LIVE A LIVE 近未来都市編   作:Leni

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行間 とある科学の超電磁網

 

 御坂美琴は多忙を極めていた。

 ゴールデンウィーク返上で自身の技術研究を進めていた。

 中学生の身ながらせわしないものだが、この学園都市においては特に珍しいことではない。

 ましてや、彼女は学園都市の最高峰である超能力者(レベル5)の一人である。能力のレベルは学園都市の科学発展への貢献度によって決まるものである以上、彼女が若くして研究に身を捧げるのはごく当たり前の光景だ。

 

 だがしかし、今回彼女が行っている研究は私的なもの。

 常盤台中学の設備やどこぞの研究所の助けを借りることなく、寮の部屋に持ち込んだ自前の機材のみを使って進めていた。

 

 お嬢様校の学生寮。食事から買い物まで全て寮内部で完結しており、美琴はゴールデンウィーク中寮から一歩も出ない引きこもり生活を送っていた。

 同室に入寮した妹の御坂美雪はそんな姉に付き合いきれず街に遊びに出ており、美琴を止める者はいない。規則に厳しい寮母も、休日を部屋で静かに過ごす分には介入をしてこない。

 

 そんな美琴を見かねたのは下級生で友人でもある白井黒子。

 寮で食事を済まそうとする美琴を引っ張り出し、街中の小綺麗な喫茶店へと連れ出すことに成功した。

 

 爆破事件の捜査に追われていた白井にとっては、久しぶりの美琴との二人きりの時間だ。

 空白を埋めるかのように白井は心の中でお姉様と慕う美琴へと言葉を投げかける。

 

「犯人の狙いは教師と高レベルの能力者でしたの。開発を受ける前にどこまで能力が成長するのかわかっているなら、今まで受けていた授業は何だったのかと思い何もかも馬鹿らしくなったと証言していますわ」

 

「ふーん」

 

「まったく、噂に惑わされて逆恨みなんてとんでもないことですの。素養格付(パラメータリスト)なんてものがあるなら、開発を受けた何十万人もの無能力者(レベル0)の学生を学園都市が抱えているままのはずがありませんわ」

 

「そうねー」

 

「そうそう、あのアキラさんも事件の早期段階で爆弾を仕掛けられたのだとか。美琴先輩も学舎の園の外をふらふらと出歩いていたら狙われていたかもしれませんわね。まあ美琴先輩なら見事撃退したのでしょうけど」

 

「うんー」

 

「……美琴お姉様、聞いてます?」

 

「聞いてないー」

 

「聞いて下さいまし!」

 

 白井はテーブルを両手で強く叩く。

 一方美琴は手元に向けていた視線をけだるげに白井へと向け直す。美琴の手には最新鋭の情報端末が収まっていた。

 

「んもう、事件も解決してようやく暇ができてせっかくデートにお誘いしましたのに、ずっと端末とにらめっこなんて酷いですわ」

 

 本日はゴールデンウィーク最終日。

 白井には連休の間に中学生らしく遊び回った記憶はない。四月から晴れて現場に投入されるようになった白井の前には、風紀委員(ジャッジメント)の仕事は学校内が管轄という建前を無視したハードな境遇が待ち受けていた。

 一方の美琴は休みの期間中自室で引きこもり生活だ。

 

 白井の机叩きアピールに、やれやれと美琴は情報端末を脇に置く。

 

「デートじゃなくてランチね。女子校生活始めて結構経ったけど、私そっちのケはないから」

 

「い、いやですわね美琴先輩。あくまで同年代の若者の親睦という意味でのデートですの」

 

「……ミサカ裁判でその証言は虚偽のものであると可決されたわ」

 

 美琴はテーブルに置かれたコップを持ち上げ、コップの底で二度軽くテーブルを叩いた。

 テレビドラマで見た彼女の中での裁判所のイメージだ。

 

 スピード判決ミサカ裁判。

 新たに美琴が加わったミサカネットワークによる、いつでもどこでも開廷可能な裁判である。

 適用される法は妹達(シスターズ)個人個人の持つ良識と直感と偏見である。

 

