ~。でもぉ~。戦車がなくて、どうやってアメリカと戦えと」

「俺たちはアメ公などと戦ってはおらん」

「へっ?」

 

 ではこの帝都の惨状は、いったいどうしたというのか。

 

『おっ母さんー。助けてぇ~』

 

 いまも、上空からは、学徒兵の操るエンテ型や、ジェットを二基つんだ戦闘機が墜ちてくる。

 

「俺たちが戦っているのは、あれだ」

 

 佐藤の指した空のかなたには、黒光りする金属光沢を放つ、幾何学的な形状の巨大飛行物体が

いくつか、瘴気を放ちながら、こちらに向かってゆっくりと接近してくる。

 

「それでだ、貴様に特務を命じる。ついてこい」

 

 佐藤は、もはや話を聞いているのかどうかさえさだかでない中村の襟首をつかむと、

強引に引きずっていった。

 

 

 

 佐藤と中村は、地上部分がなくなった「理化学研究所」の地下格納庫にいた。

 そこで中村は、なにやら奇妙なものをからだにくくりつけられる。

 

「佐藤中尉殿ぉ~。小官が両足にはいているものは、何なのでありますかぁ」

「大の男が情けない声出すな。奴らと戦う兵器、ストライキユニットの男子用だ」

「なんで小官の下半身は、ふんどし一丁なのでありますかぁ~」

「ストライキユニットをはく者は、下半身に下着以外のものをつけてはいけないのだ。

 これはこの世界の法則だから、逆らうだけむだだ。

 あと、お前の足は異次元に行ってないから、安心しろ」

「あと、なぜ小官の背中に阻塞気球が……」

「男には十代の少女にしかない魔力がない。

 だから自力で飛ばないからだ」

「武器が九九式小銃だけなのは、どうしてでありますか」

「精神力と大和魂でなんとかしろ。

 三八式でないだけありがたいと思え」

「このプロペラみたいのものは……」

「モーターで回っているだけだ。がんばって戦ってこい!」

 

 こうして、昨日まで戦車兵だったはずの中村軍曹は、太平洋上に出現し、

毒を含んだ気体をまき散らす、飛行機型やロケット型、艦船型や人型までいる

まっ黒な金属っぽいのと戦うハメになった。

 

 それを地上から、凄惨な笑みを浮かべてながめる佐藤中尉。

 当然、国会議事堂の貴賓室からかっさらってきた、数々の金無垢の品々をもっている。

 

「この実験が成功すれば、ただでさえ不足しているウィッチの捜索をせずとも

 対『怪異』飛行歩兵が、文字通り畑から取れるようになるが、どうかな」

 

 中村軍曹は手近にいる黒っぽいのに、九九式小銃を撃っているが、当然きかない。

 

「まあ、魔力を持たない普通の野郎が持てる武器では、いやがらせにもならんな」

 

 部下の兵隊たちが、コメなど数えられる程度しか入っていない「ふすま飯」を食べている。

 しかし、佐藤だけは、どっかの防空駆逐艦が泣いて喜ぶ「牛缶」を食っている。

 

 そのうち、怪異どもに接近しすぎた中村は、赤い光条の集中砲火をうけて、ポン、と

破裂してしまった。

 

「ふーん。やっぱり失敗か。男にはバリアー出せないからな。

 ……お、いらっしゃったようだな」

 

 佐藤中尉が手をかざして見やるかなたの空からは、空母機動部隊から出撃した

多数の飛行歩兵たちが、怪異どもに襲いかかり、蹂躙している。

 

「太平洋上の第508か。やっぱりモチはもち屋だな。

 ……私も、『魔力』さえ失ってなければ、あの程度の敵は昼飯前だったのだが」

 

 

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 さて、そのころ監督は……。

 

