お久しぶりです。この半年間随分と忙しく、小説を書く暇がほとんど無かったのですが、ようやく投稿することが出来ました。
ですが、随分と久しぶりなので、所々おかしい箇所があるかもしれません。リハビリがてらに少しずつ投稿していきたいと思います。
それではどうぞ♪
朝焼けの城塞都市に、警戒を伝える鐘の音と、機竜の咆哮が響いている。機竜使い数機が街中を飛んでいるのは、幻神獣の襲撃を伝えるためだ。
学園では教官と都市の上層部を集めた緊急会議が開かれている。
その間に学園の士官候補生達は、装衣の着用と待機の命令を受け、機竜格納庫に集まっていた。
城塞都市クロスフィード、第四機竜格納庫。
学園の敷地内にあるその建物はそれ自体が広く、分厚い石壁のシェルターであり、同時に転送前の装甲機竜の保管所だと聞いている。
教官の話によると、敵は大型の幻神獣が一体。幻神獣と城塞都市の間には三つの砦があるが、その内の一つは突破されているそうだ。既に警備部隊の機竜使い数名が討伐に向かっている。だが、それでも突破されないとは限らない。城塞都市に被害が及ばないようにこちらからも、遊撃部隊を編成するそうだ。それに、王都にも救援を要請しているとの事もあり、何人かの女子生徒は安堵している。
どうやら『敵』はまだ姿を見せていないようだ。もしくは、『既に姿を見せている』のかもしれない。
女王からの手紙によると、そういうことらしい。
壁際に背中を預けていると、隣のクルルシファーが呟く。
「…随分と平和ボケしているわね。この学園のお嬢様達は」
「王都からの応援が期待できない、ってか?」
「その通りよ。そんなに簡単に出来るならもう来ていてもおかしくは無い筈よ」
王都からの応援…ね。大体わかってきた。今回の騒動が。
そう考えているとルクス達が此方にやって来る。
「ルクスか。試験落ちたんだって?」
「いや、最初から乗り気じゃなかったし…それに、僕にも色々あるから…」
そう言うと麻袋で覆ってある機攻殻剣に触れる。どうやらそれが、ルクスの秘密その物。『あの剣』…女王から聞いた通りだった。
「ユウはどうするの?女王陛下から何か来てないの?」
「待機の命令を貰ってる。『今』は士官候補生の立場だけど、実際は女王の命令が第一だ。動けって言えば動くし、待機って言えば動かない。…どんな事があろうともな」
「…そうか、正直君が手を貸してくれるなら私達も本当に楽になるのだがな」
口を開いたのはシャリス先輩だ。どうやら遊撃部隊として出向くそうだ。ということは騎士団全員か?
「Yes.ユウさんがいれば百人力ですが…」
ノクトも準備を整え今から出発しようとしていた。ティルファーやアイングラム達も準備をしている。
「悪いな」
そう答えると、三和音と騎士団のメンバーが飛び立つ。
「ユウ。お前が来てくれたら助かるんだがな…母からの命令ならしょうがないな。…それじゃ、行ってくるぞ」
ポンと手に肩を置かれた。その手が少し震えているのが伝わってくる。
「…無茶はするな」
「ああ」
そう言うと騎士団の全員がこの第四機竜格納庫から飛び立っていった。
△▼△▼△▼△
「本当に待機の命令が来ているのかしら?」
暫く時間が経ち、クルルシファーがそう呟いてくる。えっ!?という声が隣から聞こえてくる。ルクスは驚いた様子で此方を見てくる。
「ユウ、どういうこと?」
「……鋭いな、クルルシファー。どうして分かったんだ?」
意外な答えだったのか、ルクスが驚愕の表情をしている。
「…私の特技よ」
そんな特技があってたまるか。けど、説明する手間が省けたのはよかった。
「取り合えずルクスとクルルシファーには話しておこうか、『敵』の正体について」
これには流石に冷静なクルルシファーも驚きを隠しきれていない。
ルクスはルクスで何か考え事をしており、口を開く。
