「ヒースクリフ……何の用だ?」
「久しぶりだなトウヤ君。いやはや、彼女も私のギルドに必要な人材の1人なのでね。」
ヒースクリフ。ユニークスキル【神聖剣】を持ち、
どうやら、彼とトウヤさんは顔見知りのようだ。2人の間に張り詰めた空気が流れる。
それをものともしないかのように、ヒースクリフさんが口を開く。
「取り敢えず、中に入ってゆっくり話そうではないか?」
そう言って彼は剣をしまう。トウヤさんは数秒止まり、システムウィンドウを押して降参を選ぶ。
「ま、待ちなさい!」
「んだよ?まだやるのか?」
実質的に敗北した【閃光】は、彼を強く睨む。
「次は、負けないから。」
「次なんざねえよ。おいシリカ。行くぞ。」
「は、はい!」
彼に腕を掴まれ、私達3人はNPCレストランに連れて行かれたのであった。
★★★
「先程は副団長───アスナ君が世話になったね。」
「あー、はいはい。御託はいいからさっさと本題に入れよ。」
レストランの席は奥側から詰めて座ったのはいいのだが、私とヒースクリフさんが向かいあう形になってしまい、とても気まずい。
「そうだな、では私達のギルドに入らないか?」
「丁重にお断りさせて頂くよ。てか懲りろよ。」
「そうか、残念だ。」
断られても微笑み続けるとは、この男一体何者なのだろうか。その表情は豊かな筈なのに何も読み取れない。まるで、それが作り物かのように。
「君が
「あの事?」
「……トウヤ君?」
「好きにしろ。」
では、と一拍置いて、彼は説明を始める。
「私が彼をギルドに勧誘してね。それは良かったのだが、彼が条件としてあまりにも無茶苦茶なものを提示してきたんだ。」
「そしたらこいつら、本当に用意しやがってよ。やんわりと断ったつもりが文字通り受け取りやがって。」
「今の現状を見ればわかると思うが、条件をクリアしても彼は断ったんだ。それを一部の団員が非難し、最終的には───」
ヒースクリフさんは許可を求める容器チラリと彼の方を見るが、彼は頬杖をついたまま微動だにしない。
「無理矢理に彼を連れて行こうとし、それでも抵抗を続ける彼を殺そうとした、という訳だ。勿論その者は黒鉄宮に送還した。私への忠誠心が強いのは嬉しいだが、盲信されるのは困るよ。」
彼は愉快そうにハハハと笑うが、トウヤさんは随分と不機嫌そうだ。多分、彼の中では
「2人共仲良いんですか?」
「「それは絶対にありえん。」」
「息ぴったりですね。」
「うぐぐ………」
「フハハハハハ。」
トウヤさんはわざとらしく咳をする。
「まあ、こいつは悪くねえからな。そんなつもりはねえみたいだしよ。俺が嫌いなのはこいつのギルドに入る連中だ。」
「そんなプレイヤーは殆どいないと思うのだがね………」
「じゃなきゃお前のギルドがあそこまで大きくなる訳ねえだろ。」
彼はイライラとした様子で答える。
「で、でもすごいですよね?」
「ああん?この白髪野郎のどこがすごいって?」
「ええっと…………」
場の空気を和らげようと思ったが、彼の癇に障ってしまったようだ。一生懸命言い訳を考えるが、何も思いつかない。そこに、ヒースクリフさんが助け舟を出してくれる。
「ゴホンゴホン。今回の目的は君の勧誘と、様子を調べたかっただけだ。元気そうで何よりだよ。 」
「はいはい、わかったから早く帰れ。行くぞ、シリカ。」
「は、はい!」
「ちょっと待ちたまえ。」
目立たぬようそそくさと出て行こうとする私達の背中に声がかかる。
「副団長の非礼の詫びとして、いい情報をあげよう。47層の【思い出の丘】の最奥部には隠し扉があると聞いた。噂によれば、そこにはテイムしたモンスターを強化するアイテムがドロップするそうだ。」
