LIVE A LIVE 近未来都市編   作:Leni

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『流動導入』下

 1.

 

「根性いれろや第七位ィアア!!」

 

「くたばれナンバーエイトォォ!!」

 

 ある平和な平日の昼のこと。

 第七学区と第一八学区の境目にある公園に、静寂を乱す叫びと轟音が響き渡った。

 

「昭和ぱーんち!」

 

「当たるかよ!」

 

 能力者二人による能力を使った喧嘩。

 学園都市の路地裏でしばしば見られるものだが、これはそれらの喧嘩とは違う『異常な光景』であった。

 

 まず一つ。

 

 能力を使った喧嘩ともなれば警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)に通報が行き、周囲の人達は能力という暴力に巻き込まれないよう一目散に逃げるはずだ。

 だが、公園にいる複数の人々は、平然とした顔でくつろいでいた。

 

 ベンチでは喧嘩などお構いなしに学生のカップルがいちゃついている。

 轟音と地響きも気にせずに野鳥が撒かれた餌をついばんでいる。

 喧嘩が行われている横では、たい焼き屋の屋台が平常通り営業している。

 そしてその屋台の横では中学生がたい焼きを食べながら、まるで子供がじゃれ合っているのを眺めるような様子で、喧嘩を観戦している。

 

 爆音と怒号が響く二人の能力者の喧嘩。良く見ると、彼らの周囲には進入禁止の黄色いテープがはられていた。

 一辺六メートルの正方形の空間。

 それは公園の土の上に適当に作られた、プロレスの仮設リングだった。

 

 そして『異常な光景』がもう一つ。

 喧嘩をする二人の能力者。彼らはただの能力者ではない。

 

 レベル5第七位、田所晃(たどころあきら)

 レベル5第八位、削板軍覇(そぎいたぐんは)

 

 学園都市の能力者の最高峰に位置するレベル5。

 彼らは『開発』を受けた一八〇万人の学生の内、たった八人しか存在しない超能力者のうちの二人だった。

 

 その二人のレベル5の力が、三十六平方メートルの土のリングでぶつかり合う。

 それをまるでただの大道芸でも見るかのように平静に眺める人々。

 

 それが、超能力の都における、ある公園の異常な日常だった。

 

 

 

 2.

 削板軍覇は『根性』を行動理念にして生きる熱血男児だ。

 

 愛と根性のヲトコ。学園都市第七位、通称ナンバーセブン。それがかつての彼の肩書きだった。

 あらゆる科学者達が理解不能としてサジを投げた『原理不明のすごい力』を使い、人々に根性を示し、根性無しの性根をたたき直す。

 そんな日々を送っていた彼だが、ある日ある男と運命の出会いを遂げる。

 

 昭和生まれの日本男児、無法松。

 削板軍覇の憧れる『昭和のド根性野郎』を体現した、熱血漢。

 

 表の顔は、公園でたい焼き屋を営む悪っぽい無能力者(レベル0)のあんちゃん。

 だがその実態は、彼は高レベルの能力者の暴力などものともしない胆力と、圧倒的なカリスマ、そして人情と根性溢れる男っぷりで、無法者のスキルアウト達からも慕われる愛と根性の漢であった。

 

 無法松の生き様は、削板軍覇にとってまさに理想の大人像であった。

 

 軍覇はそんな無法松に対して、戦いを挑んだ。

 自分の根性と、彼の根性、どちらが上か。ただそれだけを確かめるために。

 

 学園都市最高峰のレベル5の一人と、無能力者の戦い。誰の目にも結果は明らかだった。明らかなはずだった。

 

 だが、無法松は音速を超えて動く削板をたった一発で叩きのめした。

 

 根性の入った強烈キック。

 

 銃弾すらもものともしない超人の削板が、超能力でもなんでもない「ド根性キック」を受けて十数メートル吹き飛び、倒れ伏した。

 

 上とか下とかそういうレベルではない。自分とは根性の次元が違う。そう軍覇は思い知った。

 

 そして、軍覇は根性を入れ直すために、次の行動に出る。

 

「オレを弟分にしてくれ、松の兄貴!」

 

 昭和の男無法松の弟分となり、本当の根性とは何かを学ぶ。

 だが彼の要求は受け入れられなかった。

 

 そもそも無法松は多くの無能力者達から慕われているものの、単なるたい焼き屋だ。レベル5に教えることなどない。

 

 そして、すでに無法松には弟分と呼ぶべき存在が居た。

 彼が支援する置き去り保護施設「ちびっこハウス」の問題児、田所晃。

 無法松は何かにつけてそのアキラのことを気にかけていた。

 

 アキラは軍覇と同じレベル5の超能力者だった。

 解析不能の多重能力者。軍覇と同じ学園都市の研究者達の理解の及ばない能力者であり、軍覇と同列のレベル5第七位に分類されていた。

 

 根性はあるが、どこか曲がっている男。それが軍覇のアキラへの印象だった

 

