魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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魔法少女リリカルなのははじまります




030話

 

 

「ちゅーわけで、今日は図書館に行ったあとにおもちゃ屋さんに行くからそのつもりでおってな」

 

「おもちゃ屋さん?」

 

「おもちゃを売ってるところやね。えーっと、玩具って言ったほうがええか?」

 

「いえ、それには及びません」

 

 わたし達は朝食を取りながら今日の行動について説明していた。

 

「なら、昼はファミレスかなんかで外食にするのか?」

 

「うん、みんなに家庭料理以外ってのも食べさせてあげたいしねー」

 

「いいんじゃないか。何処へ行くんだ?」

 

「えぇーっとなぁ、高見市にでっかいショッピングモールがあったやん」

 

「ちょっと郊外にあるっていうあれだろ。俺も行ったことないなぁ。

バイトがあるしなぁ」

 

 士郎さんが残念そうな顔をしているでちょっと新鮮。

 士郎さんが何かしたいということはあんまり言わないから。

 

「士郎さんも残念に思うことあるんやな」

 

「その俺が何も考えてないみたいな発言はちょっとやめてほしいんだけど。そうだな。

そういうところは有名な調理器具のメーカーが出店していることもあるし、安く手に入れられるかもしれないのになぁ」

 

「そんなことだろうと思ったわ。パンフレットも貰ってくるし、時間があれば確認してくるからそれで我慢やな。

士郎さんはお仕事、わたし達も一応は資料集めや」

 

「主、よろしいのでしょうか?」

 

「しゃあないけど、そればっかりはなぁ。

面白かったら、士郎さんも誘ってまた行けばええやろ」

 

「ねぇねぇ、はやて。そこってどんなところ?」

 

「それは行ってからのお楽しみやでー」

 

 ヴィータは心なしかそわそわしているように感じられ、シャマルはそれを見て笑っていた。

 問題はザフィーラやな。

 

「……私は主の家の守りでもやっておこう。

必要はないとは思うが。主には我等が将がついているので問題はなかろう」

 

 わたしの心を読んでかそんなことを言ってきた。

 

「ごめんな。今度一緒に散歩に行ってあげるから」

 

「ザフィーラ、頼んだぞ」

 

「何、いつものことだ」

 

 ザフィーラは尻尾をひと振りし、窓へ向いた。

 これならええや。ザフィーラも狼の形態でいるが、いつもそうというわけではない。お風呂なんかは人の形でいる。

 

「なら、昼が必要なのは俺とザフィーラだけか。

まぁちょっと贅沢にしようか」

 

とちょっと意地悪な言葉が投げかけられた。

 

「ちょっと待った。それははやてが許してもあたしが許さない」

 

「言っておくが、俺のような素人が作る料理と、料理人が作るプロの料理っていうのは全く違うからな。料理をすることで生活してるわけだから」

「特別に今日だけだかんな!」

 

「だ、そうだ。今日くらいは人型で食べられるようなものにしとくからレンジで温めて食べてくれよな」

 

「……善処しよう」

 

 と言いつつ、ザフィーラが士郎さんの料理を密かに気に入っているのには気がついている。わたしの料理としっぽの振り方が違うんやから。あえて指摘はしないけど、やっぱりちょっと悔しい。

 今だってザフィーラの尻尾が機嫌よさそうに左右にふらふら揺れている。

 いつかわたしが士郎さんよりも料理を上手になってやるんやから。

 

 

 

「士郎が言うから期待したんだけど、正直がっかりだったな」

 

「ヴィータの言うこともわかる。作業的に作られたものだったな。

いうなら数打ちの剣のようなものか。だが、そういうものなのかもしれんな」

 

「まあまあ。それなりに高いお金を出さんと美味しいものを食べるものはできないっちゅー社会経験が出来たわけやな。士郎さんはああ言っとたけど、正直士郎さんの作る料理はそこいらの店の料理よりははるかに美味しんやからな。わたしも初めて食べた時には自分との違いを見せつけられて愕然としたもんや。

そんな美味しい料理を毎日食べられるわたしらは幸せっていうことやでー」

 

「はい、主の言うことは理解できます」

 

「そうねぇ。士郎君やはやてちゃんの作る料理は美味しいものね。私も習おうかしら」

 

「それはええ考えやで。人に大事なのは衣食住言うくらいやから、食の大事さはわかってもらえると思うけど、これがなかなか奥深いもんやからな」

 

 そう、フライパン一つとってみても、鉄、銅、アルミのような素材から表面にテフロン加工なんていうよくわからない処理が施されて焦げ付きにくくされているものまである。

 そして目の前には

 

「これが圧力鍋ってもんや。わたしや士郎さんだけだったら必要なかったかもしれんけど、今は大所帯や。一つくらいあってもええかもしれんなぁ」

 