「本当ですか!?」
「噂に過ぎないが、行ってみる価値はあると思うよ。」
両手を挙げ、彼はにこやかに微笑む。彼は振り返らず、そのまま手を振って出て行ってしまった。
「じゃあ、シリカ君。彼をよろしく頼むよ。」
「は、はい。」
それに続くように、ヒースクリフさんも出て行った。トウヤさんに置いて行かれた事に気付き、慌てるが、同時に別の発見をする。
「あれ?なんであの人私の名前知ってるんだろ?」
その疑問は、彼から聞いた噂への期待に塗り潰され、どこかに消えていった。
★★★
私達が生活している宿は2人用のもので、寝室が2つの部屋に分けられていて、居間のような大きな部屋が1つ。少し値が張る部屋だ。
今日は昨日帰ってきたばかりなのでダンジョンに行かず、居間でゴロゴロとしていた。
「トウヤさんトウヤさん。」
「なんだ?」
「なんで部屋でもメットを外さないんですか?」
この忙しい生活にも慣れ、毎日に刺激があってそれなりに充実してる今日この頃。しかし、私は1つ不満があった。
それは、彼が秘密主義な事だ。実際の話、このゲームこプレイヤーが秘密主義なのは仕方がない。取得スキルやステータスの漏洩は、死にも直結し兼ねない問題だからだ。それは分かっているのだが、もう少し教えてくれてもいいと思う。せめて、そのメットを外さない理由くらいは教えて欲しい。
というより、寝る直前まで鎧を着込んでいるのは流石に不自然過ぎる。
「秘密だ。」
ほぼ毎日聞いているのだが、毎回秘密と言われて、それで終わってしまう。それ以上聞いても、同じ答えしか返って来ない。
(でも、今日こそは聞き出して見せます!)
「教えて下さいよ〜。」
「秘密だ。」
「トウヤさんはなんでも秘密秘密って、何も教えてくれないじゃないですか?」
「べ、別に問題ないだろ?」
新たな罠を作る手を止めずに答える。
(もしかして…………)
この前彼は「罠作成スキルがあったらカンストしてる」みたいな事を言っていたが、よくよく考えれば道具作成スキルというのがあった事を思い出す。
(いやいや、話を逸らされちゃダメだ私!)
頭をぶんぶんと振り、余計な事を考えないようにして、彼に四つん這いで近づく。ピナが頭から背中に移る。
「教えて下さい。」
「いや、だから秘密だって。」
「1つぐらいいいじゃないですかー!」
肩をぶつけて作業の妨害をしてみる。あっという声と共に、彼の手元が狂う。頭をゴシゴシと掻き毟る動きをして、吹っ切れた様子でこっちを向く。
「諸事情で顔が見せられない。」
「そんな、気にしませんよ?」
「そういう事言う奴ほど怪しいんだよ、ったく…………」
彼は立ち上がり、システムウィンドウを開き、作成中の罠?をしまう。そして、メット+Tシャツというセンスの問われる服装から鎧に着替える。
「ストレス発散に出掛けるぞ。」
「ど、どこに行くんですか?」
「そりゃお前………」
彼はこちらを向き、親指を立ててこう言った。
「対人戦だ。」
★★★
あの後、抵抗するすべもなく無理矢理に連行され、この階層の安全圏内端に連れて行かれた。確かに人気がなく、練習はしやすそうだ。
「まず、基本を教える。」
「本当にやるんですか?」
「大丈夫、武器の修復なら俺が金を出してやる。」
そういうことじゃないんだけどなぁ、と思いつつ、短剣を抜く。新たに新調した【アーベントダガー】の感覚を手に覚えながら、胸の前で構える。ピナは木陰でぐっすりと寝てしまっていて、いつものように自分を補助してくれる存在はいない。
「対人戦において、ソードスキルの硬直は負けも同然だ。だから、この練習中はソードスキルを使うな。」
「ええっ?」
