黒と白と壊れた心   作:東流

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投稿が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。

二月に入ってから沢山出せるとの事でしたが、色々と忙しく、中々執筆が進みませんでした。

もう少し投稿スピードを上げようと思っています。

それではどうぞ!


白と蒼と王国の覇者

 あれからアルテリーゼの勧めで学園に程近い酒場に来ていた。

 本来、校則では王立士官学園の学生は酒場の出入りは禁止されているが、責任はアルテリーゼが取るという事になった。

 テーブルにはユウと向かい合うようにクルルシファーが座り、その隣にはアルテリーゼが座っている。リーシャとノクトはユウの隣左右に座っている。

 

「…リーシャはまだしも何でお前までいるんだ?」

 

「流れです」

 

 ノクトはそう言いきり、大人しく椅子に座っている。

 まだ一ヶ月程度しか彼女とは面識が無いが、こういうことをする子だったろうか?と考えるユウ。

 後でアイリに詳しく聞いてみようと考えていると、

 

「まずはそうですね。お元気そうで何よりです、お嬢様。と言いたいところですが――」

 

 アルテリーゼはユウ達をちらりと見て、そう切り出してくる。

 ユミル教国の貴族であり、機竜使いを輩出する名門、エインフォルク家。

 その執事を務めるという彼女自身も凄腕の機竜使いであり、ユミル教国では特級階層(エクスクラス)と呼ばれる最高位の実力者らしい。

 

「級友の前だからといって、余計な気遣いはいらないわ」

 

 クルルシファーが素っ気なく言うと、アルテリーゼは嘆息を漏らした。

 

「では、率直に。もう少し気を付けてください。あなたの身体は、エインフォルク家のものなのですよ?」

 

「そう。なら賊に狙われるのも、名家の宿命だから仕方ないわね」

 

「………」

 

 クルルシファーの言葉に不機嫌そうに黙りこむアルテリーゼ。

 このやり取りを見ていたリーシャは「なんだ?仲が悪いのか?」と小声で呟いている。

 

「ところで――、その男性はどなたでしょうか?」

 

 ふいにアルテリーゼの視線が、ユウに向けて言う。

 

「私の恋人よ。素敵でしょう?」

 

「っ……!?」

 

 そうクルルシファーが答えた瞬間隣に座っているリーシャとノクトがぴくっと肩を震わせていた。

 

「恋人?その少年が、ですか……?」

 

 怪訝な顔で、アルテリーゼが聞いてくる。

 

「ええ、そうよ。彼は雨宮ユウ。今は、王立士官学園の二人目の男子生徒として通う私の級友。何か問題があるかしら?」

 

「………」

 

「問題ならあるぞ。ユウは私とこれから色々と――むぐっ……!?」

 

「ちょっと静かにしてろ。後で話すから」

 

 リーシャが口を挟もうとしたので、口を押さえリーシャを宥める。

 アルテリーゼは疑わしげに眺めるが、深呼吸をした後に、呟いた。

 

「そうですか、それは困りましたね。実は――」

 

「これはこれは――、私も見くびられたものだな?」

 

「……!?」

 

 突然発せられた男の声に、一同がはっと息を呑む。

 金の刺繍がはいった、赤い豪華な外套を纏った男が、アルテリーゼの背後に立っていた。

 マントの下から引き締まった手足を覗かせる、長身の男。

 金の長髪と整った目鼻は、一見して美形の優男のようだが、薄く張りついた笑みと鋭い目付きが、どこか威圧的な空気を匂わせている。

 

「クロイツァー卿!?何故、あなたがここに?会食の予定は明日の筈ですが――」

 

「ああ、忘れたわけではないよ。アルテリーゼ殿」

 

 驚くアルテリーゼに、そう呼ばれた男は笑みを返す。

 

「これでもオレは期日にはうるさい男なのでね。だがそう、あえて欠点を言うならば、少しばかりせっかちなのだ。オレの未来の妻となる少女を、一足先に見ておきたくてね」

 

 ニィ、と唇の端を歪め、その顔をクルルシファーに向ける。顔から足先まで、舐めるように視線を這わせると、男は満足そうに頷いた。

 

「ほお。評判通りの美しさだな。これでもオレは王都の社交パーティに何度も顔を出したのだが、これほどの華は見たことがない」

 

「お褒めに与り、光栄でございます」

 

 そう返答したのは向けられたクルルシファーではなく、アルテリーゼの方だった。

 

「アルテリーゼ。その人は?」

 

 クルルシファーが素っ気ない表情で、そう口に出すと、

 

