Fate/chaos world   作:グレン×グレン

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ロード・エルメロイは世界の深さを知る。

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、自分が幸運の女神に愛されていると確信していた。

 

 希代の魔術師として武功における栄光を得ようとこの極東のちに降り立ち、しかしこのままでは無様な負けを得ることになったと気づき、彼は自分の幸運に感謝していた。

 

 ライダーはキャスターから愚作といわれる方針を考えるものだった。確かにあれならばまあ大丈夫ともフォローされているが、しかし性格からいっても自分とは相いれまい。

 

 使い魔の分際で主を振り回すようなものに興味はない。魔術師がわざわざ魔力を与えてやってようやくいることができるかりそめの命の分際で偉そうに。それならまだランサーのほうがマシだ。あわててかき集めた存在だったが、それが幸運に作用していることをようやく自覚した。

 

 そしてキャスターが平然と科学を使う時点で、この聖杯戦争は魔術師にとってそこまで素晴らしいものではないとも理解できた。この戦いに勝ってもそこまで栄光にはなるまい。キャスターなのに科学兵器を堂々とマスターに使わせるようなものが出てくるのだ。なんというか馬鹿らしい。

 

 とりあえず生き残ることを優先するべきだろう。このロードエルメロイが魔術師と戦って負けるなどあり得ないと思うが、いくつもの特許をとる冬木の管理者ですら監督と共謀して反則をしているという事実がある。だまし討ちしてくる可能性は十分にあるだろう。

 

 決闘と思って挑めば間違いなく殺される。冬木市には魔術隠匿のための教会のスタッフが乱立し、さらにアサシンが三桁に届くかもしれない数潜伏しているのだ。勝ちを狙ってこんなばかげた戦いで死ぬなど愚かだ。

 

 ただ逃げ帰るのもプライドにかかわるが、安全に手を引くことも考えるべきだ。早めに気づけて行幸だった。

 

 第一、そもそもルールを皆が守っていたとしてもこの聖杯戦争は高潔な血統でも何でもない。

 

 確かにキャスターの言うとおりだ。暗殺者が参戦する戦いを御前試合と同じように考えるなど愚かの極み。聖杯という強大な聖遺物に惑わされたが、これではその聖杯とやらも怪しいものだ。

 

 そして、ケイネスの幸運はそれにとどまらない。

 

 今、彼の手には一冊の本がある。

 

 書かれているのはフィオナ騎士団の伝説。特にディルムッド・オディナについて書かれているものだった。

 

 騎士たちの王としては間違いなく世界最高ランクの英霊であろうアーサー王ですら、騎士道を重要視しなかった。この事実に、ケイネスは英霊の情報をもっと詳しく知るべきだろうと判断した。

 

 もしライダーのような致命的な問題部分が発覚すれば思わぬところで命を落とすかもしれない。この唾棄すべき点が多い戦いで死ぬのもごめんだし、何より愛するソラウを狙ってくる下賤なものもいるかもしれない。

 

 なので一応調べたほうがいいと思い、そしてその情報媒体を入手できたことも行幸だった。

 

 ・・・正直少し同情した。

 

 生まれ持った呪いの生で主の婚約者が勝手に惚れ、それで恨まれたことが原因で死に至る。概要すればそれに尽きる。

 

 実に哀れな存在だ。というか、なぜかそのフィンとかいう男に同類意識を感じてしまうのはなぜだろうか?

 

 ソラウは魔術師なのだから、どう考えても魔貌の呪いに対抗できるはずなのだ。グラニアとかいう女のようにはいかないはずだ。

 

 しかしこれで確信できた。

 

 ランサーは間違いなく聖杯に望みがあるはずだ。

 

 それをこのロード・エルメロイに隠しているなど実に不届き旋盤。

 

 度を越えて勝つ気ももう失せた。まずはその辺を確認しておこう。

 

 どうせ後二つあるのだから問題ない。最悪離脱するための自決命令さえできればいいのだ。とっとと聞き出したほうが後で問題になるよりましだろう。

 

「・・・ランサー」

 

「はっ。ここに」

 

 ランサーが姿を現した瞬間。ケイネスは速攻で令呪に命じた。

 

「令呪に命ず。貴様の聖杯戦争における真の目的をちゃんと語れ!」

 

 ためらうことなく令呪を使い、ランサーは驚きながらも口を開く。

 

「生前果たすことができなかった忠義を貫く事です!?」

 

 少しだが、沈黙が発生した。

 

「・・・主? 前にも言ったと思うのですが、なぜそのようなことに令呪を?」

 

 戸惑いながらランサーは尋ねるが、ケイネスはケイネスで戸惑っていた。

 

 確かに、この男は聖杯に興味はないといっていた。だがどう考えてもそれはおかしい。

 

 名のある英霊が使い魔に身を落とすなど、相当の理由があるはずだ。

 

 それが忠義を果たすことができなかった? 今度こそ果たしたい?