「…もしかして、『敵』ってのは…」
「ああ、大体予想がついたか?」
――警備部隊の連中だ。
「…っ!?」
「どういうことかしら?」
「どうもこうも、あいつらは元帝国の人間だろ?そんな連中が大人しく新王国に従う筈が無い。…女王はこれを見抜いており、今朝方手紙が届いた。『敵』の事を書いてな…」
元々怪しいとは思っていた。最近一部の部隊が何やら裏で動いていると言うのを聞いていた。
「だから俺も今すぐ動きたいんだが、クルルシファーは教国からの留学生だ。こんな時は動くなって国から言われてんだろ?」
「なるべくは、ね。でも、私の意思なら問題ないわ」
そう言うことならいちいち教国の事を気にせずにいられるな。次はルクスだが、
「ルクス、お前の素性は女王から聞いている」
ルクスの驚きが先程に比べると、比較にならないようなものだった。
「…僕を、どうしたいんだい?」
ルクスからやや剣呑な空気が漂ってくる。クルルシファーもルクスの空気に少しばかり汗を流す。
流石に違うな。今までの機竜使いとは全く別の空気だ。
「別にどうもするきは無い。けど、警備部隊の連中が敵ならまずリーシャ達の勝ち目は無いだろう。警備部隊の連中と幻神獣を相手にしなきゃいけないからな」
「警備部隊はわかったとして、どうして幻神獣も?普通は三つ巴じゃないかしら?」
「ルクスは知ってるだろ?…『笛』の存在を」
「っ!?」
「警備部隊の連中が『笛』を持っていて尚且つ近くの遺跡から幻神獣を呼び出せるなら?」
その時の被害は尋常では無いほどに膨れ上がり、城塞都市だけの問題では無くなる。下手をすれば新王国そのものが危険になる可能性だって考えられる。
「俺は女王からの命令が来てるから、そっちを優先しないといけない。リーシャや騎士団の皆を助けるにはお前らの力が必要なんだ」
「……女王陛下からの命令って?」
「それは言えない。けど、心配するような事じゃない」
そう言い終えると二人は長考し、考えがまとまったのか両者が口を開く。
「…わかった。僕も今回の事はちょっと気になってたんだ。そう言うことなら僕も同行する」
「ルクスくんの言うとおりね。私も同行するわ」
元々近くまで見に行くつもりだったしね、とクルルシファーは付け加える。
そうとなれば今すぐ出ていきたいのだが、
「兄さん、何処に行くんですか?」
声がする方へ視線を向けると、ルクスの妹が立っていた。どうやら先程の会話は筒抜けだったらしい。
「兄さんが行ったところで何も出来ません。ユウさんと、クルルシファーさんだけでも充分な戦力になります」
まぁ、確かに本来ならそれでもいいんだけど、今回はちょっとやることがあるから戦える人間は多い方が良い。特に、神装機竜を使える人間がな。ルクスの妹にはそれが見抜かれているのだろう。
使いたくなかったけど、今回はしょうがないか。
「ルクス、アイリ・アーカディア。…今お前らが一番知りたい情報を教えてやる」
ルクスとルクスの妹の表情が変わる。何で知っているんだ!?という表情だ。いや、だってまぁ、会ったことあるしな。
「でも、それは今回の騒動が終わってからだ」
「……わかりました。でしたら私も連れていって下さい。…近くまででいいですので」
ルクスもコクりと頷く。これで、三者ともの了承は得た。
『…ユウ、貴方悪役っぽいわね…』
『同感です』
『こうでもしないと間に合わないだろ?それに…』
――やらなきゃいけないこともあるからな。
『…そうね』
『…はい』
エストもレスティアもやることはわかっている。
そう……。
今回の首謀者達を………。
△▼△▼△▼△
「チッ、しぶとい…っ!」
各装甲機竜の機竜息砲が幻神獣を狙うが、まるで効いていない。
