失われた約束の地   作:米山ともき

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 メルヘン回 戦車と幽霊 その⑤

 

 

 

 

 

 ここは僕たちがふだん自覚している世界とは、場所は同じでもフェイズ(相)のちがう世界。

 死んだものが見ているという世界。

 僕たちは同じ場所にいながら、ふだんはお互いの存在に気がつかずにいる。

 

 未成戦車としてこのフェイズに出現したある戦車に、ここの住人のひとりがとりついた。

 そういう「幽霊戦車(パンツァーガイスト)」が、計画倒れで流産した数だけ存在する。

 僕たちのいるこの場所は、生物無生物を問わず、流産をくりかえすものの場所だそうだ。

 

 僕とアンツィオ三人衆は、幽霊戦車のひとつに引かれてここに迷い込んだ。

 彼女は、地上で戦車道用に彼女を再現する試みがあるため、幽霊でなくなりつつある。

 僕たちは、彼女の代わりに地上に帰還しようとする何者かが差し向けた幽霊戦車の

襲撃を何回も受けたものの、途中で合流した中年男性の幽霊や、「彼女」の友だちだという

戦車たちの助けを借りて、切り抜けてきた。

 そして今、敵のうちの1両の(ピー)みたいな奴をひっくり返して捕まえた。

 しかしそいつは上っ面では命乞いを繰り返しながら、前照灯で僕たちを照らし、

そいつを見張っていた仲間に合図していたらしい。

 同行していた幽霊のおじさん、マリオさん(仮名)がそれに気がついたが、遅かった。

 

 

 

 僕がドゥーチェに、マリオさんが他の敵がいるらしいと言っていることを伝える前に、

視界のかたすみに閃光を認めた。

 

 

 

 ドゥーチェと僕は、とっさに近くの岩陰にかくれる。

 イロナといえば、ペパロニさんが(なにをどうやったのかわからないけど)すばやく正面を

向かせていた。

 アイナは、……こわくてすくんでいる。

 明らかに90mm級よりデカい砲弾が飛来するまで1秒足らずの間にできたことはそれだけ。

 そして、砲弾は命中した。

 なぜかひっくり返ってあがいている駆逐戦車の(ピー)野郎の上部前面装甲に。

 

『ぎゃあああぁぁぁ!!』

 

 駆逐戦車(ピー)が絶叫する。角度が浅すぎて弾くことはできたけど、相当痛かったようだ。

 (ピー)は、気を失ったらしい。ここを照らしていた前照灯の明かりが消えた。

 人間でいえば脳しんとうで気絶ってところだろう。

 そのときになって、遠雷のような発砲音が聞こえた。聞いたような音だ。

 

「105mm長砲身。まさか大戦後の幽霊戦車?」

 

 間違いない、さんざん聞いたことのある105mmライフル砲の発砲音だ。

 そいつは大きな岩で車体をかくし、砲塔だけをこっちに突き出している。

 その砲塔は、どうみても丸みを帯びた鋳造砲塔。防循も被弾経始に優れた形状のようだ。

 もしAPFSDSなんか撃たれたら、みんな枕を並べて討ち死にだ。

 でも、車種がわからない。わからないなら対処のしようがない。どうしよう……。

 

「ちがうよスパッド。あいつも大戦期の試作戦車だよ。

 だから君には何なのかわからないだろ?」

 

 そうなんだ。ドゥーチェが言うなら間違いないだろう。

 とりあえず有翼安定徹甲弾に矢ぶすまの刑にされるってことはなさそう。

 

「距離はどのくらい?」

「2,519mです」

「その距離であいつに『豚飯の角度』を決められたんじゃどうにもできない。

 あいつは特殊な徹甲弾は持ってないけど、次弾装てんのあいだに逃げ……」

 

「逃げる必要は、ないと思うよ」

 

 またマリオさんだ。

 それもごくごく普通の口調。どういうことかなあ。

 

「あの敵は確かにこの車両を見張っていたけど、目的はこいつの助太刀じゃなかったんだね。

 むしろ、こいつの作戦が不首尾に終わって、こいつ自身が君たちの手に落ちそうになったら

 口封じするよう命じられていたんだろう。

 そうでなければ、イロナ君が撃たれていた」

 

 そういわれれば、僕らを狙った戦車は超信地で向きを変え、あいかわらず砲塔だけは

こちらに向けたまま、慎重にこの場所から引き上げていく。

 

「目印になる明かりを失ったから、あんな遠いところから狙うことができなくなったんだろう」

 

