黒と白と壊れた心   作:東流

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少し遅れましたが、皆さん、あけましておめでとうございますm(__)m

2016年もよろしくお願いします。

今回は原作でいう一巻の最後となります。

それではどうぞ♪


終わりと双黒の出会い

「…何で来たんだよ……バカ……」

 

 後ろからそんな弱々しく、しかし熱の籠った声が聞こえてきた。

 

「…悪い、遅れた」

 

 ユウは機攻殻剣で受け止めていた大剣を弾くと、相手の腹部に蹴りを入れ込む。

 

「ぐうっ……っ!?」

 

 勿論、手加減無しで。

 

 吹っ飛ばされたベルベットはそのまま地面を数回転がり、悶え苦しむ。

 

「き、貴様ァア……!」

 

 悶え苦しむベルベットを無視し、ユウはリーシャの方を向き、

 

「…えっ!?おい!ユウ、ちょっと!」

 

 そのまま、リーシャを抱え、上へと上昇していく。リーシャは最初は戸惑ったものも、身体をユウへと委ねる。ある程度上昇すると、ユウは右手を前方へと翳した。

 

「『神装』発動」

 

 するとユウから黒い棺のような物が六つ姿を現す。その光景にリーシャやベルベット帝国側の機竜使いも固唾を飲み込み見まもる。

 

「『黒の幻想曲』(シュヴァルツ・デア・フォルステモ)第5番」

 

 ユウがその名を紡ぎ、一つの黒い棺が開かれる。

 

「『世界を閉ざす棺の壁』(ヴォルグ・シュロス・デイヴェルト)

 

 中から大量の鎖が飛び出し、ユウたちの前方へと広がっていく。そして、薄く何やら大量の文字が蠢く一つの壁が出来た。そしてそれは前方だけでなく、幻神獣(アビス)が向かった方角にも現れた。向こうのは一つの壁で隔離している様子だ。これで城塞都市へ向かうのを阻止する時間は出来たが、リーシャはどうもおかしいような気がしてならない。

 

「…これが神装…?」

 

 そう。神装機竜の持つ特殊能力、神装にしては少しばかり劣っているようにも見える。

 別にこの神装を批判している訳ではない。防御としてはとてつもない力を発揮するだろう。前方だけでなく、後方の幻神獣(アビス)にも力を発揮しているのだから。だが、それでもリーシャ自身の《ティアマト》の神装に比べると見劣りしてしまう所がある。

 

「くくく、ハァーハッハッハ!!こんなものが神装だと?笑わせるな!」

 

 薄い壁の向こう側にいるベルベットは高らかに笑い声を上げる。他にもベルベット側の機竜使い達からも笑い声が聞こえる。

 

「確かに、神装機竜サマの特殊能力だ。甘く見てる訳ではないが、こんな薄い壁一枚で何が出来る?ええ?」

 

 ベルベットは他の機竜使い達に指示を出すと大剣を構える。

 

「…確かに、これは薄い壁一枚だ。しかも一日五分限りという制約もある」

 

 ユウの言葉にリーシャは驚き、声を荒げる。

 

「ば、バカ!何そんな情報漏らしてるんだよユウ!」

 

 リーシャはユウの方を見るが、ユウから焦りや不安などが一切感じられない。その事を不思議に思いつつも、やはりこれではと拳を握るが…。

 

「けどな…。『それ』…お前ら程度に破れるほど柔じゃないんだわ」

 

「……えっ!?」

 

 リーシャが驚きの声を漏らすと同時に壁の向こうで様々爆発音が聞こえてくる。

 バッとリーシャは壁の方を見るが、そこには…。

 

「何故だ!?何故壊れん!?これだけの人数が攻撃しているのに…何故だぁ!!?」

 

 大剣を振り回し、砲撃を加え、機竜そのもので体当たりを仕掛ける者もいれば、一点のみに様々な攻撃を加える者達もいる。だが、壁はいっこうに傷がつかない。

 いくら神装の能力と言えども、これだけの物量に攻撃を加えられれば傷の一つでもつきそうだが、そんな気配は一切しない。

 リーシャの重力制御の神装も範囲は広いが、ここまでとはいかない。自分の実力、神装機竜の性能、それに『暴走』の事まで考えると、これだけの人数を足止めすることは不可能だ。

