LIVE A LIVE 近未来都市編   作:Leni

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『反転御手』⑧

 

 田所晃は不良学生である。

 

 学園都市における不良はいくつかの種類に分類される。何しろこの東京の東側三分の一を占有する独立都市、その人口の八割が学生なのだ。『模範的な学生』に該当しない子供達も多い。

 アキラを不良学生の種類で分類するならば、能力を使って暴れ回る暴走能力者になるだろう。

 

 しかし、アキラは武装能力者集団や無能力者の暴走集団(スキルアウト)のように、強盗や恐喝に手を出しているわけではない。

 学園都市に八人しかいない超能力者(レベル5)の一人。お金には困っていないし、ちびっこハウスという住居もある。

 

 アキラが不良と言われている理由。

 それは単に彼が喧嘩っ早い性格なせいだ。

 

 かつて彼は原理不明の多重能力者(デュアルスキル)として超能力者(レベル5)の順列最下位に認定された。

 超能力者の順列は学園都市の科学に対する重要度で決まる。

 原理不明で技術や学問への応用が不可能とあっては順列はどうしても低くなる。

 

 だが学園都市の学生達の多くは、超能力者の順列を単なる能力の出力の強さであると勘違いしている。

 ろくに学園都市の能力者という仕組みを理解していない不良学生達ならなおさらだ。

 例えレベル5といえど一番位の低い者ならば集団で囲めば一方的に勝てるだろうと、裏での名を上げようとした暴走集団がアキラに挑んできた。

 

 アキラは喧嘩っ早い性格だ。彼は警備員に助けを求めるわけでもなく暴走集団の喧嘩を正面から買っていった。

 超能力者に認定された当初、彼の能力は弱かった。最下位の能力者は弱いという暴走集団の認識はアキラの場合間違っていなかったのだ。

 一つ一つの能力は強能力者(レベル3)以下の出力。さらに能力の発動には数秒の精神集中が必要だった。

 それゆえに、アキラは能力に頼ることもできずに毎日生傷を作りながら己の身体でスキルアウトに立ち向かっていた。

 

 そんな彼に手を差し出したのが、男無法松。

 だが無法松はアキラの喧嘩を止めなかった。代わりに、スキルアウト流の喧嘩殺法をアキラに教え込んだ。

 

「男は拳で語るもの。喧嘩してなんぼだ」

 

 そう無法松は笑って言った。

 

 裏路地での殴り合いを繰り返すうちに、アキラの手下になろうとする者達も現れだした。

 だが、それが逆にアキラを喧嘩に明け暮れる日々へと駆り立てた。

 

 彼は人の本音を見ることができる。

 読心能力(サイコメトリー)。彼の持つ複数の能力の中に、人の心の中を覗くものがあった。

 

 油断させて寝首をかこうと考えている者や、彼の立場を利用しようとする者達。

 その本音を見抜いたアキラは問答無用に拳を振り抜く。

 

 そんな人の心を覗けるアキラが疑心暗鬼で精神を病まずにこの歳まで成長できたのは、彼を本心から仲間だと思っている人達がいてくれたおかげだ。

 共に研究所から逃げ出した鈴科百合子、兄貴分の無法松、妹のカオリ、ちびっこハウスの園長と子供達。ついでに古道具屋の店主藤兵衛。

 

 そしてもう一人。全力で能力をぶつけ合える敵が彼にはいた。

 集団で襲ってくるのではない、正面からの一対一での喧嘩相手、削板軍覇。

 彼と殴り合うことでアキラは若さゆえの無差別な破壊衝動を発散することができていた。

 

 それでもアキラは不良だ。心はどこか荒んでいるし喧嘩もする。

 能力を使って街中で喧嘩などすれば、警備員(アンチスキル)がすっ飛んでくる。

 むやみやたらに能力を使うなと言う警備員の黄泉川の説教は、もう耳がたこになるほど聞き飽きていた。

 もっとも、最近のアキラは無能力者との喧嘩で能力を使うことはほとんどない。使うのはあくまで相手が刃物や能力といった凶器を持ちだしてきたときだけだ。

 拳で語れ、それが無法松の教えだからだ。

 

