さてどうしたものか。
自分でも信じられないというか、ありえないというか、まったく状況が理解できないいが事実としか言えない事実が一つある。
どうやらサーヴァントとして召喚されてしまったらしい。
あの施設が平行世界の干渉を狙ったものだとするならば、強制的に意識が転送されたはいいが矛盾を許容することができずこの世界では即座に補正がかかっていただろう。少なくとも弾き飛ばされていたはずだ。
そこに天文学的な確立で英霊の召喚儀式が発生し、そこに引っ張られて形を成したと考えるべきだが、まさかこんなことになるとは。
もちろん戦闘能力でいうのならばそこまで落ち込むことはないだろう。
偽聖剣はもともと英霊と戦うための武装だ。感卦法を使った久遠も同等戦力だし、サタンソウル状態のナツミも当然その領域に突入する。
だがそれは戦闘能力の話だ。
戦闘能力が高かろうが、霊格が低すぎて話にならない。
そこで聖杯は無茶な方法を行ったらしい。
俺たち三人をサーヴァントとしてひとくくりにすることで、ある程度の補正を行ったのだろう。
もともと転生というイレギュラーを行っている俺たちは、核が高いかどうかではともかく、レアどでは常人を超越する。それがうまくかみ合ったのか、英霊未満の亡霊レベルには格があったらしい。
おかげでキャスターのサーヴァントとして召喚された。
しかもそれだけではない。
特性が全然違う三人の能力を補正しようとしたのか、聖杯が三重召喚などというスキルをおまけでくれた。
これで久遠はセイバー、ナツミはアーチャーのクラスで補正がかかっている。
一対一で勝負すれば苦戦は必須だろうが、戦術を組み立てて運用すれば十分に勝算はあるだろう。
しかし召喚された直後は混乱した。
いきなり魔術で体を改造された思しき男が倒れていて、しかもそれを明らかに嘲笑いながら化け物が出てきたのだ。
助けを求めて召喚した、召喚系に特化した魔術回路の持ち主だと判断して速攻で魂喰らいをして片づけたはいいが、それが大変だった。
なんか別の物体に魂を映していたのか逃げる逃げるさて逃げる。
雁夜の介抱に、戦場暮らしで治療に慣れている久遠を置いてきたこともあって屋敷中引っ掻き回す大騒ぎだった。おかげでほとんどの連中は脱走しておりどうしたものか。
しかも奴が逃げ込んだ先には、ぜっさん蟲●中の女の子もいたりでマジたいへん。ベールフェゴルを発動させたナツミが速攻で回収したはいいが、そうじゃなかったらどうなっていたことか。
最終的に介抱を終えた久遠が瞬動でとっ捕まえてことは終わったが、しかしよくわからない状況になった。
とりあえず女の子を着替えさせたり、蟲を片付けたりしてるうちに昼前になり、ブランチとしてリゾットを作ってから起こして説明したり聞いたりしたわけだが、これまた本当に面倒だ。
「寄りにもよって聖杯戦争!? しかも第四次って、たしか俺が生きてる間に終わったはずだぞ!!」
なんでも最終日に大災害が起こったとか聞いたが、なんでまた続いてるんだよ!!
いや、そこはわかる。便利な言葉がある。
つまり宇宙が始まるのが十数年遅かった平行世界とかそんな感じだろう。普通にあり得るからまあそれはいい。
しかしどんなドンピシャなタイミングで英霊を召喚してんだこの男は! いや、おかげで少しは大丈夫だったんだけどね!!
