6月22日に始まったベルベデーレ攻略戦で、第34師団の先鋒を命じられた第442連隊戦闘団。
しかし第100歩兵大隊をうとましく思う連隊長以下初陣組は、わざと第100を予備兵力に指定して、僕たち抜きで進撃した。そして……
6月24日に第442の連隊本部から送られてきた戦況報告を見たライダー師団長は、師団本部を最前線により近い、確保済みとなっている街まで前進させることにした。
最前線まで司令部を進めるのは、猛将ライダーの常である。
師団本部はいつものように、弾の飛んでくる最前線に向かって移動する。
しかし、占領済みのはずの街に着いたとたん、師団本部はドイツ軍の歓迎を受ける。
ライダー少将の乗ったジープは、8.8cmロケランの直撃を受け、前席の運転手と副官は即死。
少将自身もジープから投げ出された。少将の鉄兜は爆風で飛んで行ってしまった。
報告が誤りだったことを悟ったライダー少将は師団本部に戦闘しつつ後退を命じたが、少将自身も含めてほうほうの体で逃げるのがやっとであり、いつのまにか少将はたった一人で銃弾に追われながら必死に逃げていた。
間一髪でドイツ軍のあぎとから逃げおおせた少将が出会った味方が、僕たち第100だった。
まさか第100が今度は仲間からいらん子扱いされているとは知るよしもないライダー少将は、シングルス大隊長にボロボロの格好のまま詰め寄って、「こんなところで何していやがった!」とどなりつけた。
「そうか、ペンスの奴がそこまで狭量だとは思わなかった」
「実は我が大隊も、連隊本部とは連絡が取れんのです。
第522砲兵大隊も、昨日からずっと本部を呼び続けていますが……」
シングルス大隊長から事の次第を聞いたライダー少将は、ただ呆れるばかりだった。
「ペンスはおそらく自分の連隊の状況も把握しとらんな。
下手をすれば第2、第3大隊は敵に包囲され、じりじりと圧迫されているかもしれん。
部隊間通信さえ途絶しているとなれば、応戦するだけで手一杯なのだろう。
しかし、新兵集団に荷が重い任務を与えた俺も俺だが、ペンスがメンツにこだわって、こんなバカな真似をするとはな。おかげで俺はこのざまだ!
──ゴードン・シングルス中佐!」
少将から官姓名で呼ばれた大隊長は、反射的に直立不動の姿勢を取った。
少将も彼の正面に立って、命令をくだす。
「現時刻をもってこれまでの連隊命令は無効とする。本職の職権で第100歩兵大隊に命じる。
可及的速やかに第442連隊戦闘団を救援せよ。作戦は貴隊に任せる。
また必要と思われる措置は、本職の責任においてすべて認める。
つまりだ、シングルス。
──このヘマの片をつけてこい! わかるな?」
やがて、散り散りになっていた師団本部要員が、ライダー少将と同じように第100をめざして集まってきた。師団本部を立て直したライダー少将は彼らとともにいったん前線を離れる。
シングルス大隊長や大隊の主な面子は、当然のようにいっせいにヤングを見るが、そのヤングはテーブルの上に広げたベルベデーレ周辺の戦術地図をじっと見つめて、そして顔を上げる。
「通信小隊!」
ヤングは大隊直属の通信隊の兵を呼んで、第522砲兵大隊と通信を命じた。
その第522砲兵大隊も連隊本部と連絡が取れず、砲戦準備完了のまま何もできずにいた。
ヤングは地図を持って、通信小隊の大型無線機の方に向かう。大隊長たちも黙ってヤングの後を追った。
「ゴードン、第522砲兵大隊に我々の指揮権に従うよう交渉してください。
現在、連隊本部は機能しておりません。
であれば第1大隊である我々が部隊を掌握するしかないです」
ヤングは例の一件以後、「俺のことはゴードンでかまわん」と大隊長に言われている。
第100と第522砲兵大隊の間の通信はつながった。いつでも話ができる。
「ヤング、それはかまわんが、貴官は何をするつもりだ?」
「第522砲兵大隊にはグラスホッパー観測機が2機あります。