 ちびっこハウスに保護されてから、アキラは無法松を見てその根性の入った生き様に習って生きようとしていた。

 だが、アキラには読心能力(サイコメトリー)が備わっていた。

 人々の本音を見すぎ、その結果ケンカに明けくれる日々を過ごし、彼の心は荒んでいた。

 

 軍覇にはそれが気に入らない。

 こんな男が無法松の兄貴の弟分などとは。

 

 アキラも、そんな軍覇のアキラのことを良く思わない心を読む。

 二人が会うたびに喧嘩をするようになるのは、当然のことであった。

 

 レベル5二人による大喧嘩。地は割れ空は裂ける。

 無法松はそんな二人に怒りの鉄拳を食らわせた。

 

 喧嘩は結構、だがやりすぎだ。

 

 そして、二人は無法松の見る前で、公園のたい焼き屋台の近くに作った「リング」で殴り合うようになった。

 超能力の使用は可。だが一辺六メートルのリングとその周囲二メートルの場外の外に被害を出すことを禁じる。

 

 そうして作られた超能力プロレスルールで二人は喧嘩という名の根性比べをする。

 

 やがてそれはレベル5の戦いを間近で見れるものとして、第七区と第一八学区の境目にある公園の風物詩となった。

 

 月日は流れ、長点上機学園臨時講師である藤兵衛によってアキラの能力の一端が『精神力』として説明されることにより、レベル5同列第七位が第七位と第八位に分けられた後も、二人の戦いは続く。

 

 観戦者から『超能力プロレス第七位決定戦』などと呼ばれることもあったが、二人は学園都市の決める順列など気にしていなかった。

 レベルも順位も研究者達にとってどれだけ科学的価値があるかの尺度であり、どちらが根性のある男かどうかには関係ない。

 そもそも彼らの慕う無法松は順列の外にいる存在だ。

 最も、今更お互いを名前で呼び合うこともできず、「第七位」「ナンバーエイト」と呼び合うのであったが。

 

 喧嘩という名の根性比べは今日も続く。

 

 

 

 3.

 

「相変わらず訳のわからない能力ねぇ」

 

 二人の喧嘩を見ながら、たい焼き屋の常連客の一人が呟いた。

 ベージュ色のブレザーを着た買い食いと漫画の立ち読みを愛する中学生、御坂美琴である。

 

 常盤台中学というお嬢様学校の一年生だが、彼女はこの庶民的なたい焼き屋が好きだった。

 そんな彼女も、目の前で超能力プロレスを繰り広げる二人と同じ、学園都市のレベル5の一人だ。

 

 順列は第七位と第八位とは大きく差を付けた第三位。

 常人の数倍の努力をして身につけた、最高の電撃使い(エレクトロマスター)の能力と、それを操るために高度な演算を行える発達した脳。それらを持ってしても、二人の能力は理解不能だった。

 

「何というか、科学じゃなくて漫画の世界よねこれ。学園都市なのに」

 

 第七位のアキラはSF小説や超能力漫画に出てくるような、解りやすい力を複数使いこなす万能の超能力者。

 第八位の軍覇は特撮やバトル漫画に出てくるような、超パワーを使いこなすヒーロー。

 普段カリキュラムで学んでいる能力を根本から否定するような存在だ。

 

 訳がわからないといえば、二人の格好も理解不能だ。

 

 昭和の漫画に出てくる不良学生のような黒い改造学ランを着るアキラ。

 逆立った茶髪に、固そうな金色の前髪。額には喧嘩で出来た大きな×印の傷痕。

 

 そして昭和の漫画に出てくる暴走族のような白い特攻服と、旧日本軍が掲げていたような光線付きの日章旗のシャツを着る軍覇。

 これまた熱血少年漫画の主人公のように逆立った髪に白いはちまきを締めている。

 

 世はとっくの昔に昭和から平成になっているというのに、二人とも昭和の不良全開のファッションセンスであった。

 二人とも確実に平成生まれのはずだけど、と思う御坂であったが、そもそも学園都市のファッションは外の流行とは違う物だと思い出し、奇妙な昭和センスについて考えるのをやめた。

 

「超・爆・発!」

 

「読めてるぞッ!」

 

 自分の周囲を気合いを込めた爆発で吹き飛ばす軍覇と、それを読心で読み取りテレポートで避けるアキラ。

 自ら生み出した爆発により身動きが取れない軍覇に向かって、アキラは水の思念(フリーズイメージ)を送る。

 軍覇の上空に水が生まれ、瞬時に氷となり降り注ぐ。

 

「ド根性ガード!」

 

 対する軍覇は、氷の槍を気合いと根性でできた力の壁で打ち砕く。

 

 軍覇の力はまさに学園都市のレベル5に相応しい、派手で強大で豪快な力。

 アキラの力は一つ一つはレベル4以下の力だが、豊富な能力の選択肢と読心で相手の隙を突く。

 

 豪と柔。対称的な二人の戦い方であるが、根底に流れるのは同じ、熱い男気。

 

 死角を付き、アキラは自身の放てる中で最大の一撃を選ぶ。

 