 

 

 

 

 

 ある平日の昼過ぎ。アキラは第七学区の裏路地をふらついていた。

 午前中は学校にも古道具屋にも登校せずにちびっこハウスで惰眠をむさぼっていたのだが、白い保母さんに布団干しの邪魔だと尻を叩かれベッドから追い出されたのだ。

 特にこれといった用事もなく歩き慣れた裏路地を散歩する。

 アキラと同じように学校に行かずにたむろするスキルアウト達が、所々でアキラと同じようにだらだらと過ごしていた。

 

 スキルアウトは無能力者(レベル0)の不良達の総称だ。その誰も彼もが犯罪行為に勤しんでいるわけではい。

 学校に行くでも街中で暴れ回るでもないスキルアウト達の多くは基本的に暇なのだ。学生という立場さえあれば最低限の生活費と住居が学園都市から支給される。

 

 そんな彼らを横目で眺めていたアキラは、ふと一人の犯罪者側のスキルアウトを見つけた。

 

「おい腐れ忍者」

 

「あん? って、ああアキラか」

 

 アキラが声をかけたのは、半蔵という十代後半の少年。

 この辺りでは滅多に見ない強盗や窃盗といった『金を稼ぐための犯罪行為』に手を染める暴走集団の一人だ。そこらをうろつくスキルアウト達と違って、警備員(アンチスキル)に見つかれば少年院行き間違いなしという人種であった。

 さらに珍しいことにこの半蔵という男、自称忍者だ。

 

 忍者。

 サムライと一緒に絶滅したと思われている古い日本の特殊専門職。スパイ活動をしたり工作活動をしたり要人暗殺をしたりと、何かと物騒なことに手を染めていた闇の住人。この男はそれを隠すことなく自称していた。

 

 彼の言葉を聞いたスキルアウト達は冗談だと笑うが、人の心を読めるアキラはその忍者という自称が正しいことを知っていた。

 

 日本政府の抱える密偵組織、炎魔忍軍のエージェント服部半蔵。それが彼のもう一つのプロフィールだった。

 彼は伊賀の服部半蔵を襲名するなにやら幕末から続く複雑な歴史を受け継いでいる家の人間らしいが、アキラは彼から語られた小難しい現代忍者の歴史を覚えていなかった。

 

 アキラが覚えているのは彼が忍者であることと、能力開発を受けていない学園都市の住人であること、そして現在無職無収入なため無駄に卓越した技術と体術で犯罪行為をしてお金を稼いでいるということだった。

 

「テメーなんでまだこの辺うろついてやがんだ」

 

「いきなり厳しいな。確かにここは松の兄貴の縄張りだが」

 

 アキラが今居るのはちびっこハウス近くの裏路地。スキルアウト達のカリスマ的存在、昭和生まれのたい焼き屋無法松がにらみをきかせている地区だ。

 無法松は学園都市のカリキュラムからドロップアウトしたスキルアウト達をまとめ、一定のモラルとルールを叩き込んでいた。

 

 無法松の影響下にあるスキルアウトは凶悪犯罪に手を染めない。

 そんなスキルアウト達が活動範囲にしている地域、それが半蔵の言う縄張りだ。

 当然、半蔵のように警備員に見つかれば少年院送りになるような犯罪を繰り返す暴走集団は縄張りから排除される。

 

 アキラも半蔵の所属する暴走集団を、何度か一人で一方的に叩きのめしたことがある。

 アキラは暴走集団の犯罪行為に対し特に思うところはないが、無法松の弟分として周囲のスキルアウト達に頼られることがあるため、彼を目障りと思う暴走集団に喧嘩を売られるのだ。