「そうか。どうやらまだ話は通っていなかったようだな。では、名乗らせてもらおう。オレの名はバルゼリッド・クロイツァーという」

 

「……!?」

 

 男の言葉を聞いた瞬間、リーシャとノクト、さらには周囲の客を含めた酒場の中そのものに、緊張が走る。

 

「クロイツァーという家名は、あの?」

 

 クルルシファーの問いに、アルテリーゼは頷く。

 

「旧帝国時代から続く由緒ある血筋――四大貴族のひとつです。特に騎士や機竜使いを代々輩出してきた、名門の一家。この方はそのご嫡男です」

 

「(……クロイツァー…ね…)」

 

 旧帝国時代の事はあまり知らないが、家柄や権力、財産においては、新王国の中でも郡を抜いている。だが、一方で旧帝国時代の思想をそのまま受け継いだようなものであり、あまりいい噂を聞いたことがない。

 

「四大貴族の嫡男……?まさかアルテリーゼ、あなたは――」

 

「ええ。誠に勝手ながら、明日に予定していた会食にてクロイツァー卿にお嬢様を紹介し、その場で婚約を交わしていただくよう、私が話を進めておきました」

 

「…どうして相手の私が、その話を耳に入れていないのかしらね?」

 

 呆れた口調で、クルルシファーが問いかけると、

 

「このくらいしないと、お嬢様はまた(・・)理由をつけて逃げてしまいますから」

 

 アルテリーゼは悪びれることなく、平然と返した。

 どうやら二人は仲はよくないようだが、お互いの性格はよく熟知しているらしい。要するに、何とかうまく理由をつけて婚約を避けるクルルシファーの行動を見抜き、アルテリーゼは自ら決めた婚約者を連れてくる予定だったようだ。

 おかげで今、かなりややこしい状態になっているが。

 

『何だがイマイチ状況が呑み込めないわね』

 

『私もです』

 

 レスティアとエストが二人揃って声を上げる。ユウ自身も正直めんどくさくなってきた。だが、クルルシファーと約束をしている以上引き返す訳にもいかない。

 

「そう?でも残念だったわね。この通り今の私には、お付き合いしている男性がいるわ。そうよね?ユウ君」

 

「…ああ、まぁ…一応」

 

 考えている途中に急に話を振られたので、対応が遅れる。

 

「ユウ……?ハッ!どこの馬の骨だかは知らんが身の程を弁えろ。まぁ、士官学園の生徒なんだろうが…所詮は下級貴族の餓鬼だろ?オレと貴様とじゃ釣り合わん」

 

 侮蔑を込めた、笑みと口調。初対面から的確な敵意を向けられてもユウは平然としている――なのだが。

 

『何寝言を言ってるのかしらこの人は…殺していい?』

 

『賛成です。レスティア、私も手伝います』

 

 こちらも当人ではない二人が盛り上がっている。アルテリーゼといい勝負だ。

 

「アルテリーゼ殿。この程度の男のために今回の婚約を延期する必要など、果たしてあるのですかな?」

 

 焚き付けるように、バルゼリッドは言葉を重ねてくる。

 

「貴公が仕えるユミル教国の名家、エインフォルクの血筋には到底相応しくは無い男だと、オレは判断するが?それ以前に貴族かどうかも分からない。士官学園にいる以上、最低、貴族の枠に入ってるかもしれないが、所詮無名な下級貴族なのだろう。オイ、餓鬼ちゃんと名乗ってみろ」

 

 バルゼリッドの高圧的な態度にユウは何事もなかったかのように普通に名前を答えた。

 

「…雨宮ユウだ」

 

 名乗ったと同時にバルゼリッドは高笑いをしながらアルテリーゼに問いかける。

 

「ハッハハハッ!!雨宮(・・)だと?その変な名前、『東洋』の出身か。ハハハ、下級貴族ですら無いじゃないか!アルテリーゼ殿、本当にこんな男の為に婚約を延期するのですか?」

 

「――おい、貴様!さっきから黙って聞いていれば――」

 

 リーシャが立ち上がり、バルゼリッドに文句を言おうとした時、

 

「ちゃんと名乗れって言ったよな?だったらちゃんと挨拶してやるよ」

 

 ユウが立ち上がり、リーシャの言葉を引き止める。

 

「アティスマータ新王国、現女王、ラフィ・アティスマータの騎士を務めている雨宮ユウだ。軍内部では『特尉』の階級だが、緊急事態の場合のみ、新王国の軍全て(・・・)を指揮できる特別な地位にいる。政治の方も、ある程度()にいるけど、参加は殆どしたことがないな。まぁ、新王国の中枢を担っている普通の餓鬼(・・・・・)だ。よろしく、四大貴族サマ」

