黒と白と壊れた心   作:東流

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今回は初の一万字越えで、長めに書けたと思っています。

楽しんで読んでもらえると嬉しいですm(__)m。

それではどうぞ♪


朱のアトリエと学園の騎士団

「…ふうわぁ…」

 

転校してきて数日、初めての休日の朝を迎えていた。

王宮にいた頃は女王の命令がある以外は殆ど休日みたいなものだったので、生活習慣が若干ずれてしまっている節がある。

 

取り合えず制服に着替え、エストとレスティアを起こす。

 

「起きろエスト、レスティア。朝だぞ」

 

欠伸をしながら起き上がるレスティア。エストに至ってはまだ、眠たそうに目を擦っている。

 

「……おはよう、ユウ」

 

「……おはようございます、ユウ。…ふうわぁ…」

 

まぁ、王宮とは違う生活を送っているから身体が慣れないのも当然だろう。

 

二人を機攻殻剣に戻し部屋を出る。この時間はまだ休日でも食堂が空いている時間帯だ。

腹部に手を当てつつ、空腹を満たそうと食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「…お?ユウか?珍しいな…こんな時間に」

 

食堂へ入るとやや遅めの朝食を食べているリーシャがいた。どうやらリーシャも朝には弱いらしい。

 

「リーシャもだろ?……王宮とまた違う生活だからな、慣れるのに時間がかかる」

 

食堂のおばちゃんに朝食を頼むと、すぐに持ってきてくれた。この時間帯は流石に生徒達もあまり見られない。と言うか、俺達二人しか居ない。

 

「まぁ、私は朝に弱いからな休日もこの時間に食べることが多い…」

 

ハムッとパンケーキを口に頬張るリーシャ。すると、腰の二つの機攻殻剣に気づく。

 

「…そう言えばそれはどちらも神装機竜だったな…」

 

エストとレスティアを見ながら何か悩んでおり、思い出したかのようにポンと手を叩く。

 

「そうだ!ユウ、私の工房(アトリエ)に来ないか?見せたい物があるんだ」

 

そう言い、パンケーキを食べ終え、工房(アトリエ)の場所を話すと即座に食堂から出ていった。

 

見せたい物って何だ?と思いつつ、朝食を口に頬張るのだった。

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

朝食を食べ終え、学園敷地内の端に来ていた。そこには大きめの一戸建てが建っている。工房ということから装甲機竜に関する事だろうと思う。現にエストとレスティアの調整は自分でやってるし、開発等も自分なりに行っている。

扉をノックすると「入っていいぞ」とリーシャの声が聞こえてくる。

 

扉を開けるとリーシャが大きめの白のガウンを羽織っており、その奥には一機の機竜が佇んでいた。

 

「…《ワイバーン》?いや少し違うな…。《ワイアーム》も少し混じってる?」

 

「おっ、中々鋭いな。その通りだ。これは《キメラティック・ワイバーン》。私が開発した、世界初のオリジナルの装甲機竜だ」

 

「――!?」

 

流石にこれは驚かずにはいられない。オリジナルの装甲機竜?現に装甲機竜は具体的な原理が解明されていないし、何より一から別の機竜を作るなんて考えられない。

 

幻玉鉄鋼(ミスリルダイト)と、幻創機核(フォース・コア)を加工出来れば他にも色々出来そうなんだがな。後はあの機体、性能と出力はかなりのモノなんだが、起動に二本の機攻殻剣を使わないといけないのが、ちょっとネックなんだ」

 

チラリと此方を見ると、腰に差してあるエストとレスティアを見てくる。

 

「――聞きたいことはたくさんあるんだが、…それよりも、どうだ?この《キメラティック・ワイバーン》は?」

 

「…純粋に凄いと思ってる。今の話からすると二種類の機竜を合体させたって感じだな。それでもここまでの出来にするなんて、凄い才能だな」

 

満足げに微笑み近くにある椅子に座り込む。

 

「そうだろ、そうだろ。もっと褒めてくれても構わないぞ」

 

調子良さげに言っているが、あちこちに焦げ跡や爆破の跡といったものが見える。どうやら失敗も沢山しているらしい。そっちの方に目が行っていると、ゴホンゴホンと咳き込みが聞こえてくる。そっちは見るなと言ってるのだろうか?分かりやすいな。

