魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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それは小さな違和感でした。

いつもの、いつものようにすごしているのにどこか違う。

それは目に見えない歯車が回りだしたようで……

魔法少女リリカルなのはFはじまります


014話

 

 

 4月1日、世間で言うエイプリルフール、四月馬鹿。

 

 さしてわたし達には関係ありませんでした、まる。

 

 士郎さんは喫茶店にアルバイトに、はやてさんは図書館に読書をしに、まる。

 

 と、いつもと同じことをする。

 

 

 お昼も近くなりわたしは『くろーばー』に向かう。

 

「こんにちは」

 

「こんにちは、はやてちゃん」

 

 マスターがこちらを見てニコニコしている。

 

「士郎君は、もうちょっとかかるかな。

少し待っててもらえるかな」

 

「はい」

 

 士郎さんはもう少し時間がかかるということで、カウンターの一番左端、角の席の近くに行く。

 

「ん?もうそんな時間か。

はやてちょっと待っててくれ」

 

 士郎さんは私に気がついてカウンター席に私を座らせてくれる。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 私がこうして待つときは大体この位置や。

 ここだとあんまり他の人の迷惑にならないし、士郎さんが目の前で作業しているのを見ることができる。

 

「ほい」

 

 士郎さんは紅茶を私の前にコトンと置く。

 

 きっと士郎さんのお給料から引かれているのだと思うけども。前に言ったら遠慮すんなって言われたので、今では遠慮なんかしていない。だっておいしいんだもん。

 

 

「待たせたな」

 

「ほんとやでー」

 

「ごめんごめん」

 

 笑いながら頭をごしごししてくるのはいつものこと。

 

 お弁当は士郎さんがアルバイト先に持って行っている。わたしが持っていたら邪魔になるだろうという判断からや。

 

 

 昼食は図書館の公園でいただきました。

 今日のお昼も文句なしにおいしかった。さすが士郎さん。

 

 

 士郎さんはまたアルバイトに行き、わたしは再び図書館で本を読んでいる。

 勉強は午前中だけって決めてる。

 

 気がつけば閉館まであと少しとなっていた。

 

 士郎さんに急かされて読んでいた本をパタンと閉じる。

 本は持ってもらって、元あった場所に返していく。

 わたしがいなくても背表紙の番号で返却する場所はわかるんだけど、届かない場所を除き、ちゃんと元あった場所にわたしが戻すように言う。言われなくてもちゃんと元あった場所に戻しますって。それでも本を持ってくれるところに士郎さんの優しさが伺える。

 

 

「今日の夕飯は何にしようか」

 

「えーっとね、どないしよ」

 

 士郎さんが車椅子を押して夕飯を考える。いつもの光景だ。

 最近では日が落ちるのもだいぶ遅くなり、この時間でも明るい。

 

 

 いつもお世話になっている商店街には行かず、つい最近オープンした―――といってももう3ヶ月は経っているけど―――スーパーMIKUNIYAへ行く。この辺ではかなりの大型店である。マニアックな商品も揃えていて、商店街では購入できない品もある。

 わたしからすると、一箇所で必要なものすべてが揃えられるので大いに助かる場所ではある。でも、商店街特有のあのあたたかさ?言葉にしにくいけども、こう人と人との触れ合いというのも最近になっていいものだな、って思うようになってきた。

 

「納豆が安いらしいな」

 

 って考え事をしていたらなんか不吉なワードを言われた。

 ちょい待ち

 

「なっとぉ!?」

 

 わたしはあんまり、というか、できるならば納豆は食べたくない。

 あのねばねばと臭い。腐った豆じゃないかと。それは豆腐か。

 

 断固たる決意をもって、納豆の購入を拒否しましたとも。

 おとなになって食べれるようになってればもーまんたい。

 

 士郎さんは鮮魚コーナーの今日の広告の品である海老とにらめっこをしている。

 

「海老かぁ」

 

 えびと言ったら

 

「エビフライやな」

 

「そうかなー」

 

「なんやあかんの?」

 

 有頭海老と無頭海老、値段はどちらも一緒。

 

「どっちがいい?」

 

「食べやすさで考えたらこっちなんやけど、心情的には頭があったほうが……。

悩むところや」

 