 リーシャはこの神装の能力に戦慄を覚えながらも、一つの事に気づく。

 

「……時間」

 

 この神装の弱点は『時間』である。それでも何回でも発動出来るのならまだしも、一日一回限りの技。もしこれが解けてもユウなら帝国の機竜使いを倒せるだろうが、今はリーシャを抱えており、何より後方には幻神獣(アビス)がいる。これでは…。

 

「大丈夫だ。リーシャ」

 

「…えっ!?」

 

 ユウは微笑み、リーシャを一瞥すると、後ろを振り向く。

 

「後ろの方はルクスとクルルシファー達が何とかしてるから大丈夫だ」

 

「ルクスとクルルシファー?あいつらも来てるのか?」

 

「ああ。それと、『コイツ』の能力ちゃんと説明してなかったな」

 

 ユウがベルベット達の方を見ると、息を荒げたベルベット達がこちらを睨み付けている。

 

「その壁の能力は『拒絶』だ。お前らはこちら側へは絶対に来れない」

 

 その言葉にリーシャ、ベルベット、他の機竜使い達も声が出せずにいた。そんなことなど露知らないユウは能力の事を説明していく。

 

「簡単に言えば、俺が認めていない人物、又は物体の通行を止めるんだよ。一日五分の間な」

 

 確かにそれは破格の能力だとここにいるユウ以外全員が思った。一日五分という制限はあるものも、いわば絶対防御だ。しかも壁一枚というだけでなく、囲いこみ、隔離するという手段もある。その例えが後方の幻神獣(アビス)を囲んでいるものだ。その気になれば人一人を対象にすることが出来るだろう。そして壊せない。絶対に。そんなものをどうすればいいのだろうかと思うが、時間制限がある。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…フッ、だがお前が言った通りならば時間制限がある。それに、そちら側からは手出し出来まい。確かにこの能力は破格すぎるが、時間が過ぎれば私達はここから…」

 

「お前俺の話ちゃんと聞いてたか?」

 

 はぁと溜め息混じりの呆れたような声がユウから飛び出す。

 

「俺は言ったよな?『俺が認めていない人物、又は物体の通行を止める』って」

 

 ビクンとベルベットは肩を震わせ、ユウを見る。ユウは笑いながら、

 

「じゃあさ、使用者と俺が『認めたもの』の通行ならどうなるんだろうな?」

 

 まるで死刑宣言でもくらったようなベルベットの顔を見下ろす。

 

「そもそも、俺は俺自身がここを通れないなんて、一言も言ってねぇぞ?」

 

 破格すぎる?

 

 冗談じゃない。最早神装としての能力からかけ離れた異常にも似た能力だ。

 

『と言うことで頼むぞルクス、クルルシファー』

 

 ユウは竜声を使い、黒と蒼に声をかけた。

 

『了解』

 

『ええ』

 

 黒と蒼は静かに頷き、目の前にいる幻神獣(アビス)達へ攻撃を開始した。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

「しかし、これはとんでもない神装よね」

 

 クルルシファーは機竜息砲(キャノン)を構えると、世界を閉ざす棺の壁(ヴォルグ・シュロス・デイヴェルト)に囲まれている幻神獣(アビス)の大軍へ向けて引き金を引く。放たれた砲撃はガーゴイル型の幻神獣(アビス)へ向かっていき爆発する。

 幻神獣(アビス)の大軍は怒り狂い、クルルシファーへ突撃するが、世界を閉ざす棺の壁(ヴォルグ・シュロス・デイヴェルト)に阻まれ、それ以上は進めない。様々な攻撃を加えるがびくともせず、その隙をクルルシファーは逃さないで間髪入れず砲撃を加える。

 

「はああああ!!」

 