 

「…で、呼んだ理由はこれだけか?まだある気がするんだが」

 

そう言うと、リーシャは《キメラティック・ワイバーン》を二つの機攻殻剣に戻し、此方を見てくる。

 

「昨日のそれの話を聞いて、思ったことがあってな。どちらも神装機竜なんだろうけど、辛く無いのか?」

 

急に雰囲気が変わり、リーシャは心配そうに自分の《ティアマト》の機攻殻剣に手を当てる。

 

神装機竜の扱いは新王国内でも厳しく取り締まっている。未熟な使い手が神装機竜を使おうとするなら一瞬で精神を崩壊させる程のものだ。リーシャだってたゆまぬ努力で神装機竜を乗りこなしている。《キメラティック・ワイバーン》がいい証拠だろう。だが、神装機竜を乗りこなせると言ってもそれでも精神の消費や体力の消費など、汎用機竜のそれではない。しかも、それが二つとなれば尚更だ。

 

「…神装機竜を二つ扱うなんて聞いたこと無いぞ?ユウの実力はこの前の模擬戦でわかっているが、それでも――」

 

リーシャが言い終える前にポンと頭の上に手を乗せた。

 

「……へっ?」

 

「リーシャが心配するような事は無い、安心しろ」

 

リーシャはわわわっ!と頬を赤くする。嫌だったのかと思い、すかさず手を退けるが、

 

「……ぁ…」

 

何故か残念そうに退けた手を見つめる。そして、

 

「おおおお、お、おい!か、仮にも王女だぞ!もっと扱い方というものがな……。…ぁ、いやでも、さっきのは…その、悪くは、なかったぞ。うん、…いや寧ろ、その……」

 

慌てて顔を近付けてくるが、その後ボソボソと小さい声で何かを呟いていた。…なんだ?

 

『…はぁ…。…困ったものね…ユウには』

 

『全くです。ユウは将来、女泣かせになります、絶対』

 

お前ら何言ってんだ?

 

そう突っ込んだが、返ってくる声は二人のため息だけだった。……女王にも言われたことがあるけど、何なんだ?

 

リーシャは未だに小声で呟いている。それが終わるのは今から半刻経ったときだった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「う、ううん。…悪いな、時間を取らせて」

 

やっと意識の海から戻ってきたリーシャが咳払いをしながら立ち上がる。リーシャはチラッと此方を見るとすぐに顔を赤くする。

 

「…本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、…気にするな」

 

もう一度咳払いをすると、何かを思い出したかのようにポンと手を叩く。

 

「そうだ、お前にはまだ付き合ってもらいたい事があるんだ」

 

付き合ってもらいたい事?正直今回の《キメラティック・ワイバーン》を見せてもらうだけかと思っていたのだが、どうやらそれだけでは無さそうだ。

 

「ついてきてくれ、ユウ、お前を騎士団に歓迎したい」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

リーシャに連れられ、演習場の控え室に来ていた。機竜を装着するための専用着衣――装衣に着替えたり、軽い打ち合わせを行ったりするためのやや広い部屋。

 

そこに待っていたのは十数名の装衣を身に纏った生徒達だ。顔見知りの生徒はクルルシファーとアイングラム、そしてシャリス先輩、ティルファー、リーフレットの三和音の五人だけだ。他の生徒の顔は初めて見る者ばかり。クラスや学年を問わずに集められているようだ。

 

「本当に彼を『騎士団(シヴァレス)』に入れるつもりなんですか、リーシャ様?」

 

名前も知らない長身の女子生徒が此方を見るなりそう言ってくる。何の話なんだ?

