魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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それは大きな災害でした。

わたしの町で起きた、わたしが初めて目にする。

そんなところに士郎さんは行っていた。
誰にも言われず、自分の考えで。

それはとてもすばらしいことなんだと思う。

でも、わたしは

魔法少女リリカルなのはFはじまります



016話

 

 

「で、なんではやてが俺のベッドにいるんだ」

 

「なんでって、士郎さんが運んでくれたからやろ」

 

「いや、まあそうなんだけどさ。

そうじゃなくて、なんでまた俺と一緒に寝たいと」

 

「士郎さんはわたしのこと嫌い?」

 

「そういう言い方は卑怯だろ」

 

 はあ、と何か諦めるようなため息を一つ。

 

 

 食事の後はいつのように一緒にお風呂に入って、歯磨きしてとりとめのない時間をすごした。

 

 寝る前になって、わたしが士郎さんに一緒に寝たいと言ったときは大いに驚いていた。そんなに驚くことやないと思うんやけど。

 よいではないか、よいではないか戦法で士郎さんを丸め込んで今に至るというわけや。

 

 しかし、いつ見ても士郎さんの部屋には荷物が少ない。

 というわけで、ここの本棚にわたしの本を少し入れさせてもらった。

 わたしがここで寝る前に本を読むように。

 

「これからもここで寝るような言い方だな」

 

 もちろんですよ。

 ちょくちょく寝にきます。

 

 さて、枕元の電気スタンドに加えて、部屋の電気はつけてある。

 いつもなら一旦、ベッドの上に行くと部屋の照明を消すのが面倒なんだけど、士郎さんがいるから大丈夫。消してもらえる。士郎さん様様や。

 

「あれ?」

 

 ここで一つ気になることがあった。

 前からこんなものおいてあったっけ?

 

「ん?」

 

「この宝石綺麗やね」

 

「これか」

 

 電気スタンド脇に置かれたそれ。

 紅く、少し古そうな装飾が施された宝石。

 

 士郎さんはそれをとってわたしにわたしてくれる。

 

「いつのころだったかずっとそれを持っていてな。ま、今でも持っているわけだ。

さすがに寝るときははずしているけどな」

 

 言葉通り、いつも身につけているのだろう。

 

 スタンドの光を透かしてみると、その光はぼやけていて透明度はあまりよろしくない。でも、それがその古さを現しているようにみえる。

 

 士郎さんにその宝石をかえすと、元あった位置に戻した。

 

「さて、そろそろ寝るか」

 

「えっ。

もうちょっとだけ読ませてくれてもいいと思うんやけど」

 

 ちらりと時計を見ると23時よりも少し前。

 

「一日中本読んでてよく飽きないな」

 

「それは褒め言葉?」

 

「そう受け取ってもらってもいいぞ」

 

 ぶー。

 

「12時までな」

 

「はーい」

 

 またわたしと士郎さんは黙々と本を読み始める。

 ゆったりとした時間。

 

 ここに紅茶とクッキーなんかがあったら言うことないんだけど、そう贅沢はいってられない。

 この時間だって奇跡のように大切な時間だから。

 

 

 

 起きると士郎さんが机について本を読んでいた。

 

「おはよう」

 

「うん、おはよう」

 

 眠い目をごしごしとこする。

 まだ4時にもなっていない……

 

「まだ寝ててもいいぞ」

 

「そう、する」

 

 ぽふんと体を預ける。

 

 

 

 起きると士郎さんが机について本を読んでいた。

 

「おはよう」

 

「うん、おはよう」

 

 眠い目をごしごしとこする。

 まだ5時にもなっていない……

 

 なんだかさっきもこんなやりとりがあったような。

 頭がまだうまか動いていない気がする……

 

「まだ寝ててもいいぞ」

 

「そう、する」

 

 ぽふんと体を預ける。

 

 

 

 起きると士郎さんが机について本を読んでいた。

 

「おはよう」

 

「うん、おはよう」

 

 眠い目をごしごしとこする。

 もうすぐで6時になろうかという時間

 

「さて、俺はそろそろ朝食の準備をするけど、はやてはどうする?」

 

「わたしも」

 

 と言いながらも体は傾いていく。

 

 パタンと読んでいた本を閉じてこちらにやってくる。

 

「ふひっ!?」

 

 声が漏れた。

 

 なんでか士郎さんがわたしのほっぺたをつまんでぐにぐにやっている。

 

「起きるのか起きないのか」

 

「ほひふほひふ」

 

「なに言ってるんだー?」

 

 そんなににやにやして、何が楽しいのか。

 

「さて、冗談はここまでにして」

 

 冗談でこんなことはしないでほしいんやけど。

 つままれていたほほをさする。痛くはないけど、なんとなく?

 

「目が覚めたか?」

 

「優しく起こして欲しかったなー」

 

「十分優しかったと思うけど」

 

 むー

 

「そうむくれるな。

ほら、下行くぞ」

 

 そう言ってわたしは士郎さんの脇に抱えられる。

 

「ちょっ、この扱いなんなん!?」

 

「うん?