 

 その言葉によりバルゼリッドは勿論、アルテリーゼやリーシャ、ノクト、クルルシファーといった身近な人物のほかにこの酒場にいる客全員の時間が止まったような感覚が酒場内部に広がった。

 リーシャ達も女王の騎士を務めている事は知っていたが、まさか新王国の軍全て(・・・)を統括できる地位にまでいるとは思ってもいなかった。

 アルテリーゼは最初は嘘だと考えていたが、バルゼリッドの言葉により、その考えは撃ち抜かれる。

 

「……女王の騎士……?…まさか!?『女王の番犬』か?」

 

「…女王の番犬?」

 

「なるほど…女王の側には物凄い使い手がいるとは聞いていたが…。それが貴様だと?何の冗談だ?」

 

 バルゼリッドは机を叩きつけ、ユウを睨む。

 ユウは余裕の表情で、椅子に座り直し、バルゼリッドを見る。

 

「…今度の会議の時に聞いてみたらどうだ?『ある幻神獣(アビス)』の話があるんだろ?」

 

「……ッ!?」

 

 バルゼリッドの表情が一気に変わった。何故なら『その事』を知っているのは女王陛下と宰相、そして四大貴族の当主だけだったからだ。バルゼリッドはその会議に参加する予定だったので知っていたが…。

 

「…ここはあなた(・・・)にとっては品が低い酒場ではないでしょうか?」

 

 急に丁寧な口調に変わり、先程までの口調とは違う雰囲気が出ていた。

 バルゼリッドはそれに反応する。

 

「…何が言いたい?」

 

「ここに居ては四大貴族サマの品格を下げられます」

 

 ですので、と一区切り置いた後、

 

「さっさと家に帰ってご自慢の財産の紙幣でも数えてたらどうだ?お坊ちゃん(・・・・・)

 

 取り合えず先程の仕返しと思いこちらも侮蔑で返すユウ。

 

「……クッ、ッッ…」

 

 ユウの言葉に誰かが笑いを堪えるような、そんな声が辺りから聞こえてくる。現にリーシャやノクト、クルルシファーも笑いを堪えていた。

 

「…貴様ァ……ッッ!?」

 

 バルゼリッドの端正な顔立ちがガラリと変わる。まるで怨敵でも見つけたような、そんな表情を浮かべていた。

 だが、すぐにも落ち着きを取り戻し、気持ちを落ち着かせる。

 

「…ふっ、餓鬼の戯言に怒りを任せるなど、オレもまだまだ若いな…」

 

 すぐに落ち着きを取り戻したことに、ユウはバルゼリッドの事を少なからず評価をしていた。

 この手に乗せれば大抵相手の自滅が殆どなのだが、流石は『大陸の覇者』と呼ばれることだけはある。

 

「貴様が仮に女王陛下の騎士だとしよう。だが、それがどうした?所詮まだまだ青臭い餓鬼に過ぎん。お前とオレとでは元々の格が違う。時間の無駄だ。アルテリーゼ殿、さっそく明日にでも彼女との婚約を取り計らっていただきたい」

 

「……はい。では予定通り、明日の夜」

 

 そうアルテリーゼがまとめようとした時、クルルシファーが立ち上がる。

 

「ちょっと待ってもらえるかしら?」

 

「ほう。どうした?オレに話があるのか?未来の我が妻よ」

 

 バルゼリッドは微笑みながらクルルシファーに顔を向けると、クルルシファーはそっと自分の機攻殻剣に触れる。

 

「ええ。今回のこの話、機竜勝負で決着をつけるのはどうかしら?」

 

 クルルシファーの言葉に店内に緊張が走った。それは勿論、店内の殆どがバルゼリッドの実力を知っているからだ。

 

「お、お嬢様!?一体何を考えて――!?」

 

 アルテリーゼが驚いてそう口走った時に、

 

「面白い。その勝負、受けて立とうではないか」

 

「クロイツァー卿まで!?」

 

 アルテリーゼがクルルシファーとバルゼリッドを交互に見ており右往左往している。案外、苦労人なのかもしれない。

 

「あなたが勝てば私はあなたとの婚約を受け入れるわ。でも、もし私が勝てば婚約の話は無し。今後一切よ」

 

「フハハハハハハ!エインフォルク家のご息女も大胆な。ますます気に入ったぞ、クルルシファー」

 

 口元に弧を歪め、バルゼリッドは余裕を見せる。

 

