「屈強な男が装甲に守られて戦うのは卑怯」というのが当たり前の世界。
そして「(21世紀では)戦車にかかわるのは女性だけである」と断言されている。
(引用元:「アルティメットガイド」)
ところが、ある法理論をつかえば、正当防衛や緊急避難のような一時的な違法性阻却ではなく、恒久的に合法かつ正当に、男が戦車に乗れる場合が、原作世界のルールであっても存在してしまう。
(なお当然、原作では絶対に許されない)
Johnny Got "Her" Tank!
――そういえば、そういえば。
ものごころついたときから、おかしかった。
幼稚園では、なぜか女の子とばかり友だちになりたがった。
小学校では、少女マンガや少女文学、女の子ヒロインのテレビまんがばかり隠れてみていた。
中学校では、なんか詰襟制服に、なんとも名状しがたい、むずがゆさを感じていて、
着るのがつらかった。
髪の毛を、伸ばし始めたのも、このころからだった。
でも、ふしぎと誰からも、なにも言われなかった。両親を除いて。
僕が最高に「自分はおかしい」と感じたのは、中3の夏休み。
運動部とかやってなかった僕がたまたま、補習で学校に行ったときのこと。
むこうから、サッカー部の男子が数人、汗を拭き拭き談笑しながら歩いてきた。
僕は、不覚にも、その「男の子」たちにときめいてしまった。
胸が「きゅん」となったような気がした。
しっかりしろ僕! 相手は男だ。男なんだ。
でも、僕の胸の高鳴りはおさまるどころか、どんどんふくれあがり、
気がつくと僕は、そのなかで一番背が高く、さわやかな男子にみとれていた。
そして、さらにやっかいなことがつづく。
僕は、たびたびブティックの前へ行っては、
かわいらしい、フェミニンな服に見入っているのだ。
一方で、男性ファッションには、まるで興味ない。
ついつい女性雑誌があると、立ち読みしたくなる衝動が抑えきれない。
いっぽうで、いわゆる「18禁」は、近寄るのもいやだった。コンビニでも、
目を背けてとおりすぎるくらい、ものすごくいやだった。
しまいには、サッカー部男子への慕情は、ほぼストーキングレベルになってしまった……。
……僕はきっと、異性装の同性愛者なんだ。どうしたらいいんだ。
僕は、毎日苦悩の底に沈んだ。
もう、ひとりでかかえこんでいることはできそうもなかった……。
――そして僕は、すべてを両親に話した。
母はおろおろと泣き、父は怒り狂った。
だけど、事実は事実だ。なんといわれようと。
とうとう父は、ツクバー大学附属病院に、僕を連れていった。
父から話を聞いたメンタルヘルスの医師は、なにか首をかしげていた。
なぜか知らないけど、いろいろな科にまわされて、CTだの、心理検査だの、
細胞サンプルとられたり、裸にされていろいろ観察されたり。
体中断層撮影されたり。あ、それはCTでした。とにかくくどいくらいに。
あとは、どうやら統合失調症の検査らしいこともやられた。もちろん、WAIS-Ⅲとかも。
さらに、医師がいれかわりたちかわり、いろんな分野の質問をしていく。
自分の精神を裸にして、刑事に取り調べうけている気分にさえなった。
そして2週間後。
検査結果がでたから来なさい。ということで、僕と父は、病院にいきました。
「――山本 玲くん。こころして聞いてもらいたい。お父さんもね」
医師は深刻そうな表情を浮かべ、こう切り出した。
僕は、なんか背筋に冷たいものが走ったのを感じました。
「……まず、君は、いわゆる同性愛者ではない」
これは安心してよいのでしょうか。僕にはまだわかりません。
「そして、異性装の趣味とか、そういう「性癖」の持ち主でも、異常性欲者でもない……」
だったら、なんだというんでしょうか。
「君は、Gender Identity Disorder。性同一性障害。一次性で中核群だ」
……つまり、僕は「サ○ァイア姫」の逆ヴァージョン。ということですね。
ああ、すべてのなぞが解けてすっきりした。わけないでしょう!
