失われた約束の地   作:米山ともき

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 メルヘン回 戦車と幽霊 その②

 

 

 

 

 

 アンツィオとの二回戦の前日の夜、僕は用意した食料のすべてを五十鈴先輩に食べられた。

 空腹を抱えてふて寝している僕に角谷大統領は、なにもないから勝手に調達してこい。と

近くのアンツィオの宿営地に潜入してこいといわんばかりのアドバイスをしてくれた。

 そして寝静まったはずの時間に潜入した僕はなんと、アンツィオ大宴会のまっただなかに

出くわしてしまった。たぶん大統領は、このことも知っていたにちがいない。

 しかし、僕は別に捕虜にもされず、おなかいっぱい食べさせてもらったうえに、

隊長の安斎さんとふたりの副隊長さんに送られて大洗のベースキャンプへの帰途についた。

……はずだった。

 とつぜん電話も時計もコンパスも利かなくなって、周囲はブラックアウト。

 大洗女子のトレーラーハウスのあるはずの場所は、なにもない草っぱら。

 そして、僕らの方に、なんか怪しい人影が……。

 

 真夜中だということを割り引いても、あまりに暗すぎてなにもかもダークグレーの

シルエットにしか見えない。

 空の星だけが奇妙に明るく、まるでまたたいていないかのように煌々と輝いてる。

 夜空を銀河が、本物の川のように横切っている。

 その人が2mぐらいまで近づいてやっと、ただの影からモノクロの人の形になった。

 

「みんな、動くな」

 

 安斉さんが小声で僕たちを静止する。

 二人の副隊長はモードが変わり、油断なく目を配る。

 安全に配慮されているとはいえ、本物の砲煙弾雨の下をかいくぐってきた人たちはちがう。

 ショートの副隊長さんは、ニヤリと笑ってさえいる。

 並の女子高生なら、いや、並でなくても冷泉先輩なら「お化けー!」と騒いでるだろう。

 以外と西住先輩もこういうのには弱い。もーやだ先輩は逆に落ち着いているかもしれない。

 

 こっちにやってきた彼女のかっこうは、何とも奇妙だった。

 

【挿絵表示】

 

 髪の毛は金髪のロン毛なのだけど、瞳が黒い。

 僕らから見れば色白の部類の肌。

 ……しかし、問題はそんなことではなく、彼女の来ているものだった。

 むくの鋼鉄でできたプレート・メイル。

 その上からなぜかエプロンドレスみたいなものを着ている。

 そして腰には、つばがかご状になっているブロードソードを吊っている。

 じっちゃんに聞いた話では、ああいう刀剣はたしかスコットランドのクレイモアのはず。

 片手用だけど、ブロードソードはレイピアのような刺突剣ではなく、振り回す斬撃剣だ。

 なお、日本刀は両手片手両用で、斬突両方ができるのでバスタードソード(あいの子剣)だ。

 左腕には、長方形の鉄の盾をさげている。

 ずいぶんものものしすぎる上に、そんな身なりの人物がなぜここ六甲山系にいるのか。

 まったくわからない。いまは21世紀だし。

 

「なるほどね……」

 

 安斎さんが何かに気がついたようだ。

 

「……山本。彼女はパンツァーガイストだ。『本物』のな」

「え? このひと人間ですよ。

 ……『本物』ってことは、本当の幽霊ですか?」

「いいから君の持っている『機械の目』で見てみろ」

 

 あ、そうか。

 僕は首に提げていた暗視ゴーグルをかけ直した。

 

 ん?

