いや、ほかは確実に狙って呼び出すし、そのうえで足並みそろえられそうなのっていうと・・・ねえ(苦笑)
暗闇の中、間桐雁夜は血反吐を吐いていた。
絶叫すら上げれない苦しみの中、雁夜は自分が致命的なミスにしてある意味で最高の幸運を発揮したことを自覚する。
英霊を召喚し戦わせ、聖杯を得る聖杯戦争。そのために必要な英霊の召喚の練習をしようと、召喚の呪文を唱えていたら、致命的なことに召喚が成功してしまったのだ。
それだけならある意味で幸運かもしれない。令呪すら出てない状況下でそんなことができるなど恐ろしいほどの幸運だ。
だが、それは必ずしも聖杯戦争の勝利に貢献しない。
ただ英霊を召喚したところで、それが必ずしも勝利を呼ぶ英霊とは限らない。
通常英霊を召喚するならば、触媒を用意することで呼び出す英霊を決める必要があるのだ。
触媒もなしに英霊を召喚すれば弱い英霊がくる可能性もある。もしそうなら、未熟な自分では大した力を与えることすらできない。
加えて言えば、今の雁夜は魔術師として未完成だ。
魔術から逃げていたハンデを克服するために蟲で肉体を改造しているが、それだってまだ途中。
今の状態では英霊を召喚しても体が持たない。
「くそ・・・桜ちゃん・・・」
自分が逃げ出したせいで、地獄へと巻き込んでしまった想い人の子供を想い、雁夜は絶望のどん底へと堕ちて行った。
「ゴメン・・・桜ちゃん、葵さん・・・」
限界を超えた体が意識を保てず、雁夜は意識を失う。
その最後の一瞬、なぜか人影は三つあるような気がした。
その五分後、間桐臓硯は滅びを迎えることになる。
「・・・明らかに死ににくそうな奴だったが、魂喰らいはやめときゃよかった、吐きそう」
「おーい、朝だよ~。起きて~」
体をゆすられ、雁夜は意識を取り戻した。
自分でも信じられないことに、どうやら自分はまだ生きているらしい。
肉体を急激に改造されて寿命なんて少ししかないはず。しかも不完全な状態での英霊の召喚など、明らかに自殺行為以外の何物でもない。
あの地獄から一回でも逃げ出したことといい、どうやら自分は思った以上にタフらしい。
と、そこまで思ったところでふと気づいた。
「体が・・・軽い」
英霊を召喚するというのは非常に負担がかかる行為のはずだ。
人間を超越した人間とでもいうべき英霊を呼び出して維持するのは、聖杯の補助があったとしても非常に魔力を消耗する。
憎たらしいが実力は認める遠坂時臣ですら、聖杯の補助なしではろくに動けなくなるであろう負担を、今の自分がどうにかできるのだろうか。
そう思って起き上がり、そして雁夜はさらに驚いた。
「なんかすごいうまそうな匂いがする」
これまた驚くべきことだ。
自分は体をいじくられているから、固形物を食べるのは無理のはずだ。
あの極悪非道の腐れ外道が、そんな男のためにうまい飯を用意するはずがない。
と、いうか俺は床で倒れたはずなのになぜベッドに? 家にそんなことをしてくれるやさしい人間なんていないはずだが?
そこまで考えてから、雁夜は自分を起こそうとしていた人物を見て、目が点になった。
自分なんかより莫大な魔力がある。それはまあいい。たぶんこの子が自分が呼び出したサーヴァントなのだろう。
だがなぜ猫耳がある? 英霊って人じゃなかったっけ?