これって、社会的死刑宣告じゃないですか。終了です。僕は終了です。
そういえば、股間にアレがぶら下がっているのが、一番いやです。
先生によると、「心のほうを身体の性に一致させる」という治療は、やるだけ無駄だそうです。
まるっきり絶望的です。
とりえる療法は、エストロゲン投与。性適合手術。
そして性同一性障害特例法による性別の取扱いの変更。
つまり、「法的」に女性になってしまうことでした。
ただ、いまだ成長期にある僕に、性適合手術をおこなうのはどうかという問題。
まして副作用がてんこ盛りのホルモン治療始めていいのかという問題。
へたすればまだ若いのに心筋梗塞や肝硬変で死んでしまうかもしれない。
だから、やれることといえば、戸籍上の性別を「女性」に変更して、あとは高校卒業まで
カウンセリングを受けつつしのぐ。
そのくらいということになります。時期としては、高校受験前がいいだろう。
ということになりました。
父はその晩、ウイスキー1本あけても酔えず、夜通し呆然としていました。
僕も、まったく寝られませんでした……。
カウンセリングに関しては、ツクバー大学まで通うのも大変だったので、
水戸のとなりにある町で開業している医師のところにいくことにしました。
その先生は、外科全般、産婦人科、歯科、眼科以外なら何でもござれな医師でした。
もっとも、本当に開業医でやっていく気があるのか、すごく微妙でした。
だって、その先生、医者の看板掲げてない、普通の家にいるんですから。
「問題はこれからだな。君は、共学校に進学して、女子生徒の中に混じり、男子生徒を見ていて
平気でいられるか?」
もうこれは即答です。
「むりです。無理です。ムリです」
女生徒の中に精神的半陰陽のアレつきとして混ざり、男子生徒にくらくらしてたら、
たぶん社会的な問題が起きます。というか僕が壊れます。きっとコウモリ扱いです。
暇人先生は、しばらく手をあごにあてて考え込んでいましたが、
「ああ、そうだ」と手を打ちました。
「今日は行かなければならないところがある。都合のいいことに、君は今日は女性の服装だ。
いっしょに来たまえ」
つまり、先生の主な仕事場(と、そのときは思っていました)である学校。
ただし、校医じゃなく産業医として勤めているところに連れて行かれるようです。
車と見ると、ポルシェのケイマン……。どういうひとなのでしょう。
僕にはほんとうにわかりません。
鹿島灘に浮かんでいる、茨城名物のフラットトップ。
学園都市艦「大洗女子学園」
僕と高橋先生は、古風なデザインのシャトルフェリーに乗って、そこへ向かいました。
「ふーん」
大洗女子学園の生徒会長室。
高等部1年からこの学校の生徒会長であるという「角谷杏」さんは、僕の脳みそのCT画像を
じっと見ています。何回も。
しかしこの人、高二なのに僕より年下といっても通りそうなほど、幼い外見しています。
「角谷はこんな見かけだが、彼女の中身は俺以上にオヤジだ」
え? どーゆーことですか。先生。
「まーねー」
そうあっさり認められると、どう反応すればいいのかわかりません。
(参考までに図で説明します)
「先生。これはアレですね。確かに分界条床核と間質核の第1核が、完全に小さい」
僕には、角谷さんが何を言っているのか、全く分かりません。
いまだに一人称が「僕」なのは、15年間必死になって、男であることを受け入れようと
努力していたせいです。これを「私」に変えるのは、やっぱり努力がいります。きっと。
「うむ。君ならそいつを見せれば、すぐ理解するだろうと思ってな」
「あのー。どういうことなんでしょうか?」
ふたりだけで理解し合わないでください。僕は、何も理解できていません。
角谷さんが説明してくれたのは、とんでもないことでした。
「はっきりいえば、男と女は、脳みそが違うんだ」
え? どゆことですか。
「いまいったでしょ。分界条床核と間質核の第1核というところが、男は女の1.4倍大きいんだ」
そんな違いがあるんですか?
