魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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それは小さな贖罪でした。

私がもっと頑張っていたら、気がついていたのに…

私の心は晴れない。

もうこんな間違いは犯さない。

私自身に誓う。

魔法少女リリカルなのはFはじまります


015話

 

 

 俺にもわかるような膨大な魔力の放出を感じた。

 

 ここは図書館で、いつものようにはやてと一緒に来ている。

 幸か不幸か、魔力を感じたのはここからだいぶ離れた場所である。

 

「まったく、こんなところでこんな馬鹿でかい魔力を出すやつはだれだ」

 

 独りごちた。

 

 ここにきて一ヶ月強は魔術師の痕跡を探し、この周辺に魔術師がいないと思っていたが、早計だった。4月になり、人為的な魔力の発露が何度も感じられた。魔術の基本は秘匿。人に悟られずに一人前。半人前の俺では・・・・・、やめよ、悲しくなってきた。

 

 目下、目的はこの原因を取り除くこと。

 

 強化と認識阻害の魔術を用いて、建物の上をかけていく。

 

 はやてには電話して、急用ができたと言っておいた。もちろん閉館時間までに帰ってくるように言われたのは仕方がない。俺は承知し、魔力が集中した場所へ急ぐ。

 

 10 km先にそれはあった。

 

 驚くべき大きさの植物があった。いや、植物というには憚られるほどのものだが、それ以外に表す言葉を俺は知らない。明らかに魔力を感じ、その大きさは高さが50 m、範囲に関しては500 mほどはあるだろうか、こうしているうちにもその植物は範囲を広げている。

 

 アインナッシュの森ほどではないが、魔力に満ち、ビルや建物を植物群が飲み込んでいく。巨大な根が道路を這い、幹が建物を覆う。いや、アインナッシュの森は本当に死ぬかと思った。カレー司祭がいなければどうなっていたかわからない、って思考が別のところへいってたな。

 

 しかし、と、思わず舌打ちをする。

 

 素人か?これを放ったやつは。

 

 秘匿も何もされていないし、この魔力。ただの暴走ではないか。

 

 さらに速度を上げようと筋肉に命令を送ろうとしたとき、俺は不覚にも一瞬思考を停止させてしまった。

 

 一際高い建物の屋上にその女の子はいた。

 

 女の子が一瞬ピンクの光に包まれたかと思うと、魔力が迸り、その姿を変えた。

 

 まごうことなき、魔法少女がそこにいた。

 

 ―――、ってなんでさ。

 

 ぽつりと口から言葉が漏れた。変身するのはまだわかるけど、いや、わからないけどさ、一瞬裸になるってどうなのよ。かなりの動体視力を、さらに解析に長けている俺をもってしてみることができるくらいだから、一般人には見えないと思うけどさ。

 

 よく見ると、つい先日、神社で見かけた女の子だった。

 やはり何らかの関係者というのは間違っていなかった。

 

 女の子が魔法のステッキ(?)を振りかざすと志向性を持った魔力が出され、あたりに散っていく。

 

 もはや隠す隠さないのレベルではなく、見せ付けているのではないかと思ったほどだ。頭が痛くなる。一般人に見られて困るということはないのだろうか。

 

 そして、放心する俺を尻目にまたも魔力が放出される。もちろん、あの女の子からだ。なんか魔法の杖のようなものに話しかけてるし、って変形した!?独り言が多い気がするけど、肩にフェレットのような動物を乗せていることからあの子の使い魔かもしれない。使い魔を見た目で判断することは危険で、彼女のように膨大な魔力を纏っている子の使い魔だとしたら。唇を読む。

 

「見つけた!

すぐ封印するから。―――、できるよ!大丈夫!

・・・・・・そうだよね、レイジングハート」

 

 おいおい、そんなものをこの街中で放つのか。

 

 先程までとは比にならない魔力を感じる。

 

「リリカルマジカル。

―――ジュエルシード、シリアルⅩ!

封印!!!」

 

 瞬間、極光が空を駆けた。ピンクなのがイマイチ雰囲気を台無しにするが、魔力量だけで見れば、とんでもないことだ。辺り一帯を火の海にしてもおかしくない。俺の足ではどう考えても間に合わない。

 

 光は植物群の中央、一際大きな大木に命中し、光があたりを染めた。

 

 光が止むと、そこにはすでに植物群はなかった。

 

 もちろん街が焼け野原になっていたということはなかった。俺の知る限り、このような魔術は、ない。俺の知らない魔術の可能性というのも考えられる。が、前提となる魔術の基礎が異なっていたとしたら?