「白井黒子さんのクラスメイトの御坂美々さんの証言です。『それは新学期の身体測定のときのことです。その方は半裸になった女生徒達を隠れるようにそれでいて狙うような眼光で見つめていました。さらに視線の先はミサカにも向いていました。むしろメインターゲットだったと思います。生まれて初めて寒気を感じました』……あんたねえ、うちの妹生まれて間もないんだから教育によくない行動は慎んでよ」

 

「弁護士! 弁護士を呼ぶチャンスを!」

 

「有罪判決控訴却下ーはい終わり」

 

 そう言葉をまとめると、美琴は再び情報端末を持ち上げ操作を始めた。

 

「最近の美琴先輩はそればっかりですの。本来なら学生ではなく研究者のお仕事でしょうに」

 

 美琴がここ最近ずっとかかりきりで行っている研究。それは、ミサカネットワークに関するものだ。

 彼女がこれだけ集中しているのは、ネットワークの脆弱性の洗い出しと不具合の修正を早急に行うためだった。

 物理的な有線ネットワークとは違い、能力を使って遠隔で意思の疎通を図る無線ネットワーク。その端末となるのが妹達(シスターズ)の脳だ。何か問題が起きてから対処するのでは非常に危険である。

 

「レベル5になるほどの頭脳を持つ美琴先輩でもこんなにかかりきりになるような内容ですの?」

 

 ランチとして注文していたボンゴレのパスタをフォークでくるくるといじりながら、白井が訊ねる。

 

「まーねぇ。人間のクローン製造は建前上禁止されているから、脳の領域を繋げてのネットワークなんて前例がないものだからね」

 

 それに、と美琴は食事に手を付けることなく続ける。

 

「他の学者になんて任せてられないしね。私がしっかり技術管理しないと今度は頭脳ネットワーク目的にまた別の人のクローンが作られるかもしれない」

 

「美琴先輩ほど優れた発電能力者(エレクトロマスター)を複製してもレベル3がやっとでしょう? レベルが低い能力者のクローンではネットワークなんて作るほどの出力は得られないでしょうし、悪用できそうな人材がそうそう転がっているでしょうか」

 

「私より頭脳ネットワークの構築に適した能力者がいるわよ。しかも同じ学校に」

 

「……ああ、第五位の」

 

「あいつならむしろ喜んでDNAマップを提供しそうなところが怖いわ……」

 

 苦虫を潰したような顔で美琴が言う。

 超能力者(レベル5)第五位、常盤台の心理掌握(メンタルアウト)食蜂操祈(しょくほうみさき)

 読心能力(サイコメトリー)精神感応(テレパス)といった『心』の能力者達の頂点に君臨する女王であり、人と人の精神を繋ぐネットワークの媒体としては美琴の発電能力よりもずっと適任と言えた。

 さらには、彼女は常盤台中学の最大派閥の主であり、手駒を増やすために自分のクローンを作らせてもおかしくないような人間だ、と美琴は思った。

 

「知ってる? 働き蜂って全部生殖機能を失ったメス蜂なんだって。うちの妹達はちゃんと生体調整受けてるからそこんところは大丈夫だけどね」

 

「クローンの職蜂(しょくほう)シスターズなんてネーミングが噛み合いすぎて怖いですわね」

 

 そんな返答をしながら、白井は思う。ぐちぐちと同じ学校の生徒の陰口を言うなど、いつもの美琴お姉様らしくない、と。いつもならばすぱーんどばーんとはっきり他人への文句を口にするのにと。

 どうも多分にストレスが溜まっているようだと白井は考えを巡らせる。

 せっかく寮の外に連れ出せたのだ、口先で上手く丸め込んでまずはエステにでも連れ込んでリフレッシュさせてしまおう。そう白井は午後からのスケジュールを脳内で組む。

 ランチだけでデートを終わらせるほど、白井の狙いは甘くなかった。

 

 

 

 

 

 

 寮の門限ぎりぎりまで白井に付き合わされた美琴は、ぐったりと自室のベッドに倒れ込む。

 時間が押していると言いだした白井は途中、空間移動(テレポート)を使って空中移動を始めたのだ。

 移動時間は無駄と言わんばかりの第七学区巡り。リフレッシュするどころか、むしろ疲労が溜まったのではないかと美琴は大きく息を吐いた。

 