 そして上からはルクスが黒い機竜を纏い、大型のブレードを構え、幻神獣(アビス)を蹴散らしていく。

 凄まじいスピードで幻神獣(アビス)の大軍が減っていく。中からルクスの斬撃。外からはクルルシファーの砲撃。幻神獣(アビス)は殆んど何も出来ずに散っていく。

 

「それにしても、ルクス君がまさか『黒き英雄』だったとはね…」

 

「クルルシファーさん、この事は…」

 

「ええ、分かってるわよ。他の人達には言わないから安心して」

 

 ホッと胸を撫で下ろし、ルクスは安堵する。ここに来るまでルクスは《ワイバーン》を纏とっており、決してこの黒い機竜では無かったのだ。《ワイバーン》だけで大丈夫だと思っていたが、幻神獣(アビス)の数が余りにも多かったので、意を決してルクスは神装機竜《バハムート》を纏うことにした。

 《バハムート》は黒を基調とした機竜で、所々に赤いラインが伸びている。背中からは四対八枚の翼が展開されており、正しく漆黒の巨竜に相応しい姿だ。

 騎士団(シヴァレス)のメンバーには《ワイバーン》で救助を行っており、この場にはルクスとクルルシファー以外は誰もいないので、他の人達にはバレてはいない。

 現時点でルクスが『黒き英雄』だと知っているのは、ユウ、クルルシファー、アイリ、それともしかしたらリーシャにも伝わっているかもしれない。

 ルクスは溜め息を吐き突撃してくる幻神獣(アビス)を掴み、もう一体の方へと飛ばす。

 

「…やはり凄いわね。それ」

 

 クルルシファーも汎用機竜ではなく、神装機竜を纏っている。名を《ファフニール》。薄い蒼を基調とした機竜で、特徴的なのは右腕に装着されている大型の機竜息砲(キャノン)。リーシャの七つの竜頭(セブンスヘッズ)を大砲と称すなら、クルルシファーのはライフルと言った所だ。だが、この細身の銃口からは考えられないほどの威力を誇った砲撃を繰り出す。

 現にルクスは間近でクルルシファーの放った砲撃を喰らっている幻神獣(アビス)を見ているとゾッとする。もしあれが誤射で此方へきたらひとたまりも無さそうだ。

 

「クルルシファーさんの神装機竜だって凄いですよ。《ファフニール》…でしたっけ?」

 

「そうね、私のはルクス君みたいに前で戦うタイプでは無いけど、ユウ君が放った『これ』のおかげで殆んど出番は無いってところね」

 

 クルルシファーの口から出た発言を不思議に思いつつも突っ込んでくる幻神獣(アビス)を一蹴する。

 その時、ユウが向かった方角から様々な機械音や怒号が小さく、だが沢山聞こえてきた。

 

「向こうも佳境ってところかしら」

 

「そうみたいですね。此方も一気に片付けましょう」

 

 残り数匹だが、ルクスとクルルシファーは焦ることなく落ち着いて幻神獣(アビス)たちを対処していった。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

 ルクスとクルルシファーが戦闘を始めた頃、ユウはリーシャを下へ降ろし、ベルベットと向き合っていた。

 

「んじゃ…向こうも始まったみたいだし、こっちも始めるか」

 

 ユウは細身のブレードを二振り取り出すと、世界を閉ざす棺の壁(ヴォルグ・シュロス・デイヴェルト)の向こう側へと乗り出す。

 それに畏怖したのか、ベルベットは歯をカタカタと鳴らし、一機の黒い天使へ向かって攻撃の合図を送る。

 

「う…撃てええぇぇぇ!!!」

 

 様々な砲撃が来るなか、ユウはそれを交わしていき、近くにいる装甲機竜から次々と斬り伏せていく。

 横へ払い、上から振り降ろし、下から袈裟斬り、正面から突き出し、後ろから斬り上げ、斬り下ろす。

 全く関係の無い、所謂第三者からの視点からすれば、一人で舞っているようにも見えた。この時点でリーシャを含めベルベット達帝国の機竜使い達も『黒き英雄』の正体は知らなかった。只、黒い機竜を纏った人物がクーデターを成功させたとしか聞いていない。だからこの場にいる誰かが呟いた。