どこからともなく声が聞こえた気がしたが……ふむ、気のせいか」

 

「聞こえてるやろ!」

 

 じたばたするけど、士郎さんはびくともしない。

 もっとも、ここで落とされても非常に困るわけだけど。

 

「今日もいい天気になりそうだなー」

 

「でっかい独り言とか傍から聞いたらやばい人なんやけどな」

 

「なんだ、はやて。

俺の脇に挟まれてどうしたんだ?」

 

「わかっててやってるよね?ね?」

 

「もちろんじゃないか」

 

 すごい素敵な笑顔をしてくれました。

 

「さあ、キッチンという戦場へいざ行かん」

 

 わはは、なんて言いながら階段を下りていき、そのままソファーの上にわたしを置いてくれた。

 

「扱いひどくない?」

 

「何を作るべきか」

 

「聞いてや!」

 

 がっくりとうなだれると、士郎さんが苦笑しながら車椅子を持ってきてくれた。

 

「何があったのか知らないけど、そう落ち込むな」

 

「だれの、はぁ」

 

 諦めが肝心とは誰が言ってたのか。

 

「で、何を作るん?」

 

「そうだな……」

 

 

 朝食を終えて、テレビをつけると昨日のことをやっていた。

 

 改めて思う。

 

「ひどいね」

 

「ああ」

 

 士郎さんは腕を組んでテレビを見つめている。

 すでに警察、消防それに国からの手が入っている。

 

 付近の大企業は独自にボランティアを組織してその支援に当たっている。

 

 わたしから見ても、個人が何かすると足並みを乱してしまうのではないかと思う。

 

 さて、と士郎さんは呟き、

 

「天気もいいし、布団でも干すか」

 

 さっきとは一転して優しい微笑みをこちらに向けてきた。

 

「うん」

 

「その前に、着替えてからだな。

ついでに洗濯もするからパジャマは洗濯機に入れておいてくれ」

 

「はーい」

 

 車椅子に乗せてもらって部屋に行って服に着替える。

 時間のかかっていた着替えも、今ではだいぶ馴れてそれほど苦もなく着替えることができるようになっていた。

 

 トントン

 

「はやて入るぞ」

 

「はーい」

 

 入ってくるなり、脱がれたパジャマを拾い上げて、布団の上に座っていたわたしに押し付ける。そしてわたしを持ち上げて車椅子に乗せる。

 

「それ持って行ったら、洗濯機を回しておいてくれ」

 

「はーい」

 

 よいしょ、という掛け声をして布団を持ち上げる。

 そのまま危なげない足取りで部屋を出て行った。

 

 わたしは言われたようにパジャマを持って行って、洗濯機の電源を入れる。

 

 軽い電子音がしてぐるんぐるんと洗濯物がまわる。ジャーっと水が注がれ、指定された量の液体洗剤と柔軟剤を入れる。

 ぱたんと蓋を閉めてしまうと、なんとなく手持ち無沙汰になってしまった。

 士郎さんが戻ってくるまで本でも読もうかと考える。

 

「そんなに洗濯機は面白いか?」

 

 不意に後ろから声がかかって

 

「確かに、その洗濯の渦には神秘を感じるけどさ、蓋を閉めてたらそれも見えないぞ」

 

 なんて言おうか迷って、膨らませるような話題でもないと結論を出した。

 

「もう布団干しおわったん?」

 

「まあな」

 

「で、何で士郎さんはここにおるん?」

 

「特に用事はなかったんだけど、はやてが遅かったからな」

 

「ちょっとぼーっとしてただけやで」

 

 そうか、と言ってわたしの車椅子の後ろに回って押してくる。そのままリビングに連れて行かれる。それからなんでか抱えあげられて庭に出た。よくお世話になっているレジャーシートの上に座らされた。

 士郎さんはテキパキと魔法瓶に入ったお茶とかりんとうを準備する。

 

「布団とかシーツが干されてる光景ってよくないか?」

 

 そう言ってわたしに温かい緑茶をわたしてくる。

 

「あー、なんかわかるわ」

 

「だろ?

公園とかもいいけど、庭もあんまりすてたもんじゃないだろ」

 

 確かに布団がいい具合にアクセントになってる気もする。

 

 そのまま、ただぼーっと雲が流れるのをみたり、肌に優しく触れていく空気の流れを感じたりしていた。

 士郎さんは何を思っているのかな、と何の気なしに考えた。

 

 見ると、士郎さんは空を見上げていた。

 ううん、空よりももっと先。

 何かがそこにあるのか、何の感情の篭っていない視線の先を私も見てみる。

 

 と、ピーっとやや硬さのある無機質な音が鳴り響いた。洗濯物が終わった音だ。

 

 やれやれ、と呟き緩慢な動きで体を起こし、のっそりとした足取りで室内に入っていく。

 

