魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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それは小さな願いでした。

こんなにも広い空の下、わたしはどうして生きているのだろう。

生きる意味って?

だれか教えてほしい。

一人ぼっちは寂しい。

膝を抱えて見上げる空では半分になったお月様が見下ろしていた。

魔法少女リリカルなのはFはじまります。



無印編
001話


 

 

 いつものように図書館へ行き本を借り、いつものようにスーパーへ行き、いつものように料理をし、いつものように一人でご飯を食べ、いつものように面白くもないテレビを見て、いつものように湯船に浸かり、いつものように就寝する。

 

 そこに他人の介入はなく、代わり映えのない日常をただただすごしていく。それがわたし、八神はやての日常。

 

 物語の主人公であるなら日常から非日常へだれかが誘ってくれたり、もしくは自分から飛び込んでいったり。だけど、わたしにそんなことができる足はないし親しい人もいない。親の知り合いというおじさんが私の後見人をしてくれなければ今頃どこかの施設に預かられていたにちがいない。それが今よりも幸せかなんてわからないし、世界にはわたしよりも不幸な子供なんて吐いて捨てるほどいる。そうや、わたしは決して不幸なんかやない。

 

 ……。

 

 ただ目的もなく生きているだけ。

 

 今日もいつものように終わる。

 

 

 そう思っていた。

 

 図書館から借りてきた本を読んでいるといつのまにか時計の針が24時をさそうとしていた。

 

「もうこんな時間…」

 

 あとは電気を消して寝るだけ、そんな時にズンっと重い音がした。

 

 屋根から雪が落ちることはよくあることだけれども、何故だか気になるものはしょうがない。わたしはあまり自由のきかない足を一瞬見下ろした。いつものように重たい足。ため息をひとつついて玄関を出た。去年の暮れから徐々に足が悪くなり、今ではもう歩くのにも苦労する。

 

 口から零れ落ちる白い息。扉の外から冷たい空気が体温を否応なしに奪っていく。マフラーをよりいっそう強く巻いて空を見上げる。

 

 しんしんと降る雪。

 

 痛いくらいの寒さ。静寂。

 

 歩いて、ふと庭に目を向けると人が倒れているのが目にはいった。

 

 あわてて駆け寄り声をかける。

 

「大丈夫ですか?」

 

 声をかけて少しするとその人はもそもそと動き出した。

 

 そこでもう一度声をかけた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 声をかけられた気がした。

 

 徐々に意識が覚醒していくのを感じる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「え?……ああ、問題ない」

 

 ゆっくりとした動作で体を起こす。さて、どうしてこんなところにいるのだろうか。

 

「って、さむっ!?」

 

 目の前には10歳前後の女の子。民家の庭のようなところで雪が積もっている。

 

「いまさらかい!」

 

 なんて声をかけられて、

 

「まあええ。そんなところにいたら寒いやろ。あがっていきます?」

 

 

 女の子の強引な言葉で済し崩し的に家に上がってしまった。

 

 断ろうと思えば断ることができた。だが、女の子の目があまりにも寂しそうで断ることができなかった。

 

 上がる前に自身に解析をかけることで今の状態を把握した。

 

 

肉体年齢、15歳程度

魔術回路、27本正常に稼動

 

 

 さて、実際の年齢はいくつだったか。記憶が断片的にしか思い出せない。

 

 それ以上に気になる点としては、魔術回路とは別にある種の魔力生成機関というべきものが心臓の上に存在していた。どうやら以前の魔術回路同様に不活性らしく活動をしている気配は感じられなかったが、あえて魔力を流してみる必要もないだろう。

 

 それはそうとして、

 

「私に大丈夫かと聞く前に君が大丈夫かね」

 

 彼女は足を患っているらしい。私のためにここまできたことは容易に予想がつく。それだけに手を貸さずにはいられなかった。

 

 所謂お姫様抱っこというやつだ。

 

 あ、とか、え、とか声が聞こえたが無視して抱き上げる。

 