 

「く、黒き…英雄…」

 

 その呟きは波紋の如く広がっていく。

 ザワザワとざわつくなか、一人ユウは笑みを浮かべる。

 

「俺じゃねぇよ。黒き英雄ってのは」

 

 ユウの独り言は誰にも聞こえず、霧散する。

 ユウは更に速度を上げようと開かれていない棺の一つを近くに寄せる。

 

「一気に片付けるか」

 

 そう言うとバン!とかん高い音と共に棺の扉が開かれる。

 

「第三番」

 

 中から黒い霧のようなものがユウの背中の翼へと纏わりついていく。

 

「『黒天翼(ヒメール・フェルガ)』」

 

 翼は大きさを増し淡く紫色に光りだした。今までの天使のような翼ではなく、エネルギーを纏った機械的な翼へと姿を変える。ヒュンヒュンヒュンという風を斬る音が辺りへと響き渡り、

 

「まずは…四機」

 

 音を置き去りに、一番遠くで旋回していた四機を叩き落とした。

 

「……は…ッ?」

 

 四機の内の誰かが呟き、そのまま訳もわからず地面へと落下していく。同じ様に残りの三機も落ちていく。

 

「…な……んっ!?」

 

 ベルベット達他の機竜使い達は何が起きたのか全くわからないという状況だった。棺が開かれ、いきなり翼の形状が変わったと思えば、後方の機竜使い達を撃墜した。

 

 なんだ?何が起こったんだ?

 

 誰も状況を飲み込めず、ただただ立ち尽くすだけという事しかベルベット達は取れなかった。

 リーシャも下から見ていたが、開かれた口が閉じない。

 

「……何が…起きたんだ…?」

 

 その事など気にもせず、ユウは消えては現れ消えては現れを繰り返し、その度に敵を撃墜していく。

 摩訶不思議な光景に一同笑うしかなかった。それと同時に絶望する。

 

 俺達はなんていう化け物に手を出したんだ…と。

 

 我を忘れ、ユウが現れた所にブレードを構え数機突撃するが、気がつけば落ちている。錯乱し、畏怖し、泣き崩れる帝国の機竜使い達。だが、ユウは一切の加減をしない。次々に敵を落としていく。

 周りから見れば何をしているのか全く検討がつかないが、ユウからしてみれば『ただ動いているだけ』に過ぎない。もっと言えばエネルギー状の翼で敵を攻撃していると言ったところだ。

 ユウはある程度敵を撃墜していくと機攻殻剣を取りだし、残りの数機へと構える。

 

「『死を呼ぶ雷閃(ヴォーバルストライク)』」

 

 リーシャとの模擬戦の時に幻神獣(アビス)へと向かって放った黒い雷閃(ヘルブラスト)と似ているが、威力と大きさが圧倒的に違った。模擬戦の時に見せたものがジャブなら、これは利き手のストレートと言ったところだ。

 黒い稲妻の波が全てを飲み込んでいく。敵は悲鳴を上げることさえ出来ず、森へと落ちていく。

 バチバチという音が辺りに響くなか、荒野の戦場には二機の機竜使いが佇んでいる。

 一人は黒い天使《レスティア》を纏ったユウ。

 そしてもう一人は満身創痍、ただただ訳もわからず佇んでいるベルベット。

 勝敗はどう見ても明らかなのはわかる。ユウは息一つ乱さず、ベルベットを見据え、ベルベットは笑いながら周りを見渡す。

 

「終わりだよ、警備隊長様」

 

 ユウの言葉にベルベットはグッと拳を握り締め、神速制御(クイックドロウ)を行おうと構えをとる。すると、世界を閉ざす棺の壁(ヴォルグ・シュロス・デイヴェルト)の壁が消えた。それと同時にベルベットは最大出力で下に立っているリーシャへと突っ込む。

 

「お前だけでも殺してやる!!リーズシャルテえええええぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 ベルベットがリーシャの元へ辿り着くのは数秒とかからないだろう。ユウの裏をかいた完全な奇襲である。