幻神獣の形は見たことが無いような形状だ。足は無く、ゼリーのような台形の巨体から、尖塔のごとき二本の腕が左右に伸びており、眼球らしき紫の球体が天辺近くの体内に浮いている。
正直気味が悪い。確か、スライム型とか言っていたな。
『…これは、雷が撃てるユウくんがいたほうが良かったのだが…』
『Yes.ですが、そんな事は言ってられません。私達で対処しないと…』
それもその通りだな。あいつばかりに頼っては騎士団としての名が折れるな。
『それにしても、警備部隊の機竜使いが突破されるなんて…』
どうやら第二砦が突破されたと同時に、警備部隊の機竜使いが数名やられたらしい。近くで交戦可能な機竜使いを集め、部隊の再編成を行っている最中だ。
私達、騎士団の地力が試されるが…。
チラリと荒野を一瞥する。
先程の攻撃でスライム型から大量の粘液が荒野に噴出されたのだが、
『ヤツの身体には触れない方が良いだろう。それと、機竜の障壁もあまり期待しない方が良さそうだ』
シャリスが竜声で全体に声をかける。だが、機竜息砲もあまり効かない様子。…さて、どうすべきか…。
全員の機竜息砲で一斉射撃がベストなのかもしれないが、
――ィイイィィイイイイ!!
…笛の、音!?どこからだ!?…幻神獣の後方から…?
その音と同時に幻神獣の様子がおかしくなった。体内の赤黒い核が急激に膨張し始める。
「ゴァァァアアァアアアア!!」
直後、幻神獣自ら弾け飛んだ。
核の爆発、だと!?これはマズイ!!
『障壁展開だ!機竜咆哮も使え!』
轟音と熱風が一斉に此方へやって来る。
△▼△▼△▼△
『…ユウ』
レスティアが一声かけてくる。どうやら敵は『笛』を使ってきたらしい。
「…ユウ、笛の音が…」
っ!?ルクスには聞こえたのか?この距離ならレスティアやエストみたいな『奴等』じゃないと聞こえないんだが…。
すると、視界にルクスの幼馴染みであるアイングラムの姿が写りこむ。
なるほど…彼女か。なら納得だ。
「急ごう、向こうもただ事じゃないらしい」
それぞれ機竜を見に纏い、機竜を纏えないルクスの妹はルクスが連れていくみたいだ。
取り合えず最終防衛ラインまで飛ぶか。
「作戦は向こうで話す。…行くぞ」
△▼△▼△▼△
クソっ!!やられた!!
突如自爆したスライム型の幻神獣。そのおかげで騎士団は半壊状態だ。
「く、ぁあ……!」
「うっ……、ああ…!」
ジュウっと、酸で焼かれる音と共にいくつかの機竜の装甲が溶ける。
手にしていたキャノンやブレードを盾代わりにしていた者も多くおり、爆風で飛翔していた騎士団のメンバーも大地に叩き落とされている。
「……くっ!騎士団の小隊は全機待避だ!一度体勢を立て直す。武器が使えないものは一旦下がれ!」
と、言ってみたはいいものも…。予想外の攻撃すぎて、多大の損害を受けてしまった。
だが…!
「まだ、十分に交戦可能だ!狼狽えるな!」
そう仲間を奮い起たせ、敵に集中すると、
『ほう、随分と王女ヅラが板についてきたじゃないか、リーズシャルテよ』
「……!?」
しわがれた声……男?
『だかな。お前はそんな器ではない。そのような誇りなどないのだよ』
「貴様、何を言って――ッ……!?」
不遜な声の直後、その機竜使いから、閃光の砲撃が目の前に放たれる。
『部隊長!』
『姫様!』
騎士団のメンバーの悲鳴が、竜声の通信上に木霊する。
「くっ………!」
完全に虚を衝かれたタイミングだったが、かろうじて回避に成功した。だが、《キメラティック・ワイバーン》の装甲が先の砲撃で砕かれた。
『うっ……、何の真似だ!?王都から配備された、警備部隊の隊長が――』
『それは間違いでございます』
そう嘲るように言い切り、
『私がやって来たのは、『帝都』からでございますよ。リーズシャルテ王女殿下。アーカディア帝国近衛騎士団長、ベルベット・バルトが、私の名です』
な、んっ!?『帝都から来た』…だと?