今は敵の航空隊も行動していませんから、その2機に戦場上空を飛んでもらいます。
第2、第3大隊のおおよその展開も、敵の展開も地図から読めますが、兵力の詳細が知りたいのです。もちろん両大隊の残存兵力も」
「地図から読めるだってぇ?」
ヤングは2つの大隊の位置を推測している。
両大隊は「戦場の霧」は初体験だ。おそらく敵の擬態にあって分散させられ、それぞれ別個に包囲されている。あっさり全滅するほどヤワな連中じゃないが、熾烈な経験ばかり積んで古強者と化した第100ほどしたたかでもない。
いま助けなければ、そう長くはもたない。
この戦場に展開できる敵の戦力も連隊規模。だから数的には不利だ。
だから両大隊は戦いやすく攻めにくい地形によってなんとか戦っている状態とヤングは見た。
ヤングは地図を広げ、中隊単位での配置を鉛筆で地図に書きはじめ、地図をみるみる書き込みでいっぱいにした。
「これを実際に確認してもらうのです。だから飛行経路も私が指示します」
その地図を、今度はタカハシやフクダら、中隊長たちが見ている。
ヤングの推測に疑問は全く持っていない。これからどう機動するべきか考えているのだ。
シングルス大隊長ももとが後方支援屋だから、攻撃準備までは実にてきぱきと指図している。
攻勢開始後は、また例によって先頭に立って突撃将校に徹するのだろう。
勇将の下に弱卒はなしというが、第100は逆に強兵だらけだから指揮官は勇敢になるしかないということを、今までの人生経験から大隊長は良くわかっているのだろう。
第442の初陣は、初めからつまずいていた。
第100を「連隊内いらん子大隊」にしたのはもちろん、第100側からの進言にも耳を一切貸さず、ペンス大佐以下連隊本部で作戦を立てて出撃してしまった。
これは大佐が満州事変から長期間、中国国民党と日本軍が戦っていた時期に蒋介石政府に駐在武官として派遣されていたため、日本通であると周囲も自分も思っていたことから起きている。
彼は間違っていた。僕たちは日本兵ではなくアメリカ兵、本当に自分たちの未来と家族たちを守るために、国の反対を押し切って戦場に命をかけている者だと言うことをわかってなかった。
そして第442が精強であっても新兵なのだと言うことを無視していた。
普通の新品連隊の初陣なら、最初の段階で格の違いがわかって逃げてきただろうし、そもそも攻勢の先鋒に立ったりはしない。ライダー少将だって、第100が先陣を切ると期待して第442に先鋒を任せたのだ。
しかし第442はルーキーではあっても弱兵ではない。ために事態は統制も通信も崩壊しながら2日間も互角の戦いが続くという、奇妙なものになった。ドイツ軍も明らかにぽっと出の連中が、意外にも頑強なので驚いているだろう。
だが、当の第442は第100の初陣が比較にならない損害を出していた。
第2大隊は作戦のミスと通信不備で敵陣に引きずり込まれ、F(第2)中隊が壊滅していた。
E中隊のダンは「第100がいてくれれば、とっくにこの戦いは終わっている」と思った。
第3大隊のK(第2)中隊は、中隊本部に重砲の直撃を食らった。
中隊本部は一瞬で中隊長を残して全滅。ポーランド移民の中隊長は日頃から「棺桶行きだぞ」「逃げる奴は俺が撃つ」を連発するような豪放そうな人物だったが、すっかりおびえて地べたに座り込み、兵士たちに支えられながらやっとその場を去った。
ベルデベーレの攻略どころか、自分たちが持ちこたえるので精一杯だった。
その中でも、初陣の日系二世はなお勇猛さを見せる。キヨシ・ムラナガ上等兵は迫撃砲1門でドイツ軍の攻勢に立ち向かい、自身も戦死したがドイツ軍を押し返した。
「よし、行くぞ。
ドイツ軍と442に、GO FOR BROKEってものを教育してやろう」
情勢を確認した第100の幹部将校たちは、即座に作戦をまとめ上げた。
ヤングが作戦案を説明する。
