魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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それは小さな変化でした。

脱ニートした士郎さん。

ニートネタが使えません、はやてです。

魔法少女リリカルなのはFはじまります。



005話

 

 

 早朝というには少し早い4時、俺は起きてジャージに着替える。

 

 リビングをとおり、台所へ行き手早く朝食の下ごしらえをする。

 

 朝食の下ごしらえが済んだら、靴を履き、そっと玄関を開け外に出る。まだ日は昇っていない。玄関を開けた時と同様にそっと閉め、肺いっぱいに朝の空気を入れる。

 

 目指すは神社裏の森。

 

 走っていく。魔術は行使できるが、やはり日常から体を鍛えることは重要なことだ。いざとなったらこの肉体しか信用できない。

 

 木々の闇を縫って走ると、少し開けた場所に出た。明かりは星の瞬きのみ。

 

 大気から魔力を吸い上げ、魔術回路が活動を始める。全身に魔力が行き渡り、魔術師もとい魔術使いとしての俺が覚醒する。

 頭の中にはどの闘いの中であっても常に俺と一緒にあった陰と陽の夫婦剣がある。

「投影、開始(トレース、オン)」

意識を集中さる。四の撃鉄が落ちる。

 創造の理念を鑑定し、

 基本となる骨子を想定し、

 構成された物質を複製し、

 製作に及ぶ技術を模倣し、

 成長に至る経験に共感し、

 蓄積された年月を再現し、

 あらゆる工程を凌駕しつくし―――

 

 ここに、幻想を結び剣と成す―――

 見るまでもなく、両手には陰と陽を模った剣が存在する。

 手に馴染む感じはもとからそこにあったかのようにしっくりくるものだ。

 

 だらりと手を下げ、あたかも無防備であるかのように構える、否もはや構えとはいえない構え。それが俺の辿りついた剣。未だ高みには至らず。

 

 ヒュオッ!

 

 剣の重さに体が流される。発展途上の肉体ではまともに振るうこともできないか。

 

 体に強化を施すことで飛躍的に身体能力が上がる。先程までは重たかった剣も、今では小枝のごとく振るうくことができる。仮想敵は彼の大英雄クー・フーリン。アーチャーとランサーの戦いは心に焼きつき、まぶたを閉じると再現される。悔しいが、アーチャーの戦い方、それが俺の目指す剣の扱い方に等しい。アーチャーの動きをゆっくりと体の調子を確かめるがごとくなぞる。はじめはゆっくりと、そしてだんだんギアが上がっていく。

 

 ヒュッ、シュシュッ!

 

 槍を流したと思ったらすでに槍が迫っていた。

 ランサーとすでに三十合と打ち合っただろうか、ついに左手の剣がはじかれ宙に舞う。しかし、次の瞬間には同じ剣が左手に握られていた。ランサーは驚いたようだ、いったいどこから、と。わずかに切っ先が鈍る。その瞬間を逃すはずもなく防御から一転して攻勢にでる。打ち合いは既に百を軽く超えていた。幾度と泣く武器を失うが、その次の瞬間には新たに剣が握られている。一旦さがりランサーの攻撃に備える。ランサーは追撃してきて、徐々に不利になる。幾度目かの会合の末、とうとう脇腹に槍が食い込む。

 

 はー、想像ですら勝てない。

 

 1時間。そろそろきりあげるとしよう。

 

 強化と認識阻害の魔術を新たにかけなおし、早朝の町を疾走する。

 

 万が一、何かあったときのために、拠点を構える。それははやてに目が向かないようにでもあるし、敵を欺くためでもある。

 

 山の中腹にその廃屋はあった。外装は剥げ窓は割れ、床には埃がたまり十年は人の足が踏み込んだ形跡がない。

 少しだけ手を入れ、徐々に使えるようにしていく予定だ。

 今はまだ何もない。

 

 長居をしすぎた。そろそろはやてを起こしに行こう。

 

 

 

 学校が冬休みの間にアルバイトを見つけることができた。

 

 喫茶店でその名も『くろーばー』。マスターは森口さんという人で、年末にアルバイトが辞めてしまったので、新しいアルバイトを探していたらしい。週4日で平日は10時‐16時、あまりないけど休日は9時‐16時のシフトでいれてもらった。はやての学校が始まる日に合わせてアルバイトを始めることになった。

 

 マスターは珈琲に詳しく、俺も感心してしまうほどだった。ドリップ派で豆は煎る前のものを仕入れて、ここで煎っているらしい。反面、紅茶は俺のほうに分があるようだ。紅茶の綺麗な紅は俺の流した血と言っても過言じゃないからな、本当にしごかれた……。自分が飲みたいがために俺に仕込むとか、いや、おいしそうに飲んでくれたのはうれしいんだけどな。

 

 ともあれ、今日はニートを脱する記念すべき日だ。

 

「「ごちそうさま」」

 

 今日の朝飯も好評で幸先よかった。

 

 

「それで忘れ物ないかー?」

 

「わたしはそんなに子供やないで」

 

「わるいわるい」

 

