「はぁ…はぁ…はぁ…」
暗い夜の森を駆ける一人の少年が居た。その少年の格好は汚れたシャツと短パン、上にボロ布を一枚羽織った程度である。くしゃくしゃの黒髪にまだまだ幼さを見せる顔。歳はまだ10歳にも満たしていない。
何故そんな少年が暗い夜の森を走っているのか…。
少年の後ろから数多の声が響いてくる。人間の声でもあるし、動物の声でもある…。
それに…『人間や動物の声じゃ出せないようなモノ』までいる。
皆少年を追っているのであろう。少年は時おり後ろを見ながら真っ直ぐただひたすら森を走る。
幼い少年が持つような体力や脚力ではない。それほどまでに少年の持つ体力や脚力は異常である。
だが、そんな少年でも疲れるものは疲れるらしい。少年は本来の速度を出し切れてないといった感じだ。
答えはもう出ている。
少年の手に握られている二つの剣。
一つは『白』。剣のあらゆる所が白一択であり、他の色は一切見受けられない。正に聖剣のようなものである。
一つは『黒』。此方は黒一択ではなく紫や赤といった装飾もされており、例えるならお伽話に出てくる魔剣だ。
その二つが少年の本来のスピードを無くしている。追い付かれるのも時間の問題だ。
「…はぁ…はぁ…、大丈夫…。『君達』は僕が守るから…」
少年は二つの剣を見ながらそう言う。
まるで…
『この二つの剣が人間であるかのように』。
それに答えたのか二つの剣は淡く光った。少年はそれを見て笑顔になるが、突如やって来た痛みに笑顔が崩れる。
「…ガアアアァァァァァ…ッ!!!!!!」
少年はその場に座り込み抉られた肩を押さえつける。
抉られた肉は『人間でも動物でも無いナニカ』の口の中にあった。
少年はその『ナニカ』を睨み付ける。
「…クソ!!そんなもんまで出して来やがって…!」
後ろから沢山の声が聞こえてくる。もう追っ手はすぐそこまで来ている。だが、前にいる『ナニカ』のせいで行く手を阻まれた。
「…aaaaaaaaaaaa…」
人間の耳では聞き取れないような不気味な声。今の世の中にはこんな『ナニカ』が沢山いる。場所は限られているが…。
「見つけたぞ!!ガキ!!」
追っ手に追い付かれた。周りは少年を追ってきた大人や動物や『ナニカ』で沢山だ。大人達はニヤニヤした顔で此方を見据えてくる。
「それを持ち出して何処に行こうとしていた?ここから逃げ出そうなんてバカなことは止めるんだな」
白衣を身に付けている男は手に『角笛』を持ちながら少年に近づく。あれで『ナニカ』を操っているようだ。少年も何度か見たことあるので『それ』がどういうものなのか分かっていた。
「それに情でも移ったか?ハハッ…それは、そいつらは化け物なんだよ…。ああ、同じ化け物同士だから仲良くなったのか?」
男は笑いながら少年を見る。周りに指示を出しながら一歩ずつ近づく。
「まぁ…それはそれでいい。お前らが一緒になることはもう無い。取り合えずそいつらは『人間』に戻して実験を繰り返す。…死ぬまでな…ククッ。壊れたらどうなるんだろうな…あ~楽しみだ。…おい、連れてけ」
その男の指示に何人かが動き出す。少年は座り込んだまま動かず、顔だけ上げて男にこう吐き捨てる。
「…下衆が…」
ドンッ!!!!