「我々は第2、第3大隊の中間の敵兵力が薄いギャップを突破し、一足飛びにベルデベーレを陥とし、そのまま背を向けているドイツ軍を突き、これを蹂躙します」
どちらかの大隊に合流したり、挟撃をはかるのではなく敵中を突破し、後方拠点を陥として一気に敵を瓦解させようというのだ。
ドイツ装甲部隊の十八番の電撃戦を、歩兵でやろうということだ。
第100は、直ちに出撃する。
フル装備状態での8時間連続行軍で、平均時速6km近いスピードを出し続けられる第100は、わずか1時間でベルデベーレ北の高地まで進出、そこからは第2、第3大隊を攻撃している敵軍が背中を向けているのが見える。
「第522砲兵大隊に支援砲撃を要請。試射なし。いきなり効力射でいいです。
彼らの練度なら、初弾から命中します」
「よし。通信小隊、支援砲撃要請。最初から効力射!
射撃時間は15分」
ほどなくやはり通常より短い間隔で撃ち出される野砲の砲弾が、ドイツ軍の後方部隊に襲いかかる。確かに試射の必要はないくらい正確に、彼らの砲撃は指示された座標に落ちてくる。
その間に、皆が小銃に着剣、機銃部隊や重火器小隊は逃げる敵を追撃できる場所に陣取った。
大混乱の敵に一気に肉薄し、銃剣突撃で突き崩す。
アメリカ軍でこれができるのは、おそらく僕たちだけ。
15分間の猛砲撃が終わる前に、第100のライフルマンたちは将校どもを先頭に銃剣を並べて「GO FOR BROKE!」の大合唱とともに突撃した。
一か八か、当たって砕けろと。
ドイツ軍は何が起きているのかもわからないまま、陣地を後ろから襲われ、パニックを起こして逃げ惑う。しかし下がるべきベルデベーレの街は、第100の重火器部隊に押さえられ、街に逃げようとした敵は叩き伏せられる。
いつのまにか守るべき街を陥とされ、前と後ろに敵を抱えたまま寸断されたドイツ軍は瓦解して、散り散りに逃げ去っていった。
敵の戦死者80人以上、捕虜65名、鹵獲兵器、車両多数。第100の損害は死者4名、負傷7名。
2日かけて陥とせなかったベルデベーレを、第100はわずか3時間で攻め取った。
この戦いで、第100は大統領感状を受けることになった。
あのローズヴェルトが、ずいぶん奮発したものだ。
陸軍総司令部にせっつかれて、いやいや認めたのだろう。
そして第5軍司令クラーク中将が、大統領感状と大隊旗につける青いリボン、そしてヤング、アカホシ、コバシガワの3人の特別勲功十字章を授与するために、自ら第442にやってきた。
中将は手ずからシングルス大隊長に感状を授与し、大隊旗にペナントリボンを結びつけた。
そのあと、壇上にヤング、アカホシ、コバシガワの3人が上げられ、クラーク中将が彼らの軍服の胸に直接勲章をつけていく。
彼は一人一人に言葉をかけながら勲章を授与したが、ヤングにはこう言った。
「貴官の知謀は、全軍の範とすべきものと考える。
貴官がこれからも日系二世を代表して、多大な勲功を挙げるものと期待している」
やっぱりこのとき、僕たちは凍り付いた。
だれもヤングが韓国系だということを知らないのだ。
しかし、……
「サー・イエス・サー、閣下。
小官はこれからも微力を尽くす所存であります」
ヤングの返事はそれだけだった。彼は今回も訂正することはなかった。
結果、クラーク中将はヤングも日系二世と思っていたままだったという。
もっともこれは別に中将に限ったことではなかった。
クラーク司令はヤングの階級章が、以前シルバースターを授与したときの中尉のままだったのを見とがめると、副官の大尉の階級章を取って、ヤングに与えた。
そしてこの戦いの結果、連隊長ペンス大佐は自分の誤りを素直に認め、その後は第100を中核として戦いに臨むようになる。
なお、このときの第442が奮戦したことは、キヨシ・ムラナガ(戦死)、ウイリアム・ナカムラ(戦死)、フランク・オノ(生存)の3名が特別勲功十字章を受勲したことでわかるだろう。