「えっと・・・君は?」
「ん? ナツミっていうの」
まったく聞いたことがない名前だ。
別に英霊に詳しいわけではないが、そんなかわいい名前の英霊なんていただろうか? 語感からしても最近の名前に思えるし、それだとするとなおさら不思議だ。
「おーい、聞いてる?」
と、いうよりこんなかわいい女の子で聖杯戦争を勝ち抜くとか不可能な気がする。っていうか無理だろ。
そもそもこんな蟲蔵に呼び出したことに罪悪感が湧いて出てきた。
ああ、やっぱり俺なんかがあの子を助けることなど不可能だったのか。あの恐ろしい化け物を出し抜くなど無理があったのだ。
「おい、聞けっつってんだろ」
そもそも数百年は生きているであろう化け物に、勢いに任せて屋敷に突入して交渉など無理があった。それならまず時臣に殴りかかるほうがまだ可能性はあったかもしれない。
逃げ出した時だってそうだ。自分が逃げ出せば代わりに犠牲になる者が出るのはわかっていただろう。兄貴に対して特に情があるわけではないのは我ながら薄情だが、その子供や、桜ちゃんのように養子として子供が巻き込まれる可能性は十分に予想できたはずだ。
全くよく考えずに馬鹿なことをし、挙句の果てにこんな女の子に殺し合いを要求するだなんてあまりにも腐っている。
完璧に勝ちの目を見ることができなくなったことで、雁夜は心の底から自分の醜さを許せなくなっていた。
いっそのこと死んで桜ちゃんに詫びを入れるべきか。いや、そうするべき―
「だから聞けって言ってんだろうが!!」
唐突に頭突きが入った。
「グオォオオオオオオ!? 痛い!? 頭が割れる!!」
「飯ができるからおこしに来たってのに、てめえ何をもだえ苦しんでんだ!! あの化け物から助けてやったんだからもうちょっとその手の態度ってもんがあるんじゃねえのか、ええ!?」
なんかキャラが変わった少女の言葉は半分ぐらい聞き流してしまうレベルの激痛だったが、しかしそれを聞いてふと我に返る。
「え、ちょ、ちょっと待ってくれ」
「何!? ボク怒ってるんだよ! 早く言って!!」
いつの間にか元に戻っている少女を見て、雁夜は首をかしげる。
あの化け物とは間違いなく臓硯のことだろう。普通に考えてそれは間違いない。
そして少女を見る。・・・誰がどう見ても戦いとかから無縁そうな感じの女の子だ。
「助けたって、臓硯から? 君が?」
「ボクっていうより、兵夜が。魂喰らいっていうので吸い殺して食欲ないとかいってたよ?」
あの不死の化け物を殺したと、あっけらかんという少女の姿に、雁夜はわけがわからなくなった。
と、開いたままのドアの向こうから、足音が何人文化聞こえてきた。
「ほーら走るよー。瞬間移動だー」
「オイこら久遠。慣性の法則って言葉知ってるか?」
「わぁ、早い」
と、ドアの隙間から、何人かが顔をのぞかせる。
「あ、おじさん」
1人は桜。表情は死んでいるが、どことなく楽しそうな感じがするのは気のせいだろうか。
「おそいよナツミちゃんー。リゾットさめちゃうよー?」
1人は黒髪の少女。年のころは高校生くらいだろうか、桜を肩車してあやしているようだ。
そしてもう一人は・・・少女のようだが男だろうか? なにやら顔を青くしているが、こちらが起きているのを見ると苦笑を浮かべた。
「とりあえず、容体は安定したようで何よりだ」
部屋の中に入ると、雁夜の前に来て手を差し伸べる。
そのころになって、雁夜はとんでもないことに気づいた。
見慣れない三人は、全員が自分なんかとは比べ物にならない魔力を見に宿している。
「こっちも混乱しているが、とりあえず自己紹介しよう。・・・キャスターのサーヴァントとして召喚された、宮白兵夜だ。よろしく、マスター」
ぶっちゃけ恨み節がひどいというか、ある意味逆恨みというか、童貞こじらせた人な雁夜おじさんですが、しかしどちらかといえば善良ではあると思います。少なくともマスター善良ランキングを作ればウェイバーの次ぐらいはいくでしょう。
ちなみにキャスターをおじさんが引き当ててしまったので、必然的に狂戦士の枠はあの人に。
この作品は思いついたけど本編では出しづらい兵夜の礼装の紹介も兼ねております。ビックリドッキリアイテム第一号は次の話で出るのでお楽しみに