 巻き込まれた結果となったアキラの本音としては「警備員さっさとこいつらどうにかしろ」だ。

 

 アキラはかつてエルボーを叩き込んだ半蔵の顔を睨みながら、ぽつりと言った。

 

「三日前のATM強奪、あれテメェの仕業だろ」

 

「なんのことだ」

 

 アキラの言葉に半蔵は即答する。

 だが、アキラは脳の裏にある緑色のボタンを押して、半蔵の心を読んだ。

 

(やべえなんで知ってんだこいつ)

 

「やっぱりオマエか」

 

「げ、また読みやがったな」

 

「オマエのせいで金おろせなかっただろうが死ねッ」

 

「いやいやそうは言うけどな、俺だって好きでやってるわけじゃない。飯を食うには金が必要でな」

 

「働けッ!」

 

「しごくもっともッ!」

 

 アキラの鉄拳というツッコミを受けて半蔵は路地裏の上を転がる。

 

 この男、忍者を名乗りながら研究所スパイをするでもなく暴走集団の仲間と日々を過ごしている。

 使い道が果てしなく偏ったな学園都市製の道具を自由自在に使いこなす辺りは忍者っぽいのだが、それを使ってやることが窃盗や強奪だ。どう考えても力の持ち腐れだった。

 

「学生の街なんだから、ガキでも出来る日雇いの仕事がいくらでも転がってるじゃねーか」

 

「へ、お金持ちの超能力者様に言われたくありませんなー」

 

 アキラの言葉に半蔵は起き上がりながら言い返す。

 

「バイトん時たい焼き恵んでやったのは誰だと思ってやがる。解るか? アルバイトだ、アルバイト。奨学金で左団扇してるわけじゃねえ」

 

「働いたら負けかなと思っている」

 

「忍者の言う台詞じゃねえぞそれ。働きたくねーなら筑波の治験でも受けてろや」

 

「あれ絶対廃人になるって!」

 

 最新医療を研究している研究所がネットで募集している治験。

 その単語を出されて半蔵は大きく首を振る。

 そのバイトは、『経験者の体験談が全くない』というとてつもなく怪しいものだった。守秘義務があるとしても噂はどこからか漏れるものだ。

 

「……ところで」

 

 懐に手を入れて身震いをする半蔵を前に、アキラは逆立った髪の毛に指を突っ込み、頭をかきながら言った。

 

「オマエ、能力者との喧嘩は得意か?」

 

「あんたとナンバーエイトに何度もやられてこりごりなんだが」

 

「じゃあなおさら自分達の縄張りの外にでるんじゃなかったな。クレイジー・バンチのやつらだ」

 

 周囲をゆっくりと見渡しながらアキラがそう言った。

 路地裏で騒ぐアキラ達をいつのまにかテンガロンハットの男達が囲んでいた。

 

 

 

 

 

 

「おー、いてて……」

 

 武装能力者集団クレイジー・バンチとの喧嘩を終え、アキラは自己復元(セルフヒール)で傷を癒しながら表通りを歩く。

 

 クレイジー・バンチといえば、二ヶ月ほど前にリーダー格の男が逮捕されて裏での勢力を失った集団だ。

 アキラは今回のように彼らに喧嘩を売られて返り討ちにしたことが何度かある。

 だが、今回相手にした彼らは以前よりはるかに強かった。喧嘩が強くなっていたわけではない。純粋に能力の強度が上がっていたのだ。

 想定していた以上の能力を前に、アキラは思わぬ怪我をしてしまった。

 それでもアキラは倒れることはなく、クレイジー・バンチのメンバーの脳内に二度と刃向かってこれないようトラウマになるような恐怖の思念(ヘルイメージ)を散々叩き込んでおいた。

 

