魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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魔法少女リリカルなのはFはじまります




031話

 

 

 ヴィータにぬいぐるみを買ってあげて数日が経った。

 

 ヴィータは相変わらずあのぬいぐるみが気に入っているようでわたしと一緒の寝室に持って行って寝るときに抱いている。

 夜に目が覚めて、人形を引っ張ってみたけど、どんな力を入れているのかわたしが奪うことはできなかった。ちゃうねん、ヴィータにいたずらしようとしたわけやないで。ちょっとした興味や。

 

 ヴィータはわたしのかわいいちょっかいを煩わしく思ったのか反対を向いてしまった。

 

「むー」

 

 この言葉はきっとヴィータには届かないんだろうけど。

 

 時計を見ればまだ短針は4の文字を指す前であった。

 

 私は両手を交差させてぽきぽきと鳴らした。

 

 ちょい早い時間だから、うん気持ちよくもう一回寝たっていいよね。

 わたしはそのまま眠りに落ちていった、

 

 もちろんヴィータ達の甲冑を考えながら。

 

 

 

 ゆさゆさ、と心地よい揺れを感じる。

 

 ゆさゆさ。

 それはなおも感じる。

 

 あー。

 

「……やて、はやて」

 

 遠くからわたしのことを呼んでいるような気がした。

 

「士郎の作ったご飯が全部シャマルに食べられちゃうぞ」

 

「なんやて!!?」

 

 わたしは衝撃の事実に驚いたというか驚愕した。

 おのれ、シャマル。温厚そうに見えてわたしの敵だったか。

 食べたものは全部胸にいくなんていう大罪は神様が許してもわたしがゆるさへんで。

 

「シャマル、許すべからず」

 

『ちょっとヴィータちゃん、はやてちゃん!?

私はつまみ食いの一つもしていませんからね、むしろヴィータちゃんが』

「ほらほら早く起きなきゃ、あと今言ったのは冗談だかんな」

 

 わたしはヴィータの顔をまじまじと見た。

 そういう嘘は良くないと思うんや。

 

 お布団さんとごろごろしていたらドアが勢いよく開けられた。

 

「はやてちゃん、士郎君のご飯を横から食べるような私じゃありません。あと、はやてちゃんのだし巻き卵はみんなよりも一つ多くさせてもらいました。もちろん、減らされるのはヴィータちゃんのですから、はやてちゃんは安心してくださいね」

 

「シャマル!」

 

「あんな可愛げのない起こし方をするんやから当然ってわけにはいかないかな。

ヴィータが可哀想だからみんなおんなじ数にね」

 

「はやてー」

 

「そう言ってくれると思ってました。

さ、顔を洗いに行きましょう」

 

 シャマルに車椅子を押してもらって顔を洗った。

 でも、とヴィータを見る。

 ヴィータはわたしの視線に気がついたのか、目をそらした。

 

 

 お昼をすぎてわたしたちはいつもより少しだけ早く帰った。

 

「主」

 

 私はええって言うのに、儀式だとかなんとか言ってシグナム達は膝をついている。

 

「なぁ、あんまりこういうの好きやないんやけど」

 

「節目としても大切なものです、我等の事を思うならば」

「ああ、もう、仕方ないなぁ」

 

 わたしがそう言うと空気が一瞬緩んだ気がした。

 

「夜天の主として、騎士等に」

 

「賜ります」

 

 わたしの体をなにか暖かいものが包んだような気がした。それも一瞬で終わったけど。

 シグナムが立ち、そしてシャマルやヴィータが続いた。

 

「御身は我等が命をとして守ります。

この剣と甲冑にかけて」

 

 シグナムの目の前に剣が現れて、次の瞬間にはわたしが思い浮かべていた以上の甲冑に包まれていた。

 

「主はやて。貴女は紛うことなき我等が主だ」

 

「はやて、ありがとう!」

 

 ヴィータの飾らない言葉が胸にこだました。

 その問にわたしは

 

「うん」

 

 としか答えられなかった。

 

 

 ただいまーという言葉とともに士郎さんが帰ってきた。

 わたしは包丁を置いて玄関へと向かう。

 

 後ろからヴィータがとてとてと可愛らしくついてきた。

 

「おかえり」

 

「ただいま」

 

 そして、ちょっと気がついたように眉をひそめた。

 

「その格好」

「にぶちんの士郎にもわかちゃったか。

どうよ、この騎士の格好。可愛いだろ、はやてが考えてくれたんだ」

 

 ヴィータは慎ましすぎる胸を張って答えた。

 ふふん、なんて言葉が聞こえてきそうだ。

 でもね、それ考えたの私なんやけど。

 

 まぁ、わたしはお子様じゃないし、そんなことは言わないけど!

