僕の曾祖父は山本強志。旧陸軍の戦闘機乗り。兵隊上がりの陸軍少佐。
二式双発戦闘機「屠龍」に乗っていたが「B公」が高高度ばかり飛ぶので、むしゃくしゃして
単発戦闘機のヘルキャットを双発でいたぶっていた猛者。比島で教育飛行隊の隊長を務めていたが、部隊が全滅。はい、僕は富永さんが嫌いです。
祖父は晟。父親の影響で空自入り。
「旭光」や「栄光」に乗った。もっぱらアグレッサー(敵役)ばかりやっていたベテランで、
「栄光」でF-4やイーグルをさんざんカモにした。「勇猛果敢 支離滅裂」の具現者。
乗機には必ず金髪美人とドクロのノーズアートを描いた。存命。古式銃の収集家。
父は明。空も飛びたいが鉄砲も撃ちたいといいう理由で、厳しい選抜をくぐり抜けて
空挺団に入った。
小隊長になったときから搭乗するヘリに「日本鬼子」のノーズアートを描かせた。
今は偉くなったので現場にはいない。
「用意周到、動脈硬化」を絵に描いたような人間で、僕を精強な軍人に育てるべく、幼児期から
スパルタ英才教育を施した。小学校の時には少年野球チームに入れた。休みは猛勉猛特訓。
……だから僕が、性同一性障害だとわかったときの嘆きようはなかった。
男社会に入れるかっつーの。
そしていま、大洗で僕が戦車に乗ることになって……
……喜ぶどころか、いっそう荒れ狂った。
「女の乗るようなものに乗る軟弱な男なぞ赦せん!」だってさ。もうどうでもいいけど。
そしてどいつもこいつも髭が濃い。
サンタクロースみたいな髭の曾祖父なんか、アルプスの山小屋にでもいた方が似合ってる。
母にいわせると僕は、直系尊属連中よりも大叔父、つまりじいさんの弟に似てるって。
トップクラスの学者だそうだ。
そして僕と、1年生女子6人は、学校の図書館にいる。
図書室じゃなくって。図書館。
すごくおっきい。県立図書館ぐらい。学園艦はみんなこうなのかなあ。
「使ってた、戦車の記録あった?」
「戦車のせの字もないよ」
「うちの学校が戦車道やめた時期からさっぱり」
「なーんで突然戦車道やめちゃったのかなあ?」
「やっぱ、人気なくなったんでしょう。むかしっぽいから」
「そっかあー」
昔っぽくて、女の子の心の琴線にふれない。っていうのは同意。
戦車倉庫にあったボロっちい戦車見たときは、むしろおぞましさすら感じた。
人間にあれが向かっていく様は、さながら昔ばなしの怪物と人間の対決そのものだろう。
悪役の方がにあいそうなほど、ぶさいくだったし。
男があれに乗って、自分は安全なところにいて、敵兵を一方的に倒すことは、卑怯のそしりを
受けてもしかたないだろう。と、実物を見て思った。だから女が男から戦車を取り上げたんだ。
「ねえ、アキラ君はどう? 何かめぼしいものありそう?」
この子は、この集団のリーダー格の、澤梓ちゃん。
「うーん。そうねえ。……ここより、生徒会室の方が手がかりあるんじゃないかなあ」
そう、僕らは戦車をさがしています。
ことの発端は、戦車道の最初の授業で、戦車倉庫に戦車が1輌しかなかったことだった。
戦車が何輌必要なのか、という話になったときに、生徒会三人衆がこんなことを話していた。
「えっとお、この人数だったら」
これはポニーテールの副会長。小山柚子さん。
「全部で、5両必要です」
これは、怜悧そうな印象の広報担当。河嶋桃さん。なぜか片眼鏡。
そして、
「――んじゃ、みんなで戦車さがそうか」
……という角谷大統領の鶴の一声で、すべてが決まりました。
「我が校においては、何年も前に、戦車道は廃止になっている。だが、当時使用していた戦車が
どこかにあるはずだ。いや、必ずある。あさって、戦車道の教官がおみえになるので、
それまでに、のこりの4両を見つけ出すこと」
河嶋さんが、僕らの方を向いてそう命じました。
「して、いったいどこに」
という問いに対して、会長は、
「いやー。それがわかんないからさがすの」
と、笑っておっしゃいました……。
その後、まともな方の2年生部隊が、森の中で1輌発見。
なんか、においで探し当てたとか……。
まともそうに見えただけで、やっぱりこわい人たちなんでしょうか?