 リーシャは目を見開き、そして笑う。折角助けてもらったのになぁとリーシャは来るであろう衝撃に目を瞑り…。

 

「……えっ?」

 

 衝撃が襲って来ない。

 リーシャは自分の身体がバラバラになる事を予想していた。

 だけど、黒い天使はそんな未来を許さないかのようにベルベットの大剣を掴んでいる。

 

「《レスティア》はこう見えても情報探査に長けた装甲機竜なんだよな」

 

 ギギギとベルベットの持つ大剣を今にもへし折りそうな音をユウは平然と出す。ベルベットは持ち上げようと大剣を動かすがピクリとも動かない。

 

「セキュリティが強固な秘匿回線の竜声でも無い限り、戦場の情報は全て手に入れる事ができる」

 

 リーシャはユウの言葉を聞いていき、あれ?と思った。竜声を聞き取れる。確かにユウはそう言った。

 

 であれば…。

 

 先程の会話も聞かれているのでは無いだろうか…?

 

 そう思うとリーシャの呼吸が段々早く、苦しいものとなっていく。

 

 もしかして…。

 

 聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた聞かれたきかれたきかれたきかれたキカレタキカレタキカレタキカレタキカレタ?

 

 全部。

 

「だからお前らの話は全部聞いていた」

 

 その言葉にリーシャの頭は真っ白になった。何も考えられないほどに。後頭部を思いっきり叩かれた、そんな感覚にさえ陥る。

 

「は、ははは…ハハハ、ハハハハハハ!!なら知っているのだろう?コイツが!この女は、我ら帝国の奴隷だと言うことを!」

 

「………」

 

 言えない。何も言えなくなった。いずれは話す予定ではあった。あの『傷痕』を見せたときから話すと決めていた。

 

 けど、だけど…。

 

 こんな形で…。こんな奴に嗤われながら…。自分の『秘密』を…晒し上げられるなんて…。

 

「…悔しいな…本当に…」

 

 瞳が熱くなり、涙を流しているのに気付いた。乾いた地面を涙が少しずつ濡らしていく。

 

「悔しいよ…」

 

 リーシャの独り言は消え入るような声色だった。

 

「どう思うんだろうなあ?ええ?自分の国の王女サマが元帝国の奴隷だと知ったらな…。ククク、考えるだけでも最高だ。どうだ?お前も騙されていたんだぞ?この偽王女に。悔しいだろ?悔しいだろ!男の奴隷の分際で男よりも遥か高くから見下ろしていたんだぞ?この女は。自分から帝国に尻を振った最底辺のく――ッッ!!?」

 

 バキィン!

 

 ベルベットの大剣が酷く歪み、折れた。

 

「…もういいよ、お前。…いい加減黙れよ!!」

 

 ユウは振り向き、左拳をベルベットの顔面へと叩き込んだ。

 

「わぷ――ッッ!!?」

 

 ベルベットはそのまま後ろへ数回転がっていく。

 

「その悪臭漂う汚い口をさっさと閉じろ。でないと…勢い余って殺しそうだ」

 

 ユウは飛ばされたベルベットを睨み、殺気を放つ。ユウが放つ殺気にベルベットは冷や汗が止まらず、鼻を押さえ、口をガタガタと鳴らすだけだった。

 

「俺はお前が『さっき』リーシャに言っていた事にも腹を立ててたんだよ。帝国の奴隷だから這いつくばれ?人の大事な『もの』をまぁベラベラと節操なく喋るなお前…。と言うかまず、何ウチの姫様泣かしてんだよ…」

 

「……ユウ?」

 

「帝国の奴隷だから王女をしちゃいけないのか?国民を大事に想っちゃいけないのか?国を良くしようとしちゃいけないのかよ!?」

 

「あ……」

 

 リーシャは涙を拭き取り、ユウの言葉に耳を傾ける。

 

「リーシャは自分に何が出来るのかって必死に悩んで、探して、やっと見つけた『道』があるんだよ。確かにリーシャの秘密は誰にも簡単に言えるようなものじゃない。だからあの時は無理に聞かなかった。いつか話してくれるだろうって」

 

 再び涙を流す。

 

「だからさ…リーシャの大切な『秘密』をお前みたいな奴が、平気で語るなあ!!」

 

 ズガァァン!!