 数分後には洗濯籠に洗濯物を入れて士郎さんがやってきた。

 洗濯物に極力皴がつかないように、広げて干していく。

 

「暇なら本をとってきてやろうか?」

 

「なら後でお願いしようかな」

 

「今でも全然いいんだぞ」

 

 士郎さんは話しながらも手を止めることはない。

 わたしは士郎さんが洗濯物を干している姿を見ていたいから。

 

「ううん。

士郎さんが干し終わったらでお願いします」

 

「なんだ?かしこまって」

 

 洗濯物で隠れていた士郎さんがひょっこりと顔を出す。

 なんだか意外にお茶目だな、なんて場違いなことを考えて、その考えに笑ってしまう。

 

「なんか面白いことでもあったのか?」

 

「えー、うん。まぁ」

 

 ちらっと士郎さんを見ると、その視線に気がついたのか数瞬後には顔をぺたぺた触っていた。なんにもついていないのを確認したらわたしとは逆の方を向いて、頭をかしげる。なんだか全くわからないという表情をしている。

 

「そうか?」

 

 疑問を持ちながらも、止めていた手を再び動かして洗濯物をかけていく。

 

 パンパン、と洗濯物を広げる音が空に吸い込まれていって、そのままどこかへ消えてしまう。

 

 

 士郎さんが洗濯物を干し終わって、本をとってきてもらった。図書館で借りた本で、まだ読んでいなかったもの。士郎さんは胡坐をかいて座っている。なんでも瞑想なるよくわからないことをするそうだ。

 不思議に思っていると、簡単に言うと考え事だって教えてくれた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 昼食を終えてはやてとリビングで本を読んだり思い思いのことをする。

 

 朝はあんなに晴れていたのに、今では少し雲と風が出てきている。夕方には一雨きそうな天気だ。もう少し日が陰るようなら洗濯物は取り込もう。朝だけで十分に洗濯物は乾いている。その前に、布団だけは取り込んでおく。布団が雨で濡れたなんて、洒落にもならない。

 

「よっ、と」

 

 まずははやての布団を取り込んでから自分の布団を取り込んだ。

 なのだが、自分の布団を取り込んでみると、はやてが日差しで暖かくなった布団の海にもまれていた。

 

「あったかい」

 

「そのまま寝るなよ」

 

 あの干した直後の布団の催眠効果は下手な催眠の魔術よりも強力だと思うんだ。それは言いすぎだけど、あの誘惑は非常に強い。

 

「えへへ」

 

 すごく幸せそうなのはいいんだけどさ。

 

「いやだから、そのまま寝るなよ」

 

「えっ?」

 

「絶対に寝るなよ」

 

「士郎さんの言いたいことわかったわ!」

 

 ようやくわかってもらえたか。

 残りの洗濯物を取り込んでみると、はやてはすでに寝ていた。取り込んだばかりの布団に包まって。

 

「……」

 

 おでこを中指で軽く弾くと、ぺちんと小気味よい音がした。

 

「あたっ!?」

 

 軽く涙目で抗議の目を向けても無駄だぞ。

 

「俺の記憶が確かなら、寝たらダメだって言ったよな」

 

「うん」

 

「で、何で寝てるんだ?」

 

 応えよう如何によっては

 

「えっ?

振りじゃなかったん?」

 

 フリってなんだ?

 

「士郎さん、あれや」

 

「いや、わからないから」

 

「そこは空気読んでほしいわー」

 

「ちょっ?やめっ!?

ぐりぐりやめて!」

 

 頭を乱暴にごしごししてただけだけど。

 

「で?」

 

「いやー、絶対に押すなよ。絶対だからな。

なんて言われたら、押したくなるでしょ。それに似たようなもんや」

 

 もー髪の毛がはねちゃったじゃないって髪をぺたぺたやっている。

 

「好奇心をくすぐられるのは確かだけど」

 

 好奇心、猫をも殺す。とか何とか。経験からだけど、だいたいそう言われているものに碌な物なんてありはしないのだから。

 

「まぁいいか」

 

 洗濯物を取り入れて、たたんで仕舞う。

 ふとはやての方を見ると、本を開きっぱなしで布団の上で寝ていた。

 

 仕方がないな、と思う。

 

 本は変な跡がついてはいけないので、閉じて少し離して置いておく。

 

 気持ちよさそうに寝ているので、このままにしておくことにした。

 

 

 夕飯の仕込みも簡単に済ませて、何もすることがなくなってしまった。

 

 はやての様子を見に行く。

 

 よく寝ていた。

 

 遠くではすでに雨が降っているようで少し白く霞んで見える。

 空気もにおいが変わってきて、すでに近くまで雨が迫ってきていることを知らせている。

 

 まぁ、買い物に行くような天気でもないな。

 

 ふあ。

 

 なんだか眠くなってきたな。

 

 あまりにもはやてが気持ちよさそうに寝ているので、はやての敷いている布団を枕にして目を閉じてみた。

 

 




お久しぶりです。

山篭りしていました。


20130103  改訂

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