ソードアート・オンライン【狂戦士と竜使い】   作:AIthe

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思い出の丘

「………大丈夫か?」

 

全身を装甲で固めた戦士は、私に手を差し伸べる。その声を聞いた途端、全身から力が抜けた。堪えられない気持ちが、大粒の涙となって溢れ出てくる。

 

「お願いだよ……あたしを独りにしないでよ……ピナ…………」

 

通常、プログラムである使い魔の行動パターンの中に、自らモンスターに襲いかかるなどという行動パターンは存在しない。私には、その行動が自分とピナが繋がっていた証のように感じられて、堪えられずに嗚咽を漏らした。

手のひらに舞い降りた水色の羽根も、目の前の戦士も、誰も私の言葉に応えることはなかった。

 

 

★★★

 

 

「……落ち着いたか?」

「すいません……あたしが…あたしが馬鹿だったんです……ありがとうございます……助けてくれて。」

 

助けてくれたプレイヤーの後ろには小さな1人用のテントが1つ立てられていて、目の前には野外用の調理セットがオブジェクト化されている。

 

「何があったのかは知らんが飯を食え。話はそれからだ。」

 

プレイヤーの表情は鎧に隠されて見えない。が、声は男性のものだ。片手で汁っ気のある何かを啜りながら、もう片方の手で器を差し出してくる。

 

「……すいません。食欲無くて。」

「いろんなものを煮詰めたからこんな見た目してるけど、味は結構イケるぜ?」

 

おたまでクイっと掬い、そのドロっとした液体を器に注ぎ、飲み干す。メットで隠れて顔は出ていないのに、食事を取っているその姿は何処と無く可笑しい。

ピナが死んで、食欲など湧く筈も無い。でも、何か別の事をして誤魔化さなければ、気がおかしくなりそうだった。

震える手でその器を取り、もはや食事とは程遠い色をしたそれを口にする。

 

「………美味しい。」

「だろ?」

 

NPCレストランのオートミールとは違い、それは現実世界にある鍋の出汁のような、温かな味がした。

 

「で、何があったんだ?」

「……実は───」

 

私は、独白をするように話し始めた。

この1年間共に過ごしてきた相棒の事。この森に入った経緯。そして、今の状況。全てを話し終えると、彼はふむ、と言い、顎に手を当てた。

 

「もしかしたら、“心”と名の付くアイテムを手に入れているんじゃないか?ピナの心とか、フェザーリドラの心とか。」

「ええっと………」

 

言われた通りに探してみると、確かにそれはあった。オブジェクト化すると、自分の手のひらに水色の羽根が舞い落ちる。それを見て、彼女は再び泣き顏になった。

 

「あ……ありました。」

「あったのか!良かった良かった!」

 

彼は飲んでいた謎の液体を器ごと投げ出し、勢い良く立ち上がった。よくわからないが、とても満足そうだ。

 

「それがあれば、そのモンスターは蘇生できるぞ。」

「本当ですか!?」

 

その言葉に驚き、私も立ち上がってしまう。絶望一色だった心に、光が射したような気がした。

 

「確か、47層の【思い出の丘】最深部の…ナントカの花ってヤツだ。」

「あ、ありがとうございます!」

 

表情がパアッと明るくなる。47層は現在の実力では厳しいが、ピナの為なら頑張れる。そう思えたのだが───

 

「でも、その心は3日経つと形見になっちまうんだよ。俺が取りに行けるならそうしてるんだが、生憎花はビーストテイマーが居ないと咲かなくてな…………」

 

現実は非情だった。私の顔色は逆戻りし、再び泣き顏になってしまった。

 

「……じゃあ、こうしよう。条件を飲んでくれたら、責任を持って【思い出の丘】まで届けてやろう。」

「条件……ですか?」

「ああ、この森に用事があったんだけど、後でそれを手伝ってくれないか?1回クリア毎に1個貰えるんだが、それがたくさん必要なんだよ。」

 

この森のクエストとなれば、自分でも手伝えるものだろう。二つ返事で頷きかけたが、首をぶんぶんと振って冷静に考える。

 