「おつかれさまです、とミサカは本当に疲れているお姉様を労います」

 

「うん、疲れたー。そして作業遅れたー」

 

 二人部屋の同室の御坂美雪と挨拶を交わし、美琴はずっと携帯していた情報端末をベッドの上で操作する。

 すると、室内に置かれていた機材が情報端末に連動して起動し始めた。

 

 ミサカネットワークは多くの問題を抱えている。

 ネットワークを支えているのは妹達(シスターズ)の持つ電撃使い(エレクトロマスター)としての力だけではなく、『学習装置(テスタメント)』を使って妹達全員の脳構造を整頓することによって成り立っている。

 妹達が精神的な成長を続けることによってその均衡はたやすく崩れる。脳構造のぶれ幅を広く許容できるような仕組みに変えないと、ミサカネットワークは成り立たなくなってしまうのだ。

 

 『学習装置』による脳構造の整頓を行っていない美琴がミサカネットワークにログインできているのは、妹達に近い脳波を持っていることに加え、電撃使いとしての高度な演算力を持っているためだ。

 もし仮に美琴以外の電撃使いがミサカネットワークにアクセスしようとした場合、妹達百名超の『脳波を統一しようとする力』によって脳に深刻なダメージを負ってしまうことだろう。

 この仕組みが非常にまずいと美琴の研究開発に急がせる理由である。

 

 ミサカネットワークはすでに公の存在となってしまっている。

 興味本位でアクセスしようとする能力者や研究者がいつ現れてもおかしくない。

 セキュリティの基本である機密性、完全性、可用性も重要だが、何よりもまず安全性を確保しなければならない。

 

 しかしこれはそう簡単に仕組みを変えられるような代物ではない。

 妹達は機械ではない。メンテナンスをしてお手軽バージョンアップというわけにはいかない。

 『学習装置』を妹達全員に用いれば変更は可能だが、人の精神構造に関してはさすがの美琴も専門外だ。

 

「むーぬぬ、やっぱり修正パッチを小分けにして適用していくしかないかなぁ」

 

 ベッドの上でバタ足をしながら美琴はうめく。

 絶対能力進化(レベル6シフト)計画においてミサカネットワークの管理者となるはずだった最終信号(ラストオーダー)の資料が彼女の持つ唯一の鍵だ。

 最終信号は妹達全員に統一した指令を出せるような権限を与えられる予定であった。

 また、『学習装置』を介すことなく外部から新たな記憶を入力するという機能も想定されていた。

 美琴はそれを足掛かりに、妹達に少しずつ『ミサカネットワークの使い方』を変えさせることでネットワークの仕組みを変更させようと考えている。

 

「ま、これはなんとかなるか」

 

 早急に対処しなければならない事案であるが、難易度はさほど高くないと美琴は部屋の機材に予測演算を任せる。

 

「最近のお姉様は独り言が多いですね、とミサカは良くない癖を心配します」

 

「わざと言ってんのよー。あんたたち何でもかんでもネットワークで会話しようとするから、少しでも口で喋るきっかけを与えないとね」

 

「口で喋らないと何かまずい点でもあるのでしょうか、とミサカは疑問を口にします」

 

「あるわよ。精神感応(テレパス)に頼りすぎて喋れなくなった人とかもいるんだから」

 

 そんな会話を続けながら、美琴はミサカネットワークの他の問題点を振り返る。

 

 ネットワークには脳波を同じくした美琴のクローンしか接続することができない。

 逆に言うと、美琴のクローンならば何人でも新たに接続することができる。

 第三者によって『新たに作成されたクローン』に乗っ取られる可能性があるのだ。

 これは美琴が管理者となったことで危険性はほぼ消えたが、それでも『最終信号』として特化調整された個体に一瞬ネットワークを掌握されることがありうるかもしれない。

 