 

 大きな魔力の塊が少女の下に行ったことから、少女はこの原因となった魔力の塊を集めているのかもしれない。憶測だが、シリアルⅩということから最低でも10はあるということだ。いくつか集めているのかもしれないが、まだこんなことがあるかもしれない。

 

 変身も解けて

 

「いろんな人に迷惑かけちゃったね。

私気づいてたんだ。あの子が持っているの。でも、気のせいだって思っちゃった」

 

 悪、というわけではないのだろう。その、ジュエルシードだっけか、それを善意で集めているようではある。しかもおそらくははやてと同い年くらいの女の子が、だ。その子は後悔しているようにも見える。俺にはわかる。これを放置していればさらなる被害が出たということが。

 

 女の子は建物の中に姿を消していった。

 

 俺はけが人がいないかどうか、いた場合は手当てなどをしなければならないし、もっとも被害の大きかったと思われる場所まで急いだ。

 

 

 ひどい有様だった。

 

 アスファルトはめくれ、家屋は全壊しているものまである。すでに消防、警察と出動しているようだ。救急車も到着しており、救急隊員が傷病者の手当てをしている。

 

 !

 

 走っていると、半壊した建物から声が聞こえる。聞こえるか聞こえないか、その程度だが。

 

 後ろからとめる声が聞こえるが、気にして入られない。助けを呼ぶ声が聞こえれば助けないわけにはいかないのだ。

 

 一戸建ての家の一階が潰されている。

 

 確かに声が聞こえる。すぐさま解析の魔術をかける。一階部分は潰れているが、壁際に大きな空間ができている。壁と冷蔵庫、柱がちょうどよいバランスで潰れずに空間ができたのだろう。しかし、あまり時間もなさそうだ。

 

「いま助ける」

 

 瓦礫をどかしながら近くにいた人に声をかけ、助力を得る。

 

 五人の人間でどんどん瓦礫をどかして隙間が開く。そこに体をすべり入れて、見つけた。壁の直ぐ傍だったのが幸いしたのだろう、そこに倒れていた。

 

「大丈夫か?

今から助けるからな」

 

「はい……」

 

 意識はしっかりしているのだろうが、左足が冷蔵庫の下敷きになっていた。少なくとも骨折。床をじわりと血が濡らしているから他にも受傷部位があるのだろう。

 

「投影、開始」

 

 干将のみを投影し、冷蔵庫を輪切りにしていく。

 何の神秘も宿していない冷蔵庫はそれこそ豆腐のように切れていく。そう時間もかからずに冷蔵庫をどかし、その人と進入した隙間まで行く。その隙間は俺が侵入したときよりも大きくなっていて、俺がここに入ってからも瓦礫の除去をしていたことがわかる。

 

「ひっぱってくれ!」

 

 負傷していた女性はそのまま外に出され、待機していた救急隊員が応急手当をして救急車に乗せられた。

 

 その後も負傷者の捜索や迷子を警察に預けたりと忙しく動き回った。

 

 消防の人に聞いた限りでは、この規模の災害にもかかわらず死亡者がいない言っていた。

 まさに奇跡的な事だ。

 

 途中ではやてから電話があった。

 電話を受け取ったとき、はやてはえらくご機嫌斜めだったけど事情を説明したらしたでまた機嫌が悪くなった。現状を考えると、暗くなるまでは手伝ってから帰るということを伝えた。すでにここ一帯に住んでいた人員の確保は行われているから暗くなってまで作業はしないと思われる。明日になれば本格的に人員が投入されるだろう。

 

「できることはここまで、かな」

 

 住んでいた人達は近くの小学校や中学校の集められてそこで何日か過ごすことになりそうだった。

 

 ちょうど、ボランティアとして炊き出しの手伝いを終えたところだった。

 ご飯を炊いて豚汁をつくって。

 

 明日の朝からは国が人員を割いて炊き出しなんかをするらしい。

 大規模災害というわけではないから流通に問題があるわけではないから食に関しては問題ないだろう。

 

 しかし、

 

「どうしたもんかな」

 

 考えるべきことはたくさんある。

 まず考えないといけないのは、帰ったときになんてはやてに言うか、だ。

 

 

◇◇◇◇◇ 

 

 

 士郎さんから連絡があって急用があるからちょっと出てくるというものだった。

 連絡がある。ということはすでに図書館にはいなんだろう。

 

 でも、閉館までには戻ってきてほしいな。

 

 

 閉館の時間が近くなっても士郎さんはやってこないし、電話もうんともすんともいわないし。

 

 携帯電話を取り出し、士郎さんに連絡を入れる。

 

「もしもし」

 

「なんだ?」

 

 なんだじゃありません。

 というか、後ろがすごく騒がしくない?

 

「そろそろ閉館時間なんやけど」

 

 わたしは不機嫌丸出しで言う。

 

「えっ!