 

 黒い稲妻が再び荒野を走る。

 

「ぎゃあああああッッ!!?」

 

 黒い煙を上げるなかベルベットの意識は飛ぶ寸前だった。

 

「リーシャが選んだ道を、これから歩む道を…汚すな」

 

 今度の涙は悔し涙ではなく、

 

「…ありがとう…ユウ…」

 

 想い人からもらった大切な涙だった。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

 あの後は呆気なく事が終わった。

 泣き止んだリーシャを抱え、そのまま最終防衛ラインへ戻ると、ルクスやクルルシファー、騎士団(シヴァレス)のメンバーが待っていてくれた。

 ユウはリーシャを降ろし、事の顛末をリーシャの事を抜きにルクスへと伝え、例の角笛を渡した。

 

「これが…」

 

「ああ、間違いない。『角笛』だ。これはレリィさんに預けておいてくれ」

 

「わかった」

 

 ルクスが頷くと、今度はルクスの妹アイリがユウに近づく。

 

「ユウさん、例の件は…」

 

「後で話すよ」

 

 ルクスとアイリは頷きこの場を離れる。

 そしてユウは本来の『仕事』に取りかかるべく、再び《レスティア》を展開させる。

 

「お、おいユウ!?お前何処に行くんだ?」

 

 リーシャが慌てて止め、ルクス、クルルシファー騎士団(シヴァレス)のメンバーも慌てて近づいてくる。

 

「悪い。まだ色々と残ってる事があるんだ。ルクス達は先に学園へ帰っててくれ。すぐに戻る」

 

 そう言うとユウは閉じていなかった第三番『黒天翼(ヒメール・フェルガ)』を展開させると、すぐさまベルベット達がいるであろう森林目掛けて飛び出す。

 その光景に一度は見てるリーシャだが、ほぼ全員がユウの速さに圧倒されていた。

 

「…何あれ…速すぎでしょ!?」

 

 ティルファーが痛んだ身体が何のそのという具合にツッコミを入れ込む。

 ノクトはただ純粋に凄いと思い、ユウが飛んでいった方向を見上げる。

 そこに一人の少女が疑問を上げた。

 

「装甲機竜の速さにユウ君の身体が持つのか?」

 

 シャリスは的確な疑問は、この場にいる全員を凍らせる。もしあの速さで突っ込まれたらまず肉体はバラバラだろう。それ以前にあの速さに耐えられる人間がいるのか?

 

「何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない…か」

 

 以前読んでいた小説にそんなことが書かれていたなと思い出す。シャリスお気に入りの小説だ。所詮物語だ。空想に過ぎないと思うのだが。もしそれが事実ないし事実に近い事だったなら…。

 

「…何を犠牲にすれば、あんな力が手に入るのだろうな…」

 

 シャリスの言葉は誰にも聞こえずこの乾いた空へと消えていった。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

「さてと、この辺りだったよな?」

 

 ユウは《レスティア》を解き、地面へと降り立つ。

 

『じゃあ手っ取り早く終わらせましょうか』

 

『賛成です』

 

 レスティアとエストが意気込む中、ユウは妙に静かな森を見つめる。

 ユウの『仕事』内容、それはベルベット達帝国の機竜使い百名の始末。つまり、殺しだ。最初からこれが目的で森の中へ落ちるよう計算していた。ベルベット本人は少し予定外だった。

 

『しかし、珍しかったわね。ユウが『怒る』なんて』

 

『はい。久し振りじゃないですか?』

 

 レスティアとエストはユウが怒った事に驚きつつ、少し『人間らしさ』を取り戻した事に嬉しさを感じていた。

 

「…わからない。でも初めてだったからな。レスティアとエスト以外で護りたいって思ったのは…」

 

 それだけユウにとってリーシャは大切な人になりつつあるのだろうと二人は思った。レスティアは更に問い掛けようとユウに話しかけようとするが、ユウがいつにもなく真剣だった。