 ホーリーブロウ。

 

 己が放つのは『強力な拳』であると、自分と相手と周囲の人々に思い込ませる技。

 アキラと軍覇と、観戦する無法松、御坂、他多数。

 ナンバーエイトの防御を貫く一撃である、と皆の心に思念を叩き込む。

 

 視界の外から狙う複数人の精神力が乗った拳を軍覇は人間を超えた反応速度で迎え撃つ。

 音速を超えた振り向きによる衝撃波をまき散らしながら、軍覇はありったけの力を込めたヘビーブロウを放った。

 

 拳と拳がぶつかり合う。

 

 レベル5の根性の正面衝突。

 

 それは、少年二人を昭和の漫画のように吹き飛ばし、両者リングアウトKOという結果をもたらした。

 

 

 

 4.

 

「イテテ……」

 

 無法松の運転するハーレーの後ろで、アキラは傷を押さえながらうめいた。

 

 日は落ちかけ、空は夕暮れで赤く染まっている。

 学園都市の学生の多くは寮住まいであり、門限がある学生達は日が暮れる前に表通りから姿を消す。

 公園でたい焼き屋を営む無法松もすでにこの時間は店じまい。

 

 引き分けとなった喧嘩で目を回し、帰りそびれたアキラを自慢のハーレーに乗せて送り返す途中だ。

 ちなみに軍覇は「根性入れ直して修行だ!」と叫んで、車道を足で爆走していった。

 

「ケガしたか」

 

 エンジンの振動で傷の痛みを訴えるアキラに、無法松は苦笑する。

 

 多重能力を操るアキラの『流動情景(ライブアライブ)』の力の一つ、自己復元(セルフヒール)でおおよその怪我は治ったが、ただの殴り合いとは違う戦いの後となっては完治までは至らない。

 

 今もじっと精神を集中させて傷を癒し続けていた。

 

 ちなみにこの二人、ノーヘルである。

 無法松に至ってはそもそもヘルメットを被ることを完全に拒否するような、真上に逆立った柱のような髪型だ。

 

「妹の具合はどうだ?」

 

 警備員に見つかったら一発で交通違反を咎められるノーヘル運転をしながら、無法松はアキラに訊ねる。

 

「ああ、カオリは元気さ」

 

 無法松の問いに、アキラは笑って答える。

 アキラの妹のカオリも無法松のことを実の兄のように慕っていた。

 いや、カオリだけではない。ちびっこハウスの皆が無法松のことを好ましく思っている。

 

「会ってくか?」

 

 通りの向こうに見えたちびっこハウスを見ながらアキラは問う。

 

「いや、いい。みんなにヨロシクな」

 

 無法松はそう言ってちびっこハウスの前でアキラを下ろすと、またな、と言って去っていった。

 

「ここまで来たんだから会ってきゃいいのに」

 

 なんとも硬派な男だ、と苦笑しながらアキラはちびっこハウスへと帰宅する。

 どこにでもあるような小さな孤児院。

 だがその実態は置き去りの子供達と、二人の高レベル能力者を守るための最新のセキュリティが施された施設だ。

 

 門をまたぎ、扉を開け、玄関で靴を脱ぐ。

 この間にも何重ものセキュリティがアキラの身元をチェックしていた。

 

 玄関を通り過ぎ、廊下の角へと歩くアキラ。

 

 そこで、彼は白い少女と出くわした。

 白いセーラー服に白いエプロンをつけた、ちびっこハウスの子供の年長者の一人。百合子だ。

 

「おゥ、アキラ! またケンカして来たのか!」

 

 眉をひそめて彼女はアキラを問い詰めた。

 どうやら百合子は家族の一人がボロボロにケガをして帰ってきたのがお気にめさないらしい。

 

「うるせーな、ほっとけよ」

 

「ほっとけじゃねェよアホが」

 

 そういうと百合子は土で汚れたアキラの学ランを掴む。

 

「ホラ、汚れてンだからシャツ脱げ。早くしろ」

 

「ガ、ガキじゃねんだから!」

 

 アキラの反論を無視して百合子はアキラの上着を奪い去っていく。

 

「ハイ、終わりッ! ったく、また洗い物が増えたじゃねェか!」

 

 そう言って彼女は子供達から怖いと言われる三白眼を釣り上げてアキラを睨むと、洗濯場へと走っていった。

 

 アキラと百合子がちびっこハウスにやってきてからもう数年が経過している。

 それまで子供達の年長者で母親的存在であった妙子は第五学区の教育大学へと行っており、妙子に変わって百合子が子供達の世話と洗濯などの家事をするようになった。

 それは、このちびっこハウスは、彼女が欲しいと望んだ家族そのもの。

 不良学生としてふらつきまわるアキラと違って、百合子は逞しい保母さん見習いとなっていた。

 

「やれやれ……と、消毒液はどこだったかな」

 

 上着を脱がされたアキラは上半身にできている擦り傷を見て、救急箱を探して廊下を歩く。

 

 これが、アキラが手に入れた今の日常であった。

 

 

 

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