「たとえば、某やらないかさんとか、あと、男の娘なんかでも、やっぱり脳みそ見れば
男なのよ。もちろんGID当事者を詐称してここに入ろうとしても、君がやったような検査で、
ほぼ確実に見やぶられる」
はあ、そうだったんですか。
「で、君は、脳みそから見れば、れっきとした女の子なんですよ。そして、もう聞いてると
思うけど、診断書出して手続きすれば、戸籍に女と記載することもできる」
はい、聞いてます。治療として認められてるんですよね。
「そんな君が、この大洗女子に出願して、試験に合格すれば、入学を拒否する理由は、
ないんですよ」
僕は聞き返しました。
「え? それっていまだアレがぶら下がっているままの僕でも、ここに通えるということで
しょうか?」
「ま、そういうことだね。だいだいナニがあったからって、君、女性にそういう意味での
危害加えられないでしょ?」
ナニ、とかいう言い方、昔のまんがでよく見たような気がします。
なぜかあのおどろおどろしい絵柄のまんがだけは、読めました。
というか会長。ざっくりしすぎです。本当にセクハラ親父みたいです。
それはともかく、これについては、僕の答えは明確です。
「同性としてしか見ることができないんですから、完全に無理。というか不可能です」
「で、男性にときめくと。たとえばそこにいる高橋のおじさまとか」
僕に視線を向けられた高橋先生は、たしかに一歩後ずさりしました。
「確かに君の場合、もう男に混じって体育とか受けたくないだろうし、女子だといいきって、
女の側に混じったら混じったで、実は異分子だから苦しいでしょ。しかも男女がいっしょに
いるところに居合わせれば、どちらでもあってどちらでもない君は、それだけで苦しむね。
どう考えても共学校は無理だ……。わかったよ、ここにこれるよう善処する」
角谷さんは内線電話で学園長のスケジュールを聞いています。
「高橋先生。学園長がいま来るっていってます。ふたりともしばらく待ってて」
電話を置いた角谷さんはそういうと、こんどは内線で「かーしま、コーヒー4つだ」と
命令しています。
学園長さんは、単に確認しに来ただけでした。
先生に説明受けて、「ああ、そう」といって、「別に問題はないから、頑張って合格してね」とおっしゃっただけでした。……ずいぶんさばけていますが、学園長といい、会長といい、
ここの校風なのかしら。
あとは高橋先生と、ずっとクルマの話をしていました。
高橋先生が大洗女子に産業医としてくるのは年に数回で、あとは自動車部のアドバイザーだということでした。
学園長はやたらと高橋先生とバトルしたがりますが、「まず、自動車部に勝ってください」と
しりぞけられています。
というか、チャレンジャーですわ。学園長。
とりあえず、総合女子校である大洗が、僕の受け入れ体制を作ってくれることがわかって
やっと安心できました。
母は複雑な表情を浮かべ、父は黙って駅前まで呑みに行ってしまいましたが。
そして、戸籍も変更し、住民票の性別も「女」になりまして、大洗女子に出願。
普通科はⅠ科からⅢ科までありますが、受験の成績で割り振るそうで、指定できません。
受験票が送られてきましたが。いっしょに角谷さんからの「待ってるよん」というメモが
同封されてきました。なぜかしら。GID当事者がいると学校が補助金でももらえるの?
2012年3月。
僕の受験番号がありました。合格です。
とりあえず男の子のいる学校に行くという、最大の危機は去りました。
……父はその晩、家に帰ってきませんでした。
母にこっそりお金を出してもらって、大洗女子の制服を作ってもらいました。
ただし、スカートの丈は、はやっている超ミニではなく、ひざが隠れるものです。
指定店では、僕一人しかいないので、特注になってしまいました。
あとはニーソの黒いの数本買いました。もっとも体質的に体毛薄いので、脱毛すればいいのですが、お金がまだありません。
そして、ついに僕が大洗艦に乗船する日。
父は「勝手に行け-。もうかえってくるな!」と言ったきり、部屋にこもって欠勤です。
女子寮に入れるのは問題あるのでは? ということらしく、艦上にある高橋先生の別荘に
住まうことになりました。(真相は、僕の考えと逆でした。あとでわかりました。)
女中でもやらされるのかと思っていたら「万能執事がいるからいい」だそうです。
しかしこれが別荘? 僕の家が4軒入りますわ。どうなっているのかしら。
そして、入学式の日。
なんか、ちらりちらりと見られてる気がするけど、気のせいよね。
僕、自意識過剰なのかしら。
まさか、やっぱり女に見えないとか……。
いや、僕よりごつい女生徒もいるから、それはない……と信じたいわ。
入学式でも、クラスのオリエンテーションでも、特に僕関連の話は出ません。
ということは、自力でごまかせということかしら。困ったわ。
僕のクラスは、普通Ⅰ科1年A組。
高橋先生によると、普通Ⅰ科のA組は、特進クラスだそうです。
ついていけるかしら……。
とりあえず、当座の目標は、絶対にめだたないこと。至上命令です。
まあ、僕は平凡な外見だから、痛いヘマやらなきゃ大丈夫……。
……と、思ってたら、向こうから数人のグループがやってくるではないですか。
ああ、初日から早速終わった。
「こんにちは」
――え? なんかみんなニコニコしてて、フレンドリーです。
「高等部から入学なのね。中等部にはいなかったね」
そんなこと、一発で分かるんですか? 中等部からいる人の結束強そうです。
「前は共学校だったの?」
「は、はい。僕はそうです」
つい、答えてしまった。大丈夫か僕。
「わー。僕っ子なんだ。山本さんって」
「なんかギャップ萌え」
「じゃあ、アキラくんって呼ぼうか」
「そーしよーか」
どうして、名前呼びに「くん」付けですか?