クーデターにより、旧帝国が滅びた後。
帝国側にいた生き残りの機竜使い達は、一度戦犯として牢に入れられた。
しかし、新王国への忠誠を誓い、身の潔白を証明された人間は、新王国の機竜使いとして、再び士官となっていたのだが。
なるほど、そう言うことか…。
こいつは『この国の敵』。旧帝国の復権を目論む反乱軍…といったところだな…。
「新王国を裏切った…というわけか?わざわざ遺跡から幻神獣まで引っ張ってきて…」
ベルベットが手にもつ笛が視界に入る。
…笛?先程も笛のような音が聞こえたが…。
『裏切ったなどとは人聞きの悪い…。正道に立ち返っただけだよ。力を得てな』
そう答えると、小さな黄金の笛を掲げる。
『さあ、孵れ。卵よ』
そして酷薄な笑みを浮かべ、笛を口に当てる。笛から出る音は先程の音と酷似していた。
…いや、さっきと同じ音!?
直後、破裂した幻神獣の表面から無数の油膜がぷくりと浮かぶ。小さな泡は、ぷつぷつと高速で大きさを増し、一斉に弾け飛んだ。
「あれは――!?」
騎士団のメンバー達が驚愕に目を見開く。
出てきたのは黒い金属の鳥人。
数日前に学園を襲った、ガーゴイル。その群れが幻神獣の体内から生まれていた。
『ちょ、ちょっと待ってよ…』
『あんな数……!私達、二体以上の幻神獣なんて、同時に戦ったこともないのに…』
『どうしよう……、聞いてないよ、こんなの…』
『そもそも、軍の警備部隊まで敵だなんて……』
竜声な回線に無数の声が連なる。日の昇り始めた朝焼けの空を、黒い金属の羽が覆っていく。
幻神獣、ガーゴイルはおよそ、五十体。一人前の機竜使いに換算して約二百機超の敵戦力が生まれた。
ははっ、流石にこれは…笑うしかないな…。
さらにベルベットの後ろから同じく『帝都から来た敵』であろう灰色の機竜使いが百機。
明らかに戦力が違いすぎる。
『リーシャ様!撤退の準備を!この戦力差では、もう……』
騎士団の一人が竜声でそう叫ぶが、
『残念だけど、無理そうだ。敵は翼を持っている。城塞都市の中に逃げても、壁は飛び越えられてしまう。ここでやるしかない』
そうだ、ここでやるしか…、ないんだ。
『ノクト。お前は城塞都市へ戻り、学園にこの事を伝えて指示を仰げ、できるか?』
『Yes.了解致しました』
返事の直後、ノクトの《ドレイク》が、クロスフィードへ向かって滑走する。同時に騎士団のメンバー達が、一斉に残った武装を構えた。
そして、機攻殻剣を振るい、《ティアマト》を見に纏う。
付属武装も召喚し、
「さあ、遊んでやるぞ。反逆者ども」
「口の減らないお姫様だ」
警備部隊長ベルベットは口元を弧に歪め、再び笛に、唇を押し当てた。
△▼△▼△▼△
最終防衛ラインに四人が辿り着いたのと、地面を走るドレイクを纏ったノクトが辿り着いたのは、ほぼ同時であった。
ノクトはユウたちを見て今まで苦悩に歪めていた頬を緩やかにする。助けに来てくれたのだと…。だが、ユウやルクス、クルルシファーは分かるが、何故アイリまで?とノクトは思うが今はそれどころではない。
「皆さん…」
今でも倒れそうな身体を無理矢理起こし、状況を四人に説明する。
「…わかった。ノクトはここでルクスの妹を見ていてくれ。後は俺達で何とかする」
「ですが!相手は幻神獣だけでなく、帝国側の機竜使いも数十名以上確認されています。いくらユウさん達でも…」
「大丈夫だ。心配するな」
ユウはルクスとクルルシファーに視線を送り、二人を先へと行かせる。