「実際に【閃光】は俺に負けてただろ?多分実力は俺に近いレベルなんだろうが、いかんせん人に戦い慣れてなかったし。あのタイミングでソードスキルはねえよ。」
言われてみればそうだが、ソードスキルは短剣にとって大きなダメージソースだ。中でも、デバフ効果の付くソードスキルは今のところ短剣でしか覚えられない。
「本当に使っちゃダメですか?」
「今回の練習だけな。」
次回もあるのかとげんなりしながら、私はトウヤさんの動きを注視する。大剣を横に構えていて、今にも斬りかかってきそうだ。
「練習開始!」
彼の掛け声と共に、後方に向け地面を蹴り飛ばし、反射的に回避行動をとる。私のいた場所は、既に大剣が走り終えていた。額に冷や汗が流れる。
(これはヤバい……どうしよう…………)
短剣を構え直すが、目の前の練習相手に勝てる気がしない。
「やぁっ!」
「ダメだ!もっと相手の隙を探せ!」
「せいっ!」
「短剣の得意な距離に持ち込め!」
「はあっ!」
「やる気すら伝わってこないぞ!」
のらりくらりと軌道の読めない大剣に翻弄され、攻撃を1発も当てられない。懐に入るどころか、大剣の間合い以上に近づけない。
「はぁ、ちょっと待ってろ。」
やれやれも言った様子で彼は大剣をしまい、システムウィンドウを開く。私のシステムウィンドウが自動的に開き、プレゼントが贈られてくる。
「【バスタードソード】?」
「俺の使ってるやつだ。片手両手どっちもいけるやつ。」
短剣の武装を解除し、【バスタードソード】を装備する。長めの直剣は、確かにどちらにも使えるように設定されている。両手剣しては軽く、片手剣にしては重い、といった武器だ。
「で、俺はこれを装備する。」
そう言って彼の手の中にオブジェクト化されたのはさっきまで私が使っていた短剣、【アーベントダガー】だった。彼は確かめるように短剣を振り、納得したように頷く。
「お手本を見せてやる、行くぞ。」
「え、ちょっと待って下さ───きゃあっ!」
彼は姿勢を低くして近づき、短剣を突き出す。私はおぼつかない手つきで両手剣を使い、ガードを試みる。が、短剣の腹が両手剣の上を滑り、間を縫うようにして突き出される。
自分のメイルにエフェクトが走り、両手剣を吹き飛ばされる。それを狙っていたかのように彼の短剣が光を浴び、ソードスキル【アーマー・ピアーズ】が発動する。
「はぁっ!」
「ぐうっ!」
鋭い一撃に身体が曲がり、一瞬硬直する。全ソードスキルの中でも最も短い【アーマー・ピアーズ】の硬直時間の方が先に終わり、彼は再び短剣を構えてソードスキルを発動する。
「【インフィニット】!!」
短剣上位技の【インフィニット】がフルに直撃し、私の身体を吹き飛ばす。
「ま、ソードスキルってのは格ゲーでいうコンボみたいなもんだ。格ゲーだって最初から大技を決めるんじゃなくて小足とか出して繋げるだろ?」
「よくわかりませんが最初の隙を作れってことですか?」
「それが学べたなら、これをやる価値があったな。特に短剣は攻撃間隔が短いんだからスタンとかデバフ組み合わせて大きくコンボを決めないとダメージ入らないからな。」
そういって彼は私の頭をポンポンと叩く。
「ひゃっ!?」
「す、すまん。」
くすぐったくなってしまい、変な声が出てしまう。
「い、いえ。だだだ大丈夫です。」
両手を忙しなく動かして説明しようとするが、今の気持ちが言葉として出てこない。
「そ、そうか。じゃ……か、帰るか。」
「そ、そうですね。」
この日、私達はずっとこんな状態で夜を明かした。
私の頬がほんのり染まっていたことは、彼には気付かれてないと思う。
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