 なるほど。単眼鏡に映るあいつからは、熱線反応が出ていない。

 赤外線暗視装置はないということだ。

 まっ暗な山を背景にしている僕らを狙うことは、ムリにちがいない。

 目的が達成できないなら迅速に引き上げる。

 あいつが「できる」のか、それともまだ見ていない頭目が切れ者なのか。両方かもしれない。

 ならば……

 

「ドゥーチェ、だったらこっちのターンじゃないですか。

 アイナなら赤外線であいつの車体後部を狙えるんじゃ」

「当たってもあんな距離じゃ、倒せる確率は5割といったところだね。

 あいつの側面と後部は、全部傾斜80mmだ。砲塔サイドと後ろも、しかも形が丸い。

 砲塔正面は、防循の円錐部は角度がきつくて、大戦型の戦車砲のほぼすべてを弾く。

 根元は120mm、そしてその後ろの砲塔前面が120mm。合計240mmの中空装甲だ。

 HEATも封じられる」

「薄いところが80mm傾斜なんて、反則もいいところじゃないですか!

 パンター(だけはなんとかわかる)の正面と同じです」

「距離を詰めなくて良かった。近づいたら反撃されていた。

 それに……」

 

 それに、想定外のことがひとつ起きてしまった。

 ……さっきから、泣いている声が聞こえる。

 

『……くすん、くすん。うぇっ……』

『もう大丈夫よ。あの戦車は逃げていったわ』

 

 アイナが泣きじゃくっている。

 そしてアイナより明らかに弱いイロナになぐさめられている。

 

『……怖い、怖いよぉ。おねえちゃーん助けてぇ……』

 

 アイナは目の前で(ピー)が殴られて昏倒するのを見て、完全にすくみ上がっている。

 もしかしたら、彼女は気が弱いのじゃなく、まだ幼い子どもなんじゃないだろうか。

 ものが戦車なんだから、外見と中身の年齢なんてまったくリンクしない。当然のことだ。

 図体はいままで見た戦車のなかでは、現用を除いて一番大きい部類だ。

 彼女より小さい『おねえちゃん』だってリーよりずっと大きいんだから。

 さっき逃げていった105mm砲の重戦車らしいのにさえひけをとらない。

 それなのに、速いうえに健脚だ。イロナが苦労している山道もあっさり登る。

 前面装甲の傾斜もかなりきつい。機動性から考えれば「厚い」とはいえないだろうけど、

あれだけ寝てればコサインが大きいはずだ。

 主砲は90mmクラスの物干し竿。

 総合的に戦車道では最強の部類だろう。

 

 ただ、目の前で目を回している(ピー)の様子からすると、砲撃が貫徹しなくても

受けた幽霊戦車は痛みを感じるらしい。

 ヘビー級のパンチを食らえば、たとえ死なずにすんでも気を失うってことだ。

 だったらこの子は一発かすっただけで、もう二度と他の戦車がいるところに来られなくなる。

 ……おそらく。

 つまりこの子を戦力として数えるわけにはいかなくなったってこと。困ったわね。

 

 

 

『いででででで。

 あーひどい目にあった。チキショウめ』

「おはよう。気絶したまま目を覚まさないのかと思ってたよ。

 気分はどう?」

 

 ゴ○ゴみたいな重戦車がいなくなったころ、(ピー)がやっと目を覚ました。

 ドゥーチェは尋問の続きを始めるようだ。

 

『いいわけないだろーが! 顔面えぐれて痛いのなんのって』

「その面の皮の厚さに感謝するんだな。

 ところで君は味方から口封じに消されかけたわけだけど、これからどーする?」

『……』

 

 ドゥーチェは言外に「悪いようにはしない」っていってるんだけど、(ピー)は黙ってる。

 たぶん、僕らに着いても何の得にもならないと判断しているみたい。

 

「しょうがないなあ……」

 

 そういうとドゥーチェは、奴の側面に近づいてひそひそ話を始めた。

 

『なんで俺のことをそんなにくわしく知っているんだ!?』

「君はね、生者の住処では有名人(?)なんだよ。

 世界中どこでも(ピー)で通じるんだ。驚いたろ。

 そして君に関しては、わりと図面類もそろっているんだ。

 もう時代遅れだから、本来の目的で君を作ろうという奴はいないけどね。

 ただ、戦車道という競技では別だ。話ぐらい聞いたことはあるだろ?」

 

 うーん、どうなんだろ。

 ここにくる命は、生まれる前に死んじゃうから。

 

『俺たちのボスが、そこのオヤジと同じところからやってきたやつだ。

 そこには生者だったころ、償いようがないような悪事を働いた奴ばかりが来る。

 だからボスはいまの事情も知っていて、俺たちにいろいろ話をした。

 でなければ現界させてやるなんて誘いには乗らない』

 

 え?