部隊内部の不協和音を一掃し、すべて第100直伝の戦法をマスターした第442は、第5軍の先陣を切って次なる目標地、大港湾都市レグホーンを目指す。
第100、第2、第3大隊はつかず離れずの距離を保ちながら並進してチェチナ川をそろって渡河し、第2大隊が「リトル・カッシーノ」「狂人の丘」と呼んだ140高地のドイツ軍と激突する。
しかし彼らも初陣のころの彼らではなかった。第2大隊は第522砲兵大隊にすぐさま支援を要請し、36門の105mm砲のつるべ打ちを味方につけて前進する。
そのなかで、隠ぺいされた電気ノコギリが突然火を噴き、誰かが倒される。
普通の部隊なら皆先を争って隠れ、ただすくんでいるだけのところだが、第442では撃たれた兵士は斃れながらも必死の形相で機銃座を指さし、とっさに伏せた残りの者が日系部隊の十八番の匍匐前進でいっせいに機銃座に這い寄って、「BANZAI!」と叫びながら銃剣で機銃手たちを串刺しにする。いつしかこの戦いぶりは「バンザイ・チャージ」と呼ばれるようになる。
そして、第2大隊と言えば……
「おい、お前ら。死にたくなければ俺についてくるなよっ!」
「はい、ついて行きません!」
言わずと知れたダンである。
ダンは野生の勘でノコギリが撃つ前にひらりと身をかわし、銃座に向かって真っ直ぐ突っ込んでいく。しかし狙い澄ました敵のMG42の連射はかすりもしない。
ダンは顔と体を正面に向けながら、何と斜めにジグザグに走って火線を避けるのだ。伏せる、飛ぶも織り交ぜて。いや、ムーンウォークさえも平気でこなす。
そしてその隙に彼の分隊員たちが機銃座を制圧する。
そのダンが、ずっと遠くに何かを見つけ、スコープ付きの愛銃をかまえ、一発撃つ。
その数百ヤード先で不幸なドイツの将校さんが天に召される。
ベルデベーレの戦いとは別な部隊ではないかという勢いで、7月7日までに第2大隊は激戦の末に140高地を攻め落とす。その時には第100はカステリーナ、第3大隊は要衝の地ルッチアーナで戦い、同じように攻め落としている。
この戦いでは第100のカオル・モトが特別勲功十字章を受章した。(生存)
その後、第2、第3大隊と第442の大部分はフィレンツェに向かい、第100だけはクラーク司令を護衛しながら、ついに陥落したレグホーンに入城した。そしてしばらくの間、第100だけでレグホーンの警備任務に就いた。このことはUP通信社によって本土に報道される。
第100がロームに一番乗りで入城したがっていたことを知ったクラーク司令が、埋め合わせのために取りはからったもののようだった。
クラーク司令はその後のイギリス国王の閲兵式でも第100を先頭に立てたかったが、第100は次の戦場に向かわねばならず、やむを得ずサカエ・タカハシと彼の部下数名だけが参加した。
彼らはジョージ6世と、そして海軍長官フォレスタルに引き合わされ、ライダー少将は「俺の最高の部下たちです」と自慢した。
そんなある日のこと。
めずらしくダンが痛そうに足を引きずっている。
「ダン、どこか撃たれたの?」
僕がたずねるとダンは何か決まり悪そうに「何でもねえよ」と答えるだけだ。
「野戦病院で診てもらえば?」と声をかけると、ダンは片手を挙げて病院の方に行く。
そしてそのまま入院、手術ということになってしまった。
両足を包帯でぐるぐる巻にして手術室から病室に運ばれてくるダンを、同室になる連中や野次馬たちが興味津々で待ち構えている。
なにしろ「弾が向こうから逃げていく」といわれたダンが負傷したのだ。
「なんと、貴様が負傷する日が来るとは!」
「どんな奴がお前に弾を当てたんだ?」
「これで実家に、やっとパープルハート見せられるな」
「我らが『部隊章』持ってないのは、いまや貴様だけだからなあ」
「傷を見せてみろよ」
「お前の場合銃弾じゃねえよな。どんな武器にやられたんだ?
