とりあえず工房にはついた。
が、これは間違いなくあれだ。
「・・・これは、あれだねー」
「うむ。娘の言っていたことが当たっていたということか」
久遠もライダーも表情が厳しい。
まあ、まっとうな価値観を持っている奴なら当然いい顔はしないだろう。
サーヴァントとしての五感が、見たくもないことを見てしまう。
「・・・なんだよ、見えてる連中ばっかりで納得しやがって。僕も見るからちょっと待ってろ」
「やめとけ坊主。これは見ちゃいかんわい」
「同感だ。たぶんお前には刺激が強い」
「ちょっとこれはお勧めしないかなー」
「馬鹿にすんな! こうなったら意地でも見てやる」
まあ、一応敵だから止めないけど。
見て後悔しても俺は責任取らないぞ?
「止めなくていいのかライダー。これはさすがにきついだろ」
「つっても見るといってきかんしな」
そんなことを言い合っているうちに、ライダーのマスターがうめき声をあげてうずくまった。
「・・・我慢しないで吐いていいよー。これ見て吐いても誰も攻めたりしないからー」
そういいながら、久遠はライダーのマスターの背中をさする。
「ライダー。お前のマスター実戦経験はないタイプか」
「あの顔合わせが初めての実戦であろうなぁ」
ならなおさらこれはキツイ。
・・・解体された人間なんて、見慣れてる方が少数派だ。
しかも何らかの実験の弊害なのか、内側から破裂したようなものもある。
それだけじゃなく、死体同士をつぎはぎされたような猟奇的なものまである。
こりゃ久遠の推測がドンピシャだな。一部は魔術的な研究ではなく完璧に趣味のそれだ。
「魔術師ってのはこんな真似までするのか?」
「黒魔術や死霊魔術なら十分あり得るが、これは完璧に趣味の類だ。一緒にしないでくれるとうれしいんだが」
マジで面倒だな、オイ。
だが、これはだいぶ時間がたっているな。
「・・・どうやら少し前に廃棄されたらしい。腐敗の度合いから言って聖杯戦争開始の少し前といったところか」
「戦争前の事前準備かなー。で、全部壊すんじゃなくて一応念のために残しておいたってところかなー」
久遠の推測にライダーが唸る。
ふむ、さすがは歴戦の征服王。俺より実践に対する視界は深いか。
「バーサーカーのマスターは意外と軍師かもしれんな。それともほかに知恵袋がいるのか?」
「あり得るな。魔術師が何も知らないマスターを利用しているという可能性は確かにある。とはいえ立地的にマスターが魔術師とは考えづらいが・・・」
思った以上にこれは面倒だ。バーサーカーの優先順位を上げたほうがいいかもしれないな。
と、ライダーのマスターが吐くものを吐き切ったのか顔を上げた。
「大丈夫か? 精神的にきついなら精神安定剤を用意するが」
「・・・うるさい!」
思わず伸ばした手を振り払いながら、ライダーのマスターはうめく。
その目には少し涙が浮かんでいた。
「なんだよどいつもこいつも平然としやがって! 僕だって、僕だって聖杯戦争のマスターなんだぞ」
「意地は張らなくていい。これ見てきついのは人間としていいことだと思うがね」
少なくとも荒んでるだろ、平然としてるやつは。
「ふむ、狙ったわけではないがバーサーカーは真っ先に倒すべき輩だな。このような輩、真っ先に倒さねば余の気がすまん」
ライダーが険し顔でそういうが、まあこいつより先に倒すべき相手ではあるだろう。
最優先対象にはしておいた方がいいな。工房の秘匿のこともあるし、神秘の秘匿の観点から交渉すればキツネ狩りには持っていけるか?