 

「当たり前だ。実力はこれから示してやる」

 

「おい、一体何の話をしてるんだ。全く話が見えないんだけど」

 

リーシャと長身の女子生徒の話の内容が分からない。疑問に思っていると、

 

「リーズシャルテ姫は、君をこの部隊に推薦したいそうだ。士官候補生でありながら、実技演習以外でも装甲機竜を扱える遊撃部隊。『騎士団』という特殊部隊にね」

 

シャリス先輩は爽やかな笑みを見せて言う。そして、どういった状況なのかが大体分かった。簡単に言えばこうだ。

 

一つ、新王国内での機竜使いの人材不足。

 

二つ、士官候補生の実践経験の向上。

 

三つ、若くて才能のある生徒をそのままにしておくのは勿体ない。

 

四つ、軍からの任務を受けることで、報奨を得られる。

 

そして最後に、ここは城塞都市。王都の防衛拠点でもある。

 

成る程…と心の中で頷くと、

 

「(…厄介な事に巻き込まれた)」

 

ため息をつくがそれでも時間は戻らない。あのとき肯定しなければ良かったのかもしれないが…。

 

一通りシャリス先輩の解説を聞き終えると、見覚えの無い小柄な少女が、此方を見てくる。

 

「だけどさ、望めば誰でも入れるってわけじゃないのよね。この『騎士団』にはさ」

 

少女が呟き、

 

「校内戦の成績で、総合して高い評価を得ていること。機竜使いの階層(クラス)中級階層(ミドルクラス)以上であること。そして何より、現『騎士団』のメンバーの過半数がその実力を認め、入団の賛成に投票すること」

 

また、見覚えの無い少女が三つの条件を言ってくる。

 

「…編入して数日で、校内戦とかやってないんだけど…」

 

「残念ながらそうなんですよね」

 

穏やかそうな女子生徒が苦笑いをする。

 

「平気だ」

 

だが、リーシャの自信たっぷりの一言に流れを断ち切る。

 

「先の二つの条件など、ただの前提に過ぎないな。ここにいる殆どの生徒なら、もう知っているはずだぞ?一騎打ちで私を負かし、尚且つ幻神獣を倒した。しかも倒し方が幻神獣そのものを『消した』んだぞ?ユウの実力は計り知れない」

 

「それは…そうですが…」

 

リーシャの勢いに押され、長身の少女は口籠る。

 

「でも、今は三年生達が――『騎士団』のメンバーが半数しかいないじゃない。何もそんなときに……」

 

小柄な少女が付け加えるように言う。…この人数で半分なのか?相当いるんだな騎士団のメンバーは。

 

「全体の過半数は、ちゃんとここにいる。仮にいない人間全員が否定派でも、ここの全員がが賛成すれば何も問題は無いだろ?」

 

結局リーシャが話をまとめてしまった。

 

「三年生がいないって、どういうことなんですか?」

 

隣のシャリス先輩に聞いてみると、

 

「ん。三年生は今、王都の方に演習へ行っているのさ。私はちょっと事情があって、今回は行けなかったのだけどね」

 

へぇー。王都へ演習ね…。…うん?王都に演習?あれ?どっかで耳にしたようなフレーズ…だな。

 

何処かでそんなことを聞いたような~と思い出しつつ、クルルシファーが口を開く。

 

「今だからこそ、あなたを入団させるチャンスだとお姫様は考えているのよ。三年の騎士団長の人が、かなりの男嫌いだから――」

 

「騎士団長?」

 

「三年生、セリスティア・ラルグリス。公爵家の令嬢で、学園最強と呼ばれる実力者。人望もあって、大勢の生徒が彼女を慕ってるわ。たぶん、あの人が今の学園にいたら男を編入させるなんて話も取り消されていた可能性が高いわ」

 

その名前を言われてハッとする。

 

「…ああ、そういうことか。あいつら、ここの生徒だったんだ」

 

この言葉に全員が首を傾げる。

 

「あ、あいつら?」

 

リーシャが聞くと、

 

「会ったぞ。セリスティア・ラルグリスと」

 

その台詞にこの場の全員が声を上げる。

 

「はぁ!?どういうことだ?ユウ」

 

「王都へ演習に行ってるんだろ?丁度そのときに会ったからな」

 

言っている意味を理解できたのはリーシャやクルルシファー達だけだ。他の生徒は初対面なので頭の上に疑問符を浮かべている。

 

そして、

 

「成る程な、学園最強も頷ける。久々だったからな…。

 

 

 

 

 

―――戦ってみたいと思ったのは」

 

「………は?」

 

この場の誰かがキョトンとした声を上げる。

 

「いや、セリスティア・ラルグリスの装甲機竜を見たけど、あれは強いな。久しぶりに本気を出せるような相手だったから、いつか戦ってみたいと思ってたんだよ」

 