 なんかノイズの混じったすすけたような戦車のシルエットが見える。

 

「形がはっきりしない上にシルエットしかわかりませんが、大きめの戦車みたいに見えます」

「だろ?」

 

 わかったのはそれだけではない。

 車体の左右と砲塔まわりに、薄い鋼板の増加装甲をまとっているようだ。

 そんな戦車、初めて見る。

 

「なんか車体と砲塔からステーが伸びていて、薄い装甲板を装着してますね。

 これってなんですか?」

 

 90やひとまるのように「スカート」をはいている戦車ならいっぱいある。

 チャーチルやマチルダみたいに、スカートというよりれっきとした側面装甲のものもある。

 イージーエイトも「スカート付き」がいるし、僕にも区別できるチャーフィーや

パーシング、それと例のA41もスカートをはいている。

 

「それは『シュルツェン』。昔のドイツ語で『前掛け』を意味する」

 

 はあ、だから甲冑の上からエプロン着ていたんだ。

 

「でも、そんな文字通りひらひらのエプロンみたいな増加装甲にどんな意味が?」

 

 戦車砲なら、簡単に撃ちぬくだろう。

 屁の突っ張りにもならない。

 

「昔はタングステン弾芯の高速弾を撃つ『対戦車銃』というものがあった。

 それの対策のため。

 ただ、あとになると成形炸薬弾をここで暴発させて無効化するという

 効果が認められるようになった。

 それと、戦車道ではまたちがった効果がある。

 競技弾は厳密には徹甲弾じゃない。内蔵された判定用モジュールを破壊するために爆発するが

 基本的には軟鉄以下だ。

 だから、シュルツェンに当たると貼りついて、シュルツェンごと飛んでいってしまうんだ。

 むろん、本物の徹甲弾相手ならそんなことにはならないけどね」

「そういう銃ならいまもありますよ。『対物狙撃銃』っていいます。

 ……でもそんな効果があるじゃ、シュルツェンってある意味ズルですよね」

 

 対物狙撃銃の方は絶賛生産中なのに、シュルツェンの方はなくなっているんだ。

 じゃあ、つけておくだけのメリットがないんだと僕は思った。実際そのとおりだったけど。

 

 このとき僕は、後々そのおかげで救われるということは、むろん知らなかった。

 

「一回限りで攻撃を無効化する魔法アイテムのようなもんだね。

 だから暗黙のルールって奴で、最初から装備している戦車以外で付けてるやつはいない」

「でもなんで、僕らには彼女が人間に見えたんでしょう?」

「さあね。本人(?)がなにも語らないんじゃ」

 

 でも、こいつからシェルツェンむいたら……。

 もしかしてこいつって……

 

「ひょっとしたら『偏差値44』? え? むう……、はっきりしないけど」

 

 いや、やっぱり似ている。あの因縁の憎っくき『偏差値44(by冷泉先輩)』に。

 そう僕が思ったとき……

 

『あの、あなたたちには私が人の姿に見えたのですか?』

 

 ――うわっ! 幽霊がしゃべった。ゴーグルをしている僕には戦車のシルエットだけど。

 あれ? 前からじゃなく頭の中で声がする。

 僕はゴーグルを外して、あらためて「彼女」を見る。

 確かに中世風の鎧をまとった女の子……。

 ……いや、突然ノイズのカタマリになったと思ったら、スルスルと再構成されて、

さっき見たばかりの戦車のシルエットになる。

 あいかわらず細部はもやっとしてる。

 

「なんかこいつ、私らと意思疎通ができるようだな」

 

 安斎さんが、こんどは幽霊戦車に向かって質問を始めた。

 

「教えてくれ、ここはどこなんだ?」

『兵庫県の六甲山系です』

 

 どこか異世界に行ってしまったというわけではないんだ

 というか、さっきの西洋甲冑姿を見てると「兵庫県の六甲山系」って違和感があるー。

 

「いまは、何日の何時だ?」

『それはここでは意味がありません』

 

 ここには時間軸というものがないのか。

 なんか『時空の裂け目』とかにおっこっちゃった。とかじゃないよね。嫌すぎる。

 

「私の腕時計は動いています。いまは0時42分」

 

 ロン毛の副隊長さんが、自分の腕時計を見ている。

 小さい女性用の古いものだ。いまでは少ないゼンマイ巻のムーブメントのようだね。

 そりゃそうだ。本当に時間の流れというものがなければ、僕たちだって動けない。

 

「ところで、なんで急に意思疎通ができるようになったんだ?」

『それは。あの方が私の名を呼んだからです』

「え゛? 僕が?」

 

 ぢゃあこの戦車、マジで『偏差値44』って名前なの? やーめーて。

 

「ふん。そーゆーことか」

 

 あっさり自分だけで納得しないでください。安斎さん。

 

「つまり、これから出会うパンツァーガイストに対しても、その名を呼んでやれば

 意思疎通はできるってことだね」

 

 名前、なまえ……

 どう考えても『偏差値44』が戦車の名前とは思えないです。

 だいたい、本当にそうなら、みんなして僕だけ仲間はずれにする意味がない。

 ……じゃなくって!