 同じようなことを前回の喧嘩のときもやった。だが彼らは、強力になった能力を身につけ再びアキラに挑んできたのだった。

 アキラは首をかしげる。

 武装能力者集団は人並み以上の能力を得ながら開発の壁にぶち当たり、落第していった者達の集まりだ。

 真面目に学校に行って開発を受けているわけもなく、能力の強度が急に上がると言うことは本来ならないはずだ。

 

 ある日才能が開花する、ということは能力開発においてしばしば起こりえることだ。

 だがあれだけの人数が一度に力を身につけるということは普通ではあり得ない。

 一体何が彼らの能力を底上げしていたのだろうか。

 長点上機の特別授業を受けているアキラはそう疑問を浮かべた。クレイジー・バンチを詰問してその辺りを聞いておくべきだったかもしれないと、今更ながらに思った。

 

「で、なんでテメーがついてきてるんだ。これからバイトだっつってんだろ」

 

 後ろを見ながらアキラは言った。

 彼の後ろには服をぼろぼろにした半蔵が付いてきていた。

 

「腹が減ったでござる」

 

「おごると思ってんのか。オマエは餌付けされた野良犬か」

 

「誰のせいでスーパー超能力バトルに巻き込まれたと思ってやがる!」

 

「傷は治してやっただろうが」

 

「いーしゃーりょー」

 

「この忍者うぜえ……」

 

 クレイジー・バンチとアキラの喧嘩に巻き込まれた半蔵。

 彼はアキラの仲間であると勝手にクレイジー・バンチに勘違いされ、能力の矛先を向けられた。

 仕方なしに反撃をしたのだが、忍者である半蔵の戦闘法は基本一撃必殺。不意をついて一撃で相手を殺すのが彼の流儀なのだが、何をしてくるか解らない高レベルの能力を使う集団に囲まれては無傷ではいられない。

 結果、怪我を負ってアキラの治癒能力(ヒールタッチ)による治療を受けたのだが、巻き込んだわびにバイト先のたい焼きを食わせろとアキラにうるさくつきまとっていた。

 

「わあったよ。食わせてやるよ。その代わり食ったらさっさとこの学区から出ていけ」

 

「学区って範囲広いな!? なんでオマエそんなに俺に冷たいわけ」

 

「オマエがいると男の喧嘩が殺陣に変わるんだよ!」

 

「だってなあ。スキルアウトは誰でも銃やら刃物やら携帯してるし、能力使った喧嘩なんぞいつ死んでもおかしくないだろうに」

 

「それでも松が締めてるこのあたりじゃ、スキルアウトは殺しはやらねえ流儀なんだよ」

 

 その流儀に従わないクレイジー・バンチのような集団もいるが、そういう者達は大勢で手を組んだスキルアウトによって縄張りの外へと叩き出されてしまう。普段は縄張りの内部で対立しているようなスキルアウト達も、追い出し時には仲間として参加する。

 人が集まれば法ができる。それはあぶれもののスキルアウト達の間でも同じだった。そしてその法をスキルアウト達に守らせているのが無法松というカリスマだ。

 

 ただし、無法松はただのたい焼き屋さんである。

 スキルアウトを束ねるリーダーというわけではない。

 

 彼は第七学区と第一八学区の境目にある公園に屋台を構えている。

 アキラのバイトは、その無法松のたい焼き屋台の代理店主だ。無法松の代わりにたい焼きを焼いて公園に訪れる学生や大人達に売る。

 半蔵を引き連れてアキラは自然公園へと入る。

 科学的に計算されて配置された木々や湖が学生や疲れた研究者に憩いを与える。自然公園とは言うものの、全て科学の手が加わった学園都市の公園だ。公園のそこらを歩き回っている野鳥も決められた区域から外へと飛んでいくことはない。

 

 そんな無駄に技術の詰まった公園に、木製の手作りの屋台がどんと店を構えていた。

 学園都市の随所で見るような車と一体化した屋台ではない。昭和の香り漂う組み立て式の屋台だ。

 その設計者、無法松は屋台の店員用の椅子で暇そうにくつろいでいた。

 