この場の誰もが何の話をしているのか全くついてこれていない様子だ。

 

「…どうした?…何か変なことでも言ったか?」

 

「い、いや…特には…」

 

シャリス先輩が顔を引き付けながら口を開く。リーシャやクルルシファー、他の生徒もポカンと口を開けたままだ。

 

「…まぁ、それは置いといて。…リーシャ」

 

「…あ、ああ…。どうしんだ?」

 

ていっ、とリーシャの頭にチョップを入れる。

いたッ!!と声を上げ、涙目で、

 

「なにするんだ…ユウ…」

 

全くこいつはと思いつつも、取り合えず言いたかったことを言う。

 

「と言うか何本人置いてきぼりで話進めんてんだ。お前はアホか」

 

「んなっ!?」

 

「俺は騎士団とか言うのに入るつもりは無い。こっちも色々と忙しいんだ。…こういうのは俺よりもルクスの方が似合ってるだろ?報奨も出るから、ルクスの借金返すのにもいいし、何よりあいつは王都のトーナメントの実力者だ。…そんな『戦歴』が無い俺よりも、ルクスを入れた方がいいと思うけど?」

 

「…アーカディアにはもうこの依頼を頼んでいる。アーカディアにも騎士団に入ってもらうつもりだったからな」

 

「じゃあ、いいじゃねぇか」

 

「だが、ユウにも騎士団にいて欲しい。お前の実力は――」

 

「悪い」

 

リーシャが何かを言う前に一言で断ち切る。

 

「…俺にそんなことは似合わない。俺は、守るとかそんな事から一番遠い場所にいるんだ」

 

だから悪いな。

 

そう言い演習場の控え室の扉を開けようとすると、

 

「…あれ?ユウ?」

 

ルクスが先に控え室の扉を開けた。どうやら丁度ここに来たらしい。

 

「よっ、ルクス。騎士団の仕事頑張れよ」

 

「…えっ?何言って…」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

はぁー、疲れた。あんなに依頼が沢山あるなんて知らなかった。リーズシャルテ様の依頼が来てたけど、騎士団の仕事?って何だろ?

 

そう思って急いで指定された演習場の控え室にやって来るや否や、控え室でユウと鉢合わせした。

 

よかった、ユウもいるのか、だったら…。

 

「よっ、ルクス。騎士団の仕事頑張れよ」

 

返ってきたのはなにやら弱々しい声色だった。この前のパーティーの時に見せた顔をしている。

 

「…えっ?何言って…」

 

言葉を返すが、ユウはさっさと中から出ていき、廊下を歩いていく。

 

その後ろ姿が、

 

脆く、

 

弱く、

 

悲しく、見えた。

 

 

中へ入ると、リーズシャルテ様やクルルシファーさん達が見える。皆悲しそうな表情をしている。

 

何があったんだろう?

 

そんな事も聞けず、ただただ、時間が過ぎるのを黙っているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

何が、いけなかったんだ?

 

アーカディアには依頼として騎士団に入ってもらおうと思ったが、

 

「何で一度も攻撃しないんだあいつは!」

 

十名を越える騎士団のメンバーと戦うというハンデを覆しつつ、こちらが勝ったというのに、

 

「私だけが攻撃してどうすんだ、全く。まぁいい、来月にも出来るからその時でいいか」

 

それよりも、考えることは他にある。

 

「…どうしたんだ?一体。…ユウ、お前は…」

 

ベットに横になりながら今日の出来事を思い出す。ユウが言っていた『守るという事から一番遠い場所にいる』…この意味が分からない。

 

悲しそうな表情を見ていて、この前のパーティーの事を思い出す。

 

「………私は………」

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「という事で、私と付き合ってもらうぞ、ユウ」

 

「どういう事で付き合わなきゃいけないんだ?」

 

時間はあれから一日が経ち、放課後に差し掛かっていた。

教室を出るなり、いきなりリーシャに掴まれ、校門まで連れてこられた。

 

「いや、別に深い意味は無いぞ?うん。…そういう風に思っても構わんが…、構わんぞ?」

 

何が言いたい。この王女サマは一体何を考えてるんだ?