 

「おぉ。可愛いな。

さすがはやて、なかなかいい仕上がりになったな」

 

 士郎さんはわたしの頭の上に手をおいて撫でてくれた。

 くすぐったい。

 

「はやてがすごいってのは当然のことだけど、あたしを褒めてもいいだろ?

士郎だからそういうところはしょうがないとしても、ここまで言ってわからないわけないよな!」

 

「あー、うん。さっきも言ったけど、かわいい、かわいい」

 

「なんだよそれ、もっと! ちゃんと心込めて言えよ!

あと頭撫でんな!」

 

 ヴィータは士郎の言葉にあんまり納得してないみたいやった。でも一回士郎さんの手を払って、また伸ばされた手は払わなかった。まんざらでもないのかもしれない。

 それと、私の考えた甲冑をどうしてそこまで自慢しようと思うのか。わたしも随分とヴィータに慕われたものだ、いや、ここは素直に甲冑のデザインがヴィータにうけただけなんだろうか。

 いや、あのニヤケ顔はそれだけやない。いずれにしても、慕われたものだ。ここまで無邪気に慕われてしまったら邪険にできないじゃないか。

 

「ほら、士郎!

もっと褒めていいぞ」

 

「おーよしよし。

だけどな、外ではそんな服着てると警察のお兄さん以外からも声がかけられそうだからあんまりしないほうがいいぞ」

 

 うん、それはそうやな。

 今のヴィータならわたしでも思わず二度見してしまうこと請け合いや。声をかけるかどうかは別として、色んな意味で目立っちゃうよね。

 

「そんなんあたしからしたらどうでもいいことだし」

 

「そうは言っても世間がな、ひいてははやてまで目立ってしまうかもしれないぞ」

 

「それはちょっと困るなぁ」

 

 それはわたしの本心だ。

 ただでさえ、わたしは車椅子で生活しているわけで嫌でも目立ってしまう。目立つということは何かあればすぐに広まってしまうわけや。

 わたしの生活圏内はかなり限定されているからそれこそ顔見知りの人が多い。

 そんななかで今でも目立っているのに更にわたしの噂か何かがたってしまうのは本意やない。

 

「ヴィータも。

幸いにしてこの世界は平和だ。我等が常に武具を身につけている必要はないだろう。それはわかっているだろ?」

 

 思わぬところでシグナムからの援護が。

 

「でも、騎士として常に主の……」

「世界が違うのだ、我等の常識外であることも理解しなければな。

ただ、言わんとすることもわかる。武具はいつでも纏えるのだ。常に気を張る必要はないが、なに、必要なところで危険から主を守ればいいのだ。

魔法文化のない世界だ。我等が傷つくなどそれこそほぼありえん。身を挺す暇がない、とは騎士として言わせんぞ」

 

「それこそ、まさか、だ!

でも、主の、はやてがそう言うんだったら甲冑は身につけない。それが平和ってことだからな」

 

 ヴィータはちょっと照れながらこららを見て言った。

 シグナムはなんだか優しい目をしているし。

 

「それも大切なことだけどさ、そろそろ上がっていいかな」

 

 士郎さん、そういう時は空気を読まないとアカンやろ。いや、空気を読んだから?

 ともあれ、なんとも言えない雰囲気は霧散していった。

 

 

 

「士郎君はこんな日なのにお仕事って大変ですねぇ」

 

 口を開いたのはシャマルだった。

 

「まぁ、ね。明日はお店もお休みななるらしいけど、結構風強いよね」

 

「そうですねぇ」

 

 わたしとシャマルは外を見る。

 薄暗い曇天の空からは小さくない粒の水が横殴りの風とともにガラスへと落ちてきている。ガラスに当たった雨は大きくはじけながら濡らしていく。

 

「明日が再接近だって」

 

「主は心配することはありません、この程度の嵐ならばシャマルの防護壁で容易に防ぐことができます。

シャマル」

 

 シャマルは万全ですからっ、と微笑みながらわたしに言った。なんや、阿吽の呼吸ってやつなのか? 言葉に出さないでも分かり合えるっていうのは正直なところ少し憧れる。少しやけどな。

 

「この家が大丈夫なのはわかったわ。

でも、台風はなぁ。なんやワクワクするなぁ」

 

 そう、わたしが学校に通ってた頃も台風はきていた。

 そういう時は近くの友達の家にお邪魔していた。といってもそんな昔のことは覚えてないんやけど。近くの家の子でわたしとも気が合ってたんやけど。

 

「前台風が来た時はな、友達の家にお邪魔しとったんやけど、何やお泊り会みたいでな。結構ワクワクしたもんや。

停電になった時はな、ロウソクに火を灯してな、いつにない感じで面白いんやで。

そや、一応ロウソクと懐中電灯は皆にもわかるように出しとかんとな」

 