 仕事を抜けてきて、アイラ・モルトのラフロイグをグビグビやりながら、

録りだめしておいた『ストライキ・ウィッチーズ』の画像を見ていた。

 ちなみに、ラフロイグは、スコッチシングルモルトのなかでもスモーキーすぎて

人を選ぶが、決して安くはない。

 スモーキーなシングルモルトなら、普通はボウモアだろう。

 

 そして、ラフロイグがあと、ビンの底にわずかにしかなくなったころ……。

 突然、画面が切り替わり、モニターにとんでもないものが映った。

 

 

 

{IMG13418}

 

 

 

 あまりの衝撃と、あまりのおぞましさに、佐藤監督はせっかく飲んだラフロイグを、

全部リバースしてしまった。

 監督が足音高くスタジオに向かうと、監督に殴られて意識を刈られた中村Pは、

まだ、こっちに帰ってきていなかった。

 

 

 

 

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 監督は、いきなりスタンピングをどかどかと中村Pの背中におみまいする。

 なにがなんだかわからないまま、中村Pは監督の乱暴浪籍にさらされたのであった。

 

 こうして、中村Pはふたたび眠りの世界の住人となってしまった……。

 

 

 

 

 

 

「チクショウ! いつか殺してやる!!」

 

 意識を取り戻した中村は、ここが東急東横線の日吉駅の前だと気がつく。

 目の前には、地上部分ががれきの山と化した、けー大の日吉キャンパスがある。

 

「オメェは学も教養もねぇくせに、何やってんだ偉そうに」

 

 目の前に誰かが立っていた。

 その瞬間、またも中村は、記憶を取り戻したような気がした。

 

 

 

 自分は帝国海軍一等兵曹、中村喜代志。

 昨日まで厚木聯合特別陸戦隊にいて、実に使えねえ三式チヌとかいうタンクに乗っていた。

 やっぱり昨日、昭和二十年八月十五日正午に、タンクから追いだされ、

日吉の聯合艦隊司令部で第十航空艦隊参謀長から特命があるから行ってこいと言われて来た。

 だとしたらこいつがもしかして……。

 

「あのー。十航艦サチの、神大佐でいらっしゃいますか?」

「いかにも。私が帝国海軍大佐、神重徳である」

 

 

 

 

 

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 地上ががれきの山でも、聯合艦隊司令部は地下にあるから問題はない。

 しかも、フレオンガスを使った冷房完備だ。

 神大佐は、中村一曹を机の前に立たせ、自分だけアイスクリンを浮かべたコーヒーフロートを

召し上がっている。

 佐藤の次にこいつも殺してやる。と中村一曹は思った。まず無理だろうが。

 

「貴様、これから横鎮の近くの『株式会社 浦賀ドック』に行ってこい。

 昨日、画期的新兵器の開発に成功した。と連絡があった。

 その新兵器の発案者は、この私だ。

 貴様は浦賀ドックで新兵器を受領し、実地試験を行え」

 

 中村一曹は、当然一番気になることを聞いた。

 

「日当と昼飯代と交通費は出るんでしょうか?」

 

 神大佐は、いちいちうるせえ奴だと顔に書いて、面倒そうにこう答えた。

 

「でるわけないだろう。横鎮なんかすぐにつく」

 

 やっぱりこっちを先に殺した方が良さそうだ。と、中村一曹は考えなおした。

 しかし、それよりもいまはアゴアシ自分持ちを避けることが大事だ。

 

「しかし大佐。交通費がなければ横須賀線に乗れません!」

「んなもんに乗らなくてもよい。そのドアをくぐればそこはもう横須賀だ」

「へ?」

 

 中村一曹が指し示されたドアには、子どものような字で、

『よこすかドア。byていきち』と書かれてあった。

 

「なんですかこれ?」

「書いてあるとおりだ。横須賀行きのドアだ」

「んなもん誰が作ったんですか!?」

「浦賀ドックの社長に決まっている」

 

 冗談じゃない。これこそ人体実験じゃないのか?