「はやてちゃん、圧力鍋って? 名前から圧力をかけるっていうのはわかるんだけど」

 

「それはなぁ、たぶんすんごい圧力で食べ物を柔らかくふにゃふにゃにしたりするのでとってもはいてくな鍋なんやで。つまり、時間がかかる煮込み料理なんかが半分以下の時間で作られる」

 

「おお! すげーな!」

 

 ヴィータありがとう。

 その反応を待っとったんや。

 

 それにしてもここの品揃えはええな。

 士郎さんなら目を輝かせるんやないやろうか。

 

 フライ返し一つとってみても安物とは違う。

 使い勝手ももちろんだけど、デザインがいい。装飾はなくともそれが洗練されたものだとわかる。

 

 ああ、ここにおったら一日くらいすぐに潰れてしまいそうや。

 あかんあかん。

 わたしらの目的はここじゃない。

 

「シグナムもそんな包丁ばかり見とらんと。

ほら、シャマルも。自分では料理せえへんやろ」

 

「私だってお料理手伝いたいと思ってるんですからね」

 

「それはまた今度や。その熱意をヴィータ探すのに手伝って欲しいんやけど」

 

「ヴィータちゃんなら隣のスポーツ用品店にいるようですよ」

 

 即答かいな。

 守護騎士のみんなは、無線のように魔法でお互いのやり取りをできるらしい。だからヴィータのいる場所がすぐにわかったってわけや。

 

 

「ヴィーター! いくでー」

 

「はやて! ちょっと待ってって。今片付けるから」

 

 ヴィータがいたのはゴルフ用品をおいているあたり。そして、ジュニア用のドライバーを握っていたという話。

 守護騎士たちが持ち得る武器というか武具というのは、主ことわたしがあげることになる甲冑のような防具を除けば、シグナムは剣、ヴィータは鎚だった。シャマル、ザフィーラは後衛で、どちらも後ろからシグナムのような前へ出ていく人を助けるっていうのが主な目的らしい。

 

「みんなには楽しんでもらえたかもしれんけど、今回ここに来たんはこのためちゃうからな。

言うなれば、みんなの甲冑がここで決まるわけやで。そんな受身でええんの?」

 

「って言われてもなぁ。あたしらに拒否することもできないからなぁ」

 

「よほど問題があれば私達が口を挟むこともあるかもしれないけど、あんまりそういうことはないわね。あんまり考えすぎないほうがいいかもしれませんよ」

 

 なかなか難しいことを言われているような気がする。

 

「この先のおもちゃ屋さんで何かいい案がもらえるはずやから行くよ」

 

「あれですね、でもおもちゃって玩具ですよね?

そのようなところで参考になることがあるんですか?」

 

「ふふん、シャマルもまだまだやね。

おもちゃっていっても千差万別なんよ。

やけに現実的なものもあれば幻想的なものもあるし。ま、百聞は一見に如かずって言うし、行ってからやな」

 

 

 着くと、ヴィータがそわそわしているのがわかった。

 

「ヴィータ、見たいものがあるんなら見てき。シグナムやシャマルとは連絡取れるんやろ。こっちから連絡するわ」

 

 そう言うと、ヴィータは目をきらきらさせたままふらふらーっと棚の奥の方へ行ってしまった。

 大丈夫だろう。

 

「ヴィータちゃんも可愛いものが好きですからね」

 

「そうなん?」

 

「そうですよ。

前もね」

「シャマル、そんなことは言わなくていいから」

 

「ヴィータ、どこから湧いてきたんや」

 

 いつの間にかわたしの後ろにヴィータが立っていた。

 

「人の目のあるところで魔法は使うな」

 

「でもよう、シャマルがー」

「シャマルがーではない。騎士として恥ずべき行動はするな、と言っているんだ。

主の為を思えばこそ、魔法は極力使うな」

 

「わかったよ。

でも、シャマル。あまり下手なことは言うなよ。布団が湿っていたら嫌だろ」

 

「そんな微妙ないたずらしないでよ。はやてちゃんからも言ってくださいよー」

 

「確かに微妙やな。

そんなんよりももっと効果的なのがあるやろ。

例えば、そうやな。夕飯時のお茶を水道水にするとか」

 

「は、はやてちゃんもそんなことは言わないで。

私がさも悪いように言われてるけど、そんなことないからね。少しヴィータちゃんの話をしようとしていただけなの」

 

 わたしはシャマルにアイコンタクトを送る。

 ここは一旦引いて、ヴィータの目の届かない時にこっそり教えてもらう。それしかない。

 シャマルは目の端に捉えたのか、視線は前を向いたままこくりと頷いた。どうやらヴィータは気づいてないみたいや。

 

 今度こそヴィータは走って行って見えなくなってしまった。

 

「ここやここ。

どうや。玩具っていうには精巧に作られとるやろ」

 

 わたしはフィギュアと呼ばれるものを手にとって見せた。

 

「そうですね、このような娯楽に労力を割いている世界は覚えがありません。いえ、私が覚えていないだけかもしれませんが」

 

「そんな堅苦しいことはいいんや。見てみ、これ。

女戦士らしいけど、この防具や」

 

 わたしは箱に入った人形を手渡した。

 

「このような防具は……防具と言っていいのでしょうか? 