「中学では、モテたんでしょ?」
どーしてそうなるのかしら? 中学では女子に声かけられたこともないです。
「……い、いえ。全然です……はい」
「わー。見る目ないんだ。アキラくんのいた学校の男子」
は?
「だってかわいいもん」
え?
「髪の毛ロングにしてもサラサラでストレートでうらやましい」
それ、野郎の毛ですけど。一応シャンプー、リンス、コンディショナーは女性用のを部屋に
隠して(風呂に放置すると父が捨てるから)使ってましたけど……。
「まつげ長いな-。うらやましい」
「ホント色真っ白お」
いったい、なんなんでしょうか。なんか最悪とされる展開になりつつあるような気が……。
そうこうしているうちに、どんどん他の女生徒たちが集まってきます。
僕が何をしたというのかしら。おねがいやめてー。いじらないでーっ。
あ、ひとりだけ空見てぼーっとしてるのがいる。
つまりですね。男っ気のまったくない中学時代を過ごした彼女たちは、どうやっても中性的にしかみえない僕に対して好意的なもようです。必死にロン毛維持してるのに。
なんか、ただ廊下あるいているだけでも、にっこり笑って「こんにちわ」って言われるので、僕も表情筋総動員して、必死にかわいらしくみえそうな笑顔つくって、あいさつします。
お昼、学食で食べていても、なぜか知らない人たちから相席もとめられて、場合によっては
先輩方だったりするので、緊張でごはんの味がしません……。
……僕が普通に男だったら幸せなのかもしれませんが、こちとら脳みそが女ですから。
でも、好意的に扱われているうちが華なのだと思って、ひかえめ、謙虚に、あいそよく、
頑張ってます。とにかく、適合手術の許可が出るまでの辛抱です。
エストロゲン投与までいったら、女らしくなるでしょう。
というか、普通に男だったら、そもそもここにいないわけですが。
高校ですと主要五科目や必須科目の他に、ひとつだけ選択科目を選ばなければなりません。
オリエンテーション週間の最終日までに、生徒会まで提出です。これもなぜかしら。
それをもってインストールミーティングの期間が終わり、通常授業に移行します。
しかし、何なのでしょうか。この科目。
――茶道、華道、書道はフツーでしょう。香道、弓道もいいでしょう。合気道や薙刀もありでしょう。江戸時代風に「長刀道」とありますが、きっと龍馬が好きなんでしょう。
しかしだ、仙道とか忍道とか、なにやらすんでしょうか。講師できる人いるのかしら。
でも、これらはまだかわいいわ。
一番上にでっかく書いてある「戦車道」ってなんですかー!