「……何で……こんなに優しくするんですか?」

 

彼には悪いが、私は警戒していた。このゲームの甘い話は大体信用がない。PKだって行われているこの世界で、他人を信用するという方が無理があるだろう。

 

「困ってる奴がいたら助けるのなんて当たり前だろ。小学校で習ったろ。」

 

しかし、彼はそれが当然かと言わんばかりの口調で言い放った。

 

(この人はもしかしたら……トンデモないバカなのかもしれない……)

 

この世界でそんな事を言えるのはこの目の前の人物位だろう。それはもう優しいを通り過ぎて、ただの馬鹿である。

しかし、私は彼の言葉にすっかり警戒心を解かれてしまい、クスッと笑う。

 

「な、なんだよ。」

「あの…ちょっと面白くって。」

「酷いなぁ、まあいいけど。」

 

表情は分からないが、彼も笑っている気がした。彼はそのまま両腕を伸ばし、その場に座り込んだ。

 

「……じゃあ、明日は朝早いから寝ろ。夜番は任せとけ。」

「え?でも「疲れているだろ?いいから寝とけって。」

 

言われた通り、渋々テントに入り、中の寝袋に入り込む。

心も身体も疲れ果てていたのか、恐ろしく早さで眠りについてしまうのであった。

 

 

★★★

 

 

「んんん……ふぁぁぁっ……ふぅ………」

 

久しぶりに目覚めの良い朝だった。昨日の疲れは大体取れたのか、身体は軽い。もぞもぞと身体を動かして寝袋から這い出て、テントを空けると朝日が差し込み、目を細める。

 

「よく眠れたか?」

「はい。お陰様で……って!寝てないんですか!?」

「俺か?この森に入る前に寝ておいたから大丈夫だ。」

 

そう言って親指を立てる。メットで顔が隠れていて、表情が隠れていて彼の言葉の真偽が全くわからないのがもどかしい。

 

「んじゃ、行こうか。奴さんを生き返らせるタイムリミットも迫ってるしな。」

「は……はい!───あ!」

「どうした?」

 

精一杯の笑顔で、彼に返事をする。そして、今一番聞きたい事を聞く事にした。

 

「名前、なんて言うんですか?」

「……トウヤ。お前さんは?」

「シリカです。よろしくお願いします!トウヤさん!」

 

この鎧戦士の名前は、【トウヤ】というらしい。

ここに臨時ではあるが、1つのパーティが結成されたのであった。

 

 

★★★

 

 

森を出て、【思い出の丘】に入る前に、あたしは見た事もない武器と防具を渡された。ステータスを見ると、今自分が装備しているものとは段違いの強さを誇っていた。彼曰く「54層のダンジョンでドロップしたものだから驚く程じゃない。」そうだ。

 

(もしかしたら攻略組……でもトウヤなんてプレイヤーは聞いたことないし……)

 

しかし、それ程のダンジョンを攻略出来る実力があるのは階層を進める事に全てを賭けた攻略組位だろう。

しかし、彼からはそんな雰囲気は微塵も感じられない。どちらかといえば、自分と同じ中層のプレイヤーに思える。

 

(でも、あんな強い武器持ってたし………)

 

「おい、シリカ!聞いてるのか!?」

「ひゃい!?」

 

隣から響き渡る大声によって、思考は中断された。彼はやれやれと首を振り、かったるそうに再び説明を始める。

 

「全く……最初から説明するぞ?まず32階層のイノシシみたいな奴の肉をだな───」

「あの謎の液体の作り方とか誰得なんで遠慮します。」

「酷い………泣いちゃう………うえーん。」

 

シクシクと泣き真似をするトウヤ。鎧の上から真似をするのはシュールな光景で笑ってしまいそうになるので止めて欲しい。

 

「もう……前衛と後衛どっちをやるかって話をしてたんですよ?」

「そう言われても…そもそも俺パーティ組んだ事無いからな………」

 

プクッと頬を膨らませて「怒ってます」アピールをすると、彼の口から意外な言葉が飛び出る。

 

