二回戦は体育館で行われるそうだ。体育館には何故かたくさんの人が集まっている。俺たちが移動すると、何故か先程まで部室いた雅人が待っていた。
「それでは、二回戦はこちら!」
またまた、じゃん!という電信音と共にテレビのパネルに「ダンス」と表示される。すると、黒子と思われる人がとてもスムーズな作業でダンスの採点機器を運んでくる。
…あれどこから借りてきたの!?
「えぇ、隼人の疑問に答えると、こちらはLet'sダンス同好会の方から借りました!ダンスマシーン『DCくん113,45号ver8,3DX』です!」
「ちょっと待て!今の発言、ツッコミどころのオンパレードだったけど!?」
まず、どうやって俺の心を読んだ!?お前はエスパーか!
次に、Let'sダンス同好会って何!?聞いたことないよ!最初のLet'sに何の意味が!?ってか同好会は部費が支給されない筈なのにどうやって買ったの!?
そして、最後が一番おかしくね!?“DCくん”って普通にダンスくんで良いじゃん!あと、残りの113,44台は一体何があった!?そんでもって8,3verって何回修復を施してるの!?最後のDXってここまで来たら必要あるか!?
っは!そうか、これはきっと罠だ。
くっそ~雅人の奴、μ΄sに肩入れしてるな?俺をその程度のボケで疲れさせようとしたってそうはいかないぞ!(※断じて違います。)
まず、μ΄sの一通りのダンスは終わった。
やはり、日頃からダンスをやっているので全員が上手い。バレエもやっていたと言うこともあり、最高得点は絵里先輩の97,232だ。非の打ち所が無いくらい上手かった。相当、努力をしてきたんだろう……
ーしかし、俺はそんな努力すらも簡単にぶち壊してしまう…
曲を選ぶと俺はスイッチを入れた。今、この時この瞬間だけ、この曲は“俺達の”曲になる……
音楽が流れるとことり先輩や希先輩が面食らった様に驚いた。
「嘘!?この曲って…」
「A-RISEのやん……」
流れてきた曲は『Shocking Party』…A-RISEの曲である。
俺が何度も見た、聞いた曲。だからこそ、この曲で絶対に負けられない。後はただ“再生”させるだけ……
俺は踊り始めた。
μ΄s一同は一瞬錯覚を覚えた。
その姿はまさに、A-RISEのリーダー『綺羅 ツバサ』そのもの。幾ら弟とは言え、似すぎている。思わず、戦っているμ΄sであれ、皆が微笑んでしまう。皆が隼人のダンスをまじまじと見つめてしまう。隼人のダンスにはそんな力があった。
そして何より、本人が一番楽しそうである……
終盤に差し掛かっても、隼人は一つ一つに全神経を張り巡らせる。
たぎる汗。
上がる息。
その全てがこのダンスの難しさを物語る。隼人が求めるのは一瞬一秒の勝負。コンマ0,1の失敗を逃さない。
酸素が足りず頭が回らない。彼の頭で再生されるのは信頼し、心から尊敬する義姉のダンス。最後の最後まで気を抜かない完璧なパフォーマンス。
そして…………最後の決めポーズ。
しん…と曲の終わりと同時に、体育館は無の空間に引きずり込まれる。
「「……………」」
この時、隼人は義姉の言葉を思い出す…
ーーねぇ隼人、一番良いパフォーマンスってしってる?それはね、終わった後一瞬し~んとしてから……
「「わぁぁぁ!!!」」
ーー大きな歓声が起きるものなのよ!
隼人はツバサの言葉を理解し、気づいた。
「(こ、これが姉ちゃんの舞台…)」
沸き起こる黄色い声援。まだ、得点が出ていないにも関わらずである。中には涙を浮かべている者も…
そして、得点が発表される。テレビのパネルに出てきた点数は…結果は……
「き、99,981…」
隼人の圧勝と言う二文字だった。
☆★☆★☆★☆
三回戦は雅人も観客もいない…いるのは人、人、人。それもその筈、ここは秋葉原。A-RISEのお膝元である。
「三回戦はこのμ΄sのチラシ配りよ!貴方が100枚配り終わるか、私達の誰かが先に配り終わるかの勝負よ!」
絵里の言葉を聞きながら思うが、明らかに俺不利じゃね!?二回戦もそうだったがほぼ1対9の戦いである。これは勝負と言うより軽いリンチなのでは…?