もちろん、知らないわけではないです。
でも、オリエンテーションでもやってましたが、あんな軍隊調かつ体育会で、闘争本能丸出しの武道がなぜ「乙女のたしなみ」なんでしょうか。
これまでの生涯で、一度たりともやりたいと思ったことはありません。
そういえば、あの、生徒会総動員のオリエンテーションもおかしいです。
戦車道にはごほうび奮発。って説明しただけで、他の科目スルーですから。
……というわけで、とりあえず戦車道は、なし。
と思って、どれにしようかな。と考えていたら、前から、このクラスの全くしゃべらない子、丸山沙希ちゃんが僕の脇をとおりすぎまし……いきなりうしろから、僕のセーラーの襟をつかんで、細い子に似合わない馬鹿力で、僕を引きずっていきます。
もともとセーラーの襟は、そういう用途ですが。じゃなくて、離してー。
引きずって行かれた先は、生徒会長室でした。
丸山沙希ちゃんは、無表情で無言のままドアを開けて、僕を中に放り込んで、自分はドアを
閉めて、帰って行きました。
「やーやーやー。山本玲くん。なんかモテモテなんだってねー。ごちそうさま」
声の主は、当然この部屋の主。僕の秘密を知る数少ない人物。角谷杏大統領でした。
「私みたいに中年になると、若い女の子には全然縁がなくってさー」
「だからといって、若いうちに遊んでばかりいたら、あの人社長になってないです!」
大統領は、ふーっとため息をつくと、バリバリ唐突な話を始めました。
「いやー。困ってるんだよ。戦車道履修希望者がぜんぜんいなくて」
それは、僕にする話ではないです。
「会長。大きな声では言えませんが、僕はまだ一応男です」
「でも君は、社会的法的には女性だよ。でなかったらその服着ている時点で変態だし」
うぐぐ、たしかにそうですけど。
「でも、男は戦車に乗ってはいけないと言うことは、国際的な不文律で……」
「たしかに学校でもそう教える。だが、君は女だ。戦車道やってなにがわるい?」
ですから僕は男です。と言おうとしたら、機先を制されました。
「都合のいいときだけ男にならないように。
……それにこのままでは、君がGID当事者だと公表しなくてはならなくなる」
どういうことですか? それ。
「たとえば体育だ。君、着替え中にポロリが起きたらどうする? 終了だぞ。それに体育には
水泳だってあるんだ。君、スクール水着着れる?」
あっ、そういうことですか。考えても見なかったわ。とくにスク水は終了だわ。
「で、戦車道だが。説明したとおり、通常の3倍の単位が取れる。
つまり主要五科目以外の、必須科目2つを受講しなくていいということだよ。
戦車道はとうぜん3コマだから、他の教科にかぶるけど、そのときはオミットした2科目の
時間を利用して、他のクラスの授業を聴講していいという許可を学園長からもらっている」
……ああ、ここに僕の進退はきわまったようです。
「それに悪いことばかりじゃない。考えようによっては、男が合法正当に戦車に乗れると
いうことだ。念のために君の学籍簿を連盟に閲覧させて回答を求めた」
それで、どうなりましたか。
「特別法は一般法に優先する。と言ってきた。つまり君の場合、性別関連の一般法は民法だが、
性同一性障害特例法という特別法が適用されて、そっちが優先になる。自然人としての性別は
男だが、特例法上の性別は、女だ。だから連盟も、君が戦車に乗るのを止められないんだ」
なんという落とし穴!
「つまり君は、戦車に乗るしかこの学校にいる方法がないんだ。遺憾ながら」
角谷会長にいつものふてぶてしさは全くなく、恐ろしく真剣な顔をしていました……。
戦車道授業の初日。
僕は、またまた丸山ちゃんに襟つかまれて、戦車倉庫の前までひきずられてきました。
「あ、アキラくんだー!」
そういって僕たちに近づいてくるのは、僕も知ってる1年生5人。
澤さん。大野さん。山郷さん。阪口さん。宇津木さん。
「沙希。グッジョブ」
「よく連れてこれたねー。絶対戦車はいや。っていってたもんね。アキラくん」
「これからよろしくねー」
「みんなで同じ戦車乗ろうね」
いやいやいやいや。7人も乗れる戦車なんかありますか?
「おう。貴様がうわさの山本玲か」
なんか異様な風体の先輩4人が近づいてきます。こわいですう。
というか人畜無害で平凡な僕の「うわさ」って何かしら。でも、怖くて聞けませんですう。
「あ、アキラくんだー。戦車道取ったんだね」
これはバレー部。いや元バレー部の制服を着た1年生たち。
というか、入部と同時に潰れちゃったのね。
これはあれでしょ。大統領が「いい成績を収めたら部の復活も考慮する」なんて言って
説得したんでしょうね。僕の時と同じだわ。きっと。
そして、3人の2年生の先輩たち。なんかこっちみて笑ってます。
何を話してるのか、考えるだけでこわいです。
そして、倉庫の中には、ながいこと放置されていたみたいな戦車が1台。
――こうして、僕は運命の渦にいやおうなく巻き込まれていったのでした……。