そう鈍い音が辺りに響き渡った。男は少年の抉られた肩に思いっきり蹴りを入れた。
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!」
呻き声を上げながらのたれ回る少年。男はそれを見ながら何も感じていなかった。まるでゴミを蹴り捨てたかのように…。
「…はぁ…俺が下衆ね…まぁ分かる。というかそれくらい分かってる。俺が下衆だってことは自分自身がよ~く分かってる。けどなぁ…お前も一緒だろ?俺と同じ下衆野郎じゃあねぇか。その目でどれだけの死体を見てきた?その手をどれだけの血で汚した?そして、その日…お前は嬉しかったか?泣いてたか?怒ったか?…笑ってたか?どちらにせよ俺とお前は同じ屑なんだよ。同じ者同士もうちょっと仲良くなろうぜ?なぁ…」
「…はぁ…はぁ…はぁ…」
「まず一週間飯抜きだ。ここから逃げ出そうとした罰だ。それと…どっちか選べ」
男はニタァと笑うとまるで悪魔が囁くように少年の目の前で言った。
「そいつら…剣の状態と人間の状態…どっちで壊されたい?」
「…ッ!!」
「アハハハ!!!!当たり前だろうが。ちゃんと悪い子には『お仕置き』しないといけないからな~。悪い子に影響を与える『玩具』は捨てないとな?」
男がジリジリと歩み寄ってくる。気持ち悪い笑顔で、ゆっくり…ゆっくり近づく。
「…(ハハ…今のお前の顔、気づいてないのか?ここにいる誰よりも、何者よりも…)」
「…化け物じゃないか…」
肩の肉を抉りとった『ナニカ』でさえ霞んで見える『化け物』が今目の前にいる。多分殺される。この人数だ、まず勝ち目は無い。正直逃げ切れると思った。だが少年の考えはすぐに打ち落とされた。
この男によって。この『ナニカ』によって。
あそこに戻されるのはもう嫌だ。あんな地獄みたいな場所に居たくない。常に肉と血と腐敗の臭いがするあの場所に…。
この子達と一緒に居たい。もっと喋りたい。もっと仲良くなりたい。
少年は剣を握りしめ近づいてくる『人間のようなナニカ』を見る。確かこいつは言った。自分達は同じだと。同じ者同士だと。
言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った。
確かにそう言った。
だったら…。
自分も目の前の化け物のようになれるのではないか?何も考えず、何も感じず、ただひたすら命を奪う修羅のような存在に…。笑って命を刈る死神みたいに…。
自慢できるような事じゃないけど…こいつよりは…目の前にいる化け物よりは、
人を殺してきている。殺し方を知っている。
少年は臆することなく修羅の扉を開く。
そして…。
グサッ!!!!
「……あ?」
少年は手に持っている黒い剣で目の前の化け物を刺した。
「……な…、に…?……」
「…死ねよ」
刺した剣を真上へ上げた。体の真ん中に刺したのだ。そのまま上に行けば…もう分かっているだろう。
男はそのまま絶命し少年は歓喜を覚えた。
「アハハハハハハハハハ!!!!アハハハハハハハ!!!!」
そこから先は覚えていない。気づいたときは近くの木に寄りかかっていた。
「……あっ……僕……」
少年のすぐ後ろにはパッと見ただけでも数百を越えている死体があった。中には人間ではないものも混ざっていた。死体は全部ぐちゃぐちゃにされておりもう誰が誰なのか知るよしもない。
それほどまでに異常な光景である。
少年はそれを見たとき嬉しそうに泣き出しそうに怒り出しそうに…笑っていた。
「……全部……僕が殺ったのか……」
少年は二つの剣を見る刀身には血がベットリと付けられていた。
「……ごめん。僕だけで殺ればよかった。君達を汚したく無かった。ごめん…本当に…ごめん」
剣を抱き締めると二人の少女が現れる。
一人は白い髪をした幼い少女。もう一人は少年より少し年上っぽい黒髪の少女。
「…大丈夫よ。私達は気にしないわ」
「ええ。だから、泣かないで下さい。私達は貴方のユウの味方です」
少女達は少年の涙を拭き取り、そっと抱き締める。
「外を見るんでしょ?行きましょ♪」
「ユウ…一緒に…」
白い少女と黒い少女は同時に手を差し出す。ユウと呼ばれた少年は二人の顔を見て笑顔になり、二人の手をとった。
少年は二人の少女と手を繋ぎながら歩き出した。
その血塗られた道を…。
その道に沢山の仲間を作りながら…。
その道に沢山の敵を作りながら…。
歩く…。
歩く…。
決して幸せとは言えないかもしれない。もしかしたら待ち受けるのは不幸の連続かもしれない。
それでも…、立ち止まらない。
これはそんな壊れた少年とその壊れた少年を癒し、愛す少女達の物語。
誤字脱字、おかしい所があったらご指摘お願いします_(..)_