…という、浅はかな疑問を吹き飛ばすかのように、にこ先輩から100枚の束が渡される。
にこ先輩の渡す力が地味に強かった。なんかこっち睨んでくるし…
「…ちびっこの癖に」
「聞こえてるわよ!これが終わったら覚悟してなさいね~!!」
こりゃ、勝手も負けても地獄行きかなぁ…
俺はどこか遠い目をしながら密かに思った。
そして、最終決戦が始まる。各々が配り始めているなか、俺はまず近くのアイドルショップへ立ち寄った。
「いらっしゃいませ。」
店員が営業スマイルで言うと、俺は話し掛ける。
「すみませんが、このお店にこのチラシを二枚ほど貼ってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ。入り口の方に貼って頂ければ…」
店員の言葉に応じながら、手早い作業で仕事を進める。そして、店の中でも何人かに渡した。これを数店舗に及び繰り返すと、次は人通りの特に多そうなところへ駆け寄る。既に残り枚数は半分を切った。
「お姉さん、お綺麗ですね!今日は友達とお出掛けですか?実は……」
「お!そこのお兄さん!その缶バッチA○K48のじゃないですか!?アイドル好きっすか?こっちのアイドルも………」
隼人の巧みな話術を見て海未は唖然として、眺めている。
「何で、日頃やってる私達より上手いのでしょうか?」
「海未ちゃん!それよりも今は配る方に集中しよう!」
海未は穂乃果の言葉で慌てて、チラシを配り始めた。
そうしている内にも、隼人は残り一枚にまで来ていた。最後の一枚を男の人に渡す。
「そこのワイルドなお兄さ………………っ!?」
しかし、声を掛けた人を見ると、隼人は口が固まってしまった。上手く動かない。ダンスでかいた心地よい汗が急に冷たくなり、隼人の頬をつたる。足が微かに震えてしまっている。そんな彼の頭の中で再生される。それは闇に写る重くて深い、そして切ない記憶……
彼は何時も俺と遊んでくれた。何時でも味方でいてくれた。俺のヒーロー。
«おい、遊ぼうぜ“立花”!»
あの時もあいつは何も変わらなかった…
«お前スゲーよ!忘れる事がないなんて羨ましいぜ!»
そう信じていたのに…
«来んなよ!気持ち悪りぃ…俺に近づくな!!»
「んぁ?お!お前、“立花”じゃん!何だよ、忘れちまったのか?ってお前は嫌でも忘れられねーか。『盗み屋』さんよぉ…」
「…………こ、浩平」
嫌でも出てくる最悪な記憶。彼が誰かなんて愚問だ。あのほっそりとしたつり目。男にしては長い髪。好きな赤色で着込んでいるファッションセンス。“何もかも”あの時のままだ。彼は『田中 浩平』。
俺の“元”親友だ。
「なぁ、どうしたんだよ、“立花”?」
「てめぇがその名前で呼ぶな!!」
「ちょっとどうしたのよ?………隼人?」
真姫が隼人の様子に気づいたのか、声をかける。医学の知識がある真姫がパニック障害ではないかと疑うほど、隼人は大量の汗を書いていた。隼人の叫び声が聞こえたため、他のμ΄sも集まってきた。
「ははっ!何だよお前、こんなに心配してくれる女の子がいて羨ましーな!まさか、まだあの事知らないんじゃないのか?だったらこの俺が代わりに教えてやるぜ……」
「黙れ!!!」
隼人は浩平の横を抜け、秋葉原の人混みを駆け抜ける。人が皆、隼人を冷たい冷酷な視線をぶつける。
それは幻想だ。
そんなの分かっている。
でも……………怖い。
また、裏切られる。また、一人になる。ようやく出来た“自分の居場所”。あのツバサでさえ、信頼する姉でさえ、裏切られるのではないかと疑ってしまう。