 そして美琴が一番頭を抱えている問題。

 人工生命研究所コギトエルゴスムでの御坂キューブの記憶だ。

 キューブ本人は記憶の共有を拒否しているが、他の妹達は重要な事件として記憶の開示を求めている。

 

 美琴はキューブと個人的に記憶の共有を行った。

 隣人の死、暴走する恐竜による死の恐怖、所員達による疑心暗鬼の関係。ここまでは共有しても問題ないと美琴は考えている。

 元より妹達は二万回の死を経験し共有するはずだった存在だ。ちょっとやそっとの死や負の感情で揺らぐような精神構造はしていない。

 だが、研究所でキューブが最後に見たもの。人工知能OD-10の記憶は今ミサカネットワークに流すわけにはいかないと美琴は判断した。

 電子の世界での戦い。0と1の領域で、OD-10はありえない姿を見せた。

 

 仮想空間に現れた悪魔。あれは美琴の理解を超えた存在だった。

 醜悪な顔、通信を越えて伝わってくる痛み、人に対する憎悪の渦。

 ミサカネットワーク全員でこの記憶を共有してしまったら一体どんなことになるのか、美琴は想像も付かなかった。

 共有しなければ丸く収まるのだが、妹達は記憶の開示を求めている。

 仕方のないことだ。この事件で新しく家族に加わるはずだった妹が一人死亡しているのだから。

 美琴にとって頭の痛い事案だ。

 

「あとはー、これか」

 

 ミサカネットワークの抱える問題点。

 妹達は無意識のうちにネットワークに常時繋いでいるので、プライバシー精神が目覚めないかもしれない。

 みんな各々の生活風景を楽しげに実況しあっている。家族を越えた共同体だ。それゆえに個というものへの執着心が薄れてしまう可能性がある。

 

 ――いや、それは大丈夫か。この子達は日を追うごとに個性豊かになってる。

 

 美琴は自分のベッドに腰掛けて携帯電話をいじっている妹の美雪を眺める。

 常盤台中学には三人の妹達が在籍している。美琴も含めると四人もの同じ顔、同じ背格好をした者が同時に存在しているのだ。

 妹達はミサカネットワークを介することで個人の識別が付くが、周囲の生徒や教師からすると全く見分けがつかない。

 そのため、彼女達はそれぞれ髪型を工夫したりアクセサリを付けたりとお洒落に目覚め始めている。

 

 若い番号の妹達は皆美琴と同じショートヘアーだが、クローン培養が終わったばかりの個体は腰まで届く長い髪を持っているらしい。

 最近調整が完了した子はその長い髪を好きなようにカットして貰い、他の妹達との差異を作ろうとしているようだった。

 

 新学期から常盤台に転入してきた目の前にいる御坂美雪も、可愛らしい雪の結晶のヘアアクセサリで髪の横をまとめている。

 最近の愛読書は中学生向けのファッション雑誌のようだ。

 もっとも常盤台中学は外出時の制服着用を義務づけられていて、私服を着る機会はないのだが。

 

「お姉様お姉様」

 

 美琴の視線に気づいた美雪は、姉に構って貰える時間がきたと、まるで犬猫のように美琴の元へとすりよってきた。

 

「はいはいなんざましょ」

 

素養格付(パラメータリスト)というものをご存じですか、とミサカは携帯で見た新情報を伝えます」

 

 美雪は手に持った携帯電話を左右に振りながら言う。

 常盤台に来る前に通っていた中学校のクラスメイトに貰ったらしい、四つ葉のクローバーのストラップが手の動きに合わせて揺れる。

 

「んー? ああ、そんな噂が出回っているって黒子が言っていたわね」

 

「ただの噂ですか?」

 

「そうね……私のレベルが低いときにDNAマップを騙し取ったってことは、実在していてもおかしくないかもね。興味ないけど」

 

「そうですか、興味がないですか」

 

 話題を切って捨てた美琴に落胆することなく、美雪は会話を続ける。

 

「それではお姉様、クロウリー文書というものをご存じですか、とミサカはさらなる新情報を伝えました」

 

「なにそれ……って、ああ待って前に聞いたことある」

 