あっごめん!」

 

 士郎さんは慌てて謝ってくる。それだけで、ちょっと気分が晴れた。

 

「もうっ。

で、なんかあったん?」

 

 士郎さんが約束を忘れるということは少ない。きっとなんかあったんだと思う。

 

「ちょっとな。

詳しくは家に帰ってから話すよ。

それとな、こっちも手が離せないというかなんと言うか、今日は一人で帰ってくれないか」

 

「へー。

簡単でいいから説明してもらわんとあかんな」

 

「あー、事故があってその手伝いをしているんだ。

暗くなったら帰るからさ」

 

 はー。

 

「わかった。

それよりもあんまり無茶せんといてよ」

 

「それは大丈夫だ」

 

 大丈夫じゃないから言ってるんだけど。

 

「とにかく、帰ってきたらちゃんと説明ね」

 

「わかったよ。

気をつけて帰れよ」

 

「こんな美少女やからね。

攫われちゃうかもよ」

 

「わかったわかった」

 

 もう!

 

「ちゃんと帰ってきてね、じゃ」

 

 ピッ軽快な音をさせて電話をきる。

 

 

「一人で帰るのって久しぶり、なのかな……」

 

 士郎さんが来てからこうやって一人で帰ることが少なくなっていた。ううん、なくなっていた。士郎さんはいつでもわたしの傍にいてくれてるから。

 

 いつも士郎さんと帰っている道は、なんでかいつもよりも暗く遠く感じた。

 

 

「まだ帰ってこないのかな……」

 

 久しぶりに夕食の準備を独りでした。

 まだまだ士郎さんには追いついていないけど、それなりだと思う。

 

 まだ帰ってきそうにないので、テレビをつける。

 丁度、海鳴市のことをやっていた。

 

「…きな植物が出てきたと思ったらその辺の建物を飲み込みながらおおきくなったんだよ。それから突然光って消えたんだ」

 

「このように通常では考えられないような大きな植物の目撃情報が多数あります。そしてそれが一瞬のうちに消滅してしまうという摩訶不思議な現象。それが何を意味するのかはわかりませんが、このような災害をもたらしたという事実は消えません」

 

 ニュースキャスターが何か言っているが、それよりも気になるのは海鳴市でそんな災害があったということ。きっと士郎さんはその事を知ってそこにいったんだろう。

 

 瓦礫の撤去、炊き出しの影像が流れるが、そこには士郎さんは映ってはいなかった。でも、士郎さんがそこにいたんじゃないかっていう確信めいたものがあった。

 

「ただいま」

 

 玄関の扉をあける音ともに、今一番聞きたかった士郎さんの声がした。

 

 玄関まで行って声をかける。

 

「おかえり」

 

 

 そのまま靴を脱いで手を洗うとテレビの前に立った。

 わたしはその後ろをついていった。

 士郎さんの表情はうかがうことはできない。

 

「ご飯にしようか」

 

「うん」

 

 

「「いただきます」」

 

 

「これおいしいな」

 

「でしょ、ちょっと自信あったんや」

 

 士郎さんはいつものようにわたしの料理を褒めてくれている。

 

 本当は聞きたいことがあったんだけど、あんまり聞くような雰囲気じゃないような気がする。士郎さんはいつものとおりなので、余計にそう思えるのかもしれないけど。

 

 いつものように楽しくご飯が終わった、そう思っていた。

 

「聞きたいことがあるんじゃないか?」

 

 そういわれてドキッとした。

 

「なん、で?」

 

「そんな顔をしてるぞ」

 

「そう……」

 

 どういっていいものかどうか悩む。

 

「士郎さん、士郎さんがあんな災害を見て指をくわえているような人じゃないことはわかっているつもりや!

でもな、士郎さんじゃなくても。警察の人とかでもできるんやないかと思うんや!」

 

「はやて……」

 

「士郎さんがやらないで他の人に任せるっていうがわたしの我侭だっていうのは理解しとるで。そのほかの人にも大切な人がいて大切に思っている人がいることも。でもな、わたしは士郎さんを大切に思っとるんや」

 

 わたしには士郎さんしかいない。

 グレアムおじさんや石田先生もいるけど、それでもや。

 

「なんで士郎さんがそこまで頑張らんといけんの?

他の人に任せればいいことだってたくさんあるんやないの?」

 

「はやて」

 

「士郎さんは勝手や」

「はやて」

 

 士郎さんの言葉が響く。

 

「俺は俺だからさ。夢を諦めきれないんだ」

 

「…前に言っていた、正義の味方?」

 

「そう、目の前にだれか苦しんでいたり、助けを求めていたら、その助けになりたいんだ」

 

「……」

 

「その誰かにははやても含まれているんだぞ。

はやてだけじゃなくて、これからできるだろうはやての友達もな」

 

 士郎さん

 

「そんな顔をするな。

俺がこんなところでどうにかなるような奴じゃない事はわかっているだろ」

 

「うん、でも約束して。

無理はしないで」

 

「ああ。

無理はしないよ」

 

 無理は、か。

 

 でも、士郎さんにはこれが精一杯なんじゃないかと思う。

 

「約束や」

 

「約束だ」

 

 わたしと士郎さんは小指を絡めて指きりげんまんをした。

 士郎さんの妙に暖かい指が離れるのが少し寂しかった。

 

 






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