 

「貴様、なめているのか? 私には騎士道などよくわからんが、仮にも英霊にまで上り詰めた男が魔術師に忠義を向けるなど、正気か貴様?」

 

 ケイネスにとってサーヴァントが使い魔(格下)であるように、英霊にとってマスターは人間(格下)である。

 

 根本的に魔術師とはただの人間を格下と見下す存在である。歴史ある魔術師はそれだけ選民思想も強いものである。そして選民思想が強いものにとって仕えるに値する相手とは当然格上である。

 

 理解ができない。・・・と、そこまで考えて、しかしケイネスははたと気づいた。

 

 そもそも科学を多用するキャスターがいるのだ。格下の存在に忠義を向ける格上がいてもおかしくはない。

 

 とんでもない事態が連発したおかげで、ケイネスは人生における許容値がわずかに上昇していた。

 

 ゆえに冷静になることができ、そのため一定の理解を示す余地が生まれたこと。これこそがケイネス最大の幸運である。

 

「正気です。すでに終わったものである俺にとって、忠義を果たす機会に恵まれるのは奇跡以外の何物でもございません。そして主は聖杯が与えた俺のマスター。忠義を尽くすのにそれ以上の理由がどこにありましょうか」

 

 ・・・そのランサーの言葉を聞いて、ケイネスはようやく理解できた。

 

 魔術師にとっての価値とただの人間にとっての価値にはずれがある。

 

 魔術師にとって非常に価値のある礼装も、魔術を知らないものにしてみればよくわからないものであることは十分にあるだろう。

 

 そもそも騎士と魔術師など価値観が非常にずれている存在なのだ。自分にとってはくだらない理由であってもこの男にとっては非常に重要なこと。つまりはそういうことだ。

 

 魔術師にとって渇望といってもいい根源も、薄汚い魔術使いにしてみれば金に劣る。なるほど、確かに創考えれば理解ができるというもの。

 

 いくつかのイレギュラーによって、すれ違うにもほどがあるすれ違いをしていたランサー主従は、ここにその根本を理解することができたのである。

 

 それに、そもそも英霊を召喚するということ自体聖杯を使わねばかなわないのだ。確かに聖杯に興味はなくても、ランサーのように現世にくる必要があるものならば聖杯戦争はとても大事だろう。

 

「・・・なるほど。確かにつじつまが合った。そういうことはもっと早く言え」

 

 なるほど、ならばせいぜい騎士道とやらにある程度あった戦いをさせてやろう。

 

 できる限り戦闘はランサーの采配に任せてやろう。どうせそこまで勝つ気も失せたのだ。こいつの隙にさせてやっても問題あるまい。

 

 それに忠義を尽くすことが望みというのならば、主を生かすために死ぬことも忠義だろう。後で前もって伝えておけば文句を言われる筋合いはない。

 

 最後まで上から目線ではあったが、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトはランサーに対して理解を示した。

 

 と、その時電話が鳴り響く。

 

「・・・何かね?」

 

 よほどのことがない限り電話をするなといっていたのでよほどのことなのだろう。ならば出ないわけにはいかない。

 

 これでよほどのことでなければただでは済まなさないと思いながら電話に出たケイネスだが、続く言葉に目を見開く。

 

『数時間ぶりだなケイネス・エルメロイ・アーチボルト。ちょっと話したいことがあるので入っていいか?』

 

 電話の主は、キャスターだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・来客相手に工房の迎撃装置をそのままにするとかあんたは鬼か?」

 

 少々すすけた格好で、キャスターはケイネスに鋭い視線を向けていた。

 

 その隣にはマスターらしきやけに病弱そうな男と、黒髪の女が同じくいささかぼろくなった状態で立っている。

 

 キャスターからの要望はロード・エルメロイのその才覚を見込んで話し合いことがあるということだった。

 

 ゆえに、ケイネスはキャスターの訪問を許した。

 

 ただし、工房の機能は一切変化させなかったが。

 

 仮にもサーヴァントがこれを突破できないようなら話す価値もない。ロード・エルメロイとしてのプライドによる試練だった。

 

 一流の魔術師ですら死にかねない危険な工房を、しかしキャスターは何とか乗り切った。

 

 中には霊体に対する莫大な威力の呪詛を張ったりもしたものだが、礼装らしき本を媒体に、宝石魔術でブーストをかけて何とか乗り切っていた。

 

 キャスターの宝具である魔術礼装・駒王衆はその多様性こそ売りである。

 

 それを宝石魔術によるブーストで補正することによって、超一流の魔術師の工房を、三流クラスの魔術使いが乗り切ることに成功した。

 

 もっともキャスターの魔術の師は神代の魔術師である。超一流ですら裸足で逃げ出す神クラスなので、その師特性の礼装を使って切り抜けられないなどキャスター自身のプライドはともかくキャスターの師の名誉にかかわる。

 

 なんとかマスターである雁夜も守り切ることができたし、これで何とか話し合いのテーブルに着くことができた。

 

 キャスターにとってこの会談は非常に有意義なものになるであろう。

 

 悪名高い魔術師殺しをマスターにしているアインツベルンは危険。遠坂はそもそも論外。ライダーのマスターは能力的に不安。そしてバーサーカーのマスターはいまだ不明。

 

 消去法で彼以外に協力してもらえそうな人物がいない。ならするべきだ。

 

「では、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。俺たちはあなたに恩を売りに来た。高く買い取ってほしい」

 

 




ケイネスとの同盟を狙う兵夜。

・・・ぶっちゃけて言うと、ケイネスとの同盟は今後のために必要不可欠だったりします。彼ら側の視点からでもこちら側の視点においても、適任者が一人もいなかった。

 その点については次回で。
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