「異世界の前世をもつとかどんなファンタジーだよ。どうせすごいなら、もっとこうヘラクレスとかすごい強いほうがよかった」
雁夜はなんというかあっさりと信じてくれた。
どうもこの家の魔術があまりにもアレなせいでろくに学ばずに逃げ出したそうで、何となくファンタジーっぽいからという理由で信じてくれた。
中途半端な知識はむしろ危険なのだが、この場合はいい方向にかみ合ってくれたようだ。
しかしまあ、アーチャーの作った新兵器がなければ俺たちは大変なことになっていた。
「・・・で俺がこんなうまい飯を食えるのも、兵夜くんの宝具のおかげなんだな?」
「まあな。このシステムは本来専用設備が不可欠なうえに事前準備も時間がかかるんだが、宝具かする際にブーストがかかったようだ」
サーヴァントとして登録されたことで、俺はキャスターにふさわしいアーチャー製の魔術礼装を宝具として持たされている。
アーチャーが開発した新型の魔術礼装で。悪魔の駒のベースマテリアルを使用することで宝具クラスの能力を発揮する優れものだ。
大気中の魔力を超高効率で吸収する魔力タンクを備えた魔術行使機関であり、一冊一冊がそれぞれ様々な魔術の入門書といったところである。
とはいえ5節ぐらいの魔術なら行使可能であり、真面目に勉強した3代目の魔術師ぐらいの能力は発揮するだろう。
そしてこの宝具の真骨頂はその特殊機能である。
悪魔の駒をベースマテリアルにしたことにより、この本は合一化させることにより肉体を変質させることができるのだ。
つまりこれを使えば、あら不思議! 誰もが魔術師に早変わり!!
とはいえ強制的に塗り替えるので、長く続いた魔術師の家系に使うのはためらわれる。能力値も低下するから才能のある魔術師には使えないしな。と、いうか桜ちゃんの場合魔術回路が強すぎて拒絶される。
間違いなくこの世界でばらせば封印指定になるな。内緒にしないと。
とはいえほかにもフェニックスの涙とかいろいろ持ち込んでいたので役に立ちそうだ。実際―
「・・・で? おれの体は超虚弱体質の治癒魔術師になってるわけだな?」
「まああの状況下では仕方がない。雁夜の肉体そのものをある程度回復させなければ状況を把握することすらできないからな」
あの状況下で犯罪者を片付けてハイさよならというわけにはいかなかったからな。ある程度の供給能力をもらうためにも、使う必要があった。
とはいえ聖杯戦争とはマジでやばい。
食後のお茶を飲みながらとはいえ、これはちょっと勢いに任せすぎただろうか?
「でもまあ桜ちゃんが助かったならいいや。時臣はぶっ殺してやりたいけど、まああいつも桜ちゃんの親だし別にいいかなぁ」
なんというか非常に気が抜けてるなこいつ。
今の状況わかってないだろ。
「それなんだが雁夜。今の状況はそんなに生易しくないぞ?」
「え? 臓硯も死んだんだから大丈夫だろ? 桜ちゃんは返してやりたいけど、あいつがいないなら別にそこまで焦る必要も―」
「警戒する点がいくつかある」
俺は一本指を立てる。
この雁夜とかいうのは、まあ善良な部類ではあるのだろう。
見るからに地獄みたいな魔術の修練のさせ方の状況下で、心折れずに脱走するだけの根性は見事。自分の代わりに被害者が出たことを実感して、助けようという人並みの正義感もある、どちらかといえば好感の持てる人物だ。
そんな状況下で単身で出奔し、普通に食っていけるだけのバイタリティも優秀だと言おう。
まあ恨み節が前に出るところはあるし、いろいろあったのだろうが身内に対してドライすぎるところはあるが、魔術師の家系ならその程度は許容してやるべきだろう。
とはいえちょっと気がぬきすぎてる。
「その臓硯がいないっていうのが難点なんだ。おそらくだが、遠坂家当主がこのことを知れば間違いなく桜を別の魔術師に養子に出す」
これは間違いない。
唖然とする雁夜に位置から説明する。
まずは、魔術師というのは中世ヨーロッパの貴族的な思考をもっていること。