 ドアにぶら下がっているぶっそうなものを見ると、余計そうとしか思えない。

 中村一曹は神大佐の言ったことを真に受けたわけではないが、一応聞いてみる。

 

「大佐もいっしょに来られるんですよね」

「行かん」

「だって、大佐が発案した新兵器ではないですか」

「横鎮に行くと、浦賀ドック社長の予備役中将、堀悌吉(元帥宮殿下に逆らってクビ)とか、

 こないだ米内閣下に海軍次官クビになってから、毎日ピアノ弾いて遊んでいる井上成美とか、

 七面倒くさいのがいるから、ぜーったいにいやだ」(米内=蝶野。描くのめんどい)

「先輩や海軍大将を呼び捨てにしていいんですか!」

「リアルでは私の方が上級生だ!」

「なんですかそれ?」

 

 そういえば、神大佐と井上大将は、変人で変態で横暴で陰険で根に持つもの同士だから、

めちゃくちゃ仲が悪いと、中村一曹は聞いたことがある。

 

「四の五のいわんで、さっさと行けー!!」

 

 神大佐は、手にした「海軍精神注入棒」という、普段なら中村一曹が水兵相手に振り回してる

兵隊いじめのためのバットで、さんざん中村一曹をぶん殴ったあと、『よこすかドア』を開き、

とどめとばかりにケツバットで、中村一曹をドアの中に放り込んだ……。

 

 

 

 ……ドアを抜けると、そこは横鎮となりの浦賀ドックの正門前だった。

 

「……ひでー目にあった。やっぱり神重徳からぶっ殺す!」

「それには同意するが、ずいぶん間抜けそうだな。お前」

 

 目の前には、いかにも天才で天災ですというのが二人で、中村を見上げていた。

 

 

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「あなたが、ロンドン条約の潜水艦枠全部使って、原子力戦略潜水艦『ラ號』を作ろうとして

 海軍を追いだされた『天災』堀悌吉閣下ですか」

「そうよ。殺ってやる~♪ 殺ってやる~♪ 殺ってやる~♪」

 

 井上は、ピアノではなく、なぜかギターを持っている。

 こいつ、本物か? と、中村一曹は思った。

 

「あなたが、『負けてばかりいるのに出世した』という井上閣下ですか?」

「そうだ。ついでに言うと、船酔いが怖くて戦艦に乗れない提督だ」

「ヨーロッパ出張の時は、毎日K(奥さん)に国際郵便書いたという恐妻家の」

「『毎日手紙出す愛妻家』だ。妻が死んだときは祝電ばかり来たがな(史実)」

「兵学校『次席』だけがとりえだという」

「『記憶力』もとりえだ。くやしいから、海軍大学校では首席になったぞ」

「なんで『ピアノ』じゃなくてギターなんですか?」

「ピアノは、昨日、水交社とともに灰になった。せっかくピアノ演奏のおひねりで暮らして

 いたんだがな。今日から流しのギター弾きだ」

「なんか、米内閣下に二・二六事件の『クーデター予告』してたのに、防げなかったとか」

「ついでに、『趣味は昼寝』だ。じゃあ、いまから趣味の時間だ。おやすみ……」

 

 そして路上で寝ようとした井上は、堀に蹴られて起こされた。

 

「さっさと起きて。『絶対零度の正論家』は『事務だけはできる』のに、

 遊んでばかりいて。いまから「疫病神」の考えた「さいきょうのかんむす」の試験よ」

 

 艦娘?