 マリオさんって、じゃあ……

 でも、とてもそんな風にはみえないけれど。

 

「そんなものだよ、私も。

 私はその頭目を追って、アビシナラカから来た者だ」

「アビシナラカ、ってそれは……」

 

 マリオさんは僕を手で制した。

 

「同じだよ。

 ここにあるんだ。見えないだけでね」

「でも、あなたが『そんなもの』って……」

 

 これは聞いてはいけないのかもしれない。

 だけど、彼が味方のふりをした敵かもしれない以上、聞いておくべきだ。

 

「……私はね、少なくとも数百万の人の死に責任を持つものだ。

 アビシナラカにはあとからあとから、人だったり何だったりしたものが墜ちてくる。

 一番多いのは、親を殺したものだ……。私はやっていないけどね」

 

 やっぱり、彼は望んで奈落の底に落とされたということではなさそうだ。

 

「でもね、罪は罪。罰は罰だよ。

 ここで『自在天』と名乗る彼も同じことだね。

 どうやってあそこから逃げたのかはわからない。

 自分から逃げたのではないのかもしれない。

 しかし、無限につづく償いであっても、そこから逃げてはいけないと思うんだ」

 

 そう淡々と語る彼の顔つきや見かけが変わったわけではない。

 おそらく、この人がショボいおじさんにしか見えない僕の眼力の方がショボいのだろう。

 他の3人は、明らかに僕とはちがう像をみているようだ。

 ドゥーチェ、安斎さんは最初から「おじさま」と呼んでいた。

 背丈やヒゲは同じでも、立派な紳士に見えてるのかもしれない。

 ペパロニさんは、激怒したときに全力で締め上げようとしていた。

 仮にも並みの男なんか束になってもかなわない戦車道門人だ。

 貧相なおじさんに、全力をふるうとは思えない。

 そしてこの人は僕に「君にはそう見えるのか」と言っていた。そして変に感心していた。

 

「まあ、私のことはこれくらいにしておこう。

 ドゥーチェ、君は彼になにか提案したいことがあったんだろう?」

 

 ああ、そういえば話の腰を折っちゃった。

 ドゥーチェは(ピー)に何を持ちかけるんだろうか?

 ドゥーチェは「オホン」とせき払いしてから、話を再開した。

 

「つまりね、あんたもイロナ同様に、あっち側で作ってやろうかということよ。

 さっきも言ったとおりあんたはわりかし図面もそろってるし、いままで見た連中のなかでは

 イロナ程度に実現可能性が高いのよ。

 ザコ1号はどうにもならないし、ザコ2号は簡略型で完成しちゃった。

『本当の意味でのヘッツァーのお兄さん』とかモブ駆逐だってまあ絶望的よね。

 さっきのヒットマンなんか、どこでも作る気しないだろうねえ」

 

 ドゥーチェは一瞬だけアイナを見たが、何も言わなかった。

 いまの姿でもう絶望的なのは、僕にだってわかる。もやのかたまりなんだから。

 

『ふん、話にならねえな。

 知ってるぜ、俺みたいなのを本当に作るには、金と研究がすごく必要なんだろ。

 失礼は承知で言うが、あんたらは学生、そこのオヤジ流に言えば書生っぽじゃんか。

 まったくの空手形だ』

 

 こいつ、名前を言わなくても僕らと意思疎通できるだけあって、言うことはまともだ。

 たしかにこれではこっちの分が悪い。

 

 でも、ドゥーチェは「結論を急ぐな」とばかりに人差し指を立てて左右に振った。

 

「別に私がどうこうしようとはいってない。

 この国にも試作戦車を戦車道用に再現する集団はいる。

 そこに頼もうと言うんだ。たぶんイロナもそこで再現中だ。ある事情で私もかかわってる」

 

 日本でひとつしかない「工房」には、ドゥーチェも関わってるということか。

 だからさっきもあれだけ詳細な話ができたんだ。

 

「そしてあんたは、戦場ではとっくにロートルだけど、戦車道でいうなら忍びの才能がある。

 夜もものとしないし、足が速い。車体の割に小顔だし、操向装置も流体式二重差動方式だ」

 

 え? (ピー)ってHSTだったの? 信じられなーい。

 

「完全に偽装をほどこして潜んでいれば、よほどの強者でなければいるってわからない。

 そのうえ陣地転換も戦場展開も早い。止まってれば早い超信地で砲塔つき並みに戦える。

 そして機動力に見あう頑健な足腰をしている。

 銃塔についている20mmは、装甲の薄い軽戦車なら追い払える」

 