 車椅子を押しながらはやてと他愛無い話をする。

 

 はやての通っているのは公立の小学校で家からもそれなりに近い。20分ほどすると校門が見えてきた。はやてはここまででいいと言う。

 

 他の子供が登校してくるにはまだ少し時間があるのだろう。小学生は疎らに登校している。

 

「ほな行ってくるで」

 

「気をつけてな」

 

 はやてに背を向けて歩き出す。

 

 はやては学校が終わると図書館へ行くとのことなので、俺もバイトが終わると図書館へ向かいそこで落ち合うこととした。

 

 時間があるので、図書館は8時30分から開館しているので、バイトまで時間を潰すことにした。本棚を見ていき、歴史の分野で足を止める。すでに世界が違うことは判明しているが、どこまで異なっているかということが問題なのだ。歴史が根本から異なっているのか、それはいま現在使われている言語からしてまず考えられないが、それでもないとも言い切れない。

 

 一時間ほど本を読み、大まかな歴史をなぞると、細部は多少異なっているようだが、俺のいた世界の歴史とほぼ変わらないことがわかった。ただ、気になるのは魔術師の存在だ。これだけ大気中に魔力が満ちているということは、そもそも魔力が満ちている環境なのか、魔術師が存在しないか、それとも両方か。いないならいないにこしたことはない。

 

 時間となりバイト先に向かう。

 

 ちりーんと来訪者を告げる鈴が鳴る。

 

 マスターに軽く挨拶をして、着替える。

 

 午前中は疎らにしか客は来ない。しかし昼になると思いの他、来店する人が多くてびっくりした。立地条件もさることながら、マスターの人柄で常連となる人もいるのだろう。のんびりとした空気が流れていて、それでいて心地良い。

 

「料理美味しかったわ」

 

 なんて帰り際に言われたときは本当にうれしかった。

 

 マスターも温かい目でこちらを見ている。私の目に狂いはなかったようだね、なんておっしゃる。

 

 16時に近くなり、また忙しくなる時間に抜けることに心苦しさを感じる。マスターには親戚の子供の世話ということで了承してもらっている、とはいえ。帰り際に、マスターから小さなクッキーの包みをもらった。はやてにあげてほしいとのことで、ありがたく受け取った。可愛らしくラッピングされたもので、はやても喜びそうだ。 

 

 図書館に行くと既にはやては本を選んで椅子に座っていた。車椅子は畳んで横に置いてあり、黙々と本を読んでいた。なんとなく、邪魔するのが憚れたのでそのままにしておき、俺も本を読んでいた。

 

 閉館時間のチャイムがなり、目線をあげたはやてと目が合った。なんか慌てているようで、面白い。

 

「さて、借りたいものがあるなら借りて帰ろうか」

 

 はやてはたっぷり1分は考えて、5冊の本を選んだ。

 

 その他の本は返すので、俺が何冊か持って歩くはやての後ろについた。

 

 はやてに言われたところに本を返し、カウンターで本の貸し出しをした。

 

 車椅子に本を乗せて、俺とはやては手をつないでゆっくりと家路についた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 士郎さんが読む本は歴史に関するものが多かった。

 

 近代史を読んでいたと思ったら、今では偉人やギリシャ神話なんかの本を読んでることも多くなってる。あとは新聞を読むことも多い。

 

 士郎さんはできるだけ車椅子は使わない方がいいって言ってくれる。車椅子を使うと足の筋肉を使わなくなるから足がもっと弱くなるって。石田先生も賛同しているみたいやった。それから急ぐ必要がないとき以外は車椅子を使わなくなった。もちろん、隣には士郎さんがいる。士郎さんは私の手と手をつないでくれて転ばないようにしてくれる。

 

 休日は図書館に行って、士郎さんがバイトのある日は、士郎さんのお昼休みが近くなるとバイト先の喫茶店に行って紅茶を飲むようになった。士郎さんが入れてくれる紅茶は本当に美味しい。飲み終わるとマスターさんが士郎さんにお昼休みするように言ってくれる。わたしが催促してるみたいでなんだかちょっとはずかしいんやけど。図書館の前の大きな公園でお弁当を食べて、またわたしは図書館に行く。

 

 夕方になると士郎さんがやってきて一緒に本を読んで、閉館の時間になったら帰る。

 

「なんかだんだんあたたかくなってきたなー」

 

「もう春が近いからなー」

 

「そうなんやなー」

 

「そうかもしれないなー」

 

「うむうむ」

 

「そうでないかもしれないなー」

 

「どっちや」

 

 脳みそがとろけそうな会話をすることもよくある。

 

 帰りはそのまま帰ることもあるし、商店街によることもある。

 

 夜はわたしと士郎さんの合作が食卓に並ぶことが多い。士郎さんからいろいろ教えてもらって料理も上手になりたい。

 

 夜は10時には寝なさいって言われるけど、12時くらいまで本を読んでることもある。

 

 そんなこんなで今日一日も終わる。

 

 




にじファン時に掲載していたものに少し手を加えています。


20130103  改訂

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