 

「安斎さん! そんなことよりここからどうやって現実世界に還るかを……」

「ここが何なのかもわからないのに、帰り方なんかわかる?」

 

 なんか御三人とも、妙に落ち着き払っている。

 ノリと勢いだけのアンツィオじゃなかったんですか? 大統領。

 聞いたのとちがうー。

 

「だったらじたばたしてもしかたないだろ。

 それより君が先にパニックになっていてもおかしくないんだけど」

「山本さんはずいぶんと度胸がおありなのですね」

「それは……、いえ、なんでもないです」

 

 まさか、希望がないから人生に達観しているので。とかいえない。

 そうしたら障がいのことについても言うしかなくなる。

 

 

 

「かといって、このへんを自前の足で歩きまわるのもなんだよね。

 ちょっとごめん。上に登るよ」

 

 安斎さんはいかにもなれたしぐさで、あっというまに砲塔の天井までよじ登る。

 乗ったこともなさそうな戦車なのに、やっぱりベテラン戦車乗りだ。

 

「ん? なんだ、ハッチが開くよ。

 それに、中身もちゃんとあるじゃないか。乗れるぞ」

『え? 私に中身があったのですか?』

 

 どういうことだろう。

 レジンキットみたいに、戦車の形をしたかたまりだったとでもいうんだろうか。

 

「いや、きちんと主砲も砲手席も操縦席もある。人が乗れるようになってるよ」

『私たちは外形すらはっきりしません。内部がある戦車には会ったことがありません』

「……そうかもしれないね」

 

 安斎さんはまたまたひとりで納得している。説明がほしいところだ。

 

「安斎さん。それはいったいどういうことですか?」

「パンツァーガイストの目撃例が未成戦車ばかりだってことと関係があるんだ。

 道々話したとおり、未成戦車には製造図のそろっていないものや、設計図自体が

 完成していないものすらある。

 この子だって、あちこちぼんやりしてるだろ。

 あちこち変わる可能性があるってことだ」

「姐さん。操縦席のハッチもありますよ。

 でも防循がじゃまで、いまいち開けにくいっすね」

 

 ショートの副隊長さんがドライバーズハッチをあけて、中にすべりこむ。

 なんかすごい度胸だなあ。でられなくなったらとか考えないんだろうか。

 

「ふん、人数分のハッチがあるとは、親切な設計だね」

 

 そんなことを言いながら、安斎さんまでキューポラのハッチから砲塔の中に入りこむ。

 

「ふーん。速度計、回転計、電圧計、油圧計、水温計に油温計とひととおりそろってますねえ。

 でも……」

「どうした」

 

 ショートの副隊長さんの専門職はドライバーみたい。

 でも、なんなんだろう。

 

「姐さん。この計器の表記、全部日本語ですぜ」

「なんだと? ――いや、主砲も変だ」

 

 僕も砲塔によじ登り、ローダーズハッチから中を見る。

 確かにおかしい。何でこいつが?

 ダークグレイ一色の中に、砲の輪郭線だけが浮かび上がってるけど、

僕はコイツをよく知っている。

 

「安斎さん。これ、17ポンドじゃないですか!」

「ああ、まぎれもなくイギリスの17ポンドだ。

 私が知っているとおりなら、ここには本来ちがう主砲がついているはずだ」

 

 今度はロン毛副隊長さんが、ローダー席におさまる。

 そして試しにAPCBCとおぼしき砲弾を片手で持ち上げる。

 実物なら相当重い。やっぱり幻影なのか。

 

「僕にも見せてくれませんか? 17ポンドなら装てんしたことがあります」

「じゃあハッチから出すから、受け取って」

 

 ロン毛さんはやっぱり片手で持ったまま、砲弾をハッチから出した。

 僕は、さすがに両手で受け取ることにした。

 

