魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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それは小さな、でも大きな事柄でした。

家族とは。

血縁?戸籍上の?それとも、―――。

魔法少女リリカルなのはFはじまります



006話

 

 

 士郎さんは早朝トレーニングと行って毎日走りに行っている。何でも体が資本だとか何とか。士郎さんはすごい。

 

 士郎さんがアルバイトをはじめてもう2ヶ月が経った。いいって言ってるのにお金を入れてくれる。あと、わたしにお菓子とか買ってきてくれたり、作ってくれたりする。作ってくれるのはうれしいんやけど、わたしとしてはいっしょに作った方がはるかに楽しいんや。そのことを言ったら笑われて、次からは一緒に作ってくれるようになった。

 

 士郎さんのアルバイト先に行って紅茶とか珈琲とか奢ってもらったりしたけど、本当に美味しかった。士郎さん作というケーキも非常においしかったので、お土産にもらってしまった。マスターさんはとても優しい人や。

 

 士郎さんは週ごとにアルバイト代をもらう様にしているらしく、初めてのバイト代でわたしにかわいらしい手袋とマフラーをプレゼントしてくれた。次の週にはわたしと一緒に携帯電話を購入した。わたしの場合は機種変更やけど。士郎さんは防水、防塵、耐衝撃の携帯電話を購入し、わたしはピンクの流行の携帯電話を買った。士郎さんの携帯電話の電話帳の一番最初にわたしの電話番号が登録され、グループは家族に割り当てられていたのを見たときはとてもうれしかった。わたしのことを家族と思っていてくれることに。わたしも、士郎さんが家族だったらどんなにうれしいか、そう思っていたときもあって。

 

 学校は正直、この足のせいで大変だけど何とかなってる。不満なのは、学校では給食があるので、お昼ご飯は士郎さんと同じものが食べられないことや。学校が終わったら図書館に行って、本を借りて士郎さんと一緒に帰る。

 

 こんな日がずっとずっと続くと思っていた。

 

 

 ある日、起きると足首から下が動かなくなっていた。

 

 つまり歩けなくなった。

 

 わたしは前々から漠然と歩けなくなってしまうのでは、と思ってはいたけど、それを目の前に突きつけられるとどうしようもなくなって、泣いてしまった。士郎さんは子供をあやすようにわたしを慰めてくれた。抱きしめてくれて、背中をぽんぽんと。士郎さんに抱きついているせいで士郎さんの服も私の涙とか鼻水とかで汚れてしまったけど、何も言わずに抱きしめてくれた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をハンカチで綺麗にしてくれた。涙が枯れるんじゃないかと思うくらい泣いたけど、すーっと止め処なく涙は溢れてくる。その度にハンカチで涙を拭ってくれた。

 

 ぐすっ。

 

 一頻り泣いたら落ち着いた。落ち着いたら士郎さんが朝食を食べるように言った。正直、あんまり食べたくなかったけど、食べないことに関して士郎さんは首を縦に振らなかった。

 

 学校には士郎さんが連絡してくれた。それと、病院に連絡して診察を受ける旨をわたしにしてくれた。

 

 わたしはわたしが思っている以上に繊細だったらしく、静かすぎる朝食をとった。

 

 

 タクシーを使って病院へ行った。

 

 

 病院へ着くとすぐに石田先生の問診が始まって、ごわごわした白い服を着せられていろいろな検査をした。血を抜かれて、レントゲン?とかいうのをして、あとはとにかくたくさん。一通り検査が終わったと思ったら夕方になっていた。士郎さんはその間ずっとそばにいてくれた。今日は病院に泊まることになるって石田先生が言っていた。明日も検査をするらしい。士郎さんはそのことを聞くと、わたしと先生に断ってわたしの着替えをとりに帰ってくれた。うれしかったけど、士郎さんに下着とか見られるのは恥ずかしい。

 

 士郎さんはよほど急いだのか戻ってきたときには息が切れていた。わたしは個室に移されていて、石田先生とお話をしていた。士郎さんが戻ってくると、石田先生は士郎さんとお話しがあるって言って出て行った。テレビをつけてもなんでか面白いものはやっていなかった。持ってきてもらった鞄を開けると、パジャマや下着などの衣類の他に図書館から借りた本が入っていた。士郎さん、ありがとう。

 

 本を読んでいると、士郎さんが石田先生と戻ってきたので、わたしの病気の状態を聞いてみた。士郎さんはいろいろなことを知っているけど、さすがに病気のことまではわからないらしく、石田先生がなんか言ってたが呪文を唱えているようにしか聞こえなかったって言ってた。今日はじめてわたしは笑うことができた。士郎さんも苦笑いをしていた。

 

 詳しい検査結果は明日の検査も終えて、それ以降にならないとわからないらしい。もしかすると2、3日は病院にお泊りをするかもしれないということだった。

 

 士郎さんも今日はここに泊まるらしい。本当はダメらしいんだけど、石田先生に無理を言って許してもらったそうだ。

 

 わたしは味気ない病院食を食べて、士郎さんはその間にバイト先に電話したり学校に電話したりしてくれたみたいだ。その後で食堂に行って食事をしたんやって。食堂の料理よりもわたしの料理の方がおいしいって言ってくれた。ちょっとうれしかった。

 

 

 電気が消されてちっちゃい豆電球の明かりしかない。

 

 士郎さんは足を組んでわたしの左手を握ってくれている。

 