 この見かけ小学生女子児童の天災は、そんないいものを研究しているのか。

 期待に胸を躍らせる中村一曹を、誰が責めることが出来るだろうか。

 

「艦娘がいるんですか? すぐ見せてください!」

 

 それを聞いた井上が、「葬送行進曲」をデスメタルアレンジで奏でた。

 

「あのなあ、一曹。かんむすはかんむすでも、『艦息』だ」

 

 艦息? なんだよそれ……。

 

「艦娘は数が限られてるし、入手がランダムだし、敵が落とすの待ってられないし、

 そこらの男でも戦力化できれば、畑で栽培できるって神重徳がいってたわ」

 

 ……結局それかよ。

 

 

 

『私は横須賀鎮守府司令長官の、ライナルト・シュルツ少将である。

 いまから5分前の1015時に、哨戒機が八丈島付近に敵影を確認した。

 敵は、深海棲超兵器、超巨大戦艦「ヴォルケンクラッツァー」級×1。

 超巨大ドリル戦艦「アラハバキ」級×1。

 超巨大レーザー戦艦「グロースシュトラール」級×1である。

 アルマゼントラン、ホルトガドラ!』

 

「んー。いい頃合いにやってきたわね」

 

 浦賀ドックの地下にある秘密ドックでは、堀と井上の二人がかりで、

いままさに中村一曹に「艤装」を施し終わったところだった。

 

「ほんとになんなんですかこれ?

 なんで私が女子の学校水着なんか着なければならないんですか?」

「それは潜水艦息だからだ。貴様の脚がはいているものを見ろ」

 

 井上に言われて、自分の足元を見る中村一曹。

 中村一曹の足元は、なんか特殊潜航艇(としか、彼には形容の仕様がなかった)の

模型みたいなものにくくりつけられている。

 

「『艦息』は、自分の脚で水上に浮くことができないから、こういうことになった」

「それなのに、5連装魚雷発射管とか、でかい連装主砲とか、飛行甲板とか、

 あとわけのわからない艤装とか、おかしいです」

「あーそれは、神重徳に言ってくれ。

 我々は奴の言うとおりに作っただけだから」

 

 へ? 神大佐の言うとおり?

 それって、とてもまずくないですか。

 

「でも、堀閣下がお作りになったんですよね」

「片手間に、奴の落書きどおりに作っただけ。

 まだ、試験もしてないから、がんばってね」

 

 今度は井上が、『海ゆかば』を、メロディアスメタルアレンジで弾いた。

 

「安心しろ。貴様がダメでも、こっちには先輩が作った『究極超兵器』がある」

 

 じゃあ、これって自分が遊ばれているって事なのか。と、中村一曹はようやく気づいたが、

もはや後の祭りである。

 

「だったらそっちを使わせてくださいよ!」

「だめよ。あれはあなたには使えないわ。使えるひとは決まっているの」

 

 堀は、あっさり却下する。しかし、ここで引いたら中村一曹の明日はない。

 中村一曹は、こんどは井上に懇願する。

 

「じゃあ、そっちを先に出してください!」

「中村一曹。これは命令である。

 それとも何か? 一曹の分際で軍事参議官の大将に刃向かうというのか?」

「……井上大将は、講和をお望みだと聞きましたが」

「相手がアメリカとかイギリスとかならな。深海棲艦では講和のしようがない」

 

 そういうと井上は、つるぺたの胸しかないふところから、リモコンを取り出して

電源を入れた。

 

「ほれ、電源が入った。中村一曹、直ちに出撃せよ。

 なお、貴様が逃げ出さないように、会敵までは、私が遠隔操縦するからな」

 

 足についている潜水艦ユニットのスクリューがまわり、中村一曹は、ゆっくりと

ドックから出航していく。

 

「神。堀。井上。生きて還ったらテメエらまとめてぶっ殺す!」

 

 捨て台詞を残して出撃した中村一曹は徐々に速度を上げ、

やがて波をけたてて、太平洋を爆走する。

 

「生きて還ったらか……。帰って来られればいいな」

 

 井上はふところからスマホを取り出すと、鎮守府司令部を呼び出した。

 