胸部も最小限ですし、股間部は守るというよりも隠しているだけです。あまり実用的ではないように思えますね」

 

「シグナムはこれやからな。

これはファイナル?クエストやっけ? そんなゲームに使われとるんよ。でも、魔法使いなんて私の思ってる魔法使いに近いと思うんやで」

 

「主!? そのような世迷言をおっしゃらずに再考してください!」

 

 ほのかに暴言を吐かれたような気がするので、シャマルに顔を向けた。

 後ろで主、と言われたきがするけど、きっと気のせいや。

 

 別の箱をシャマルにわたすと、なるほど、とうなっていた。

 

「な、いろいろと面白いやろ。

ここにこないとわからないこともあるんやで」

 

 偉そうなこと言っても、わたしの関心を集めたのはビキニアーマーなる防具だった。そもそも防具としての役割を果たしているのか疑問だったけど――シグナムは実用性がないと言っていたが――デザインが良ければそれでよし、という話だったのでシグナムに言ったら間髪いれずにダメ出しされました。

 やはりシグナムの意見は聞かずにおいたほうがよかったんやろうか。

 

 シグナムはそのあとでいろいろとその装備へのダメ出しをしていた。

 胸の防備が偏っていることと、人体への急所の硬さが問題だ、と。

 

「そんなん、もうちょい適当でいいんちゃうん。」

 

「私はもとより、他でもない主を守るものですからね」

 

 シャマルはそういいながらころころと笑っていた。

 

 

 わたしは人形やフィギュア? を見ながらすごしていた。

 

「ヴィータはどこいったんかいやろな」

 

「呼び出しましょうか?」

 

「そこまで広いところやないし、適当に見ていったら会うやろ。もっといいもんもあるかもしれんし、シャマル、後ろ押してくれる?」

 

「はい」

 

 シャマルは私の後ろに立って優しく車椅子を進めてくれた。

 シグナムはその隣で静かについてきている。

 

「ああ、向こうに見えるのがヴィータですね」

「えっ? シグナムあの距離でヴィータかどうかわかるん?

あの服の色からかろうじてヴィータかなって思うくらいなんやけど」

 

「我々は目が良いですからね、これくらいの距離はなんともありません」

 

 シグナムにはそう言ったけど、実際、まわりは私を含めて子供だらけで言われてヴィータとおんなじような服着てるなって思ったくらいなんやけど。

 シグナムを含め、騎士のみんなは目がいいんやな。

 わたしも一般人からしたら視力1.5以上あるし、目がいい方なんやけどな。

 

 

 近づいてもヴィータにはこちらに気がついていないみたいだやった。

 何をそんなに真剣な表情で見ているのかと見たら、なんと人形やった。それもなんだかちょっと私の一般常識から外れたうさぎの人形。目が赤なのはわかる、ただ、全体のバランスからして藁人形を思い出させるような人形なのだ。

 

「ヴィータはこういうのが好きなんやね」

 

「お? おわ!?」

 

 素晴らしい反射神経でヴィータが跳ね起きた。

 

 はじめはもごもご言ってたけど、ふいっとあさっての方向を向いて

「ちげーし! 可愛いと思ってねーですし!」

 

 と言っていた。顔がやや紅潮しているように見えるけど、そう見えるだけってわかってるから。

 

「ところで、その人形、そんなに気に入ったん?」

 

「え、……いや、ちげーです」

 

 語尾はだんだん弱くなっていた。

 

「気に入ったんなら買ってもええんやで。

ヴィータたちに必要なものをを揃えるのもわたしの仕事のうちや」

 

 わたしとヴィータは何度か言葉のやり取りをしていたが、人形をみてはぐずぐずしているヴィータにちょっと頭にきた。そして人形をレジに持って行って、無理やりヴィータの手に押し付けた。

 ヴィータはうつむいて顔を赤くしながら、

「ありがと」

 

と、答えてくれた。

 わたしはそれだけで、買った意味があったように感じた。

 

 バスに乗って、降りた。

 そこでもまだヴィータは人形の紙袋をしっかりと持っていた。

 

「ヴィータ、もう袋から出してもええで」

 

そう言うと、ヴィータはがさごそと紙袋から人形を取り出した。

 そのヴィータはひまわりが花を大きく広げたように輝いていた。

 

「はやて、ありがとう!」

 

 わたしはヴィータの言葉に胸があったかくなりながら頷いた。

 

 





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