「え?じゃあスイッチとか分からないんですか?」

「ポチッと押すあれだろ?」

 

はぁ、と溜息を吐いてしまう。この男は本当にパーティを組んだ事がないらしい。

先輩風を吹かせて説明すると、彼は驚いた顔をしていた。

 

「へえ、色々進んでんなぁ。」

「ふふん、でしょ?」

 

腰に手を当てて鼻を鳴らそうとするが、彼の言葉でそれを遮られる。

 

「それよりシリカ先輩。話に夢中になるのはいいですけど、あそこにモンスターいるんで。」

「ええっ!?どこですか?」

 

索敵スキルを使って目を凝らすと、確かにこの先にうねうねと動く何かが文字通りうねうねとしていた。無数の触手に大きな口。それを文字として表現するなら【歩く花】となるだろう。

 

「この階層で一番弱い何とかフラワーって奴だ。余裕で倒せると思うぞ。」

「うわぁ……気持ち悪いですね。でも───」

 

今度こそ腰に手を当て、胸をそらしてふふんと鼻を鳴らす。

 

「あたしが倒してみせます!」

「あっ、その敵……まあいいや。」

 

彼の言葉は耳に届かず、果敢に走り出す。彼に貰ったばっかりの短剣を抜き、先頭に備える。

 

「やーぁっ!って、気持ちワル〜!!やだぁぁぁぁ!!」

「ガハハハハ!!いやぁ、愉快愉快!」

 

駆け出した足が止まり、降りかかる触手を防ぐように短剣をぶんぶんと振り回す。

先程の先輩風を吹かせていた自分は何処へ、と言った雰囲気でひたすらに振り回す。

 

「助けて下さ───きゃぁ!!」

 

ちょっとの隙を見て、2つの触手が私の足をぬるりと摑み、ひょいっと空中に浮かす。

ぐるんと視界の上下が回転し、仮想世界の重力に従ってスカートが垂れ下がる。慌てて抑えるが、ぶんぶんと揺らされている為に上手くいかない。

 

「あ、弱点は花のすぐ下の、白くなってるところだからな。」

「そんな情報はどうでも───きゃあぁぁぁ!!助け───見ないで!」

 

顔を真っ赤にし、左手でスカートを抑えて右手で短剣を無茶苦茶に振り回してツタを切り裂こうとするが、うねうねと動く触手にはそう簡単には当たらない。

 

 

「ああっ、もう!」

 

スカートを離し、ツタを掴んで切り裂く。ふわりと地面に着地し、短剣を構える。先程言われた弱点を思い出し、そこに目掛けて短剣を突き出す。

弱点を突かれた歩く花はポリゴンになって四散し、経験値とコルに還った。

 

「……見ましたか?」

「いやいや、見てない見てない。」

「何色でした?」

「そりゃあ、美しいほどの純白でしt……ちょ、やめ───あべし!」

 

彼はドロップキックを食らい、森の茂みへゴールインしたのであった。

 

 

★★★

 

 

「ほら、着いたぞ。」

「無い……無いですよトウヤさん!」

「落ち着けよ……ほら、あそこだ。」

 

それから暫く歩くと、【思い出の丘】の最深部まで着いた。周りを探してもその花は見つからなかったが、彼の指差す方向を見ると今、まさに花が開花するところで、慌ててその台に駆け寄る。

 

「わぁ………」

「良かったな。蘇生させるのはこのダンジョンを抜けてからにしろよ。念には念を入れて、な。」

「はい!」

 

自分の顔から笑みが溢れているのが分かる。相棒と会える事が楽しみで、笑顔が堪えられない。

 

「じゃ、帰りまむぐっ!」

 

突然口を塞がれる。メットに隠れた彼の顔を見ると、逆の指を口元に当てて、「しーっ」の動きを取っている。ゆっくりコクコクと頷くと、その手を離され、キラリと輝く転移結晶を渡される。

 

「ピンチになったらそれで逃げろ。」

「一体何が「出て来いよ、な?ゆっくり話し合おうぜ?」

 