「…だが、オレと一対一の勝負では面白味に欠けるな。そこの女王陛下の騎士サマの実力も本当か知りたいからな。ハンデだ二対一でどうだ?」

 

「それはフェアでは無いわね。じゃあこうしましょう。私と彼、あなたとアルテリーゼのタッグバトルでどうかしら?」

 

「お嬢様!?」

 

 アルテリーゼの何度目か分からない驚きの声が店内に響き渡る。

 

「それで構わんよ。アルテリーゼ殿、今回は話を取り付けていなかったそちらの落ち度だ。それに、このまま強引に婚約を結んだところで、彼女は納得しないだろう?オレの力量も見せておいた方が今後の為にもなるだろう」

 

 アルテリーゼを宥めると、視線はユウへと向かう。

 

「今回の戦いに『引き分け』はないぞ?女王の番犬よ。貴様の実力の噂がデマでは無いことを祈るぞ」

 

「…そうか。なら、こっちからも一ついいか?」

 

 次のユウの言葉が店内に突き刺さる。

 

「…五体満足で帰れると思うなよ?」

 

 ゾクッッ!!と背筋に氷を当てられたような感覚が広がっていく。近くにいた客達が慌てて店から飛び出そうと、会計に集まる。

 更に言えばもっと近くにいたバルゼリッドとアルテリーゼは今まさに首に刃物でも押し当てられているような、そんな気さえした。

 

「……冗談だよ」

 

 冗談とかのレベルじゃないとアルテリーゼは判断した。もしかしたら自分達はとんでもない化け物に喧嘩を売っているのかもしれないのだがら。

 

「…結構ではないか。それに、オレは王都の公式模擬戦では怪我人を出さぬよう手加減をしているからな。たまには本気を出して戦いたいものだ」

 

 平然と取り繕っているようだが、バルゼリッド自身も内心冷や汗をかいていた。

 だが、と心を落ち着かせ、腰に挿してある機攻殻剣を触れる。

 

「明日の会食は残念だがキャンセルだ。では、決闘は三日後の夜。決闘の場所はこちらが用意しておこう。オレは仕事の都合でしばらくこちらにいるからな。そちらが提案してきた決闘だ。くれぐれも逃げたりしないでくれよ?」

 

 そう言うとバルゼリッドは豪奢な外套を靡かせ、酒場を出ていった。それにより、少なからず酒場に弛緩した空気が流れ、賑わいが戻り始める。

 

「……はぁ…」

 

 大きな溜め息を漏らし、背伸びをするユウ。同様にクルルシファーも椅子に座り込んでいた。ユウはそうでもなかったが、クルルシファーはそれなりには緊張はしていたのだろう。

 

「お二人とも、自分達が何をなされているのか、おわかりなのですか?特にお嬢様」

 

 まだこの決闘に納得がいっていないのか、アルテリーゼが(いさ)める口調でクルルシファーに向き直る。

 

「婚約を拒否しようとしただけでなく、挙げ句の果てに四大貴族と決闘などと。ご冗談が過ぎます。クロイツァー卿は神装機竜《アジ・ダハーカ》の使い手にして、王都で『王国の覇者』と呼ばれるほどの腕前ですよ?」

 

 バルゼリッドは王都の公式模擬戦で前年三位の記録を誇っている。

 その事はユウ自身も知ってはいたが、あまり興味は無かった。

 

「正直、心配なのはあなたの方なのだけれどね。大丈夫かしら?言っておくけど、彼も神装機竜の使い手よ?」

 

「え?」と少し間の抜けた声がアルテリーゼから漏れる。すると、つい先程感じた悪寒が再びアルテリーゼを襲う。

 

「…それは、本当なのですか?」

 

 アルテリーゼはユウに問いかけ、

 

「はい。まぁ、一応」

 

「……どうやら私も本気を出さないとあっさり落とされてしまいそうですね」

 

 そっと立ち上がると、アルテリーゼは数枚の紙幣をテーブルに置いた。

 

「今夜はこれで失礼致します」

 

 それだけ言って、アルテリーゼは酒場を後にした。

 残ったのはユウとクルルシファー、リーシャとノクト。取り合えず他にすることも無いし、門限も近づいているため四人も酒場を後にした。

 

 

 

 




どうだったでしょうか?
誤字脱字、おかしな所がありましたらご指摘よろしくお願いします。

自分なりにバルゼリッドのやり取りの所がなんだか駆け足過ぎたかなと思っています。
自分なりに工夫したのですが、思うように書くのは難しいですね。まだまだ勉強が必要です。

次も読んで頂けたらうれしいです。

それではm(__)m

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