「おう、アキラきたか」

 

 やってきたアキラに、あくびをしながら無法松が言う。

 まだ小学校も終わっていないような時間だ。客足が完全に途絶えていたのだろう。

 立ち上がって首をならしていると、無法松のサングラス越しの視界にバイト員以外の人が映った。

 

「半蔵か。この周りで人殺すんじゃねえぞ」

 

「うす」

 

 無法松の言葉に半蔵はぺこりと頭を下げる。

 無法松の流儀に従わない暴走集団所属の半蔵だが、無法松に対して反発しているわけではない。

 むしろスキルアウトに理解のある大人として無法松にそれなりの敬意を払っていた。

 

「じゃあ後は任せたぞ」

 

 そうアキラに言い残し、無法松は屋台の後ろに駐められていたバイクにまたがる。

 学園都市の最新式バイクとは明らかに違うそのフォルム。米国産の赤いハーレーだ。

 セルスターターのスイッチを押すと、大排気量のエンジンが大きくうなりをあげる。

 そしてアクセルを開け、無法松はヘルメットも被らず公園からハーレーで走り去っていった。

 

 それを見送ったアキラは、屋台の中へと入る。

 すでに用意されていた生地のタネを軽くかき混ぜ、型の火力を調節する。

 

 たい焼きの作り置きが無いため、アキラはとりあえず半蔵用に二尾分の生地を型に流した。

 このたい焼き型は、一つの型で複数のたい焼きを焼く養殖焼きと言われるものだ。

 屋台には一度に五尾焼ける養殖焼き用の型が三つ取り付けられている。五尾焼ける型で二尾焼くのは非効率極まりないのだが、こんな時間に作り置きをたくさん作っても意味がない。

 作り置きの配分は時間と天気と公園の人の入りに合わせて調節しなければならないのだ。

 

「ところでアキラよう」

 

 生地の焼ける臭いを嗅ぎながら半蔵がアキラに向かって言った。

 

「オマエ顔広いよな。警備員の知り合いとかいるか?」

 

「あ? ATMの事ならチクんねえよ面倒くせぇ」

 

「いやそれは逃げる途中で捕まって留置所ぶち込まれてもう面が割れてるから、どうでもいいんだが」

 

「…………」

 

 ATM強盗など、どう考えても一発で少年院送りだ

 だが留置所にぶち込まれたというこの男は、何故か今アキラの目の前で餌を待つ犬のようにたい焼きの焼き上がりを待っていた。

 つまりこの忍者は留置所から脱獄したのだ。戦国時代から伝わる伝統技術の無駄遣い甚だしかった。

 それをどうでもいいと切捨て、半蔵は言った。

 

警備員(アンチスキル)の知り合いに巨乳ででか尻で髪がすんごい長い黄泉川愛穂って人いねえ?」

 

「いる」

 

「うおっしゃああああ! マジで!? マジで!?」

 

「うるせえ」

 

「はうん!」

 

 突然騒ぎ始めた半蔵を、アキラは思念を飛ばして平伏させる。

 本来なら拳で黙らせるところだが、屋台をはさんで向かい合っているために手が届かなかった故の超能力だ。

 

「黄泉川のババァがどうかしたのか」

 

 半蔵の口から出た知り合いの名前に、アキラは考え込む。

 

 スキルアウトの活動で邪魔をされて復讐でも考えているのか。

 だとしたらアキラは半蔵を再起不能になるまで殴っておかなければならない。黄泉川には恩義がある。

 だが。

 

「てめっ、今てめーババァっつったか! 俺の愛穂さんを! 戦争ものだぞこれ!」

 

「お、おう?」

 

 頭に送り続けられていた思念を怒りによる精神力で振り払って、半蔵がアキラへと詰め寄る。

 

「俺がこうして日々犯罪にいそしんでいるのは愛穂さんに会うため! さながら怪盗と探偵。いや、大泥棒と岡っ引きだ!」

 