彼が鋭くそう言い放つと、樹々の影からオレンジカーソルが付けられたプレイヤーがゾロゾロと出てくる。

オレンジとなれば、恐喝や窃盗ならまだ可愛い方だ。しかし、中にはこのデスゲームでPKを繰り返す罪人もいるのだ。

その中に1人、私こ知っているプレイヤーがいた。

 

「どうして………」

「あら?シリカじゃない。今度は別の男をたらしこんだの?」

「そんなんじゃありません!何でロザリアさんが………」

 

それは、自分と口論になったあの女性プレイヤー、ロザリアだった。

目の前の女性プレイヤーはグリーンカーソルだ。何故オレンジと一緒にいるのかが全くわからない。

 

「どうしてロザリアさんがオレンジと一緒にいるんですか!?」

「それは、私がこのギルドのリーダーだからよ。」

 

そう言い、誇らしそうに胸に手を当てる。その笑みは妖艶で、既に誰かを殺した事がある。直感だが、そんな気がした。

 

「どうせMPKだろ。モンスターを利用してプレイヤーを殺してるんだよ。こいつは。」

「あら、よくわかったじゃない。まあ、他にもやりようはあるけど。」

「そんな……何でそんなこと!」

 

怒りで手が震える。彼女はそれを楽しそうに見て、ほくそ笑んでいる。

 

「そもそもここで死んだら現実で死ぬとは限らないじゃない?第一、例え死んだとしても私を裁く方法は無いわ。」

「そんなの……人間じゃない!」

「もういいシリカ。後は俺に任せろ。」

 

その鎧で包まれた手で押し戻され、私はよろめく。目の前に彼が立ちはだかり、背中の大きな大剣に手を当てる。

 

「ソードスキル───発動。」

 

もぞもぞと何かを口にし、それを抜き、両手で構える。

 

「お前らの言っている事は、要約すればこの世界は弱肉強食って事でいいな?」

「ええ、そうよ!だから今ここであんたを「なら、言葉など既に意味を成さないな。死ね。」

 

目にも留まらぬ速度で駆け出し、その大剣を振り抜く。反応が遅れた1人のプレイヤーに直撃し、凄まじいエフェクトを発しながら吹き飛ばす。

そのプレイヤーのHPゲージが凄まじい速度で減り、一撃で残り1ドットまで消し飛ばした。

 

「まずは1人目。」

 

刃のように鋭い言葉と共に大剣を切り上げ、それに驚き硬直していたプレイヤーを切り裂く。同じように、残りHPが殆ど消し飛ぶ。

 

「2人目。」

「待ってくれ、俺は───があっ!」

「3人目。」

「ぐおっ!」

「4人目。」

 

4人目を斬り払うと、彼は大剣をぶんぶんと振り回し、それを鞘に収める。

 

「まだやるか?これ以上やるなら手加減はしない。躊躇わず殺す。」

「ひ、ひぃぃぃ!」

「両手を挙げて投降しろ。逃げた奴も殺す。」

 

再び大剣を抜き、その切っ先をオレンジの集団に向ける。全員が手を挙げ、武器を下ろす。

 

「大丈夫か?」

「は、はいぃ……」

 

彼は凄まじい程の蹂躙をなしていた一方、あたしは腰が抜けていた。突然の出来事と彼の圧倒的な強さに怖くなってしまったのだ。

 

「ほら、乗っかれ。」

 

先程の面影を見せぬような優しい口調で話し、背中を出してくる。おぼつかない動きで首元に腕を通し、背中に寄り掛かる。

 

「あわわわわ………」

 

そのまま立ち上がり、両手を上げるオレンジプレイヤー共に目もくれず、横を素通りする。ゆっさゆっさと揺れる身体に強くしがみつく。

 

「じゃ、始末は頼んだぞ。【黒の剣士】さん?」

 

彼がそう呟くと、攻略組の中でも相当な有名人、【ブラッキー】や【ビーター】と呼ばれたこの世界最強のプレイヤーの1人。【黒の剣士】が木の陰から現れたのであった。

 




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