戦車か? 要塞砲か? 1トン爆弾か?」
「一人で千人ぐらいと戦ったんだろ?」
みんな口々にはやしたてる。もはや怪獣扱いだ。
どんな「名誉の負傷」なのか興味津々という感じ。
なんといっても「不死身のダン」が入院したのだから。
それなのにダンは恐縮というか、布団を引き寄せて情けない顔で縮こまってしまった。
そして、ぼそぼそと下を向いて言う。
「あのー、……です」
「おい、聞こえねーぞ」
「だから、足の親指の巻き爪が食い込んで歩けないから、手術してもらったんです……」
……しばらくの間、沈黙が病室を支配する。
「……おいおい」
「なんだよそれ」
「……帰ろう」
「あー、バカらし」
真夏の空気が一瞬で寒々しくなったのは、いうまでもない。
皆が想像していた「壮絶な戦いの末の名誉の負傷」とは全然かけ離れていた。
名誉の負傷組の同室の患者たちはあきれて顔を見合わせて、また布団をかぶって寝てしまい、野次馬たちはあからさまにがっかりして、病室から去って行った。
ダンが実に情けない表情をしていたのは、後にも先にもこの時だけだった。
そして当然、彼はあいかわらずパープルハート章なしのままだった。
勢いに乗って第442はアルノ川を渡河。いよいよ北部イタリーに駒を進めようとしたとき、いままでと規模の違う枢軸軍に遭遇、ここで止められてしまう。
それは第5軍の主力が追いついてきてからも変わらず、ついにふたたび膠着状態に陥った。
ケッセルリンク元帥の「戦略的後退」で補充と再編成を受け、守るべき土地を狭めて密度を上げた第10軍はじめ数個軍とあのいまいましい降下猟兵たちが、ついに連合軍の前に立ちはだかったのだ。枢軸軍にはイタリー軍もいたが、彼らは家族を人質に取られて形だけ戦っていた南部の兵士ではなく、統帥に絶対の忠誠を誓う北部イタリー兵だ。舐めると酷い目に会う。
救いと言えば例の虎だけで編成された第508独立重戦車大隊が、ガス欠で虎を捨ててきすぎたために部隊の体をなさなくなったので、とうとう解散したことぐらいだ。
この間、連合国欧州遠征軍最高司令官アイゼンハワー大将(やっぱりドイツ系)は、オーバーロード作戦を順調に進めるために南フランスに第二戦線を作ることを考えていた。
この「アイク」はとんでもない苦労人で、フィリピンでマッカーサーの副官としてパワハラを受けながら16年も少佐のまま塩漬けにされたあげく、中佐になってからマーシャル陸軍参謀総長に見いだされ、たった4年で大将にまで昇進したという経歴を持つ。しかしイギリスに派遣された彼は、チャーチルだのモントゴメリーだのといった変態紳士と渡り合い、問題児のパットンの上司をやらされるという目に遭わされた。
彼の指揮でシチリアが陥落したころ、まだ「いらん子私生児」だった第100をもらってくれないかと打診されたときは、やっぱり謝絶している。
1944年8月15日に、アフリカ戦線を戦ったアメリカ第7軍に米英カナダ混成の第1空挺任務部隊を加えた上陸軍が、マルセイユに攻め込んだ。この作戦は「ドラグーン作戦」と名付けられる。
最初、アイクはクラーク司令に第7軍の指揮官になるよう打診したが、クラーク司令は無益な作戦と考えて応じなかった。そのためドラグーン作戦がはかばかしく進まず、第5軍から数個師団程度の増援を出すよう要求されたときに断れなかった。