 

「いや、買い物でもどうかなって…」

 

モジモジと手混ぜをしながらリーシャが言ってくる。…昨日は一方的だったとはいえ、こちらも悪いことをしたな、と思っていた。今日もルクスやクルルシファー、ティルファー達ともあまり喋らなかったし、

 

昨日の俺のせいだよな。

 

ため息をつき、

 

「…行こうか、買い物くらいなら付き合う」

 

その言葉にリーシャは笑みをこぼし、明るく頷いた。

 

「よし、では行こうか。安心しろ、街は私がエスコートしてやる」

 

元気よく飛び出していくリーシャ。少しは元気になったみたいだ。はいはいと答えつつ、リーシャの後を追う。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

十字型の城塞都市クロスフィード。その中央にある一番街区に来ていた。今は夕刻時だが、人々の賑わいが止むことはない。

 

隣でリーシャが先程買ったクレープを美味しそうに食べている。財布を忘れたらしく、此方で払うことにした。誘っておいてどうなんだ?と言いたいのだが、

 

「美味しいな、ユウ」

 

どうやら街に出た経験はあまり無いそうだ。休みの日も自分の工房に籠りっぱなしという事らしい。

 

「…ああ」

 

取り合えず、俺の分まで手を伸ばすのはやめてくれ。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

こ、これが、デ、デ…デートというものなのか?いやいやただ、買い物に誘っただけだ。そうだ。買い物だ。デートではない。

でも、美味しいものを食べて、男女二人でこうやって過ごすのが、デートというものなんじゃ…。

 

チラリと横を向くと、

 

「どうした?」

 

「な、なんでもない!」

 

すぐそばにユウがいて集中できない。何故だ?授業や、ご飯を食べるときも平気なのに、何で…。

 

ヤバい。頭がボーってする。顔も熱くなってきた。

 

「…顔が真っ赤だけど、大丈夫か?」

 

「ん、大丈夫…」

 

そうは言ってみるが、胸がくらくらする。

 

「…肩、貸してくれ」

 

「おい、本当に大丈夫かよ?」

 

ユウの言葉が耳に入らず、そのまま意識を閉ざしてしまった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「…ん、あ、あれ?私…」

 

「やっと起きたのか」

 

目を開けると隣にユウがいるのがわかる。そして、

 

「お?おわぁ!?わ、私……」

 

ユウの肩に身体を寄り添えていた。急いで離れるが、まだ、くらっとする。

 

「ほら、飲み物買ってきたから」

 

「あ、ありがとう…」

 

グイッと渇いた喉に潤いを与えていく。少し眠っていたのか、先程よりも、日が傾いている。

 

「疲れていたんだろ。今日はもう戻るぞ、門限も近付いてきたし」

 

そう言い立ち上がる、ユウ。ほら、と手を差し出してくる。その手を取り、私も立ち上がる。

 

「ゆっくり歩きながら帰るか」

 

「う、うん」

 

くらくらは治まった。頭の調子も元に戻った。だけど、

 

「(…さっきより、ユウを見るたびに、顔が熱くなる)」

 

ユウに手を引かれ、学園に帰るのだった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「…その、昨日は悪かった」

 

突然謝られてびっくりしたのか、リーシャがビクンとなる。

 

「折角いろいろ考えてくれていたのに、リーシャの気持ちを無下にしてしまって…」

 

立ち止まり、落ち着くや否やリーシャは此方を振り向く。

 

「私の方こそ悪かった。勝手にしてしまって…」

 

少し気まずい空気がこの場を支配する。そして、

 

「…クックク、ははは」

 

「…ははは」

 

同時に吹き出した。何をこんなに考えていたのだろうか。実に簡単な事じゃないか。

 

「…ククク、ルクスにもちゃんと言えよ」

 

「ははは、そのつもりだ。まぁ、アーカディアの場合はちと特殊だがな」

 

その後は昨日の出来事や他愛もない話で盛り上がった。昨日のあの後、俺のこともあり無理強いはしなかったものも、ルクスを引き留めたのはあの幼馴染みだと言う。そして、リーシャと手を組み、実力を認めさせようと頑張ったが、肝心のルクス自身が攻撃せず、相手は全部リーシャが倒してしまったらしい。それは、それで逆に凄いような気もするが、ルクス自身もあまり騎士団には乗り気ではなかったようだ。だが、来月にも入団試験があるようなので、その時にもう一度試してみると言っている。