「この忍者うぜえ……」

 

 アキラは呆れながらも、半蔵の言っていることが本当なのか、緑のボタンを押して心を読む。

 愛穂さんラブで埋まっていた

 

「で、オレと黄泉川が知り合いだとどうかするのか」

 

「紹介してください」

 

「面割れてるなら顔合わせ一発で留置所送りじゃねーか」

 

「そこはほら、文通から始める清い交際で……名前以外何も知らねえし……」

 

 そんな半蔵のスキルアウト仲間である浜面という男が、黄泉川に留置所で電話番号を渡されたという事実を彼は知らない。

 

「つーか忍者なら連絡先くらい自分で調べろよ」

 

「ストーカーはいかんぞ。それじゃあ変態だろうが!」

 

「警備員に会うためにATM強盗するほうがずっと頭おかしいわ」

 

「メールアドレスだけでいいから! ちょっとだけ、ちょっとだけメール送るだけだから! メール! メール!」

 

「マジうぜえ……。客が寄りつかなくなるから焼き上がるまで黙ってろ」

 

「あん? 忍者様に向かってそんな口聞いていいのか? 忍法矢車草撃っちまうぞ? 忍法だぞ忍法」

 

「…………」

 

 アキラは無言で半蔵の頭に凝縮レモン汁の酸味思念を飛ばす。

 ふぎ、と口を押さえながら絶叫した半蔵はその場でうずくまり、ごろごろと公園の芝生の上を転がった。

 

 アキラはそれに目も向けず、畳んでいたたい焼きの型を開いた。

 

「おい、出来たぞ」

 

 思念の送信を止めたアキラが地面に這いつくばる半蔵に声をかける。

 酸味はあくまで脳に直接送られていただけであって、舌に残っているわけではない。

 何事もなかったかのようにのっそりと立ち上がった半蔵は、何かをアキラに向けて差し出した。

 

「?」

 

 アキラは何事かと半蔵が手に掴んでいるものに目をやる。

 空き缶だ。

 

「屋台の下に落ちてたぞ」

 

「あん? ……松のやつ、またゴミ下に放り投げやがったか」

 

 一年中この公園で屋台を開いている無法松は、この屋台を我が家感覚で使っている。仕事中に飲んだ酒の空き缶を足下に放り投げるなどしょっちゅうだ。

 やれやれとアキラが半蔵に向けて手を伸ばした瞬間。

 くしゃりと小さな音を立てて空き缶がひとりでに潰れた。

 

「――!」

 

 明らかな異変を感じ取った半蔵は、咄嗟に手の中の潰れた空き缶を全力で横に投げ捨てた。

 空中を飛ぶ空き缶を中心に空間が歪み、周囲の光がどんどんと体積を小さくしていく空き缶へと引き寄せられていく。

 次の瞬間、歪んだ空間が爆発した。

 

 直径三十センチほどの火球が生まれ、公園に轟音を響かせる。

 急激にふくらんだ爆風が木製の屋台を大きく揺らす。

 

 咄嗟に爆破地点から離れていたアキラは、揺れる屋台を目にすると、爆発の衝撃で地を転がっていた半蔵を怒鳴りつけた。

 

「テメェ、ホントに忍法を――」

 

「いや俺じゃねえ俺じゃねえよ! こんな忍法ないから!」

 

 謎の爆発は、たい焼き屋台の看板をごっそりと削り取っていた。

 白昼の公園で起きた突然の事件。

 それは、第七学区を騒がせることになる連続虚空爆破事件の始まりだった。

 

 

 




禁書目録の学園都市は東京の西側ですが、LIVE A LIVE近未来編原作の舞台は2010年の東京東部なのでこのSSでの学園都市は東京の東側に存在します。
また欠陥電気編でお気づきの方もいるかもしれませんが、軍隊の存在しない原作学園都市と違ってこのSSでは陸軍が存在します。
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