魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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魔法少女リリカルなのはFはじまります



027話

 

 

 ひどく長い眠りから覚めたような、一瞬の倦怠感の後に肉体とリンカーコアが召喚されたことを悟った。召喚時はいつもこうだ。

 

 シグナム、シャマル、ザフィーラも同時に召喚されたことを確認した。

 膝をつき、傅くのはいつものこと。

 

 目の前から小さな存在がいることがわかる。その存在というのが仮にも我らが主となるのだから小さな存在というのは失礼になるだろうか。シグナムに知られたら強い口調で詰め寄られるかもしれない。

 ともかく、その存在は我らの主となるのだからもう少し威厳のある存在感を出してもらいたい。ビクビクと怯えているのが手に取るようにわかる。あまり好ましくない反応だ。

 

 あたしたちは何時ものように口上を述べる。

 

「ヴォルケンリッター、何なりと命令を」

 

 そう、あたしたちは命令されたらそれを忠実に守る。

 それが騎士の道から外れようとも。

 主の命はあたしたちの騎士道すら凌駕する。やりたくないこと、人道からも外れた外道、そのようなことも何度も何度も行った。その度にあたしたちの心は鋼のように硬くなっていった。

 そう、でも、できるなら、――

 

『シグナム!』

 

『わかっている、ザフィーラ』

 

『ああ』

 

 ザフィーラが障壁を展開し、ぬるっとした膜が貼られる。もちろん、それは見ることはかなわないが、―――見る方法がないことはない―――正体不明の人物をこの空間へは干渉させないだろう。

 

「はやて!!」

 

 と無粋にも主の名前を名指しし、剰えこの謁見を妨害するとはっ!なんてシグナムは考えてるんじゃないのか?薄めでシグナムを見るが、そのような事実は無い、と言うように不動のままだった。

 

「士郎さん!?」

 

 まぁ普通にかんがえりゃそうだよな。

 赤の他人、それも主に敵意を持つ人物が同じ屋根の下にいるわけがないか。

 

 魔力はあるようだが、それも不活性なままだ。

 

『油断はするな』

 

 シグナムの声が頭に響く。

 どんだけ疑り深いのか。主に聞こえないように、指向性のある音波がシャマルから発せられた。その結果、主に士郎さんと呼ばれた人物はあたしたしを疑っているようだが、傍観することにしたみたいだ。ザフィーラの障壁があるから騒ごうが喚こうがこちらへはやってこれないんだけどな。

 それも主の言葉があれば別だけど。

 

 主は障壁の向こうの人物を心配しているようだった。

 

 シャマルが問題ないことを伝えると、

 

「釈然とせんけど、とりあえずその闇の書ってのの主として守護騎士たちの面倒をみんとあかんのやろうなぁ」

 

 ちょっと待って。

 面倒見るのはあたしたちの役目だろ。

 心の中で思うことまでは禁止されていないからな。

 しかし、流石にシグナムも思うところがあったんだろう、ついつい言葉を発していた。

 

「いえ、そういうことではなくてですね」

 

「そんな格好で外をほっつき歩けるんか?

大丈夫や。幸い住むところはあるし、料理も得意や。士郎さんのこともあるし、今更居候が一人や四人増えたとことでどうってことないで。

わたしは八神はやて。名乗るのが遅くなったけど、わたしの名前や」

 

 何かずれたこと言ってるようだけど、それはそれとして真面目に考えるべき事項だ。

 このインナーだけで外に出る、―――この世界がどのような世界かはわからないが、夜にこんな服装で不審がられないということはないだろう―――あまりしたくないことだ。

 

 八神はやて。

 

 あたしの心の中にすっと入ってくる響き。

 これをもってあたしたちは目の前の少女を主と認めた。

 

 同時に障壁が消えていく。

 特に大事なのは名前の交換だからだ。

 主からその名を聞いて初めてあたしたちは主と認める。この後に何があろうとも主の言には逆らえない。そういう呪いだ。

 

 主はやて、言いにくいからはやてと言いたいけど、それ言ったらシグナム起こるんだよな。

 主の人となり、それと頃合を見て主に提言してみるか。それならシグナムも文句言わないし。主が優しかったら多分大丈夫だ。

 

 その主は大絶賛ふらふらしている。

 あたしたちの召喚に多大な魔力を使うからだ。そもそも起動直後の闇の書には魔力がひとかけらも入っていない。それでおいてどうやってあたしたちを召喚するのか。それは主の魔力である。主の潜在魔力を含めて騎士たちを召喚できる者でなければ主に選ばれることはない。