「うおっ」

 

 両手で受け取って正解だった。

 塗装前のプラモの砲弾のように見えるが、重さは本物だった。

 ということはこのひと、すごい装てん手だ。

 コアラの森学園では、この砲専任の装てん手を育成してもだめだったみたいだから。

 

 しかし、ますますわけがわからなくなってきた。

 日本語表記の計器類。

 イギリスの17ポンド砲。

 この砲しか撃たないはずのAPDSも5発ちゃんとあった。

 

「つまり、代用品ってことだろうね。

 計器は当時のとおり再現できない理由があって、現代で作られたものなんだろう。

 すなわち、この戦車は戦車道用に新規でつくられたものだ。

 山本。エンジンフードを開けて中がどうなってるか見てくれ」

 

 この戦車も、全長の割に機関室の長さがあるタイプだ。

 点検口を開けてみる。

 まっ暗な中にエンジンのシルエットが見え、メーカーのエンブレムのレリーフが浮き出る。

 

「これは、フォードのV型8気筒です」

「アメリカの大戦中のエンジンとしては最強のGAFだろうね。500馬力は出る」

 

 戦車道用にスクラッチされたものとしても、もうわけがわからないどころの騒ぎじゃない。

 計器は日本製。主砲はイギリス製。エンジンはアメリカ製。

 そして、ドイツ流だと思われるシュルツェンという増加装甲。

 ますますコイツの正体がわからない。

 

「だが、それら以外はほぼオリジナルを再現できてるんじゃないか? なあ山本」

 

 安斎さんは僕がコイツの正体を知っていると思っているようだ。

 僕には、ただ笑うことしかできない……。

 

 

 

「考えられることは、たぶん日本のどこか、おそらく例の『工房』で、

 戦車道に使うためにこの戦車を制作してるということ。

 それがなぜか『彼女』に反映してしまっている。

 つまり、この世界は現世とでもいうか、私らの現実とリンクしているんだ」

 

 現世ですか……。

 じゃあ、ここはあの世っすか?

 

「いや、この世もあの世もないよ。同じものだ」

 

 足元の方から声がした。男性の声だ。

 

「生きている者も死んでいるものも、同じ世界に存在する。

 君たちの言葉でいう「フェイズ(相)」がちがうだけだ。

 同じ場所であっても、死んだものから見ればこう見えるというだけだよ」

 

 僕は声の主を見る。

 ポロシャツにチノパンといういでたちで、口ひげを生やしてるけど、たそがれたおじさんだ。

 

「そうか、君からは私がそう見えるのか。まあそんなものだろう」

 

【挿絵表示】

 

 このひとが語ることが本当なら、このひともまた死んでいるということになる。

 まさに幽霊と会話しているわけだけど、そんな恐ろしさは感じない。

 また、僕が見ている姿は、僕の頭が解釈したこの人の姿なのだろう。実体がないのだから。

 この人に関していえば、ゴーグル越しでも裸眼でも同じに見える。

 

「ここは、産まれてくることのできなかったものたちのいる場所だ」

「だから「コイツ」がここにいるということか? おじさま」

 

 安斎さんも平然とこの幽霊の「おじさま」と話している。

 度胸なのか、それともいまさらおたおたしてもしかたがないと見切っているのか、

さもなきゃ、めちゃくちゃなことばかり起きたせいで、感覚が麻痺したのか。

 

「それだけではない。君たちには見えないだろうが、ここには形をなせぬ者たちが

 たくさんいる。現(うつつ)に行っては流されてここに戻ってくる。

 それを繰り返している者たちだ。すべて生きていたときの罪障のせいだ。

 『形』を持てぬものには、そのことすらわからない。

 その娘は、ここに戻ってきたときにたまたまその鋼の箱にとりついた。

 そして他の依り代たちや君たちと、こうやって話している」

 

 なるほど、未成兵器なんてものは20世紀になって初めてでてきたようなものだ。

 流産した機械、ということか。

 しかし、この戦車は、何かの魂の依り代として動いている。

 だから、他に未成戦車や未成兵器、あるいはペーパープランで終わったその他の自動機械が

ここにいるからって、この戦車のように動きまわるとはかぎらないということか。

 

「ちょっとおっさん! あの世があるかないかはどうでもいいんだ!