 うわー。こいつって相当な実力者じゃない。それも人間なら特殊部隊だ。

 積極的に戦われていたらどうなっていたか。

 車格のわりに幅広の履帯も、重戦車よりも大きい転輪にも意味があるんだ。

 そしてストロークの大きなユニット型スイングアームのサスペンション。

 

「あんたを設計した国では、戦争が終わったあとにあんたみたいなのを実際に作ってるんだ」

「ドゥーチェ。それってKJPz.4-5駆逐戦車ですか?」

「スパッド。君はヘッツァーとヤークトパンターも区別できないんじゃなかったっけ」

「ははは……」

 

 KJPz.4-5駆逐戦車。

 90mmのパットン用HEATを秒速約1,200mで、1分間に12発撃てて、T-62までのソ連戦車なら

2,000mで撃破できた。それでいて重量は27.5tしかない。最大速度は70km/h。

 その後ミサイル自走砲に改造され、ヤグアルツヴォーとしていまでもご奉公中だ。

 

「そして日本戦車道には、あんたが向いているゲリラ戦じみた戦いを得意とする連中がいる。

 そいつらならスポンサーになってくれるだろう。

 実はイロナのスポンサーもそいつらなんだ。

 どう? 乗ってみない?」

『空手形が、不渡り手形ぐらいにはなったかな』

「まあ、最悪私たちの敵にならないって約束するんなら、起こしてはあげるよ」

『しかたねえな……』

 

 

 

 コイツを起こすのは、出力重量比がすぐれているアイナの役目になった。

 イロナがなんとかなだめて、ワイヤーを掛けて引っ張ることになったが……

 ……困ったことにアイナの側面にあるらしいワイヤーは、僕たちではつかめなかった。

 そして、幽霊であるマリオさんがワイヤーを一人で掛けてまわることになってしまった。

 でも、マリオさんは軽々とおもくそ重いワイヤーを扱っている。

 やっぱり見た目どおりの人ではない。

 

「細い鉄のヒモを束ねて編んだ綱か、すごいものだねえ」

 

 もうマリオさんが現代どころか近代の人でもないのは確定だ。

 鉄器時代(現代もそうだけど)の人ではありそうだけど。

 

 

 

 

 

 

 結局、(ピー)も僕らについていくしかなかった。

 このまま野良戦車を続けていても、なんも展望はないし、元のボスからは暗殺命令がでてる。

 だったら1%にもならない確率であっても、ドゥーチェの言うことを聞いた方が良いと

思ったようだ。

 

「じゃああんたの名前はこれから『ブラッタ』。イタリア語でゴ……」

『そのまんまじゃねーかよ』

 

 ネトゲ界隈では、確かに有名戦車のようだ。

 その走りっぷりが、まるで新聞紙の束やスリッパをよけまくるGそのものだから

そう呼ばれているらしい。平べったいし。

 

 

 

 しかし、困った戦車隊になってしまった。

 おねえちゃんやアイナみたいな韋駄天がいる一方で、鈍足のハンスもいる。

 ゴキみたいなバリバリステルス野郎がいる反面、頭が常に木の上にでてるハンスもいる。

 例のヒットマンに「私らここでーす」って教えてるも同然だから、平地には出られない。

 

『何で俺が一番先頭?』

「当然でしょ、前しか撃てないんだからさ。

 それにこうしておけば、裏切る気にもならないでしょ」

 

 それはドゥーチェの言うとおりだろう。

 もっともゴキを先鋒にしてるのは目がいいことと、奇襲された場合でも1発で死亡って

ことがなさそうだから。また気絶するかもしれないけど。

 また、ゴキ自体が見つかりにくいから、先手を取れるかもしれない。

 

「ドゥーチェ、これからどうしますか?

 どっちにしてもイロナが現実で戦車として完成するまで生き延びるのが目標ですけど」

「逃げまわり続けるか、元凶を倒しに行くかってこと?」

「そうです。ただ、敵の状況が不明なのでは逃げ続けるのも限度があります。

 単身なら迷わず逃避行ですけど、いつかは捕まります。

 それに、マリオさんがここに来たのは……」

 

「私のことは気にしなくていいよ。私の手に負えないなら、それこそ増援が来るだろうね」

 

 マリオさんはそう言うが、敵も戦車で武装している以上、一人で行かせることはできない。

 幽霊の攻撃は、当然幽霊にはきくから。

 

「ふーむ。スパッド、イロナの状態はどう?