「私のような者に抱き上げられるのは不満に思うかもしれないが、少し我慢してほしい」

 

 何か苦情を言っていたような気がするが、聞こえなかったことにして玄関をまたぐ。

 

 この家のことは既に解析済みで、迷うことなくリビングへ行き椅子に彼女を座らせてあげた。

 

「まずは自己紹介からかな。私は衛宮士郎という」

 

「ならわたしもやな。わたしは八神はやていいます。

平仮名ではやて。変でしょ」

 

 なんて苦笑する。

 

 八神はやて

 

「そんなことはないと思うが。

はやてちゃん、か。うん、いい名前だ」

 

「ちゃんづけはくすぐったいのでやめてもらえへんか?」

 

「なら、はやて、だな」

 

「はい!」

 

 くすくすとくすぐったそうに笑っている。 

 

「ところで君一人か?保護者の方は?」

 

 先ほどまでにこにこいた彼女、はやては途端に少し俯いてしまう。その反応だけである程度のことは予測がつく。

 

「無理に話すことはない。私のことから話そう」

 

「え、はい」

 

 顔を上げて興味を隠し切れない瞳を向けてくる。その可愛らしい仕草に苦笑してしまう。

 

「っと、すまない。私のことなんだが……」

 

 ごくり、とはやての喉が鳴る

 

「所謂記憶障害というやつだろうか、思い出せないことが多々ある」

 

 ぽかんとしたあとで肩がぷるぷるふるえている。

 

「なんやそれー!」

 

 おもしろい子だ。実にからかいがいがある。

 

「声漏れとるわ!」

 

 こんなやりとりをしていてもいいのだが、本題に入ろう。

 

「まあ記憶に混乱が生じているのは確かだ。名前や今までしてきたこととか覚えている、というよりはばらばらのアルバムをみている感覚に近い。そのうち思い出すだろう。まあこの記憶が確かなら今までは海外をうろうろしていた、ということにしてほしい」

 

「へー、外国に行っていたんですか」

 

「ちょっと憧れているものがあってね」

 

「憧れているもの?」

 

 先程よりも期待に満ちた目でこちらをみている。

 

 そうたいした理由があるわけではない。ただ、切嗣が羨ましくて切嗣のなれなかったものを追いかけみようと思っただけ。それ以外には何もない。

 

「正義の味方さ」

 

 ぽかんとしたあとではやては笑い出した。

 

 まったく、人が真剣に言っているのに笑うなんてな。

 

「ごめんなさい、それで行くあてとかあるんですか?」

 

 笑いながらごめんとか、いいけどさ。

 

 しかし痛いところをついてくる。ここが日本なのはわかる、が、ここが本当に俺のいた世界なのか。

 

「うん、と。ない、な」

 

「なら、少しの間でも滞在していかれます?」

 

「いや、さすがにそれは迷惑になるんじゃ……」

 

「いやいや、迷惑とかそんなのないですからぜひとも」

 

「いやいやいや、そうは言っても」

 

「いやいやいやいや」

 

「いやいやいやいやいや」

 

 

……

 

 結果からいうと八神家で世話になることになった。

 

 全く、あの目をされたら断ることなんてできはしない。

 

「ごめんなんやけど、今日はここのソファーを使って寝てもらってええですか?」

 

「ああ」

 

「それじゃ」

 

「はやて」

 

「なに?」

 

「おやすみ」

 

 一瞬目が点になった後、これまでにないくらい素晴らしい笑顔が返ってきた。

 

「おやすみなさい、衛宮さん」

 

 送っていこうかという私の提案に、女の子の部屋にそう簡単に入れるとは思ってないですよね?なんておっしゃいました。全くもってそのとおりである。

 

 考えるべきことはいくらでもある。でも、今日このときは惰眠をむさぼるとしよう。

 

 全ては次に目が覚めたときから。

 

 意識は一瞬にして闇に飲まれてしまった。

 

 





指摘事項等あれば連絡お願いします。

あと、ゆっくり更新していきます。


20120728 改訂
20130604 改訂
20150504 改訂

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