「シュルツ長官。いま馬鹿が一匹出撃したが、放置しておいていい。

 戦艦大和、武蔵、長門、あと超兵器艦娘『あら、葉巻?』と『パーフェクト・ブラッタ』の

 出撃準備を急げ。ヴォルケンの波動砲で撃たれたら、東京湾と富山湾がつながってしまう」

『いま5人とも食事中ですから、あと1時間はかかります』

「仕方ないな……。先輩」

「やっぱアレ用意するわ」

「できれば出したくなかったな……」

 

 

 

 東京湾沖を時速300ktで死ぬ死ぬと絶叫しながら疾走する中村一曹は、

ものの10分で、深海棲超兵器どもと接触する。

 

「く、くそ~。主砲も魚雷も全部乱れ撃ちにして……。あれ?」

 

 いまさらだが、それらは艦娘でなければ起動しない。

 

「ぎゃー! だずげでお母ちゃーん!!」

 

 

 

 浦賀ドックでは、井上が偵察衛星の画像をスマホで見ていた。

 

「やっぱりだめか。しかたないから潜水モードにして、潜水脚の『特殊弾頭VLS』を使う」

 

 井上が、コントロールを再び奪って、ミサイル発射深度まで潜水する操作を行う。

 

 

 

「あれ? なんだか沈んでいくど。なんで?」

 

 井上がリモコンで潜水させていると知らない中村一曹は、パニックにおちいった。

 

「うがー。溺れる。死んでしまう。助け……ガボガボゲボゲボ」

 

 

 

「ん? 先輩、全く反応がなくなった。特殊弾頭が使えない」

「たぶん、普通におぼれたんでしょ。潜水艦娘じゃないから」

「そこは海軍魂でも大和魂でも何でもいいから、もちこたえてほしかったな」

 

 しかたないので井上は、また鎮守府司令部との回線を開いて、通達した。

 

「これより浦賀ドックの究極なまもの兵器艦娘、『恐怖の大王イカ娘』を出撃させる」

 

 

 

 ……そして、堀悌吉謹製の『恐怖の大王イカ娘』は、なにやらゲソゲソいいながら、

深海棲超兵器3匹を、あっさり食べ尽くした……。

 

 

 

 

 

 

 例のアニメスタジオでは、せっかくの晩酌を台なしにされた監督が、今度はソフトなジンの

「タンカレー」の緑のボトルを片手に、録り溜めておいた「艦あれアニメ」を見ていた。

 

 すると、今度はこんな画像が大写しに……。

 

 

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【挿絵表示】

 

 

 佐藤監督は口に含んだジンを、かろうじて吐き出さずに持ちこたえたが、

まだ中身がいっぱい入っていたタンカレーのビンを床に落とした。

 ビンは、中身ことこっぱみじんになった……。

 

「おのれ~、中村ぁ~。一度ならず二度までも……。

 コノウラミハラサデオクベキカ」

 

 

 

「……う、体中が痛ぇ」

 

 中村Pが、ようやく正気にもどる。

 そのとき、暗闇のかなたから、なにか異様なパワードスーツを着た人影か現れた。

 

「な、なんなんだよ……」

「俺の名前は、織斑一夏」

「そんなブサイクな一夏がいるか――――!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 それは「白式」を着こんだ佐藤監督だった。

 

「箒も、セシリアも、鈴音も、シャルロットも、ラウラも、簪も、本音も、楯無も、虚も、

 ついでに山田先生も、千冬姉も、本当についでに篠ノ之束も、全部俺のものだぁ~!