それでもクラーク司令は粘ったあげく、抽出する部隊を3個師団まで値切ったものの、今度はアイクが、だったら絶対に「あの子が欲しい」と言って、二つの部隊を要求してきた。
それが第442連隊戦闘団と、第1特殊任務部隊だった。
クラーク司令は値切ってしまった手前、この要求を断ることができなくなった。
アイクの日系部隊に対する評価は、たった1年で180度変わってしまったということらしい。
こうして日系部隊と悪魔の旅団は、またまた仲良くフランスまで行くことになった。
よくよくご縁があるらしい。
第442はネイプルスまで戻って、そこから海路でマルセイユまで渡ることになった。
やはりフランスに送られる第36師団に配属され、アルノ戦線から離れる第442を、取られてしまったクラーク司令とライダー師団長が実に悔しそうに見送った。
「諸君を第5軍からフランスに送り出すことになったのは、痛恨の極みである。
この戦線を突破することが、ますます困難になってしまった」
「お前ら~、フランスでは絶対無茶するなよぉ!
俺は心配だぁー!
フランスにコメ送るからなあ。そこらに落ちてるもの拾って食うなよぉ」
たった1年で、日系部隊は誰からも欲しがられる部隊になったということだ。
いままではライダー第34師団長が「最初に見つけたのは俺だから」と言い張ればそれで良かったのだが、相手が欧州総司令官ではどうにもならない。
しかし、彼らとてあきらめたわけではなかった。
「諸君がドイツ国境まで攻め込んだときは、必ずイタリーに呼び戻す。
その日まで、皆が壮健であることを期待する」
「第34師団は、レッドブルは、お前らが帰ってきたら必ず迎え入れる。
だからみんな、必ず戻って来いよ!」
もはや激励なのか何なのかわからない見送りを受けて、第442はアルノ戦線を離れ、ネイプルスに向かう。
2人の将軍は、第442がフランスでも鬼神のごとく奮戦するだろうことは疑っていない。
……彼らの心配は、別のことにあった。
「第36の師団長がウォーカーのままだったら、ここまで心配しないんですがね……」
シーザーラインで第36師団を率いて戦ったウォーカー少将は中将に昇進してフランスに異動。
今ではパットン将軍の第3軍で機甲部隊を率い、彼の第20軍団はその変幻自在の戦いぶりから「幽霊軍団」と呼ばれている。
「ああ、その代わりがよりによってあいつだとはな……」
「まったくです」
その「あいつ」、ジョン・アーネスト・ダールキスト少将は、アイゼンハワー総司令官のもとで参謀になるまでずっと事務方だけを経験しており、この戦争でも前の大戦でも実戦に出たことがない人物だった。
そのくせ地位と名誉に対する執着は人一倍で、アイクに取り入って、空きが出た第36師団の師団長にしてもらった。大将にまで登りつめるためには、実戦部隊を率いて自分の経歴に箔をつける必要があったからだった。
実戦派の将軍たちからは「アイクの腰巾着」と思われ、評判は良くなかった。
そのダールキスト少将が、今度自分の指揮下に配属される「日系部隊」に関する書類をながめている。
「マーシャル参謀総長まで認める武勲。命知らずの死にたがり……」
ダールキスト少将はほくそ笑む。
「であれば第442連隊戦闘団には、せいぜい無理をしてもらおうか。
私の武勲のために使いつぶしてやろう。
ジャップで自殺志願者なら好都合だ」