 食べやすさ的には無頭海老。有頭海老の頭付きは、ほら口の中にぐさぐさ殻っぽいのが刺さるでしょ。地味に痛いから困る。

 でも、頭が付いているという付加価値というか豪華さというか、見て楽しむ、そういうのも含めて料理なんだと読んだ本に書いてあった気がする。

 

「よし、無頭海老だな」

 

「わたしに聞いた意味あったん?」

 

 わたしが優柔不断なのか。

 

「大いにあったさ。

はやてが気づいていないだけで、すごい参考になったよ」

 

 なんか納得できない。

 納得はできないけど、おいしい料理を作ってくれそうなので前借ということで許します。

 

 あと、タルタルソース用になんとかってマスタードも買い物カゴに吸い込まれていった。

 

 

 海老は火が通りやすい。

 衣を付けてさっくり揚げる。

 タルタルソースにはマヨネーズに粗く切ったゆで卵、水気を取ったピクルスや香草と購入したマスタードを入れてざっくりと混ぜ合わせて完成。

 野菜と共に盛り付けたら、タルタルソースにオリーブオイルを少し垂らして完成。

 

「「いただきます」」

 

 

 美味しい夕食を終え、ごろごろと本を読むのもいつものこと。

 

「お茶にしないか?」

 

 夕食後一時間か二時間後くらいに士郎さんとお茶をする。

 あまり遅くならないように、という配慮なのだろう。

 

 今日は『くろーばー』でクッキーを焼いた、というわりには数が少なかった。

 後はマドレーヌがでてきた。

 

「はやてが食べ過ぎて真ん丸にならないように、ね」

 

「なんやそれー。

ひどーい」

 

「今はそうではないけど、そのうちそうなる可能性があるってことだからな」

 

 士郎さんの料理は美味しすぎてついつい食べ過ぎてしまうのはしょうがないと思うんや。

 あとお菓子もおいしいし。

 

 ペラッ

 ペラッ

 

 紙をめくる音だけがする。

 いや、時折くぐもったクッキーの砕ける音がする。

 

 こうして夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 4月にはいって、士郎さんはどこかそわそわした雰囲気を醸しだしている。

 

 はじめは気のせいかな、と思ったけども、ふと空を見上げたり、ちょっと用事ができた、と言ってどこかへ行ったり。いったと思ったら本当にちょっとした時間で戻ってきたり。

 

 聞いてみても、上手い具合にはぐらかされてしまってちゃんとしたことを聞くことができなかった。

 

 士郎さんの事だからちゃんとした理由があってわたしには教えてくれていないんだと思う。思いたい。

 

 心在らずというわけではなく、ちゃんと日々をすごしているからこその違和感。

 

 わたしがこれ以上言っても無駄だろう。

 時間が解決してくれることを祈りつつ、毎日を享受するしかない。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 4月に入り、今まで感じなかった魔力を感じるようになった。

 

 いくら鈍感な俺でも感じるような魔力。

 

 魔力を感じて行ってみるものの、既に事は終わっていることが多い。

 

 深夜であれば、俺も気兼ねなく動くことができるのだがそうはいかない。

 

 救いなのは人的被害がないことだろうか。

 

 はやてには俺が平常時とは異なるという事がわかっているみたいで、俺のことを心配してくれている。はやてに心配させるなんて俺もまだまだだな。

 

 

 

 つい先日のことだ。

 またしても大きな魔力を感じ、現地へ赴いた。その際に、マスターには急用ができたから、といって急に休んで迷惑をかけてしまった。

 

 

 特に喫茶店から離れていて、時間がかかった。

 海鳴市は大きい。そう、例えば今の俺が魔術を使用してだれにも見つからずに走ったとしても一時間はかかるくらいに。

 

 神社。

 石段に多少の損害はあるけど、特に問題はなさそうだ。

 

 と、そこで女性が倒れているのを発見した。

 急いで駆け寄る。首筋に手を当て、脈を測る。ただ気絶をしているだけと判断をした。脳震盪を起こしている可能性もあるが、呼びかければ直ぐにでも目を覚ましそうだ。

 

 どうするべきか。このままにしておくのも問題だし、救急車を呼ぶのが一番いいのだろうけども。昨今、無闇に救急車を呼びすぎるという事が問題視されていることから、呼びかけて起きないようであればやはり救急車を呼ぶべきであろう。

 

「大丈夫ですか?」

 

 あまり揺らさない方がいいとは思いつつ、頬を軽く叩く。

 

「ぉん……

ぁっ?」

 

 よかった、目が覚めた。

 

「あ、あれ?