 その友達も親の転勤とかで転校していってしもうたのを思い出してしまった。わたしから言った話だったけど、逸らすように話題を変えてしまっていた。

 友達と一緒に寝た夜。いつもよりも遅くまで話していた。

 友達のお母さんが作ってくれた料理。とても美味しくて、皆で食べる食事は美味しかった。

 今は寂しくない。士郎さんやヴィータたちもいる。

 わたしはテレビの近くにある店をがさごそと漁る。漁るというか、開けたらまず懐中電灯が出てくるんやけど。それとロウソクとそれをのせる小さなお皿。あとマッチ。

 

「主、そこまでしていただかなくても、我等ならば光を出すこともできます」

 

「いやいや、それでもや。備えあれば憂いなし、先人はいい言葉を残しとるやないか。きっとこれは実体験に基づいたやつやで。

ならわたしらも些細な事でもできることはやらんとな」

 

 ヴィータが目を丸くしていた。

 

「はやて、難しい言葉知ってるんだな」

 

 なんやそれ。わたしがダメな子みたいやないか。

 

「伊達にたくさん本を読んでないんやで。それにな、こんだけ学校行ってないんや自分で勉強せな誰も教えてくれんからな」

 

「その割に士郎からは宿題だされてるじゃん」

 

「ぐっ、ヴィータも言うようになったようやね。主としてヴィータも一緒に宿題するように命令してもいいんやで」

 

 わたしはせめてもの反撃に反則級の技を使った。

 

「っ、はやて! じょうだんだよな!」

 

「主、我等は主と闇の書よりこの世界についてある程度の知識が与えられます。主と同じ言葉を話せないというのは不便極まりないですからね。ですが、それも最低限の事だけで、我等には元からある知識と主の知っていること以上の事は知得ることはありません」

「シグナム、余計なこと言うな!」

 

 ほう、そういうことか。

 わたしと同じ日本語を操ってるというのも腑に落ちなかったんや。ならそうやな、皆にちょっと勉強してもらおうか。

 いやいや、皆に勉強してもらってわたしに教えてもらうとかセコイ考えしてへんよ。

 あくまでも皆の知識を増やす目的や。どうやら守護騎士の皆はこの世界の常識というものをあまり知らないから。

 まぁでも、習得した知識をわたしにも教えてもらえたら嬉しいかなーって。

 

「せやな、それならいっそ皆でちょっと勉強しよか。

シャマルは理科な。石田先生みたいにお医者さんの知識とか入れたらいいんとちゃうんかな。で、シグナムも理科な。人体構造を把握することは相手の急所を突くこと、そして、武器の力の伝わり方もな。読んだ本にそういうことを意識的にすることッて書いてあったわ。

で、ヴィータは算数な。中学校以上は数学っていうらしいけど。ちゃんと理解したらわたしに教えてな」

 

 わたしはヴィータを見てにっこりとした。

 

「ちょっと待ってよ! おかしくない! ねぇあたしの勉強する目的だけおかしくない?」

 

 ヴィータはシグナムとシャマルに聞いて、最後に何も言われなかったザフィーラへと向かった。

 うん、そんな理由はないんやけどね。

 

「ザフィーラだけ言われてないじゃん!」

 

「ザフィーラは言わんでもちゃんと勉強するやろ。そろにシャマルやシグナムは冗談や」

 

「あたしだけ冗談じゃない!?」

 

「まぁまぁはやてちゃん。ヴィータちゃん面白いですけど、そのへんで」

 

 ちぇー。

 

「えっ、で。結局どうなんだよ!?」

 

 ヴィータが早足で近づいてきて、近い近い。

 

「わたしが強制することはないけど、皆もちょっとは、ね。

よく言うやろ、考えることをやめてはいけないって」

 

「はい、我等も主の手本となるように、そして迎える敵を撃つための努力は惜しみません」

 

「いや、ちょっと不穏な言葉があった気がするけど」

 

「問題ありません」

 

 じーっとシグナムの目を見ていたけど、いつまでも目をそらさないし、瞬きもしないのでわたしから逸らしてしまった。

 わたしは各自の裁量に任せた。

 

 シャマルなんかは早速本を読んでいる。何故かわたしが図書館から借りてきた料理の本だった。シャマルってそんなに食事好きだったっけ? どちらかと言えばヴィータのほうが食事に興味がありそうだったけど。

 ヴィータとシグナムはテレビを見て、ザフィーラは尻尾を床につけて外を見ていた。

 

 ますます強くなってくる風と雨。

 

 士郎さん、早く帰ってこないかな。

 

 





20140112  改訂
20140112  改訂

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