 ただ、今回の主は幼すぎた。

 今まで使用したことのなかったリンカーコアの突然の活性化。それに続くリンカーコアの魔道書内への束縛。これが負担にならないわけがない。

 目蓋がどんどん下がってきている。

 ここはあたしやシグナムよりもシャマルの出番だ。

 

 主はうつらうつらしながら言葉を紡ぎ、そこにいた人物にあたしたちのことを任せた。

 主の言葉ならば従わないわけにはいかない。

 

 シャマルが動く前に士郎さんとかいう奴が主を抱えてベッドにきちんとした姿勢で寝かしていた。

 

「さて、俺も言いたいことがあるし、そっちも聞きたいこと言いたいことはあるだろうが」

と一旦区切って主の顔を見た。「ここで話すというのは無粋だろう。少し移動しようか」

 

 そう言ってあたしたちの前を通りすぎドアから出て行った。

 あたしはシグナムを見た。シャマル、ザフィーラも見ている。

 

『ここは主の命に従おう』

 

 シグナムは無言で立ち上がった。あたしたちもそれに倣って立ち上がり部屋を出て行った。最後に出たシャマルは一度だけ部屋を見渡して出たようだ。

 

 電灯が点けられ、周りの情報が目に入ってきた。

 木製の床、白い壁。狭い通路。狭い屋内。

 狭い廊下を少し歩けば、小さな机と椅子が目に入った。

 

「立ち話もどうかと思うし、座ってくれ」

 

 と男が喋った。

 以外にもその言葉を聞いて行動に移したのはシャマルだった。

 

『シグナムもヴィータちゃんも座ったら?』

 

『いや、だがしかし』

 

『なーんかこいつ気に食わないんだよな』

 

『ヴィータちゃん!』

 

 念話だから聞かれる心配もない。

 だけど、あたしがこいつを気に食わないというのは本当だ。

 なぜかわからない、けど、なんかやだ。

 

「では失礼する」

 

 ザフィーラ、シグナムも席についた。立っているのはあたしだけだ。

 

「紅茶と珈琲それともお茶、どれががいい?」

 

 と声をかけられて少し動揺した。

 

「その、私達。紅茶とか珈琲とかわかりませんのでお気遣い無く。

それよりも話というのはまだですか?」

 

「お互いのこともしらない。君たちは紅茶と珈琲すら知らない、ということはこの国、いや世界のこともわからないんじゃないか?それなら話さないといけないこともたくさんあるだろうし、その中での一歩としてまずは飲み物からはじめてもいいだろう」

 

 そう言って男は黙ってしまった。

 

 その間にもあたしたちは念話を行う。

 

『どう思う』

 

『どう、というのは?』

 

『毒があるとか考えないのか?』

 

『シャマルがまず毒見をすれば問題ないだろう』

 

『シグナム、ひどーい』

 

 シャマルは後方支援に特化しているだけあって解毒から汚染魔力の除染なども得意としている。例え一服盛られたとしても問題はない。

 

「ほら」

 

 と言って出されたのは赤みがかった琥珀色の飲み物。

 ふわりと鼻腔をくすぐる匂いには甘さが混ざる。

 

「ほう」

 

 と感心するように息を漏らしたのは意外にもザフィーラだった。

 

「さっきはやてが言ってたと思うけど。

俺の名前は衛宮士郎。ファミリーネームが前にあってファーストネームが後ろだ。これははやても同じ、というよりはこの国ではそうなってる」

 

 衛宮士郎は自分で入れた飲み物に口を付け、続けた。

 

「それで、君たちは何なんだ?」

 

 あまりのストレートすぎる質問にあたしは持ち上げていたカップを戻した。

 騎士のことを言うのか、それともあたしたちの存在であるプログラム生命体から言うのか。

 

「私達は主八神はやてと闇の書を守護する騎士です」

 前置きをしてシャマルが説明する。でもシャマルなら深くは説明しないだろう。

 あたしたち守護騎士は気の遠くなるほどの昔から闇の書とその主を守り、魔法技術、魔力を蒐集してきた。それは単に主のため。

 

「あまり深くは言えません。主の許可を取っていただなければ。

ただ、闇の書が完成すれば主は強大な力を得ることができます」

 

 衛宮士郎はこくりと頷いた。

 

「漠然とだけど、話はわかった。

要するにはやてを守って、闇の書を完成させる、ということだな」

 

 あたしたちは頷いた。

 

「その蒐集方法というのもはやての許可がなければ言えないのだろう」

 

 そんなことはないけど、ここはシャマルやシグナムに任せておく。

 

「それは人体への、いや、人以外からの例えば魔力の篭った鉱物、鉱石や人間以外の魔力を持つ生物からも蒐集はできるのか?