 そういえば、士郎さんのベッドなんてないし、床で寝るのかな。そんなことを考えていると、今日は椅子ので寝るとか言い出しやがりましたよ。そんなのよくないに決まってるやないか。士郎さんはよくやっていたことだから心配すんなって。そのあとも夜遅くなるまで士郎さんとお話していたらいつの間にか寝ていた。

 

 朝起きると、士郎さんはそのままいて、おはようって言ってくれた。ずっと手を握っていたみたいや。なんかちっさい子供みやいではずかしくて、下を向いたらまた頭をぐしぐしってしてくれた。なんかほんとうにこどもあつかいやないか。いや、うれしいんやけどね。はずかしくて小さい声でおはようって言ったら、笑ってもう一度おはようって言ってくれた。

 

 話していたら朝食の時間になっていたらしくて、朝食をとった。その後で、石田先生とお話して昨日の検査の続きをすることになった。士郎さんは私の着替えとかは持ってきてくれてたのに、自分のは持ってきていなかったらしく、着替えに帰るって。おっちょこちょいやな。お昼を食べて終わった頃に士郎さんは戻ってきた。検査までの間、図書館で借りた本の内容と感想を士郎さんに話してたらお昼の検査の時間になっていた。

 

 検査自体は昼の3時くらいに終わった。士郎さんが手作りのクッキーを出してきた。朝、時間がかかってたのはこのためやったんやな。石田先生がいいって言ってくれたらしいので、遠慮なく食べることにした。病院食ばっかりのところにこのクッキーはひきょうや。あと、りんごを切ってうさぎさんを作ってくれた。ほとんどわたしばっかりで食べてしまったのはしょうがないと思うんや。

 

 検査結果は明日らしくて、たぶん、明日には帰れるらしい。

 

 士郎さんは今日もここに泊まるんだって。一人でこんな部屋にいるのはイヤなのでうれしかった。

 

 

 

 ―――なんだ、わたしって自分が思っている以上にこどもやったんやな。

 

 

 

 夜になると、看護師さんがお風呂に入れてくれた。昨日はお風呂に入らなかったので、すごくさっぱりした気分になった。戻ると士郎さんはいなかった。トイレにでも行ったのだろうか。ものの1分くらいで戻ってきたので、きっとトイレだったのだろう。今日も士郎さんとお話して寝た。ちゃんと手はつないでくれてた。

 

 朝、石田先生からお話があった。これで退院だけど、今まで以上に頻繁に病院に来ないといけなくなった。病名はまだちゃんとわからないけど、がんばるしかないってことやな。

 

 

 病院を後にして、士郎さんが車椅子を押してく。

 

 

 士郎さんに声をかけると、気の抜けるような返事が返ってきた。わたしは士郎さんに、そろそろ旅が恋しいのとちゃうんかって聞いてみた。すると、いぶかしむような返事がきた。

 

 ほんと、わたしは何を言っているんだろう。

 

 それでもわたしの口からは言葉が漏れた。また旅に出たらどうか、と。

 

 それからわたしが何を言ったか定かではないが、士郎さんがほんとうに怒っていた。こんなに怒る士郎さんは初めてで、想像もできないくらい怒っていた。わたしは何で士郎さんが怒っているのかわからなかった。士郎さんはわたしに言った。ならなんで、そんなに悲しそうな顔をするのか、って。わたしの顔、そんなに変かな。なんで、涙が溢れてくるのかな。わからないことだらけだった。

 

 ただ一つわかるのは、士郎さんにもう迷惑はかけれないということだった。我侭でわたしの家に住んでもらって、わたしの世話を焼いてもらって。でも、もうだめだ。今まで以上に迷惑をかけてしまう。足が動かない人なんてお荷物でしかない。士郎さんがいなかったときだって一人で何でもできたんだから、足が動かなくなっても、なんとかやっていける。そうにちがいない。士郎さんの怒声で顔を上げた。本気で言っているのか、と。本気も本気、大真面目や。わたしは目を見て、ちゃんと声に出して言った。そこまで言うと、士郎さんは黙ってしまった。そして口を開いた。今までわたしの我侭を聞いてやったんだから、今度は士郎さんが我侭言う番だと。そりゃそうや、でも今わたしにできることは少ない。もしかしたらお金かもしれない。グレアムおじさんからの援助のおかげでありあまるほどお金ならあるし。

 

 士郎さんは一呼吸置いた。士郎さんはこれからまたどこかに行くだろうから笑顔で送りたい。笑顔になれるかどうか怪しいけど。何を言われてもいいように心の準備をする。発せられたのは、これからも世話になるからよろしく、それだけ。予想外すぎてあたまがおいついていかない。

 

 士郎さんはしゃがんでわたしの目を見て言った。俺のことをどう思っていたんだ、って、士郎さんは優しくてどこかぬけててあたたかくて。士郎さんは、小さなこどもをほっぽりだすほど鬼じゃないって言ってた。そういう考え方もできるか。そして、大きな爆弾をひとつおとした。

 

 

 

 家族じゃないか。

 

 

 

 真っ白になった。

 

 そして、また泣いてしまった。

 わたしがこれからどれだけ迷惑をかけるか、言葉が出るだけ、考えられるだけわめき散らした。人がいようが関係なく、人目を気にせずに。そしたら、家族だったら迷惑を掛け合うのは当然じゃないか、って言われた。そのあいだ、士郎さんは私を抱きしめてくれた。苦しいくらいに。

 

 士郎さんにおんぶされて、家に着くまでずっと泣いていた。

 

 

 ―――そして、わたしたちはほんとうの家族になった。

 

 





はやて視点の話でした。


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