気がつくと家の前まで来てしまった。できれば誰とも会いたくない。母さんは今日、知り合いの家にいる。父さんは遅くまで仕事。誰も家にはいないはず。そう思って扉を開けた。
「お!帰って来たね~!お帰り、隼人。」
目の前には何時もと変わらない姉ちゃん。可愛らしい部屋着に身を包み、楽しそうにニコニコしている。
でも、今回ばかりはそれがもどかしく感じた。
「あぁ、ただいま…」
俺は姉ちゃんの横を通り過ぎ、自分の部屋へ向かう。姉ちゃんは不思議そうに俺の後ろをアヒルと子の様に着いてくる。
「どうしたの?隼人、もしかして、思春期ちゃん?そうやって私が困るのを楽しみたいの?ねぇ、は~や~と~」
姉ちゃんはかまってくれと言わんばかりに話しかけてくる。しかし、流石に様子がおかしいと思ったのか、心配するように声をかけ始めた。
「何かあったの?」
「別に…」
「いや、絶対何かあったでしょ。隼人はすぐ溜め込むからなぁ~。どれ、お姉さんに言って見なさい!」
姉ちゃんは自分の胸を叩きながら、鼻を高くしている。何時もならどうってこと無かったのに、軽く流しておしまいなのに、今回はしゃくにさわった。
「うるさい!どうせ姉ちゃんだって俺の事、気持ち悪いとか、面倒臭いとか思ってるんでしょ!」
その瞬間、やってしまったと思った。姉ちゃんとは喧嘩を良くするが、どうでもいいことなのですぐ解決する。しかし、今回は別だ。初めて、姉ちゃんに“本気で”反抗した。そう思った矢先…
パァン!
一瞬、何が起こったか、理解不能だった。気づいたら姉ちゃんの手が俺の頬に当たって…
すると、突如暖かい物が感じる。姉ちゃんが俺を両手で覆っている。抱き付かれている。姉ちゃんは俺の耳元で呟いた。
「そんなわけ無いでしょ。貴方は私の家族よ。あの日からずっと……今も変わらないわ。例え、貴方がどんなに他人と違っていても私の弟…」
そのあとはただ大泣きして、気づいたら意識を失って、そして、すやすやと寝っていたらしい。
☆★☆★☆★☆
ツバサside
隼人が寝たあと、私は隼人の寝顔を見ながら、隼人の頬をつつき微笑んだ。隼人は笑みを浮かべながら寝ている。
「この笑顔は“昔から”ずっと変わらないわね…」
隼人を見ると私の胸の鼓動は高鳴るばかりで、中々落ち着かなかった。
私が小学生のころ、私は恥ずかしがりやで友達付き合いが良くなかった。今とはまるで正反対の私。
そんなとき、同じ学校の彼が私に声を掛けてきた。学年が違かったから勿論お互いに知らなかった。でも、彼は平然と笑顔で手をさしのべた。
«一人じゃつまらないよ?ねぇ、一緒に遊ぼうよ!»
そのたった一言が、その笑顔が、私を救ってくれた。お互いに名前を聞かず、名乗らずだったので知ることはなかった。
しかし、私は悪い意味で知ってしまう。友達ともある程度話せる様になった頃…
«忘れない子?»
«そうそう、あそこの『立花 隼人』っていう男の子がそうらしいよ。何でも、一度教科書を読んだだけで一語一句間違わずに言ったらしいわ。本当、気持ち悪い…»
«…!?そ、そうなんだ…»
私はその話を聞いたとき驚いた。
彼に何があったのかは分からなかったけど、彼から確実に笑顔が失われていた。それだけは分かった。
だから、今度は私が……
私は密かに闇夜に光輝く月に誓った…
いや~やっと書き終わったところですが、今回の話を書いていて思ったことがありました。
まず、義姉弟ってシスコン、ブラコンに入るのかなぁ~とか。
そして、シリアス系になると急に文章が進まなくなるなぁ~とか…
その点、感想でなにか書いていただければと思います。
では、次回またお会いしましょう!!