これは魔術師でない凡俗に対して下等という認識を強く持っている可能性が高い。加えて言えば、神秘を秘匿さえすれば誘拐して実験材料にする手合いだっているだろう。実際臓硯は身内すら食って延命にあてたらしいしな。
そして、その観点でいえば跡継ぎでない親族は養子に出すなりするのは珍しくもなんともない。跡継ぎのいない貴族に跡継ぎとして送るぐらいは当然あった。
そもそも、子供が大人になる確率が非常に低かった時から普通に一子相伝を当然のごとくやってのけるのが魔術師だ。その辺の思想はもっと凝り固まっている。
普通は子供は一人だけ。そうでないならスペアとして作るのが普通だ。
まあ長男がいれば跡継ぎはそれで固定なのが昔だが、その辺は魔術でどうとでもごまかせる。女が跡継ぎなら子種として優秀そうな奴を洗脳して傀儡にすればいい。
そういう意味では遠坂家当主は妻に対しても子を産ませた後ですら相応に情をもって接しているようだが、しかし子供の運用方法は普通に貴族的だ。長子を継がせることを重点としている。
そして厄介なことに、この桜ちゃん、才能がずば抜けて高い。
単純な魔術回路の性能ですら神童といっていいだろうし、属性が虚数だなんて封印指定クラスだ。
こんな子をほおっておいたら、間違いなくやばいもんにつかれてやばいことになる。魔術の才能はほおっておいたら意味がなくなるというわけにはいかないのだ。
とはいえこの子を跡取りにしないということは長子も相応の実力者なのだろう。2人とも育てるというのも十分狙っていいほどの才能だとは思うが、しかし凝り固まった思想をもつ魔術師にそれを期待できるとは思えない。
と、いうか虚数属性の魔術を教えられ、しかしこんな価値のある実験材料を魔の手から守れるような立場の奴、そうそう簡単には見つけられんだろう。
これが世間一般の歴史ある魔術師なら、とっとと実験材料にすることすら視野に入れただろう。
むしろレア素材を前にして、魔術師として生かす道を考えるあたりマシな部類ではある。
「・・・そういう意味では悪手じゃないんだがな。肉体改造を行えるなら、ある程度最適な形に変化させることで難易度を下げられるし、なにより500年以上続いている魔術師の家門なら十分な箔がつくから手出しもされないだろう」
「あんな目に合うのが悪くないだと!?」
「この家が明らかにエグいのは事実だが、しかし魔術というものはどちらにせよある程度の人体改造はするもんだ。・・・数百年続く魔術の跡取りになれるというメリットを考慮すれば、むしろよしとする連中は少なからずいる」
まあ、俺はごめんだがな。
「覚えておけ雁夜。ここよりましな魔術師なんて腐るほどいるが、ここよりやばい魔術師だって探せば普通にいる。魔術師なんて極論すれば、神秘を秘匿できればなんだってしていいんだ」
「マジかよ・・・。まともなキャスターがいて、魔術師も意外とまともだと思ったのに」
俺のような魔術使いを比較対象にするのはやめたほうがいいと思う。俺も敵にはエグイしな。
「とはいえ衰退している間桐だ。それを支えていた間桐臓硯がなくなったとすれば、娘の魔術師としての未来のために助け出そうとする可能性は普通にあるだろうな」
「・・・やっぱり時臣は殺したほうがいい気がしてきたんだが」
「殺した後どうするんだよ。聖杯戦争でマスター不殺を貫くのはマズイって。いや、殺さずに済むならそれでいいがな?」
あと、まがいなりにも娘の将来真剣に案じた父親を殺すのはさすがにマズイ。
桜ちゃんのメンタルケアのためにもこれは教えるつもりだし、まったくもって見当違いとはいえ、仮にも娘のためを思った父親をそれを理由に殺すのはダメだろ。
まあ、後で調べてただの道具として使ったのだとすれば容赦はしないがな。
そんなやつは生かしておくことのデメリットのほうがはるかにデカい。もう片方の娘の精神的影響も考慮して、必要なら俺が殺そう。
もちろんそれは内緒だ。俺が独断で動けば、その幼馴染から雁夜が恨まれずに済む。