 そして、鼻の奥がツンとするような悪臭がユウに漂ってくる。

 この臭いは…血。そして『死体』独特の腐臭だ。

 

「レスティア、エスト」

 

 二人を人へと戻し、悪臭が漂う現場へと走る。

 

「これは…」

 

「……ベルベット?」

 

「それにこの人達…」

 

 目の前にいたのはベルベット達帝国の機竜使い百名。

 

 その亡骸だった。

 

 物凄く手慣れていた殺し方だった。それに加え、少し楽しんだ部分も見当たる。何名かが木に突き刺さっていた。他には四肢を切り落とされた者もいる。ここは肉と血と腐臭三点が揃った地獄そのものだった。耐性がない人物ならばすぐにでも嘔吐するような光景。耐性がある人物でさえ顔をしかめるような光景なのに、ユウ達三人は至って普通だった。少しは顔を歪めているものも、まるで塵が散乱している場にたまたま居合わせた、そんな程度でしかなかった。

 

「…どうする?」

 

「どうするって言ったて…」

 

「女王になんて報告しましょう」

 

 こんな地獄の中にいても三人は全く気にせず、報告主へどうやって報告するか悩み出す。

 すると、何処から殺気を感じたのか、ユウは警戒を取り、レスティアとエストは剣へと姿を変える。

 

「出てこいよ。いるんだろ?」

 

 そう言うとおくの茂みから黒いボロ布を被った人物が現れる。背丈からして、子供だろうか?だが、間違いなくこの人物がベルベット達を殺害したのに間違いない。

 

「…ようやく来たか」

 

 声からして少女だろうか?少女は腰からナイフを取り出すとユウ目掛けて放つ。

 

「……」

 

 それを無言で交わすとボロ布を被った少女は怒気を含ませた声で話しかける。

 

「…お前のせいで…お前が逃げたしたせいで…」

 

 キッと黒い瞳がユウを見据える。

 

「殺す。貴様は貴様だけは、私が殺してやる」

 

 それだけ言うと黒いボロ布を被った少女は森の奥へと消えていった。ユウ達に不快感を残したまま。

 取り合えずこのままだと不味いので、レスティアの力で焼き尽くすことにした。

 

「……逃げたした、か…」

 

 ユウは一人呟き、

 

「まさかな…」

 

 有り得る筈の無い事を思いつつ、城塞都市へと帰還した。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

 学園に戻ったユウを待っていたのはリーシャ達騎士団(シヴァレス)とルクス達だった。

 ルクスは久し振りに神装機竜を使い疲れがドッと出たような表情をしていた。

 

「なんだよ、ルクス、疲れたか?」

 

「まぁね…これは特別なものだからね疲れが酷いんだよ。でも、まぁ昔みたいにはならなかったかな」

 

 聞くと昔は《バハムート》を使い一週間寝込んだ事もあるそうだ。そんな笑い話をしながら、ユウは『棺』を取りだし翼を元へ戻す。

 それを興味深くこの場にいる全員が見ていた。

 

「それが、貴方の神装かしら?」

 

 クルルシファーは『棺』の存在感に圧倒されつつも、負けじと聞き出す。

 

「え?ああ、まぁな…。制約が厳しいけどどれもとんでもない能力だからな」

 

 六つの棺を《レスティア》へと直すと、《レスティア》を解く。

 

「見たところ速度を極限まで上げるようですが…。何やら文字が蠢く壁も見えましたし……あれ?」

 

 アイリは自分で言って何やら訳がわからなくなっていた。そして、

 

「神装が…二つ?」

 

 その言葉にどよめき出す生徒達。ルクスとクルルシファーも三和音の三人も驚きを隠せずにいた。リーシャはどちらも間近で見ており余り驚きは少なかったものも、やはり改めて言われると驚きを隠せない。

 だが、ユウはそんなものを一刀両断にするかの如く訂正を付け加える。

 

「ああ、こいつは少し特別でな。別に神装が二個ある訳じゃ無いんだけど…性質上そう見えても仕方ないよな」

 