ふむ。それはいい。蒐集した際に人体への影響というのはあるのか?」

 

「前者についてですが、人間以外の魔力を持ったモノならば蒐集ができます。蒐集された側は蒐集量にもよりますが、疲労が溜まったと感じる程度でしょうか。主の命令で生命を脅かすほどの蒐集もできなくはないですが、正直なところを言えば、そのようなことはしたくないですね」

「シャマル」

「あっと、ごめんなさい。最後のは忘れてください。

主の命令には強制力がありますから」

 

 シャマルはあんなことを言ったが、あたしだって嬉々として人を傷つけるようなことはしたくはない。

 そのようなものは騎士道に反する、なんてシグナムなら言いそうだ。

 

「――で、時空管理局なる組織を知っているか」

 

 話をぼーっとしていたら聞き捨てならない言葉が耳に飛び込んできた。

 思わず立ち上がってしまう。

 

 ガタン、と椅子が倒れた音がした。

 

「おい、今。

管理局っつたか?」

 

 声帯から出る低音が空気を震わせる。

 

「ヴィータ、落ち着け」

 

「落ち着いていられるか!?

いられるわけねぇ! あいつら前回も邪魔してきやがった!」

「ヴィータ!」

 

 シグナムの大きな声に言葉が詰まる。

 

「主がお休みになっているのだ、あまり大声は出すな」

「ごめん、でも」

「何も衛宮士郎が管理局と繋がりがあるとは言っていない。

それにここは魔法文化がないようだ。そうだろ、シャマル」

 

「ええ、周囲に強い魔力反応もないわ。

それにここ一体に魔力を使用する機器もないみたい」

 

「少しいいか。

あの組織のことは俺もよくは知らない。前にロストロギアなんていう落し物で接触しただけだ」

 

 ありえない話ではない。

 活性化していないとは言え、目の前の衛宮士郎はリンカーコアを持っている。その魔力とロストロギアの魔力が共鳴したんだろう。

 

「それにその管理局の者はこの世界を第97管理外世界なんて言ってたと思うぞ」

 

「管理外世界であるならば管理局の法も手もだせない

一先ずは安心できるな」

 

「でも、こいつが」

「ヴィータちゃん、コイツ呼ばわりはダメよ」

 

「衛宮士郎が管理局と繋がっていない証明にはなんないじゃん」

 

「その時はその時だ。

主も衛宮士郎を信頼しておられるようだし、万が一にでも主を裏切るようなことがあれば。

その先は言わないでもわかるだろう?」

 

「ああ、はやてを裏切ることはないと思いたいな」

 

 とそよ風が凪いだように衛宮士郎はかわしてみせた。

 

「さて」

 と衛宮士郎が立ち上がり「夜も遅いし、あとの話ははやてが起きてからでもいいだろう」

 

 カップはそのままでいいという言葉にあたしは微温くなった飲み物を喉へ流し込んだ。

 案内されたのは寝室だった。

 

「俺が使っている部屋で悪いんだが、ここで寝て欲しい。

他の部屋は寝られるような状況じゃないからな。

ザフィーラ? ちょっと布団を取りに行くから手伝ってくれないか?」

 

 シグナムが微かに頷いたのを見た。

 

「わかった」

 

 とだけ言って二人は出て行った。

 あまり時間をかけずに二人は戻ってきた。

 

 衛宮士郎はここで寝てくれ、と言った。

 

「衛宮士郎さんはどうするんですか?」

 

「俺はソファー、さっきの部屋の隣で寝るよ。

ここは4人で寝るには狭いかもしれないけど、我慢してくれるか?」

 

「私もそちらへ行こう」

 

 とザフィーラは獣形態へとなった。

 

「お、おおっ!

魔法みたいだな!」

 

 無邪気に驚いているが、その声を聞くと「声はそのままなんだな……」と漏らしていた。

 ザフィーラは監視も兼ねて衛宮士郎の近くで寝ることになった。あの姿なら大抵の場所で休むことができるからな。

 

 あたしたちは3人で話し合って寝る場所を決めた。

 だれがどこで寝ることになったのかは内緒だ。

 

 





20130919  改定

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