その過程で、1人増殖したみたい。
そして、見るからにまともでない方の2年生部隊が、池の中に潜水して1輌発見。
昨年は「忍道」をとっていたらしく、水遁の術と「水蜘蛛」をつかったとか。
……いやいや、アレは本当は大雪の時につかう忍具って聞いていたけど。
元バレー部隊は、なんとガケを根性でよじのぼって、そこのえぐれた部分で1輌発見。
だんだん頭が痛くなってきた。
別にガケの途中にあったこと自体はおかしくないの。
自動車部は、民生車両であれば、持ってないものはない。
ビル建築にも使う、ブームを何十メートルものばせるクレーン車もあると言うだけの話です。
そして僕たちは、生物部のウサギの飼育係が「ウサギのゲージに、なんかデカい物が鎮座して困っている」というのを聞いて、行くことにした。
ウサギのゲージは、なぜか甲板下の暗い区画にありました。
でも、しっかりウサギがいた。
こんな暗くて、しかもなんだかわけのわからない巨大物体があるところで、平気なのかしら。
ん? 巨大物体?
これを、僕が知っているかぎりで「戦車」と呼ぶのは抵抗があるけど、ぶきみなそれは、
まぎれもなく戦車だった。
こうして、戦車倉庫の前に、5両の戦車がそろい踏みしました。
もちろん角谷大統領は、捜索に参加なんかしていませんね。干し芋食っていただけ。
元々あったのが、旧ドイツのⅣ号戦車D型。
2年A組主体のチームが発見したのが、旧チェコスロバキアの38(t)戦車C/D型。
元バレー部が発掘したのが、旧陸軍の八九式中戦車甲型。
歴コスチームが釣り上げたのが、旧ドイツのⅢ号突撃砲F型。
そして、僕たちが拾ってきたのが、アメリカのM3中戦車リー。
……というけど、僕には何がどう違うのかわかんないしー。
ただ、どれもこれも不格好だ。
同じ年代でも、クラシックカーなら、買う人の感性に訴えなきゃなんない分、今見ても
独特の美しさがあるけど、こいつらだめ。女の子的に、進んで乗る気はしない。
これじゃ、たしかに履修希望者がこれだけしかいないの、納得だわ。
戦車道の全面バックアップを依頼された自動車部も、食指が動かないだろうなあ。
小山さんが、大統領に乗車割りどうするか聞いている。
角谷会長の答えは「見つけたもんが見つけた戦車乗ればいいんじゃない?」というアバウトな
ものだった。
僕だって「そんなことでいいんですか!」と、いいたい。
でも、僕たちにとっては結果オーライだった。
この世に本当に、7人も乗れる戦車があったんだから。
ただ、A組他が見つけてきたのは、生徒会ドロンジョチームが乗ることになった。
ドロンジョ様が子どもっぽすぎるけど、どうせ中身ははるかに悪賢いんだから別にいい。
というわけで、河嶋さんの命名により、
2年A組他チームが、AチームでⅣ号。
元バレー部が、Bチームで八九式。
歴コス隊が、CチームでⅢ突。
僕たちが、Dチームでリー。
生徒会が、Eチームで38(t)。となった。
AチームとEチームが、各1名欠員。僕がいなかったらDチームもそうだった。
しかし、1年生から3年生まで混成授業なんだ。
生徒数1万8千の大規模校から、過疎地の学校に来たような錯覚を覚えるね。
搭乗割りが決まった各チームでは、てんでに自分たちの戦車をながめて、
思うところを語っている。
歴コスチームは、なぜかアラスカの方に向かって、フィンランドに謝っている。
元バレー部は、強力なアタックが打てるなんていっている。
そして、僕たち1年生チームはといえば。
「大砲が2本あるね」
「おっきくて強そう」
うーん。僕には分からないわ。
だって、どれを見ても、何がどう違うのか理解できないもん。
というか、昨日、Ⅳ号というぼろぼろの戦車を見たときには感じなかったものを
今は感じる……。
どいつもこいつも、大砲の砲身を天に向けて突きだしてる~。
なんか、おぞましい。フロイト的な意味で。
Ⅳ号は砲身が短いから、そう思わなかったけど。