 結局ここは死んじまったものの世界みたいなもんだろ? なんで私らがここにいるんだよ!

 帰れるのかよ? どうやったら!」

 

 ショートの副隊長さんがいきなりの理不尽に激高して、戦車から飛び降りて

「おじさん」につかみかかる。しかし、つかもうとする腕は通り抜け、身体が中を泳ぐ。

 

「たぶん、その娘が君たちのような者を必要としていたのじゃないかね」

 

 彼は、ショートの副隊長さんを放置してそのまま話し続けた。

 

「最近、こういう物がここに現れるようになった。

 ここを漂う命たちは、これら生命なき物を見つけるとそれらにとりついて

 かりそめの身体とする。

 これらは現の世の者たちが作ろうとして、やめてしまったもののようだ。

 その作ろうとした意志だけがここに現れる。そしてじっと動かずにいる」

「それはわかるよ。私らが知っていることとまったく同じだから。

 これもそう。ちゃんと形になる前にこわされたんだ」

 

 今度はコマンダーズハッチから安斉さんが降りてきた。

「おじさん」は、安斉さんとそんなに背丈は変わらない。かなり低いといっていい。

 

「でもそれならば中身までできていて、私らが乗り込めるのも変だよね。

 これもそうだけどきちんと形になれないで、捨てられたものの方が多いんだから」

「まさに、それが君たちがここにきた理由なのではないかと思う」

 

 おじさんは、今度は少しずつ形がはっきりしてきている戦車にたずねた。

 

「お前は、以前は自由に動き回れたのではないのか?」

『はい、そのとおりです。

 ですが最近、少しずつ身体の自由がなくなってきて、とうとうここで動けなくなりました』

 

『彼女』はさっきよりもノイズが減って、霧が晴れるようにそのすがたをあらわしつつある。

 それが地上のどこかで、この戦車を本当に作り上げていることの影響ならば、やがて彼女は

本当に僕らが操作しなければうごけなくなるだろう。そんな気がする。

 

『以前の私には、身体のなかなどありませんでした。

 自分の姿が霧のかたまりのようでなくなって、中身ができてきてからおかしいのです』

「どうだろう。こういったものは、君たちがあやつるために作られたものなのではないか?」

 

 僕ら4人は顔を見合わせる。

 僕らのいる場所でないところで、僕らの現実が都合良く適用される。

 確かに、戦車というものは乗員がいて初めて「戦車」だ。

 無人の戦車なんか、モンスターでも何でもない。

 

「そうです。僕たちが人を超える力を手にするためにつくりあげた心を持たない武器です。

 ……でしたら、もし彼女が実際に地上で完成してしまったら、いまいるこのひとは

 どうなるのでしょうか?」

「作られなかった『幽霊』でなくなってしまうということだ。山本。

 ここから消えて、地上で『心を持たない実物』になる。

 そして命だけが、またこの場所をさまよう。

 ……そうでしょう?」

 

 安斉さんの最後のひと言は、おじさんに向けたものだった。

 

「いや、彼女もいっしょに地上に『現界』するんじゃないかな。依り代に引かれて。

 そのあとどうなるのかはわからない。地上で何かに生まれるのか、やはり流されて

 還ってくるのか……、彼女次第だ。

 そして君たちは、ここのかわりに、地上の本来の姿が再び見えるようになる」

「つまり、私たちはあいかわらず六甲のふもとあたりにいるということ?」

「ああ。だが君たちの仲間からは、今の君たちの姿は見えていないだろう」

 

 フェイズがちがう。同じ場所の同じ時間でありながら。

 僕たちも、この人たちも同時に存在する。互いに干渉しないまま。

 つまり、このおじさんのいう「あの世はない」ってこういうことか。

 

「そして、君たちは自力で動けないこの娘を動かせるからここにきた」

 

 それはどういう、と僕が問おうとしたときだった。

 数百メートルかなたから、2発の発砲音がした!

 

 

 

 

 

 

 

 

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