 まだかすみがかかってるところある?」

「いえ、もうまったくありません」

「ペパロニ、車体前部は」

「もうモヤっているところはありませんぜ」

「砲塔内部は、……なんだこりゃ?」

「ドゥーチェ、これは……」

 

 僕も砲塔内の、カルパッチョさんが指さすものを見る。

 ラックの砲弾のうち、無彩色のものじゃないものがいくつかある。

 

「これは、すでに撃ったはずの弾です」

 

 だったらラックは空になっているはず。しかしそこには、真ちゅうの薬莢に黒い弾頭。

 白文字で連盟公認であることと仕様が書かれている。

 公認競技弾に変わっている。

 

「カルパッチョ、それ持てる?」

「だめです。目には見えますが、手が通り抜けます」

「……」

 

 どういうことだろう。

 確かに戦車道用に制作されているなら、積んでるのはとうぜん競技弾。

 しかもそんなものが目に見えるようになっているって事は……。

 

「もう整備済みで、ガスとアモをつんでる最中なんだろう」

「じゃあ、いよいよ動きだすかもしれませんね」

「それはどうかな……納品前のエンジンテストでもしてくれればいいんだが」

 

『おい、気をつけろ。

 たぶんそいつの進捗状況を「ボス」に伝えてる奴がいる』

「なんだって?」

 

 ゴキが、とーとつにそんなことを言い出した。

 何かに気がついたのか?

 

『話し声が聞こえた。2両だ。

 ことによっては俺よりやっかいかもしれん』

「話し声だって?」

「たぶん、連中の周波数でしょう。

 ゴキも同じ周波数で通信していたはずです」

 

 おそらく彼には複数周波数を同時に受信できるスキルがあるのかもしれない。

 もし、イロナの完成が間近と敵に知れたら……。

 

「つまり、すぐにもなりふり構わず攻撃してくるってことじゃないか!

 スパッド! 全車の指揮を執れ」

「ちょっとムリですよ!

 しかたない。全車オールウェポンズフリー! 以後は各車の判断で行動。

 レッツダンス!」

「丸投げかよっ!」

 

 

 

『やばいわねー。ゴキ公むこうについちゃってるしー』

『メアリー。あいつの方はどうなってる?』

『もう九分九厘完成ね。前に見たときは影なんかついてなかった』

『こっちからでは、よく見えないわ』

『わかった。1回ヤツらの車列に陽動射撃してから、標的に榴弾を連射する』

『うん。そうしたら10秒以内にPAWをぶつけてやるわ』

 

 

 

『うが!』

『痛っ!』

『きゃあ』

『ぼ、僕の影にかくれるんだな』

 

「何だいまのは! スパッド、答えろ」

「左側面10時方向から、中口径の砲弾の同時多発攻撃です」

「敵の数は?」

「わかりません」

 

 僕はざっと、イロナを含めた5両を見る。

 ダメージを受けたものはいないようだ。

 アイナは、とみるとハンスが巨体でかばっている。

 

「ハンス、大丈夫?」

『このくらいはどうということはないんだな』

 

 今度は前の方で大声で怒鳴ってるのがいる。

 

『おい貴様! 2両といったのはウソか!!』

 

 おねえちゃんがいきり立って、ゴキのケツに主砲を向けていた。

 

『ちがう。あれは機関砲だ! 5cmクラスのな』

 

 今度は対空戦車か。

 そのクラスの対空機関砲を装備するなら、車体は現用クラスのはず。

 でも、いくらさがしても、それらしいのはいない。

 

「ケーリアン、のわけないよな。

 あいつは試作車ができている」

 

 ドゥーチェにも心当たりがないらしい。

 その頃になってやっと「ズドドドド……」という、ハラに響く連射音が聞こえてきた。

 僕はあわててその方向をサーチする。

 

「いました。でも……」

「どうした。スパッド」

「あいつ、Ⅳ号より小さい」

 

 その上、なんかすごく単純な形をしてる。オモチャの戦車みたい。

 しかしそいつは今度は、イロナだけ狙って一連射かましてきた。

 イロナの側面に、多数の爆発の花が咲く。対空榴弾だ、炸薬量が多い。

 

「どうなってるんだ? 耳がバカに……」

 

 ちくしょう。幽霊の榴弾だから僕が破片で死んだりしないけど、

聴覚を完全に奪われた。コミュニケーションがとれない。

 

『目標補足。照準射撃』

 

 別方向から、また機関砲の連射!

 今度は右か!

 いまのより小口径だけど、30mmらしい機関砲の射撃がイロナの側面に当たる。

 大戦末期の重戦闘機用らしい。何のつもりだ。

 

『敵は軸線上にあり。マスターアーマメントスイッチ、アーム(安全装置解除)。

 アンよりメアリー、撃つわよ』

 

 

 

 

 

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