転んで頭でも打ったかな」

 

「大丈夫そうですね」

 

 はじめてこちらに気がついたかのようで、目を見開いていた。

 

「貴方がここで倒れていたので、救急車を呼ぼうかと思ったんですよ。

でも、その様子だと大丈夫そうですね。でも、一応念のために明日にでも病院の方へ行ったほうが良いと思いますよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「立てますか?」

 

 手をさし伸ばすと、吃驚しながらも手を掴んできた。

 と、足元に子犬がやってきた。

 

 わんわん

 

「こらー。

迷惑かけちゃダメでしょ」

 

 俺の脚に纏わりついていた子犬を拾い上げる。

 

「本当にありがとうございました。

お礼は」

「お礼なんていいですよ。

偶々ここを通りかかっただけですし」

 

 言葉をかぶせる。

 お礼がほしいわけではない。

 ありがとう、その言葉だけで十分だ。

 

「そう、ですか」

 

「先程も言いましたが、明日には病院に行ってみたほうがいいと思いますよ」

 

「わかりました。

それでは」

 

 女性は子犬を抱えて、石段を降りていった。

 

 さて。

 

 草むらに隠れている女の子とそのペット。どうすべきか。

 なぜ女の子というのがわかるか、というと。いや、見えてるからね。

 本当どうしようか。

 

 きっとさっきまで何があったのか見ているのだろう。だから隠れている。

 もしくは、これを起こした犯人。

 

 後者の確率が高い。

 

 しかも、僅かに魔力を感じる。

 ペットらしき動物からも。

 

 

 

「何考えているんですか?」

 

「ん、いや」

 

 仕事中でも少し考え事をしてしまうときがある。当に今のような状態だ。

 カウンターには最近ここの常連になった高町美由希。まだ数回しか来店していないけど、これからもよくここを利用しそうだ。ここに来るのは俺が前に言った言葉が原因か、もしくは敵情視察ということで家と同じ喫茶店を監視というかそんな感じで来ているのかもしれないけど、そういったことは本人にしかわからない。でも、ぴりぴりとした雰囲気はない。

 友人と来ることもあれば、今のように一人で来ることもある。

 一人できているときは俺と少し話をしたり、本を読んだりまったりしているようである。

 

「そろそろ始業式じゃないかな」

 

「実は今日がその始業式だったんですよ。

始業式が終わってすぐにテストで大変だったんですから」

 

「で、手応えの方は?」

 

「それは聞いちゃいけません」

 

 少し間を空けてお互いにクスリと笑う。

 

「でも、3時間もテストなんてきつかったんだから」

 

「そうだろうな」

 

「頭使ったら甘いものが食べたくなるよ」

 

「自分の家で食べればいいんじゃないかな」

 

「このお店の売り上げに貢献してあげてるのだよ」

 

「それはありがたき幸せ」

 

 もう一度笑いあう。

 

 初めてこの店に来てから高町恭也はここに訪れていはいない。

 ということは、約束を守っているということだろう。ありがたいことだ。

 

「美由希ちゃん、これは私からです」

 

「いいんですか?」

 

「常連さんになってくれそうですからね」

 

「ありがとうございます」

 

「と言っても士郎君が作ったものなんですけどね」

 

 マスターと高町さんがなんか話をしている。俺がいないところで話が進んでいる気がするが、きっと気にするようなことでもないんだろう。

 

「ご馳走様でした」

 

「またきてください」

 

「はい。

衛宮君も今度うちに来てね」

 

 突然話を振られても困る。仕事中だし。

 あと、なかなか喫茶『翠屋』には行きにくい。何しろ、そこには高町恭也なるちょっと危ない人がいるからだ。

 

「気が向いたら?」

 

「もう、絶対来てよね」

 

「あー、はいはい」

 

 こうとでも言っておかないと仕事にならないような気がしたので曖昧に返事をする。

 いつ、という指定がない以上、その時間指定の決定は俺にあるといってもいいだろう。そう、ほんとに気が向いたらはやてと一緒に行こう。はやてはあそこが気に入っているらしいからな。

 

 

 




更新する余裕がありましたので。


20130103  改訂

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