とはいえ、果たしてそれがいい事なのかどうかはわからないが。
いってはなんだが今の時代にそんな騒ぎで離婚とか別居と化してない上に、付き合いが長いからある程度性格が読めるはずの幼馴染が脱走するような家に送り込んだのだ。魔術師の価値観で育てられた遠坂時臣ならともかく、まっとうな一般家系で育ってそれっていうほうが問題あるだろう、普通。
「とはいえその辺はぼかして説明しないとな。桜ちゃんの記憶もある程度操作する必要があるし、教える話と教えない話はちゃんと考えとかないと」
「だから風呂入れたのか」
今桜ちゃんは入浴中だ。久遠とナツミも一緒に入っている。
飯の時間もあるし手早くシャワーで済ませたからな。しっかりはいてすっきりしてもらわないと。
「だから最低限お前にはまともな状態を維持してもらわないと困る。・・・今の段階じゃ五年ともたん。せめて桜ちゃんが後継者として自立できる年齢までは生きるべきだが、今の手持ち手段じゃそれは難しい。つまり―」
小聖杯を利用する必要がある、ということだ。
何も聖杯戦争を優勝するところまで行かなくてもいい。小聖杯と撃破したサーヴァント一体があれば、雁夜の寿命を五年延ばすぐらいならおつりがくるだろう。
そのあと全力で逃げればいい。神代の魔術師が作った礼装を餌にすれば、現界するだけの魔力は確保できる。
あとは研究データもある程度出ている電子操作魔術などを利用して金を稼げば生きてくぶんには問題ないだろう。
どうせ冬木の聖杯で今回戻ることは不可能だ。
俺たちがサーヴァントとして呼ばれた以上、七騎すべて使って一人分の穴をあける程度しかできない冬木の聖杯では戻るのは難しい。
令呪のブーストを使うにしても、そもそも穴をあける英霊を確保する必要がある以上、次の聖杯戦争まで残るしかないのだ。
悪魔の寿命ならまだまだ余裕はあるし、その辺気長に考える必要があるな。
まあ、だとすれば俺がすることはただ一つだ。
「まあ気張りすぎるな雁夜。恨み言でブーストするお前の全面的な味方をするのは考え物だが、少なくとも今の桜ちゃんの味方にはなってやる」
「本当か!?」
頭を抱えていた雁夜の顔色が変わる。
「俺の親友はこういう時必ず動くからな。あいつの親友として動かないわけにはいかないさ」
自分にとって一番大事な存在が動くというのなら、俺が動かない道理はない。
「まあ、あの二人は勘弁してくれ。俺のミスで巻き込まれたわけだし、俺のわがままに突き合せる必要も―」
「あ」
唐突に雁夜が声を挙げる。
なんだいった―
「くたばれご主人」
「お仕置きだよー」
ぐぁあああああああああああああああああああああ!?
「肘はそんな方向に曲がらないぃいいいいいいいいいい!?」
「キャスター大丈夫かぁあああああああああ!?」
いつの間にふろをあがっていた!? 女は長風呂なんじゃなかったのか!!
「この馬鹿ご主人が。使い魔が主の手伝いしないわけがねえだろうが、ああ?」
「この状況からダーリン優先するよー? 現地妻なんだと思ってるのかなー?」
「痛い痛い痛い痛い痛い! すいませんごめんなさい! マジ悪かったから許してください!!」
あまりの激痛にもだえ苦しむ中、地味に冷たくなった雁夜の視線がマジ厳しかった。
「そんな歳で女2人もはべらすとか・・・、尻に敷かれてなかったら一発殴ってるところだ」
「いいから助けてぇえええええええええええ!!」
魔術礼装・駒王衆は、ぶっちゃけ三流宝具です。
その種類ゆえに多様性というジャンルでキャスターとして及第点をとっていますが、その実決定打にはまったくならない。今回の能力は雁夜にとっては非常に有効でしたが、しかし総合的にみると三流にはとくだがそれ以上では家系の魔術に悪影響があるので本当に使い勝手が悪いです
ちなみに本文では説明できませんでしたが、これは神秘の秘匿を無視できるケイオスワールド本編において、魔術師人口を増やして合同研究によって魔術を発展させようという目論見を兵夜は立てていたりいなかったり。