「…あんな三下連中に負ける俺達じゃあねぇよ」
そう言い残すと、ユウも翼を広げ、戦場へと飛び立った。
△▼△▼△▼△
荒野の戦場で死闘が展開されていた。金属の鳥人型幻神獣、ガーゴイル五十体の猛攻。
そして、何故か幻神獣に襲われない警備部隊長のベルベットは、その地獄を、後方から指揮官のように眺めている。
その手に持つ《笛》の力なのか。まるで幻神獣たちを統率し、その動きを支配しているようにも見えた。
「くっ……!はあっ!」
リーシャは息を荒らげて、四肢の各部に力を込める。フル武装でガーゴイル五十体のうち半分は倒したが、それでもまだ気は休めない。それに、まだ向こうには機竜使い百名が残っている。誰がどう見ても劣勢なのは明らかだ。
「…くそっ!」
悪態をつきながらも幻神獣を倒そうと奮闘するが、『騎士団』のメンバーも一人、また一人と撤退していく。一緒に奮闘してくれていたシャリスやティルファーも撤退を始めている。
竜声を『騎士団』のメンバーに絞り、リーシャは声をかける。
『……済まない姫、私は既に仲間に助けられ撤退を始めている』
『うん、わたしももう、限界みたい……両手の装甲ごと、武装がふっとんじゃってるし…』
掠れたような声の返事にリーシャは苦笑する。むしろ圧倒的戦力差の中、ここまで戦ってくれた仲間に感謝した。
『お前たちに頼みがある。城塞都市にいる教官たちに攻撃に出てくれと伝えてくれ。今から私の狙いが成功したら、だが』
『姫。それは、まさか……』
シャリスはリーシャの目論見を察する。
『ああ、私はあの笛を持つ、親玉を狙ってくるからな』
リーシャはベルベットが持っている金色の笛を睨みながら、竜声を飛ばす。
本来、幻神獣は無差別に人や機竜使いを襲う化物だ。それが何故ベルベットたち帝国側の機竜使いに襲いかからないのか疑問で不思議だった。だが、合間合間に聞こえてくる笛の音。それに合わせて此方に攻撃を加えてくる幻神獣。これは完全にあの笛で幻神獣を操っているのは明らかだ。
責めて相手からあの笛を奪う、もしくは破壊すれば、幻神獣は此方側だけでなく、あちら側にも攻撃を仕掛けるの確実だ。
リーシャはその可能性にかけていた。勿論被害は此方にもやって来るが、今までの状態にはならないだろう。
だが…。
「――無様だな、リーズシャルテ。本来は男にかしずいて生きるための雌犬ごときが、たとえ一時でも王女の椅子になど座ったのが、そもそもの間違いだったのだ」
それは今、幻神獣の後方で指揮官のように佇んでいる被害ゼロの男をボロボロの状態であるリーシャが倒せたときの話だ。
いくら神装機竜だろうが、限度もあるし此方の体力もある。それに加えあちらは無傷。アーカディア帝国時代は近衛騎士団長まで務める程の実力者だ。今のままでは此方に勝ちの目など微塵もない。
だからこそ『玉砕覚悟』の突撃。それに相手を一瞬とわ言え止める策もある。
「ふん、男とはお前のように終わってからグダグダ負け惜しみを言って偉ぶるような奴を言うのか?そのくせ絶対的に有利な状況でしかモノを言えないとはね。なるほど…滑稽にも程があるな」
「……いい度胸だ。いや、見事な虚勢だと褒めておこう。既に纏った神装機竜が、暴走を始めるほど消耗しているくせにな」
見抜かれているな……。リーシャは心の中で一筋縄じゃいかないなと苦笑する。
「そら、お望みの一騎打ちだ。お前には名誉の戦死をくれてやる」
「ぬかせ。お前みたいな小物に命を取られるなんて末代までの恥でしかないよ」