 

笑い声が無くなり、不意に真剣な顔をするリーシャ。そして、口を開く。

 

 

 

「…私の腹に押された旧帝国の烙印を、覚えているか?」

 

覚えてるも何も、あの出来事は当分忘れられないだろう。…ギリッギリだったからな…。

 

「その事じゃなくて、烙印だ。烙印!あれは忘れてくれ!」

 

顔を真っ赤にし、こちらに言い寄ってくる。あれは流石にリーシャも恥ずかしかったのだろう。そうでなければ逆におかしい。

 

ふぅ、と落ち着かせると、リーシャはポツリポツリと語り出す。

 

王女の在り方。

 

使命や責任の意味。

 

そして、旧帝国に捕らえられたこと。

 

 

父に――見捨てられたこと。

 

 

話終えるとリーシャは声を詰まらせ涙ぐむ。

 

「…助けて、欲しかった…」

 

「………」

 

「国じゃなくて、私を選んで欲しかったんだ…。それは私の我儘だと理解している。…それでも……」

 

似ていた。昔の自分に。状況や環境は違うが、共通する部分がある。

 

自分自身の在り方。

 

生きている意味。

 

家族の事。

 

案外似た者同士なのかもしれない。

 

黙って聞いていると、涙を拭き、此方を向いてくる。

 

「…お前には力がある」

 

唐突に言われた言葉。表情には出さないが、リーシャの眼差しに少しばかり威圧感を感じる。すぐにそれは消え、リーシャは話を続ける。

 

「この時代では機竜使いが全てだからな。遺跡の調査、他国との資源の縄張り争い、治安と主権。全てに装甲機竜が絡んでいる」

 

口を紡ぐ。その通りだと心の中で呟く。今の時代、機竜使いと装甲機竜が全てを握る。

 

「ユウ。私はな、自分が何者なのかを、知りたいんだ」

 

そう言い、暗くなった帰路を再び歩き出す。

 

「父はこの国を救った英雄だった。だが、今の私は誰でもない。機竜使いとしてもまだまだだ。だから、最強の機竜使いになって、それを知りたいんだ。その為にお前の力が必要なんだ。ユウが母の直属の騎士だとは充分理解はしている。だけど、私はユウの力を借りたい。だがら騎士団に誘った。私の右腕として、どうか…」

 

そう言うことか…女王。

 

ここに来る前に女王に言われたことがあった。

 

 

 

『士官学園には私の娘も通っています。それは知っていますね?』

 

『貴方には遺跡の調査と幻神獣の討伐を少し休んで貰います。その代わりと言ってはなんですが、私の娘の面倒を見てやって欲しいのです』

 

『私の唯一の友人としての頼みです。ユウ、娘を…リーズシャルテを、よろしくお願いします』

 

 

 

何でもお見通しって訳か、あの人には勝てないな。女王が言っていた意味も訳も分かった。

 

わかったよ、『友人』としての女王からの願いは断れないな。

 

「……力を貸す」

 

「…えっ!?」

 

「協力してやるよ。それがあの人の……いや、リーシャの願いなら、協力する」

 

「ほ、本当か?本当に力を貸してくれるのか?」

 

リーシャは満面の笑みを見せ、喜びを露にする。

 

「そう言うことならまずは学園内の小隊対抗戦。それに勝利し、勝ち続け、各国代表との校外対抗戦だ」

 

「そんなものがあるのか」

 

聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 

「簡単に説明するとだな」

 

現在の新王国では、起こるかもしれない三つの危機があるそうだ。

 

一つ目は旧帝国の反乱軍。

 

二つ目は幻神獣の存在。

 

三つ目は遺跡自体の調査と他国との縄張り争い。

 

「新王国が誕生したとはいえ、旧帝国の残党はまだ残っている。帝国を支持していた隣国などに逃れ、協力する組織を得て、今も尚、武力による政権の奪還を狙っている」

 

そんな奴等もまだいるのか、まぁ、正直そいつら自体に興味はないが、害を及ぼすなら全部潰せばいい話だ。女王もそんなに気にしてないみたいだしな。

 