 《レスティア》を鞘に戻すと、この話は終わりと言いたげに背伸びをするユウ。

 

「にしても、眠い。今日朝が早かったからな…」

 

 ふうわぁと欠伸をするユウを見て全員がドッと笑う。今まで命懸けの戦闘をしていたとは思えない程の状況だ。そんなユウを遠くから見ているリーシャ。リーシャは一人ユウに向かいありがとうと口にする。これからもチャンスはあるのだ。グッと拳を握り絞めると先程ベルベットに言っていた言葉を思い出す。どれもリーシャの心の傷を癒してくれるものであり、

 

「~~ッ///!?」

 

 とても恥ずかしいものでもあった。

 確かにああ言われて、嫌なことは一つも無い寧ろ存在しない、もしそんな感情がある奴がいたらぶっ飛ばしてやりたいぐらいだ。

 リーシャは顔を赤らめ遠くにいるユウを見る。

 

「うう…嬉しいのは嬉しいが…」

 

 リーシャが一人顔を赤らめてると、シャリスが近づき、

 

「姫、惚れたか」

 

 いきなり核心を突く発言をしてきた。

 

「しゃ、シャリス!?何を突然」

 

「まぁ絶望的な死地から完膚なきまで助け出してくれんたんだ。惚れないわけないか…。もし私が姫の立場なら絶対惚れてるな」

 

 リーシャは慌てふためき涙を瞳に溜めシャリスを見る。

 

「まぁユウ君に対しては『敵』が多いみたいだし、頑張れよ姫」

 

「…なに!?」

 

 リーシャはルクスと一緒に騎士団(シヴァレス)のメンバーと他の待機していた生徒達に質問攻めになっており動けない状態でいた。辺りを一瞥すると、クルルシファーは少し不機嫌気味だがユウの方を見ており混ざりたそうにしている。だが彼女の性格上そういったことはしないので、何やらやりきれない様子だ。他にもノクトがユウを見て、アイリと何やら話をしている。すると突然無表情なノクトの頬が赤くなったではないか。ユウを見て見るたびに赤くなっていく。

 他にも何名かいるようだが主な人物はこの二人だった。

 

「ま、負けられん…」

 

 何かを決意したかのようにリーシャはユウへと近づいていく。

 すると、リーシャはシャリスも向かっているのに気付いた。シャリスは質問攻めにあっていた二人を助け出すと、二人に何やら話をしていた。

 

「私達騎士団(シヴァレス)が勝手に決めたことなのだが、ユウ君とルクス君、二人とも騎士団(シヴァレス)に入ってくれないだろうか?」

 

 その事に騎士団(シヴァレス)のメンバーには不満は無く是非ともと言った様子で頷いている。

 

「現三年生は私しかいないからな後でセリスティアに何て言われるかわかったものではないがな…。だけど、私達には君達の力が必要なんだ、だから頼む」

 

 シャリスの真剣な表情にユウとルクスは固まる。一度は断った身なのだが、ここまで言われると断る要素もない。ルクスは少し考え頷くと、了承した。だけど、ユウは少し悩んだ。シャリスや他の待機していたメンバーも駄目かなと思ったとき、リーシャがユウに対して、

 

「…私の道を汚させないのだろう?」

 

 そう言い微笑むと、ユウも観念した様子で頷いた。

 

「…仰せのままに、我が姫よ」

 

 ユウは笑い騎士団(シヴァレス)への入団を了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうだったでしょうか?
作者自身戦闘シーンが物凄く薄くてまだまだだなという所が多々見当たりました。
それと、技名ですが厨二成分が多く痛いと思われるかもしれませんが、これでいきます。はい。
あと、最後の方が少し駆け足過ぎたかなと思っております。
ユウ君の性格がちょっと変な方向に走りましたね。まぁ味方には優しく、敵にはとことん容赦なくというのは元々決めていたことなのでこれはこれでアリだと思います。
誤字脱字、おかしな所がありましたらご指摘のほどよろしくお願いします。

さて次から二巻突入です。これからも頑張っていくのでよろしくお願いしますm(__)m
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