両者ベルベットは大型のブレードをリーシャは小型のブレードを構える。
そして――。
「さあ、その命を散らすがいい!偽りの姫よ!」
ベルベットの大剣を幻創機核のエネルギーが伝わった、その刹那。リーシャは構えたブレードを、眼前に投げていた。
「――!?」
小剣の投擲。同時に上昇していた《ティアマト》が急停止。機竜使いに限らず戦場で武器を失えば、それは速やかな死に繋がる。
「馬鹿め、そんな手が通じると思ったか?」
リーシャの両手に、代わりの武器はない。勝負は決まった。
だが。
「はっ。抜かったのはお前の方だ」
コレがリーシャが『策』として用意していたものだ。リーシャの小さな笑い声が、対峙するベルベットの耳にも届く。
その両手には細身の双剣が握られていた。《キメラティック・ワイバーン》に対応する、二本の機攻殻剣。
本来は一度纏ってしまったら操縦桿以外の道具として使われることはない。……一部の例外を除いて。
機竜を纏う前の護身用ならともかく、纏った後ではほとんど使われることはあり得ない。
故に予測不可能な攻撃。
刀身の一部に幻創機核が使われている機攻殻剣ならば、装甲機竜の障壁も突き破れる。
完全に策が嵌まった奇襲。
「(取った!)」
リーシャが、確信を込めて双剣を振るった瞬間、
「残念だったな雌犬」
「―――なっ!?」
時が止まったように、リーシャの感覚が鈍る。自分が感じる時の流れ、その認識をすり抜けるように、
ドンッ!
ベルベットの大剣が、先に振るわれた。装甲の破片が、リーシャの眼前に散る。
太陽が昇った青空に、一輪の赤い花が咲いた。
「く、あ……!」
双剣を弾かれ、装甲の一部を砕かれたリーシャが大地に落ちる。
『リーシャ様ッ!』
撤退の準備をしていた『騎士団』の仲間が悲鳴を上げる。
だが、行けない。
待機していた残りの幻神獣が素早く動き、リーシャと『騎士団』の間に壁を作るように、立ちはだかっていた。
「はッ!ははははっ!」
ベルベットの哄笑が、荒野と空に響く。
「な、んだ……今のは……?」
リーシャの呻きを聞いてベルベットは不敵に微笑む。
「『神速制御』。かつての帝国軍に伝わる、機竜使いの奥義の一種だ。近衛騎士団長まで上り詰めてから、更に五年もの修練を経て、ようやく俺はこいつを体得したのさ」
『神速制御』。
肉体操作での制御に加えて、精神操作の制御。一連の動作に、異なる二系統からの操作を完璧に重ねることで、ほんの一瞬、一動作のみ、目にも止まらぬ攻撃を繰り出す絶技。
機竜使いの三奥義は、新王国設立後も伝説として語り継がれており、その一つでも習得した者は、超一流の使い手として称えられる。
「俺はな、クーデターの日から五年間、このときのために牙を研いできたのだ。お前ら雌畜生どもの番犬になるという苦痛の演技に耐えてな。ははははは!最高の気分だ!」
「ゲスが……!」
リーシャは地面に肘をつけながら上空のベルベットを睨み付ける。
「これで目的は果たせた。後はお前を人質にして、女王との取引に使うだけだ」
ベルベットが笛を吹き、幻神獣を前へと向かわせる。城塞都市へと攻め入るつもりだ。
「くっ……!」
リーシャ自身打つ手が無い。完全な奇襲の策をあっさり跳ね返され、《ティアマト》も反応が無い。
「(ついに、『また』来てしまったな、この時が……ああ、詰み……という奴か……)」
「愚かだな王女リーズシャルテよ。いいや、我が帝国に寝返った、ただの奴隷だったな?お前の正体は――」
「……くっ!?」