なんか堂々と、これみよがしにさらけ出してるとしか思えない。
ファリシズムだ。ファリシズムのシンボルだー。よくみんな平気だわ。
僕は戦車が正視できないわ。いやらしい……。
と、思うのは僕がGID当事者だからかも知れないし。彼女らが男性的なのかもしれない。
まあ、わかっていたことではあるけど、それはおいておいて。
7人乗りというのは、どういうものかしら。
つまり、大砲が2つあるから、そんだけ人数がいるってことでしょ。
有利なのか、不利なのか、まったくわからない。
会長に聞いてみると「それわかるの、西住ちゃんだけだね」とおっしゃいました。
西住みほさんは、いかにも女の子している人です。
戦車のある風景より、少女まんがのラブコメの中にいる方が似合いそうです。
ぬえの僕としてはうらやましい。
西住さんは、「うーん、わかるかどうか自信ないけど」といいながら説明を試みます。
基本的に、戦車には大砲を2門(と数えることは知ってました)そなえるメリットは、
全くないそうです。
それは、車体が大きくなってしまって、装甲にさける重量が減ること。
指揮者が1人しかいないから、同時に両方の指揮はできないこと。
砲手は自分で索敵できないから、指示受けてやっと大砲をそっちに向けることができる。
エンジンが同じなら、遅くなること。
だったら、2門の大砲をあわせたのと同じ重量の、1門の大砲を積んだ方が
いまあげた欠点が全部解消されて、乗員も少なく、戦闘力が上がること。
とくにリーの場合、強い方の75mmが前方にしか向けられず、不利なこと。
「それでも、多砲塔戦車としては、使える方なんだよ」
そう西住さんは言いました。
ロシアが多砲塔大好きで、いっぱい作ったけど、どれもこれもうすのろで、知恵の回りかねる
大男そのもので、強い主砲1つだけ積んだ戦車に太刀打ちできず、パレード用戦車だとか。
リーは、装甲はそこそこで、ちゃんと走ってこわれないだけいいって。
「それに、戦車対戦車で、だけじゃないけど、大事なのはファーストルック、ファーストキル。
つまり、目の数の多さをどう使うかで違ってくるよ。
先に見つけて、こっそり忍び寄って、一発で倒すのが、すべての戦いの基本だよ。
これができれば、力が弱くても、強い相手を倒せるの」
なんか、父からも同じようなことを聞いたような気がする。
大事なのは、悟られずに近寄る技術、地形を利用する技術、すぐれた索敵能力。
西住さんは、君が何になるかはわからないけど、とことわってから
「いちばん大事で、いちばん大変なのは装填手」といいました。
乗員が実際に倒されてしまう戦争ではなおさらだとか。
そしてこの日はここまででした。
河嶋さんが、明日は戦車たちの清掃をやるといって、解散になりました。
私服に着替えた僕は、「せんしゃ倶楽部」というお店に行った。
それは、高橋先生が「戦車道のパンツァージャケットといえばミニスカートが定番だぞ」と
言ったからでした。
いくらなんでも無理なので、この店に行って既製品を買ったらどうかと。
自分でもそう思う。現用品がいいんじゃないかなあ。動きやすく難燃性だし。
結局、サイズ的に自衛隊の現用品の放出ものが合いそう。
ヘルメットは、現用品はレシーバー込みなので、古い方。
日焼けすると悲惨なことになる僕としては、長袖必須。
現用ユニフォームはとうぜん女性用だから、胸にスペースがある。
これは、やっぱりブラにパンストでも詰めろってことだね。
なんて考えていると、見たような人たちがいた。
西住さんたちだ。
ミディアムロングの人が「めざせ! モテ道」とかいって、ロングストレートの人にたしなめ
られてる。なんか戦車が似合いそうな人は、くせ毛の人しかいないような気がします。
店内のテレビでは、スポーツニュースを流しています。
戦車道の有名選手から、インタビューが採れたとか。
そこに写っていたのは、西住まほ選手とか言う人。
あれ? 西住?