 妹から伝えられた怪しげな単語に、美琴は生返事ではなく真面目に考え込む。

 自然公園の噂好きな中学生の友人が、いつだったか語っていたはずだ、と美琴は記憶を掘り起こす。

 

「確か、クロウリー統括理事長直々の公文書が発表されたとき、その内容にまつわる良くないことが起こる、だったかな」

 

 噂好きの少女、佐天が言っていたのはなんだったか。

 某国で戦争が起きた、格闘家を狙った連続殺人が起きた、異世界の扉が開いた、公衆電話の数が減った。そんな大事件からどうでもいいことまでクロウリー文書は引き起こしてきたらしい。いわゆる都市伝説だ。

 

「なに? 学園都市の七不思議のサイトでも見てたの?」

 

「いえ、学舎の園の交流掲示板を見ていたのですが、学園都市公式の広報局のリリースが話題になっていまして」

 

 そう言いながら美雪は美琴へ携帯電話の画面を向けた。

 

「素養格付は実在するだそうです、とミサカは掲示板での騒ぎにうろたえます」

 

 画面に映るのは学園都市広報局の情報ページの発表文。

 題字には、素養格付宣言と書かれていた。

 

 その内容を流し読みした美琴は、眉をひそめる。

 

 詳細な検査を学生に受けさせることで、能力者としての成長の限界点を調べる技術が実際に存在する。

 定期的に実施される身体検査(システムスキャン)とは異なるものであり、将来高レベルの能力者に成長する素質を持つ学生を探し出すための最重要項目であり、ごく一部の最先端研究においてのみ公開されている。

 能力者とはあくまで学園都市の科学発展のために生まれる副産物であり、学園都市は学生を能力者にすることそのものを目的とはしていない。

 未発展のまま埋もれている特異な人材を発掘することは学園都市の未来の発展にとって必要不可欠であり、素養格付は生まれるべくして生まれた重要技術である。

 素養格付の情報は必要に応じて統括理事会が提供している。学生や一般教師個人からの公開請求は受け付けていない。

 

 おおよそそのような内容の公文書が、クロウリー統括理事長の名で掲載されていた。

 

 美琴は眉をひそめ思考を巡らせる。

 量産能力者(レディオノイズ)計画に自分のDNAマップが使われたのは、将来超能力者(レベル5)になる素質があったと見られていたからだろう。

 超能力者になれたのは、低レベルの時代に努力を一時も欠かさなかったからだ。そう美琴は思っていたが、もし自分の能力開発が他者よりも優遇されていたとしたら。

 ……いや、実際に優遇されていた。ただ、美琴はそれを自分の両親の力によるものだと信じ込んでいた。彼女は学舎の園に混ざっていてもなんの不思議も違和感もない上流階級の生まれだ。

 

 素養格付は統括理事会が管理しているという。となれば、美琴の素養格付の情報を流したのも理事の誰かということになる。

 

「――ってああそうだ、あの統括理事は捕まったんだった」

 

 絶対能力進化計画が表沙汰になったときに免職された理事を彼女は思い出す。

 トカゲの尻尾切りの可能性は否めないが、この件に関して美琴が責める先は表向きすでに統括理事会にはいないことになっている。

 

「美雪、興味ないって言ったの間違いだわ。すんごい気になるこれ」

 

「……学園都市の生徒の中でこれが気にならない人はほとんどいないのではないか、とミサカは考察します」

 

 素養格付。能力の成長の限界。

 学生の六割を締める無能力者(レベル0)が必死に上のレベルを目指している中、実際はどれだけ努力しても無能力者から上にいけないのだったら。大能力者(レベル4)超能力者(レベル5)の学生達はなるべくしてそのレベルになったのだと多くの人々が思ったら。

 

「能力開発の根底からひっくり返るわよ、これ。しかも連休の最後の夜に公示だなんて、荒れるわよ」

 

 明日からこの学園都市はどうなってしまうのか。

 美琴にとっては全く他人事ではない。超能力者を目指す強能力者(レベル3)以上の少女達が集まる常盤台中学で、超能力者である彼女がどんな扱いを受けるのか。

 

 予測の付かない不安を抱えたまま、連休最後の夜が過ぎる。

 

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