それを聞いた瞬間、リーシャは声を詰まらせた。《ティアマト》の機攻殻剣を握っていた手がカタカタと震えだし、真紅の瞳が揺れる。
「ハッハッハ!懐かしいなお嬢様。そうだ!俺だよリーズシャルテ。お前の腹に、帝国の印を入れたのはな!伯爵家に捨てられたお前に、人質としての価値などない。だから暗殺者として生かしてやろうと、お前に装甲機竜の使い方を教えてやったというのに……」
「く、あ、ああ……」
声にならない叫びが、リーシャの喉から絞り出される。それ以上言うな、言わないでくれ…と。
「だが、クーデターが成功し、運良く助かったお前は、何事もなかったように王女を名乗っているわけだ。跡取り用に残しておいた妹が死んで、都合が悪くなればまた拾われる。くくくく、酷い国だよなぁ。新王国は」
畳み掛けるように、ベルベットが嘲りながら、大剣を構える。
幻神獣が少しずつ、城塞都市に近づいていく。それに今まで後ろに構えていた反乱軍約百機も前に出ており、ベルベットの命令待ちと言ったところだ。
「だが、今はそれが好都合だ。お前は『本物の王女』として、我々の取引材料になってもらう。いいだろう?リーズシャルテ。お前は我々帝国の側の人間なのだ。わかったら、さぁ。這いつくばって言うがいい。自分は、貴方たちの奴隷ですと」
「………」
リーシャは勝ち誇ったベルベットに反応しない。
何故ならば…。
「……ふっ、ふふ…ハハハハハ」
笑い始めたのだ。急に。これにはさすがのベルベットも驚いた。だが、すぐに気を取り直す。
「…はっ、ついに狂ったか?まぁいい。コレが終わったら俺たちでじっくり――」
「お前の負けだよ…ベルベット」
「……なに?」
リーシャは立ち上がり、先程の顔が嘘だったかのように晴れやかな笑顔になる。
「城塞都市には『アイツ』がいる。ああ、そうだとも。お前たちは負けるんだよ。『アイツ』に」
「………」
「お前たちはこれまでに味わったことのない地獄を味わうぞ。それこそクーデター以上のな…」
クツクツと喉を鳴らすと眼から涙を流す。
「何を言っているのかさっぱりだな。おい、早くあいつを――」
「ああ、それと」
涙を拭き取りリーシャは言い放つ。
「女王に会うのならもうちょっとマシな顔で行ったらどうだ、三下?不細工が余計目立ってしょうがない。…ああ、これ以上は無理か」
明らかな嘲笑と軽蔑を携えた台詞。普段のリーシャからは考えられないが、昔の忌まわしき記憶と今の状況が彼女をそうさせる。
「貴様ァア……!?」
「事実だろ?三下。いいように使われてるだけなんだよ。お前は。あの頃と何ら変わりの無い。うまいこと乗せられるだけの三下に過ぎないんだよ」
フッと笑みを加えるリーシャ。それについにキレたのかベルベットが大剣を構え突撃してくる。
「貴様ァァあ!!もう貴様なんぞ知るか!取引などどうでもいい!持っていくのは、貴様のバラバラに刻まれた死体だけだあぁぁぁあぁぁあ!!!」
何とも小物臭漂う台詞だろうか、だが、私はこんな奴に殺されるのだな…。
心の中で悪態をつくリーシャ。
リーシャは目を瞑り、自分の死を覚悟する。
降り下ろされる大剣は、リーシャの身体を………。
触れることは無かった。
「………えっ……?」
こぼれた驚きの言葉。そして、再び涙を流し、『目の前』の人物の後ろ姿を見つめる。
「…何で来たんだよ……バカ……」
そこには、黒い天使がリーシャを守るかのように降り下ろされた凶刃を受け止めていた。
誤字脱字やおかしい所が見当たりましたらご指摘の程よろしくお願いします。