 貴様には渡さねえ。『二人目の適合者』など必要ないのだ」

 

 そういうと、佐藤監督はすでに起動している「雪片弐型」を大きく振りかぶった。

 

「ちょっとまて。俺は適合者なんかじゃないし、生身だし……うぎゃー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 エネルギーがゼロになってあおむけに倒れ伏している中村Pの腹の上に、

佐藤監督が腰を下ろした。

 

「いいか、中村よ。

 かつてこの国には『女はクリスマスケーキ』っていわれた時代があったんだよ。

 25過ぎたら売れねえってことだ。信じられないだろ」

「……」

 

 中村Pは白目を剥いたまま。監督の言葉が耳に届いているのかもあやしい状態だ。

 

「それがな、いつのまにか世の中が軟派になっていってな。

 いつしか、男キャラが大活躍する話は消えていったんだよ。

 まあ、それも最初は、せいぜいラブコメがはやる程度だったそうだ」

 

 佐藤は、かつて自分が国民的アニメの下働きをしていたころ、先輩から聞いた話を、

思い出している。

 

「それがな、だんだん女の子キャラの比率が増えていってな、

 いかに魅力的な女キャラを作るか競うようになった。

 そのうちだんだん男キャラはモブ化していって、女キャラの比率が増えていった」

 

 そして、それには、いまくたばっている中村Pも、関わりがあることだった。

 

「お前だってそれにかかわってきたじゃないか。『ストラテジック4』とか。

 そしてお前さんがたずさわった『タクティカル・ケーニッヒ』では、男は主人公1人に

 なっちまったよな。チーレムという不条理の始まりだ」

 

 ゲーム界でもアニメでも、女がごってり出てこないものは見向きもされない。

 業界用語で言う、いわゆる「女尊男卑」の時代の、本格的開幕だった。

 

「しかしそれも、『インフィニット・ストラトフォートレス』で、一つの臨界点に達した。

 男を完全排除という建前のなかで、例外をつくってチートハーレムをやる。なんて

 最悪を極めてしまったからな。もう誰もチーレムはできない」

 

 ならば、業界はさらに先に進むしかなかった。

 

「だからな、ついに男を完全排除。そして無節操にスケベ要素を盛り込んだ

『ストライキ・ウィッチーズ』のご登場となった。

 簡単なことだ、そんなに女が見たいなら、女だけ見せとけばいい。

 バリエーションを増やしてな。

 もはや、女キャラとねんごろになる男なんて、邪魔者でしかないんだよ」

 

 監督は、相変わらず白目を剥いている中村Pの顔を見ていった。

 

「つまり、この『ガルぱん』も同じなのさ。

 リアル世界でも、アイドルグループユニットが大盛況だろ。

 普通にいそうな、まあまあ美少女を、大量にそろえて陳列する。

 それが目的なんだから、リアルアイドル同様、男子禁制。恋愛禁止なんだよ。

 承知してただろ。それ」

 

 そう、それこそが「ガールズ&パンツァー」の世界なのだ。

 

「まあ、ざっくり言えば、この国は70年戦争してねえだろ。

 だから、戦争で死ぬ分の男どもが生き残って、空前の男あまりが起きたのさ。

 逆に女は売り手市場。リアルも女尊男卑なんだ。

 わざわざアニメでむさ苦しい男なんか見たいってのは、もういねえさ……」

 

 現実のガルパンと、この話にちがうところがあるとすれば、

それは、パンチラすら拒否した、徹底したスケベ要素の排除だった。

 実は、ガルパンに足りていないものは。男という要素ではなく、スケベ成分だったのだ。

 

「でも、あと、5年か10年だな。

 社会に男が増えすぎると、人間って無性に戦争がしたくなるから。

 卑弥呼じゃねえが、女が増えると平和指向になるんだ。

 となりの大国なんか、一人っ子政策の裏事情で、男あまりが桁違いだろ。

 見てみろよ、隣近所とトラブルばかり起こして、自分の国だけ軍事費が伸びてる。

 ……さいわいにして戦争にならなかったとして、その後どうなるかと言えば、

 今度は男が大勢「無性愛者」になるだろうさ。もう社会のストレスが限界だ。

 そしたら「美少女アニメ」も、おしまいだな。

 俺は、何でも作れるからいいけどな」

 

 

 

-こんな「帝都決戦」は、ひたすらいやだ- 完

 

 

 今回のまとめ

 

 

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 あとがき


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