「次に、幻神獣の問題だ」

 

遺跡そのもの、あるいはその周辺から出没する、謎の害獣。遺跡から装甲機竜を始め、様々な秘宝が発掘されるとわかっていながら、なかなか各国の調査が進まないのは主に幻神獣のせいだ。

 

だが、新王国は違う。各国がどうかは知らないが、幻神獣の『その先』も少しは理解しているし、『あいつら』の存在も確認している。そして、『扉』の事も。

それに、此方には『切り札』と『最終手段』がある。この事は女王と女王が信頼している武官、それと俺しか知らない最上級の国家機密だ。まず他国に遅れは取らないだろう。

 

「そして、三つ目は各国との縄張り争いだ」

 

遺跡は世界各地に点在し、基本的にはその土地を管理する国が調査を進めている。勝手に他国の遺跡に乗り込まぬよう協定も定められている。しかし、国境沿いや遠方の海域、何処の国の領地か曖昧な場所にも遺跡はある。そこで、各国での『遺跡調査権』ともいうべきものを勝ち取るために機竜使い達の模擬戦が数ヶ月に一度、開催されることになっているそうだ。正直自国の遺跡でも充分な成果は出ているが、それでもまだまだだ。解明されていない部分が数多くある。それには少し興味がある。遺跡を調査するのは中々に面白いからだ。

 

「ということは」

 

「ああ、私は二ヶ月後に始まる対抗戦までに最強の部隊を揃えるんだ。そのためにはまず、私は…お前が欲しい」

 

リーシャはかっこよく言ったつもりだったのだろうが、だんだん顔が赤くなっていくのがわかる。手をバタバタ振り、必死に何か弁解をしている。

 

「いや、欲しいというのは変な意味じゃないぞ!あのー、これはだな、戦力としてユウは圧倒的だからな。うん。それだ、それだけなんだ。……でも、ゆくゆくは私の、は…初めてのパートナーとして…」

 

「……?」

 

最後の方がよく聞き取れないがいつもの事だろう。気にする必要は無いようだ。

 

「ま、まぁ…話はこれくらいだな。…誰かに話してみると楽になるものだな」

 

うーん、と背伸びをしているリーシャ。時刻を見ると、門限まであまり時間は無いようだ。

 

「…ヤバッ、急がないと…」

 

「走るか」

 

宿舎の方まで走っていき、ギリギリセーフで罰を逃れた。

 

「ユウ」

 

「どうした?リーシャ」

 

最後に別れるとき、リーシャはニコリと微笑み、

 

――ありがとう

 

と言ってきた。

 

「…やっぱ、娘なんだよな」

 

後ろ姿を見送り、そう呟いた。

 

△▼△▼△▼△

 

ゴォオオン!

 

突如一番街区の時計台から大きな鐘の音が聞こえてきた。

 

そして、その前に届いた女王からの手紙。

 

「……面倒だな」

 

この鐘の音は時刻を告げる音色ではない、激しく打ち鳴らすような音。

 

 

敵だ。

 

 

この城塞都市に幻神獣が攻めてくるようだ。

 

「エスト、レスティア」

 

「はい」

 

「ええ」

 

エストとレスティアが姿を現す。鐘の音にも気づいている。

 

「取り合えず、待機だ。状況を見て動く。防衛班の機竜使いが倒してしまえばそれはそれで問題ないけど」

 

「…もし、防衛班が突破されるようなことになれば…」

 

そんな事にならなければいいのだが、懸念材料がまだある。

 

「多分。リーシャ達が動くだろう。ただの幻神獣どもに限って負けはないと思うが」

 

女王からの手紙に目を落とし、内容を読み取る。

 

「裏で動いている奴等がいるらしい。手遅れになる前に此方も動かないといけない。『笛』の事も気になる」

 

取り合えず騎士団が集まっているであろう、機竜格納庫へ向けて歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうだったでしょうか?

最後のリーシャとの会話でどう繋げていこうか迷いましたが、ちょっと無理矢理感があるかもしれませんでしたね。

そろそろ原作一巻も最終局面に入っていくので、これからもよろしくお願いしますm(__)m

お気に入りにしてくださっている方々、本当にありがとうございます。

次回も読んでもらえると嬉しいです。

それではm(__)m
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