とはいえアサシンを大量の保有している時臣陣営をうかつには信用できないし、あまりマスター間の同盟を多くとるとケイネスに悪いしなぁ。
「・・・お前らは平然としてるじゃないか。僕だけだぞ、こんななのは」
「いや、一応皆そういうエグイのになれてるというかなれざるを得ないというかねー。だから別に褒められたことじゃないんだよー」
と、ライダーのマスターをなだめながら久遠が肩を貸して立ち上がる。
「もう少し調べるなら任せるよー。ちょっと外の空気を吸わせないとダメかなー」
「ああ。・・・できれば遺体の身元も調べたいところだ。せめて親族の元には返してやらないとな」
・・・これは、本当にひどい。
まあ、さすがに次の工房の場所になるものとかは全くなかったわけだが。
証拠隠滅能力は高いようだ。あの状況下では下手人の毛髪がどれかなんてわかりようもない。
一応魔術的痕跡は全部隠滅したうえでだが警察にも通報した。教会にも使いは送っておいたし、後の始末は彼らがしてくれるだろう。
と、いうことで俺たちは河川敷で気を落ち着けていた。
「バーサーカーはさっさと倒さねばならんが、どうやら隠れ方というものをよく理解しておるようだな。戦うとなれば相性は抜群なのだが、戦うまでが難点だ」
「そうだな。聖杯戦争に参加する魔術師の思考の裏をかいたあの隠れ方は認めざるを得ない。お前のマスターのように基礎の基礎から調べる堅実なやり方は普通しないだろう」
初歩的過ぎて誰もが隠すと思いこむしな。固定観念の裏を突いた見事な隠れ方だ。
認めたくはないが認めざるを得ないだろう。奴は強敵だ。
前回令呪も使ったし、いきなり仕掛けてくることはないだろう。
ええい、面倒な強敵だ。酒でも飲まねばやってられん。
「・・・飲むか?」
「おう、こういう時は一杯やってすっきりするのが一番だからな」
と、一緒に缶ビールを飲んで息を吐く。
ああ全く、今日は肉料理とか赤いものは避けるとしよう。
「とりあえず、対策はあると思う」
と、久遠に背中をさすられながら、ライダーのマスターが青い顔でそういった。
「・・・ふむ、言ってみろ」
「たぶんバーサーカーたちが残留魔力の処理を怠ったのは、聖杯戦争に参加する連中が下の下の手段を取らないと踏んだからで、それを犠牲にほかの隠匿を強化してるんだと思う。だから、次の工房も技術的な隠匿より心理的な隠匿を重視していると思うんだ」
なるほど。確かに一流同士の魔術師が基本参戦し、キャスターの英霊が出てくる聖杯戦争だ。単純な隠匿技術で挑むのは難しいと考えて割り切るのも合理的か。
「どうだキャスター。余のマスターは優秀であろう」
「もはや認めざるを得ない。少なくとも、軍師やアドバイザーとしてなら優秀だな」
これが終わったらケイネスに「助手としてこき使え」とでもいったほうがいいな。
こいつは使い勝手いいがいいだろう。たぶん将来的に大物になるぞ。
「魔術師としてほめられてないなら嬉しくないんだよ。・・・ああ、気持ち悪い」
「確かにあれは初心者にはきついよねー。どこかで気分転換でもする?」
ライダーのマスターに気を使って久遠がそう提案するが、さてどうしたものか。
そろそろ暗くなってくるから聖杯戦争の開催時だし、今から盛り場に行ってもあれだよなぁ。
「ふむ、やはりこういう時は酒を浴びるほど飲んで吐き出すのが一番だが、こんなところで酒盛りするのもあれだの」
と、ライダーもそう思案するが、やがてふと手を打った。
「・・・ちょうどいい。なあキャスター、お主も参加してみんか? ともすれば聖杯戦争は今夜で大きく動くかもしれんぞ?」
・・・俺とライダーのマスターは、同時に嫌な予感を覚えたのか苦い顔をした。
これでも犠牲者は少ない方なのです。・・・大量消費主義の旦那ではないので隠匿もちゃんと考えているから少なめなのです。
とはいえ、龍ちゃんの趣味とバーサーカーの実利をかねそろえた実験設備。これの詳細はまた次の機会に。