そういえば、テレビの真下に西住さんがいる。
同じ「西住」姓でも、テレビに映っている人は全然違う。
なんか近寄りがたくて、怖そうだ。
意志の強そうな目、自信にあふれた話し方、まとっている険しい雰囲気。
まったく「ここにいる」西住さんとは似ていない。
あのひとには、とても気楽に話しかけられそうもない。
あっちは熊本みたいだし、たぶん無関係なんだろうな。
帰ってくると、先生はなにか必死に作業中。
サーバー機と思える大きなコンピューターで、何かのシミュレーターを構築、いや、改編しているらしい。
というわけで、今日の食事は、万能執事さんが僕の分だけ作ってくれた。
「お嬢様」と呼ばれるのがこそばゆいです。もちろん知ってるくせに。
アフタードリンクは、一見フツーのトマトジュース。カットレモンがささっている。
でも、万能執事さんが、既製品をただ出すようなことはしない。
「ベースのトマトジュースは、クラトーのシーフードエキス入りです。それに岩塩少々、
タバスコ1ダッシュ、少しだけジンを入れて、ミキシンググラスでまぜたものです」
「あのー、時田さん。それって「ブラディサム」じゃないかしら……。僕未成年です。」
「だから、度数1%未満になるようにいたしました」
やっぱりこの人、そつがないわ。
(図で説明します)
そして、次の日。
僕らは戦車を中も外も清掃中。
歴コスチームは、戦車を水攻めにしている。
ロングヘアーさんが、ずぶぬれになってる。
僕たちはというと……。
「もうびしょ濡れ~」
「恵みの雨じゃー」
「ブラ透けちゃうよー」
と、大騒ぎ。スパッツはいてるのは僕だけ。あとはみんなブルマ。
そーいえば、この学校って、ありふれたセーラー服で、体操着は廃れつつあるブルマ。
もはや何かの悪意すら感じる。この時代によくみんな平気だわ。
「今日は戦車を洗車するといっていただろう」
「うまいねー。座布団1枚」
「そういう意味で言ったのではありません」
「それよりちょっとは手伝ってくださいよー」
これは生徒会。
会長と河嶋さんは、制服のまま。ちっともやる気ないらしい。
小山さんは、やる気がありすぎるのか、この場では誰得な小ぶりのビキニ。
誰かに盗撮されたらどうするんですか? 大洗女子屈指のグラマーなんだから。
そして、小山さんがふらふらになったころ、サビ落としやら注油やらも含めて、やっと終了。
なんか明日は、自衛隊からの派遣教官殿が来ると言っている。
そして、なぜか結婚願望の強い先輩がうきうきしている。
なにかかんちがいしてるのミエミエだねえ
だって、戦車には女しか乗れないんだから。
そして解散。すすだらけなのでシャワーを浴びないと帰れない。
しまった!
もしかしてここで終了かしら……。
と、思ったら大統領がこっち注目ー、といいました。
「大事なことを一つ言い忘れていた。山本玲のことだ」
な、何を言い出すんですか。待ってくださいよ。
「実は彼女はね、小学校に上がるまで何回も大手術を受けて、やっと助かったという過去がある。
高橋先生のところに下宿しているのも、いつ何があるか分からないから。
だから、いまでも体には大きな傷がある。
そのため、必要があるときは特別に、生徒会専用浴室の使用を認めることにした。
……山本、わかったら行ってきて」
はあ、助かった。というか、会長ありがとうございます。
なんか、みんなの同情を帯びた視線は、しかたないとしましょう。
それよりとんでもない事情を抱えてるんだから……。